あと最後の一言
「黒いおキヌちゃんはお好きですか?私は大好きです」
幕話 その2
今日は除霊の仕事もないので、ここ1ヵ月の除霊完了の報告書を纏めていたのだが
「うーん。思った以上に凄い人材よね。横島君も蛍ちゃんも」
横島君は霊能力が殆どないが、破魔札を使わせればある程度の除霊は出来るし、なによりタマモが凄い。悪霊の捜索に高い霊感……1人と1匹で1人前ではなく、2人前の仕事はしてくれている。まぁ……
(あのセクハラさえなければねー)
女性を見るとナンパする・飛び掛る。前の依頼のクライアントが20代の女性で横島君が飛び掛ってしまった。私と蛍ちゃんで止めたけど、随分と気分を損ねてしまっていた……
(もうちょいそこだけを何とかしてくれればいいのに……)
重い荷物を持たせても文句は言うがちゃんと運ぶし、それに普段な馬鹿な行動を見ているからそんなに凄いとは思えないが、いざと言う時の集中力と頭の回転力は中々高い
(蛍ちゃんがぞっこんなのも判る気がするわね)
二枚目ではないが、中々愛嬌のある顔をしているし、さりげない優しさもあると……蛍ちゃんみたいな良い子が気に掛けるのも充分理解できる。それに人の邪気に敏感な妖狐が一緒と言うのも、実は邪気があんまりないからかもしれない
「まぁなんにせよ。優秀な人材を確保できたってことでいいわね」
GSに関係のある人間なら誰でも知っている「六道財閥」やあのいけすかない「小笠原エミ」の所ではなく、自分のところに来てくれたと言うのは本当に運が良かった……
「蛍ちゃんはもう今年のGS試験に出してもいいかもしれないわね」
独学で学んでいたという割には知識も技術もしっかりしている。その体捌きや除霊の仕方は確かに独学なのか変な癖があるが、それは癖と言うよりも個性のレベルだ。霊力を収束して作るサイキックソーサーと除霊具の扱い、それは実に適確で、そして正確だ……
このままGS試験に出ても合格できるレベルだと私は確信しているが
(彼女何か隠してそうなのよねー)
横島君を見る目は純粋な好意に満ちているが、私を見る目はどこか敵を見るような目をしている。それに1年やそこらであのレベルの除霊技術を身につけることが出来るなら、GSはもっと多くの人員がいるだろう……
「まぁ別にいいか」
私の霊感が蛍ちゃんは悪い子ではないと告げている。だからそこまで警戒する事はないだろう……それに蛍ちゃんと横島君のおかげで少しずつ依頼者も増えてきているし……2人に除霊の経験を積ませる為に普段の私がやらないような依頼も受けていたのだが……
これが予想以上の効果を出してくれた
「横島君の明るい人柄とタマモの愛らしさに蛍ちゃんの丁寧さ。これがまさかここまで受けるなんてねえ……」
最初は怪訝そうな顔をしていた依頼者が多かった。私ではなく、見習いの二人がやるとのことで不信感を抱かしてしまったのだが。いざ除霊をさせれば蛍ちゃんとそれをフォローしようとする横島君。私でも驚くほどのコンビネーションを見せてくれた、そしてその人柄で依頼者の信頼を得て、そしてそれが口コミで広がり、大手の依頼者も依頼を持って来てくれるようになった……その結果
この1ヵ月の私の収入は以前と比べて1.5倍近く増えていた……
「ちょっとは労ってあげないとね」
アルバイトだけど結構酷使させているのは理解している。確かにアルバイトである横島君と蛍ちゃんにそこまでお金を出す気はないが、辞められて他の事務所に行かれても困る……だがいきなり慰安旅行と言うのもおかしな話だ。だから
「この依頼にしましょう」
人骨温泉ホテルからの依頼だ。報酬は100万だが、最大2泊と三食食事つき。雪山の近くなので少し寒いかもしれないが、雪を見ながら露天風呂と言うのも悪くない筈だ……
「もしもし?美神除霊事務所です。ご依頼のほうお受けしますわ、私と助手2名とペットの狐でお伺いしますのでよろしくお願いします」
2つ返事で了承を得れた私はそのまま横島君の家へと電話したのだが
「はい、もしもし横島ですが」
「……なにしてるの?蛍ちゃん」
電話の声は横島君ではなくて、蛍ちゃんで。さも当然のように横島ですと名乗ったので思わずそう尋ねると
「横島にGSの教本を見せてたんですけど……オーバーヒートしちゃって」
その言葉に小さくご愁傷様と呟く。蛍ちゃんは基本的には横島君の味方だが、厳しい面もある。電話口から聞こえてくる
【もう眠いよ……タマモ、ゴールしても良いよね?】
【コーンッ!!コーンッ!!!!!】
戯けた事を言っている横島君と必死そうなタマモ。もしかすると本当に不味い状況なのかもしれない。まぁそれは蛍ちゃんに任せておけばいいので
「明日から泊りがけで除霊に行くから準備をしておいてね?」
「泊まり……ですか?現場はどこですか?」
「人骨温泉ホテルよ。とは言えすぐ終わる除霊だから……言いたいことは判るわよね?」
ねぎらいの為と言うのもおかしいのでそう言うが、蛍ちゃんに反応がない。あ、あれ?喜んでくれてないのかしら?
「蛍ちゃん?」
「え。ああ!?大丈夫ですよ?横島にはちゃんと伝えておきます」
「そう、良かった。明日の朝電車で行くわよ、軽く登山しながら温泉に向かうから、山歩き出来る準備でね?」
私はそう言うと電話を切り、普段着ている服ではなく、登山用の服をクローゼットの中から引っ張り出しながら
「この服を着るのも随分久しぶりよね」
先生。唐巣神父と一緒に除霊していたときは山とかの除霊が多かったので、こういう服を好んでいたが、こうして着るのは何年ぶりだろうか?少し懐かしい気分になりながら私は明日の除霊の準備をするのだった……
「もうこんな時期なのね」
受話器を電話に戻してそう呟く。人骨温泉ホテル……そこに行く途中で横島とおキヌさんは出会ったと聞いている。
(予想より全然早いわ)
もう少し時間的に余裕があると思っていたんだけど……私の知る中ではおキヌさんは横島を本当に想っていた。かなりの強敵なのは間違いない……だけど確か
(出会った頃は幽霊だったって言ってたわね。それなら大丈夫かしら?)
おキヌさんは物に触れるほどの霊格を持つ幽霊だが、いくらなんでも横島も幽霊には飛びつかないだろうと思いながら
「アー」
「コーン!コーン!!」
机に突っ伏して死んでいる横島と必死に舐めてヒーリングをしているタマモを見て
「今美神さんから電話があって、露天風呂のある温泉で除霊だって「どこや!?混浴か!?」
がばっと飛び起きる横島。実際に混浴なんかになってたら何も出来ない癖にと苦笑しながら
「人骨温泉ホテルって言う現場らしいわ、山の中を歩くらしいから準備をしないといけないし、買物に行きましょうか?」
私も横島も当然山歩きが出来る服装なんて持ってないので少し買い物行かないといけないだろう。最低でも登山用のブーツは欲しい所だ
「そうだな、行くか。おいでタマモ」
「コン!」
横島の差し出した手に器用に乗り、するすると肩のほうに登っていくタマモ。ああいうのは絶対に私にはしない、タマモは横島だけに甘えている。敵対するような態度をする事もあるから、もう完全に自意識はあるんだろうなと思いながら
「それじゃあ行きましょう」
「お、おう……」
横島の腕を取って笑う。横島の鼻の下が伸びるの見て、肩の上のタマモを見てふふんと笑うと
「フー!」
尻尾を逆立てて威嚇するタマモ。悔しかったら早く人化出来るようにでもなるのね。と笑いながら
「それじゃあ行きましょうか」
近くにもちゃんと登山用品の専門店はある。私は横島と一緒に街に出かけたのだが、私はここで1つの誤算をしていた。おキヌさんは300年幽霊をしていた、逆行時の記憶と言うのはある程度の時間もしくはきっかけで戻るようになっていた……300年の月日はおキヌさんの記憶を呼び戻すのには充分すぎる時間であり、そして……その想いを狂わせるには十分な時間だったのだ……
ああ……まだあの人は来てくれない……もう何年も何百年もここで待っているのに……
今日は来るかもしれない、明日は来るかもしれない……
ただそれだけを考えて、この場所でずっと待っているのに……
ここで会えることだけは判っているのに……
だけど何時会えるのかが判らない……
会いたい……
言葉を交わしたい……
あの笑顔を見たい……
時間が経てば経つほどに……
まだ会えないと言うことが判るたびに……
【胸が痛い……】
あの時は私は手を引いてしまった……それが駄目だったんだ。私はあの人が好きだったのに……
その結婚に反対するべきだったんだ……いや、もしかすると2人で出かけると行ったときに止めるべきだったのかもしれない……
洗脳と言う手段であの人を自分の物にしてしまったあの人を私は許せない……だけど
あの時手を引いてしまった自分はもっと許せない……
出来るのならば飛んで行きたい。あの人の場所に……だけど今の私には出来ない、私はまだこの山に縛られた存在だから……
目を閉じればあの時の笑顔がすぐ瞼の裏に浮かぶ……
馬鹿でスケベだったけど……
誰よりも優しくて……
思いやりがあった……
そして誰よりも……強かった。力でなく、心が……
あの太陽のような笑顔がまた見たい……
あの手に触れたい……
だから……
だから……
「早くここに来てください。横島さん……私はここでずっと……貴方を待っていますから……」
雨の日も……
雪の日も……
晴れの日も……
ここで、ずっと……ずっと待っています……
あの時とは違います……
私はもう自分の気持ちを我慢するのはやめました……
良い子じゃ、横島さんが私を見てくれないのなら……
悪い子になります……私の想いを貴方にだけに贈りますから……
だから……だから……
「早く私に会いに来て……!!」
横島さんっ!!
「ん?」
「どうしたの横島?」
遠く離れた東京で横島が立ち止まり振り返る。それを見た蛍が不審そうに思いながら尋ねる
「ん~?今誰かに呼ばれた気がしてな……」
「誰も呼んでないわよ?気のせいじゃないの?」
横島もそうだよな……っと小さく呟く。もし誰かが横島を呼んでいたのなら、隣にいる蛍と頭の上のタマモが気付いてもおかしくないのだから
「そうやな。気のせいやな、急いで買い物を終わらせようか」
結局横島はそれを気のせいだと判断し、蛍と並んで買い物に戻るのだった……
レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その1へ続く
はい。おキヌちゃん真っ黒ですねー。私のヤンデレ好きはもしかするとこの時から始まっていたのでは?と想ったりしています
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします