リポート6 式神使い六道冥子登場! その5
「あー良く寝た……」
ゆっくり身体を起こし大きく欠伸をする。体の疲れもなくて最高の目覚めだ、伸びをしていると俺が起きた事に気付いたチビが
「ミミー!みーみー」
俺が身体を起こすと直ぐに膝の上に乗って、小さい手を振るチビ
「おーよしよし」
「みーん」
指でチビの頭を撫でていると壁からおキヌちゃんが顔を出す。最初は驚いたが、今では慣れた物だ。人間ってたくましいよなあと思い苦笑していると
【横島さん。もう大丈夫ですか?】
心配そうな顔で尋ねて来るおキヌちゃん。心配してくれてるのは判るんだけど……
「大丈夫って何のこと?」
別に身体の調子は悪くないし……何のことだろう?
【霊体痛で呻いていたんですよ?】
霊体痛?なにそれ?聞いた事のない言葉に首を傾げると
「霊体痛って言うのは霊力を使いすぎると起きる現象で、酷い痛みが走るのよ」
蛍が部屋に入ってきながらそう説明してくれる。俺は手足を動かしながら
「そうなんか?ワイどこも調子悪くないけどなあ」
手足を動かしてみるが、そんな痛みはどこにもない……本当にそんな状態になっていたのか?と首を傾げていると
「美神さんが霊体痛の薬をくれたからよ、あとでお礼を言っておきなさいよ」
そうなんか……お礼を言わないと行かんな……チビを頭の上に乗せてベッドから立ち上がり……ふと気付く
「なんでいるん?」
いないはずのおキヌちゃんと蛍がいる事に不信感を抱き尋ねると
「念の為に美神さんが様子を見てなさいってね」
【そう言うわけです】
そうなのか……本当に美神さんには世話になってるなあ……本当口は悪いけど良い人だよなあ……
「それよりも出かける準備をして、美神さんから電話があって六道さんの家に行くことになったからね」
六道……って冥子ちゃんの家か。何の用事だろう?
「じゃあ着替えるから。リビングで待っててくれ」
蛍とおキヌちゃんが部屋を出たのを確認してからジャージから普段のジーパンとジージャンに着替える
「み!」
よほどジージャンのポケットが気に入ったのか、顔を出して手を振っているチビに苦笑しながらリビングに向かうと
「コーン」
7本の尻尾を振りながら駆け寄ってくるタマモを抱き上げて
「おはようなー」
「コーン」
顔を摺り寄せているタマモの頭を撫でていると
「もう美神さんも待ってるから行くわよ」
「ん?飯は?」
腹空いてるんだけどなあと思いながら言うとおキヌちゃんが
【冥子さんの家で食べれるそうですから少し我慢してくださいね】
そう言われると無理に駄々をこねるわけにも行かない。頷いて蛍達と一緒に家を出ると
「おきたわね。身体の調子はどう?」
いつものコブラではなく、バンの隣に立っている美神さんに
「霊力の薬どうもありがとうございました」
それが無ければもっと調子が悪かったんだろうなと思いながら頭を下げる
「構わないわ。まぁ先行投資って所ね。早く一人前のGSになって恩返しして頂戴」
そう笑った美神さんだけど、次の瞬間には真面目な顔をして
「六道家はGSの中でもかなり力のある家系よ。失礼の無いようにね、それと……いろいろと言われる事があるとおもうけど……下手にハイって返事したりサインとかしたら駄目よ」
何の話か判らず首を傾げると隣の蛍が
「覚えてないかもしれないけど、前の除霊の時に横島は陰陽術を使ったのよ?覚えてない?」
んな事を言われてもなぁ……あの時は悪霊から冥子ちゃんを護るのに必死だったし……それに悪霊に体当たりされて意識を失ったしなぁ。それに
「陰陽術ってあれだろ?りんぴょーかいしゃーなんちゃらとかの?」
漫画とかTVで見た事はあるんだけど……んなもん俺は蛍にも教わってないし、それに美神さんにも教えてもらってない
「何かの間違いじゃないのか?」
「蛍ちゃんの言ってることは本当よ。私も見てたしね」
美神さんにもそう言われる。だけど覚えてないから何ともいえないんだけどなあ……
「六道家は式神を使いこなす家系よ。式神と陰陽術は密接な関係があるから、今回呼ばれたのはそれが関係しているはずよ」
「はぁ……」
なんか大変な事になっているのは判るんだけど……内容がさっぱり判らない
【判ってないなら無理に返事をしないほうがいいですよ?】
おキヌちゃんにそう言われて苦笑していると
「まぁ良いから乗りなさい、待ち合わせの時間に遅れるからね」
美神さんの言葉に頷き、俺達はバンに乗り込み冥子ちゃんの家へと向かったのだった……
美神さんの運転する車で六道さんの屋敷に向かう。
「遠いんですか?」
車で移動ってことは結構遠いのかもしれないと思い尋ねると美神さんは正面を見たまま
「割と近いわよ?だけど歩いていくのもね。おかしな話でしょ?」
まぁ……確かに1流のGSと言われる美神さんが歩いていくって言うのもおかしな話だね……
「車で10分位ね。直ぐ着くわよ」
そう笑う美神さん。車の運転を邪魔をするのも良くないので同じく後部座席に座っている横島を見ると
「み!みっ!みっ!」
「よしよしよし」
膝の上に座って短い手を振っているチビと遊んでいた
「ん?どうかしたか?」
「ううん。なんでもない」
なんか見ていて和む光景なのでそのままで良いや。おキヌさんも遊んでいる横島とチビを見て
【こういうのも良いですね~】
小動物と遊んでいる横島と見て和んでいた……まぁ私も和んでいるんだから何とも言えないんだけどね……
「コン……」
「よしよし」
膝の上に丸まって私も構えと言いたげなタマモの頭を撫でる横島を見ながら
(多分今回呼ばれたのは陰陽術のせいよね)
そうで無ければ横島を六道家が呼ぶ理由がない。それに……お父さんのトトカルチョに刻まれていた「六道冥子」名前……
(警戒を強める必要があるわね)
六道家がどれほど強大かは判らないけれど、横島は私のだから奪わせないんだからね!握り拳を作り心の中でそう誓うのだった……
「なんか蛍が怖いなあ」
「みみ……」
「コン……」
【ですねえ。大丈夫ですか?横島さん】
蛍の威圧感に負けた横島とチビとタマモとおキヌはぶるぶると震えていたのだった……
「着いたわよ。降りて」
車を降りる。そこは都心の真ん中に居を構えた豪邸
(凄いわね。これは)
とんでもない……こんな都心の真ん中に豪邸を構える。もしかすると六道家は相当のお金持ちなのかもしれない。
「わふーん!!!」
突然聞こえた犬の声に振り返ると巨大な白い犬。六道さんの式神のショウトラがジャンプしていた
「ぬわあああああああ!?」
「横島ー!?」
その巨体に体当たりされ引っくり返る横島。ショウトラは横島の上に乗って
「わふわふわふ♪」
「なー!止め!ぺろぺろやめー!!!!」
物凄い勢いで横島の顔を舐めているショウトラを引き離そうとするのだが
「す。凄いパワー」
【引き離せない……】
私とおキヌさんで引っ張っているのに動かないショウトラ。信じられないパワーだ
「ミ!ミー!!!」
「コン!」
横島のポケットから這い出したチビがぺちぺちとショウトラの鼻先を叩き、タマモが前足で攻撃するが
「わふわふー!」
全然効果がない。どれだけショウトラは横島が好きなのよ!
「のわー!止めてくれ!」
前足で押さえつけられているので逃げられない横島が叫ぶ。私達も助けてあげたいんだけど……ショウトラのパワーが強すぎる。
「駄目よ~ショウトラちゃーん」
のんびりとした六道さんの声がすると、ショウトラはさっきまでの嬉しそうな素振りとは逆にしょんぼりした感じで
「わふ……」
名残惜しそうに横島から離れるショウトラの後ろから
「ごめんね~横島君~ショウトラちゃんが走って行っちゃって~」
笑いながら姿を見せる六道さん。私はスカートからハンカチを取り出して、ショウトラの唾液でべとべとの横島の顔を拭くいてあげるのだった
「ひでえ……」
うん。私から見ても酷い有様、Gジャンには犬の肉球のあとがついてるし、顔は唾液でべとべとだし、本当に酷い有様だ
「本当にごめんね~横島君~」
謝っているんだけど、声が間延びしているので謝っているように思えない
「いやいや大丈夫っすよ?」
ちょっと疲れているように思えるけど立ち上がって笑う横島に
「別に我慢しなくてもいいのよ?冥子の式神は強力だから結構きついんじゃない?」
「だ、大丈夫っす!」
美神さんに言われても大丈夫と言う横島。本当に女性の前では見栄を張るのね……
「本当~じゃあ来て~今日はね。横島君と令子ちゃんにお礼するために~ご馳走なのよ~」
えへへと笑って歩いていく六道さん。その仕草を見ていた私とおキヌさんは直感的に感じた
【(あれは敵だ)】
間違いない。あれは間違いなく、私達の敵だと……
「うおおおお……す、すげえ……」
案内された部屋には寿司に肉に天ぷらに洋食の数々。そのどれもが名店の品だと判るほどのご馳走がたっぷり並べられていた
「待っていたわ~令子ちゃん~横島君~それに芦ちゃんだったかしら~まずはお食事してからお話しましょう~?」
ニコニコと笑っている六道さんのお母さん。美神さんの話では冥華さんと言うらしい……なんて怪しい人なの!?笑顔なのに警戒心ばかりが強くなる
「それじゃあ。頂きますね。冥華おばさま」
「どうぞ~皆様の為に~用意したのよ~」
とりあえず食事をしないことには話が進まないと判断して私も椅子に座る。横島は直ぐ寿司を食べ始めると思ったんだけど……
「ほーれ。チビあーん」
「みーん♪」
小さく斬った果物をチビに与えつつ、ゆっくりと食事を始めていた。私も目の前のサラダに手を伸ばすのだった……
はー美味かった……こんなに美味いの食べたの始めてや……
「喜んでくれてなによりだわ~横島君~」
ニコニコと笑う冥子ちゃんのお母さんの冥華さんに
「ミーン!」
チビに食べさせた果物なのだが、随分気に入っているみたいだから後で少し分けてもらえないか聞いてみよう
「それで、冥華おば様?今日私達を呼んだ理由は?ギャラの話だけではないですよね?」
美神さんがそう尋ねる。俺や蛍が話に割り込むと邪魔になるので静かにする。報酬の話とかはデリケートな話なので邪魔をしてはいけないからだ
「報酬の話は~8・2でいいわぁ~横島君と令子ちゃんがいなければ冥子だけじゃあ除霊出来なかったからね~」
そう笑う冥華さん。だけどそれで良いんだろうか?冥子ちゃんも頑張ったはずなのに……真向かいで食事していた冥子ちゃんを見ると
「……さ」
なんで俺から目を逸らすんだろうか?そんなに俺は怖い顔をしているだろうか?足元には
「わふ♪」
ご主人から離れていいのか?ショウトラ?なんでそんなに落ち着いているんだろうか?
「その代わり~お願いがあるんだけど~?」
にこにこと笑う冥華さん。笑顔のはずなのに、どうしてだが寒気を感じる。
(お、お袋と同じだ……)
あの笑顔はお袋と同じだ。それを見て警戒心が一気に跳ね上がる。手にしていたグラスを取りオレンジジュースを飲んで気を落ち着ける……じゃないとそのままあのオーラに飲み込まれてしまうからだ
「内容によりますわ。横島君は我が美神除霊事務所の優秀なGS見習いですから」
優秀……まぁこれは多分話の流れで言っているんだろうなあ……俺はまだGSとしては余り未熟すぎるだろうから
「それは判ってるわ~横島君は~自分が妖使い~って言う稀有な才能があるって知ってるかしら~?」
妖使い?なんのこっちゃ?そう言えば前も冥子ちゃんがそんな事を言ってた気がするけど……
「み~み~」
果物をぺちぺちと叩いているチビ。まだ食べたいのか、ナイフで果物の皮をむいて小さく切ってから
「はいあーん」
「みーん♪」
小さい口を大きく開いて果物を頬張るチビ。最近は歯が生え揃ってきているので摩り下ろす手間がないので少し楽だ。
「コン」
俺をじーとっと見ているタマモ。今度はお稲荷さんに手を伸ばして
「ほい。あーん」
「コン♪」
小さく口を開くタマモの口にお稲荷さんを入れて、食べさせているとそれを見た冥華さんが
「それよ~横島君は~妖怪と心を通わすことが出来るのよ~それはとっても稀有な才能なのよ?」
稀有って言われてもなぁ~俺としては普通に接しているだけなんだけど……
「それに横島君は~陰陽術師としても~優秀な才能を持っているみたいだし~その才能を伸ばす事を考えるべきだと思うのよ~?」
「ですが、今は実戦で使えるような陰陽術を使えるような陰陽師は存在しませんわ。無理に伸ばせない才能はそのままの方が宜しいのでは?」
まぁ俺としては覚えたいけど、師匠がいないのなら無理に覚える事はないかな?
