その1
リポート26 これから その1
「うあーって身体鈍ってんなぁ」
横島にボコボコに殴られ、俺自身も魔力中毒とやらで入院していたので身体が鈍りきってる気がする
「うるせえ、静かにしてろ。病院では静かにって知らないのか?」
東條に車椅子を押して貰って陰念が病室から出てくる。こいつは口は悪いけど、そう言うところうるせえんだよな。でもこればっかりは俺が悪いか
「わりぃ……」
素直に謝ると社会的常識を考えろと更にお小言を貰う事になった。口も悪いし、顔もいかつい割に本当におかん気質だよな……
「まぁまぁ、陰念先輩も伊達先輩も喧嘩しないでくださいよ。皆寺で待っているんで早く戻りましょう?」
俺達よりも早く回復した門下生達が寺で料理やお菓子を買って待っていると言うので、早く戻るかと呟くと背後からとちとちと言う個性的な足音が聞こえて振り返り
「横島ぁッ!?」
「ん?あーあーんーと、伊達?」
「……ん?どうかしたのか?」
「うきゅう?」
でっかい毛玉に運ばれている横島と顔色の悪い幼女が其処にいて、思わず俺は叫んでしまい、再び陰念に静かにしろと怒られるのだった。つうか俺の名前うろ覚えかよ……なんか割りとそれがショックだった
「モグラなのか……そいつ」
横島も今日退院らしく、歩けるらしいのだがモグラちゃんとシズクが駄目だというので運ばれているという横島と病院の外で話をすることになったのだが、横島も横島で急性魔力中毒で入院。しかも記憶がなんか混濁していると俺よりも遥かに酷い症状だったらしく、俺の名前がうろ覚えだったのもそれが原因だったらしい
「ああ。モグラちゃんだ、一応竜種らしい、でっかくなったり、小さくなったり、火炎放射したりする」
なにそれ怖い……大きくなったり小さくなったりするだけでもかなりのものだと思うのだが、火炎放射するは明らかに危険生物だろう
「その頭の上のはなんだ?」
車椅子の陰念が横島の頭の上を指差して訪ねると、横島はその何かを抱き抱えて
「グレムリンのチビだ。可愛いし、電撃が使える」
「みーむう!」
……GSだよな?こいつ。なんで妖怪をさも当然のように連れているんだ?再びチビとか言うグレムリンを頭の上に戻す横島は
「んで、九尾の狐のタマモ」
膝の上で丸くなっている狐を抱き上げて笑う横島に
「「「アウトだろ!?それ!?」」」
俺でも知ってる大妖怪をペットのように扱っている横島に俺はGSってなんだっけ?と思わずにはいられなかった……
「いや?タマモは良い子だぜ?めちゃくちゃ大人しいし」
「ガルルルル」
どう見ても大人しいようには見えないんだが……牙を剥き出しにして威嚇してくる。子狐だけどめちゃくちゃ怖い
「……横島。いつまでも無駄話をしているな」
「え?あ、ごめん」
横島の後ろの幼女が鋭い口調で告げる。兄妹見たいには見えないよな……誰だ?俺達の視線に気付いたのか横島が笑いながら
「紹介しよう、水神で竜神の我らの頼れるロリおかん。シズク様だ「……誰がロリおかんか!」ほわたああああ!?!?」
ザクウっと言う音を立てて氷柱が横島の頭に突き刺さり、ブシュウっと言う音を立てて横島の頭から血が吹き出る。赤面しているから照れ隠しだと思うのだが、その内容が余りに過激すぎる。鮮血に染まる病院前と言うホラーとしか言いようないあまりの光景に俺達が絶句していると
「なにやってるのよ!?シズク!また横島を入院させる気!?」
【横島さーん!?シズクちゃんなにやっているんですか!?】
試合の時に横島を応援していた幽霊と黒髪の女が横島を迎えに来たらしいのだが、噴水のように血を噴出している横島を見て絶叫していた
「……カッとなってやった。反省はしている」
若干しょんぼりとした様子で呟くシズク。だがさっきの光景を見るとなんとも言えない気持ちになる、見た目は可愛らしいがなんとも恐ろしい幼女だ。と言うかなんで水神で竜神とか言う規格外の存在と一緒にいるのかが理解できない
「まぁまぁ。俺は全然平気だから」
「「なんで平気なんだ!?」」
俺と陰念の突っ込みが横島に突き刺さる。なんであれだけ血を噴出していたのに傷がもう治っているのか理解できない。こいつ本当に人間なのか……!?
「んじゃな~」
モグラの上に乗って帰っていく横島を見ながら俺は同じように呆然としていると
「ま、まあ皆待っていますし、帰りましょう?」
東條の言葉に頷き、俺達は白竜会へと戻ったのだが
「「「「お帰りなさいッ!!!」」」
門下生全員に出迎えられることになり、俺も陰念もかなり驚いたが、帰ってくる場所があるっていうことのありがたみを実感して
「「おう!今帰ったぞッ!!!」」
出迎えてくれたことに感謝し、2人でそう返事を返し白竜会の門をくぐるのだった……後日GS養成施設としての白竜会は解散となり、寺としての白竜会として再結成される事をGS協会から通達され、俺と一部の門下生は白竜会を脱会することになるのだが……それでも俺の帰る場所は何処か?と言われたら、きっと俺は白竜会の名前を出すことになるだろう。気のいい仲間がいるこの場所は例えGS養成施設としての役割がなくなったとしても俺の帰る場所なのだから……
伊達や陰念といったGS試験で戦った相手と別れ家に帰って来たんだが
「えっと蛍さん?おキヌさん?もうそれくらいで良いんじゃないかな?」
家に帰るなり、塩を2袋水に溶かして、それをシズクに振りかけている蛍とおキヌちゃん。最初は水神だから大丈夫だろう?と思ったんだけど
「……し、染みるぅ……」
シズクはどうも塩水が弱点だったらしく、塩水をかけられ悶えている。幼女に塩水をかけている幽霊巫女と美少女。なんだこれ?なんだこれ?と言わざるをえない
「横島がそう言うならこれくらいにしておくわ」
真面目にぐったりしているシズクに大丈夫か?と尋ねると、あんまり大丈夫じゃないという返事が返ってくる。そんなに塩水は染みるのかと思いながら、熱湯で絞ったタオルでモグラちゃんを拭いてやることにする
「うきゅー」
外で遊んでいたので、ちゃんと綺麗にしておかないとシズクが怒るからな。今は怒られないと思うけど、元気になったら確実に怒られるので、怒られる前に綺麗に拭いてやる
「うきゅー!」
綺麗になったので机の上におろすと楽しそうに鳴きながら歩き出す。うむ、元気な事は良いことである
【たぁすけてええ!!】
久しぶりに聞いた牛若丸の悲鳴に振り返るとチビが牛若丸眼魂を転がして遊んでいたので、駄目だと言って取り上げる
「みーむう……」
しょんぼりしてるけど、駄目なものは駄目とちゃんと怒る。躾は大事だからな、変わりにゴムボールを与えると
「みーむみーむ♪」
楽しそうにボールを転がしているチビを見ながら、回収した牛若丸眼魂を手の上に乗せる
「大丈夫か?」
【主殿、私チビ苦手です、恐ろしいです】
牛若丸にごめんなと声を掛けてGジャンのポケットに入れる、牛若丸にとって1番安全なのは間違いなくここだろう
「なあ?俺のバンダナどこ?」
病院で起きた時から無かった心眼の事を尋ねるとおキヌちゃんが
【ちょっと汚れていたので洗っておきましたよ?】
綺麗に畳まれたバンダナを受け取って頭に巻くと
【ひ、酷い目にあった。あの洗濯機と言うのは危険すぎる】
どうも洗濯機で回されていた間も意識があったようで、非常に疲れた様子で呟く心眼。もしかしたら洗剤が目に染みたりしていたのかもしれない
「あーGS試験ってどうなったんだ?」
「逆に聞くけど、どこまで覚えてる?」
蛍に逆に問いかけられる……えーと……顎の下に手を置いて思い出せる範囲で思い出そうとする
「……ガープとか言うのが来て、えーとえーと」
なんかぼんやりしていて記憶がはっきりしない、なので心眼にも尋ねてみることにする
「なぁ?俺なにやったんだっけ?神宮寺さんを助けたのは覚えてるんだけどさ?」
なんでそれを覚えてるのよ!?と蛍に怒られたけど、妙に其処だけはハッキリと覚えている
【私も覚えてはおらぬ。何があったのだ?】
心眼も覚えてないかぁ……本当に何があったんだろうか。ガープが何もかも私は知っているぞと言わんばかりの態度で人間は醜いとか神宮寺さんには居場所など存在しないとかふざけたことを言うのでむかついたのは覚えているんだけどなあ……
「まぁ覚えてないならそれで良いわ。大した事じゃないし、えっとじゃあGS試験についてだけど、私も横島も試験に合格したわ。と言ってもまずは仮免許だからまだ美神さんの所で修行しないといけないけどね」
試合で取得権を手にしただけでまだ他にも審査があると聞いていたけど、いつの間にその審査を通ることが出来たのだろうか?と言う疑問は残るがGS免許を仮免とはいえ手にすることが出来た。少しとはいえ進歩があったという事で思わずガッツポーズをとる
【これから大変だと思いますけど、横島さんも蛍ちゃんも頑張ってくださいね!】
笑顔で頑張ってくださいと応援してくれるおキヌちゃんにおうっと返事を返すと
【イッヒッヒー♪】
「……え?」
かぼちゃ頭の小さい何かが目の前でくるくる回っている。なんぞこれ……?って言うかこの笑い声ってウィスプだよな?
「みーむう♪」
【イヒッ♪】
チビがウィスプ(?)と楽しそうに空を飛んでいる。えっとこれどういうこと?と蛍達を見てみるけど、蛍達も驚いているということはこれを始めて見たようだ。進化?進化したのか、眼魂って進化するとあんな不思議生物になるの?あまりに予想外すぎる光景に混乱してしまう
【イーヒーヒーッ!!】
「みむう!?」
空中宙返りでチビの後ろを取ったウィスプにぺちんと頭を叩かれ、墜落してきたチビを慌てて受け止めると
「みーむう!」
負けないぞーっと言わんばかりに勇ましく鳴いてウィスプとの追いかけっこを始めた。あ、遊んでいるのかな?それなら邪魔をしたら悪いかと思って好きにさせることにする
「うきゅ?」
ぴこぴこと前足を動かしているモグラちゃん。流石にモグラちゃんは飛べないなーと言って笑って頭の上に乗せると
「うーきゅーうー!」
チビの応援を始めるモグラちゃんの声が聞こえる。チビもそれに答えようと頑張っているのだが
【イヒー】
「みむ!?」
恐ろしいほどに小回りが利いているウィスプの方が速い、クイックターンからの宙返りとかを平気でやってのける。これは流石にチビが不利のようだ。ただ見ていると微笑ましい気持ちになるのでそれを見ていると
「……染みるぅ……」
「大丈夫か?」
まだ塩水が染みるのかぐったりしているシズクがずりずりと這い寄ってくる。濡れているのと、そのひどい顔色で暗いところで見たら叫んでしまいそうだ
「……ふぎゃっ」
「クフフッ!」
弱っているうちにと言わんばかりにタマモがシズクを攻撃しているので、こらっと怒りながら弱っているシズクを引っ張り寄せる
「大丈夫じゃないな?どう見ても」
「……炭酸もきついが、塩水もきつい……」
こりゃ駄目だな、頼れる我らのロリおかん様が完全にKOされている。俺にもたれかかる様に座らせると、蛍とおキヌちゃんの目つきが鋭くなった。何故に!?
「ねえ?横島」
「はいなんでしょうか?」
怒られるかもしれないと思ってびくびくしながら返事を返すと、蛍は俺に手を差し出してくる。え?えっとどうすればいいんだ?俺が首を傾げていると蛍は俺のバンダナと言うか、心眼を指差して
「心眼を少し貸して欲しいの」
え?心眼を?……怒られると思っていたので若干拍子抜けしながら、バンダナを解いて
「うん。判ったけど、どうするんだ?」
ちょっと心眼と話をしたいのよと言って心眼を持って行ってしまった蛍とおキヌちゃんを見送る。心眼って霊力の補助をしてくれるらしいから、それでアドバイスを貰いたいのかなあ?でもそれだとおキヌちゃんは何を聞きたいんだろうか?と思いながら部屋の天井を見ると
「みむきゃーっ!」
【イヒイッ!?】
チビのムーンサルトキックがウィスプを捉える。いつのまに追いかけっこから空中戦になったんだろうか?と思いながら俺はチビとウィスプの空中戦を見つめているのだった……
「あ、そう言えばさシズク。あの時のお守りどこ?」
GS試験の時にシズクがくれたお守りの姿が無いので、どこにある?と尋ねるとシズクは
「……お前が霊力に分解して取り込んで消えたぞ?」
「え?なにそれ怖い……」
それ大丈夫なの?とシズクに尋ねるとシズクは知らんと返事を返した。ええ……どうなってんだよ、俺の身体……竜の牙とか取り込んで大丈夫なのか?と不安に思っているといつの間にかだが、俺はシズクを膝枕するような格好になっており、戻ってきた蛍とおキヌちゃんに睨まれたのは言うまでも無いだろう……
何回か心眼と話をしようと思っていたんだけど、横島がいないと声を掛けても反応を返してくれない。
【それで私に話とは何だ?蛍魔ルシオラ】
やっぱり心眼も逆行した記憶があるのね。でもどうして私のことを知っているのだろうか?心眼はGS試験で消えたはずなので私を知っているはずが無いのに
【どうして心眼さんは蛍ちゃんの事を知っているんですか?前はGS試験で消えてしまったじゃないですか?】
おキヌさんがそう尋ねると心眼は一度瞬きをしてから
【私はずっと横島と共にいた。横島の魂の中で全てを見ていた……横島の悲しみも慟哭もその全てを見てきた、そして後悔し謝り続けた。私は横島の助けがしたかった、それなのに私に出来ることは見ているだけ、それが辛かった。横島の心を1番近くで見ていたから苦しくて辛くて仕方なかった】
平坦な口調だが、その口調だからこそ余計に心眼の苦しみを理解してしまって、私もおキヌさんも黙り込んでしまった。誰よりも近くで横島を見ていた言葉だからこそ、その苦しみが判ってしまったから
【やり直したいと、もう一度横島の助けになりたいと心から願った。本来かなうはずも無い願いが叶った、故に私は何をしたとしても、そう小竜姫様に逆らうこととなったとしても横島の味方であり……】
ここで言葉を切る心眼。横島の味方をしてくれるのはありがたいけど、これは下手をすると横島だけの味方であり、私やおキヌさんにとっては敵となる可能性もあるのよね……心眼の言葉がどう続くのかと不安に感じていると
【横島が幸福となる為にルシオラと結ばれるように尽力する】
「え?」
【え?】
私とおキヌさんが全く同じ事を呟いたが、その意味合いは全く異なる。私は味方が増え、おキヌさんは何もしていないのに敵が増えたと言うことに驚いた
【え?え!?何でですかぁ!?】
【お前は確かに横島の助けをしたが、生身になった後は自分の感情を優先して横島を困らせていた、故に信用できない】
いいぞ!もっと言って頂戴!この人は絶対反省すべきなのよ。自分の感情優先で突撃思考の肉食系幽霊。横島に迷惑をかけているということを反省するべきだ
【わ、私は横島さんの味方ですよ!?】
【味方だとしても自分の気持ちだけを優先するようなお前を私は信用しない、お前も私にとっては危険人物だ】
【うっう……心眼のばーかッ!ばーかッ!うええんッ!!横島さーんっ!!!】
号泣しながらリビングに突撃していくおキヌさん。心眼に完全論破されていた、その精神的ダメージはそうとう大きいだろう
「ありがと」
【良い、私は知っているだけだ。横島がお前といる時間をどれだけ幸福に思っていたか、だからこそあんな結末を認めない】
その強い口調に込められた強い決意を感じて、私は頼りになる仲間が増えたことに安堵し、そしてそれと同時に聞いてみたいと思った事を尋ねて見る事にした
「ねえ?心眼。どうして横島の中に魔力があるか判る?」
ガープを殴り飛ばしたあの拳の正体がどうしても気になる。今の横島には魔力を使える理由が無い、だから使えるはずが無い。だが現に使えていたので何か理由があるはず、その何かが気になって仕方ないのだ。もしそれが別の世界の横島の干渉だと思うと怖くて仕方ない、今の横島が消えてしまうんじゃないかと言う不安がどうしても頭から離れない
【お前の不安は判る。魔族化していくのではないかと言う不安だろう。だがそれはありえない、何故か判らないが、横島の中に魔力が息づいている、だがそれは眠っている。普段なら決して目覚めることは無いだろう、よほどの怒りか闘争心に飲まれない限りはな】
横島の感情が引き金になるが、普通に暮らしている上では問題は無いし、我も魔力が暴走しないように細心の注意を払うと言うと心眼の言葉に安堵の溜息を吐く、横島は元々臆病な性格だから、闘争本能とかには縁が無い。怒りについては心配だけど、それも心眼がついてくれるならそこまで心配することも無いわよね
【これからよろしく頼む。ルシオラ……いや、蛍だな。私はお前の恋路を応援している】
「ありがと、じゃそろそろ戻りましょうか」
とりあえず心眼の意思を確認できたし、魔力のほうも暫くは安心できそうだ。そう思ってリビングに戻ると
「あ、おかえりー」
能天気な顔をして私を出迎えてくれた横島だけど、シズクを膝枕しているのを見て思わずジト目で見つめてしまい
「やっぱり横島はロリコンなの?」
がふっと吐血する横島、違うとは信じているけど、シズクへの対応を見るとどうしてもロリコンという疑惑を払拭することは出来ないのだった……
「ふう……これで一息ついたわね」
横島君と蛍ちゃん達も食事に誘う約束をしていたけど、まずは琉璃を労う為に琉璃だけを連れて、私はレストランに訪れていた。少しだけ今回のGS試験についての火消しを手伝ったけど、本当に鬱陶しい連中だった
「お疲れ様です」
そう笑って私のグラスにワインを注いでくれる琉璃に貴方も疲れたでしょうに?と尋ねる。琉璃の仕事がハードなのは知っている。若いこともあり、国際除霊連盟から日本のGS協会の長には相応しくないなど、今回の一件でも責任を取って辞任しろなどと騒がれた事も知っている。まぁ結局辞任をすることは無く、GS協会長を続けるという結果で終わったんだけどね
「まーああいう馬鹿はどこにでもいますからね。仮に騒いだとしても、私はGS協会の長の立場から下りるつもりはありませんよ」
降ろそうと騒いだとしても六道家に唐巣先生のバックアップがある琉璃を降ろす事は相当難しい、日本でのGS関連の仕事に加えて政治にも強い影響力を持つ六道家を敵に回す馬鹿はいない。それでも琉璃を叩こうとするのは、GS協会長の立場を狙う下っ端連中と言う所だろうか
「今回は運が良かったですよ、本当。小竜姫様もいてくれたので、私のとった策が最善だったって言ってくれましたしね」
小竜姫様を頼らないといけないほどに追い詰められていたのか……とは言え政治に口を出せるほど私も発言力があるわけじゃない、正直ここは冥華おば様の存在が無ければ辞任に追い込まれていただろう
「でも英断だったんじゃない?今回のGS免許。仮でも交付する事にしたんでしょう?」
蛍ちゃんや横島君は研修を終えれば、GS免許を発行される仮免許を取得することになったが、今回琉璃はGS試験に参加し、GSをやると言う意思があり、後日審査を受ければ仮免許を交付すると発表した。無論これも反論が多かったが
「仕方なかったんですよ。引退宣言するGSが多かったですからね」
ソロモンのガープが動いていると聞いて、BランクやCランクのGSの多くはGS免許を返納した。その対策としての仮交付と踏み切ったらしいが
「正直何人くらい?」
「今の所は0ですね……ソロモンと対峙することになるかもしれないと考えたら、引退するのが普通は正しい選択ですよ」
そうは言っても、もしガープが動けば人間界なんて簡単に滅ぼされる。ならば恐ろしいとしても立ち向かわなければならない……これから神魔と多く話し合い、対策を練っていくことになるわね……っとそんなことを考えていたが、そろそろ本題を切り出すとしよう
「それであの件は?」
個室なので大丈夫だと思うけど、念のために結界を作ってから尋ねる。
「横島君の魔力の件ですね。あれに関しては小竜姫様でも判らないと言ってました、後で精密検査をしましたが、魔力は検知され無かったそうですし……本当に何も判らない状態です」
横島君がガープを殴り飛ばした時。彼は間違いなく魔力を使っていた、これは唐巣先生も同意したので私の見間違いではない、幸いなのは目撃者が殆ど身内だったと言うことだろう。
「琉璃もお疲れ様。暫く休暇を取るんでしょ?」
琉璃のグラスにワインを注ぎながら尋ねる。GS試験が終わるまではと休暇を取らなかったのだから、それが終わってからは休暇を取るんでしょう?と尋ねると琉璃は小さく首を振ってから
「まだまだやる事があるのですぐには休暇は取れないですよ。多分後1ヶ月は厳しいと思っています」
そう笑う琉璃だが目元には濃い疲労の色が浮かんでいる。GS協会会長と言う役職に就いてから連続で起きている神魔が関わる事件。それがどれだけ琉璃の負担になっているだろうか?かと言っても、私はGSとしては有名でも、GS協会に影響力を持っている訳でもない。私に出来る事といえば琉璃が抱えている事件を引き受けて解決するくらいだろう
「もう少し落ち着いてから有給を2週間くらいとって、妹を東京に呼ぼうと思ってます」
養子に出されたので別姓ですけど、今でも仲が良いんですよ?と笑う琉璃。それは妹にあえて嬉しいという年相応の笑みだった。
「でも良かったんですか?私だけで?」
横島君達も打ち上げで連れて行くと約束していたけど、別に焦ることは無いでしょ?と笑う。もし連れて行くなら仮免とは言えGS免許が来てからで十分だ。いきなり連れて行っても、手元に残るものが無いとやり遂げた達成感も無いだろうしね
「それもそうですね、ま、私は2回食べれるんで言うこと無いですけど?」
悪戯っぽく笑う琉璃。頑張ってくれているのは判っているので別に2回奢るとしても全然気にしないけどね
「そう言えば、くえすが事務所を開設するんだって?」
噂で聞いたので確認しようと思っていた。一部のGSでは既に噂として出回っている、あの神宮寺くえすがGS事務所を開設すると聞いたら誰だって嘘だろ?と言うだろう。暗殺や破壊専門の裏のGSと名を馳せたくえすが?となる
「先日受理しましたよ。横島君を自分の事務所で研修させるためだけに開設するみたいです」
「……え?」
え?まさかくえすも横島君に惹かれてるの?と尋ねると琉璃はワインを煽ってから
「愛してるって言ってました」
……本当横島君って訳ありとかそう言うのを惹きつけすぎじゃないかしら?そのうち刺されるんじゃないか?と心配になる
「まぁそれだけじゃなくて、横島君の魔力に付いて思い当たる節があるからそれを兼ねてって言ってました」
それならそれだけでも先に教えてくれてもいいものだろうが、くえすの性格を考えれば横島君を手元に一時的でも置いたときにしか話す気は無いだろう
「私とすればそれでくえすが丸くなってくれるならって思いますけどね」
「その代わりうちの事務所が修羅場になるわ」
それは美神さんが頑張ってください。研修制度についての妨害は出来ないですし、くえすと頑張って話し合ってくださいと笑う琉璃に他人事だと思ってと言うと、実際他人事ですからと笑い返される。まぁくえすが横島君を研修によこせと言って来てからどうするか考えれば良いか、先のことを今考えても結果なんて出ないだろうし
「ま、何はともかく本当にお疲れ様。ゆっくり休んでね、今日はもうとことん飲んで食べましょう」
「美神さんの奢りでですね?」
はいはい判ってますよ。奢ると言った以上二言は無いわよと言っていると
「なんで先に始めてるワケ?普通待つでしょ?」
「そうよ~酷いわ~」
遅れて来たエミと冥子に遅れるほうが悪いのよと笑いながら、2人の分のワインを追加で注文して
「GS試験お疲れ様でした!今日はとことん飲みましょう♪」
GS試験が終わった打ち上げはその日の深夜遅くまで続き、次の日の除霊の依頼の日にちをずらして貰うほどに酷い二日酔いになるのだった……
「なんか幸先不安」
「俺、なんか不安に思って来たわ……」
「ごめんねえ……」
蛍ちゃんと横島君だけでやらせる予定だった除霊の仕事だっただけに、蛍ちゃんと横島君の幸先不安と言う言葉に私は本当ごめんと繰り返し謝る事しか出来ないのだった……
リポート26 これから その2へ続く
次回もこんな感じで日常的な話を書いていこうと思っています。次回はマスコットと愛子とかで学校の話を書いてみたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします