GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回はガープが現れる前のビュレト・勘九朗視点の話が前半で後半がガープの視点で書いて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


それと今回は気分転換を兼ねて「お試し小説置き場」に私としては珍しく「R-15」「残酷描写あり」の小説を投稿しております。

あんまり書かない作風なので荒い所もあると思いますが、そちらも興味があれば見ていただけると嬉しいです



その14

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その14

 

「ちっ……しくじった」

 

俺は目の前を覆い尽くす金色の蝙蝠を見てそう舌打ちした。少しでも人間の人質を解放しようと思い周辺の蝙蝠を倒しながら結界の基点を探していたのだが、それ自体が既にガープの罠だった

 

(あの野郎。くそ鬱陶しい真似しやがって……)

 

確かに蝙蝠を倒すことで結界は弱くなり、少しずつだが人質は外に出るようになり少しでも足手纏いを減らす事が減らす事が出来ると思っていた……

 

「ちっ……力が入らない……」

 

痺れるような感覚と共に右足の感覚から抜け始め、次に左手……そして今は右腕。終いには左目の視力が無くなった……確かにあの蝙蝠は結界の基点になり、そして起爆の術式を組み込んだ事でここら辺周辺の人間を人質にすると言うのが主な役目だっただろう……だがさらにそこにもう1つ。あの使い魔には役割が与えられていたのだ……

 

(あの野郎……何しやがった……)

 

恐らくは俺単体を狙った遅延の毒か何か仕込んでやがったな。しかも相当数を倒さないと効果を発揮しないタイプのめちゃくちゃ鬱陶しいタイプの神経毒……

 

(だがこれだけで終わると思えねぇ……)

 

俺を無力化する為だけにこれだけ手の込んだ仕掛けを施しているとは思えない、さらにまだ何か……そう本命の仕掛けがある……

 

(ちっ……あいつが来ていると思ったのが間違いだったか)

 

ソロモン72柱ビフロンス。同じソロモンでありながらガープに心酔し、あいつの部下として行動している魔神。確実にあいつも絡んで来ていると思い、外に回ったが、俺の深読みが過ぎたようだ……なまじガープの考えが判る分、読み合いで負けた……ついに手の痺れが限界に来て愛剣を落としてしまう、その隙にと俺に組み付いて爆発しようとする蝙蝠を見て、人間の姿で耐える事が出来ないと判断し魔神としての姿に戻ろうとした瞬間。漆黒の炎が目の前を過ぎる

 

「大丈夫ですか!?ビュレト様!」

 

左手を突き出した姿勢のままそう叫ぶ女……神宮寺カズマの末裔……神宮寺くえすの姿を見て頭の中で何かが嵌るような感覚がした……

 

「くえす……馬鹿野郎!!試合会場に戻れッ!!!」

 

くえすがここに来る事も全てガープの計画に織り込まれていたのだと悟った。くえすが俺を存在している事を認識したことで、俺の眷属に近いくえすは俺の危機を本能的に悟った……そしてここに誘き出されてしまった。俺達が張った結界の出力が弱い場所に……

 

「えっ!?」

 

助けたつもりの俺にそう怒鳴られたくえすが動揺する。そのほんの一瞬にも満たない時間……それがガープが本来必要とし、これだけ大量の使い魔。そして白竜寺とかいう霊脈の上の寺を利用したのもこの一瞬の時間を得るため……

 

「っきゃあああああッ!!!」

 

無数の蝙蝠が複雑な軌道を描きくえすの周りを飛び交ったと思った瞬間。くえすを中心に魔法陣が展開されくえすの姿は跡形も無く消え去った

 

「ちくしょう!!しくじったッ!!!!」

 

あれだけ空を飛び交っていた蝙蝠は姿を消し、周囲を覆っていたガープの結界も消え去った……だがそれはガープの目的が完了したからであって、俺が消した訳ではない、つまり俺は最初から最後までガープの手の中で踊らされていた事に気付き、俺は悔しさのあまり拳を地面に叩きつけ

 

「俺は何をやってるんだッ!!」

 

あれだけ俺に任せろと言っておいてこの様だ……悔しさとそして自分の不甲斐なさに思わずそう叫んだ

 

「くそがぁッ!!俺を舐めるなよッ!ガープッ!!!!!」

 

毒が回って来ているのか、もう手足の感覚もほとんど無い……こんな有様ではガープを止めるなんて出来はしない……それだけ毒が回っていると言うことだろう。今は手足の麻痺程度で済んでいるが、このままではもっと酷い後遺症になるのは目に見えている。毒が完全に回りきる前に何とかしなければならない……だが魔力を放出するだけで吹き飛ばせるような甘い毒をガープは使わないだろう、それも俺専用に調整した神経毒だ。おそらく魔界正規軍や神界正規軍の軍医だったとしても治せる物ではないだろう……下手をすれば感染者が増えると言う結果で終わる。いや、確実にそうなるように調整してあるはずだ……ならば、毒が完全に体に回る前になんとかしなければならない……

 

「……ちっ、これしかねえか」

 

俺は目の前に落ちている自分の剣を見て、そう舌打ちしてから痺れる右手を剣に向かって伸ばすのだった……

 

 

 

 

結局最後まで追加の指示は無かったわね……決勝戦の相手の芦蛍を見つめながら、軽くストレッチをする

 

(やっぱりちょっと硬いわね)

 

普段は直ぐに身体が温かくなって十分なパフォーマンスを発揮出来るけど、今日はそんな感じではない。いくらストレッチをしても身体が硬いままだ……それも当然かと苦笑する

 

(ま、ここで死ぬって判ってたら、そりゃ身体も硬くなるか……)

 

本気であたしを魔族として取り立てる気が無いのは判っている。大方裏切った所で殺して、あたしの死体をベースに魔族を作るか、それとも陰念のようにあの紅い石を埋め込んで徐々に魔族に改造していくか……まぁそんな所だろう。あれだけ門下生が実験台にされているのを見ているのだから、自分もそうなるに決まっている

 

(殺されると判っているから、出来る事があるんだけどね)

 

メドーサ様の敵討ちをする為に従っていた振りをし続けた。生きていることが分かったのでそれも意味は無いが、殺された同門の皆。陰念や雪之丞を好き勝手してくれた事に対する怒りはどうやっても消す事が出来ない

 

(結局の所。あたしは魔族なんて柄じゃなかったのね)

 

どうやったってあたしは冷酷になんかなれない。どこか甘い所がある、それは自覚している。だから今からやるのはその甘いあたしの最後の抵抗

 

(あんた達の思い通りに絶対にさせない)

 

ここで美神令子の助手と戦えたのは明らかに幸運だ。それも横島忠夫では無く、芦蛍。ラプラスのダイスで決まったというのならば、これはきっと運命が味方してくれているに違いない

 

「さきほども説明しましたが、試合会場が不安定のため危険だと判断すれば試合を中断します、宜しいですね?」

 

確認と言う感じで尋ねてくる審判の言葉に頷く。どっち道ガープが来て試合が中断するのは間違いない。問題があるとすれば、それがいつでどれくらいの時間があるかの方が深刻な問題と言える

 

(魔装術を使わないと手抜きをしていると思われるし、手札を切るタイミングも重要よね)

 

「それでは!鎌田勘九郎選手対芦蛍選手の試合を開始します!!!」

 

あたしが考え事をしている間に試合開始の合図がされ、先手必勝と言わんばかりに突っ込んでくる芦蛍を見て小さく苦笑する

 

(いい判断よね)

 

陰念と雪之丞の試合を見て判断したのだろう。魔装術を使うにはわずかな溜めの時間が必要になる、そうさせない為の速攻。しかも距離を詰めるという判断は間違いではない

 

「一気に決めさせてもらうわよッ!」

 

神通棍を展開し、殴りかかってくる。あたしも神通棍を取り出してその一撃を受け流す

 

(あら。流石と言う所かしら)

 

霊力を調整して互角にしたつもりだったけど、あたしの神通棍と自分の神通棍がぶつかった瞬間霊力の出力を上げて押し切ろうとして来た。霊力を操る技術は互角と言う所かしら……?

 

「シッ!」

 

「っとと!」

 

どうも防がれるのは分かっていたようで、今度は鋭い踏み込みから拳を繰り出してくる。それを片手で受け止めるがびりびり痺れてくる。霊力の練りこみも十分な一撃だ、直撃していればそれだけでダウンしていたかもしれない

 

『芦蛍選手、見事な速攻です!体格の差を埋めるかのような火の出るような速攻!これはこのまま決まってしまうかもしれないですね』

 

『お前さんはもう喋らん方が良いぞ?無知にもほどがある』

 

『ハイ?』

 

馬鹿解説者と違ってドクターカオスの方は分かってるみたいね。それと芦蛍のほうも……

 

「……」

 

渋い顔をし、下がるか、このまま攻めるか判断に悩んでいる様子。話をする為にこの距離に誘い込んだのだからここで下がられては困る。一歩前に踏み出し体重で押しつぶすような姿勢で殴りかかる

 

「え?」

 

(静かに、黙って、反応しないで)

 

力が全く入っていないことに困惑している芦蛍に小声で話しかける

 

(気をつけなさい、あたし達白竜会を襲った魔族は横島忠夫を狙っているわ)

 

流石にこの言葉には反応してしまうかしら?と思っていたけど、無表情を保っている芦蛍に少し驚いた。試合を見ていて思ったけど、きっと横島忠夫と芦蛍は付き合っているのだと思う。お互いを好き合っているのは判るし、きっと良い関係であるのは間違いない

 

(どうしてそんなことを教えてくれるです?嘘をついているんじゃないんですか?)

 

流石にいきなり信用してくるって言う馬鹿じゃないみたいね。押し返そうとしてくる一撃を交わす

 

(まぁ疑い半分って所ね)

 

さっきよりも霊力が弱まっている。あたしの言葉の真偽を考えているって所よね、とは言え時間が無いので一方的にでも話を伝えなければ。再び間合いを詰めて神通棍を振り下ろす

 

(悪いけどそんなに時間は無いの。簡潔に伝えるわよ)

 

東條が無事に逃げ切ってGS協会側に回収されたのはさっきの陰念の試合で見ている。だからその前提で話せるのは正直ありがたい。時間を短縮できるからだ

 

(良くは判らないけど特異点って奴の可能性があるらしいの。なんでも時間や歴史の改変をするのに必要な因子らしいわ)

 

時空の特異点である横島忠夫を探れというのがあたしに出された指令の1つ。結局はとんでもない爆発力のあるやつくらいしか判らなかったけどね

 

(歴史改変!?それがガープの目的なんですか?)

 

(知らないわ。あたしもそこまで信用されているわけじゃないし、とりあえず横島忠夫をガープに渡したら駄目。それだけは言えるわ)

 

歴史改変なんて大それたことあたしには理解できない、しかもその鍵が人間でしかも爆発力はあるが未熟なGSだというのだから二重で驚きだ

 

(それと香港で何かあるみたい、詳しくは知らないけどそんな話をしていたわ)

 

どうも日本の今回の事件を隠れ蓑にして香港で何かやっているみたい。どうせ碌な事じゃないと思うから気をつけて

 

(貴方は良い人なんですね)

 

(良い人じゃないけど、ちょっとした意趣返しみたいなものね。さ、これ以上はあたしも疑われるから本気でいくわ、悪いけど破魔札で吹き飛ばしてくれる?)

 

あえてダメージは受けたくないが、様子見をしていたという言い訳をする為に吹き飛ばしてくれる?とお願いすると破魔札と打撃を組み合わせて吹き飛ばしてくれる。さてとこれであたしのやりたいことはほとんど終わったようなものね……後はガープに一泡吹かせてやるとしましょうか

 

「ここからは本気で行くわよッ!」

 

魔装術を展開すると同時に神通棍が剣の形状に変化する、これ本当にどうなっているのかしら?別に便利だからそこまで気にしてる訳じゃないけど、やっぱり少し気になる

 

「魔装術は極めるとここまで美しくなるのよ、さぁ。覚悟して貰いましょうか」

 

近くに小竜姫がいることを確認しているから、直ぐに鎮圧に来てくれると思っていたら、本当に一瞬で現れた

 

「この試合ここまで!鎌田勘九郎!大人しくして投降するのならば、痛い目を見る事はありませんよ」

 

「神界・魔界正規軍共に貴方の身の安全を保障しましょう。さ、返答はいかに?」

 

小竜姫の隣に立つには同じく参加者の確か……聖奈とか言う横島と戦っていた女性だ。どうもあの人も魔族だったみたいね全然気付かなかったけど……これからどうするか考えていると

 

「御機嫌よう。人間の諸君……そして小竜姫、ブリュンヒルデ」

 

突然聞こえてきた声に背筋に冷や汗が流れる。この声は!?とっさに振り返ると、そこにはやはり人間に化けたガープが居た……予想よりも遥かに早い登場に驚愕した数秒の間にガープは両手から霊波砲を放つ。小竜姫がそれを両断するが、その瞬間爆発し

 

「っきゃあっ!?」

 

「くっ!?これは!?」

 

小竜姫ともう1人が霊波砲に吹き飛ばされ意識を失う。こ、これがソロモンの力……自分は技術者でそれほど強くないと言っていたが、まさかこれほどの力を持っているとは……

 

「聞こえてはいないと思うが、初めまして、そしてさようなら。私はソロモン72柱序列33番ガープ……君達に死を与えに来た」

 

金色の異形の姿となったガープの声が響いた瞬間。観客席の大半が意識を失い崩れ落ちるのを見て、あたしはガープの底知れぬ力に恐怖し、そして命を賭けても一矢報いることが出来るのかと激しい不安を抱かずにはいられないのだった……

 

 

 

開いた右拳を握りこみ内心で溜息を吐きながら、自身の右手首と壁に叩きつけられ意識を失っている小竜姫とブリュンヒルデを見下ろす

 

(あの程度の神を一撃で倒すことが出来ないですか……やれやれ)

 

人間界で行動するに当たり、研究中の魔力を押さえ込むアミュレットの実験台に自らなったのは良いがあまりに弱体化が過ぎる

 

(これでは精々上位魔族程度……まだ研究が必要か)

 

本来の私の能力ならば今の一撃で倒す事が出来た。しかし気絶させるだけで留まったとなると弱体化なんてレベルでなく弱くなっている。これから人間界をメインで活動することを考えるともう少し能力を開放出来るように調整しなければ……私が動いたことで間違いなく私を倒す事の出来る最上級神魔が動いてくることは確実、早く撤退しなければ

 

「勘九朗、そこの小娘を押さえておけ、後で回収する」

 

私が現れた事で気絶している芦蛍とか言う小娘を見ながらそう指示を出す。押さえ込んでいるようだが、霊力の中に魔力が混じっているのが判る。希少な先祖がえりをしている人間だ、回収しておく価値がある

 

「さて……御機嫌よう……横島忠夫、良い試合だった。実に楽しませて貰ったよ」

 

私が現れると同時に結界を張って隠れた一団の前に移動しそう声を掛ける

 

「……う、あ……」

 

ふむ。人間には弱体化している私の霊力でも相当なプレッシャーになるのか……結界の中にいるが何人かは気絶しているか、青い顔をして動く気配が無い、結界の中に居る人間を観察していると、幼くなってはいるが見覚えのある顔があった

 

(ほう?水神シズク……こんな所に)

 

必死に右手を押さえ込んでいるシズク。邪龍の系譜ゆえに私の魔力に惹かれて竜化仕掛けているのを押さえ込んでいるのか……

 

(賢明な判断だな)

 

私の魔力に惹かれて変化したのでは間違いなく暴走する。それを知っているから自分の力全てをつぎ込んで竜化を押さえ込んでいるのだろう。凄まじい表情で睨み付けているシズクをあえて無視する、確かに邪龍の力は魅力的だが、今はそれよりも優先するべきことがある。横島忠夫は……駄目だな。話す余裕は無さそうだ

 

(少しばかり話をしておきたかったのだがな)

 

見ただけではその人間の人格を理解することは出来ない、特に特異点と言う異質な存在の可能性があるのだから言葉をかわしておきたいと思ったのだがな……残念だが、それは次の機会に取っておくとするか……結界の中に隠れている一団を見て

 

「ほう……美神令子……ふむふむ」

 

「な、なによ!?私が何だって言うのよ!」

 

良いな、気が強い女は嫌いじゃない。そしてそんな女の顔が歪むのを見るのは私の楽しみだ

 

「君の祖父母は元気かな?」

 

私の言葉に意味がわからないという顔をしている美神令子と違って、唐巣とか言う神父は私の言いたい事を理解したのか

 

「まさか……お前かぁッ!!!お前が!「ああ、その通りだよ。チューブラーベル。それを美神令子の母親に植え付け……ヴラドーとか言う臆病者の吸血鬼に植え付け……ああ、そうだ今思い出した。ブラドーの妻の父を狂わせたのも私だ、人間と吸血鬼の理想郷などと言う戯けた事を言う魔族の面汚しに制裁を加える為にな」

 

結界の中に居る全員の顔色が変わる、それを見てさらに高笑いしながら

 

「良いぞ。その顔だ、私は人間のその顔が好きなんだ」

 

怒り、絶望、恐怖ありとあらゆる負の感情それを見ることが出来た。実に愉快だ、横島忠夫の肩が揺れる……ふむ、自分ではない誰かの為に怒るか。1番行動が読みやすいタイプだな……もう少し時間があるのならもう分析をしておきたい所だが、時間が無い……だが

 

(まだか……あいつめ、いつまで抵抗するつもりだ)

 

ビュレトをおびき出し、先祖返りをしている神宮寺くえすの確保。しかしまだ使い魔が帰っていないので相当梃子摺っているのか、遅延性の毒にしたのは失敗だったか……

 

「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は1人もいない。我が目の届かぬ者は1人もいない」

 

突然聞こえてきた聖句に顔を上げると長身の男がこっちに向かって飛び降りてくるのが見える

 

「綺礼!!」

 

綺礼?言峰綺礼か!?海外で傀儡を増やそうとする度に妨害してくれたその男が向かってくる

 

「装うなかれ。許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」

 

特に強烈な先祖がえりをしていた優秀な少女の奪取を妨害されたことを思い出し

 

「貴様にはここで消えて貰った方が良さそうだな」

 

飛び降りてくるなら好都合……迎え撃つまでだ。両手に魔力を集めて迎撃体制に入った所で

 

「「「キキィ」」」

 

神宮寺くえすを捕獲した使い魔達が戻ってくる。ぬう……もう少し後ならば綺礼を始末しておくことが出来る……だが二兎を追う者は一兎をも得ずと言う、両手に集めかけた魔力をそのまま魔力弾にして打ち出す

 

「ぬ、ぐおおおおおおッ!?」

 

詠唱を止めて両腕をクロスさせて防ぐ綺礼。少し魔力を霧散させた分威力が下がったか……直撃だったが、止めを刺すまでには行かなかった……大きく弾き飛ばされ、試合会場の外へと吹っ飛ぶ、だが殺すには至っていない、弱体化していることを考慮しても人間1人殺すことは出来ないとは……これは完全に失敗作だな

 

「さてとでは、ここら辺で失礼するとしようか」

 

目的は達した、これ以上この場に残ることに意味は無い。横島も回収しようと思っていたが、二兎を追う物一途も得ずと言う……長居は禁物だな、そう判断し指を鳴らそうとすると

 

「そうはさせない!!!」

 

「ぬっ!ちっ……鬱陶しい奴らめ」

 

気絶していた小竜姫が意識を取り戻し、神剣で切りかかってくる。ベストな状態ならばこの程度の攻撃どうと言うことは無いのだが、弱体化している今では脅威になりかねない。障壁でその一撃を弾くが

 

「アンザスッ!」

 

人間の姿から魔族の姿へと戻ったブリュンヒルデが連続で呪文を唱える

 

「ちっ!ルーン魔術か!?」

 

魔術ならば問題ないが、ルーン魔術となると話は別だ。私が修めている魔術と系統が違う、私が唯一習得することが出来なかったルーン魔術は私の天敵と言える。1対1なら呪文で迎撃するが、2対1となると詠唱している間に小竜姫に間合いを詰められる、だが負傷している事もあり、動きが鈍い。これならば転移出来る……そう判断し身を翻して交わすが

 

「甘いんだよッ!!!」

 

「ちっ!?ビュレトだと!?」

 

神経毒で動けないと判断していたビュレトが現れ剣を振り下ろしてくる。障壁は間に合わない……!?その一撃を肩に受けて試合会場に叩き落される

 

「ガープ様!」

 

駆け寄ってきた勘九朗の手を借りて立ち上がる。ぐっ、思ったよりもダメージが大きいな……どうも攻撃力だけではなく、防御力も相当低下していたようだ。肩ですんで良かったと言うべきだろうか……

 

「蛍さん。しっかりしてください」

 

「うっ……小竜姫様?」

 

勘九朗が人質にしていた芦蛍を小竜姫に取り返されたか……しかも3対2……一気に状況が不利になったな

 

「人質は取り返した。形勢逆転だな」

 

剣を肩に担いでいるビュレトがそう言い放つ。なぜ動ける、間違いなく神経毒でビュレトは完全に封じたはずだ

 

「なぜ動ける、お前は完全に無効化したはずだ!」

 

「敵に教える馬鹿はいね……ごふっ!?」

 

ビュレトが吐血し崩れ落ちる、それをとっさにブリュンヒルデが受け止め

 

「無茶をなさらないでください。自分の体内で魔力を炸裂させるなんて真似をしているのですから」

 

「うっせえ……余計なことを言うんじゃねぇ」

 

なるほど……私の神経毒を流す為に……とんだ無茶をしたものだな。まぁビュレトらしいと言えばビュレトらしいが……

私の張った結界も解除され、意識を失った人間が目を覚ましていく。人間程度脅威とは思わないが、数で押してくると面倒だな

 

「人質が居ないというのは些か早計だな」

 

指を鳴らし魔法陣を展開する。そこから意識を失った神宮寺くえすが現れる

 

「神宮寺さん!?」

 

観客席から横島忠夫がその名前を叫ぶが、神宮寺は反応を返さない。反応を返せるわけが無い、今私の魔術で人間から魔族へと変貌しているのだからな……

 

「てめえ。やっぱりそいつを狙っていやがったか」

 

ビュレトが凄まじい眼光で睨み付けて来る、こういう甘さがビュレトの良い所であり、欠点だ

 

「当然だ。お前の魔力を宿している人間の一族を見逃す訳が無いだろう」

 

同じ気配をしているのだから直ぐにわかった。一時期ビュレトが人間界で囚われていた時期があった、その時に人間と契約したのだろう。その血脈が続いている、しかも先祖がえりをしていて強大な魔法使いでもある。狙わない訳が無い

 

『落ち着いて避難して下さい、慌てずに落ち着いて試合会場から避難して下さい』

 

目を覚ました人間が避難するように叫ぶ。ぎゃあぎゃあっと鬱陶しいな……しかもこのままでは横島忠夫にも逃げられてしまうか……横島忠夫も捕獲もしくは血液を入手する予定で、血液は入手したが、やはり本人も捕獲出来るなら捕獲しておきたい、ここで逃げられる訳にはいかない

 

「予定より早いが仕方ないな」

 

アシュタロスに用意して貰った火角結界を展開する。それを見たビュレトの顔色が変わる

 

「しまった!?私達も閉じ込められた」

 

観客席から聞こえてくる美神令子達の悲鳴を聞いた小竜姫の顔色が変わる。逃げてもらおうと思っていた相手が再び捕まった。これでまた人質が出来てしまった……再び自分達が不利になったと言うことを悟ったのだろう

 

「さてこれで新しい人質と爆弾を用意した訳だが?」

 

「正気かてめえ。お前も巻き込まれるんだぞ?」

 

はっ、ビュレトらしくないな、私がそんな愚作をするわけも無いだろう

 

「自分が逃げる手段くらい用意しているさ、さあ!美神令子!横島忠夫!お前達も降りて来い。断ればどうなっているか判っているだろうな」

 

逃げる算段をしている美神令子達にこちらに来るように叫ぶ、凄まじい形相で私を睨んでいるビュレトに

 

「形勢逆転だな。大人しく諦めたらどうだ?」

 

起動し時間を刻み始めた火角結界を見ながら、私は余裕を持ってビュレト達にそう問いかけるのだった……

 

 

火角結界が展開された試合会場から逃げ惑う人間の中をゆっくりと歩く漆黒のマント姿の男。都津根だ……彼もまた係員に避難するようにと試合会場から出されたのだ、だが周りの人間が悲鳴をあげながら逃げる中、彼は歌うように何かを呟いていた

 

『魔に操られし蒼き拳と翡翠の拳ぶつかる時、その音こそが終焉を告げる鐘となる』

 

不思議なことに都津根の周りの人間は都津根を避けるようにして駆けていく。その様子は都津根の存在を認識していないように思えた

 

『邪悪にして無垢。無垢にして妖艶……原初の魔人姫が蘇る時は迫る』

 

都津根はそう告げると肩を竦め、大きく溜息を吐きながら

 

「やれやれ、黒いのと白いの予言は判り難くて叶わん、おかげで1000年近くも人間界で過ごす事になったぞ」

 

1000年。その言葉が意味する通りなら都津根は人間ではないと言う事になる。都津根はそのまま試合会場の外れへと歩いて行き、被っていたマスクに手を伸ばす……マスクの下には目も鼻もない、その代わり漆黒の窪みだけがあった……マスクの下には骨しか存在していなかった……

 

「さ、行こうか。姫の目覚めの準備をしなければ」

 

【ブルルルルルッ!!!】

 

突如現れた巨大な怪馬に跨った都津根と名乗っていた骸骨はそのまま溶けるように消えていった……

 

もしここに神魔が居たのなら彼の正体に気付いただろう

 

かのものは絶対なる死の具現

 

かつて神魔の両方を相手取り、数多の神を屠った強大なる魔人

 

「さぁ行こう。全ては我らの姫の思うがままに」

 

【ヒヒーンッ!!!】

 

魔人ぺイルライダー。ヨハネの黙示録に名を連ねる4騎士が1人、そして今なお活動している唯一の魔人……それが都津根の正体であり、こうしてGS試験に参加していた……そしてそれが意味するのは魔人の活動が再び始まったと言う証なのだった……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その15へ続く

 

 




次回でリポート25を終わらせるように頑張りたいと思います。まだまだ書きたい話があるので150話を過ぎるかもしれないですね……ちょっと見積もりが甘かったかなと反省中です。ただまだまだ盛り上がる所もあるので、どうなるのか楽しみにしていてください!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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