レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア その2
小僧が住んでいたアパートは空き室でマリアの霊力センサーを頼りに来た家は、中々大きな賃貸だった
(こんな所も歴史とは違うのう……)
ワシが調べた結果では、ただの逆行ではなく、限りなく同じ時間軸の平行世界と言うのが正しいのだろうな……歴史の僅かの差異を考えるとその可能性が極めて高い
「お茶でいいわよね?」
「おおう。すまんのう」
蛍のお嬢ちゃんが入れてくれた緑茶を啜りながら、部屋を飛んでいるグレムリンを見つめ
「グレムリンがマリアに近づかないように頼むぞ?」
アンドロイドとは言え精密機械。グレムリンが触るとどうなるのか判らないのでそう頼む
【チビちゃん。横島さんが心配だから見てきてくれる?】
「みーん!」
元気良く返事を返し小僧の部屋に向かうグレムリン。これで心配事はなくなったか……
「それでドクターカオス。それにマリアさん?貴女達はどうやって逆行してきたのかしら?」
お嬢ちゃんの質問にワシはお茶請けの煎餅をかじりながら
「あの時代でワシはある研究をしておった。精神のバックアップと言えば良いかのう?マリアのメタソウルの応用で記憶と精神を保存することを考えたのじゃ、あんまりにボケるのでな」
なんせあの時代では、恥ずかしい事にワシはボケにボケていた。まともな生活が出来ていたのはマリアのおかげだったと言える。
「そんな状態で良くメタソウルなんて作れたわね?」
無論その状態を知っているお嬢ちゃんが苦笑しながら尋ねて来る。ワシは羊羹を頬張り、緑茶を1口含んでから
「文珠じゃよ。「若」の文字の文殊で若返っている間にちょいちょいとな」
流石に文珠がなければメタソウルを造ることなんて出来はしなかったと言える。事情を説明したら快く文珠を譲ってくれた未来の小僧には感謝している
「でも神族とか魔族の時空封印をどうやって突破したの?」
不思議そうに尋ねてくるお嬢ちゃん。まぁ確かに普通は突破できないじゃろうな
「自分達が逆行したのを忘れてないかのう?」
あっと言う顔をするお嬢ちゃん達。時空間封印はお嬢ちゃん達が逆行する僅かな時間だけ解除された、それは本当に短い時間じゃったが……
「お嬢ちゃん達が転移するのに膨大な霊力や魔力や神通力が妙神山に集まるのを測定器が察知してな、失敗するのは覚悟の上でワシとマリアの記憶を封じたメタソウルをこの時代のワシとマリアに送り、記憶のダウンロードをしたんじゃよ」
「無論失敗すると思っていたのじゃが、予想に反してワシとマリアの記憶を封じたメタソウルは無事にこの時代のワシとマリアの下に到着し、メタソウルだと理解した今の時代のワシが触れることでまずワシの記憶が現代のワシにダウンロードされ、ワシはそこからマリアの記憶を今のマリアにダウンロードしたのだ」
「だから正しくは逆行ではなく過去と未来のワシをひとつにしたと言うことじゃな」
逆行は最高指導者に目をつけられるので、抜け道を用意したってことじゃなと付け加えると
【じゃあ今のマリアさんは私の知っているマリアさん?】
「イエス・あなたに教わった料理は今もちゃんと覚えています・それに裁縫・洗濯・掃除もばっちりです」
キヌのおかげでマリアの家事能力が大幅に上昇して助かっている。それに今はボケていないので
「除霊道具を売りながら日本に来たんじゃ、この天才錬金術師ドクターカオス。以前のような極貧生活ではないぞ」
これだけでも精神だけの逆行に成功した意味がある。前よりも大きなアパートを借りて、厄珍堂とかに海外のオカルトGメンなどに
売って生計を立てていると今の自分の状況を話していると
「逆行してきた目的は?」
鋭い目付きで嘘はゆるさないという視線でワシを見る蛍。その眼光は小僧よりも美神玲子に似ていると思う
「ははは、気になるのはそこか?」
ワシの近況なんか興味ないと言う顔をしている蛍にワシはコートの中から一冊の本を取り出す
「それは?」
「マリアの設計図じゃよ。これでかつて作ったマリアの妹、テレサはワシのせいで暴走して壊れてしまった。ワシにすればマリアもテレサも娘じゃ。今度こそ幸福をなとな」
子供がいないのでワシにとってはマリアとテレサが娘だ。この幸せを祈らない親はいない、無論テレサとてワシの娘に変りはないのだ
「そう。だけどそれって私から横島を取るってことよね」
ふふふふふと笑い出した蛍、おおう。いかん地雷を踏み抜いてしまった……
「マリア!緊急脱出用意!」
こんな時の為の脱出手段は用意している、マリアはワシの言葉に頷き
「丸秘・射出します」
頭のアンテナから無数の写真を射出する、それを見た蛍とキヌの顔色が変わる
「【大人の横島(さん!?)】」
あの時代の横島の写真を見て顔色を変える2人。その隙に立ち上がり
「ではまた会おう!さらばじゃ!」
「失礼します・またどこかで」
慌てて写真を拾っている蛍とキヌを見ながら小僧の家を後にしたのだった……
「ドクターカオス・日本では如何するのですか?」
隣を歩きながら尋ねて来るマリア。ふーむと唸りながら
「まずは美神令子と友好的な接触。次に小僧じゃな」
テレサを作るにしても莫大な資金がいるし、それに作ったとしても以前のような暴走を起こさせない為にはしっかりとメタソウルを育てる必要がある。それには小僧の助力が必要不可欠だ
「だから妹に会うのはもう少し待っていてくれるかのう?」
「問題ありません・テレサに会えるのを楽しみにしています」
ぎこちなく笑うマリア。笑う事が出来るようになったマリアに笑みを零しながらワシは借りているアパートへと歩き出したのだった
今日私の事務所に直接電話をかけてきた老人。ヨーロッパの魔王「ドクターカオス」を名乗る老人は、私に除霊具を提供するので有事の時には力を貸して欲しいと話を持ちかけてきた。一応話だけは聞くと言ったが
(本物かしら?)
ドクターカオスは秘術で不老不死になったと聞く錬金術師だが……その名を騙るGSはかなりの数がいる。本物かどうかわからないが、一応話だけは聞いてみようと思い朝のうちに来てくれるように頼んだのだ
「失礼する。美神令子じゃな?」
扉を開けて事務所に入ってきたのは大柄な老人と人の姿をしているが、生者の気配がしない女性
(キョンシーの類じゃないわね。勿論魔族でもない)
これはもしかすると本物かもしれない。私は即座に椅子から立ち上がり
「美神除霊事務所の所長の美神令子です。ご高名な「慣れてない敬語はいらんわい。普通でいい」
私の言葉を遮って笑う老人。その目の迫力は確かにヨーロッパの魔王と言われるだけの事はある
「何しにきたの?ドクターカオス本人なら1人でも大丈夫なんじゃないの?」
その錬金術の知識と経験があれば自分ひとりでも、ううん。その隣に控えているアンドロイドの女性で充分なはずだ
「いかんせん偽者が多くてなあ……ドクターカオスと名乗っても中々信じてもらえん。じゃが……若手NO.1の美神令子の名があれば多少は信憑性がでてくるじゃろう?」
そう笑うドクターカオス。偽者が多いのは知っているが、まさか本人でも困るレベルだったとは意外だ……とは言えこれは幸運と言える
「そういう事ね。だけど私はまだ本物って信じたわけじゃないわよ、何か自分が本物だって証明できるものは?」
無論本物と可能性が高いのはわかるが、隣に立っているアンドロイドが一言も喋らない事を考えると、まだ信じるには早いとおもう
「マリア。あれを出しておくれ」
「イエス・ドクターカオス」
アンドロイドが手にしていた小さな鞄が机の上に置かれる。ドクターカオスはその鞄を開けて
「とりあえず、お近づきの印という事で持って来た。次回からは買ってくれるとありがたいのう」
机の上に置かれたのは小粒な精霊石の欠片の数々……それでも買えば400万はするような代物
「これはまさか……」
信じられないけど、本物のドクターカオスなら……ありえないわけではない
「複製の精霊石・の欠片です・効果は多少本物に劣りますが・使えないわけではありません」
本当に!?まさか精霊石の複製を作れるなんて……これは本物と信じるしかないだろう。目の前の鞄には7個の精霊石……
「信じるわ、ドクターカオス。貴方は本物だと」
これを見てもなお偽者だと言えるわけがない……ドクターカオスは鞄の蓋をして私の前に押し出し
「それでは私はどうすれば?貴方が本物だと言えば?」
それが目的なのだから、そうすれば良いだろうか?と尋ねるとドクターカオスは首を振り
「それは良いわい。暫くは大人しくしているつもりだからのう……動き出そうとした時に頼むわい」
動き出す時がいつかは判らない……それがいつか判らないが……その時は協力すると約束する。それと同時に
「そうだ。車とかって作れない?」
人数も増えてきたのでコブラのままでは駄目だ。それに横島君の事を考えるとまた妖怪とかを拾ってきそうなので、車を買い替えようと思っていたが、並みの車では私の運転には耐えられないし……それに値段も馬鹿にならない。その点ドクターカオスならば
「ふむ……良いじゃろう。引き受けた、これはサービスとまではいかんのでな、500万じゃ」
500万でヨーロッパの魔王と謳われたドクターカオスの作成した、ほぼ魔道具としての車
「OK。急ぎでよろしく」
「ふふん、判っておるわ。そちらも即金で頼むぞ?ではの、日本で暮らす準備もしないといかんので今日は失礼するわい」
「また今度・お会いしましょう・美神さん」
並んで出て行くドクターカオスとマリアと呼ばれたアンドロイドを見送り、机の上の精霊石の欠片を見つめる。
(今度の除霊に持って行って見ようかしら)
効果はある程度は期待できるはず……だけど見てみないと信じれないしね……
「しまったな……本の解析を頼めば良かった」
ドクターカオスなら読めないにしろ解析は出来るはず、頼めば良かったと後悔しながらドクターカオスが持って来てくれた精霊石を金庫にしまい。最近の依頼やGS業界の流れを纏めている雑誌を見ていると
「また……」
破壊された水神・龍神に関係する仏閣の数々。それは段々東京に近づいてきている……
「もしかしたら私に依頼が来るかもしれないわね」
東京で優秀なGSと言えば先生と私と……あともう1人……私に声が掛けられる可能性が高い事に気づき眉を顰めながら、受話器をとり
「もしもし?厄珍?防護札のAランクを20枚と水神符を100枚。あとは破魔札の1000万を10枚と500万を20枚よろしく」
どうせ道具を頼む時期が近いので、もしかしての可能性も考慮して厄珍に除霊具を大量に注文するのだった……
最近神社仏閣が破壊され居場所のなくなった神が妙神山にくる事が多くなった。一時的に妙神山に滞在して貰い、天界に向かってもらっているんですが
(あまりに多すぎる……)
ここ数ヶ月で20件。既に信仰のない土着の神やかつての水神が襲われている……
「どういうことなのでしょうか」
襲われた神の話を聞いても、襲ってきたのは2首の竜だったや、鬼だったなど……どれも証言が違う。別の個体……もしくは姿を変えることが出来る妖怪……もしくは
「水神に関係している……?」
一応調べてはいるが、全く足取りがつかめない……関連性があるのは水神に関係しているという事だけ……
「どうしたものでしょうか……」
私は妙神山に縛られた神であり、基本的には離れることが出来ない。日本の水神と言うのは太古の時代に関係した神が多いので、警戒し、調べるように言われていたが……正直妙神山で調べるのは難しい
「人界に降りないと難しいですね」
なにせ神界では気配を探るのも難しいし、人界で直接捜索すれば見つける事ができるかもしれないが……流石にそこまでの許可は下りていない、むしろ私は今謹慎を言い渡されているので直接動く事が出来ないのだ
(蛮と勇の鬼兄弟のせいですよね……)
龍牙刀を取り返し、扇も奪い返したが、蛮と勇は討伐の指示が出ていたが、どちらかだけは捕獲せよと命じられていた鬼だったらしく、両者とも滅してしまった私は今は謹慎状態。そのままでも調べる事が出来る事を調べているんだけど……正直この状態で調べる事は不可能に近い、私は戦闘系の神で調べ物は余り得意ではないのだ
「小竜姫~今大丈夫なの~」
空間の裂け目から顔を出したヒャクメ。彼女も調べるように言われている神の1人だ。心眼を持つヒャクメなら天界でも調べる事ができるので彼女の方が適任と言える。私が調べるように言われたのは1つのお仕置きと言う所だから文句は言えないけど……
「大丈夫です。何か判りましたか?」
私がそう尋ねるとヒャクメは頬をかきながら
「襲撃犯は見つけることが出来なかったの~もう少し派手に動いてくれれば良いんだけどねえ~だけど今回は少しだけ気になる事があって」
気になる事?私が首を傾げているとヒャクメは私が見ていた地図に丸を付け加える。その3箇所を見て直ぐに理解した……その場所は神族でも知っている場所であり、警戒するように言われている場所でもあったからだ
「まさか!?」
考えられる可能性はそれだけだが……もしその通りなら大変な事になりかねない
「熱田神宮・伊勢神宮そして……関門海峡」
熱田神宮と伊勢神宮には三種の神器の「天叢雲剣」「八咫鏡」が安置されている、無論レプリカなのだが……その神性は本物で強力な霊具であるのは言うまでもない。そして関門海峡は人間の中では「壇ノ浦の戦い」と言われる争いの行われた場所であり、そこでは「八尺瓊勾玉」は沈んだとされている……無論回収はされていると聞くが、レプリカと言う可能性も高い、当時の陰陽師なら不可能ではないからだ
「だけど伊勢神宮と関門海峡の反応は少ないのね。反応が濃いのは「熱田神宮」なのね」
熱田神宮といえば「天叢雲剣」そして熱田神宮に関係のある者と言えば……
「八岐大蛇……」
龍族の中で最高とまで言われた。最強の邪龍……完全に封印されていると聞いているので、ありえないとは思うが警戒する必要はあるだろう。
「その可能性が極めて高いのね。まだ確証はないけど警戒しておいて欲しいのね」
じゃあ調べるのに戻るのねと呟き消えていくヒャクメ。私はヒャクメから与えられた情報を頼りに、妙神山の資料に目を通し始めたのだった……
人のいない森林を進む、長い緑色の髪と真紅の瞳の女性……その女性が身に纏っているのは黒色の狩衣に似た着物だ
「……うそつき」
その女性は小さな声でぼそぼそと呟きながら森林を進んでいく……彼女が歩いていく場所は水に濡れている。
「人間は悪くない……なんて嘘……私の神社を壊した……」
約束したのに……私の神社を作り、敬い崇拝するって約束したのに……眠っていた私を起こしたのは人間による神社の破壊……憎いと思った……だから私は本来の私の役目を果たす為に動き出した……それでも。それでもなお……
(……忘れられない)
私が1度目覚めた時に私をもう1度封じるために現れたあの男の事を……
【俺が敬うから、もう少しだけ俺を……人間を信じて見ないか?】
人のいい顔で私にそう声をかけた男。最初は信じることが出来なかったが、何回も会ううちに信じたいと思った、だから私の加護を授け、その言葉を信じた挙句がこのざまだ……やはり人間は醜く愚かだ……だけどあの男だけは違うかもしれない、いやそう信じてみたい……だから私は行く、既にあの男が死んでいたとしても、私が授けた加護は消えることはない。いまもしっかりと繋がっているのを感じる。ゆっくりと山の中を進み、崖に面した川の前に立ち
「……こっち」
ゆっくりと崖の上から身を投げ、私は川の中を高速で泳ぎ目的地へと向かった。東京と呼ばれる人間の住む土地へと……私が1000年前に授けた加護を持つ者の気配の元へと向かうために……
リポート8 怒れる水神ミズチ! その1へ続く
カオスが美神と対峙する理由がないので、時空消滅内服薬のイベントは飛ばします。代わりにオリジナルの話を入れます
別の作品の妖怪ですけど、個人的な好みで投入します。多分知ってる人は知ってるはずですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします