レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その6
まだ日が昇りきらない前、横島の家に忍び込む女性の影
【ふふふふ。チャンスです】
きらーんと目を光らせるその少女は言うまでも無く、おキヌだ。美神に横島の家の場所を教わってからは結構の頻度でこの家を訪れている。しかし横島が寝ている間に訪れるのはこれが初めてだ
(あの時の家よりも大きいですよね)
私の記憶では横島さんはとても小さいアパートで暮らしていたけど、その家よりも大きい。私の身体は浮いているので足音を立てず横島さんの部屋に向かう。
【失礼しまーす】
壁を抜けて横島さんの部屋の中に入る。多分おおイビキをかいて寝ていると思ってたんですけど予想に反して、静かな寝息を立てていた
「クウ……クウ……」
横島さんの近くではタマモちゃんが篭に入って丸くなって寝ている。私に気付く気配はない……まさか私がくるなんて思ってないから警戒していないのだろう
【横島さん】
ずっと会いたいと思っていた、それが今目の前にいてこんなに無防備な姿をさらしている。
【横島さん……】
自分の欲望が命ずるまま、横島さんの口元に自分の口を近づけた瞬間
「何をしてるかッ!!!」
【蛍ちゃん!?】
横島さんの部屋の扉を蹴り破りそのままの勢いで回し蹴りを叩き込んでくる。霊力が込められているのでダメージを受けてしまうので腕をクロスしてその一撃を耐えて
【どうして入って来れたんですか!?】
確かに鍵がかかっていたはずなのに、どうして横島さんの家の中に入って来れたのかが判らずそう尋ねる。すると蛍ちゃんは勝ち誇った笑みで財布の中から鍵を取り出す。まさかそれは!?
「私は既に横島のお母さんに挨拶を済ませ。そして自分の想いを伝えている。これがその結果……合鍵よッ!」
【そ、そんな……】
それはもはや宝具と呼んでも問題のない最高の一品。私がどれだけ欲してもそう簡単には入手出来ない上に、あの人。百合子さんに認められたという蛍ちゃんの言葉に、私はがっくりと膝を落とし俯いて
【しくしくしく……私のアドバンテージが消えていきます……】
蛍ちゃんは絶対朝に横島さんの家にこれないって思ってたのに……ふふんと勝ち誇っている蛍ちゃんを見て更にショックを受け
【料理なら負けないんですから!!!】
料理なら負けない!そしてこれだけは譲れないと言う思いで私は半分くらい泣きながらキッチンへと向かうのだった
泣きながら出て行くおキヌさんの背中を見ながら
(やっぱり来たわね)
朝早くにくるかもしれない思って見に来て正解だった。眠っている横島を起こさないように枕元に立ち
(私も結構迷うからね……)
いびきのうるさい日とそうじゃない日。その違いがかなり激しいのだが、今日の横島は静かに寝ている日で穏やかな寝息をたてている。その子供のような顔を見ていると、少し、そう少しだけ!本当に少しだけ!!!いたずらしたいと思うけど!!!なお蛍は少しだけと言っているが、この時の顔を見られれば千年の恋も冷めかねないほどの顔をしていたりする
「横島。そろそろ朝の訓練の時間よ?起きて」
朝は空気が澄んでいるので霊力をあげる訓練をするには最も適した時間帯の1つだ。あとは深夜だが深夜の場合悪霊も動き回る時間帯なので、朝の方が安全だ
「んーんあー」
もそもそと布団の中にもぐりこもうとする横島。私は横島の体をゆすりながら
「ほら、起きて」
「んー?ほにゃるー?」
寝ぼけ眼かつ舌が回っていない横島の声にドキンとする。急に見せるこの素振りに私はかなり弱い、何故なら
(こんな可愛い横島は滅多に見れないわ!?)
横島はスケベで馬鹿をする。それが私の大好きな横島だけど、こういう可愛い素振りも見せてくれる。このギャップに私はかなり弱い
「ええ。私よ、ほら朝の訓練に行くわよ?」
「んあーい。着替えるわぁ」
ふあああと欠伸をしながら起き上がる横島。枕元に畳んであった着替えを手にするのを確認してから
「外で待ってるからね?今日は破魔札だけでいいから」
訓練に使う道具を言ってからキッチンに向かうと、いい味噌汁の匂いがする
「おキヌさん。朝の訓練に行って来るから7時には戻るわね?」
今の時間は5時45分。人が起きてくる時間になると朝の神聖な霊気はどこかに行ってしまうのでそれまでが勝負だ
【7時ですね。判りました。じゃあ卵焼きとかを用意するのは止めておきますね】
そう笑うおキヌさん。彼女がどこまで料理を出来るのかが?それを確かめ、今の戦力差を知るのにいい機会だと判断し
「ええ。お願いするわ」
大分勉強したから負けてないと思うんだけど……おキヌさんはかなり料理が上手だったから、そこが不安だ
「うーし!行けるぞ!」
「コン!」
肩にタマモを乗せた横島が降りてくる。その姿はいつものGジャン・Gパン姿にバンダナだ
「じゃあ行きましょう」
「行って来るな。おキヌちゃん」
【はい。行ってらっしゃい】
おキヌさんに見送られ、朝の神聖な霊気に満ちた空気に触れる
「はー今日もいい天気だなあ」
ぐぐーっと伸びをする横島。私はその隣で同じように伸びをしながら
「気持ち良いのは判るけど、霊力の流れを意識してね」
神聖な空気と言うのはそれだけで霊力を持っている。唐巣神父なんかはこういう神聖な霊力を身体に溜める事が出来るように聖句や、信仰を利用している。横島にはそんなことは出来ないけど、霊力の強い空気が満ちている時間なら、それを利用して霊力の流れを覚えさせることが出来る
「えーと、呼吸法を変えるんだよな。コオオオオオッ!!!」
大真面目な顔でどこぞの考古学者か、座ったまま飛び上がることの出来る紳士のような呼吸をする横島に
「それ違うからね?」
そんな事をしなくても朝の空気に触れていれば、僅かながらに霊力の活性化に繋がる。無論意識して呼吸すればその吸収量は増す
「あっははは……渾身のボケのつもりやったんやけど?」
そう苦笑いする横島。大阪人だから何かボケをしなくては!?と思ったんだろうけど
「訓練は訓練真面目にね?はい。ランニング始め」
乗って来た自転車に跨り、走る横島に並ぶ。タマモを乗せていると走りにくいので
「コン!」
私の自転車の篭にすっぽり収まり。頑張れという感じで横島を応援しているタマモ
「はっはっは!!!」
短く吸い込んで長く吐く。長距離を走るときの基本だが、これは霊力にも応用できる。一気に大量の霊力を吸収すると身体に変調をきたす。だからゆっくりと時間を掛けて身体に馴染ませるのだ
「今日は川の方へ行くわよ。霊力を取り込むイメージを忘れないでね」
本来は神社のほうに走るのだが、今日は何かのイベントがあるらしく、慌しい雰囲気をしていた。恐らくどこかの地鎮祭の準備で忙しいのだろう。そんな場所に行くのも悪いので川原に向かう
(川の近くはあんまり良くないんだけど仕方ないわね)
川や海。そして湖には幽霊が集まりやすい。だから今の横島を連れて行くのは正直不安なのだが
「コン!」
「任せるわよ。タマモ」
7本目の尾を取り戻したタマモがいれば、その霊力を恐れて並みの浮遊霊や雑霊は寄って来れないからと言うと
「もしかして俺よりタマモの方が強い?」
横島の言葉になんと答えればいいのか少し悩んだが、ここで言葉を濁すのもなんなので
「うん。タマモ結構強いかな?」
「オーマイガッ!!!!」
頭を抱えて嘆く横島。だけどタマモは九尾の狐だから、並みの妖怪どころか神にも等しい存在なわけで比べるほうが悪いというレベルだ
「ほら、行くわよ」
ショックを受けている横島にそう声をかけ私と横島は川に向かい
「ゆっくり息を吸って、霊力を取り込むイメージ。一気に取り込んだら駄目よ?」
あまり取り込みすぎると横島の潜在霊力と反応してしまう可能性がある。今の横島に潜在霊力に耐える事は出来ないので結構気を使っている。霊視をして、横島の中に入っていく霊力の流れをしっかりと見極める
「はっはっは……ふー」
「コーン。ココーン」
横島と並んで霊力を取り込んでいるタマモを見つめる。取り込んでいる霊力の量も多いし、溜め込んでいる霊力も多い。少しでも早く九尾に戻ろうとしているのが良く判る
(ん?これは……?)
微弱な霊力を感じる。凄く弱いからタマモの霊力を恐れて現れてないんだろうけど……
(そろそろ切り上げようかしら?)
タマモは全然平気そうだが、横島には少し疲労が現れている。そろそろ終わるべきだろう
「はい。今日の訓練は終わり!戻りましょう」
手を叩きながら言うと横島はその場に座り込む。まだ霊力が覚醒していない横島には結構きつい訓練だ
「終わりじゃないからね?霊力を放出しながらランニングよ」
今の横島には霊力を使う術がないから、まずは溜めた霊力を使わせる。使えない霊力を溜め込んでいても疲れるだけだしね
「判った。タマモを頼むな」
「コン♪」
横島に抱っこされてご機嫌と言う感じのタマモを自転車の篭に入れて、私達は来た道を引き返して行ったのだった
横島達が居なくなってから数分後。川の水が盛り上がり球体となり、飛び去って行いくのだった……
訓練を終えて戻ってきた所でおキヌちゃんが用意してくれた朝食を食べるのだが
「ウマイ!こらウマイ!!!」
卵焼きは俺の好きな中にネギが刻んである奴だし、味噌汁は大好きな白味噌の味噌汁。これだけで食が進む
「横島は白味噌が好きなの?」
「う……うーん。馴染んだ味だからな?だけど蛍の赤味噌も好きだぜ?」
蛍が用意してくれる事の多い赤味噌の豚汁。あれも好きなのだが、豆腐とネギだけと言うシンプルなこの白味噌の味噌汁。これは俺の大好きな味だ
【喜んでもらえて嬉しいです。お代わりもありますからね♪】
ふよふよと浮きながら言うおキヌちゃんに早速空になった茶碗を差し出し
「お代わり」
【はい、今用意しますね】
おキヌちゃんがご飯をよそりなおしてくれている間。膝の上のタマモに
「はい。あーん」
「コーン」
甘辛く炊いた揚げを長細く切ったのをタマモの口に運ぶ。俺の指をかむのは愛嬌なのであんまり気にしない
「横島今日は学校よね?時間に気をつけてね?」
蛍の言葉にうっと呻く。本当はいやだけど……行かないといけない。何故なら蛍がお袋に俺の学校の成績と生活態度を送っているのでサボるわけには行かないのだ
「判ってる。飯食ったら準備する」
「ええ、頑張ってね」
蛍の笑顔に判ってると返事を返し、おキヌちゃんが持って来てくれたお代わりを受け取り。味噌汁と卵焼きで食事を済ませ
「んじゃ行ってきまーす」
行ってらっしゃいと笑う蛍とおキヌちゃんに手を振り返し、学校に入り。つまらないSHRを終え授業のための教科書を取り出そうと鞄を開けると
「ふおおおおお!?」
思わず奇声が出た。それを気付いた教師が俺の前に来て
「何か持って来ているな?出せ」
「いやいや!無理!無理ですって」
鞄を抱えて駄目だと首を振る。だが教師はその程度で諦めなかったのか、俺の鞄を引ったくり
「またエロ本でも持って来てるんだろう!「コン♪」ふぁあああああ!?」
鞄からひょっこと顔を出したタマモに絶叫していた。俺は頭を抱えながら
「タマモ!学校についてきたら駄目だろう!」
「クーン」
寂しそうに鳴くタマモ。くっ、小動物の愛らしさか!これはなんて強敵だ
「横島?その狐は?」
「ペットの狐のタマモッス。鞄に隠れて付いて来たみたいで」
いつもの定位置の頭の上に上って首を傾げているタマモ。俺は駄目元で
「大人しくさせるんで一緒でも良いっすか?」
「クーン?」
俺の頭の上のタマモを見た教師はそんなつぶらな目で俺を見るなと言いつつ
「大人しくさせているならな。特別に許可する」
「おー良かったな。タマモ」
「コーン!」
この日俺はずっとタマモを頭の上や肩の上、そして膝の上に乗せて授業を受けていたのだが、タマモを触りたいという女生徒が大勢居てかなり困る事になる。追記で言えば、たまにタマモが鞄に隠れてついてくることが多くなり、その内には
「タマモちゃんおはよー♪」
「コン♪」
俺の教室の半ば公認マスコットになっていたりする。だが返事は返すが、甘えてくるのは俺だけで可愛い物好きの女子に睨まれたり
「横島は人間にはモテないのにな」
「狐にはモテモテだな」
とからかう馬鹿が現れたりしてそこそこ大変なのだが、肩の上でコン?と鳴きながら甘えてくるタマモを見るとそんなに気にならない。小動物の居る生活と言うのは思っていたよりも充実しているのだった。だけどいつかあの雪の夜に見た、美少女になるという事を考えると
「ちょっと複雑だよなあ」
「クウ?」
ぺろぺろと俺の頬を舐めるタマモに少しだけ複雑な気分になってしまうのだった……
リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その1へ続く
横島がハーレムになりつつある。まぁ1人は狐ですけどね……次回は原作レポート「極楽宇宙大作戦」の内容を書きたいと思います。これはかなり原作風味で進めて意向と思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします