シズクが大人になって、やっとシズクの眼魂が完成し……家に戻るまでは大人の美人だったんだが……
「……むう……また竜気が尽きた……」
家に入るなりぽんっと言う乾いた音を立てて、見慣れた子供の姿に戻ってしまった。視界の隅で蛍がガッツポーズを取っているを気にしながら
「大人の姿を維持するのは難しいんか?」
シズクの大人の姿は美人だし、綺麗だし、強いし、側にいてくれるととても安心するんだけどなあと思いながら尋ねると
「……あれは私の竜神としての面が強調されている姿だ。竜気が一定以上無いと姿を維持することは出来ない。まぁ今の姿でも成れないことはないが……」
「なれないことはないけどなに?」
蛍がそう尋ねるとシズクはニヤリと笑いながら、俺を指差して
「……いろんな意味で喰われる覚悟はあるか?」
ライオンも真っ青の肉食獣の笑みで笑うシズクにありません!と即答し、キャットとタマモを抱え、頭の上にチビとモグラちゃんを乗せて逃げるように自分の部屋に逃げ込むのだった……
「……冗談だったんだがな」
「シズクが言うと冗談に聞こえないわよ。でもまぁ嘘なんでしょ?」
「……さぁ?どうだろうな?ただ少なくとも……横島の血や唾液を吸収すれば竜気も増幅出来る……無論それ以上の物をいただいても構わないがな」
くっくっくっと笑うシズクに蛍はやっぱりこのロリ娘危険だわと呟くのだった……
なおこのやり取りを見ていたタケルやルージ達は見た目は子供だが、過激な発言をした事にドン引きしており門矢は門矢であのロリ娘どうしてくれようかと拳を握っている蛍の隣で
(こっちの俺めっちゃ苦労してる)
俺よりもいい暮らしをしていると嫉妬していたが、この生活はこの生活で辛いものがあるなぁと呟いているのだった……
部屋で着替えを終えて、リビングに戻るなり俺の腕の中から飛び出したタマモとキャット。リボンも外しているので、どっちがどっちか判らない中、俺は目の前で並んでいる俺を見つめてくる2匹の子狐を見つめていた……
(う、うむう……どっちだ)
鳴きもせずじっとこっちを見つめてくるタマモとワンと鳴くタマモ……ずっと一緒にいるのだから、これを間違えるわけには行かない……
「こっちがタマモでは無いのか?」
「俺はこっちだと思いますよ」
アランとタケルがそれぞれ違うタマモを指差して俺にそう言う。確率は二分の一……当たる確率も外れる確率も5分だが……これを外す訳にはいかない
「みむ」
「うきゅ」
「……外せ」
きっと俺なら判ると言う信頼をその目に映して俺を見ているチビとモグラちゃん。その隣で外せと黒い顔をしているシズク……
【そんな事でタマモちゃんは怒らないと思いますよ?】
「そうよ?そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?」
おキヌちゃんと蛍が笑いながら言うが、これを外すのは俺としてありえない
「判るのか?」
門矢が笑いながら尋ねてくる。からかうような声の感じを感じて若干の苛立ちを感じながら
「頑張ってください!」
俺を応援してくれるルージにおうっと返事を返し、目を細めて2匹の子狐を見つめる
「「ピコピコ♪」」
体格も尻尾の数も全く同じ。しかも普段つけてやっているリボンも無いから外見で判断するのは無理だ……早く早くと言わんばかりに尻尾を振っている2匹の子狐をゆっくりと見つめる
(こっちは……なんか違う?)
左の方で尻尾を振っている子狐はなんか違うと思う。なので右の方を抱っこすると
「クウ♪」
嬉しそうに尻尾を振り頬を舐めてくるタマモ。そして左のほうの狐は
「ワン!ワンワン!!!」
犬のように鳴き始める。はー良かったなあ……タマモを間違えなかった事に安堵していると
「うきゅうー♪」
「みむう♪」
遊べーと擦り寄ってくるモグラちゃんとチビを抱っこすると、ワンと犬のように鳴いているタマモが歩いてきて
「ワフ?」
自分も良い?と言う感じで首を傾げているので、タマモを膝の上に乗せて両手を広げながら
「おーおいでおいで」
「ワン♪」
擦り寄って来たワンと鳴くタマモも抱き上げて、擦り寄ってくるチビ達と遊び始めるのだった……どうせ俺には難しい話なんて判らないし、蛍とか神宮寺さんが話を纏めてくれるだろと思うから……
突然ワンと鳴くタマモが増えたのに全く意に介した素振りを見せない横島。むしろタマモと一緒に膝の上に乗せて
「タマモドッグ……タマモポチ……なんかちゃうな」
ワンと鳴くタマモの名前を考えている。ドッグとポチってあんまりに適当すぎるのでは無いだろうか?そしてワンと鳴くタマモは横島の膝の上から降りて新聞を引きずって来て横島の前に置いて
「ワン!」
前足で文字を指差しているのか、横島が屈みこんでその文字を読み上げる
「えー?き・や・つ・と?キャット?」
ワンって鳴いているのに、名前が猫ってどういうことよ……
「ワオーン♪」
正解と言わんばかりに嬉しそうに鳴くキャット。と言うか本当にキャットって名前なのね……
「そうかー。お前はキャットって言うのかー。ワンって鳴くのに猫か……まぁ良いか、おいでーキャット」
「ワンワン!」
私達の話し合いに参加せずにチビとかと遊んでいる横島に溜息を吐きながら
「じゃあ眼魂探しだけど……なんか心当たりはある?」
タケルとアランに尋ねる。英雄の眼魂とやらは好きな場所などもあるので、そこを探すのが早いと言う結論に成ったんだけど
「んーすいません。俺は良く判りません」
「私もだ。すまないな」
タケルとアランは小さく首を振る。2人とも別の世界の人間だから心当たりが無いって言うのは判るんだけど、なにか思いついたりしてくれないかしら?一応2人の所有物なんだから
「そうだな。ロビンフッド眼魂みたいに誰かが拾っている可能性があるんじゃないか?」
門矢がそう呟く、確かにエジソンとかはドクターカオスが拾っていたことを考えると……
【ヒミコ眼魂は琉璃さんが持ってそうですよね?あの人も巫女さんですし】
「貴女も巫女さんだけどね?おキヌさん」
ぷかぷかと浮きながら呟くおキヌさんにそう突っ込みを入れる。最近黒くなるのが少なくなった代わりにボケてきているような気がする……
「えーと琉璃さんって誰ですか?
ルージ君が首を傾げながら尋ねてくる。どうやら門矢やルージ君の世界には居ないようだ
「GS協会の会長よ、人をからかったりする厄介な性格の人だけど、一応頼りになると思うわ」
私的には横島を奪おうとしているような気がして、本当は関わりたくない人なんだけどねと心の中で呟く
「ヒミコ眼魂か……未来予知とか出来るから琉璃って人のところを尋ねてみても良いですよね?」
「んー未来予知なら柩ちゃんも出来るぞ?頼めば多分予知してくれるんじゃないか?」
よしよしとタマモとキャットの顎の下を擦りながら横島が呟く
「未来予知できる人がいるならその人に会いに行けば良いじゃ無いですか。その後に琉璃って言う人のところを尋ねればいいんじゃないですか?」
まぁ確かにその通りなんだけど、正直私は柩には会いたくない……私の渋い顔を見た横島が
「蛍はやっぱり柩ちゃん苦手か?」
「あれを好きって言えるのは同じ狂っている人間だけよ」
じゃあ俺は狂ってるんか?とタマモとチビとモグラちゃんを抱き抱えて悲しそうに呟いている横島。自分でもかなり口が悪いと思うけど、これは本当の事だから仕方ない
「えーとそこまで言う柩さんってどんな人なんですか?」
冷や汗を流しながら尋ねてくるタケルに私は苦笑しながら
「自分の力のON・OFFが出来なくて、いっつも脳内麻薬でラリっている変態」
「……やめておきましょうか?会いに行くの?」
全員がうんうんと頷く、アランだけは良く判っていないようで
「脳内麻薬とはなんだ?」
「さぁ?」
横島に尋ねるが、横島も首を傾げている。馬鹿と天然が組み合わせると大変なことになるのね、収拾がつかないじゃない
「シズク殿!掃除終わりましたぞ!」
「……ご苦労。じゃあ次は草むしりだ」
「了解しました!」
御成の元気な声とそんな御成をこき使うシズク。御成はこの世界に居る間に霊力を使えるようになりたいらしく、私とかおキヌさんに良く話を聞いてくるんだけど、今日はシズクに頼んだから良いようにこき使われているようにしか見えないわね……まぁ本人が気にしてないようだから、私が言う事じゃ無いんだけどね……さてとじゃあ瑠璃さんの所に行ってみましょうかと言って立ち上がると、家の外からクラクションの音が響く、窓から顔を出すと
「美神さん?どうしたんですか?」
大型のバンが止まっていて、その運転席から顔を出している美神さんにそう尋ねると
「冥華おば様が眼魂を持っているらしいの、それを渡しても良いけど、なんか条件があるんだって……もの凄く嫌な予感がするけど、行きましょう」
冥華さんに関わると碌なことがないのは判っているが、眼魂をタケルとアランに返さないといけないから行かないわけにも行かない、それにあの眼魔が冥華さんの所に現れないとも言い切れない。私は嫌な予感を感じながら、準備を整え美神さんの運転するバンに乗り込むのだった……なおシズクと御成は家の事もあるというので家に残ったのだが
「……集中しろ」
「むむむ……かアーッ!!!」
「……ふざけているのか?」
シズクの手から水の鞭がのびて御成の背を叩く
「アーッ!!!!」
御成はシズクの超スパルタの指導を受けて、涙目で絶叫していた。私達はそんな御成を複雑な気持ちで見つめながら家を後にしたのだった……
美神さんの運転するバンは冥華さんが運営する六道女学院で止まった。話には聞いていたけど本当におおきんやなあ……卒業生である美神さんに案内され、学園長室へと向かう。ちなみに俺はタマモとキャットを抱っこして、頭の上にチビ。肩の上にモグラちゃん。そして……アランの面倒を見ていた、見た感じ俺と同じ歳っぽいのだが、どうもアランの世界には無い物が多いらしく
「ほう?あれはなんだ?」
窓の外を見て興味深そうに何度も何度も尋ねてくる。これで
「あれはハードルだな」
「ハードル?あれは何をするものなのだ?」
「飛ぶものやな」
あれもこれも気になるのか、さっきから俺に何度も何度も質問してくるアランの面倒を見ていた
(なんで俺がイケメンにこんな事をしないとあかんのや)
心の中でそう呟くが、連れてきたのは俺だ。だからアランに文句を言うことも出来ず説明しながら女学院の廊下を歩く
「みむー♪みみー」
「うきゅ!うきゅ!」
モグラちゃんとチビが肩の上で楽しそうに鳴いているのを見ていると俺もだんだん楽しくなってくる……
「それで今回は冥子さんは居ないんですか?」
「いないって聞いてるけどね」
美神さんと蛍の話を聞いて小さく安堵の溜息を吐く、冥子ちゃんは嫌いじゃ無いんだけど、会う度にショウトラとかに突撃されたり、押し潰されたりしているからなぁ……もう少し突撃してくる勢いとかを考えてくれると良いんだけどなあ……そんな事を考えながら歩いているとアランが眉を顰めながら
「なぜここはこんなにも騒がしい、頭痛がしてきたぞ」
嫌そうに呟く、だけどこれは仕方ない事と言うしかない、六道女学院はGSやオカルトに関係する女子生徒ばかりが入学している。どういうことかと言うと……
「見て!美神お姉様よ!」
「本当に綺麗ねー」
「それにあっちは前のGS試験で上位で合格した芦蛍さんじゃない?」
美神さんや蛍を指差してきゃいきゃいと盛り上がっている女子生徒。正直騒がしくて俺も若干頭痛を感じてきた……
「女の園って本当に怖いなあ」
「ですね……」
門矢とルージ君が疲れたように呟いている。何か嫌な事でもあったのかな?聞いたら、なんかむかつきそうだから聞かないことにしよう
「コン♪」
「ワン♪」
腕の中でこっちを見ているタマモとキャットを見て、学園長室に向かうまで我慢しようと思うのだった……なお横島は気付いてないが、その黄色い歓声の中にはちゃんと横島のことを言っている女子生徒の声も混ざったりしているのだった……
「良く来てくれたわね~令子ちゃん、それとタケル君とアラン君だったかしら~?」
この独特の間延びした声。冥子ちゃんも冥華さんも喋り方が同じなのは遺伝なのかな?とくだらない事を考えていると
「冥華おば様。眼魂を見つけたと聞きましたが……見せていただけますか?」
「ん~駄目よ~」
駄目と言う冥華さんに驚いていると冥華さんは俺達を指差して
「先にお願いがあるのよ~今回のGS試験で活躍してくれた横島君達の模擬戦をして欲しいのよ~?」
うわぁ……バリバリに嫌な予感がする。美神さんや蛍も同じようで眉を顰める中、冥華さんは楽しそうに笑いながら俺達を見てえーと、えーと……誰と誰にお願いしようかなあと言う姿に激しく不安を覚えるのだった……
だ、大丈夫か?俺はこの世界の冥華さんに案内された解説席に腰掛けて、目の前の模擬戦会場を見ていた
「うわ……なんでこうなるんかなあ?」
「問題ない。天空寺タケルと子供程度、この私が居れば何の問題も無い」
横島とアランがコンビを組んでいて、そして向かい合っているのは
「アランが相手か……正直言って不安だけど、頑張ろう?ルージ君」
「は、はい!頑張ります!」
ルージとタケルがコンビを組んでいる。アランとタケルは恐らくライダーの力を使うだろうけど、変身すると反動のある横島は直ぐに変身するとは思えないしなぁ……
「大丈夫なのか?」
隣に座っているルシ……いや、芦蛍に尋ねると
「全然問題ないわ。最近の横島は大分成長しているからね、まぁ見てみなさいよ」
自信満々と言う感じで笑う蛍。GS試験が終わったばかりなら使えるのはサイキックソーサー位のはずだけど……どうなるのか心配だな、ルージには手加減するように言っておいたけど……どうなるものやら……
【横島さん!頑張ってくださいねー♪】
「みむうー♪」
「うきゅー♪」
「コーン♪」
「ワーン♪」
おキヌちゃんとマスコット軍団の応援に軽く手を上げて答える横島。そして冥華さんが会場に姿を見せて
「では~これより模擬戦を始めます~皆しっかり見て勉強するのよ~では始め~」
なんか力の抜ける冥華さんの掛け声で模擬戦が始まった。そしてルージとタケルとアランが同時に動く
「ムラサメライガー!」
【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】
【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】
「「変身!」」
タケルは腰のベルトのレバーを引き、アランは左腕に装着した機械のボタンを押し込む。
【カイガン!オレ! レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!】
【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】
タケルは黒のパーカーとオレンジ色の顔したライダーに、アランは白いパーカーに潜水ゴーグルの様な物を身につけたライダーに……そしてルージは黒いライダースーツに包まれ青と白の鎧が装着されて行き、ライオンを模したヘルメットと大太刀を掴んで構える
「うわ……俺明らかに見劣りしてるなあ……」
横島はそう呟きながら、懐からバンダナを取り出す……あれはまさか……
「さーて、行こうか心眼」
【うむ。心配するな、私がフォローするのだから何の心配も無いぞ】
どうもこの世界では心眼は消滅して無いのか……こういう所も違うのか……俺の世界では心眼は消えてしまい、ルシオラを失った後に修業をした際に再び心眼が誕生したが2代目なのでその先代とも言えてGS試験で最後まで俺に教えてくれたあいつが別の世界でもこうしていまも存在してくれているのは嬉しい
「さてとじゃあ……軽ーく行くか」
横島は懐から数枚の札を取り出す、だが見た所破魔札じゃ無い見たいだが……あれで何をするつもりだ
「急急如律令!水精招来ッ!!!我に仇なす者の視界を奪えッ!」
「「うわあ!?」」
札をタケルとルージへと投げつける。その瞬間札が弾けて2人の周囲に霧を発生させる、タケルとルージの悲鳴が重なる。俺は目の前の光景を見て心底驚いた
(お、陰陽術!?)
見た事はあるが、俺は全く使えない陰陽術を使っているこの世界の横島は陰陽術を使えるのか!?
「バックアップは俺がする!頼むぜアラン!」
「私にはそんな物は必要ないんだがな……まぁ良いだろう。背中は任せるぞ、横島」
どうもこの世界の俺は陰陽術によるバックアップに特化してるのか……これはどうなるか判らなくなったな……今も霧の中で思うように動く事の出来ていない、タケルとルージに向かっていくアランを見ながら俺は先の見えないこの模擬戦がどうなっていくのか?の予想を始めるのだった……いくらバックアップが万全でも、アラン1人でタケルとルージを倒せるとは思えない、あのネクロムとやらには時間制限があるらしいからな、それに横島の変身もかなり反動があるらしいから、好き好んで変身しようとは思わないはずだろうし……全く予想がつかないこの勝負がどうなるのか?俺は少しだけそれに興味を持ちながら、ネクロムに殴られているゴーストを見つめるのだった……