「公にはね~?裏の世界とか名家には陰陽術は伝わっていると思うけど~どこも秘密主義だからねえ~だからね~六道の家に伝わっている陰陽術の本を令子ちゃんに貸してあげるから~横島君に陰陽術を教えてあげて~?」
俺の前に差し出された古い和綴じの本……少しページを開いていると達筆なのか、下手なのか良く判らない字が書かれている。よ、読めん……俺が冷や汗を流している中美神さんは真剣な顔をして
「……なにを企んでいるんですか?」
美神さんがそう尋ねる。俺も少し違和感を感じている、お袋と似ているからただではないとおもう……
「優秀な~GSを育てるのはGS協会の人間としては当然よ~」
「見返りがないじゃないですか?これはおかしなことだと思いますが?」
美神さんと冥華さんが難しい話をしている。なんかこう大人の黒い面を見ているような気がする
「なんか怖いな~」
「そうね。静かにしてましょう?」
【霊力がぴりぴりしてますね。居心地が悪いです】
俺と蛍それにおキヌちゃんはその雰囲気が恐ろしくて、身体を小さくする。こういう時は大人しくしているに限る。それは野生を持つチビ達も同じのようで
「みー」
「こーん」
「わふ……」
頭を下にして尻尾を突き上げているチビ達。やっぱり怖いんだろうなあ……
「えーとね~えーとね~横島君たまにでいいから~私と除霊のお仕事をしましょ~それがお願いなの~?」
冥子ちゃんが上目目線で尋ねて来る。いや、そんな事を言われても俺もGS見習いだからそんな事を言われても困る
「六道さん。横島はまだGS免許もないんですよ?判ってますか?」
「判ってるわ~だけど冥子。横島君と仕事したいな~」
にこにこと笑う冥子ちゃん。冥華さんも厄介だけど……冥子ちゃんも厄介だな……
「……その件は少し考えさせてください。難しいことですから」
「判っているわ~でも多くの事務所でGSの勉強をするのも~悪くないわ~前向きに考えておいてね~」
にこにこと笑う冥華さんに美神さんは眉を顰めながら
「前向きに検討しますわ。それじゃあ横島君、蛍ちゃん、おキヌちゃん行くわよ」
立ち上がって出て行く美神さん。俺も立ち上がり
「ご馳走様でした!それとこの本どうもありがとうございました」
机の上の本を抱え、チビをポケットの中。タマモを頭の上に乗せて追いかけていこうとして
「あのすいません、この果物貰っていっても良いですか?」
胸ポケットの中からつぶらな目で見ているチビを見て、忘れかけていた事を思い出し尋ねると
「どうぞ~持って行っていいわよ~」
冥華さんが笑いながら言ってくれた事に安心し、机の上の果物を2~3個貰い
「ありがとうございます。じゃあまた今度」
「またね~横島君~」
「わふ」
手を振る冥子ちゃんとショウトラに手を振り俺は六道の屋敷を後にしたのだった……
「横島、その本は私が預かるから」
車に乗るなりそう言う蛍。有無を言わさない迫力があったのでその本を手渡す
【んー横島さんのそばが居心地がいいのは、妖使いの才能なんですかね~?】
俺のそばでぷかぷかと浮いているおキヌちゃんがそう呟く。そんな事を言われても俺には判らん
「とりあえず横島君。暫く妖使いと陰陽術のことは忘れなさい、今は普通のGSになることだけだけ考えなさい。2つも3つも同時に覚えるのは無理だからね」
運転しながら言う美神さんに頷く。俺自身そんなに頭が良くないことを自覚しているので1つに絞ったほうが良いと思う
「まぁなんにせよ。まずは事務所に帰りましょうか、なんか疲れたし……」
確かにあの雰囲気だけで疲れた。それに満腹な事もあり、俺は車の背もたれに背中を預け眠りに落ちるのだった……
美神達が冥華との話会いを終えて事務所に戻っている頃。空港に降り立つ長身の老人と女性
「いやーやっと日本に来れたのうマリア?」
「イエス・ドクターカオス」
ドクターカオスと呼ばれた老人はにやりと笑いながら
「逆行とはまた面白い事を考えるのう、あのお嬢ちゃんは」
「イエス・だけど・私は逆行できて・嬉しいです」
無表情なのに嬉しそうと珍しいことをするマリアと呼ばれた女性。いや正しくは女性ではなく、ヨーロッパの魔王と呼ばれる。ドクターカオスが作り出した人造人間なのだが……
「さてとまずは蛍のお嬢ちゃんを探すかの?話をしないといけないしな」
先ほどの逆行と言う言葉と蛍を知る。ドクターカオスとマリア。彼と彼女もまた逆行者だが、蛍達とは別の方法で逆行してきた2人組みだ
「蛍さんの・霊力の波長は・データベースにあります・すぐに検索に入ります」
「任せるぞ、マリア」
楽しそうに笑うドクターカオス。身長とその鋭い目つきのせいで若干恐ろしくも見えるが、その優しい目の光は孫の幸せを願う老人その物だった……
レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア その1へ続く
次回はドクターカオスとマリアを出してみようと思います。逆行しているので原作のイベントは若干カットしますけどね
逆行してきたカオスが何を企んでいるのか?それを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします