リポート26 これから その4
GS試験が終わってから数日後、私の事務所に優太郎さんとドクターカオスが揃って尋ねてきた
「珍しい組み合わせね?知り合いだったの?」
なんで錬金術師のドクターカオスと東京でやり手の若社長の芦優太郎さん……接点なんてどこにも無いと思うんだけど……見た感じかなり親しそうなのでそう尋ねると
「うむ。ワシがヨーロッパに拠点を置いて活動している時に会ってな、なかなか才能に溢れているので少しの間弟子として面倒を見ておったのじゃ」
「へぇ……なかなか面白い経歴ね。優太郎さんは」
蛍ちゃんにGSの道を進ませているのも、ドクターカオスとの出会いがあったからなのかもね
【どうぞ】
ちょうどそのタイミングでおキヌちゃんがキッチンからお茶を運んで来てくれた
「ありがとう、頂くよ」
「うむ。ありがとう」
湯呑みを受け取って穏やかに笑っているドクターカオスと優太郎さん。まぁ別に今日は除霊の依頼も入ってないし、今後の横島君の修行の方向性を考えるつもりだったから暇だけど……ただお茶を飲みに来たっていうのなら追い返そうかしら?
「GS試験で小僧が使ったベルト、あれをもう1度詳しく分析してみようと思っての」
……確かにあのベルトの力は私達の常識を遥かに凌駕している。眼魂を調べることは出来たらしいけど、やはり大本はあのベルトを調べないといけないのだろう
「でもあのベルト……横島君持ってないのよ?」
必要な時に現れる。そう言えば聞こえは良いが、いつ爆発するかもしれない爆弾を使っていると考えるといい気分はしない。そんな物をどうやって調べるつもりなのか?と尋ねると
「1度目の前で変身させてみようと思っているんじゃが?心眼がなんとかしてくれる筈じゃ」
ドクターカオスの言葉に眉を吊り上げる。凄まじい後遺症があると判っているのに、それをあえて使わせる。しかも心眼がなんとかしてくれるじゃろう?と言うあまりに行き当たりばったりの計画。流石にそれを2つ返事で了承することは出来ない。私が険しい顔をしているのに気付いた優太郎さんが持ってきていた物を机の上に乗せながら
「一応私の方で霊体治療薬などは最高級の物を用意させて貰った。まだ使っている回数が少ない内に正確に調べておくべきだと思うんだが」
アタッシュケースいっぱいの薬のビン。その1つを拝見しますと言ってアタッシュケースの中から取り出す
(良くもまあ、これだけのものを……)
配合材料を見ると、マンドラゴラの名前。マンドラゴラと言えば、霊薬の材料としては最高峰の物で、味が酷くなる事の多い霊薬を回復させる薬の中でも使用すれば味は良くなるし、効果も素晴らしい物になる。それだけの品をアタッシュケース一杯に用意した優太郎さんに呆れながら、しかしここまで準備してくれたのに断るのは悪いし、何より2人の言っていることは間違いではない、いい機会だからちゃんと調べておいた方が良いわよね
【どうするつもりですか?……私は正直あんまり賛成できないですけど】
おキヌちゃんの言うことも判るけど……やっぱり1回調べておいたほうがいいのは間違いない
「私達も参加するけど良いわよね?」
科学者って言うのは厄介な人種だ。もし熱が入ると横島君の体力を考えない実験とかをやりかねないので、一緒に行くわよ?と言うと判っていると返事を返す、ドクターカオスに一安心しそのまま横島君を迎えに行ったんだけど……
「はえ?美神さんにカオスのじーさんに優太郎さん?今日何かありましたっけ?」
チビとモグラちゃんとボールで遊んでやりながら、膝の上にタマモを乗せた横島君の姿にGSって何だっけ?と思わずには居られないのだった……
蛍の家の高層ビルの地下……なんでビルの下にこんなの場所があるんだろう?俺は辺りを見回しながらそんな事を考えていた
「……お前。本当の霊能者だよな?」
「そうに決まってるでしょ!?」
シズクにそう尋ねられ、大きな声で返事を返す蛍を見ていると
「どうだい!なかなかだろう。霊能者といえど適度な身体能力は必要だ。そう行った物を鍛える私の考えたジムは!」
自信満々に言う優太郎さん……確かに凄い、確かに凄いと思うけど……
「蛍ちゃん、あんまり筋トレをするのは良くないわよ?何事もほどほどよ?これは……ボクシングの世界チャンピオンでも目指してるの?って私でも言うわ」
うん……だよな。吊り下げられたサンドバッグにジムとかで見る大型の機械……これでトレーニングしていると思うと、蛍がムキムキになりすぎて嫌だなあと思わずにはいられない
「違うからね!?私もはじめて来るからね!?」
俺の視線で考えている事が判ったのか、慌てて近寄ってくる蛍。あ、ここでトレーニングしているわけじゃないのかと俺は思わず安堵の溜息を吐いた
「みむ?」
「うきゃー?」
チビとモグラちゃんは初めて見る機械に興味津々という感じで叩いたり、爪で突いたりしている。壊したら恐らく弁償できないので慌てて抱き抱えていると
「さ、皆さん。こっちです、こっちに霊能力の放出用のトレーニングルームがあるので」
優太郎さんに案内されてビルの地下へ地下へと向かっていく
「コン!ココーン!!」
「みーむ!みーむうう!」
「うきゅー!!!」
地下に向かっていく途中でチビ達がやけに元気になっているのに気付いた
「ちょいちょい!落ち着け落ち着け!!」
俺の頭の上や肩の上をもぞもぞ動き回っているチビとモグラちゃんを捕まえようとするが、するする動き回るので捕まえる事が出来ない。もうーどうしたんだよ、急に元気になっちまって。まぁ元気なのは良い事だけどな
【地下から凄まじい霊力が噴出しているのが理由だな。覚えておけ、横島。これが霊脈と言う土地の事だ】
心眼の言葉にへーっと返事を返す、霊脈って言うのは何度か聞いていたが、こんなにも効果があるものなんだなあ……そちゃ凶暴な悪霊とかが集まるのも納得だわ……そんな事を考えていると長い階段が終わる。
「いつの間にこんなの作ったのよ?」
蛍が呆れたように呟く。なんか、こう神殿っていう感じでそこに居るだけで思わず背筋が伸びる思いだ……何となく妙神山に似ているなあと思っていると
「小僧。ほれ」
ぽいっと投げ渡されたボールを受け取る。なんだこれ?と俺が首を傾げていると
「それを捻るとコードが出る、それを手足につけて、何とか変身してみてくれ」
優太郎さんがそう言う、ベルトを出せって事か……でも出し方判んないし、何より美神さんが良いと言うかと思っていると
「いつまでも判らないものを使うのはGSとしては致命的よ。良い機会だから分析して貰いなさい」
……まあ確かに俺自身よく判らないものだし、カオスのじーさんや優太郎さんが分析してくれるというのなら素直にお願いするべきだろう
「シズク、チビ達を頼むわ」
何かあると危ないのでチビ達をシズクに預ける、シズクが抱きかけても動き回っていたが
「……大人しくしていろ」
シズクの鋭い眼光にびくうっと身体を竦めて大人しくなった。でも出来ればもう少し優しく言って欲しかった
「コン」
頑張れという感じで頬ずりして肩から飛び降りるタマモ。出来るって言う前提で話を進められているけど、ベルトをどうやって出すか判らないと言うと優太郎さん
「それも考慮してる。無理そうなら諦めるから、やるだけやってみてくれ」
「はぁ、判りました」
でも本当にどうすれば良いか判らないんだけどなあ……首を傾げながらどうしようかと考えていると
「横島、頑張ってね」
蛍に笑いながら背中を押されて一歩前に踏み出す……出来なくても良いって言うんだからやるだけやってみるか……
「えっとこの中にはいれば?」
目の前にあるガラス張りのドームを見て、引き攣った顔で尋ねると優太郎さんはにこりと笑いながら
「その中に霊力が収束しやすいようにしているんだ。少しでも効率が上がるようにね」
そうなんだ……てっきり暴走したら危ないから隔離されるのかと思ったと安堵の溜息を吐く
【良し、では行くぞ横島】
心眼の言葉に判ってると返事を返し、俺はそのガラス張りのドームの中へと足を踏み入れるのだった……
本当は横島にあのベルトを使わせたくは無いけど、後遺症が更に酷くなる可能性があるのなら今の内にしっかりと調べて、今後使わせてもいいものなのか、それとも駄目なのか?それを知る必要がある
『では横島君。まずは軽く座禅して霊力を収束してみてくれるか?』
お父さんがモニターを見ながら、マイクで横島に指示を出す。私もモニターを見ながら座禅する横島を見ていたんだけど……
「変化ないのう……」
10分立ったが、グラフには何の変化もない……おかしいわね。座禅で霊力を高める方法は何度かやっているんだけど……
「うーん。座禅とかは横島君には向いてないのかもしれないね」
元々ジッとしているのが苦手な横島だ。1人で座禅をしろと言っても集中出来ないのかもしれない
「……私が行こう、何かあっても私なら対処できるからな」
シズクはよく横島に霊力のコントロール法を教えているのでそれで何か変わるかもしれない。シズクの後を追って自然に付いていこうとしたチビとモグラちゃんを摘みあげて
「大人しくしててね?直ぐ済むから」
不貞腐れたように鳴くチビとモグラちゃんに苦笑しながらモニターに視線を戻す。そこでふと気になった
「ドクターカオス。マリアさんとテレサさんは?」
珍しく単独行動をしているドクターカオスにそう尋ねると、ドクターカオスはにかっと笑いながら
「料理講座に出掛けておるわ、良い傾向じゃろ?それに他人と一緒に行動することで精神面の成長になる」
確かにその通りね。マリアさんはかなり安定しているし、人間の心も大分理解している。その反面テレサさんはまだまだなので、そう言う講座に参加するのは良い事なのかも知れない
「……落ち着いて、ゆっくりと深呼吸をして、霊力の循環をイメージしろ」
【焦るな、いつもと環境は違うがやる事はいつもと同じだ。緊張することは無い、普段通りにやるんだ】
心眼とシズクのアドバイスを聞いて、やっと落ち着いたのか徐々にモニターに反応が出始める
【ふわあ……これ凄いんじゃないですか?】
モニターを覗き込んでいたおキヌさんが驚いたように尋ねて来る。最初は何の反応を示さない水色だったが、今は鮮やかな赤と緋色に染まっている。そして表示されている数値は97……
「私よりもマイト数が大きいわね……」
美神さんが若干の悔しさだろうか、そんな感じの色が込められた言葉……まぁ確かに私も少しばかりショックは感じている。100マイト近いのは正直驚くべき数値だと思う
『ふむ、小僧。その霊力を動かすことは出来るか?使っておった盾でも、篭手でも良い、なんでも良いから霊力を操作してみろ』
ドクターカオスの指示に頷き、横島が拳を握りこむとそれと同時に赤は水色に変わった
「っとまぁこんなもんじゃな、元々霊力が収束しやすい場所じゃ、しっかりと集中すれば周囲の霊力と同調して高い数値が出るが、動かすことが出来ないんじゃ意味は無いわ」
そう言うことか……霊脈の霊力と同調していたから高い数値が出ていたのか……チビ達が元気になっているのと同じ現象と言うことだ。その証拠に私と美神さんもマイトをここで測定したら常時の倍近い数値が出た。
「97の半分って事は40前後……GS試験の時よりかは少し強くなっている程度ね」
確かGS試験の時が30前半だったから10前後霊力が強くなっている。徐々にだが霊的成長期に入って来たのかもしれない
『どうだい?ベルトを出せそうな気配はあるか?』
お父さんがそう尋ねると横島は小さく首を振る……霊力の収束じゃ駄目見たいね。じゃあ何がきっかけになっているんだろうか?と考えていると
【イヒヒ】
ポケットからウィスプがジャックランタンの姿をしたウィスプ眼魂が姿を見せる
【イヒ♪】
横島とシズクの周りをくるくると踊っている……何がしたいのだろうか?じっと見つめていると
【判ったぞ。今からベルトを出してみる】
心眼の言葉の後横島に腰にはベルトが巻かれていた……
【これは物体に見えるが、その実は霊体だ。普段は横島の魂の中に眠っているのだろう、こちらから呼び寄せてみたがどうだろうか?】
お父さんとドクターカオスは凄い勢いでキーボードを叩き始める。話しかけて良さそうな雰囲気ではないので、入力が終わるのを待つ事にする。暫くするとキーボード入力の音は止まり、ファイルに保存しているのが見える
「それで優太郎さん、ドクターカオス。分析結果としては?」
美神さんがそう尋ねるが、お父さんもドクターカオスも
「まだ結果が出るには早い、もう少し待ってくれ。今分析したのはベルト自体。次は変身時した時の霊力の動きを見ないといけない」
落ち着くように言われた美神さんが、そ、それもそうねと返事を返し椅子に座るのを確認してから
『ありがとう。大分データは取れた。今度は実際に変身してみてくれるかい?』
お父さんがそう声を掛けると横島は立ち上がって、ウィスプ眼魂を掴んでベルトに押し込む
【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】
聞きなれてしまったベルトからの歌が暫く続いた後、横島の変身っと言う声が響き
【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?】
横島とウィスプがハイタッチをすると横島の姿が黒い鎧に包まれ
【OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】
黄色いパーカーを纏った姿に変化する、なんかこうしてみると本当に不思議よね。とても霊能力には見えないのに、あれでもちゃんと霊能力と言う辺り本当に不思議だと思う
「恐ろしいな、あの姿だけで180マイト……横島君の潜在霊力を引き出しているとしても……」
「そうじゃな……あれはオカルトでも説明できん」
お父さんとドクターカオスが何かを話し合っていると、横島がこっちを向いて
「俺これからどうすればいいんですかー?」
と尋ねて来る。何かぶつぶつと話し合っているお父さんとドクターカオスの頭に軽くチョップを叩き込んで
「横島が指示待ってるわよ?終わりなら終わり、続けるなら続けるって言ってあげてよ」
私がそう言うと2人はまたキーボードを叩きながら、横島に指示を出し始める。どうもまだ大分続くみたいね……
「結構長いですね」
「そうね、でも仕方ないんじゃない?」
分析が終わるまでは私達もここで缶詰だし……机の上でもそもそとモグラちゃんと遊んでいるチビを見ながら
「おキヌさん、お茶かなんかお願いできる?」
見てないうちに何かあると怖いので、おキヌさんにお願いすると判りましたと言って消えていくおキヌさんを見送り、お父さんとドクターカオスの分析が終わるのをのんびりと待つのだった……
ふーむ、面白い結果だなあ……私は心の中でそう呟いた。ウィスプ・ジャックランタン・韋駄天・牛若丸と続けて変身して貰ったが、1つ非常に興味深い事があったのだ
「ドクターカオス。これをどう見ますか?」
内包している霊力は韋駄天の方が圧倒的に多いのだが、実際に変身させて見ると牛若丸のほうがマイト数が高いのだ。神霊である韋駄天の方が上位なのに、英霊がそれを上回るとは……これは正直かなり驚いた
「恐らく、眼魂の中の質の差じゃな」
韋駄天は中身が無いが、牛若丸は今も眼魂の中に居る。その差がマイトの差となり出ているのじゃろうと言うドクターカオス。それは私と同じ分析結果だった……
(つまりもしもだが……韋駄天眼魂に八兵衛が入ってくれれば、更に能力が上がるのだろうか?)
もしそうならば、事情を知っている面々に眼魂に力を込めてもらえば、ガープ対策になるのでは?無論今の段階では机上の空論だが研究する価値は十分にあると思う
『では横島君。最後にブランク眼魂をシズク君に渡してみてくれ』
実験中に判明したのだが、霊力を放出することで中身の入っていない眼魂を生み出す能力を有しているらしく、研究の為に3個のブランク眼魂を作って貰った。1つは私、もう1つはドクターカオスがそれぞれ研究用の物として所持する事になり、そしてもう1個は今実際に使ってみる事にした、私だとカイガンアシュタロスなんて言われたもう正体バレのレベルなので無理だし、この中で最も適任なのはシズクなのでシズクの神通力を宿して貰おうと思っている
「これでシズクの眼魂が出来たとしても、私は実戦で使わせるのは反対ですからね」
念押しという感じで言う令子さんに判っていると返事を返す。分析の結果判ったのは、やはり横島君の身体に強い負担を掛けると言う事だった。眼魂の取替えをする度に横島君の潜在霊力がごっそりを削られている、恐らく今の段階では戦闘中に眼魂を取り替えることが出来るのは3回が限度だろう、それ以上は横島君の生死に関わってくる
「ウィスプなら消耗は少ない、どうしても使うと言うのならウィスプをメインに運用することになるだろうね」
ウィスプを使っている場合横島君の霊力の減少は非常に緩やかだった。もしも横島君が使うとすればウィスプをメインに使い、どうしても危険になった場合に別の眼魂を使うと思えば良いだろう
「まぁそれはあくまで最終手段として覚えておくわ」
それでも霊体痛を起こすのは判っているので使うのはあくまで最終手段。GSらしく破魔札などの普通の除霊手段を使うのが……
【カイガン!スカッパー!残念!ハズレ!また来週~♪】
「どわったああああ!?」
「……横島ッ!?」
背後から聞こえてきた凄まじい爆発音と横島君の悲鳴……絶句しているドクターカオスや令子さんの反応に、とんでもない事になっていると理解した私はだらだらと冷や汗を流しながら……
「こ、これって私の……「お父さんの馬鹿ぁッ!!!」……理不尽ッ!?」
蛍の霊力を込めたアッパーが私の顎を打ち抜き、天井に叩きつけられた後。今度は床に全身を強く叩きつけ、意識を失うのだった……
リポート26 これから その5へ続く
次回はスカッパーの話とマスコットであるチビとモグラちゃんの話をしようと思っています。そして優太郎が不幸なのは定番の落ちなのでこれからも大分出てくると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします