その1
プロローグ
鼻歌交じりで廊下を歩く5歳くらいの幼女。短く切り揃えられた髪と華の様な笑みが特徴の幼女は
「パパー♪」
「おーう。蛍おいでー」
決して整った容姿ではないが、優しさを感じさせる男性が幼女を抱き上げて笑う
「お仕事終わりゅ?」
「うん。今終わった所だよ。相変わらず隊長も西条の野郎も人使いが荒いんだよな」
あははと苦笑する男性。彼の名は「横島忠夫」世界で唯一「SSS」ランクのGSであり、文殊使いにして……
「あら?おかえりなさい」
「ただいま。美神さん」
神界・人界・魔界の3界随一の悪女と呼ばれた「美神令子」の夫であり、神魔族の和平「デタント」の立役者であり、かつておきた魔神「アシュタロス」との戦いを生き抜いた。まさに現代の英雄といえるのだが彼は
「もー蛍は可愛いなぁ」
「うきゃー♪」
超愛妻家であり、そして親馬鹿でもあった……
【魔神大戦】
ソロモンの魔神の1柱。「アシュタロス」が起こした戦争で、本来なら率先して戦わなければならない「神族」「魔族」は最初の攻撃で霊界とのチャンネルを破壊され戦うことが出来ず、人間と1部の妖魔だけでアシュタロスと立ち向かうことになったのだ。だがアシュタロスは純粋な悪ではなく、元は豊穣神だったのが堕天させられ魔族となり、そして死んだとしても蘇る「魂の牢獄」から抜け出すために争いを起こした。魔神であり、魔族でもあったがその考えは人間に近いものがあったのでは?と推測されている。美神と横島との活躍で最終兵鬼「究極の魔体」を破壊され、最高指導者に許しを与えられ消滅した
「今回はどこだったけ?」
「魔界。ワルキューレとジークに連れてかれた。人間に魔界の空気は辛いってのを全然理解してないんだよ」
蛍を寝かしつけてから晩酌をしながら今度の仕事の事を聞いてくる美神さん(令子と呼ぶように言われたのだが、美神さんはやっぱり美神さんと呼んだ方がどこかしっくり来る)色々あって結婚し、蛍が生まれてからは前みたいに守銭奴じゃなくなったし、優しい顔をするようになった。まるで別人のようだ」
「言っとくけど声に出てるわよ」
神通根を握り締める美神さん。そこからは当然ながら霊力が
「かんにん!かんにんしてええ!!!ぎゃああああ!!!!」
振り下ろされた神通根の一撃に俺は頭を押さえてのた打ち回るのだった。
(さ、流石は美神さん。現場を離れてもなお現役のGSの数倍の霊力だ)
【GSとは】
ゴーストスイーパーの略称であり。俗に言う「除霊師」「霊媒師」と呼ばれるもので、依頼を受け「妖怪」「幽霊」と戦う者達のことである。1つの除霊で何千万~何億と掛かる場合もあり、オカルトの知識のないものには「詐欺師」「ヤ○○な仕事」などとかつては散々な言われようだったが、「魔神大戦」の折にオカルトに対しての世間常識が一変しGSは今や華の職業として世間の注目を受けている。
「で、気持ちの整理はついたのかしら?」
美神さんの問い掛けに俺はフローリングに転がったまま
「なんとかっす。ルシオラと蛍は違う。子供って形になっちまったけど……また会えて嬉いっす」
【蛍魔ルシオラ】
魔神アシュタロスの作り出した悪魔であり、最初は敵だったが、横島との触れ合いでアシュタロスを裏切り人間側についた悪魔であり、自分を庇って死に瀕した横島を救う為に自分の霊基構造を大量に分け与え消滅した。彼女の妹である「べスパ」は充分な霊基構造が足りていたため長い時間を掛けて蘇る事が出来たのだが、ルシオラは蘇る事が出来ず、横島の子供として転生することになった
「そう……横島。ほら、いつまでも寝転がってないで座りなさい。今日くらいはゆっくり飲みましょう」
「はい……」
グラスに注がれたビールを見つめる横島と美神。確かに蛍……横島蛍は横島と美神の娘なのだが、それと同時にルシオラの転生者とも言える
横島忠夫にしては愛した魔族の生まれ変わり
美神令子にしては自分の恋敵の生まれ変わり
最初は互いにギクシャクもした。その可能性が高いといわれていたのにも関わらず、自分と相手の距離が判らなかった。だが5年と言う歳月で互いに漸く気持ちの整理が出来た。蛍は蛍であり、ルシオラではないと
「結構長い事かかったのね?」
「それは堪忍してや?ワイにとっては1番だいじやったんや」
酔っているから饒舌とまでは言わないが、すの大阪弁が出ている横島に美神は穏やかに微笑みながら
「そう、じゃあ私は2番なんだ?」
「あ、いやいやちゃうねん!えーとえーと」
言葉に詰まる横島に美神は穏やかに笑いながら、横島の肩に手を伸ばし
「冗談よ。冗談、いくらあんたでも娘には欲情しないだろうしね」
「当然や!!「ならいいわ。あんたは私の物になってるからね」
「うーじゃあ。こんな事をしても」
横島がそろーと美神の胸に手を伸ばすと美神は横島の顔を見て
「結婚って出来ちゃった婚じゃない?あんたルシオラの事忘れられなかったわけだし」
その言葉に硬直する横島。記憶の片隅に封印していたトラウマの扉が開きかけ、青い顔をしている
「これなーんだ」
美神が横島に向けたのはビー玉ほどの大きさの水晶。中には「淫」の文字。それは文珠と呼ばれる、万能の霊具だった。キーワードを込めることでその効果を発揮する。無論限界もあるが、人間では使えない力を発揮することも出来る。まさに万能と呼ばれるに相応しい霊具だ
「も、もしかしてそちゃれワイを……?」
横島が絶句して青い顔をしているのに対して、美神は嬉しそうに笑いながら
「あったりー♪私にも「妊」「娠」の文珠を使ったけどね♪」
【文珠】
霊力をビー玉ほどの大きさに圧縮した霊具。これに漢字1文字を込めることで様々な能力を発揮する。攻撃から撹乱まで何でもこなす、学問の神「菅原道真」のみが作る出せる霊具だったのだが、後に横島も使えるようになったもので、霊力が充分なら幾つも生成することができる。最も優れている所は横島以外も使用できるという点
「そしてえいッ♪」
「ほもご!?」
口の中に文珠を叩き込まれた横島の目がどんよりと曇る。それを見た美神はにっこりと笑い
「夜は長いわよ?横島君?」
そうつまり、神・悪魔・妖怪と人外にモテていた横島を美神が夫にするため打った手は「既成事実」と「文珠」の力を使ってのものだったのだ……だがそれだけではなく、少なからず横島が美神を思っていたことも大きな要因だろう……
わたし。よこしまほたるはやさしいパパとママがいてすごくしあわせ
「パパ?らいじょうぶ」
「ん?ああ。そうだな。俺は幸福だな」
どうしたんだろう?いつもにこにことわらっているパパがどこかとおくをみてるきがする
「つかれてるの?」
「ん、ああ。大丈夫だよ~蛍ー」
「うきゃー♪」
ぎゅーとだきしめてくれるパパのかおをみながら
「ママは?」
ほたるがそうたずねるとパパは
「うん。隊長の所かな?」
「おばあちゃん?」
「そうそう、でもおばあちゃんって言ったら駄目だからな?」
「はーい」
おばあちゃんをおばあちゃんとよぶとおこる。これはパパとママになんかいもいわれているのでちゃんとおぼえてる
「きょうはどこいくの?」
あそびにつれてってくれると言うパパとてをつなぎながらたずねると
「パピリオと小竜姫様の所に行こうと思うんだけどどう?」
「いくー♪サルのおじいちゃんは?」
パピあねとあねそれにサルのおじいちゃんはやまにすんでいる。パパがなにかするとあっというまにそこにつく。パパはすごい
「じゃあ行こうか?」
パパがぽけっとからなにかをとりだす。するとパパと私は山の前にいて
「よう、鬼門あけてくれねえか?」
『久しぶりだな、横島。通れ』
ゆっくりととびらがひらいていく。きもんさんのひだりとみぎさんにあたまをさげてなかにはいると
「ヨコシマー!!」
みどりいろのかみをして、きいろのワンピースを着たパピあねが勢い良く走ってきて
「げぶう!?」
パパをはねとばしました。くるくるとかいてんしながらそらをまうパパをみて
「パパー!?」
パピあねのとつげきされてはねとばされるパパ。シロねえとかがやってもおなじようにそらをまっている
「んー蛍ー♪おいでおいで」
パパのことをむししておいでおいでというパピあねにだっこしてもらっていると
「あー死ぬかと思った」
そういって立ちあがったパパはパピあねの頭を撫でながら
「久しぶり。皆は?」
「いるよー早く遊ぶでちゅ」
パピあねにだっこされているとなんかとてもなつかしいきぶんになるのは、なんでだろう?すこしだけそんなことをかんがえていたんだけど
「蛍ちゃん、いらっしゃい」
「小竜姫様。少しだけお世話になります、美神さんが隊長と一緒にお父さんの所に行くそうなので」
「どうぞ。妙神山はいつでも横島さんを歓迎しますよ」
パパとりゅうあねがはなしているのをみていると
「おじいちゃんのとこにいくでちゅ」
「はーい」
おくのほうにいるさるのおじいちゃんのところをめざして、わたしとパピあねはろうかをのんびりとあるきだしたのでした……
「蛍ちゃん。元気そうですね」
横島さんにお茶を出しながら言う。明るくて元気でいい子だ
「そうですね……俺はあんまり一緒にいてやれないですけどね」
横島さんは今や世界一のGSであり、神と悪魔の両方からも依頼を受けることもある。忙しく世界を飛び回っているのだろう
「でもほら、美神さんが待っていてくれるのはいいんじゃないですか?」
