リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その3
唐巣先生と冥華おば様。そしてエミと一緒に神代幽夜と黒坂信二について調べ始めて3日
「まいったわねえ……情報が何もないわ」
裏の情報網に……先代神代に仕えてた人間に聞いても、神代幽夜の情報は出てこない。完全に行き詰まっていた
(エミでも唐巣先生も何の情報もないって事を考えると魔族が絡んでいるのは本当なのかもしれないわね)
何の役にも立たない書類をシュレッダーにかけ、そのまま立ち上がりキッチンに向かう。おキヌちゃんは黒坂が呪術師なのを考慮して横島君の家に居る様に言っているので今は居ない。朝・昼・晩と掃除と食事を作りに来てくれる時に会うだけだ。それに伴い今は除霊の依頼を受けていないので横島君と蛍ちゃんにもあっていない
(そうそうこんな危険な話に付き合わせるわけにも行かないしね)
2人に協力してもらうのは最終的にだ。もし可能ならば私と唐巣先生達で何とかしたいと思っている
ピンポーン
「ん?おかしいわね?依頼は受けないって張り紙をしておいたはずだけど」
事務所のチャイムに首を傾げながら玄関に向かい、覗き窓を確認する。そこには金髪の背の高い青年が居た
「今はちょっと立て込んでるから依頼はお受けできませんわ」
今は依頼を受けているような余裕は無いのでそう言うと、玄関の外の青年は
「いつも娘が世話になっています。芦優太郎です」
蛍ちゃんのお父さん。芦グループ総裁「芦優太郎」滅多に会社の外に出ないと事で有名な……これは追い返すわけにもいかないわね、鍵を開けて
「どうぞ。お入りください」
少し話をしてかえってもらおう。そう判断し私は芦優太郎を事務所の中に招き入れたのだった……
こうして話をする機会があるとは思ってもなかったな。メフィストの転生者「美神令子」未来の記憶では敵対した記憶しかないが……友好的な関係を築くのも悪くはない、私の目的の為に……出来れば蛍の為に横島君から手を引いて貰えるように上手く誘導できると良いのだが……
「宜しければどうぞ」
とりあえず無類の酒好きと言うことで買って来たロマネコンティを渡す。私は酒は飲まないのでいい物かどうかは判らないが、一番いい物をと頼み出して貰ったものなので間違いはないだろう
「これはご丁寧にどうも。それで本日はどのようなご用件で?」
営業スマイルを浮かべている美神令子に私は懐に入れていた書類を取り出して
「GS協会の神代幽夜についてのレポートです。私も独自のルートを持っていて調べてみました」
美神令子の顔色が変わる、鋭い光をその目に宿し私を警戒する様子を見せながら
「どこでその話を?」
「娘がGSになろうとするんだ、それなりに調べるのは当然でしょう」
本当は偵察用の兵鬼で調べたのだが、そうは言えないのでそう言うと
「素人が首を突っ込んで良い件じゃないわよ」
さっさと帰れと言わんばかりに態度をしている。私を見定めようとしているのだろう
「素人ではありませんよ。これでも霊能力はありますし……仮免許も持っていますので」
軽く手に霊力を集める。魔力は封印してきたが、それでもBランク程度のGSくらいの力は出せる。信用を得るために仮免のGS免許を見せると
「……そう。それなら別にいいけどね、見てもいいかしら?」
「どうぞ。待っていますので」
私の今日の目的はGS協会の調査に協力すること、調べてみたが何の魔神を神降ろししているのか判らないので、ここは1度協力し、私も一緒に行動するべきだと判断したのだ。書類を手に真剣な顔をしている、その間にこの事務所内の盗撮・盗聴器に魔力をぶつけて破壊する。これで少しは話しやすくなった
「……中々まとまってるわね。これは貰っても良いのかしら?」
書類を机の上において尋ねて来る、元々そのつもりだったので構わないが
「構いません。その代わり、GS協会に進入する際は私も同行します、構いませんね?」
嫌そうな顔をするが、さっきの霊力と芦グループの総裁と言うことも考慮したのか、眉を顰めつつも
「いいわ。潜入の際には連絡します」
これで横島君と蛍を近くで見守る事ができる、念の為に精霊石とかを買い込んでいた方が良いかも知れない。私ではなく、横島君達に持たせるために
「ありがとうございます、それでは今日はこれで失礼します。人に会う用事があるので」
とりあえずファーストコンタクトはこれで良いだろう。頭を下げて美神除霊事務所を後にし、近くの喫茶店へ向かう。そこで待ち合わせをしているのだ
「待たせてしまったかな?ヨーロッパの魔王?」
喫茶店の一番奥の机に腰掛けている大柄の老人を見つけ、その前に座りながら尋ねる
「ふん。嫌味を言うな恐怖公。今来たばかりじゃわい」
私の今日の目的はドクターカオスと話をすること。今回の事件……そしてこれからの事件を考えると協力者は必要だ、しかし並の頭脳の持ち主では役に立たない。だから悩んでいたが、ドクターカオスが逆行している事を蛍から聞きこうして話をする事にしたのだ
(味方になってくれると良いが……)
私はそんな不安を感じながらドクターカオスとの話し合いを始めるのだった……
昨晩寝る前にワシの前に跳んできた兵鬼。それにはメッセージが記録されており、翌日14時喫茶店で待つ。アシュタロスと伝え、現れた時と同じように消えていった。マリアを念の為に連れて行こうと思ったが、向こうも1人ならこちらも1人。礼節を重んじる事にした
(記憶の姿と同じじゃな)
人間に化けて行動していたときの芦優太郎としての姿を見て、記憶と同じだった事に安堵する。姿が変わっていては見つけるのは困難だったからだ
「お好きな物をどうぞ、折角ご足労頂いたので奢りますよ」
柔和な笑みを浮かべている芦優太郎。その姿は人間そのものでとてもあのアシュタロスとは思えない
「魔神は廃業か?」
このまま話していても埒が明かないので軽く切り込んでみる。すると
「ええ。今は父親です」
にこにこと笑いながら告げた。どうも魔神としてよりも蛍のお嬢ちゃんの父親としての方がいいらしいのう……これでワシの警戒心も少し薄れ
「それで今日は何故ワシを呼んだのじゃ?」
あの恐怖公アシュタロスが態々ワシを呼んだ理由が判らない。今はまだ魔族も大して動いていないようだし……
「これからの事を考えると協力者が欲しいのですよ、過激派の神族・魔族を誘き出し平和な時を過ごすには」
「……ふむ。それは確かに理想的じゃのう」
あの争いはかなり激しいものだった、小僧にもあまりに辛い世界だったと言える。それを変えるというのには賛同できる
「そのためにはまずはこの世界での発言力を強くしないといけない。そのために今のGS協会の異変を利用しようと思っています」
神代家のことか……元の時代では神代琉璃が代表となりGS協会を纏めていたが、今は神代幽夜という黒い噂の多い男が会長をしている。これも逆行の影響による歴史の修正だとワシは考えている
「ふむ。それは確かに確実じゃな、よし判った。ワシも協力しよう」
なんせ今のワシと芦優太郎には特に後ろ盾もない、まずは下地作りをするのが第一じゃろう。神代琉璃を助け、彼女の力を借りる事ができれば、それなりの発言力は手に入るだろう
「神代幽夜を見つけましょう。恐らくその場所に神代琉璃は居る」
彼女に動き回られたらと考えたら自分の手元に置いておくのが普通だ。そして表舞台に出る事のない神代幽夜を考えれば、どこかの山の奥、もしくは
「地下になるのう」
神代家は神降ろしの技を秘伝として伝えてきた一族。自分ひとりで行う儀式ゆえに誰も入ることが出来ない場所を使うのが普通だ
「まずはおいおい探していきましょう。今日はこの辺で」
優太郎の視線の先を見ると明らかに一般人とは違う。かといって生者でもない集団がワシ達を見ていた
「魔族が関わっているのか?」
あれは間違いなくゾンビ。感じる死の気配で判る、こんな街中にと思うが間違いない。周囲の人間が避けるように歩いているのを見る限り、結界を使っているのかもしれない
「分霊を無理やり憑依させていると私は考えています。恐らく死霊使いの魂を使っているのではないでしょうか?」
死霊使いの魔族。かなりの数が居るので特定は難しいが、探してみる価値はあるじゃろ……
「ワシは自前の機械で霊力を隠せるから心配ない。またいずれ」
「ええ。またの機会に」
こんな場所で話し合ったのが失敗だったかもしれんが、これには意味がある。恐らく神代幽夜に危機感を与えるためのものじゃろう、反抗しようとしている存在が居ると思わせるのが目的と見た。ワシは気配を隠す機械の電源を居れ、喫茶店を後にし早足で借りているアパートへと足を向けたのだった。これから忙しくなる、今日くらいはゆっくりしようと思うのだった……
令子が持ち込んできた神代幽夜のレポートに目を通す。これは神代幽夜が表舞台で動いていた時の数少ない公式記録だ
「これどこで手に入れたワケ?」
禁呪に手を染めて神代家からGS免許を剥奪され、それに伴い破棄された筈の資料が完全な状態であることに驚きながら尋ねると
「蛍ちゃんのお父さん。芦優太郎が自分が同行することを条件に提供してくれたのよ」
普段なら帰れといって追い返す所だが、今回は同じ目的のために行動することになる、一応礼儀として出したチョコレートを頬張る令子に
「一般人を連れて行くワケ?何を考えてるの?」
令子らしくない、自分の現場に一般人を連れていくことなんてなかったはずなのに……
「それがただの一般人じゃないみたいなのよ。かなりの霊力を持ってるし、多分GS試験にでても合格できるレベルよ」
それはまたとんでもない一般人なワケ……あれだけ優秀なGSの卵の父親と考えれば当然のような気もするけど……
【神代幽夜】
本来の神代の得意とする神をその身に降ろす。神降ろしの儀ではなく、魔族を降魔させる禁呪を使い。その反動で霊力の大半を失う。さらに神代家の品格を穢したと当時の当主により追放された。その後は日本を後にし、様々な霊力治療の術師の元を訪れ、霊力の回復を考えていたらしいが、彼に接触した霊力治療の術師が行方不明もしくは廃人になっている為。霊力を失っていないのでは?と推測される
彼が所持していた本には写本ではあるが、ソロモン王に関係する。ゴエティアなどの書物から、彼が呼び出そうとしていたのはソロモンの魔神の一柱と推測される
「この魔神の特定は出来てないワケ?」
「次のページ」
紅茶を飲みながら言う令子。次のページなわけ……書類をめくりあたしは目を見開いた
○月某日
東京近隣の山林で何かの獣に食い殺されたような老人の遺体が発見された
○月某日
今度は砂浜で狼などではなく、人間の歯型がついた女性の遺体が発見
○月某日
原型もないほどに食い荒らされた少年の遺体が発見された。その少年の家の近くでは不審者が多数目撃されている、青白い肌に異様に伸びた牙が恐ろしかったという証言が多い
「まさか……ゾンビ?」
こんな都会でと思うけど、かなりの可能性でこの連続した殺人事件はゾンビが行った可能性が高い。令子も同じ結論のようで
「その可能性が高いわね」
ゾンビの中には人間を食い殺すものも居る。その可能性が極めて高いのだが、今までGSに何の情報もないことを考えると
「隠蔽されてた」
これが知られればGSが動く。そう判断した何者かがこの情報を隠蔽していた、そしてゾンビを作れるほど黒坂の呪術のレベルは高くない。仮に出来たとしても直ぐに消滅するはずだ……ゾンビを維持するのは並大抵の事ではない
「死霊使いの魔神」
数は少ないがソロモンの魔神の中には死霊使いは存在する。有名な所ではネビロスがもっとも強力な魔神だが、そんな魔神の分霊を降魔させる事は不可能に近い
「これは唐巣神父に報告ね」
これは間違いなく手がかりだ。そして東京に紛れているゾンビを見つける事ができればあたしの呪術で逆探知できる。
「そろそろ日が落ちるわ、行くわよ」
令子があたしの事務所で時間を潰していたのは、夜を待っていたようだ。ゾンビが活発に動くのは夜だから、鞄から破魔札と神通棍を手にする令子。
「命令しないで欲しいワケ」
あたしも同じように破魔札を手にする。本当なら呪術で攻める所だが、あいにくゾンビに呪術は殆ど効果はない。ここは多少苦手でもオーソドックスな除霊スタイルをとるべきだろう
「金を出すなら護ってあげるわよ」
「馬鹿にしないでよ。この小笠原エミを舐めないで欲しいワケ」
確かに令子と比べればあたしは近接の技術は劣る。それでも並のGS以上の能力を持っていると自負している
「それくらいじゃないとね。行くわよ」
「言われなくても!」
あたしは令子の言葉にそう返事を返し事務所を後にした。ゾンビは気配の淀んでいる場所を好む、となれば山もしくは海……虱潰しに回っていくしかないワケ。あたしは令子のコブラの助手席に乗り込み
「気配を探すのはこっちがするワケ。運転よろしく」
令子はあたしの言葉に文句を言わずコブラを走り出させた、こう言う所はプロだ、自分の意志を殺して仕事に徹する事ができる。仕事は仕事、プライベートはプライベート。きっちり切り替える……それがプロのGSと言うものだ……暗い夜道を走るコブラの助手席でペンデュラムを使い、ゾンビの気配を探し始めるのだった……
令子とエミが暗い夜道をゾンビを探して移動し回っている頃横島達は
「はい。チビバンザーイ」
「みーん!」
俺の前で万歳をするチビ。俺は手にしていた巻尺でチビの胴体に回し胴の長さを測る
「……+7センチっと。大分大きくなったなあ」
「みーっ!」
机の上の手帳にチビの胴回りを記録する。最初に図った時は5センチ……今は11センチ。大分大きくなっている……身長を物差しを図る、これも+4センチっと……17センチと……
「順調に大きくなってるわね。良かったわね、横島」
隣でチビを見ていた蛍が笑う。チビが子供だから、どれほど大きくなるのか心配だったけどちゃんと成長している。妖怪だけどしっかり成長している事に安堵する
【良かったですね。横島さん】
「おう!って言うかおキヌちゃん!?」
急に顔を出したおキヌちゃんに驚く、居なかった筈なのに……急に現れるのはいつもの事なのでまぁ仕方ないかと判断する。
「今度は体重だな」
秤の上にチビを乗せる。グラムは……やっと200か。なにかと色々と食べているけど、あんまり増えないなあ……まぁ元気だからいいか
「みーん!みー!」
成長記録をつけ終えると同時に翼を羽ばたかせ、部屋の中を飛び始めるチビ。それを見ながら
「蛍~飯はまだか?」
美神さんが言うにはちょっと危険なことを調べているとの事で俺たちに危害が及ぶ可能性があると言う事で今は俺と蛍とおキヌちゃんで一緒に暮らしている。確か今日の夕食は蛍だったはずなのでそう尋ねると
「もう少し待ってて、お風呂でも入ってきたら?」
んーまぁそう言うなら風呂にでも入ってくるか……飛び回っているチビを捕まえて一緒に風呂に入る。たまーにタマモも来るが、基本的に風呂嫌いなので入ってくることはない
「みー」
桶にお湯を張って頭の上にタオルを乗せて湯風呂を満喫しているチビ。なんと言うか人生を謳歌しているって感じだ
「あー気持ちいいなあ」
「みー」
チビと2人でお湯の中でぐだーっとしながら、今日の夕飯が何なのかを考えているのだった
「その手を放してもらいましょうか」
【明らかな薬物投入を見逃せると思いますか?】
チビと横島が風呂を満喫している頃。蛍とおキヌは夕食にゴゴゴっと言う擬音が良く似合う雰囲気の中睨み合っていた。蛍が手にしている薬の瓶には「朝まで起きない睡眠薬 EX」と書かれており
「偶にはいいじゃない!寝ている横島を一晩見ていても!」
【それで済むとは思えません!これは私が有効活用するんです!!!】
横島がいないということで完全に暴走しているおキヌちゃんと蛍。タマモはそんな2人を見て
「コン」
小さくそう鳴いて畳まれている洗濯物の中からバスタオルを背中に乗せて脱衣所へと歩き出したのだった……そして翌朝
「ふぉおおおおおッ!!!」
自分の布団にもぐりこんでいる蛍と自分の上を半裸で寝ているおキヌを見て、絶叫と鼻血を噴出する横島。そしてその声で起きたチビとタマモは
「み?みーみー」
「コフ?」
慣れた感じで部屋に置かれているタオルと増血剤をそれぞれ横島の元へ運ぶのだった
これが横島忠夫の最近の日常である……
リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その4へ続く
次回も引き続きシリアスで進めていこうと思います。戦闘もすこし混ざってくるかもしれないですね。そして横島はエロだけど攻めめられると弱い。このスタンスは絶対に変えないで進めて行こうと思います、これにより蛍とおキヌちゃんが行け行けで攻めて行きます。何時横島が暴走するのか?そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします