リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その16
下界から戻った小竜姫の報告を聞きながら、ワシはキセルの灰を落とした
「横島が魔力をなぁ……ありえん話じゃな」
ふうーっと大きく紫煙を吐き出す。ルシオラと融合していた時でさえ、横島が魔力を使う事は無かった。過去のしかもまだ未熟な横島が魔力を扱うというのはどう考えてもありえない話じゃ
「それと考えにくいのですが、ビュレトと同じ魔力だったそうです」
「なおの事ありえん話じゃな」
ソロモンの魔神の魔力を人間が扱う。報告を聞くだけではとてもではないが信じられる話ではない
「この件はワシのみの報告とせよ。竜神王にも報告をすることは許さん、最高指導者にはワシから報告しておく」
竜神王はよく頑張っている、それはワシも認めよう。だが竜神と言うのは総じて正義感が強い、魔族を許さないという過激派思考が多すぎる。今は上手く竜神王がやっているが、もし横島がソロモンの魔力を使うと知られたら一部の過激派竜族が何をしでかすか判らない。ならば横島の件はワシや小竜姫、逆行してきた者だけの胸の中に留めるべきじゃろう
「判りました、そうして頂ければ安心できます。私は……横島さんが悲しんだり、傷ついたりするのはあまり見たくありません」
現在の小竜姫の言葉に驚く、かなり横島に友好的なのは知っていたが、今の言葉には僅かにだが、横島を想う気持ちが込められている
(人外たらしと言うべきか、それとも人たらしと言うべきか……なんとも面白い男じゃなあ)
未来の横島も面白い男であったことは間違いない、だが過去の横島もまた面白い男だ。この調子でいけば、もしかすると未来よりもさらに横島の争奪戦が激しい物へとなるかもしれんなと苦笑しながら
「しかしアマイモンを戦闘不能に追い込んだ、ガープの術が気になる所じゃな」
アマイモン。かつての神魔大戦および魔人襲撃では、その圧倒的な魔力と鍛え上げられた武術で武勲を挙げ続けた武人であり、戦略家としての側面も持ち。大きく大戦に貢献した魔族、いくら不意打ちだったとは言え、一撃で戦闘不能に追い込まれるとは……
「本人は亜空間と呼んでいました、周囲のものを粒子分解し消滅させる恐ろしい術でした」
亜空間か……今まで誰も解析しえなかった物をガープが解析し、攻撃に転用する術を見つけた出したとなると相当厄介な問題になる……恐らく最高指導者でさえあらがう術を持たないだろう。アシュタロスのやつめ、そんな危険な術をどうして報告しなかったのだと思ったが、アシュタロスさえ知らぬガープのとっておきだったのかもしれん。その事に対して攻めることはあまりに酷と言うものか……
「報告御苦労じゃった。休んでくれ」
濃い疲労の色が浮かんでいる小竜姫はありがとうございますと言って、ワシの部屋を後にする。残されたワシは再びキセルに火をつけ
「ふーこれからどうなることやら」
もはや逆行したと思い込むのは危険。大分前からはそうなんじゃないだろうか?と思っていたが、今回のことで確信したここは似て非なる、平行世界であると言う事を……無論これはワシだけではなく、最高指導者達も今回の件で確信したじゃろう
「……前途多難じゃな」
横島に前回のような悲しい結末が無いことを祈っていたが、神魔大戦よりも激しい物になることを最早回避することは不可能。どうして横島にばかり、こんなにもつらい世界が待っているのか?それが宇宙意思や時間の修正力の意思なのかと思うと
「ふざけるなよ、世界め……」
たった1人の優しい人間に全てを押し付けようとする世界に対して、激しい怒りを覚えずにはいられないのだった……
GS試験が終わって直ぐ、伊達と戦った事や、ガープに殴りかかったことで美神さん達と説教をしようと思っていたんだけど、説教をする前に横島は泡を吹いて倒れ病院に緊急搬送となった。その理由は信じたくは無いが、急性の魔力中毒
高位の魔族と戦ったGSやエクソシストが稀に倒した魔族の呪いなどで発病する症例らしい。唐巣神父が直ぐに急性の魔力中毒だと叫んで、待機していた救急車へ運び込んでくれた事で最悪の事態は免れたらしいが、面会謝絶で今日で3日……とてもではないが、説教をする空気ではなくなってしまった。それにそれだけの横島の顔を見ていない、それほどに重症なのかと心配になってくる。なんでもブリュンヒルデさんが魔界に戻る前に治療してくれているらしいけど……どうして急性魔力中毒になったのか?と言う疑問が頭を過ぎる。それに勘九朗が教えてくれた特異点と言う言葉、それについてはブリュンヒルデさんから誰にも話をしてはいけないと念を押され、美神さん達にも特異点についての相談も出来ず、自分の中であれこれ考えることしか出来なかったそれが自分をさらに追い詰めていると判っても、横島の事が心配で考えてしまう。そんな悪循環に私は完全に捕まってしまっていた
(あの時の一撃のせいなのか、それともガープを殴った事が原因なのか……どっちなんだろう)
黒い霊力の篭手と翼。そして私でも感じた圧倒的な魔力……ガープを殴ったことが原因なのか、それともあの一撃のせいだったのか……私自身も
「蛍ちゃん、一緒に寝ても良いでちゅか?」
扉を少しだけ開けて顔を出したあげはがそう尋ねてくる。こういう時1人じゃないって言うのは気持ちに余裕が出てくる
「おいで」
ぱあっと華が咲いたような笑みで笑ってベッドに飛び乗ってくるあげはを抱きしめ、子供特有の暖かい体温を感じながら私は眠りに落ちるのだった……
「……ん。朝……」
習慣って言うのは本当に怖い。いつも横島と朝の訓練をする時間に目を覚ましてしまった、もう少し寝ようかなと少し悩んだが……朝食を作らないとと思いベッドから抜け出してキッチンに向かうと
「おはよう蛍」
椅子に腰掛けてコーヒーを飲んでいたお父さんにそう声を掛けられ、一瞬呆けたが直ぐに詰め寄って
「遅い!遅いよ……なんで直ぐ……帰って……わ、私……どうすれば……良いか、わ、判らなくて」
土偶羅魔具羅は確かにいたけど、相談しようとは思わなかった、逆行の記憶が無いのだから話しても普通のことしか言ってくれないって判っていたから、おキヌさんに相談しようとも思ったけど、アマイモンとガープと言う規格外の魔族の魔力に当てられたのが原因なのか、長時間話したり出来なくて自分の中で全部抱え込まないといけなくて……
「すまない、神魔の最高指導者と話をしていたんだ。事情は大体察しているよ、横島君が魔力を使ったんだって」
訳が判らなくなって涙する私の涙を拭いながらそう尋ねてくる
「う、うん……なんで横島が魔力を使えるのか判らなくて、前に私の夢を見たって言うし……本当どうなっているのか判らなくて」
逆行した筈なのに全然違う事ばかり起きてどうなっているのか判らなくて……どんどん不安ばかりが強くなって
「もう蛍も気付いていると思うが、この世界は逆行した世界じゃない、似て非なる平行世界だ。逆行していると思い込むのは危険すぎる」
お父さんの言葉に小さく頷く、琉璃さんや神宮寺くえす……知らない人が増えているのでその可能性は十分に理解していた
「だから先入観を捨てて行動するんだ。良いね、逆行しているという思い込みを捨てるんだ。そう思っていたら、蛍も横島君も全員に危険が及ぶ」
それはとても難しいことだと思うけど、そうしないと危険と言うのは今回の件で痛いほど理解した。もう完全に逆行の記憶なんて役に立たないのだと
「横島君はもう大丈夫だ、私と入れ違いでブリュンヒルデが魔界に戻ってきた、きっともう心配することは無いさ」
その言葉にやっと安心出来た。思わずその場にへたり込んでしまった、怖くて、怖くて仕方なかった。また横島がいなくなってしまうのか、会えなくなってしまうのかと思うと怖くて仕方なかった
(弱くなった、弱くなってしまった)
横島と過ごす毎日が楽しくて幸せで、それを失ってしまうと思うと動けなくなるほどに……幸せを知っているから、それを失う恐怖を考えるだけで身体が動かなくなってしまう
「蛍の不安も恐怖もよく判る、でもそれだけを考えていたらきっと何も出来なくなる。その恐ろしさを知っているから、蛍は強くなれる。だから今に負けないで頑張るんだ、未来を手にする為にね」
お父さんの励ましの言葉に頷いて立ち上がる。そうよね、もしもの事ばかり考えるんじゃなくて、前向きなことを考えないと何もかも駄目になるわよねと反省しているとガチャリとキッチンの扉が開き
「んーあーパパーッおかえりー♪」
目を擦りながら入って来たあげはがお父さんを見て、嬉しそうに笑いながら駆け寄ってくるのを見て穏やかな気持ちになりながら
「朝ごはんの用意するね」
2人にそう声を掛けてエプロンをつけてキッチンに入ると土偶羅魔具羅がいて
「ワシはあんまり頼りにならないのは判っています」
慣れた手つきで卵を割りながら、振り返ることなくこれは独り言ですからと呟き
「ですが、ワシは優太郎様や蛍様のお手伝いを全力でしたいと思っています」
……土偶羅魔具羅の言葉に少し驚いた。どうも私の中で逆行前の土偶羅魔具羅のイメージが強すぎたみたいねと反省し
「ありがと、えーとじゃあ、卵焼きをお願いしても良い?」
「ええ。任せてください」
土偶だから顔の変化がわからないけど、その柔らかい口調に私の知ってる土偶羅魔具羅とは違うのねと確信し、これから少しでもいいから歩み寄っていこうと思うのだった……
ボクの予知で暫くの間ガープの侵攻も無く安全と言うことが判ったので、そろそろ帰ると言ったんだけど
「いやだ!いやよ!ね?ね?もうちょっと私と暮らしましょうよ?ね?ね?」
ボクの腰にしがみ付いているゴモリーを振り解こうとだいぶ頑張っているんだけど、振り解けない。しかもボクにダメージを与えないように柔らかく抱きついている割には全く振り解けない
「だーかーらーッ!ボクはもう家に帰るんだよ!魔界にいつまでも人間がいれるわけ無いだろ!?」
「私の宮殿なら大丈夫だから!絶対安全だからぁッ!!!」
それはつまり軟禁と変わらないじゃないか!と叫ぶと
「じゃあ私が人間界に行くー!柩ちゃんと暮らすー!!こんな可愛い娘が欲しかったのーッ!!!」
「離れろーッ!!!」
ソロモンの魔神って言うのはもっと威厳があって、カリスマ性があるものだと思っていたのに、ゴモリーときたらただの可愛い物が好きなOLって感じだ
「まーな、上位の神とかって好き勝手してるからなあ……結構性格も違うのが多いんだよ」
一応ボクの護衛のはずのメドーサが疲れたように呟く、だが1つだけ言える。メドーサよりもボクのほうが遥かに疲れていると
「ご、ゴモリー様!人間界に行く等という事はおやめください」
ゴモリーの配下とか言う小さな魔族が思いなおすように言うとゴモリーがキッと睨みつけ
「柩ちゃんの能力は稀少なのよ!?絶対ガープがまた攫いに来るわ!そんなの私許さないんだから!」
「ボクの意見を聞けーッ!!!」
嫌って叫ぶゴモリー。保護してくれたのは本当にありがたいと思っているが、そのまま軟禁しようとするとか正気の沙汰じゃない。しかもボクの予知にはこんな未来は無かったので本当にどうなっているのか訳が判らない
「柩ちゃんは私のこと嫌いなのー!?」
若干泣きそうな声でそう尋ねてくるゴモリーに暴れるのが一瞬止まる
「……嫌いではないけれど!束縛されるのは嫌だ!」
料理とか振舞ってくれたし、優しかったし、好きか嫌いかで言われると嫌いではない。嫌いではないけれど、束縛されるのはうんざりだと言うと
「じゃあこれ、これ持って行ってくれるなら離す」
ずいっと差し出されたのはボクみたいな小娘には相応しくない、大きな宝石の付けられた黄金の指輪だ。あまりにボクに似つかわしくないので断ろうとしたんだけど
「これは私の指輪と対になってるの、柩ちゃんに危険が迫れば直ぐ判るし、それを元に跳んでも行ける」
その指輪の効果とゴモリーの心配そうな声を聞いて、本当にボクを心配してくれていることが判って
「……ありがとう。それと……そのゴモリー……楽しかった」
ボクには母の記憶は殆ど無い。生まれた時からボクの能力はずっと暴走している、だから母も父の記憶も無い。少し鬱陶しかったけど、ゴモリーの宮殿で過ごした時間は楽しかったと言える。だから素直にそう言うとゴモリーはやっとボクの腰から手を離して
「また遊びに来てね、ううん。今度は私から尋ねて行くわ……元気でね」
そう笑ってボクの頭を撫でて、メドーサ後はお願いねと言って宮殿の出入り口を開いたゴモリーに
「くひひ、ありがと。じゃあね」
だいぶ恥ずかしかったけど、ハグをしてゴモリーから背を向けてメドーサのほうに向かうのだった
「やっと離してくれたみたいだね、じゃ、契約終了まであともう一仕事するとしますかね」
ゴモリーが持って行けといった山のような衣服を見て。深く溜息を吐いているメドーサに
「くひひ。そうだね。ボクを人間界に返したら君の仕事は終わり、ちゃんと家まで届けておくれよ?」
人間界に返されて、はい終わりじゃ困るからねと言うとメドーサはそんなことしないと言って笑い
「ま、ゴモリー様に気に入られたのなら、私が護るよりもよっぽど安心出来るか。隠れてお前を護ってくれるだろうよ」
若干過保護が入っているゴモリーの事を考えると、あの指輪以外にも他の保険を用意しているかもしれない、そう思えば今後のガープの襲撃も大丈夫かもしれないと思えてくるから不思議だ。ちょっとふざけているけど、ゴモリーは信頼できる魔族だと思うから
「さ、帰ろうかな。くひひ、家が壊れてないと良いんだけどね」
それに関しては私の対象外だと笑うメドーサに連れられ、ボクは魔界を後にするのだった……
なお柩もメドーサも知る由も無いが……宮殿の中に戻ったゴモリーはというと巨大な姿見の前で
「これなら私ってバレないかな?」
「バレバレですよ!?ゴモリー様ぁッ!?」
なんとかして人間界にいけないかなあっと呟き、普段着ているドレスではなく、ジャージやら、短パンやら、髪型を変えてアホ毛を追加してみるなどの色々な方法を試していたが、根本的な問題があった。ゴモリーと言う魔神が持つ圧倒的な美はたとえ変装しようが、髪型を変えようが隠す事が出来るものではなく、どれほど地味な格好をしていてもゴモリーだと判る圧倒的な存在感がゴモリーの人間界行きの邪魔をしているのだった……
GS試験が終わり、私自身の検査などを終えてから私は直ぐある行動に出ていた。今まで使うことの無かった依頼費を使って、土地と事務所を購入したのだ。今までは事務所を構えることが出来ない、裏のGSとして活動していたが、今後それでは駄目なのだ。表で活動できるGSにならなければ
「はい、これで手続き完了よ。くえす」
神代琉璃から渡された書類を確認する、事務所の開設許可と停止処分だった私のGS免許。それが手元に戻ってきた
(これで良いですわね)
ガープに捕らえられて、そしてその時のことはぼんやりとだけど覚えている。横島忠夫が私を助けようとしてくれた事を……そして私を助けることが出来たと判った時のあの泣き笑いの顔がどうしても脳裏から消えない。
(無様な顔でしたけど……どうしても忘れることが出来ませんわ)
私を助けようとしてくれた、文字通り己の命を賭けて。そして今まで感じていた不快感が何のなのか?少し考える必要がありましたが、それもなんなのか判りました。私は嫉妬していたのだと、芦蛍に、あのおキヌと言う幽霊に……共にいることが出来ているシズクに嫉妬していたのだと、そう思えば私の不快感の正体は直ぐに判った。私は横島忠夫に惹かれているのだと、それを認識した後はここまで一気に来てしまっていた。睡眠時間も削り、食事の時間すら削り、2日で私の事務所を持つ準備を完了させたのだ
(自分でも不思議ですわね)
他人などどうでも良いと思っていたのに、恋をしているのだと自覚をしたら止まる事が出来なくなった。そして横島と仲良くなりたいと思った、そう考えればいつまでも裏のGSなんてやっていられない。
(横島はどう考えてもこっち側じゃありませんから)
私の事を優しい良い人なんて言えるお惚けた男がこっち側に来るなんてありえない、だから私のほうから向こうに行く必要があったのだ
「これで事務所を開設できるわけだけど、当面はどうするの?仕事回す?」
新設の除霊事務所なんて仕事が来るわけが無い、特に私の名前は良い意味でも悪い意味でもGS協会では有名だ。まず当面はろくな仕事なんて無いだろう、それを心配した神代琉璃が仕事回そうか?と尋ねてくる
「必要ありませんわ。暫くは活動するつもりはありませんもの」
へえ?意外ねと呟く神代琉璃。自分の評判をよくするためにまず仕事をして少しでもマイナスイメージを払拭すること、それは確かに考えもしましたが、私の今までの悪評考えれば一日やそこらで挽回できるものではない。だから慌てて仕事をする必要が無い
「まずはあれですわね。設備などの準備とかをしてから依頼を斡旋してもらいますわ。そうですわね……保留になっている危険案件それを回して貰いましょうか」
「正気……って聞くまでも無いわね。判ってて聞いているんだから」
当然ですわと返事を返す、危険案件。それは調査の段階で危険な悪霊や悪魔。妖魔の類が出現していることが判明し保留になっている案件。いまさらいい事をしても自分の悪評を取り消すことなど出来ないのだから、逆に危険な案件を続けて達成することで自分の力を示したほうが効率が良い。
「では失礼しますわ。まだやることがあるので」
会長室を出ようとすると神代琉璃は楽しそうに笑いながら
「そんなに横島君に自分の事務所に研修に来て欲しい?」
……ま、まぁそれは認めるしかありませんわね。横島忠夫を自分の事務所に招く為に行動しているのですから、でも理由はそれだけではない
「私は横島が魔力を使えた理由が判っていますから」
神代琉璃の顔色が変わる、まぁ当然ですわね。魔力を使える筈の無い人間が魔力を使った、その理由を解明しようとするのは当然の事だ
「知っているなら「横島忠夫が私の元に研修に来る。それが正式に決まればお教えしますわ」
神代琉璃の言葉を遮って言う。一時的にでも自分の手元に横島忠夫を置く事が出来るなら教えても良い、そうでなければ教える意味は無いと言うと神代琉璃は
「でも横島君が蛍ちゃんの側を離れるとは思えないけどね」
……それも判っている。横島忠夫が芦蛍の側を離れることがありえないと言うことなんて判りきっている。だからこんな卑怯な手段を使って、一時的でもいい、横島忠夫を自分の手元に置きたいのだ
「そうだとしても諦める事が出来ない物という物もあるのですよ」
闇の中にいた私には横島忠夫は眩し過ぎる。手を伸ばすのもおこがましいと思うが、それでも手を伸ばさずにはいられない、だって私は……
「横島忠夫を愛してしまったのだから。いまさら引き返すことなんてありえませんわ」
驚いた顔をしている神代琉璃。一泡吹かせることが出来たことに笑いながら
「それでは御機嫌よう。次会いに来るときは依頼の件で参りますわ」
驚いている神代琉璃を見て笑いながらGS協会を出ると
「どうも自分に足りないものを見つけたみたいだな」
人間の姿に化けたビュレト様がベンチに腰掛けていて、私にそう声を掛けてくる
「これはビュレト様。お体は宜しいのですか」
今から魔界に1回戻るところだと返事を返したビュレト様は立ち上がって
「まぁ前途多難だと思うが、頑張れや。カズマに負けない良い魔術師になれよ。お前に足りない物を手にするのは相当難しいと思うがな」
そうだとしても諦めませんわと返事をするとビュレト様はそのいきだと笑い、私の頭を撫でながら
「頑張りな、魔術師としても女としても精進しろよ、ああ、それと横島の件はお前に任せる、お前がやったんだろ?」
お見通しと言うわけですか、ブラドー島に行く時、死んでいた横島を助ける為に私の魔力を分けた。それは微々たる物で本来はそのまま消える筈だったのだが、何故か横島の中に残りそして横島が魔力を使えるようになった。その理由を解明するのを私に任せたと笑って溶けるように消えていくビュレト様。どうも本体ではなく、分霊だったみたいですね。
「負けませんからご心配なく」
きっと私を心配して分霊を残してくれていたのだろう、でもその程度で諦めるほど私は弱い女じゃないんです。心の底から欲しいと言える者をやっと見つけたんです、例えその心が私のほうに向く可能性が限りなく0だとしても
「諦めませんわ」
誰に聞かせるまでも無い、自分に言い聞かせるようにそう呟き私はその場を後にするのだった……
「大丈夫か?ガープ」
心配そうに尋ねてくるアスモデウスに問題ないと返事を返す。手痛いダメージを受けたが、この程度なら問題ない。暫く表立って動く事は出来ないが、その代わり研究に集中出来ると思えば動けないのはそれほど苦痛ではない。ベッドの上からでもアスモデウスやセーレに指示を出す事が出来るのだから、前線に居るか、後衛に居るか?それだけの違いで今までと何も変わりはしない
「アマイモンの腕を奪った、これで神魔の混成軍の戦力はがた落ちだ」
結界の中の取り込んだアマイモンの腕は培養液の中につけてある、これでクローンや魔装術の媒介を増やすことが出来たと思えば私の負傷などたいした問題ではない
「だが香港の原始風水盤はどうするつもりだ、その状態で動くことが出来るのか?」
……確かにそれは問題だな。だが今すぐに動くつもりも無い、少し時間を置いてからで十分だ。それに囮役には十分な奴がいるだろう?とアスモデウスに言うと
「ああ、蠅の王の劣化コピーか」
つい先日合流させてくれと無理やり来た蠅の王の劣化コピー、本来の蠅の王と比べれば、品性も力も魔力も何もかも足りないが、暫くの間神魔の目を引く囮としては十分だ
「少し休む、後は任せてもいいか?」
ああ、任せてくれと言って部屋を出て行くアスモデウス。静かになった部屋で全身に走る激痛に耐えていると何物かの気配がする……この気配は……
「このような無様な姿をお見せして申し訳ありません」
姿を見せることは無いが、ここにいる誰かの存在はしっかりと感じている。そうアスモデウスではない、私達の一派の本当の頭領が訪れている。本来ならば、跪き、拝見できること事態に感謝しなければならないのだが、ろくに動くことが出来ない己の身体に怒りすら覚える
「気にすることは無い、お前はいい働きをした」
「もったいないお言葉です」
本来顔を見ることは愚か、言葉を交わす事すら許されていない私を尋ねて来てくれた。それだけで私にはとてつもない褒章だ
「有益に使え、ガープ。お前が求めていたものだ」
何かが身体の上に落ちてきた。それと同時に息苦しいほどの威圧感は途絶えた、痛む身体に顔を歪めながら身体を起こしその何かを見て
「は、ははははははッ!!!感謝します!」
そこにあったのは私が追い求めていた聖遺物の数々、求め続けた物が其処にはあった。そう並の聖遺物ではない、手にすることなどありえない究極の品……
「失われた女神の遺品……」
今の神魔の中には消え去ったまま復活していない、神も大勢いる。そんな神々の遺物を手にすることが出来た。私は自らの頭領に深い感謝となんとしても頭領の願いを叶えるという思いを新たにするのだった……
そして傷を癒したガープはとある研究を始める、それは神魔においても最大の禁忌にして、いままで誰も成しえる事の無かった秘術……それが成し得た時どのような悲劇が起こるのか、それは誰にも判らない。ただ1つ言えるのは……不気味な鼓動の音だけがガープの研究室に響いていたと言う事だけだ……
リポート26 これから その1へ続く
リポート26と言う形を取りますが、内容的には日常の話の詰め合わせのような話になります。最初は今回の話でなかった。横島や雪之丞達の処分についての話ですね。後はチビやモグラちゃんといったマスコット達の話とかをしてほのぼのとかギャグで書いていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします