レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その5
私は今日横島の家に来ていた。アルバイトとして事務所には行かないが、これもちゃんとアルバイトの一種だ
「うう……こんなのもやらなあかんのか……」
横島が眉を顰めてうめいている。その目の前にはレポート用紙。これは除霊レポート、GS協会と依頼者に提出する除霊の結果を伝えるための物だ。無論本来のレポートは既に美神さんが完了させて提出しているが、今回は勉強としてやるようと美神さんに渡されたのだ。
「あーこういうのは苦手なんだけどなあ」
ぶつぶつとぼやきながら、美神さんから渡された簡易のレポートを見つめる横島。軽く纏めてあるレポートと、除霊した日の事を思い出し記載していくのだが……
「よー思い出せん」
横島が冷や汗を流しているのはこれだ、記憶力は悪くないのだが、どうも必死すぎて覚えてないのだろう
「だから私も一緒なんでしょ?ゆっくりやって行きましょう」
時間はあるし、おキヌさんの邪魔もない。今おキヌさんは美神さんの保護下の幽霊と言うことで書類申請しているんだけど、中々手間取っているらしく、今の所はここにはこれない。ただし事務所だと
【横島さん♪おはようございます】
【横島さん。お昼作ったんですけど、一緒にどうですか?】
家に来れない分横島にべったりだけど、家に来れるというアドバンテージは私にあるのでそこまで気にしない。本当は霊的防御もあげて、侵入も防ごうと思ったんだけど
「くう……」
「あかーん!!すぐ止めてくれ!タマモがぐったりしてる!!!」
タマモにも予想外のダメージがあるのでなくなく断念した。だがおキヌさんの侵入とストーカーを防ぐ方法は何とかして防ぐ方法を考えないと不味いだろう
「えーと確かオフィスビルの悪霊は株に失敗した悪霊だったっけ?」
横島の言葉で思考の海から引き上げられる。今はおキヌの対処法じゃなくて、このレポートを横島に仕上げさせる事を考えないと
「ええ、ついでに言うと株に失敗して全財産をすって飛び降り自殺して3時間後に死んだ幽霊ね」
「そこまで詳しく書かないと駄目なのか?」
顔が引き攣っている横島に頷きながら、私が纏めたレポートを見せる
「うげ!?びっしり……」
しっかりと細部まで書いてあるレポートに顔を引き攣らせる横島。まぁそれなりに大変だけど、ここをしっかりしないといけないのよね。莫大な収入を得れる分、こういうのも凄く細かい
「だから頑張ってね♪お昼ご飯は私が作ってあげるから」
私がそう笑うと横島は資料の書類を見ながら
「判らん所は教えてくれるか?」
「勿論♪だから頑張ってね」
私は横島の隣に腰掛け。横島が真剣な顔をしてレポートに書いているのを見て
(集中力と頭の回転は悪くないのよね)
ここは流石百合子さんの息子と言わざるを得ない。横島は馬鹿はやるが、馬鹿ではないのだ。頭の回転も速いし、吸収力も高い。こつさえ掴めば直ぐにやり方を覚えるだろう。
(あの除霊は結構すんなりいけたけどね……)
人骨温泉から戻った次の日の依頼で、完全に自我が崩壊している悪霊の除霊と結構難しい除霊だったのだが……
「コーンッ!!!」
【ケケケー!?】
霊力の回復し始めたタマモは狐火をある程度放てるようになっていたし、横島自身も
「どっひいいい!死ぬ!死んでまううう!!!」
悪霊に追い掛け回されて涙目だったけど、時折5円の破魔札を強化して投擲して悪霊の妨害をしていたし
「タマモのことは書いても大丈夫なんか?」
隣に置いた篭の中で寝ているタマモを見ながら尋ねてくる横島。多分タマモのことを心配しているんだろうけど
「大丈夫よ。これは美神さんが見る個人的なものだからね」
正規のレポートは既に提出してある。すこし誤魔化しているが、タマモのことだけなので問題ない
「そうか、じゃあタマモのことも書いていいんだな」
「ええ、大丈夫よ」
横島は安心したようでレポートを書き始める、時折ぶつぶつと
「えーと、蛍のソーサーで悪霊を吹っ飛ばして……俺はおキヌちゃんに抱きつかれて……タマモに頭をかまれて」
ぶつぶつと呟いている横島。その呟きで私も段々その時の除霊の事を思い出してくる
【怖いですー♪】
態とらしい声で横島の顔を自分の胸元に抱え込むようにするおキヌさん
「ぶぼお!?」
そして胸の感触と甘い匂いで鼻血を噴出し昏倒する横島に
【ケケケケーッ!!!】
自我の崩壊した悪霊が襲い掛かり
「横島に手を出すなッ!!!」
「このおッ!!!」
私のサイキックソーサーと美神さんの神通棍でその悪霊を吹っ飛ばして
【横島さーん♪】
「げほ!?ぶほお!!!」
「コーンッ!!!」
「ほっぎゃあああああああ!?」
おキヌさんに更に胸を押し付けられて窒息寸前になっている横島の頭をかみつくタマモ
「ちょっとは真面目にやりなさいッ!!!」
そしてそんなやり取りを見て怒鳴る美神さん。今思い返してなんだけど
(良く無事だったわね……)
普通の除霊現場とは思えない状況だったのにも生き残れた。誰か大怪我してもおかしくない状況だったんだけどね
「……最後は蛍のソーサーと美神さんの破魔札で除霊完了っとこんな所か?」
横島に差し出されたレポートを見る。誤字・脱字はないし、字もそこそこ綺麗だけど……
「はしょってる部分があるわね。悪霊と遭遇した所と除霊開始のくだり。ここも書き足して、あとここも、止めを刺したのは美神さんよ、横島が書いたのは弱らせた所ね」
「書き直しか!?」
青い顔をして居る横島。本当ならこのレポートは除霊の次の日に書くものだが、あえて日数を開けて書かせているのは横島の記憶力と、印象を薄れさせてどこまで正確に書けるのか?の判断のためだろう
「書き直しとまでは行かないわ。忘れてる部分を書き直して、レポートを分割して繋ぎ合せましょう」
こういう手法もあるあんまりお勧めできる方法じゃないけど、書き直させるのも可哀想なのでここは裏技を使わせてもらおう
「じゃあこれはこれでおいといて、書き直せばいいんやな?」
「その通り。私はお昼の用意をするから、頑張ってね♪」
おうっと返事を返す横島を見ながらキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける
「牛肉の細切れ……それと人参・タマネギ……よしっ決まり♪」
ここは肉じゃがで攻めて見よう。煮物系とりわけ肉じゃがは男性の好きな煮物だ。リビングで一生懸命リポートに取り組んでいる横島を見ながら
(ふふふふ、料理と言うアドバンテージでも負けてないんだからね!)
今頃GS協会で書類に奮闘しているであろうおキヌさんの顔を思い浮かべ呟く。何冊も料理の本を読んで勉強している今の私なら、おキヌさんの料理のも負けない自信がある。私は戸棚から圧力鍋を取り出し、肉じゃがの準備を始めた。横島は大阪人だから出汁を重視して……この肉じゃがで横島の好みの煮物の味を覚えようと思いながら、ゆっくりと肉じゃがの準備を始めるのだった……
郵送されてきた横島君の書いた除霊レポートを見ながら、冷蔵庫から取り出したビールのプルタブを開ける
(蛍ちゃんのことだから自分のレポートを写させるかも?と思ったけど違うみたいね)
横島君と蛍ちゃんのレポートは着眼点が違う。どうやらちゃんと横島君に書かせたみたいだ
【美神さん。ビールの摘みはチーズでいいですかー】
キッチンから私を呼ぶおキヌちゃん。ちょっとまだ表情が固いし、私に対する敵意みたいものも見せてるけど
(悪い子じゃないのよね。もしかするとおキヌちゃんが生きていた時代に私に似た女性がいたのかも?)
それが原因で敵対されているのかもしれないと思いながら
「無事に私の保護幽霊になったわけだし、今度横島君の家の場所を教えてあげようか?」
【ほ、本当ですか!?】
キッチンから顔を出すおキヌちゃん。その顔は喜色満面だ。物凄く嬉しそうで鼻歌を歌いそうな勢いだ
【おつまみを増やしますね♪】
「ありがと。良かったらビールもう1本♪」
いいですよーと返事を返すおキヌちゃん。とりあえず保護しているという事なので私の家に連れてきたけど、掃除はしてくれるし、ご飯は作ってくれる。結構いいこだと思う
(裏表の変わりはかなり激しいけどね)
まぁそれも個性ってことで良いわよね。GSなんて商売をしていると、これも普通かって思えてるくるから不思議よね。ビールを煽りながら
(良い人材が入ったわね)
物に触れるし、家事全般が出来る幽霊。私自体はそこまで料理が得意ではないのでありがたい。まぁ横島君を相当思ってるみたいで暴走しがちだけど……まぁそこの所はいいわね。私には関係ないし
【はーい♪ビールのお代わりとおつまみの生ハムです♪】
机の上に摘みを並べてくれるおキヌちゃんに
「ねえ?おキヌちゃんも私の事務所で働いてみる?日給500円でどう?」
【500円もくれるんですか!?嬉しいです】
両手を組んで笑うおキヌちゃん。そんなに高い金額じゃないけど、幽霊だからそこまで物がいるわけじゃないからこれくらいで丁度いいのかもしれない
「それとこれね。横島君の家の地図」
軽く書いてあるだけだけど……ここまで書いてあればおキヌちゃんなら見つけるわよね?と思って渡すと
【う、嬉しいです♪】
大切な宝物のように胸の中に入れるおキヌちゃん。そんなに横島君が好きなのね……多分蛍ちゃんと追突すると思うけど、そこは横島君が何とかしてくれるとおもうから良いか
【美神さん。お夕食は何が良いですか?】
嬉しそうに笑いながら尋ねてくるおキヌちゃん。2本目のビールのプルタブを開けながら
「そうねえ。肉じゃがとか作れる?久しぶりに食べたくなっちゃって」
言った後に300年前に肉じゃがなんてあるわけないと思いやっぱりなしと言おうとしたら
【肉じゃがですね♪判りました。ちょっと材料が足りないんで買い物に行ってきますね】
「あ、じゃあこれ」
足りないといけないと思い1000円を渡す。直ぐ戻りますね?と言って出て行くおキヌちゃん。私はその背中を見て
「なんでおキヌちゃん。肉じゃが知ってるんだろう?」
私に家には除霊関係の書籍はあるが、料理関連の本はない。なんで知ってるんだろう?と首を傾げながら、GS協会から送られてきた、最近の霊障を纏めたレポートを見て
「水神の祠の破壊……馬鹿ばっかりねえ。良く見て仕事しなさいよ」
東京の近くのかつて水神を祭っていた廃神社を誤って破壊してしまい。膨大な霊力がそこから飛び出していった……その近くで除霊していた若手GSと指導役のGSはチャクラに酷いダメージを負って再起不能……その後竜神と思わしき、霊力の反応はない
「私に依頼が来なければいいけど」
水神といえば龍神。いくら私でも神であり、龍神と戦うような度胸はない。命がいくらあっても足りないからだ
「あとは特にないかな?」
ほかに気にするような記事はない。普通ならここでこの記事を捨ててしまうのだが……
「なんか気になるのよね」
霊感が囁いている。この記事は保管しておくべきだと、一流のGSとなれば自信の霊感で何回もの危機を乗り越えている。私もその1人だから、私はこの記事を処分せずに机の引き出しへとしまい。冷蔵庫から3本目のビールを取り出し中身を呷るのだった……
「ふむ。これはもしかするともしかするかもしれないね」
私のほうに回ってきたGSのレポートを見た。それは破壊された龍神の祠と言う記事だった。
(過激派の動きかもしれないね)
わざと周囲に雑霊を放つ。そしてGSに除霊させるのだが、その時期に自分達も行動してそのGSを罠に嵌める
(充分に考えられる。しかもこの2人のGSはこの神社の近くで暮らしていたらしいし)
そんな人間が祭っている神の祠を破壊するとは思えない。そろそろ過激派が動き出すかもしれない思っていた時期だ
(警戒を強めておくか)
恐らく今回の過激派の作戦としては水神を暴れさせ、人間を殺させたうえでデタントを持ち出してその水神を殺すことだろう。
(私が動かないといけないかもしれないね)
人間界の神の数は神界と比べて少ないが、信仰を自らの力にしているので強大な力を持つ。出来る事なら味方に引き込みたいな……表立って動く事のできない私に変わって動いてくれる人材。それが今欲しい、メドーサはもしかすると動いてくれるかもしれないが、まだ時期が早いし……中々難しい問題だねと溜息を吐き、蛍から聞いていた横島君の事を思い出す。人骨温泉で「おキヌ」と言う少女の幽霊を連れて帰ったらしいのだが、オッズ表におキヌ 2.4倍の文字が現れたことを考えれば蛍の敵になる。ここまで人間を引き寄せるのは一種の才能かもしれない。そしてそれはそのまま妖怪にも適用される
(彼なら祠を壊されて怒り狂っている龍神を鎮めることが出来るかもしれないね)
とは言え横島君に命を危険に晒す事になる。おいそれと実行できるわけじゃないね……それに
(龍神は情が深いしねえ)
男の龍神ならその恩義に報いようとするし、女の龍神なら恋に落ちるかもしれない。そうなれば蛍の敵を増やすことになる。そう考えればそう簡単に決めて行動できることではない。冷め始めている紅茶を口に含み
「とりあえず1度その場所を見ておくか」
なんの龍神が祭られていたのか?そして魔力なり、神気の残滓があればどっちの策略か判るし……
「行くとするか、どっちの過激派が動いたか調べないと」
幸い完全に擬人化出来る私は力さえ使わなければ、神族にも魔族にもバレない。今のうちに調べに行こうと立ち上がると
「アシュ様?どちらへ?」
部屋の外から聞こえてくるのはメドーサの声。油断していた、普段なら気付くのに……
「すこし調べ物にね」
「……調べ物ですか」
疑わしいという目をしているメドーサ。彼女は私の忠実な部下だが、勘がいい上に頭が回る
「過激派とは?」
やっぱり一番聞かれてはいけないことを聞かれたかと眉を顰める。だが部屋の中に入ってこないのは逃げることも考えているからだろう
「そのままだよ、過激派は過激派さ」
「どういうことか説明はしていただけないのですか?」
説明してもいいがまだ時期が悪すぎる。私は部屋の扉を開ける、そこには片膝をついているメドーサがいて
「いずれ説明する。それまでは私の与えた指示に従ってくれ。もし時が来て、私の考えに賛同してくれるなら全てを説明する。だからその時が来るまでは私の今の言葉を忘れよ、判ればこの場は去れ」
びくんっとメドーサが身体を竦める。上級魔神や神族の言葉には特別な力がある。言霊と言ってそれだけで気の弱い人間や下位の神魔なら操ることが出来る。メドーサも私の言霊には逆らえなかったようで
「失礼いたします」
何の抑揚もない言葉でそうつげ、溶ける様に消えて行った。出来れば部下にこんな事をしたくはなかったが、仕方なかった
「それじゃあ行くとするか」
私は壁にかけてあった外套と帽子を被り。このビルを管理している土偶羅魔具羅に
「少しでてくる。蛍には過激派が動いた可能性があると伝えておいてくれ」
「判りました。お気をつけて」
土偶羅魔具羅の見送りの言葉に頷き、私は闇夜に紛れて空を舞った。この時私が考えていたのは暴れるかもしれない水神が龍族の中でも下位であることを祈っていたのだが、残念な事に私が向かう神社で祭られていたのはミズチ。しかもただのミズチではない、強い龍気と神通力を持ち、かの有名な邪龍「やまたの大蛇」の血縁たる、もっとも天界の龍族に近く、それでいて魔界の龍に近いという極めて強力な水龍なのだった……
レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その6へ続く
ミズチは後半出てくるオリキャラの伏線です。次回は「蛍・おキヌ・タマモ」が絡む横島の日常を書いてみようと思います
それと原作を知ってる人なら判るとおもうんですが、赤ちゃんグレムリン可愛いですよね?出来たらレギュラーにしたいななんて考えています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします