リポート6 式神使い六道冥子登場! その4
昨日の除霊の際、最後に横島が使った陰陽術……だけどこれはおかしい
(横島は陰陽術なんて使えない筈なのに……)
蛍の記憶もルシオラの記憶の中にも横島が陰陽術を使ったという記憶はない。これは一体どういうことなのだろうか?
【私も横島さんが陰陽術を使ってるところなんて見たことないんですけどね】
おキヌさんがそう呟く、今もこうして念の為に横島の家で待機している。これは美神さんの指示なのだが……
「横島はまだ寝てる?」
陰陽術は凄まじいまでの霊力と消耗する術だ。今の横島の霊力では、使いこなせるはずのない術なのだ。美神さんは酷い霊体痛を起こすかもしれないという事で私とおキヌさんに横島の家で待機するように言って、朝一番から何か調べ物をしていた
「これももしかして逆行の影響なのかしらね」
私はまだうまれる前の素体と記憶が混ざった影響か。霊力と魔力を使える上に、サイキックソーサーと未完成の栄光の右手を未来の記憶から引き継ぐ事ができた。そしておキヌさんは
【私は霊力の上昇とポルターガイスト能力……私は前はこんな能力ありませんでしたから】
逆行の影響は小さい物から大きい物、色々あるが……自身の霊能力の強化と言う形で現れている
「横島は前世の記憶が影響しているのかもしれないわね」
とは言え私もおキヌさんも横島の前世の話を聞いたことがないので、何とも言えない……どうしたものか……
「ミイ!ミミミーッ!!!!みーッ!!!!」
「コーン!ココーン!!」
横島の部屋から飛び出してきたチビとタマモ。その必死の姿に横島に何かあったのかと横島の部屋に向かうと
「うっ、うぐううう!ぐあああああ!!!」
布団の上で苦悶のうめき声を上げる横島がいて、慌てて美神さんから預かっていた霊薬を横島に飲ませる。これは霊力を回復させるものでとても稀少な物だが、念の為と言う事で美神さんが持たせてくれたのだ
「横島!?大丈夫!?」
薬を飲んだことで落ち着いたのか、暴れるのをやめた横島を起こそうと身体を揺すると
「あ。ああ?蛍?それにおキヌちゃん?」
ぼんやりとした口調の横島は頭を押さえて
「いや、なんか酷い夢を見てさ……なーんか変な紫の体に金髪の男に頭を打ち抜かれて死ぬって感じの夢でさ」
紫の体に金髪?それってお父さんの魔神としての姿……おキヌさんもそれに気づいたのか神妙な顔をして
【ほかに何か見ませんでしたか?】
そう尋ねられた横島は何かを思い出す素振りを見せる、これがもしかすると横島の前世なのかもしれない。横島の使った陰陽術の謎が解ける可能性がある
「えーと……変な……変な着物見たいのと帽子……それと……えーと……あかん、思い出せへん」
変な着物と帽子……もしかすると平安時代の確か狩衣かしら?もしそうなら横島の前世が陰陽師と言う可能性が濃くなる
「とりあえず今日は学校を休ませてもらえるように美神さんが電話してくれてるから、もう少し休んでて」
「あ、うん」
もう1度寝転がると直ぐいびきを立てる横島。それだけ消耗したってことね。心配そうに横島を見ているチビとタマモに
「大丈夫よ、すぐ元気になるわ」
あの霊薬は服用者を眠らせることで霊力と体力の回復を行うものだ。今のは間違いなくその副作用だ
「おキヌさん。私は1回家に帰るわ。お父さんに聞いてみる」
もし私の予想通りなら、前世の横島とお父さんには何か関係性があるはずだ。私は鞄を手に横島の家を後にした
【判りました。チビちゃん、タマモちゃん。横島さんをゆっくり休ませて上げましょうね】
「ミ~」
「コン」
残されたおキヌも横島の今の状態を考慮して、チビとタマモを連れてリビングに戻り
【チビちゃん。おいでおいで】
「み?」
チビに懐いてもらおうと必死の努力を始めるのだった……なお横島が起きるまでの2時間。必死に挑戦したのだが
「みー!!!」
懐く気配を一向に見せないチビにおキヌの心が折れかけるというハプニングがあったりする……
「お父さん。横島の前世に付いて何か知っている?」
「HAHAHA……何のことやら?」
だらだらと汗を流すお父さん。これは絶対知っている……
「教えて?」
「……横島君の前世の頭をぱーんっして殺したのは私です」
「なにをやっとるかあああ!」
私は思わず荷物がたくさん詰まった手提げ鞄でお父さんの頭を強打するのだった
「とりあえず、横島は陰陽師が前世なのね?」
とりあえず私の気が済むまでお父さんの頭に鞄を叩き付けてからそう尋ねる
「ハイ……ソノトオリデス」
血塗れのお父さんは無視して。手帳に横島の前世は陰陽師と書き足す。横島の事は大分知ってるつもりだったけど、前世は陰陽師なんて考え持つかなったわ
「もし調べれるなら陰陽術の事を調べておいてね」
今の時代には陰陽術を教えてくれるGSも居なければ、それを公に使う陰陽師も居ない。自分達の秘伝を表に出すことを良しとせず、GS協会にも所属せず、陰陽寮にも所属せず、自分達の一族の中だけで陰陽術を研究し高め続けている。だがアシュタロスであるお父さんならば調べる事が出来る筈だ。今は教えることは出来ないが、今後の事を考えると調べておく価値はありそうだ
「ああ、それはかまわないよ」
既に回復している。お父さんが横島に似てきたと小さく汗を流すのだった……
おキヌがチビに懐いてもらおうと奮闘している頃。美神はと言うと……
「参ったわねえ……」
私は昨日の除霊の報告書を纏めているんだけど、どうしたものか?と頭を抱えていた。
「GS見習いが陰陽術を使ったなんてかけないしね」
正直現代には碌な陰陽術使いなんて存在しないので、報告書として書くわけには行かない。伝わっていたとしても、それを秘伝として公の場で使う人もいない。
「とりあえず精霊石と破魔札で対応したって書いておきましょう」
書いても良いんだけど、横島君が陰陽術を使えると知られれば、横島君の立ち位置が危ない。
(六道家にGS協会……それに陰陽寮……どこもちょっかいをかけてくるわね)
可能性としては陰陽寮が一番厄介だ。陰陽術を売りにしている京都のGS組織なのだが、陰陽術を使う事ができないので破魔札を作る組織だ。無論それは全てとは思えない、あれだけの組織が陰陽術を使える人間を把握していないとは思えない。表にしていないだけで何人かの陰陽師の事を把握しているとは思っている
(これは知られるわけには行かないわね)
それに使えたとしてもそれを毎回使えるという確証もない。どちらかと言うと危機的状況で咄嗟に使ったという感じが正しいような気がする
(となると今の横島君は使えないんじゃ……)
あの陰陽術の霊力の消耗はかなり激しい物だった。横島君の霊力の数倍だと私は思う……
「まぁこんな物かな?」
私は精霊石を良く使うから、これで通るでしょう……
「さてとじゃあ、お昼から冥子の所で報酬の話し合いっと……ジリリリリ。嫌な予感」
机の上の電話が鳴る。直感的に嫌な予感がして眉を顰めながら電話を取る
「もしもし?」
『もしもし~令子ちゃん~覚えてる?私~よ~』
この間延びした口調は冥子だと思うけど……違う。これは……
「冥華おば様でしょうか?」
冥子の母親にして、GS協会の大御所。六道冥華さんに間違いない。私この人苦手なんだよなと苦笑する。
私のお母さんの師匠に当たるので面識はあるんだけど、どうも苦手なのよね
『そうよ~この前の除霊ありがとね~』
もしかして、使い魔であの除霊を見ていた?冷や汗が流れるを感じながらあくまで平常心を保つ、冥華おば様は現代では殆ど居ない陰陽術の使い手でもある、とは言え使えるのは式神と札を媒介にする使い魔の召喚……見られた可能性が極めて高い。
「いえいえ、私の方も冥子のおかげで無事に除霊を完了する事が出来ました」
事実冥子の式神が無ければ、あの除霊は失敗していたと思う。
『ふふふ~そんな事はないわ~冥子もそうだけど~あの除霊は横島忠夫君かな~彼のおかげじゃないかしら~?』
舌打ちを打ちそうになるのを必死にこらえる。間違いなく、この人はあの除霊を見ていた
「それで何の御用でしょうか?横島君は霊体痛で動けないので会わせる事が出来ないですよ?」
間違いなくあれだけの霊力を消耗している横島君は酷い霊体痛になっているはずだ
『もう~そんな事を言わないで~私知ってるんだから~横島君の為に霊力回復薬を買って持たせてあげたんでしょう~』
ぐう!?どうしてそこまで知っているの!?私が呻くと冥華おば様は嬉しそうな声で
『娘を助けてもらった~お礼をしたいので~今日のお昼からの報酬の話の時に横島君も同席させてね~』
これは絶対あれだ。自分の所に引き込もうとしている……だが断るわけにも行かない
「判りました。それでは何時ごろに伺えば宜しいでしょうか?」
考え方を変えよう。六道冥華の名前があれば大概のGSは手を引く。横島君の身の安全の為にと考えればいい。
『それじゃあ12時頃に来てくれるかしら~お昼をご馳走したいから~』
「判りました。では12時に伺わせて頂きます」
『待ってるわ~』
楽しそうに電話を切る冥子おば様……私は溜息を吐きながら椅子に腰掛
「これは少し不味いかもしれないわね」
本気で六道家が横島君の引き抜きに力を入れてきたら不味いわね……
「これは何とかしないと……」
横島君を引き抜かれると蛍ちゃんとおキヌちゃんも引き抜かれる可能性がある。これは気合を入れていかないと
「あの狸を相手にするのはきついわね」
人の良い顔をしているが、かなり厄介な相手と言うのは私も知っている。もしかするとどんな除霊よりも厳しいかもしれないと思いながら横島君の家に連絡し、後で迎えに行くと伝え、完成した報告書をGS協会と依頼者の下に郵送するために事務所を後にしたのだった……
受話器を電話の上に戻して、部屋の入り口を見る
「……」
じーっと私を見ている冥子。その顔は期待と不安の色を見せている
「入ってらっしゃい~」
取り合えず顔を見て話をしないといけないと思い。冥子を呼び寄せる、冥子はショウトラを抱き抱えて
「横島君は~来てくれるの~?」
「わふわふ!」
冥子の腕の中で鳴声を上げるショウトラ。凄く懐いているわね。どうして冥子より懐いているのかしら~
(もしかして~陰陽師が関係しているのかしら~?)
ショウトラ達は初代の六道家の当主と懇意だった陰陽師が作り出した式神と聞いている。もしかすると陰陽師の持っている独特な霊力があるから、もしかするとそれに懐いているのかもしれない
「お昼に来てくれるわよ~一緒にお昼を食べましょ~って誘ってるわ~」
私の言葉を聞いた冥子と腕の中のショウトラは
「本当~嬉しい~♪」
「わふ♪わふ~♪」
にっこりと笑う冥子の腕から出てきたショウトラは机の上で尻尾を振りまくっている。凄い懐いているわ~
「ショウトラちゃん~お着替えして~出迎える準備をするわよ~それじゃあお母様~また後で~」
「わふーん♪」
楽しそうに部屋を出て行く冥子とショウトラ。特にショウトラが飛び跳ねるようにして移動している。よっぽど横島君が気に入ってるのね~
「さてと~じゃあ~ご飯の用意よね~」
キッチンに通じている電話を手に取る。決まったら連絡するって言っておいたから直ぐに出てくれた
『はい。大奥様、なんの御用でしょうか?』
「お客様~が来るから~お肉と~お寿司と~もうとにかく色々用意しておいて~」
横島君が何を好きなのか判らないので、とりあえずもう色々用意してもらいましょう。お酒は控えたほうが良いわね。冥子はお酒を飲むと式神をコントロールできないから
「さ~頑張って横島君に好印象を~与えるのよ~」
いきなり引き抜くなんて話をしたら、間違いなく失敗するから、少しずつ段階を踏んでいく。まずは外堀から埋めるのが定石よね
「あの子は本当に六道家に欲しいわ~」
使い魔の視界で見た横島君。もう誰も使えないはずの高位の陰陽術。そして式神を外部からのコントロール……それに……
「妖使いの才能。どれもこれも欲しいわ~」
正しい名称は当の昔に失伝してしまっているので正しい名称はしらない。だけど妖と共に戦う退魔師と言うのは今でも伝わっている。とはいえ今の時代に妖怪と共に暮らすGSなんていない。だけど横島君はグレムリンの赤ちゃんと妖狐と一緒に暮らしている。だからもしかすると妖使いとしての適性があるのかもしれない。無論詳しい文献はないのであくまで推測段階なんだけどね……
「会えるのが楽しみね~」
今の時間は11時25分。あと30分ほどで令子ちゃん達が来るはずだから、全てはそれからね。私は時計を見ながら門の外を見て、令子ちゃん達が来るのを楽しみに待つのだった……
「横島君が来るの楽しみね~」
「わふう♪」
母親が悪巧みをしているなんて事を知らない冥子は服を着替え、髪を整え。そしてショウトラの毛にブラシをして
「ほら~ショウトラちゃん可愛い~♪」
「わふーん♪」
赤いリボンをショウトラの首に巻いて、ショウトラを可愛らしく見せようと色々と考えていたのだった……
リポート6 式神使い六道冥子登場! その5へ続く
ショウトラも可愛いですよね。私はアレルギーなので触ることが出来ないですが、犬は可愛いと思っています。見る分には……ですけどね。次回は横島をメインにしていこうと思います。勿論チビとかタマモも出てきますので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします