別件リポート 美神美智恵の捜査録
漸く辞令が降りて人間界に行く許可が出たが、香港での捜査の命令で日本ではなかった事に心底落胆した
(小竜姫とメドーサは既に出会っているというのに……)
私もかなり早い段階で記憶を取り戻し、人間界へ行ける様に要望書を出し続けていたが、ずっと却下されていた
(しかも姉上が横島に興味を持つし……)
逆行する前の世界では既に婚姻を結んで魔界を後にしていた姉上だが、今もまだ魔界正規軍に属ししかも横島に興味を持つとか、私にとっては悪夢としか言いようが無い
「ワルキューレ?どこ行くの?店通り過ぎているけど?」
おっと私とした事が……考え事に没頭しすぎていたようだな。美智恵にすまないと謝ってから
「しかし人間としての姿をしている時は春桐魔奈美と名乗っている。なので魔奈美と呼んでくれ、どこにガープの手の物がいるか判らないからな」
今度は美智恵がごめんなさいと謝るのを聞きながら、美智恵の行き着けだと言うレストランへと足を踏み入れたのだった
「なかなかやるな」
その個室とやらは結界などで護られており、レストランでありながら強固な要塞としての機能を持っていた
「昔からの知り合いだからね。結構融通利くのよ。それで魔奈美は何か食べる?」
メニューを差し出しながら尋ねて来る美智恵。あまり食事は必須ではないが、断るのもおかしな話か
「頂くことにする。そうだな……」
メニューをざっと確認するが、正直私は余り人間の食事には詳しくないので
「すまないが良く判らない。お前と同じ物で良い」
「ん、判ったわ。じゃあ連絡するわね」
備え付けられた電話で料理の注文をする美智恵を見ながら、私は魔界の情報屋から得た情報と正規軍で得た情報を纏めた手帳を鞄から出し、情報交換の準備を始めるのだった……
お互いの手帳を交換し、料理が来るまで情報交換をする事にしたんだけど、魔奈美の手帳を確認していると気になったになった事があったので尋ねて見ることにした
「この魔界の情報屋って言うのは信用出来るの?」
情報屋って言うのは総じて自分の利益を重視する。そんな人種を信用できるのか?と尋ねると
「ああ。この男は信用出来るよ。私も数回会った事があるだけだが、どれだけ生きているかも全く判らん。それこそもしかすると1000年近く生きているのかもな」
魔族は長命だが、それでも1000年って言うのは大げさじゃない?と言うと魔奈美は笑いながら
「何を勘違いしているか知らんが、情報屋はヒャクメ族の元神族だぞ?なんでも見てはいけない物を見たと言うことで目の殆どを潰されて魔界に放り出されたらしいが……生き延び、今では凄腕の情報屋として活動している」
昔の神族は殺せという風潮の魔界でよく生き延びて、そして信用を手にしたものだ。その手腕は正直驚くよと言う魔奈美。確かにそれは驚くべき手腕よね……でも確かに話を聞く限りでは信用できそうね
「それでその情報屋がくれた情報って何なの?」
「ああ、もしかすると近い内に人間界に真の蠅の王が訪れるかもとな」
はい?真の蠅の王?……それってまさかベルゼブル?と尋ねるとそうだと返事を返される
「はぁ!?なんでそんな大御所が人間界に訪れるのよ!?おかしくない!?」
ガープだけでもおかしいのになんでそんな大御所が態々人間界に来るの!?と怒鳴ると
「落ち着け。ベルゼブル様は穏健派の魔王だ。しかしかつての神魔大戦の折自分の力を貸し与えた魔族が暴走し、蠅の王を名乗り始めたことに大層ご立腹でな。その蠅の王を名乗る偽者を倒す為に人間界に訪れるらしい」
ベルゼブルが人間界に来たらそれだけでパニックになりそうなんだけど……
「私の任務の1つがそれだ。ベルゼバブの捕捉。まだ詳しく聞いているわけじゃないが、情報屋の話と合わせると恐ろしいほどに信憑性が高い情報だ」
これは出来れば聞きたくなかった情報ね……思わず溜息を吐く。真の蠅の王と言えば旧約聖書にも名前が出てくるビッグネームだ。下手をすればバチカンが動いて全面戦争になりかねないわね……
「バチカンのほうには神族から使者が出ると聞いている、お前の危惧していることにはならないだろう。それでお前の手帳にある、おかしな魔力と言うのはどんな物なんだ?」
それはGS試験の前の日に観測された魔力らしいんだけど
「凄まじい魔力なのに、香港のGS支部には反応が無かったらしいの」
私が丁度捜査を終えてホテルに帰ろうとした時だ。空間が歪むほどの莫大な魔力を感じて捜査に向かったが、そこには何も無く。更に香港のGS支部に問い合わせてみたが、そんな物は観測されて無いと言われた
「それはおかしな話だな……ちなみに場所はどこになるんだ?」
地図を広げて、確かこの当たりと言って指差すと魔奈美の顔色が変わる
「ここになにかあるの?」
一応調べては見たが、特にこれと言った歴史がある訳でもないんだけど……
「人間は知らなくても当然だが。ここは人間界の中でも珍しい、神界と魔界の位相が全く同じ場所なんだ。現にそこを中心に神魔の大戦が起きた事もある」
神界と魔界の位相が同じ場所……話を聞くだけでも判る。ここが相当危険な場所だと
「でもここは原始風水盤が配置された場所じゃないわ」
そんな霊脈に満ちた場所ならそこに原始風水盤を配置した方がいいんじゃ?と尋ねると
「逆行の知識は役に立たないと思え、原始風水盤を使うというその考え自体が既に危険だ」
きっぱりと断言されてしまった。ここまで断言すると言うことは神魔の中でももう逆行の記憶は役に立たないっていう結論が出ているのね
「そうなってくると逆行の記憶が邪魔に思えてくるわね」
先入観というのは厄介だ。私自身1度歴史改変をやったから判る、ここでこうなる筈だ。ここはこうだったはずだという思い込みはどうしても付き纏う。もし逆行の記憶が役に立たないというのならそんな記憶は無いほうが良いと思えてくる
「そうも言ってられんさ。とりあえずは……そうだな。この場所の捜査をしてみようか」
私は原始風水盤の設置場所を調べてみたいと思っていたが、それもまた逆行の記憶を元に決めた事だ。逆行の記憶が役に立たないのならば、動くしかない。捜査の基本は歩く事と言うし……っとそんな事を考えていると料理が運ばれてきたので、机の上の資料を鞄の中にしまいながら
「まずは昼食。その後に色々回ってみましょう。結構気になるところも残っているしね」
まずは謎の魔力の反応があった場所。次は私が歩き回って気になった所を回って見ましょうと提案し、お昼からの捜査の方向性も決まった所で少し遅めの昼食を取るのだった……
ある意味前回の世界での全ての引き金となった美神美智恵との共同捜査は余り乗り気ではなかったが
(優秀だな。戦士とは違うが、実に優秀だ)
話術にしろ、政界やGS業界とのコネの使い方が実に上手い。私1人では決して捜査することのできなかった場所に美智恵のおかげで入る事が出来た
「うーん……私の勘も劣ってきたかなあ」
謎の魔力の反応場所までに、気になる所があるからと言って3箇所ほど回ったが、それは全て外れで、自信を無くした様に呟く美智恵。とは言え、そこまで仲が良い訳ではないので励ますことも無く地図を確認していると
(ん?これは……)
それはほんの少しの違和感だった。ペンで試しに回った場所に丸をつける……するとその違和感の正体が見えてきた
「美智恵!他に回る予定だった場所はどこだ!?」
「え?」
呆けている美智恵に地図を押し付けて丸をつけさせる、すると美智恵も気付いたようでその顔色を変える
「これ魔法陣……よね、こんな大きいの見たこと無いけど」
青い顔をして尋ねて来る美智恵に頷く、美智恵の霊感で回った場所全域を線で繋ぐと巨大な魔法陣が描き出されたのだ
「これまさかガープの仕業?」
「いや、違う」
ガープの仕業かと思ったが、それは間違いだ。これは相当古い術式だ、昨日や一昨日設置したものじゃない。それこそ何百年・何千年前の代物だ
「……香港に何があるというの?」
「それは判らないが、これだけの魔法陣を必要とする儀式……もしくは封印式が必要だったんだろう」
流石に私も知らないタイプの魔法陣だから、この魔法陣が何の目的の為に配置されたのかが判らない。
(姉上だったのなら判ったかもしれんがな……)
姉上はアマイモン閣下の負傷の治療を行っている筈。連絡を取るわけにも行かない
「魔法陣の一角を破壊してみる?」
確かにそれは1つの手段ではあると思うが、リスクが高すぎる。これがもし封印などの結界だとしたら封じられている何かが姿を見せるかもしれない……
「1度魔界へ戻って情報を……『いや、その必要はあるまい。今はまだ知られるわけにはいかん』……何者……」
突然聞こえてきた第3者の声に驚きながら振り返り、目の前に広がったのは白い刃……それを見た瞬間。私は意識が遠のいていくのを感じるのだった
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「……結局これも外れだったな」
「ごめん」
申し訳無さそうに謝る美智恵に気にすることは無いと返事をし、何の印も付けられてはいない地図を丸めながら
「恐らく神界と魔界の位相が同じだからおきた、魔力か神通力の暴走だろう。ああ、間違いない。香港には今の所なんの危険性も無い」
1日調査した結果だ。今の段階では原始風水盤も配置されておらず、それらしい痕跡も無い。霊具の盗難事件は起きているが、霊具としても貴重だが、それ以上に骨董品としての価値が高いので人間が盗んだと言う線が濃いだろう
「最後に霊脈を見て別れよう、報告にも戻らないと行かんしな」
香港にいるかもしれないと偽の蠅の王ベルゼバブの姿も無かった。しかしそれは今の段階での話だ、暫くは香港に滞在して様子が見る必要があるかも知れんなと考えながら、私はその場を後にするのだった
【やれやれ、危ない所だったな。相棒】
「ブルルル」
歩き去っていくワルキューレと美智恵を見つめる影……巨大な化馬に跨った骸骨……都津根毬夫と名乗りGS試験に参加していた魔人ぺイルライダーだ。その手には先ほどまでワルキューレと美智恵が見ていた筈の地図が握られており、手にした鎌は青白い光を放っていた。それはワルキューレと美智恵の記憶の一部であり、彼らが信奉する姫と呼ばれる魔人の復活を妨害されるわけには行かないと、手にした鎌でワルキューレと美智恵の霊体から切り裂かれた彼女達の記憶だった……
【記憶の抹殺……こういうのは得意じゃないんだが……姫が目覚めるまで妨害されるわけにはいかんからな】
ぺイルライダーの足元には原型を留めぬほどに切り裂かれた無数の蠅のような悪魔の死骸が転がっていた……それはワルキューレが探していた偽の蠅の王ベルゼバブの分身だった
「ば、化け物が……」
【まだ息があったか、失せろ。貴様などの下等な存在が我らが姫を見ることなど万死に値する】
鎌に切り裂かれ消失するベルゼバブを確認してからぺイルライダーは溶ける様に闇の中へと消えていくのだった……
正史では原始風水盤が配置されるだけだった香港。だがここにも逆行による歴史改変の影響が出始めているのだった……
そして神魔。人間達が再びのガープの侵略に備えている頃……逆行により生まれた世界の歪が大きくなり始めていた……
とある世界の寺にて……庭にて青年が背伸びしていた。
「今日は良い天気だな…頑張って眼魂を取り戻さないとな」
そう呟いた彼は歩き出す。
また別世界
「んじゃあ行って来るな~」
「行って来ます」
「気を付けてね~」
とある家から出た青年と少年に机に座った女性が見送る中で歩き出す。
「今回の依頼は古いビルに憑りついた地縛霊の除霊だ。いつも通りに行こうぜルージ」
「はい!頑張りましょう横島さん!」
そう会話しながら2人は歩いて行く。
彼らや横島も予想していなかっただろう……
後に彼らがとある事で出会う事になると言うのを……
外伝リポート 仮面ライダーディケイド×ゴースト&ウィスプ! GS平行世界大作戦!へ続く
次回はコラボリポートになります。鳴神 ソラ様とのコラボになります。私とソラ様で交互に書いているので、ソラ様が書いてくださった作品は台本形式となっておりますので、それだけはご理解の程をお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします