外伝リポート 外史からの来訪者 その5
【現在の対魔師が一丸となり、我が兵の進軍を完全に止めております。あの時逃した一団が情報を流した物だと思われます更にゾンビも増える事はないので、優秀な術師が何人も居ると思われます】
蘭丸の報告を聞き、ふむっと呟く。以前目覚めた時にそのときの有力者を殺し、その者に成りすまし記憶改変を行った時は知識があやふやで我と言う存在が希薄になっていたが、今は違う。我はこうして存在しているノスフェラトウとして、本来の我として蘇っている
【ノスフェラトウ様?】
怪訝そうに尋ねて来る蘭丸。捕らえる事が出来るなら程度に思っていたので失敗しようが、成功しようが正直な話どうでもいいのだ
【是非も無い。所詮は知恵も何も無い死兵、奇襲で先手を取れなかった以上勝ち目は無い】
ここで見ていても判る。向こうは何重にも防衛線を張り、それを利用して我が兵を打ち倒している。ただ進むことしか出来ぬ死兵では勝利など出来るはずもない
【月が昇るまでは戯れよ。散発的に死兵を出せ、そして情報を集めよ】
情報ですか?と尋ね返してくる蘭丸にそうだと返事を返し、胸に手を当てる。今もまだ残っている槍の傷跡……あれは駄目だ。あれだけは今の我とて屠る事が出来る
【あの槍を持つものを探すのだ】
あの槍を破壊することが我が世界を手にする第一歩。それ以外は全て些事だ、だからそれだけを考えろと蘭丸に指示を出し、慌てて出て行く蘭丸から視線を外し、天井からぶら下がりこちらを見つめている金色の蝙蝠を見据え
【我は我のやりたいようにやる。貴様らの施しも指図も受けぬわッ!】
抜刀した刀から飛び出した魔力刃が蝙蝠を両断するのを確認し、我は椅子に腰掛け再び夜が訪れるその時を待つのだった……
「どうする?アスモデウス。あれ失敗したんじゃない?」
蝙蝠を通じてノスフェラトウを観察していたセーレとアスモデウスは若干引き攣った顔をしていた
「うむ……そのようだ。やはりガープの不在は痛いな、我でも出来ると思ったのだが」
蝙蝠を通じてノスフェラトウに魔力を与え、洗脳し手駒にする。それを作戦としていたようだが、あっさりと失敗したことを認めるアスモデウスにセーレが
「ならなんで遠隔魔法なんてしたのさ!?」
「出来ると思ったんだが……いつもガープがやってるのを見ているから」
なんで見ているだけで出来ると思ったのさ!?とセーレの突っ込みを受けるアスモデウスはうむと腕組して黙り込む。なんで黙り込むかなあッ!?と怒鳴るセーレと黙るアスモデウス。ガープが治療により不在となっている間。アスモデウス陣営はガタガタになっているのだった……
早朝美神さんからの留守電に入っていたノスフェラトウの復活。それから慌ててGS協会で仮眠していた職員を叩き起こし、防衛の準備を整えたのがゾンビの襲撃の始まる1時間前。GS協会の備蓄は膨大だったから耐えることが出来ると思っていたんだけど……
「会長!新宿方面から物資の支援要請です!」
「近くの病院の病室が埋まりました。ヘリの要請をお願いします!」
矢継ぎ早に飛び込んでくる報告の数々に私は思わず頭を抱えた。ゾンビは確かに厄介な相手だが、動きは遅い、知能も無い。それに現代ではゾンビ化の治療方も確立されている。だからそこまで危険視する相手ではないのだが数が多すぎる、接近戦がメインのGSに負傷者が増加している。ドクターカオスの作ってくれた劣化精霊石で守られているからゾンビ化はしていないが、戦力は徐々に減って来ている
(うー、こんな時にくえすが日本に居ないからなぁ)
くえすの黒魔術なら間違いなくゾンビを一掃出来る。だが先日欲しい魔道書があると言って暫く海外を回ると言って、私からGS試験での協力の報酬を受け取って行ったのは記憶に新しい。ゾンビの出現で空港が閉鎖になっているからくえすを呼び戻す手段が無い。くえすほどの魔法使いならば自分で飛んでくることも可能だろうが、恐らく今までの事を考えればどこかの遺跡に居る筈だから電話は勿論駄目だし、使い魔もそこまで辿り付く事は出来ないだろうから連絡を取れるわけもない。柩は柩でこの事を予感していたのか日本にいない……確実に逃げやがった
(これ以上は言峰に借りを作りたくないし)
言峰綺礼の力を借りる事も考えたけど、GS協会、バチカンからも警戒されている言峰の力を借りると国際GS協会やバチカンの視察が来る可能性がある。横島君の事を知られる訳にも行かないので言峰を呼び寄せる事が出来ない、ノスフェラトウを相手にするには圧倒的に戦力が足りないのだ
(ドクターカオスとマリアさん達も動かせないし)
本来ならマリアさん達を主軸に添えて戦略を立てるのが定石。しかしそれが出来ない理由がある、ゾンビに襲われたかもしれない相手の治療及び、ゾンビになりかかっている人間を治療できるのがドクターカオスとマリアさん姉妹のみ。ただでさえ少ないGSを減らすわけにも行かず、更には安全なところから文句を言ってくる国際GS協会などからのクレームを無視する為にも、ゾンビになった民間人の治療が出来るあの3人を動かすことが出来ないのだ。
「会長!美神さん達と唐巣神父がお越しになりました」
部下からの報告に遅いっと心の中で叫びながら、直ぐに会長室に通してと言って来るのを待っていると
「ねえ?横島君?私いい加減幽霊とか、妖怪を拾うの控えたほうが良いと思うの」
メロンパンを頬張っている幽霊を見て横島君にそう言う、って言うかなんでこの幽霊普通に物食べてるのよ……え?精霊とかに進化しているの?あの子
「いや、別に拾ってるつもりじゃないんですけど……あ、後あの子の名前はノッブちゃんです」
美神さんの事務所の人外率が上がっている原因の横島君がそう笑いながら言う。別に名前を聞いているわけじゃないんだけど……と苦笑しているとバンダナに目が浮かび
【それもまた横島の良さである。それを封じるのは横島の成長を妨げるぞ?】
……いやさあ?妖怪とかを集めて育てるのは妖使いの戦い方の1つだろうけど、何事も限度があると思うのよ?
【横島。メロンパンおかわり】
「え?ああ、おう」
がさごそとコンビニの袋を漁りメロンパンを渡す横島君とその背中に憑いているおキヌちゃんを見て
「とりあえず状況を教えてくれます?」
横島君はほっておこう。うん、不機嫌そうなシズクとか蛍ちゃんとか怖いし、今はそっちの修羅場を見て楽しんでいる場合じゃないし……私は美神さんに状況の説明をお願いするのだった……
「ノスフェラトウの復活と明智光秀の依頼ですか……こういうの言うのなんだと思いますけど、横島君がトラブルメイカー
なんですか?それとも美神さんですか?」
最近色々トラブルが起きているけど、どれもこれも横島君か美神さんが関わっているので、2人の内どちらかが原因のような気がしてならない
「多分横島君じゃないかしら?」
美神さんが引き攣った顔で後ろを見ているので、どうしたんだろう?と振り返ると
【ガブーッ!!!】
「ぎゃああああ!痛い!おキヌちゃん!?痛い!痛い!!!頭割れるウウ!!!!」
自分を構ってくれないことに我慢する限界が来たのか、おキヌちゃんが横島君の頭に噛み付いていた。凄い力で噛んでいるのか、横島君が涙目で暴れている
【ぬう!?上は死角だ。私の攻撃は当らん!?】
「……ぬう掴めない、頭だけ具現化させているのか」
「破魔札も使えないし……コラー!横島から離れろーッ!」
【痴話喧嘩か!是非も無いかなッ!】
どたどたと大騒ぎしている横島君達に苦笑しながら、偵察から戻ってきた式神が持ち帰った情報を元にノスフェラトウへの対策を話し始めるのだった……
琉璃の式神が持ってきた情報を見ながらノスフェラトウに対する作戦を決める。今はゾンビの侵攻を抑えるために広く防衛線を張っているおかげで、そこまで侵攻は進んでいないらしいけど、いつまでもその防衛線を維持出来るか判らないので、そろそろこの状況を打破できる作戦を考える必要がある。1番早いのはノスフェラトウを倒す事であり、その為の切り札は既にこっちの手元にある。明智光秀の槍、これをどう使うががノスフェラトウ攻略の鍵となるだろう、だがその前には解決しなければならない問題が山ほど残っているが……
「どうもこの槍が切り札になりそうだけど……問題は其処まで踏み込めるかなのよね」
精霊石の切っ先を持つ明智光秀の槍。かつてノスフェラトウを屠っただけあり、その破壊力は折り紙つきなのだが……
「見た所では高密度の魔力を障壁として纏っている。如何に精霊石とは言え、あの密度を突破するのは相当難しいだろう」
唐巣先生の言葉に頷く、この槍は相当な霊力を溜め込んでいるがあの障壁を打ち破るのに霊力を使えば、肝心のノスフェラトウを倒すだけの霊力が足りなくなる可能性が出てくる。そうなってしまってはノスフェラトウを倒す手段が無くなってしまう……
「それにノスフェラトウには使役している使い魔が居たはずです。僕も父に詳しく聞いていたわけじゃないですが……確か
蜘蛛の悪魔の使い魔を使役していたと」
蜘蛛の使い魔……それもノスフェラトウのように信長の配下の武人に寄生し、その能力を得ていたら相当厄介な相手になるだろう
「それと琉璃。ノスフェラトウの城はやっぱり都庁の近く?」
復活した場所の近くで陣取っているのは当然の事だ。なんせあの森は霊脈の上だった、わざわざ其処から離れて陣取りする必要は無い。だからその近くで陣取っているの?と尋ねると瑠璃は険しい顔をしながら
「都庁の上に異形の城が現れていると聞いています。その近くには巨大な蜘蛛の巣が張ってあって近づくことも難しいと」
蜘蛛の巣……ピートが言っていた蜘蛛の使い魔の巣ってことか……
「それってやっぱり霊力に反応するの?」
「飛ばしていた式神20の内、戻ったのが3なので恐らく反応するかと」
うーん……そうなるとどうやって本丸に乗り込むかが問題ね……蜘蛛の巣が無ければ戦闘機でもチャーターして上空から一気に……いやそれだと乗り込める人数が限られるからノスフェラトウと戦う事に対して不安が残る
【むしろいっそ、今日の所は防衛だけに専念し、明朝仕掛けるというのはどうじゃ?】
背後からノッブがそう提案してくる。横島君達のほうで散々トラブルを起こしておいてっと思いはしたが、それは的確な助言だった
「たしかにそれもありかもしれないわね。琉璃、GS協会の備蓄の方はどう?
体力と霊力は万全とは言えない。向こうの戦力が未知数であり、更には突入経路を見つける事も出来ないとなれば必然的に消耗戦になって行くだろう。確かに早い段階でのノスフェラトウの討伐は必須だが、返り討ちにあっては意味が無い。無論市民達の避難誘導を行う必要は出てくるが、今攻め込む事が出来ないのならば守りを固めるのが1番有効な一手と言えるだろう。篭城戦をやるには備蓄が必要不可欠だ、GS協会に今どれだけの備蓄があるか?と尋ねると
「……正直な所かなり厳しいですね。早朝からかなりのペースで消耗してますし……なにより防衛に努めてくれているGS達の疲労具合もありますし……避難してきている市民に配給している食料とかにも限りがありますし……」
寝ている間に相当な戦いがあったのは知っている。時間的には昼15時……朝まで耐えるには長すぎる時間だ……しかし攻め込むことも出来ない……完全なジリ貧だ……どうしようかと戦力図を見つめているとまたノッブが手を伸ばし
【無駄に防衛線を広げすぎじゃな、ここからここの兵を下げて、こことここから再度防衛線を張りなおすのじゃ】
地図に素早く線を引くノッブ。周囲の地形などを生かし、ゾンビの侵攻を防げる場所を的確に選んでいる。地図をざっと流し見しただけでここまで的確な防衛線を張る位置を導き出すなんて……更にノッブは地図に書き込みを加えていく
【あの動く機械の箱を倒して壁を作って耐えよ。倒すのは出来るだけ大きな機械の箱が良い、向こうは所詮知恵も無い屍よ。態々霊具を使うこともあるまい。何人かで隊を作り、銃で近づいてくる屍の足を狙えば良かろう?足さえ動かなければ、壁を乗り越える事は不可能。後は纏めて焼き払えば体力の消耗も最小限で済むじゃろ?血の気の多い若者を使えば霊能者の消耗を更に下げることも出来る。まぁ統括するのは霊能者になるじゃろうがな】
メロンパンをずっと貪っていた少女の言葉とは思えないほどに的確な戦略だった。思わず唐巣先生や琉璃の顔を見る、並みの存在ではない事は判っていた……だがここまで来ると確信する。牛若丸や義経と同じく英霊……死後上位の存在へと至った者……当然の事ながらその正体なんてまるで判らない。これだけ軍略に長けた少女の英霊なんて居たかしら?
【ま、こんな所じゃろ?横島ー?メロンパンおかわり】
話は終わったと言わんばかりに先ほどの様に年頃の少女と言う表情を浮かべ、おキヌちゃんに頭を噛まれて青い顔で倒れている横島君とそんな横島君の治療をしている蛍ちゃんとシズクの方に向かって歩き出すノッブの背中を見ていると
「あの子の意見を採用しよう。ゾンビの侵攻を抑える為に広げていた防衛線を縮めて、ここからここまでで再度防衛線を展開。殿には私とピート君で出る、その間に負傷者や避難誘導を進めてくれ」
唐巣先生の言葉にピートは納得言ってないという表情だ。まだ完全に避難誘導が済んでいないのに防衛線を下げることに納得してないのだろう
「ピート君、気持ちは判るけど戦力的にはこっちが圧倒的に不利なのよ。無駄に防衛線を張り続けるとこっちが倒れちゃうわ」
琉璃が諭すように告げる。話し合いをしている間にも式神が情報を持って来ていたので、もうそれほど時間的な余裕がないのだろう
「しかし……「そう思うのならば動くんだピート君。避難誘導をしているGSの体力も危険域に来ているだろう、それならば休んでいた私達が率先して動こう」先生……はいっ!」
ピートを連れて会議室を出て行く唐巣先生を見送りながら琉璃に
「じゃ、近くの警察署とかから銃を借りましょうか?」
霊具の備蓄が心許ないのなら普通に銃を使えば良い。被害者はとりあえず足を撃ってから捕獲して隔離、そうすればこの騒動の後でそこまで叩かれる事は無いでしょ?と琉璃に言うと琉璃は深く溜息を吐きながら
「後で始末書酷いことになりそうですよ……」
ガープの襲撃に続いて今度はノスフェラトウの復活。トラブル続きで相当胃が参っているのか、ざらざらと胃薬を飲む琉璃に私は何も言うことが出来ないのだった……
【ううう……なんで幽霊で女の子が増えるんですか、理不尽。理不尽です……私だって……私だって……横島さんに構ってほしい……うう……噛み付いてごめんなさい……】
横島君をダウンさせたおキヌちゃんはシズクの作った氷の重りを膝の上に乗せられ、涙を流しながら正座していた……嫉妬心で横島君に酷い事をしてしまった事を反省しているのだった……
おキヌちゃんに噛まれ凄まじい激痛で意識を失った後。シズクの治療で何とか一命は取り留めたと蛍に聞いた、バタバタと忙しそうにしている美神さん達の邪魔をするのは悪いと思ってGS協会の中を見学を兼ねて散歩する事にする
(おキヌちゃんには今後絶対に噛まれないようにしよう)
その為にはおキヌちゃんを怒らせないようにしよう……その為には何をすればいいだろう?確かに迷惑をかけられる事は多い、だが料理をしてくれたり、家事をしてくれるのもおキヌちゃんだ……だから迷惑だけ掛けられている訳じゃないし、俺自身おキヌちゃんの事は嫌いじゃない……だから無碍にも出来ない
【私としては結界札でお前の自室に侵入出来ない様にする方がいいと思うぞ?】
心眼がそうアドバイスしてくれるが、それは出来ない。出来ない理由があるのだ
「そりゃ駄目だ。チビとかモグラちゃんが弱っちまう」
結界札で侵入出来ないようにした事があるが、その代わりにチビとモグラちゃんがぐったりとして動かなくなったので駄目だというと
【むう、難しい所だな】
まーなー。蛍も同じような事を言っていたしな。見た目は可愛い小動物だがれっきとした悪魔と竜種、結界札や破魔札には弱いんだよなあ……っとそんなことを考えていると家に置いて来たチビ達が心配になってくる
(餌は用意してきたけど大丈夫かな?見に行きたいけど……)
心配なので様子を見に行きたいが、ノッブちゃんの作戦で既にバリケードが用意されているので仮に出てしまうと、もう戻ってくることが出来ない……うーんどうしたものか……と考え込んでいると
【えっと……その横島さん】
壁から浮き出るようにおキヌちゃんが姿を見せる。一瞬ぎくりとしたが、申し訳無さそうな顔をしているのに気付いて
「どうかした?」
おキヌちゃんにそう尋ねるとおキヌちゃんはばっと頭を下げて
【ごめんなさい!私……その……その……上手く言えないけど……凄くもやもやして……】
俺の頭に噛み付いた事を謝りに来たのか……俺自身はそんなに気にしてないんだけどなあ……いや、蛍やシズクは激怒していたけどさ……そのもやもやってのはもしかして嫉妬とかそう言うのだと思うし、そうなるとノッブちゃんばかりに構っていた俺が悪いって事になるし……おキヌちゃんは基本的には穏やかだから、自分から攻撃するって事はあんまり無いし
「いや、良いよ。別に気にしてないし……」
【でも、でもっ!】
うーん……おキヌちゃんは真面目だからなぁ……言葉だけじゃ駄目なのかな……でも俺自身本当に気にしてないからなあ……
【横島。罰は罰だ、なぁなぁにするのは良くない】
そんな事を言われてもなぁ……相手幽霊だし、女の子だし……お世話になっているし……罰なんて言われても……あっ!そうだ
「じゃあおキヌちゃん。お願いがあるんだ」
【なんでしょうか?】
これは絶対におキヌちゃんにしか出来ない事だ。きっとシズクでも、蛍でも出来ない事だ。いや、もしかするとシズクなら出来るかもしれないが、ノスフェラトウから逃げるのに力を使いすぎているシズクの調子は良くない。だから無理はさせたくない
「家にいるチビとかの様子を見てきて欲しいんだ」
もしかするとゾンビが家に行っているかもしれない、炎を使えるタマモも居るが、弱っているし……チビやモグラちゃんなら電撃や岩の槍で倒す事は出来ると思うが、それでもどうしても心配になってしまう。だから様子を見てきて欲しいとお願いすると一瞬きょとんとした顔をしたおキヌちゃんだったが
【判りました、直ぐに様子を見てきます。もし危なそうだったら連れて来ますね】
確かに家が破壊されてはチビ達も危険だ。ノスフェラトウの魔力で凶暴化する可能性もあるが……それでもそのままにしておく事は出来ない。それに楽観的と言われるかもしれないが……チビもモグラちゃんも凶暴化しないのではないか?と思っている。最近牙の生え変わりや、翼が大きくなったり、爪が鋭くなってきているので純粋に成長しているだけなのでは?と思っている……っと言うかそう思いたいのだ。ずっと一緒に暮らしてきたチビやモグラちゃんが凶暴化する姿なんて想像したくないし、そうなるなんて思いたくないのだ……これからもずっと一緒に穏やかに暮らせるって……そう思いたいじゃないか……窓から家の方に向かっていくおキヌちゃんの背中を見ながらそんな事を考えていると
【女の扱いにおいてはまだまだじゃのう?】
楽しそうなノッブちゃんの声に驚きながら振り返ると、美神さんに借りたのかショットガンを肩に担いだノッブちゃんがこっちを見て笑いながら
【傷心の女子ならかるく抱擁するくらいの気位をもてんのか?でなければモテんぞ】
……ええ、俺なんで女の子の幽霊に女の子の扱いについて怒られてるの?
【ええい、余計な事を言うな。横島は横島だから良いのだ。女好きだが、いざっとなると足踏みするからこそ横島だ!そうじゃない横島など横島ではない!】
「なあ?心眼?お前も何言ってんの!?」
頼りになると思っていた心眼の明後日の方向過ぎる言葉に思わずそう叫んでしまう。
【くっはははは!ああ、そうか、それが横島と言う男か。それならば仕方ないな!】
そしてなんでノッブちゃんはそれで笑い出したの!?ひとしきり笑ったノッブちゃんは
【巡回に向かう、お主も付き合え。霊力くらい使えるんじゃろ?】
Gジャンの中には数枚の無地の破魔札があるけど……それでは明らかに心許ないだろう。それに勝手に外に出る訳には行かない
「1度美神さんや琉璃さんに指示を仰いでからにしようぜ?俺自身へっぽこだし……そのショットガンって奴確かそんなに弾数ないんだろ?」
猟銃だからそれほど弾を装填出来ないってのはTVで見た気がするしと言うと、ノッブちゃんは満足げに笑いながら
【その冷静な判断は買おう、じゃが……意地でも足の震えは押さえた方が良いの?怖いんじゃろ?】
そりゃまあ……ゾンビなんて戦ったことないし……悪霊とかと違う生身だから怖いと思うのは当然だ。だけど
「一応武者震いって事で?」
【カカ!!そう言うことにしておいてやるかの!じゃあついて参れ】
俺よりも幼くてそして背も低いのに、何故か俺はノッブちゃんの指示に従おうと思った。言うならば天性の人の上に立つ人間……ノッブちゃんはそう言う人種?と言うか幽霊なんだと思いながら……2人で会長室へと引き返していくのだった……
外伝リポート 外史からの来訪者 その6へ続く
次回はノスフェラトウか蘭丸戦まで書いて行きたいと思います。後はチビ達の様子を見に行ったおキヌちゃんとか……多分いるであろうエミさんとかも出してみたい所ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします