その1
外伝リポート 外史からの来訪者 その1
炎に包まれた寺の中で対峙する2人の男の姿があった、1人は紫の禍々しい鎧に身を包んだ大柄の男。そしてもう1人は翡翠色の穂先を持つ槍を構えた男だった
「はっははははッ!!笑止ッ!貴様なんぞがこの第六天魔王織田信長に勝てると思っているのか!」
「黙れ!親方様の名を騙る悪鬼めッ!!この明智光秀が成敗してくれるッ!!」
明智光秀の言葉に織田信長と名乗った男の顔色が僅かに変わり、その形相が悪魔のような物に変化する
「ふははははッ!我の術に掛からぬ者が居ったか!だが例えそうだとしても!貴様の主君は「黙れッ!貴様を地獄に落とすが我が宿命!親方様の仇!今ここで取らせてもらうッ!」
明智光秀が織田信長の名を騙る悪魔の言葉を遮り、手にした槍を向ける
「はっ!悪魔祓いかッ!だがお前ごときにに我を調伏できるかぁッ!!」
突き出した腕から衝撃波が放たれ、明智光秀の身体を吹き飛ばすが、槍を寺の床に突き立てる事でそれを耐えた明智光秀は
「ぬう!舐めるなッ!悪霊退散ッ!はっ!!!」
懐から大量の破魔札を取り出し投げつける。それを見た悪魔は笑いながら
「ははははは!こんな紙切れが「はあああああッ!!!」ぬっうううっ!?」
破魔札は囮で、明智光秀は札が爆発した事で一瞬悪魔の視界を遮り、その一瞬の間に間合いを詰め手にした槍を悪魔の心臓に突き立てた
「ぐうっ!己ぇッ!!だが例えこの場は貴様に敗れたとしても、必ず蘇るッ!!」
「なにっ!」
「はっはははは!!貴様が塵へと成り果てた遠い未来で我は蘇るッ!ははッ!はーはははははッ!!!」
高笑いしながら消えていく悪魔の放った光が明智光秀を襲う、それは強力な呪いで明智光秀がその場に崩れ落ちる
「ぬうう……ぬかった……親方様……」
その呪いが急速に明智光秀の命を奪う。見る見る間にやつれていく明智光秀は手にしていた槍を支えにして立ち上がり
「貴様が遠い未来で蘇ったとしても!必ず我が意思を継ぐ者がいる!必ずやその者が貴様を倒すであろう!我が槍よ!時を超え!我が意思を継ぐ者の元へと行くのだぁッ!!!」
手にしていた槍は翡翠色の光に包まれ消えていった……そして残された明智光秀はその場に倒れ
「親方様……仇をとれなんだ……この無様な家臣をお許しください……」
手にしていた精霊石の槍を失ったことで急速に呪いが進み、一気に老人へと成り果てた明智光秀は炎に呑まれ消えていくのだった……
横島君と蛍ちゃんの単独実習が延期になってしまったが、他にも依頼は山ほど来ている。と言うわけで除霊実習と言う事にして蛍ちゃんと横島君をつれてきたんだけど、実習にならない事態になってしまった
「行け!チビ!雷だッ!」
「みむぎゃああああああッ!!!!!」
【【【ぎゃああああああッ!!!!!】】】
目の前を走る白い稲光に絶句する、もうチビはどう考えても、グレムリンという種族を超えていると思う。雷って自然現象よ?それを限定的とは言え呼び寄せるチビはどう考えてもグレムリンと言う種族の枠を超えているだろう、と言うかそんなグレムリンなんて怖すぎる
「けふっ」
「美神さーん、チビガス欠でーす!もう雷打てません!」
横島君がそう叫ぶけど正直2発の雷で悪霊殆ど全滅してるんだけど……残った悪霊は悪霊で
「うきゅ!うきゅッ!」
モグラちゃんの爪と足踏みで出現した岩の槍で貫かれているし
【さー沖田さん頑張りますよー!借金返済の為にッ!】
沖田ちゃんが次々と両断していくのではっきり言ってやることが無い。
「ねえ?なんでチビあんなにパワーアップしてるの?」
明らかに異常なパワーアップなので何か理由があるはず。なので1番知ってそうなシズクに尋ねてみると
「……さぁ?私が知るわけ無いだろう?」
なんで私に聞くんだ?と逆に聞き返される。シズクが原因じゃないって事は何が……
「みみ、美神さぁーん!?」
蛍ちゃんの動揺しまくった声に振り返ると、横島君の右腕がGS試験の時の篭手に包まれていて
「ストップ!横島君ストープッ!!!」
「迅雷のおおお……ファーストブリットォッ!!!!」
私も慌てて止めるように叫んだが、時既に遅し……イカヅチを纏った横島君の右拳が悪霊もろともマンションを打ち砕いたのだった……
「横島君、正座」
「……はい」
依頼主はどうせ壊すつもりだったからと言って、マンション解体の費用を何割かを報酬に乗せてくれたけど、それはそれ、これはこれだ。報酬を受け取って直ぐ事務所に戻り説教を始めた
「なんであんなのつかったのかしら?」
「……いや、俺もあんなに威力あるなんて思ってなくてですね?」
自分の力がどれくらいのものか判っていない、若手GSには良くある事だけど、あれは駄目だ。そんな言葉で片付けて良い威力の技じゃない
「あれは使用禁止。良いわね?自分で制御できない霊能なんて危険すぎるからね」
「……うっす……」
シズクの話ではシズクの牙・チビとモグラちゃんの牙にタマモの尻尾。霊具を作ると考えれば最高の素材を詰め込んだお守りを横島君が取り込んでいるらしいのでそれにより潜在霊力がまた開放されたと考えるべきだと思うけど
(今度検査をお願いしたほうがいいかもしれないわね)
あれだけの霊力を溜め込んでいる素材を取り込んだことに対する横島君への悪影響も考えないといけない。ドクターカオスに検査をお願いしたほうがいいかもしれない
【オーナー。唐巣神父が訪れていますので、横島さんへの説教はそれくらいで】
渋鯖人工幽霊壱号が教えてくれる。今日尋ねてくるとは聞いてないけど、何か用事かしら
「ま、今回はこれくらいにしておいてあげるわ」
まぁ横島君もどれくらいの威力か判ってなかったみたいだし、今回はこれくらいで勘弁してあげよう。すぐに蛍ちゃんとおキヌちゃんの方に向かう横島君に苦笑しながら
「今回の分も借金から直接引いておくわね?」
【はい!それで十分です!では沖田さんはお昼からエミさんのお手伝いなので失礼しまーす!】
霊体になって消えていく沖田ちゃんを見送ってから渋鯖人工幽霊壱号に唐巣先生を迎えてくれる?とお願いするのだった……
ガープの出現が影響しているのか、悪霊や妖怪の力が増しているのでそれについて警戒するようにと美神君に伝えに着たんだけど
「手伝いしようって思ったんやで?あんな威力あるなんて思ってないし……いきなり制御不能になるなんて思ってないし」
「……大丈夫。私やチビやモグラはちゃんと判っている。次があるさ」
使用禁止言われたもん……やっとまともな霊能力使えると思ったのに……とぶつぶつ呟いている横島君と
「大丈夫!ここまで出来たんだから破魔札とかも使えるようになってるわよ!」
【そうですよ!だからそんなに落ち込まないで頑張ってください!】
蛍君達に励まして貰っているその姿を見ながら、困ったように笑っている美神君に
「ビル粉砕ってもしかして横島君かい?」
解体予定のビルに悪霊が住み着いた件の除霊を引き受けていたのは美神君だったから、もしかしてと思ったけど本当にその通りだったんだね
「まだ霊力を思うようにコントロールできないみたいで、それで先生。今日は何の用事ですか?」
煎餅とお茶を用意してくれた美神君にありがとうと言ってから話を切り出す
「最近悪霊や妖怪がパワーアップしていると思わないかい?」
ピート君とシルフィー君にもお願いして、3人で分かれて小笠原君や、冥子君などの都内の有力GSにそう聞いて回っている。美神君はどう思う?と尋ねると
「チビが雷、モグラちゃんが地面から石の槍で殲滅しちゃうんですよね?最近だからあんまり苦戦と言うか、道具とかも使ってないんです」
部屋の隅でこちょこちょと遊んでいるグレムリンとモグラを見る。見た目はどう見ても可愛い小動物なんだが……
「みーむう?」
「うきゅー!」
私の視線に気付いたのか前足をぴこぴこと振る2匹を見てから
「雷使うのかい?」
「ええ、なんか回数制限とか、雲があるのが条件らしいですけど、悪霊の一団を纏めて焼き払うくらいの火力はあるみたいです」
……もうチビはグレムリンとかの枠を超えているんじゃないかな?雷を使うようなグレムリンなんて聞いた事が無い
「もしかすると悪霊とかのパワーアップがチビやモグラちゃんにも影響しているんじゃないかな?」
見た目は可愛くても悪魔と竜種だ。悪霊とかのパワーアップが2匹にも影響している可能性がある
「横島君!チビが雷使えるようになったの何時!?」
美神君に怒鳴られた横島君はえーとえーとと指折りしながら
「3日くらい前っす。その日はなんかずいぶんと元気で家の中を走り回っていたから良く覚えてます」
悪霊のパワーアップが始まったのが4日前……時期としたら丁度合致する
「これは結構不味いかもしれないですね」
「ああ。悪霊だけじゃなくて他の生物にも影響が出るとなると相当不味いね」
今はまだ悪霊や妖怪レベルで済んでいるが、グレムリンなどの下位の悪魔や土竜にも影響を及ぼすとなると早い段階で対処方を見つけ出さないと大変なことになる
「悪霊の出現の法則とかはどうなってます?」
私が持ってきた資料を捲りながら尋ねてくる美神君に私も同じように目的の資料を探す
「都内全域で出現率が上がっていると聞いているよ」
見つけた資料を美神君に手渡し、別の資料を探す。今回の事件はガープが現れた事で封印されていた何かが復活したのではないか?もしくは復活した何かが東京近辺で動いている可能性が出てきた。今の段階で後手に回っている為、少しでも早く対策を取れるように美神君と共に資料を片っ端から調べ始めるのだった……
急に慌しくなって来たわね?どうしたのかしら?唐巣神父と美神さんが急に慌しく動き出した、何かよくない事でもあったのだろうか?
「蛍ちゃん。悪いけど、そっちの棚から束ねてある文献取ってくれない?」
美神さんに声を掛けられたので棚を空けて文献を探す。見た所だと4つくらいあるわね
「4つありますけど、全部取れば良いですかー?」
どれもかなり年代ものの文献ね、古いのだと……戦国時代かしら?そんなことを考えながらどれを取ります?と尋ねる
「戦国時代から江戸時代のをお願い」
えーと……これとこれね。言われた年代の文献を手にして美神さんの方に向かう
「なー?チビ、タマモ、モグラちゃん。俺の方が近かったよな?やっぱ美神さん怒ってるのかなー?」
「みーむう?」
「うきゅ?」
「クーン」
自分のほうが近かったのに声を掛けて貰えなかったことにイジケて、チビやモグラちゃんと話をしている横島を見て
「美神さん怒っているんですか?」
違うとは思うけど一応尋ねてみると美神さんは横島の方を見て
「横島君。江戸時代の文献の文字の表紙見て判る?」
「……ワカリマセン」
……ああ、言っても判らないと思ったから私に声を掛けたのね。私が勉強を見てあげているから大分学力は上がっているけど、まだそう言う古い文献の見方はそこまでしっかり教えているわけじゃないし
「どうして江戸時代とかを選んだんですか?なにか根拠でもあったんですか?」
あそこまではっきりと断言したのだから何か確信があったんですか?と尋ねると
「うーん?感かしら?霊感が囁くって感じかしらね?」
根拠は無いけど、霊感が囁いている。普通ならそんなの根拠にならないですよと言う所だけど、霊能者の場合はこれが結構当ったりするからなあ……真剣に唐巣神父と話し合っているのを見て邪魔をしたらいけないと思い離れ、横島も落ち込んでいるみたいだし、一緒に散歩にでも行こうと声を掛けようとしたら
【横島さん。やることも無いですし、チビちゃん達の散歩に行きませんか?私も付き添いますよ?】
おキヌさんが私よりも先に横島を誘う。横島からは見えない角度でニヤリと笑っているのが見えて
(あ、あの野郎……本当黒いわね!?)
私が美神さんに何か用事を頼まれているタイミングで行動に出る辺りにその性格の悪さが現れているようだ
「そやなー、そろそろ散歩の時間やしなー」
駄目と言いたい所だけど間が悪い。横島が乗り気なのにおキヌさんと一緒だからと言う理由で散歩に行ったら駄目なんてとてもではないが言えない。
「散歩行きたいかー?」
「みーむ!みーむ!!」
「きゅー!うきゅきゅー!!」
タマモはそれほどでもないけど、チビとモグラちゃんがエキサイトしている。ここの所元気すぎるくらい元気だ。短い手足をぶんぶんと振って行きたい行きたいと全身を使ってアピールしている。この雰囲気の中で駄目とはとてもではないが、言えないのでおキヌさんと横島達が散歩に行くのを見送る事しか出来ないと悟り、私は深く溜息を吐きながら
(チビとモグラちゃんと何が違うのかしら?)
チビとモグラちゃんが元気になっているのに対して、何故かタマモはぐったりとして元気が無いのが気になる。それは横島も同じようでタマモを抱き上げながら尋ねている
「最近元気ないなー?どうしたん?」
「きゅーん」
声に全然元気が無いわね。それに尻尾も普段は1本に誤魔化しているのに8本の尾を全部出しっぱなしだ
(何か別に理由があるのかしら?)
チビやモグラちゃんが元気になってタマモが弱る。これももしかして悪霊のパワーアップ現象に何か関係があるのかな?
「「「え?」」」
そんなことを考えていると急に天井が輝き始める。私達の視線が天井に集まった瞬間天井に緑色の空間が開き、其処から何かが横島に向かって飛び出すのが見えた。その後は考えるよりも早く行動に出ていた
「横島!」
「うえ?」
咄嗟に飛び出して横島を突き飛ばす、後ろのほうで何かが床に突き刺さる音が聞こえる
「……槍!?どこから来た」
シズクの慌てた声で何が飛んできたのか理解する。まさか建物の中に居て槍が飛んでくるなんて普通夢にも思わないわよね
……そんなことを考えているとパサっと言う軽い音とやけに上半身が涼しい……っと現実逃避はこれ以上続けることが出来ない、目の前に落ちているのは背中のほうで切られた私が着ていたブラウスだ。横島を助ける為に下を向いていたから背中の生地が裂けた事で脱げてしまったのだろう、背後でドスンっと言う音と唐巣神父の悲鳴が聞こえたので美神さんが見えないように唐巣神父の意識を刈り取りに出たのだろう
「ほ、ほほほたるう!?」
横島が顔を赤くして目を白黒させているのを脳が理解した瞬間
「っきゃああああッ!」
咄嗟に左拳を下から振り抜いていた。拳に残った手ごたえから会心の一撃だったのがよく判る。そして数秒後に聞こえてきた窓ガラスが砕ける音と横島の悲鳴
「っがふああッ!?っお、落ちるうう!?!?た、たすけてえええッ!?!?」
「……横島ぁッ!?」
「みむうう!?」
「うきゅうう!!」
【蛍ちゃん!?なにやってるんですかあ!?】
シズク達が慌てて窓枠に指をかけて落下するのに耐えている横島を助けに向かうのを見ながら、私は両腕で下着を隠すように腕を組んでその場に蹲り
(あの槍を投げた奴……絶対殺す)
横島に下着を見られた上に、反射的に横島を殴ってしまう原因となったあの槍の持ち主を見つけたら絶対殺すと心に決めた所で
「サイズ大きいけど、無いよりましよ。着てなさい」
頭の上から掛けられたサイズの大きいシャツを見て、ありがとうございますと呟き慌ててそのシャツを着込むのだった……
外伝リポート 外史からの来訪者 その2
久しぶりのギャグ落ちで締めて見ました。やっぱりこういう感じの話を書いているほうが楽しいですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします