GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回で横島と雪之丞戦は決着となります、今回は少し短めになるかもしれないですが、今回の更新もどうかよろしくお願いします


その12

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その12

 

「「おおおおおおおおっ!!!!!!」」

 

俺と伊達の声が重なって聞こえる。この一撃で極めると決めて放った一撃は伊達を捉える事はなく、そして伊達の一撃もまた俺を捉える事は無かった……お互いの拳から放たれた霊力がぶつかり合い、俺と伊達は試合会場の中心で完全に停止していた……

 

『こ、これは凄い!お互いの霊力が完全に拮抗していますッ!!!』

 

馬鹿解説者の声がどこか遠くに聞こえる。色んな音が聞こえるのだが、その全てが何処か遠くに聞こえる。それは俺を激励してくれている心眼の声も同じで

 

【気を緩めるな!少しでも気を緩めれば一気に呑み込まれるぞッ!!】

 

心眼の警告に心の中で分かってると返事を返す。俺と伊達の右拳がぶつかり、そこを起点にし俺と伊達の全霊力が放出されている。もしもこのまま押し切られれば、俺の放出した霊力を伊達の霊力が巻き込みそのまま俺に襲ってくるだろう。そしてそれは逆だったとしても同じ……だから一瞬も気を緩めることは出来ない……だけど俺は心の何処かで感じ取っていた

 

(俺の……負けだ)

 

陰念との戦いでベルトを使った、すでに霊力は限界の一歩手前だった……身体の痛みも酷かったし、それにサイキックソーサージャンプのせいで痛めた右足に力が入らない。少しずつ……少しずつだが後ろに押し込まれているのが分かる

 

「は、ははははははッ!!!楽しかった。楽しかったぜッ!!!横島ッ!!!」

 

伊達も自分が押し込んでいるのを感じ取ったのか、楽しそうに笑いながら話しかけてくる……

 

(くっそ……俺には返事する余裕もねえよッ!!!)

 

心の中でそう怒鳴り返す……凄まじい衝撃が右手を通して伝わってくる。これもし押し返されたら死ぬんじゃないか?と言う恐怖が胸をよぎる……まだ死にたくない……そう思った……でもそれ以上に負けたくないと思った

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

もう振り絞る体力なんて雀の涙も残っていない、だから気力を振り絞るしかないッ!!!霧散しかけていた霊力が再び拳に戻ってくる。再び伊達押し返えし始めるが……

 

「うおっ!はっ!!まだだ!!まだ力が出せるかッ!!!」

 

だが俺が押し返す力以上に強い力で押し返してくる伊達に俺はもう気持ちでも負けそうになっていた……

 

(も、もう……駄目だ……)

 

足が滑る……目の前が霞む……硬く握り締めた拳が拳が解けて行く……押し返そう、押し返そうと思っているのに身体が思うように動かない……目の前に迫る霊力の塊に思わず目を閉じようとした瞬間

 

「横島ぁッ!!!!」

 

何もかも遠くに聞こえてきたのに、その蛍の声はやけにはっきりと聞こえた……諦め掛けていた心に再び灯が灯る……抜けかけていた力がまた満ちてくる。蛍に惨めな姿を見せたくないと、好きな子の前で格好悪い姿は見せたくない……

 

「負けないでッ!!!!!」

 

その涙交じりの声……ここまで俺を心配してくれて、そして応援してくれる蛍の前で負けたくない、勝ちたい、勝って俺は少しでも成長したのだと、いつまでも蛍にも美神さんにもシズクにも心配を掛けたくない。俺は……少しだけど強くなったのだと、胸を張って言える様になりたい

 

「おおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」

 

痛む右足……いや、痛くないッ!!こんなの全然痛くないッ!!!歯を食いしばり、霧散していく霊力を無理やり繋ぎ止める。勝つ、絶対に勝つッ!!そう強く決意し、右足で思いっきり地面を踏みしめる

 

「横島、お前……目がッ!?」

 

目?目が何だ!?伊達の目が驚愕に見開くのが分かる。霊力のぶつかりのせいで目でも怪我したか?いや。例えそうだとして問題ない、今この勝負に勝てるのならば、目を失ったとしても構わない。勝つ勝つ勝つ勝つッ!!!!絶対に何をしても勝つッ!!!!そう思った瞬間。霊力が再び戻った……これで勝てる!俺は再び霊力すべてを右拳に集める

 

【横島……待て!そちら側に踏み込むなッ!!】

 

「お、おあああああああああああッ!!!!!!」

 

「う、おおおおおおおおッ!?!?」

 

心眼の焦った声が聞こえたような気がしたが、勝てるそう思った時。もうその声は俺にとって何の意味も無い言葉になって……俺は全力で伊達目掛けて右拳を振りぬいたのだった……

 

 

 

お、俺は……生きてるのか……まるで上半身が消し飛んだかと思う衝撃だった……震える手で胸に手を当ててみると思わず乾いた声で笑ってしまった……

 

(すげえ……胸に拳がくっきりと残ってやがる)

 

そこだけへこんでいるかのように拳の跡が残っていて思わず笑ってしまう。痛すぎるのか、それともありえないものを見たせいか……それとも両方か……死にそうなくらい痛いのに笑ってしまう。これだけのダメージを受けているのに、こうして意識が残っているのが……心臓が破裂していないのが奇跡のように思える

 

『1……2……4……』

 

これ、カウントか……今までの試合では場外か、完全に意識を失っているのでカウントがあるような試合は無かったが、どうも俺の意識が残っているのを見てカウントダウンを始めたようだ……

 

(どうだ?まだ動けるか……)

 

手……右手は駄目だな。感覚が無い、それに指が折れているのか変な方向を向いてる。ただ、左手は……大丈夫だ、拳は握れる

 

足……こっちも大丈夫そうだな。動かせる……走ったり、跳んだりするのは流石に無理そうだが……立って構えをとるくらいなら……

 

胸……こっちはかなり深刻だな。さっきから呼吸がしづらい……肋骨が折れているかもしれないが、その痛みのおかげで意識がはっきりしてるから何とも言えないが……

 

結論……まだ戦える。いや正直立つことがやっとだと思うが……立てば続きが出来る……あの楽しい勝負の続きが出来る

 

「がっ……まだまだあ……」

 

身体を起こすと凄まじい激痛が全身を走った。正直よく意識を保つことが出来ていたなと思うと同時に、俺をこんなに強い身体で生んでくれたママに対する感謝が胸をよぎる

 

「う、うそだろ……」

 

右手を押さえて後ずさる横島が見える。どうも横島も相当ダメージを受けているのか、立とうとしている俺を見て明らかに顔が引きつっているのが見える

 

(さっきのは……気のせいか……)

 

さっきは一瞬横島の目が赤く光っているように見えたが、たぶんあれだ。霊力のせいでそう見えただけだろ……

 

「ぐっ……ぐぐうっ……」

 

何とかカウントが10になる前に立とうとするが、身体に力が入らない……それでも意地で立ち上がろうとした時

 

(俺とこいつの違いは何だ……)

 

そんな疑問が頭をよぎる。最初は俺の方が勝っていた。だが今はこうして俺は膝を着いてる……戦闘方法も、霊力の扱いも俺の方が上だった……魔装術もあり、負ける要素なんてこれっぽっちも無かった筈……それなのに俺は今こうして負けかけている……その理由は何だ?それを必死に考えながら立ち上がる

 

『8……伊達選手意識はありますか?』

 

審判の男が近寄ってくるのを左手で押しのける。くそっ……立ったは良いが動けそうにねえ、拳を握ることすら出来ない……震える手で何とか構えを取ろうとするが、手首に重りがついたように腕が上がらない……それでも俺は戦えるという意思表示をする為に横島の方を見て理解した……理解してしまった

 

(あ。ああ……そうか……)

 

俺と横島の違い。それはとても大きい物で、俺と横島の力の差を埋めるほどに大きな物だった……

 

「そりゃぁ……勝てないよなあ……」

 

俺はどこまで行っても自分の為に戦っていた。若くして死んでしまったママに恥じない、強く逞しい男になると……それだけを考えてここまで来た、だけど横島は……違った、自分を応援してくれる人、心配してくれる人……そう言う人間の為に強くなろうとしたんだろうな……それは拳の重さも違う訳だ。自分の為だけじゃなくて、自分じゃない誰かの為に……それはきっとあの時横島の名前を叫んだ、黒髪の女なんだろうな……あいつの為に強くなろうとしていたんだろうな……そう思えば俺が負けるのは道理だったか……負けた理由が判って清々しい気持ちになった俺は痛む右拳に顔を顰めながら拳を作り

 

「次は……俺が勝つ……楽しかったぜ……」

 

俺はそう呟くとゆっくりと倒れて行く……意識を失う前に勝者横島忠夫選手と言う審判の言葉を聞くことが出来た。わずかな悔しさを感じつつ、次は絶対に俺が勝つと決意を新たにし、俺の意識は闇の中に沈んでいくのだった……

 

 

 

横島君が勝った……それは良いんだけど、自分の勝利を聞いて緊張の糸が切れたのか、その場で倒れた横島君は伊達と一緒に今日2回目の医務室送りになった……説教しようと思っていたんだけど、完全にそのタイミングを逃してしまった

 

「……美神さん。横島勝ちました……勝ちましたよ」

 

眠っている横島君のベッドの所に座って震える声で言う蛍ちゃんの肩に手を置く、あの試合はどう見てもGSの戦い方じゃなかった。どう見ても格闘技の試合か何かのようにしか見えなかった。見ている私も思わず目を逸らしてしまうほどの試合だった……蛍ちゃんが心配してしまうのも無理は無いと思う。シズクも若干顔が引き攣っていたし、蛍ちゃんには少し厳しいものだったかもしれない

 

「ふーとりあえずの所ですが、重症ではないでしょうね。ただし霊力の消耗が凄まじいです、私からすれば信じられないですよ。日に2度も霊力枯渇に陥っても生きてるなんて……よほど身体も霊体も強いんでしょうね。まぁしばらくは絶対安静にしてください。今後何かの悪影響が出ても困るので」

 

伊達の方が重症と言うことで冥子では無く、神代家のお抱えの医者が横島君を診ていた。カルテを書き終え、荷物を片付けている医者にありがとうございましたと声を掛ける。医者が医務室を出た所で

 

「まだ駄目なの?」

 

本来医者を呼ぶ必要は無かった。それなのに医者を呼んだ理由、それはシズクが治療出来なかったからだ。その理由として小竜姫様と天竜姫様の竜気が横島君の中で増大しているのが原因なのか、シズクの治療を横島君の身体が拒否したのだ

 

「……ああ。判らないが、弾かれる」

 

不機嫌そう……実際不機嫌なんだと思う。横島君の治療が出来なかったことを気にしているのは目に見えている

 

(過保護なお母さんとかそういうレベルじゃないわね……これは)

 

横島君がロリおかんと呼んでいるが、今の表情を見るとどう見てもそれは母親やそう言う物ではない、明らかに女としての顔をしている

 

(なんとまあ……本当に蛍ちゃんの恋路は前途多難ね)

 

私から見ればお互い両思いなのは判っている。どっちか告白すれば、それで付き合うって結果になりそうだけど……今はそんな気配も無い、そのせいでかどんどん横島君に惹かれる人間や妖怪が増えている。とは言え、そう言う恋愛に口を挟むのは良くない、いつか蛍ちゃんが踏ん切りを着くのを待つしかなさそうね……しかしそれにしても神様まで魅了するって本当に横島君の人外に好かれやすい体質で凄いわねと思わず感心してしまった

 

【横島さん。大丈夫ですかね】

 

寝返りも打たないで眠っている横島君を心配そうに見つめているおキヌちゃん。私も確かに心配だけど、正直出来ることが何も無い。横島君が自然に目を覚ますのを待つしかないという状況だ

 

「美神さん、蛍ちゃん、それにシズク。悪いけど……こっちの話し合いに参加してくれないかしら?」

 

医務室の扉がノックされてから琉璃が顔を見せてそうお願いしてくる。確かに様子見がすんだら話し合いに参加するとは言ったけど、今のこの状況の横島君を1人にするのは正直不安だ。蛍ちゃんもシズクも渋い表情をしているのが判る

 

「一応精霊石とか、結界とか色々持って来ましたし、小竜姫様と聖奈さんが結界を用意してくれるらしいので、お願いします」

 

うーん……そこまでしてくれるなら、横島君1人にしても大丈夫かな……モグラちゃんとかチビとタマモは当然残していくし……

 

「判ったわ。でも途中で抜けるかもしれないからね」

 

あれだけの力を見せたのだから、横島君が攫われる可能性も出てくる。だから途中で抜けるかもしれないからねと琉璃に釘を刺し

 

「じゃ、チビ、モグラちゃん、タマモ。少しの間お願いね?おキヌちゃんは何かあったら直ぐに呼びに来て」

 

見た目は可愛い小動物だけど、その実並みのGSよりもはるかに強いチビ達に横島君を守るようにお願いすると

 

「みーむう!」

 

「うーきゅー!」

 

シュッシュとチビとモグラちゃんが短い手を動かす。そのパンチが当たるかどうかは判らないけど、やる気だけは確認できた

 

「ココーンッ!!」

 

【判りました!なにか危険を感じたら直ぐに行きます!】

 

狐火を展開するタマモ。うん、こっちも大丈夫そうね。ソロモンが動けば不味いだろうけど、使い魔くらいなら簡単に撃破してくれそうだ。おキヌちゃんも気合が入ってるみたいだし、この様子なら大丈夫そうね。私はそう判断し、渋る蛍ちゃんとシズクを説得し私達は医務室を後にするのだった……

 

美神達が医務室を出てから数分後。医務室は大変なことになっていた……しかしそれは美神にとっても予想外の襲撃だった筈だ。何故なら精霊石と結界札で封印されていた濃紺の眼魂が急に暴れだしたのだから

 

【ギャハハハッ!!!】

 

「みむーッ!!!」

 

大量の結界札と精霊石に封印されていた濃紺の眼魂が動き出し、横島の身体に入り込もうとしていた。チビとタマモが電撃と火炎で応戦しているが、二匹の速度よりも遥かに速く攻撃が当たっていない。

 

【う、ううーん……】

 

美神達を呼びに行くはずのおキヌは眼魂が動き出すと同時に体当たりで壁に叩きつけられ目を回している

 

「うきゅーッ!!!」

 

巨大化したモグラちゃんの爪も軽々と回避し嘲笑うかのようにモグラちゃん達の頭上を飛ぶ眼魂。

 

「みむぎゃーッ!!!」

 

ついにチビが怒ったのか最大火力で電撃を放つ、しかしそれを見た眼魂はその場で回転する。するとチビの放った電撃はその回転で受け流され、Uターンしチビ達へ戻る

 

「みむうっ!?」

 

「コンッ!?」

 

「うきゅうううッ!?」

 

自分の放った電撃が跳ね返され、チビ達へと直撃しそのあまりの威力にチビ達がその場に倒れる

 

【カッハハハハハッ!!】

 

邪魔者がいなくなったと確信し、眼魂が再び横島へと迫ったその時

 

「肉体の無い半端物の分際で何を調子に乗っているのです?」

 

美神でも蛍でもない第3者の声が医務室に響き、横島へと迫っていた眼魂は結界の中へ閉じ込められ、乾いた音を立てて医務室の床へ転がったのだった……

 

 

 

目の前で転がっている濃い青色の球体と、その近くで倒れているグレムリンを見て私は思わず頭を抱えた

 

(ついやってしまいましたわ……)

 

横島が気になった訳ではない、偶然医務室の前を通りかかった時。医務室の中から凄まじい電撃音に異常な魔力を感じて医務室に入った。そして謎の球体が横島の中に入ろうとしているのを見てとっさに結界の中に封印したのだ。

 

(とんでもない魔力ですわね)

 

完全に魔力をシャットアウトしたから動きを停止しているが、普通の精霊石や結界札では動きを封じるのは不可能だっただろう……陰念とか言う魔装術に取り込まれた奴から飛び出した悪魔を封印した球体。それがきっとこれなのだろう

 

(身体を持たず、宿主を求める悪魔……と言うわけでは無さそうですわね)

 

仮にそうだとしたら、そんな低級悪魔がこれだけの魔力をもっているわけが無いですし……もしかするとガープが陰念に何か仕掛けを施していて、それが原因で陰念が契約した魔族に何か変化をもたらした可能性がありますわね……

 

「っと、いけませんわ」

 

思わず考え込んでいたが、今この状況を見られたら私が犯人にされてしまう。その前に医務室を出ようと思った……のですが

 

「み……むうう……」

 

「う……うきゅう……」

 

「グ。グルウ……」

 

意識は無いだろうにまだ身体を起こそうとしているグレムリンと九尾……そして土竜の姿をしている竜を見て……そして彼らが守ろうとしている横島を見て……

 

「はぁ……私らしくないですわね」

 

最近私の口癖になりつつある言葉を呟き、倒れているグレムリンを摘み上げて椅子に座る

 

「……」

 

呪文を唱えグレムリン達の治療を始める。電気には抵抗はあるようですが、かなりのダメージを受けている。それほど凄まじい攻撃力をあの球体が持っていたということなのでしょうか……そんなことを考えながら治療をしていると

 

「……ん?んん?……あれえ?神宮寺さん?」

 

その声に思わず背筋を伸ばす、横島が起きる前に治療を終えて医務室を出ようと思っていたのに……

 

「御機嫌よう。横島忠夫。またずいぶんと無茶をしたようですわね」

 

とりあえず治療を終えたグレムリン達を横島の隣に横にする。さっきまでの痛々しい傷跡は無いので、まさか怪我をしていたなんて思わないだろう

 

「どうした……あいたたたた!!!痛い!?身体中がバラバラになりそうなくらい痛いぃぃッ!!」

 

身体を起こそうとして痛い痛いと騒ぐ横島にもう1度ため息を吐いてから

 

「大人しくしなさい、治療して差し上げますから」

 

見た所霊体痛と重度の筋肉痛……応急処置程度ですけどねと横島に言うと、横島は見ているほうが力が抜けそうな顔で笑いながら

 

「やっぱり神宮寺さんは優しいっすね」

 

その言葉を聞いて、何故か心臓の音がうるさく感じたのだった……

 

 

 

シズクの治療とは違う感じだな……神宮寺さんが触れている額から、身体が温かくなっていくのが判る。治療の邪魔だという事で、心眼は畳んでベッド横の机の上に置いてある、シズクの治療はその間に眠くなってしまうけど、なんか神宮寺さんの治療を受けていると目が覚めるような気がする

 

「はい、これで終わりですわ。ま、応急処置程度ですから、後で貴方の家にいる水神にでも様子を見て貰いなさいな」

 

応急処置程度と言うけど、全然身体が痛くない。神宮寺さんはやっぱり凄い魔法使いなんだなあっと思う。神宮寺さんは神宮寺さんでなにかぶつぶつと呟いている

 

『どうして体内に魔力が……そのせいで神通力を弾いている……今は整えましたが、水神では治療出来ない筈ですわ』

 

魔力?神通力?シズクが治療できない?……俺にはちんぷんかんぷんだったが、神宮寺さんが治療してくれたことには間違いないので御礼を言うことにした

 

「ありがとうございます。もう凄い楽ですよ!やっぱり神宮寺さんは凄い魔法使いですね」

 

俺がそう笑うと神宮寺さんの表情が曇った。俺何か変な事を言ったかな?と首を傾げると神宮寺さんは

 

「凄い魔法使いですか……ふふ、それは私には相応しくないでしょうね。私はあくまで自分の興味を、自分の力を高めるためだけに魔法を使います。ええ、それはきっと悪い魔法使いっとでも言うべきですわね」

 

自嘲気味に笑う神宮寺さんを見て驚いた、普段自信満々と言う感じの神宮寺さんらしからぬ顔で……

 

「その……俺で良ければ話を聞きますよ?」

 

思わずそう口にしてしまった。すると神宮寺さんの表情が冷たい物に変わる。俺が見たことのないゾッとするような冷たい表情だ

 

「はぁ?何を言っているんですの?どうして私が貴方みたいな落ちこぼれに話をしなければならないんですの?身の程をわきまえたらどうですの?」

 

……まぁそれはそうだろうな、試合ごとに医務室送りになっているような俺なんて本当に落ちこぼれとしか言いようがないだろうな……でも

 

(なんかほっておいたら駄目な気がする)

 

ここで神宮寺さんを行かせてしまったら駄目だと思った。椅子から立ち上がろうとする神宮寺さんの手を掴むと凄まじい顔で睨み付けられ、背筋が凍るような気分になったが、手を振り解かれなかった事に安堵しつつ

 

「誰かに話せば楽になると思います。落ちこぼれで愚図なのは判っています、俺なんか神宮寺さんの足元にも及ばないって事も判ってます。でも俺……神宮寺さんにかなり助けられてるから、ほんの少しでも恩返ししたいと思って」

 

蛍や美神さんは信用するなと言うけど、俺は神宮寺さんが優しい良い人だって判ってる。神宮寺さんがGS業界でなんて言われているかは知ってる。暗殺や破壊専門の危険なGSだって、でももし本当にそんなに怖い人なら、俺の怪我なんて治す訳がない、だから神宮寺さんは本当は優しい良い人だって俺はそう信じてる

 

「……貴方といると調子が本当に狂いますわ」

 

はぁっと俺の方を見て溜息を吐いた神宮寺さんが俺の手を振り払う。やっぱり……俺になんて話をしても意味無いって思ったのかな……そんな不安を感じていると神宮寺さんは椅子に再び腰掛ける。驚いて顔を上げると

 

「私の話を聞いてくれるのでしょう?何をそんなに驚いた顔をしているのです?それともさっきの言葉は嘘なのですか?」

 

いつものように自信満々の表情をして、胸の下で腕を組んで胸を強調する格好をしている神宮寺さん。思わずそっちのほうに目が行きそうになるが、それを必死で押さえこんで

 

「うっす、俺で良ければ……どうせ俺じゃなんにも解決になるとは思えないですけど」

 

頭は悪いし、学も金も無い。そんな俺に話をしてもきっと神宮寺さんの悩みは解決するとは思えない。でも今まで受けた恩を少しでも返したいと思ったから話を聞くと言ったんだ。その言葉に嘘は無い

 

「まぁ壁にでも話をしてると思いますわ。だからこれは私の独り言です、いちいち相槌を打つ必要は無いですわ」

 

そう言って話し始めた神宮寺さんだけど、神宮寺さんの話は俺が予想していた物よりも遥かに重く、そして俺では解決など出来るはずもない問題だった……

 

GSの中の異端児といわれる神宮寺家の話……

 

その血の中に眠る魔族の血の話……

 

そして魔術を覚えすぎて、自分の感情や記憶が砕けていて、いつか何も思い出せなくなる日が来る恐怖……

 

「人でありながら人ではない、それが神宮寺家。こんな人間だか、化け物だか判らない存在の手をとってくれる人間なんていませんわ」

 

吐き捨てるように言う神宮寺さん、なんで私こんな話をしてるんでしょうねと呟き立ち上がろうとする神宮寺さんの手を掴む。話を聞いて思った、やっぱり神宮寺さんをこのままにしていてはいけないと……思ったから……

 

「……」

 

驚いた表情をしている神宮寺さん。何か言わないといけないと……でも俺は口下手だから、神宮寺さんみたいな頭の良い人が納得するような事を言えるとは思えない。俺に言えるのは不恰好で、情けなくて、とても信用できる言葉じゃないだろう……でも俺にはこんな事しか言えない

 

「俺は……掴めます。周りの人がどんなことを言っても……蛍や美神さんが神宮寺さんが危険な人だと言っても……俺は知ってるから、神宮寺さんが本当は優しくて良い人だって知ってるから……俺は……神宮寺さんの手を掴めます」

 

神宮寺さんは驚いた顔をしていたが、すぐに怒ったような顔をして

 

「口では何とでも言えますわッ!!」

 

俺の腕を振りほどいて医務室を出て行ってしまった……やっぱ駄目だったか、そりゃそうだよなあ……やっとGS試験に受かった程度であのベルトと眼魂の力で試験に合格したような俺の言葉なんかじゃ駄目だよなあ……

 

「やっぱ俺ってまだまだだよなあ……」

 

俺の枕元で眠っているチビ達を抱っこして、天井を見つめながらそう呟き……再び目を閉じて眠る事にするのだった……

 

「……うるさいですわ……」

 

医務室を出たくえすはと言うと……胸に手を置いて、トマトのような赤い顔をして通路に背中を預けていた。くえすが呟いた言葉が横島に対しての言葉なのか、自らの心臓に対しての言葉なのか、それとも両方なのか……それは呟いたくえすにしか判らないのだった……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その13へ続く

 

 




今回の話はくえすとのフラグがメインとなりました。ほかのヒロインと比べてフラグがめちゃくちゃ多かったですね、しかしまだ完全成立とはなりません。あともう1回くらいフラグイベントをやろうと思っています。このリポート25の中でですけどね。次回からは本格的にガープが動く予定です、第一部の最終回まであと少し、最後までどうかよろしくお願いします


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