その1
リポート8 怒れる水神ミズチ! その1
つまらない授業を終えて欠伸をしながら家に帰る。学校の勉強はつまらないし、理解できないので殆ど寝てばっかりだ
(今度の試験の範囲も貰ったから蛍に助けてもらわないとなぁ)
公休扱いで休ませて貰っているがその分テストが多い。俺だけでは絶対赤点だよなあと苦笑しながら歩いていると
「ん?なんだ?」
髪から雫が垂れてくる。おかしいな雨なんて降ってないし、それに鳥もいないけどなあ……ハンカチで髪を拭って顔を上げると
「……」
血の様に紅い瞳と視線が合う。次に見えるのは長い緑色の髪……そこまで理解した所で
「のわあ!?」
驚いて後ずさる。なんせいきなり目の前に誰かいたら驚くのは当然だろう、それにもしかして妖怪?と言う可能性も頭を過ぎり咄嗟に学生服の上着のポケットに手を伸ばす。念の為に持ち歩いている破魔札だ……若干警戒しながら前を見て
「う、生まれる前から愛してましたああ!!!」
警戒を一瞬で解除して俺を見つめていた人物に駆け寄り手を握った。離れて見ると俺を見ていたのは白のブラウスと緑色のスカートにジャケットを着た女性だった。若干切れ長の目がお姉様と言う感じがしていてとても綺麗な人だった
「………」
手を握っているのだが、叫びもせず、振り払おうともせず、じっと俺を見つめている女性。すべすべで柔らかいてやなあ……
(それに何の反応もないって事はOK!やった!初めてナンパに成功した!」
「……声に出ている」
ぼそっとしたその声に驚いていると女性はもう用は済んだという感じで俺の手を振り払う。その仕草は怒っているように見えて
「も、もしかして怒ってらっしゃいますか?」
そりゃいきなり手を握ったりしたら怒るよな、これは道の真ん中だが土下座で謝るしかないのか!?そしてあわよくば神秘の三角形を!!!!
「……別に怒ってはいない、少し懐かしいと思っただけ」
「ふぇ?」
いざ土下座しようとすると再びその女性が小さく呟く。その女性は優しい目で俺を見ながら
「……私は用は済んだから帰る。また今度」
ゆっくりとすれ違って歩いていく。ふわりと香る香水のような甘い香り……
(ふわぁ……今日はなんかいいことありそうやなぁ)
とは言えもう寝るだけなのだが、何故かそんな気がしてさっきまでの重い足取りと違って俺は軽やかに家へ向かって歩き出したのだった……
「……やってくれる」
スキップしかねない勢いの横島を見つめている先ほどの女性。その足元には水の中に閉じ込められ意識を失っている半裸の女性の姿がある。水の中に浮いている破魔札などを見る限り彼女もGSのようだ
「……用は済んだから。もういい」
その女性が指を鳴らすと水は弾け飛び女性は力なく地面に横たわる。着ていた服を脱いでその女性に着させた女性が再度指を鳴らすと水が集まり黒い着物に変化する。その間も女性は横島の背中を見つめている
「……私のに手を出したな。狐」
彼女の目には見えていた、自分の加護に加えてもう1つの加護が横島を覆っている事に気付いたのだ。
「……道理で判らないはずだ」
加護を授けた妖怪と人間は一種の霊的ラインで繋がる。だから直ぐに女性には横島の場所が判る筈だったのに、判らなかった。それはタマモの……九尾の狐の加護が自分の加護の上に重ねられていたから
「……まぁ良い」
にやっと女性は笑い、その身体を水へと変化させ溶ける様に消えていくのだった……
「ただいまー、チビーチビー散歩行くぞー」
鞄を玄関の上に置いてチビを呼ぶと直ぐ顔を出して
「みーん♪」
リードをくわえて顔を見せたチビ。くわえているリードに手を伸ばすと
「み?」
「ん?どうかしたか?」
俺の顔をじっと見つめるチビ。そのせいかリードをくわえている力が強くなっている……チビはみーんと首を振りリードをはなす
「よしよし、散歩に行こうな」
「み♪」
チビの首輪にリードを繋ぎ散歩の用意をして家を出る。チビは賢いので本当はリードはいらないのだが、なんとなくだ
「あーチビちゃーん♪」
「みーん♪」
この時間帯になると俺はチビの散歩をしているので、近くの小学生に声を掛けられる。
「おーう。元気だなあ!」
「みみーん♪」
声を掛けて来る小学生達に手を振り返しゆっくりといつもの散歩のコースを歩いていると
「わふ!わふ!!!」
「横島君~こんにちわ~♪」
途中で冥子ちゃんとショウトラと合流して並んで散歩をする。おキヌちゃんと蛍も一緒に散歩をしたい見たいなんだけど、チビが嫌がるので一緒に散歩が出来るのは冥子ちゃんだけなのだ
「行きましょ~」
嬉しそうに笑いながら歩き出す冥子ちゃんに頷き、ゆっくりと夕日の中を歩き出すのだった……
家の合鍵を使って横島の家に入る。この時間帯は横島とチビが散歩をしている時間帯の筈なので家には誰もいない。
「またきたの?よっぽど暇なのね?」
そう声を掛けられ驚いて振り返る。そこには階段の所に座り込んでこっちを見ているタマモ
「もうそこまで回復したの?」
尻尾はまだ7本だったはずなのに……まだ完全に人化出来ないのではと思ってたんだけど……
「明後日は満月だからね。霊力が上がって来てるだけよ」
そう手を掲げるタマモの手はうっすらと透けている、まだ完全には人化出来ていないと言う事なのだろう
「私の前に来た理由はなに?」
普通なら私ではなく、横島の前に現れるはずなのに……タマモはよっと軽い素振りで立ち上がり
「ロリね」
「うっさい!霊力が足りないのよ!!」
タマモの姿は中学生よりももっと幼い。小学校低学年と言う感じだ
「霊力が足りないのにあえて出てきた理由は?」
タマモは無駄なことはしない。多分今人化して私の前に現れたのは何か特別な理由があるはずだ。
「ミズチが横島に接触したわ」
「!もう東京にいるの!?」
お父さんの話ではミズチの反応が途絶えたと聞いていたけど、まさか横島に接触しているとは思わなかった
「あの蛇。なんであんなばいんばいんになってるのよ。絶壁だったはずなのに!!!」
ん?もしかしてタマモはミズチと知り合いなの?言葉に中に見え隠れする棘に気づくとタマモは不機嫌そうに
「平安時代に少しね。あっちは直ぐ封印されたけど、それなりに顔見知りではあるわ」
それなら話は早い。容姿を聞けば探しやすいのでは?と思っているとタマモは手を振りながら
「あいつは馬鹿みたいに慎重で策略家だから満月までは出てこないわよ。横島に接触したのはあれね、自分の加護を授けた人間を探しにきたって所ね。それに姿を好きに変えれるから探すのも難しいわよ」
そうか探すのは難しい……ちょっと待って、今聞き捨てならない言葉が……
【ミズチの加護ってなんですか!?私そんなの知りませんよ!!!」
「「うわあ!?」」
おキヌさんが床から顔を出してそう叫ぶ。まさかの登場に私とタマモが揃って悲鳴をあげる中
【どういうことなのか!説明してください!!!】
床から上半身だけ出して詰め寄るおキヌさんは正直怖い、タマモの顔も引き攣ってるし
「良く判んないけど……横島の魂に残ってるのよ、ミズチの加護が。もしかすると前世で知り合いなのかも?」
横島って前世から人外に好かれてたんだ……知ってたけど、あんまり知りたくない事実だ
「多分奪いにくるか、殺しに来るとおもう、残ってる匂いがなんか危険な感じ」
「【その表現が危険な感じだとおもう】」
香りって……なんか随分と変態臭い。タマモは狐だから仕方ないと言えばそうなんだけど……タマモは頬を紅くして
「満月は妖怪が力を増す日だけど!それ以上に水に密接な関係があるから!そうなったらミズチと対峙するのは難しいから!気をつけなさい!」
そう言うといつもの狐の姿に戻り開いていた窓から出て行ってしまう。ミズチの加護について聞きたかったんだけど……
「苛めすぎたわね」
【ですね】
どうも苛めるのは好きだけど苛められるのは弱いみたいね。とりあえず明日美神さんに話して見よう、もしかするともうミズチの事を調べているかもしれないし
【じゃあ横島さんが帰る前にご飯の用意をしましょうか】
「そうね。ってじゃなくて帰りなさい」
さも当然のようにいるおキヌさんにそう言う。昨日おキヌさんが作ったんだから今日は……ん。ちょっと待って
「さっき床から出てきたわよね?もしかして……」
【♪~♪】
鼻歌で誤魔化すおキヌさんに確信した。絶対に横島の日常生活を見ていると
(なんかストーカーっぽくなっている)
最初にあったときの黒さは消えたけど、その代わりにドンドン進んではいけない方向に進んでいるような気がする。私は冷や汗を流しながら
「まぁ今日は私が料理をする番だから」
キッチンの入り口にお札を貼っておキヌさんが入れないようにする。何故ならこの料理にはこれが良い、あれがいいと口を出すので自分で料理をしている気にならないからだ。
(今日は……んー……野菜炒めにしようかなあ)
横島はあんまり野菜が好きではないので肉を多めに知れば食べてくれるだろうと思い、冷蔵庫から豚肉と野菜を取り出し夕食の準備をするのだった……
「ただいまー。なんかタマモも来て楽しかったぜ」
「コーン」
帰ってきた横島はその頭の上にタマモを乗せ、肩の上にはチビを乗せて帰ってきた。当然ながら3人とも汚れているので
「じゃあ風呂に入ってくるわ。タマモ大人しくしてろよ」
「コーン♪」
そう笑って風呂場に向かう横島。一瞬頭の上のタマモと視線があう、勝ち誇ったような目をしていて
「負けた気がする」
【私もです】
説明しにくいのだが、何か負けた気がして思わずそう呟いたのだった……
「はいはい。判りました……明日から捜索に入ります」
受話器を叩きつけるように元に戻し、私は頭をかきながら
「あー!!もう!どうしろって言うのよ」
依頼先はGS協会。内容は東京にいるはずの「ミズチ」の捜索と可能ならばと討伐。報酬は2億だが……正直言って割に合わない
「最近のGSの襲撃犯は間違いなくこいつね」
表ざたにはなっていないが、CランクとBランクのGSが妖怪に襲撃され入院しているという話は裏のネットワークで聞いていた。
身体的には問題ないのだが、霊的。しかも魂にダメージを受けているGSが多く、霊能力を使えないため今も入院していると聞く
「念の為に準備したけど本当に遣うことになるなんてね」
ミズチと言えば龍神に名を連ねる水神であり。非常に強力な妖怪だ。いや神族と言っても充分に通用するレベルだろう。ミズチと言うのは先日襲撃されたGS。次の事案で「Bランク」に昇格できるかもしれない、と言うほどに経験をつんでいた巫女のGS……確か名前は「土門」数少ない陰陽術を使う家系と聞いている。とは言え実戦向きではないので基本的には破魔札を使っているらしいが
「あんがい使えたのかもしれないわね」
自分の技を教えるGSはいない。もしかすると使えないとは言っていたが、普通に陰陽術を使えた可能性がある。そんな土門のGSが負傷しつつ聞き出した名前がミズチ。
「全部繋がったわね」
一番最初の神社が破壊された事件。その事件の神社で祭っていたのは「水神」そして続く全国の水神に関する祠や神社の襲撃事件……間違いなく全てミズチの仕業だ……
「これはもう少しいるわね」
受話器を番号をコールする。今の手持ちの道具では正直不安だ、もう少し道具が要る
『もしもし・こちら・ドクターカオスの家・です』
特徴的なこの口調マリアだ。少し聞き取りにくいけど、仕方ないと割り切り
「カオスはいる?特注の除霊具を注文したいんだけど?」
まだ活動するつもりはないといっていたけど、ミズチ相手では普通の除霊具では駄目だ。特別な道具が必要になる
『今・代わります……特注の除霊具?物によるが高いぞ』
マリアから電話を代わったカオス、あのドクターカオス手製の除霊具となれば高くなるのは当然だ。何せ偽者かもしれなくとも、ドクターカオスの名があればオークションでは1千万から始まるような除霊具だ
「ミズチの捜索の依頼があるの、倒すつもりはないけど逃げる為の道具とかお願いするわ」
正直な話倒す事は不可能に近い。見つけて逃げる、これが一番安全だ。見習いを2人育てているのだから無理は出来ないからだ
『捜索と逃亡か……おまけに少し武器をつけて……そうさな。今度格安で依頼を受けてくれるなら4000万でどうじゃ?』
その言葉に少し考える。格安で依頼……何を頼まれるかの不安はある。だが4000万で3つも除霊具と考えれば充分すぎる
「OK。それで頼むわ、早く作ってね」
この依頼は短期の依頼なのでそう付け加えるとカオスは電話越しにカッカと笑いながら
『明日の朝一番に届けてやるわい。無論車のほうもな』
前に頼んだ車がもう出来たのかと驚いていると、カオスは私のそんな様子を脳裏に浮かべたのか
『この天才ドクターカオスを侮るでないぞ?並みの天才とは格が違うのじゃからな?それと前払いで900万ほど用立ててくれ、無論現金払いで頼むぞ、残りは後で構わんからの。では製作に取り掛かるので失礼するぞ』
電話を切るカオス。私も受話器を机の上に戻し、丁度ファックスから送られてきた書類を見る
「……手の回しが早いことで」
今回の依頼は除霊保険の非適応に加え、医療費は自己責任に加え、GS協会は一切の責任を負わないと来た……
「蛍ちゃんと横島君はどうしようかしら……」
今回の山は普段の除霊と違う。今度のGS試験に合格確実の蛍ちゃんならまだしも、見習いレベルの横島君を連れて行くのは不安がある。だが、私と蛍ちゃんでは大量の除霊具を運ぶ事ができない。そう考えると横島君も連れて行くしかないのだが……
「今回は生き残る事を教えましょうか」
GSは命あって物……生き残るためには卑怯な手も罠も使う。そう言う面を教えるのもいいかもしれない……それで横島君が自分には向いてないと判断したのなら残念だが、こういう面を見せる必要もある。私は机の中から最近書き慣れた横島君の公休要請紙に期間4日と書き、FAXで学校に送りそのままもう1度受話器を手にし、横島君の家に電話をするのだった……
久しぶりにアシュ様に呼ばれてビルに向かうと険しい顔をしているアシュ様がいて、これはただ事ではないと判断し気を引き締めると
「メドーサ。今東京に来ている龍神には気づいているかい?」
尋ねるような口調だがこれは確認だ。私はその言葉に即座に頷き
「気付いています、随分強力な龍族のようですね」
私ほどではないが、かなり強力な龍族だ。人間では太刀打ちできないような、とても強力な龍神と言うのは判っている
「その捜索依頼が蛍が働いているGSの事務所に出された。恐らく戦うことはしないだろうが、ミズチは気性の荒い水神と聞いている。念の為についていてくれないか?」
ミズチは確かに凶暴な水神だ。利用する事が出切ればアシュ様の目的を進めるのに役に立つはずなのだが
「それは私に守れという事なのですか?」
まさかと思いつつ尋ねるとアシュ様は笑顔で頷きながら
「まだあの事務所の人間を失う訳には行かないんだ。当然私の娘もね……」
アシュ様の考えている事が判らない、だけど何か真意があるのだろうと思い頷き、アシュ様の部屋を出ようと振り返ると
「もし、もしも再び神族に戻れるかもしれないと言ったら君は如何するね?」
それはかつて何回も考えた事だ。元神族の魔族。やってもいない罪を押し付けられ堕天させられた……戻りたいと思ったことはある。だけどそれは叶わない望みだ。1度堕天した神が再び神の座に戻ることなんてありえない……だけど
「それも悪くは無いかも知れないですね」
私を陥れた神は既にいない、確かに若干の蟠りはあるだろうが……天界に戻るのも悪くないと思いはしたが
「だけどそれはありえないことでしょう?それでは失礼します」
龍神王はとんでもない堅物だ。私を再び神族に戻してくれるわけがない、それ所か私の冤罪すら認めないだろうと苦笑し。アシュ様に一礼しビルを後にした、残された優太郎はふむふむと上機嫌そうに顎の下に手を置いて
「やはり引き込めるかもしれないな」
蛍の敵を増やす事は控えたいが、メドーサはやはり自分の陣営に引き込みたい。未来の記憶ではメドーサが主立って事件を起こしていたから、直ぐに引き抜くわけには行かない
「記憶を取り戻してくれたらなあ……」
そうなれば話は早いのに……と言う感じで呟いた優太郎は溜息を吐きながら、再び過激派魔族・神族の捜索作業に戻るのだった……
だが優太郎は気づかない、メドーサの倍率の文字が変動中になっていることに
リポート8 怒れる水神ミズチ! その2へ続く
次回からミズチ編になります。謎解きと言うか捜査?をメインにしたいと思うので戦闘は少なめになるかもしれないですね
あとはタマモとミズチの因縁と言うのはおかしいかもしれないですが、そう言う話も書いて見たいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします