GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回の話はミズチ編と言うことでオリジナルの話になります。40話近くまでやっていますが、思うように進まない状況。書きたい話が多いというのも困り物ですね。それでも書いてて楽しいのでこれからも頑張っていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



その2

 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その2

 

朝一でドクターカオスが自ら乗って来た車を見て、私は思わず笑いながら

 

「中々凄いじゃ無い」

 

バンタイプの車なのだが、外見が実に整っていて並のバンとは比べられないほどの勇ましさを持っていた

 

「じゃろう?中は中で空間湾曲の技術を使っているのでな、広くて快適。ついでに霊的防御もバッチリじゃ!んでこれが頼まれた除霊具じゃ」

 

車の後ろから取り出された鞄を見て、思わず私は若干うさんくさいと思いつつも、腕は確かなはずと自分に言い聞かせながら

 

「かなり小さいわね?」

 

かなり小型の道具の数々。普通なら大型なのが普通なのでこれはかなり珍しい

 

「このドクターカオスをそこらへんの人間と同じと考えないで貰いたいのう……」

 

自身ありげに笑うドクターカオスは私に2つの円筒型の道具と正方形の道具を手渡し

 

「これは見鬼君を改造した奴じゃ、強力な妖力に反応するようにセットしてあるからの。恐らくミズチかそれに準ずる霊格の持ち主にしか反応せんぞい。んでこれは逃亡用の円筒じゃ。霊力を込めて起動する、即効性があるから恐らく逃げ切れるじゃろう」

 

「武器のおまけは?」

 

私がそう尋ねるとカオスは笑いながらコートの中から菱形の結晶を取り出す

 

「ミズチは水を司る龍神じゃ、水の流れを一時的に断ち切る呪を刻んである。どれほどの霊格かは判らんが、効果はあると思うぞ」

 

差し出されたそれを服の中にしまい。足元のアタッシュケースを渡す

 

「4000万丁度よ。ありがとね」

 

中身を確認し、また残りは調査の後に頼むと呟き歩いていくカオス。今回は倒すのが目的ではなく、あくまで捜索。戦闘は極力回避なのでありがたい道具だ

 

「「おはようございます」」

 

「コーン♪」

 

「みー♪」

 

蛍ちゃんと横島君。それにタマモとチビが来る。最近判った事だが力の弱いチビは索敵に長けるようで、捜索依頼だから役に立つと判断して連れてきてもいいと許可を出したのだ

 

「おはよう。今回はある妖怪の捜索依頼になるわ。戦闘は極力回避して生き延びる事を第一に考えてね。それとこれにサインをしてね」

 

本当は嫌だけど、横島君と蛍ちゃんにGS協会からの書類を渡す。死んでも一切の訴えを起こさないという誓約書だ

 

「……こんなに厳しい依頼なんですか?」

 

引き攣った顔をしている横島君。今までこの誓約書を見せた事はないから当然だ

 

「念のためよ。私も戦う気なんてないからね、逃げるつもりだし」

 

正直言ってミズチと戦うなんて正気の沙汰じゃない。今回はあくまで調査なのだから、戦うつもりはない。生き延びる事が絶対条件だ

 

【大丈夫ですよ。横島さん。死んでも生き返れます!】

 

ガッツポーズを作りながら力強く言うおキヌちゃん

 

「「それ違うから」」

 

おキヌちゃんの言葉に私と蛍ちゃんが突っ込みを入れる。だけどそのおかげで大分リラックスできた

 

「さぁ行くわよ、乗って」

 

「うお!?なか広いぞ!?」

 

「本当ね……これどうしたんです?」

 

カオスの作ってくれた車に驚いている横島君と蛍ちゃん。私も乗り込んで若干驚いた。中が物凄く広い、バスまでは行かないが10人以上乗っても大丈夫そうだ。これなら今後の足として文句はないわね……3人で動くときはこれをメインにしましょう。あのコブラにも愛着があるから、プライベートと単独行動のときに使えば良いかと思いながら、捜査の事に頭を切り替える

 

「ドクターカオスって言う錬金術師に頼んだのよ。今度紹介するわ、それより行きましょう。どうやらこの近くには居ないみたいだしね」

 

見鬼君が反応しないって事はこの近くにはいないようだ。それを確認してから横島君と蛍ちゃんをそれぞれ後部座席と助手席に乗せ、ゆっくりと走り出したのだった……

 

 

 

ミズチと言う妖怪の捜索と言うことで、美神さんの運転するドクターカオスって人の特製の車の後部座席で見鬼君を抱えているのだが

 

「全く反応がないですね」

 

都心は全て見たが反応がない、もしかしてミズチは東京周辺にはいないのかもしれない

 

「その可能性はあるわね、美神さん。1度止めてダウジングをしましょうか?」

 

ダウジング?それってあれか?針金を2本持ってやるあれか?美神さんはそれもそうねと呟き車を止めて

 

「横島君地図」

 

「ういっす」

 

持っているように言われていた鞄から地図を取り出して美神さんに渡し、美神さんを見る。菱形のペンダント?見たいのを地図の上に掲げて目を閉じている。これからどうなるんだろうか?と見ているとペンダントが独りでに回り始める、指し示す場所は

 

「愛知県……随分と移動してるわね」

 

東京で目撃されたと聞いていたのに今いる場所は遠く離れた愛知県……ん?

 

「美神さん。またダウジングが動いてますよ?」

 

再び動き始めたダウジングを見てそう呟く。だが美神さんと蛍は地図ではなく、近くの河を見て

 

「!横島君!移動するわよ!急いで!」

 

「横島!行くわよ!」

 

2人は血相を変えて車に乗り込む、俺は訳が判らず半ば後部座席に放り込まれる。俺の耳にはコンクリートを穿つ音が聞こえていた

 

(これはまさかミズチの攻撃なのか?)

 

危機的状況なのに自分でも驚くほど冷静で居ることが出来て驚いていると、今度はおキヌちゃんの声が耳に飛び込んでくる。

 

【横島さん!】

 

おキヌちゃんが両手を広げて俺を受け止めてくれる。そのせいか俺の顔は必然的におキヌちゃんの胸元に抱え込まれ

 

(ええ匂いやあ。それに柔らかい)

 

おキヌちゃんは普通の幽霊と違うので、こうして触れることが出来る。こっそりとおキヌちゃんの胸に手を伸ばそうとした瞬間

 

「行くわよ!掴まってなさい!」

 

美神さんのその叫びと同時に車のエンジンが唸りをあげて高速で走り出す!

 

「のわあああ!?」

 

その凄まじい加速に思わず更におキヌちゃんの胸に顔を埋める事になり……

 

(こ、これはたまらん!?)

 

おキヌちゃんの甘い香りと言葉では言い表す事の出来ない極上の柔らかさ。膝の上のタマモが噛んでいるのが判るが、そんな事はどうでも良いとおもうほどの幸福感……

 

(わいこのまま死んでも良い……)

 

俺はそんな事を考えながら、おキヌちゃんの胸に顔を深く埋めた事で呼吸が出来なくなり、幸福な気持ちのまま意識を失うのだった……美神と蛍は川から飛んでくる水の矢を回避するのに必死で後部座席を見る余裕がないし、横島を抱き締めているおキヌは

 

【役得ですぅ……♪】

 

自分の胸の中で痙攣を始めている横島を無視して、放す物かと言いたげに横島の後頭部を抱えていた。横島の生命の危機に気付いていたのは

 

「みみー!!!みみみー!!!!!」

 

小さい身体と声で必死に助けてあげて!と叫ぶチビの見る中。ピクピクと痙攣していた横島の動きが完全に止まるのだった……

 

 

 

 

川や噴水……挙句の果てには通行人の持っているジュースの缶。水に関係する全てから放たれる水の矢。私は手にしていたペットボトルの中の水が泡立つのを見て、龍神の力の高さ。そしてその危険性を再認識しながら

 

「とんでもない能力ね!!」

 

それを橋の上から下の川に向かって投げた、聞こえてくるのは炸裂音。どうやらペットボトルが爆発したのだろう

 

「流石水神。強いわ……ねっ!!!」

 

美神さんが鋭くハンドルを切る……ギリギリで放たれた水の矢を回避し、更に加速していく。少しでも減速すればあの水の矢で串刺しにされてしまう……

にされてしまう……

 

「蛍ちゃん!水の矢はどこから飛んでくる!」

 

運転に集中している美神さんがそう怒鳴る。私は周囲を見て悲鳴にも似た声で返事を返す

 

「全方位攻撃です!!!」

 

橋の上を走っているのだが、あちこちから水の矢が飛び出してくる。霊的防御を持つらしいが、氷と水と言うことで、霊的防御ではなく物理防御が必要だ。だから回避を続けているのだが、美神さんの運転技術でも回避を続けるのは難しいだろう……

 

「全方位でも関係ないわ!!!」

 

加速と減速を繰り返し、連続で降り注ぐ水の矢を回避して加速していく……信じられない運転技術だ……それともカオスの車のおかげなのだろうか?

 

「このまま加速していくわ!しっかり掴まってるのよ!!!」

 

そう叫ぶ美神さん。私はシートベルトをしっかりと掴み、加速していく車……信じられない加速の衝撃に顔を歪めるのだった……

 

「やっと止まったみたいね……」

 

ずっと加速していた車がやっと止まる。カオス特性の車だけあって殺人的な加速だった。私は助手席だったので大分衝撃が酷かった……途中で高速を降り、山道に逃げ込んだのも関係しているのかもしれない

 

「はーきついです。美神さん」

 

途中で高速警備隊を振り切った所を何回も見たので心臓に悪かった……だけど止まっている時間は無かったので仕方なかったのかもしれない。

 

「横島は大丈夫だっ……た?」

 

後部座席を見て絶句する。横島の頭を自分の胸に抱き寄せ、恍惚の表情を浮かべているおキヌさんと

 

【逝ける!!】

 

横島の背中からふわっと抜け出てくる横島の魂。天空から降り注ぐ光の中良い笑顔でガッツポーズを作り、そう叫ぶ横島の魂に

 

「逝くなあ!!!」

 

慌てて横島をおキヌさんの腕から引き離し、今まさに成仏しようとしているその魂を掴み、横島の身体の中に押し込んだのだった……

 

「あー死ぬかと思った。だけどあんな死に方ならいいなぁ。「ヨコシマ?」……すんません、冗談です」

 

鼻の下を伸ばしている横島を睨む。さっきのは冗談じゃなく危険な状態だったのだ。そんな事は冗談でも言って良い言葉ではない

 

【横島さんなら何時触ってくれてもいいですよ?】

 

胸を強調するような姿勢で笑うおキヌさん。どうやら普段はサラシを巻いているようだが、私よりも上のサイズだったようだ

 

「マジで!?なら早速」

 

手をわきわきと動かしておキヌさんに手を伸ばす横島。今はこんな事をしている状況じゃないって言うのに……

 

「ヨコシマぁッ!!!!!」

 

「へぶろお!?」

 

私は初めて霊力の篭った右拳を横島の頬に振り下ろしたのだった……足元で痙攣している横島を見ていると若干やりすぎた?と思い冷や汗を流していると

 

「そろそろ終わった?現状把握をするから集合。蛍ちゃんは横島君を連れてきてね」

 

近くを調べていた美神さんの言葉に頷き、こっそり横島に手を伸ばそうとしていたおキヌさんを睨む

 

【あ、あはははは。先に行きますねー!】

 

逃げるように美神さんの方に向かうおキヌさんを見ながら、気絶している横島を抱き抱え美神さんのいる方に向かって歩き出しながら……

 

(帰ったら胸を大きくする薬でも開発してみよう)

 

やはり胸は大きい方が良いのかもしれない、今まで何回も開発しようとして失敗しているけど、また挑戦してみようと思うのだった……

 

 

 

ミズチの攻撃だと思われる水の矢に追い掛け回され、今の現在位置は正直把握できていない。走っていた方角と時間から考えると……

 

(京都の方角かしら)

 

夢中で走っていたのであくまで憶測だが、走ってきた方角から考えるとそっちの方角だろう。来た道を引き返せば良いんだろうが、山道を水の矢に追い掛け回され逃げてきたので引き返せるかどうかも怪しい。この近くに住んでいる人間を探したほうがいいだろう

 

「私達はこの場所に追い込まれたのでしょうか?」

 

気絶している横島君を隣に座らせている蛍ちゃんの言葉……確かにその可能性は極めて高い

 

「確かに、その可能性が高いわね、この周囲がミズチのホームグラウンドなのかもしれないわね」

 

今の現在場所が判らないけど、方角的には一番最初に破壊された神社の方角だ。

 

「まずは現在位置の確認ね。おキヌちゃん近くに何か見えないか見てくれない?」

 

【はーい】

 

返事を返し浮かんでいくおキヌちゃんを見ながら、車のトランクに地図を乗せて

 

「うーん。場所的にはここら辺かな?」

 

場所の把握をしないことには帰る事も出来ない。いやそれ以上にこの場所に追い込まれたという事を考えると……

 

(ミズチが襲ってくるかもしれない)

 

こんな山の中でと思うかもしれないが、山の中には水脈がある。それを利用されるとまず間違いなく勝率はない……それに逃げる事を前提にしていたが、ホームグラウンドに連れ込んだ私達を逃がしてくれるだろうか

 

「うあ、死ぬかと思った」

 

横島君が頭を振りながら身体を起こす。霊力のパンチを受けていたはずなのに信じられない回復力だ

 

「……あの蛍さん?」

 

「なに?」

 

普段なら真っ先に声を帰る蛍ちゃんが腕組して怒っていますのポーズ。こういう仕草を見ると歳相応で可愛いと思える。だけど横島君は焦った様子で自分の頭の上のチビと一緒に

 

「すんませんしたー!」

 

「みみー!!」

 

横島君とチビが並んで頭を下げる。チビは真似しているだけみたいだけど、中々に愛らしい仕草だ。ピコピコと揺れる尻尾が更にそれを加速させる

 

「……今回は許してあげるわ。今度はないからね」

 

「へへー」

 

「みみーん」

 

蛍ちゃんが機嫌を直したところで近くを調べていたおキヌちゃんが戻ってきて

 

【美神さん。近くに神社見たいのがありますよ?】

 

神社……もしかすると報告にあった。あの神社かもしれない……詳しい場所は知らないが、確か人の住んでいる場所も近いはずだからそこを目的地にすれば良いだろう。ただし……罠と言う可能性も充分に考えられる、蛍ちゃんも同じ結論になったのか

 

「ミズチの罠かもしれないですね」

 

蛍ちゃんがそう呟く、GSの勉強をしているだけあって頭の回転は速いわね

 

「ええ。その可能性は充分にあるわね」

 

むしろその可能性しかない、トランクから除霊具を取り出す。一番最初に取り出したのはAランクの防護札

 

「じゃあ横島君は10枚ね。しっかり身につけておくのよ」

 

私と蛍ちゃんは霊力の護りがある。霊力をコントロールできない横島君に多めに持たせるのは当然だ

 

「う、うっす」

 

Gジャンの裏と表に札を貼っている横島君を見ながら蛍ちゃんと私は近くの茂みに向かう。

 

「あれ?美神さんに蛍は?」

 

私達に気付いて尋ねて来る横島君に私は

 

「ミズチは水を使うから肌に貼り付けたほうがいいのよ。言って置くけど覗いたら殺すからね」

 

「YESマム!」

 

敬礼する横島君を見ながら茂みの中に入り上着を脱いで下着姿になり、その下着も脱いで裸になる

 

「や、やっぱり女同士でも恥ずかしいですね」

 

顔を紅くする蛍ちゃん。それは私も同じなので言わないでと言い、素肌に直接防護札を貼り付けていく。これがあるとないとでは全然違う。

 

「蛍ちゃんも早くしてね」

 

私が張り終わってもなお胸と腹にしか貼ってない蛍ちゃんにそう声をかけ、服を着なおして車の方に向かうと

 

「……んー?」

 

横島君が腕を組んで難しい顔をしていた。なにか考え事をしている様子だ

 

「どうかしたの?」

 

「いや?なんかここを知ってるような気がして。おかしいですよね」

 

そう苦笑する横島君。だけどそれはもしかすると霊感に目覚めつつあるのかもしれない

 

「お待たせしました」

 

まだ頬に若干赤みの残っている蛍ちゃんが合流した所で、トランクから破魔札や霊体ボウガンを取り出し、更にもう1つ

 

「これは水神符って言う稀少なお札よ。水の流れを断ち切るものでミズチには効果的だから一応横島君も持っておいてね」

 

使えるかどうかは判らないが、お守り代わりに持たせる。前の事もある、もしかするとまた陰陽術を使う可能性もあるので持たせておこう。近くを浮いているおキヌちゃんに

 

「それじゃあ案内してくれる?」

 

【はい、こっちです】

 

ゆっくりと先導してくれるおキヌちゃんに案内され神社に向かう。山の中腹に面しているその神社からは近くの町が見える。

 

(思ったよりも都心なのかもしれないわね)

 

近くに道路も見えるので上手く運転すれば道路に出れる。カオスの車だから多少の悪路も問題ない、そのための道順を確認していると

 

「なんやろ?この神社の奥にある岩?なんか文字が刻んであるんやけどなぁ?」

 

神社を調べるように言っておいた横島君の声が聞こえる。何か見つけたのかしら?私が振り返ろうとした瞬間

 

「……ようこそ。私の城に」

 

静かだが嫌に耳に響く声。その声に懐の破魔札を引き抜きながら振り返る。私の視界に飛び込んできたのは大量の水

 

「しまっ!」

 

やはり罠だった。この神社はミズチの領域だったのだ、私から離れていた横島君が真っ先に水に飲まれ

 

「のあああああ!!」

 

その濁流のような水が横島君を攫いその姿を飲み込む。咄嗟に水神符で水の流れを断ち切ろうとするが……駄目だ!間に合わない!!!

 

「横島!」

 

「みー!」

 

「こーん!!」

 

【横島さん!!!】

 

蛍ちゃんたちの悲鳴が重なるがそれは一瞬で消える。私達もまたミズチの放ったであろう水へ飲み込まれてしまったからだ……

 

 

 

「……成功」

 

この場所に上手くおびき出し、全員を私の異界の飲み込むことが出来た。後はあの男を見極めるだけ……私の加護を持つ男。その魂はあの時と変らない、だけど今はどうなのか判らない。それを見極めるためには私の異界が一番良い……私も異界に潜ろうとすると

 

「待ちな。今すぐ飲み込んだ奴を吐き出せ、蛇」

 

私の背中に当たる鋭い切っ先。この感じは多分槍……それに同属と言うのも判る

 

「……蛇は失礼。そっちの方が蛇」

 

「言われてみればそうだね」

 

軽口を叩いてはいるが、切っ先はいつでも私を貫ける姿勢のままだ、体が水である私を貫けはしないが……ダメージは受ける。槍の切っ先を覆っている魔力はかなりの密度だ。実体をなくす事のできる私でもダメージは避けられない

 

「もう1度言うよ。今飲み込んだ連中を吐き出せ」

 

その声は静かだが、いつでも貫く事ができるんだぞと言う意思を感じる。私の領域で私が気付かなかったことも加味して考えるとこの槍の持ち主はかなりの強者だと判る。だけど……

 

「……断る」

 

私には私の目的がある。だから吐き出すつもりはないと言うと、切っ先が私の背を穿とうとする。それよりも早く

 

「……シッ!」

 

横っ飛びしながらその切っ先を交わすと同時に右手を振るう。手の平に溜まっていた水が三日月状になりとんでいく

 

「ちっ!!!」

 

舌打ちしながら刃を交わす龍族。手を振り水の刃を飛ばす。普段ならこんな山の中で使うことのできない能力だが、ここは私の城。高島が私の為に作った神社だ。ここにいる限り、私の水は尽きることはない

 

「……敵対の意図はないが、迫り来る敵は振り払う。互いに武器を引いて話をしよう」

 

紫の髪をした龍族にそう声をかける。神気ではなく、魔力を纏っている所を見ると魔族だろう、私もそちら側なので別に嫌悪感はない

 

「話の内容によるね。私にも私の都合があるんだよ」

 

槍を構えるのはやめたが鋭い視線は依然私に向けられている。一瞬で間合いを詰める事も可能だろう……

 

「……私はあのバンダナを巻いた少年を見極めたいだけ。攻撃はするが殺す気はないし、終われば怪我は治す。だから邪魔をしないで欲しい」

 

私は遠距離型なので近接はあまり得意ではない、ここは穏便に話を進めたい。無論戦いとなれば負けはしないが、勝てもしないと言うのは互いに判っている

 

「殺さないって言う保証は?」

 

「……大蛇(オロチ)の系譜。ミズチの名の下に誓う」

 

その言葉に肩を竦める龍族。日本神話に登場する八岐大蛇。その正体は斐伊川の化身と言う説がある、だから火を司る龍である八岐大蛇だが、水を司る面もある。私はその面を継いでいる……とは言え攻撃性は殆ど継承されていないが……

 

「OK。判った信じよう」

 

八岐大蛇の名は龍族の中では有名だ。取り分け龍族の中では龍神王と並び立つと言われる最強の龍種。その名前はとても力がある

 

「……ありがとう。貴女も来る?」

 

ゲートを作りながら訪ねるとその龍族は槍を消して、服を調えながら

 

「メドーサだ。お前は?」

 

私の名を尋ねて来る龍族。私はミズチ……だけど別の名前もある。高島が加護の代わりに授けてくれた名前

 

「……シズク」

 

人間に与えられた名前なんてと思うかもしれないが、私にとっては特別な名前。

 

「シズクだね。よろしく。じゃあ頼むよ」

 

「……判った」

 

私はメドーサを連れ、異界の中へと飛び込んだ……あの人間達をここに追い込んだのも、見極めるため……高島の転生者を……

 

(……裏切ってくれるな……)

 

人間は嫌いだけど、高島は信じたい……私はそんな事を考えながら自分の世界へと足を踏み入れたのだった

 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その3へ続く

 

 




次回は戦闘回で進めて行こうと思います。ミズチはおまもりひまリの静水久がモデルです、名前もそうですが、漢字明記とカタカナ明記で違う存在と思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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