私がそう言うと横島さんは饅頭を齧りながら
「それは確かに嬉しいし、幸せなんすけどね?小竜姫様。覚えてます?俺が結婚するって言ったとき」
その言葉に少しだけ胸が痛んだが笑みを浮かべて
「ええ。美神さんが好きだから、ずっと一緒に居たいからですよね?」
今だから言うが、私は少なくとも横島さんに好意を持っていた。一目見たときから彼の才能に気付いた、だから心眼を与えた。そして最初はただのトラブルメイカーで、そしてただのスケベな少年は戦いを乗り越えるたびに、その力を増させ魔神殺しをやってのけた、現代の大英雄。私には彼が誇らしい弟子であり、そして肝心な時に何も出来なかった。彼が世界か想い人か?を選ばせてしまった。その不甲斐なさは10年立っても消えることはなく、そしてその10年は私から横島さんを想う気持ちを奪わせるには充分な時間だった。神族と人間、どれだけ想ったとしても叶うことはないのだから
「いやーあれ実は俺。美神さんに襲われましてね。文珠つきで」
「は?」
予想外の言葉に絶句していると横島さんは頬をかきながら
「正直言うと俺は誰とも結婚するつもりはなかったんですよ。ルシオラの魂を抱えたまま死んで、2人で転生したいって思ってました」
それは確かにそうだろう。自分の愛した者が娘として蘇る。それをはいそうですかと受け入れることなど出来ないだろうから、だけどそれよりも
「文珠で気持ちを操作されたのですか」
「そうなるんすっかねえ?淫って文字を入れた文珠を飲み込ませたって昨日言ってましたから」
なんだそれは……横島さんの気持ちを考えず既成事実で無理やり結婚させたというのか
「別に美神さんのことは嫌いじゃなかったけど、まさかそんな方法をされたなんて知らなかったっす」
当然だ。そんなことをされたのなら横島さんも素直に結婚するわけがないのだから
「それでどうしてその話を私に?」
そう尋ねると横島さんは私を見て、少しだけ泣きそうな顔で
「もし俺が死んだら、俺の中にあるルシオラの魂。今度は2人で同じ時代に転生できますか?」
その言葉に私は胸が苦しくなった。確かに横島さんは美神さんを愛しているだろう、だけどそれよりもより深い愛情を感じているのは間違いなくルシオラさんのほうだ。
「出来ます。出来るはずです、今度は間違いなく」
「……そうですか。安心しました……いやーすんません!どうしても気になって、これでやっとものを食べれるっすよ。こら美味いってね?」
ぱくぱくと饅頭を頬張る横島さん。でもそれは誰がどうみても無理をしているようにしか見えなかった……
「横島「ヨコシマー!おじいちゃんがよんでるでちゅよー!」
パピリオが来てそう言う。横島さんは緑茶を飲み干し
「そっか、直ぐ行く。じゃあ小竜姫様。話聞いてくれてありがとうございました!」
「あ……」
そうワラって、パピリオと一緒出て行ってしまった横島さん。思わず伸ばしかけた手を机の上に下ろすと
「ヒャクメ……いますか?」
「はいなのね~」
隣の部屋から来た、無数の目を模したアクセサリーをつけた神族。ヒャクメは言いにくそうに私を見て
「正直に言うのね。横島さんとルシオラさんが同じ時代に転生できる可能性は殆ど0なのね」
横島さんにはああは言ったが、一緒に転生できる可能性はかなり低いというのは私も判っていた
「……そうですか。ありがとう」
消えていくヒャクメを見ながら、私は拳を握り締めた。蛍ちゃんにルシオラさんの記憶はないが、その存在は間違いなくルシオラさんだ。同じ時代に転生できる可能性は殆どない……それに
「美神さん。貴女はなんてことを……」
そんな方法で横島さんを自分の物にして嬉しかったのだろうか?確かに横島さんと美神さんには前世からの縁があった。だけど
「そんな方法を……」
美神さんへの怒り、そしてあの時素直に祝福してしまった私。だけどあの時の美神さんの顔を思い出すとにやりとした顔をしていたとおもう。だけどもう全てが手遅れで
「……もしも過去に戻れるなら……」
叶わない願いと知っていたのに私はそうかんがえずにはいられなかったのだった……時間跳躍は最高指導者に禁じられている。それに私に時間跳躍の能力はない……だからあの時間違っていたのは
(あの時身を引いた私自身……)
もしあの時一歩前に踏み出せたのなら……私はそう思いながら羊羹を頬張るのだった……
プロローグ その2へ続く
えー今回の話は私の独自解釈を多く交えていますが、もしも美神と横島が結ばれるとしたら、ルシオラの存在がある横島がはいそうですか。と言うとは思えなかったので、むしろ結婚しないんじゃないか?とかを思ってしまったわけですね。別に私は美神アンチではないのでそこだけはご了承ください