その1
リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その1
「はぁ……苦渋の決断だわ」
亜麻色の長い髪を翻し、ボディコンと呼ばれる服を身に纏った女性。美神令子はしぶしぶと言う顔をして椅子に深く背中を預けた
「はぁー必要経費として割り切るしかないのかしら」
美神令子 20歳にして業界NO1と謳われるが、その傲慢な性格と大金を要求する点から1部の富豪や大手からの依頼がメインだったのだが、去年の連続人食い事件を起こしていた鬼兄弟を倒した経歴から、強力な妖怪や妖獣退治を莫大な報酬と共に引き受けていた。無論鬼退治のネームバリューは大きく、霊的不良物件の除霊なども多く依頼されたのだが、ついに限界が来た
「しんどすぎ……もう1人じゃ無理よ……」
アシスタントを今まで雇うことなんて無かったけど、ここまで忙しくなるとさすがに無理だ。
「顔の良い男か女が来てくれると良いんだけど……」
霊能力は最悪2の次。顔がよければそれだけ話題性になるし……あとはいつ頼んだチラシの効果がでるかね……私は手元のちらしをみる
【アシスタント募集!!】
と大きく書かれた赤い文字と私の顔写真。時給や勤務状況は応相談にしてある
(顔がいいなら2000円くらいは出してもいいかもしれないわね、霊能力の心得があるなら3000くらいかな?)
逆に私の顔目当てで来た様な役立たずはすぐに厄介払いしたほうがいいわよね。私はそんな事を考えながら面接希望の電話が来るのを待つのだった……
百合子さんと大樹さんが日本から遠く離れたナルニアに行って2ヶ月。百合子さんが借りた横島の新しい家は広くも無く、狭くも無い。1人暮らしで考えるのなら充分すぎる家だった。しかしなにより私が嬉しいのは
(お父さんのビルから近い事よ)
前は電車を使う必要があったけど、今は自転車でいける。これは凄く大きい、その証拠にこの2ヶ月殆ど通い妻状態
(合鍵も貰ったし!もう最高ね!)
勉強を教えてあげたりしている間に遅くなるので泊まったりもしたし、今までで一番充実しているような気がする
「じゃあお父さん。出掛けて来るから」
「気をつけて」
アシュ様をお父さんって呼ぶのも大分馴れたわねと思いながら家を出て、横島の家へ向かう。今日は土曜日だから家にいるはずだ
「寝てると悪いわよね」
最近横島がGSについては非常に勤勉だ。だがそのせいで夜遅くまで勉強していることもあるので合鍵を使って家の中に入ると
「グルルルルル」
玄関の所でタマモがいて唸り声を上げている。3本の尻尾を立てて威嚇体制だ
「上等よ、この狐」
「フウウウウッ!!!」
入るなと目が物語っている。無論今のタマモをあしらうことは容易い、霊波砲いや霊波弾でも充分だが横島が可愛がっているタマモ
を怪我させると心証が良くない。タマモはそれが判っているから威嚇してきているのだ、実にあくどい子狐だ。そんな事を考えながら家の中に入る
「フー!!!」
唸りながら引っかいてくるタマモの首を掴んで持ち上げて
「あんまり調子乗ってると、人になれるようになったら潰すわよ」
「キュウッ!?」
今は子狐だから大目に見てるけど、これで人間になれるようになったら容赦しないわよと言う。威嚇していた尻尾をペタンとさせてびくびくしているタマモをフローリングに降ろすと横島の部屋へと逃げていく。その姿を見つめながら持って来ていた鞄からエプロンを取り出して
「さーて、今のうちに朝ご飯でも作ろうかしら」
一昨日買って来た鯖を焼いて、味噌汁を作る。タマモには揚げを炊いたので充分よねと思いながら朝食の準備をしていると
「うー蛍かあ?おはよーさん」
腕の中にぷるぷる震えているタマモを抱えてリビングに入ってくる横島。若干驚いた顔をしたけどそのまま玄関に新聞を取りにいく
「なんか最近蛍がいる日常に慣れた気がする」
味噌汁を啜りながら呟く横島。もう少しね、ここに私が居ても普通って思えるレベルにまで刷り込めれば……
芦蛍 見た目は清純派だが、その本質はやはり病んでおり、かなり黒いのだった……
横島が着替えに行くために新聞を机の上においていく、朝食の準備も出来たので新聞の折込チラシを見て
(これは!?やっとね)
ここ数年ずっと待っていた1枚のチラシ。それには目立つ赤い文字で【アシスタント募集】の文字と亜麻色の髪の女性。美神令子の姿が写っているのだった……つまりここから始まるのだ、私が求めて止まない横島との生活を真の物にするための戦いが……ッ!
うむ。白味噌か……やっぱりこれやなー……大阪生まれの俺にとって白味噌は慣れ親しんだ味でありとても落ち着く。赤味噌も悪くは無いんだが、やはり白味噌だろう
(塩鯖も絶妙だしなぁ)
塩加減も最高だなと思いつつ白米を頬張る。足元ではタマモが尻尾を振りながら揚げを食べていて、蛍は俺と向かい合って食事をしている。この2ヶ月ほとんど毎日繰り返している日常だ。冗談で通い妻?と尋ねたら、毎日通って上げるから合鍵といわれた。流石にそれはどうだろうと思い、聞かなかった振りをしたのだが、その目力に負けて鍵を渡してしまった。そのおかげでこうして毎朝美味い飯を食べることが出来ているが、もうなんか俺の生活って蛍がいないと駄目になってきている気がする……
「ごちそうさまでした」
「はいお粗末様」
片付けてくるわねと言って食器を片付ける蛍の背中を見ながら
「おいで」
「コン」
タマモを膝の上に乗せてその毛をブラシで梳きながら、蛍がくれたGSの本を見る。1年近く蛍に師事していたからかそれなりに幽霊の事を覚える事はできた
(全然霊力使えへんけど!!!)
今俺に出来るのはタマモの加護のおかげで使えるようになった札術と近接戦闘の心得程度。早く蛍の得意としてる霊波砲とかも使えるようになりたいなーと思っていると
「ねえ。横島。GSの勉強も大分進んできたよね?」
う、この声の感じは……今まで何回か経験があるが断ってはいけないときの蛍の声だ。呼んでいた本を閉じてタマモの毛を梳いでいたブラシを机の上に置く。もっともっと言う感じでタマモが手首を噛んでくるが、今はそんな状況じゃない。少し我慢してくれ
「そやな。霊力のれの字も使えないけどな」
「そんな事無いわ、破魔札は必要だけど、攻撃力だけなら今の横島は充分に通用するわ」
あのランダムで変わる奴?コンクリートを粉々に粉砕してその破片で顔面強打をした……俺的にはそんなのは忘れたいが蛍の膝枕の感触を忘れる事が出来ないのでそれもしっかり覚えている
「それにそろそろ私もGSの師匠を見つけようと思うの。ほら今年はGSの免許の試験もあるし」
あ、これはあかんやつや……俺は蛍が何を言おうとしているのか理解してしまった。GSのアルバイトを始めようといいたいのだ
「若手GSではNO.1って言われてる人の事務所がアルバイトを募集してるから2人で行きましょう?ね?」
若手NO1か……もしかするとそこでなら俺も霊能力が目覚めるかもしれんけど
「ちなみに所長はこの人」
蛍が差し出したチラシには亜麻色の髪を腰元まで伸ばした、抜群の美人がウィンクしていた
(とんでもないナイスバディや……胸も腰もばっちりだ。蛍とは違う」
「ふーん……」
はっ!?蛍の視線が絶対零度に……まさか声に出ていた?
「横島。右が良い?左が良い?」
蛍が両手を構えてニッコリと笑う、普段は可愛らしい笑顔だが今は悪魔の笑顔にしか見えない
「返事が無いってことは両方よね?歯を食いしばりなさい」
「ちょっ!?まっ!?げぶろおああああああッ!!!!」
可愛らしいお嬢様のような笑顔で繰り出された。全く可愛げのない拳の連打を前に俺の意識は吹っ飛ばされたのだった……
「く、口は災いの元……ガク」
俺はその言葉を最後に意識を失うのだった……そして目覚めた頃には履歴書とボールペン
「早く書いてね?面接の連絡はしたから」
にっこりとワラウ蛍に反論する術を持たなかった俺は今後に若干の不安を感じながら、履歴書を記入するのだった
チラシを出してから3日。残念ながらただの1人の面接希望者は現れなかった
「エミの奴がなにか私の嫌がらせてもしてるんじゃないでしょうね」
小笠原エミ。呪術を使うGSで私がGS試験を取ったときに出会い、馬が合わず喧嘩ばかりしている相手だ
「あーもう!チラシの料金代だけ損してるんじゃないの!?なんで誰も電話してこないのよ!」
絶対誰かは電話してくると思ったのに!苛立ち紛れでお気に入りのウィスキーでも飲もうと立ち上がったとき
ジリリリリ
電話が音を立てる、依頼か面接希望か……面接希望に期待しながら電話を取る
「はいこちら美神令子除霊事務所です」
【チラシを見て電話したんですが、面接って高校生でも大丈夫ですか?】
よしっ!と小さくガッツポーズをとる。この声の感じは女性ね、顔がよければ私とツートップで活躍させることも出来るわ
「それは大丈夫よ。学校のほうは私が手続きを取って公休要請をしてあげるわ」
GSの家系の高校生とかのための処置なんだけど、やっと来た面接希望者。なんとしても逃がしたくないと思うので好条件を出す
【面接希望は私と私の……そのですね。えーと】
「あーはいはい、大体判るから良いわ」
口ごもっている少女にそう言う。多分彼氏とかそんな感じよね、まぁそう言うのも悪くないんじゃない?と思いながらOKを出す
【安心しました。それで今日は面接は可能ですか?】
「全然OKよ!今丁度お昼になったところだから、15時に事務所に来て、証明写真つきの履歴書も忘れないでね」
【はい。それでは失礼します】
私が受話器を置くまで通話状態になっているのを見るとちゃんと礼節もあるようね
「よしよし!今日は仕事もあるし、ぱっぱっと面接しちゃいましょう」
GSは命懸けだから除霊現場を見せるのもいいわよねと思いながら、面接の準備をするのだった……そして15時10分前
「失礼します」
「失礼します」
ちゃんと面接の時間10分前に来た一組の男女。女性のほうは活動的な印象を受けるブラウスとフレアスカート。軽く見るだけでも判るけど中々の霊力の持ち主だ。その隣の少年はGジャンにGパンそして赤いバンダナを頭に巻いていた。彼からはなんの霊力も感じないがその頭の上を見てぎょっとする
「その頭の上の妖狐は?」
並みの妖怪の数倍の霊力持っているであろう、妖狐が尻尾を振りながら私を見ていた
「家族のタマモっす。はいご挨拶」
「コーン」
私の前に狐を突き出す少年。その狐の尾は3本……まさか九尾の狐の転生とか言わないわよね……まぁ面接に来てくれたんだから、まずはそっちを優先しないと
「ようこそ美神令子除霊事務所へ。まずは履歴書を預かるわね」
2人から履歴書を受け取り目を通す。少女のほうは芦蛍、今勢力を伸ばしている芦グループの娘で海外の大学をスキップで卒業。
若干の霊能力を使用可能っと……少年のほうは横島忠夫。高校生で霊力は使えないっと……その代わり若干の霊能の知識と体力に自信ありか……
「うーん。悪いけど霊力の使えない子はちょっとねー?」
それに言っちゃ悪いけどブサイクだし……採用とは行かないかなーと思っていると
「そうですか。じゃあ私もお断りしますね。履歴書返して貰えます?」
そう言って立ち上がろうとする芦さんを見て慌てる
「ちょちょ!?待って!待って!横島君を採用しないと貴女も?」
「ええ、お断りです。私は2人でGSになりたいですから」
ぐう、2人同時じゃないと採用できないって事なのね。横島君は正直どうでもいいけど、芦さんは手放すのに惜しい人材だ。かと言って役に立たないのを雇うわけにも行かない……
「じゃあこうしましょう!今日簡単な除霊があるんだけど、そこで横島君と芦さん。今日早速除霊に付き合ってくれるかしら?そこでGSがどういうものなのかを説明して、自分に向いているかどうなのかを判断してもらうわ」
芦さんが入れ込むのは惚れただけなのか?それとも何か特別な力があるからなのか?もし前者なら涙を飲んで芦さんをリリースするけど、後者なら2人とも雇うだけの理由になる。本来なら受けないような安い除霊の依頼だけど、こういうことなら良いかも知れない
「じょ、除霊っすか!?ほ、蛍。ワイ大丈夫か?」
顔色を面白いくらい青くさせている横島君を見ながら電話で依頼を受けるという話をしている。向こうは私のネームバリューが欲しいらしく、少し報酬に色をつけてくれるらしい、これは嬉しい誤算だ
「大丈夫よ。横島ならそこらへんの悪霊なんて目じゃないわ。自分を……「ワイは自分が一番信じられんッ!!」じゃあ私を信じて、横島なら出来るって信じる私を信じて」
「蛍……判った。ワイ頑張るよ」
なんか甘酸っぱいやりとりしてる……その事に若干のイラつきの胸のざわつきを感じながら
「出発するのは20時。それまではこの事務所で休んでいてくれて良いわ。私は準備があるから」
うーすと返事を返す横島君を見ながらガレージに向かう。さてさて、芦さんは今の時点では十分すぎるほどの逸材。しかし横島君は未知数だ、しかしそれゆえに大化けするかもしれない
(まぁ私らしくないんだけどね)
現世利益優先の私が何にもならないことをしようとしている。これは珍しい事だと自分でも思う、だけどあの芦さんと横島君はとても気になるのだ。ここで手放してはいけないと霊感が訴えている。今まで私の霊感が私を裏切ったことは無い、だから今回も信じてみることにしたのだ。そして午後18時45分。私は芦さんと横島君を連れて今日の除霊場所である、廃ビルへと向かうのだった……
リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その2へ続く
美神さんのキャラが難しい。いや面接で猫を被ってるだけさ、採用すればあの美神を書けると私は信じる。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします