GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は横島と雪之丞戦を書いて行こうと思います、今回は仮面ライダーなしなのでどうやって雪之丞に勝つのかを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その10

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その10

 

琉璃との話し合いの中で判ったのは、試験会場周辺から出る事が出来ない事と蝙蝠の数が増えて来ているので何が起きるのか判らないと言う点だけだった。ビュレトと聖奈が対応に当っているらしいが、2人が処理する量よりも増える量の方が圧倒的に多いらしい

 

「爆発する危険性があるのでシズクに試験会場全体をなんとか出来ないかって頼みたいんだけど……どう?」

 

琉璃の問いかけにシズクは少し考え込む素振りを見せてから

 

「……出来ない事は無いが、大量の水が必要だ、それに短時間しか持たない。水道水のような安い水じゃなくて湧き水とかでなら出来る」

 

湧き水……今から用意できるのかしら?琉璃は多分何とかできると思いますと返事をし、電話を手にする。邪魔をしたら悪いので、部屋を出ることにした

 

「……医務室に戻る。何か嫌な予感がする」

 

横島君が心配だと言うシズクと別れ、ついて行きたそうな顔をしていたおキヌちゃんにお願いし2人で観客席へ戻る

 

【蛍ちゃんはやっぱり楽勝みたいですね】

 

「そ、そうね」

 

楽勝は楽勝だけど、拳でフルボッコしている姿を見ると楽勝と言うよりかは、鬱憤晴らしをしているように見える

 

「令子。そっちはどうだったワケ?」

 

タイガーの入院の手続きが終わったのかそう声を掛けてくるエミと

 

「令子ちゃ~ん?本当に~横島君~医務室に居るの~今行ったら~居なかったの~」

 

居ない?トイレとかじゃないの?と尋ねると大分待ったけど帰ってこないと返事を返す冥子に強烈に嫌な予感がした

 

(ちゃんと棄権するって言ってたし……大丈夫よね)

 

試合は棄権すると言っていたので大丈夫な筈だ。でも念の為に探しておこうと思っていると試合を終えた蛍ちゃんがチビやモグラちゃんを抱えて慌てた様子で合流してくる

 

「美神さん!横島がいません!医務室にチビとかはいましたけど!」

 

うん、知ってる。それは今聞いたから、考えられるのは私が呼んだタクシーだけど……結界のせいで外に出る事が出来ないのだから、タクシーが見えるはず。でもタクシーも見えないし……そもそも基本的に行動を共にしているチビとモグラちゃんが医務室に残っているのがおかしい。シズクは?と尋ねると先に横島を探しに行ったと教えてくれた。まぁそれは予想の範囲内だ。シズクは横島君に対して非常に過保護だから……しかし姿が見えないのは気になる。もしかするとガープとかに攫われている可能性もある

 

「おキヌちゃん、ちょっと探してきてくれる?」

 

【判りました!】

 

「コーン!」

 

タマモには言ってないんだけど、横島君を探して観客席を後にしたおキヌちゃんとタマモを見送ってから20分後

 

【……いませんでした……】

 

「……横島の奴どこに行った」

 

見つけることが出来なかったのか何処かしょんぼりした様子で戻ってきたおキヌちゃんとシズク。本格的に攫われた可能性を考えていると

 

『横島忠夫選手!伊達雪之丞選手!試合会場へ!』

 

試合会場の復旧が終わったのか、呼び出しが掛かる。まさか参加……するって事は無いわよね。あのベルトも使えないし、体力も十全じゃないはず……いくらなんでも試合に参加するはずが無いと思っていたのだが……

 

「み、美神さん!?あ、あれ……」

 

蛍ちゃんが信じられないと言う感じで呟く、私だって信じたくは無かった……

 

「あの馬鹿!何するつもりなのよ!?」

 

何故なら……棄権するはずだった横島君が試合会場に姿を見せたのだから……

 

 

 

「来たか……」

 

試合会場で腕を組んで待っていた伊達がそう声を掛けてくるが、俺にはその声はあんまり気にならなかった

 

(怒ってるかな)

 

今聞こえた美神さんの怒声。今まで何回も言う事を無視しているので、今度はもしかすると減給かもしれないな……いや、最悪解雇されるかも……という不安を感じながらも伊達を見る

 

「ふっ、気合の乗ったいい顔をしてやがる。これは楽しませてくれそうだな」

 

腕組をやめて拳を構える伊達。向こうはやる気満々って所かぁ……小さく溜息を吐いてから両手に霊力を集中させる

 

『試合開始ーッ!!』

 

審判の試合開始の声が聞こえると同時に伊達が雄たけびを上げて、陰念が使っていたのと同じような霊力の鎧を展開する

 

【動揺するな、落ち着け。勝機は十分にある】

 

心眼の言葉に頷き、どんな攻撃にも反応できるように両手を胸の前で構えると同時に踵を上げて立ち、伊達の様子を窺う

 

「ふっ、いい判断だ。踵を上げて、両手は反応しやすい胸の高さ。それに爪先立ちでどんな方向からの動きにも対応する。さっきのピエトロとは違う、良い判断だ」

 

拳を構えて好戦的な笑みを浮かべる伊達。そ、そう言われたが、俺としては蛍の構えを真似しているだけなので、そんなに深く考えているつもりは無いのだが……

 

「貴様はやはりどことなく、俺に似ている!楽しませてくれよ!横島ぁッ!!!」

 

そう叫んで突っ込んでくる伊達。は、早い!でも見える!反応できる!後は向かってくる攻撃に恐怖せず対応できるか?そこが全てになる

 

「まずは挨拶代わりだ!喰らえッ!!」

 

右手を突き出して放たれた霊波砲に同じく左手を突き出して

 

「サイキックソーサーッ!!!」

 

心眼のアドバイスで声に出すと出しやすくなると聞いたので言われた通りそう叫ぶと、目の前に霊気で出来た6角形の盾が現れる

 

「おおおっ!!!」

 

霊波砲に突っ込みながら左手の角度を調整し、掌から現れているサイキックソーサーの位置を調整する

 

「なにっ!?」

 

工事現場の重機のような音を立てて、俺のサイキックソーサーに当って受け流される伊達の霊波砲……その衝撃で左腕が痺れるが、上手く受け流すことが出来ていると思う

 

【よし!その調子だ、そのまま受け流し続け前に出ろ!】

 

心眼のアドバイスに頷きそのまま言われた通り霊波砲を受け流し、間合いを詰めると同時に右拳を握りこむ。キンっと言う渇いた音を立てて右腕が翡翠色の光に包まれる。家ではギリギリ固形化出来ていたけど、やっぱ霊力が減っているのか物質化までは行かなかった

 

「なに!?魔装術!?」

 

「知るかボケェッ!!とりあえず喰らっとけッ!!!」

 

大体何だ魔装術ってうんなもん知らんッ!!とりあえずこれで殴れるってことは判っているのでそれだけで十分!!振りかぶり全力で右拳を伊達の顔目掛けて振りぬいた

 

「がっはあッ!!」

 

「っつー!?かてえ!!!」

 

伊達を殴り飛ばすことは出来たが、右腕が痺れて腕を覆っていた光も消えた……やっぱ一発だけかぁ。ピートの親父さんのブラドーに時みたいに完全に具現化してくれていれば、もっとダメージを与えることも出来たと思うんだけどなと思いながら、そのままバックステップで距離を取ると同時に両手を突き出す

 

「おらああッ!!!」

 

「どっせーいっ!!!!」

 

反撃にと打ち出された特大の霊波砲を両手で作り出したサイキックソーサーで受け止め、腕を振り上げて上空に弾き飛ばす。天井に当って霧散する霊波を見て

 

(勢いでやったけど案外出来るんだな)

 

受け止めるつもりだったんだが、勢いで腕を上げたら弾き飛ばすことが出来た……俺ってたまにすげえ……とは言え両手がひりひりと痛むので出来ればやりたい手段ではないが……後破壊した天井の一部が降ってきているので危ないし……

 

【今の行動は良かったぞ、相手を見てみろ】

 

心眼に促され伊達を見てみるとさっきまでの好戦的な笑みは消え、明らかに警戒した表情で間合いを詰めようとしない

 

【今の内に霊力を集中させておけ、向こうが警戒してくれたのは御の字だ】

 

そうだよな、正直攻撃力とか防御力で行ったら向こうの方が上だ。最初の打撃と、上に受け流すことが出来たのは全くの偶然だが、そのおかげで流れを掴めたかもしれない

 

『おーっと!横島選手。1戦目・2戦目と異なり、冷静な立ち上がりですね。遠距離攻撃も上手くしのいでいますし、近距離にも反応が出来ています』

 

『うむ、目が良いんじゃろうな。このままなら持久戦に持ち込めると思うんじゃが、ピエトロ選手の時の氷を使う術もある、まだ安心するには早すぎるな』

 

判ってるってカオスのじーさん。向こうの方が強いって判っているから楽観的になることなんて出来ない、このまま距離を取って自分のペースを作っていく事を考えるさ、それをする為にまず俺がする事は1つ!

 

「どうした?来ないのか?楽しませてくれよとか言っておきながら逃げ回るのか」

 

距離を詰められないように、更に反撃を受けないように俺の周りをサークリングしている伊達をそう挑発する

 

【程々にしておけよ。反応しきれないラッシュが来ても困る】

 

心眼の言葉に判っていると返事を返す。正直俺の状態は良いとは言えない。騙し騙し、それこそ自分も相手も騙して……騙して自分のペースを作って行き、ほんの僅かしかない勝利の芽を掴む。それは綱渡りにも等しい、ほんの少しのミスで全てを失う。冷たい汗が背中に流れるのを感じながら、俺は再び伊達を挑発するのだった……

 

 

 

よ、横島が自分のペースで試合を作ってる。本当は乱入してでも試合を止めるつもりだったんだけど、小竜姫様がいざとなれば私が止めに入りますと言って私達の座っている席の近くに来てくれたのでそのまま試合を見ていたんだけど、試合のペースは完全に横島が掴んでた

 

「楽しめるとか言っておきながら距離を詰めてこないのか?どうした?逃げ回ってないで掛かって来いよ」

 

横島が両手に霊力を集め拳を作りながら伊達の方に足を進めると

 

「くっ!」

 

苦しそうに呻いて再び距離を取る。その度に綺麗に描かれていた円が歪になる。近づけさせまいと弱い霊波を放っているが、横島が手に収束している霊力の方が強いのか、弾かれて霧散している。このままでは先に伊達の霊力が尽きるだろう……

 

「上手いですね。最初に自分の攻撃力と技術を見せて、徹底して自分のペースを作る。こうなると中々相手は思うように動けないですよ」

 

確かに伊達は魔装術で身体能力を強化して、霊波砲で遠距離から削るのと、霊力を込めた拳による近接。そのどちらも出鼻を横島にくじかれたのだから動きにくくなるのは当然だ

 

「……しかしあの手のタイプを挑発するのは危険だ。カッとなって何をしてくるか判らない」

 

シズクの言う事も確かだ。伊達は気が短いからその内切れて接近戦を仕掛けてくる可能性もある

 

「そっちが来ないならこっちから行くぜッ!」

 

ダンっと横島が踏み込む素振りを見せる。舌打ちし霊波砲を打ち出す伊達だが……

 

「効くかぁッ!」

 

サイキックソーサーで弾き飛ばし、前に歩を進める横島。今のところ完全にサイキックソーサーを使いこなしているようだけど……

 

(どうして使わないのかしら)

 

サイキックソーサーは投げて使う事も出来ると横島に教えてある。心眼もそれを知らないわけが無い……じゃあなんでそれを使わないのか?何か理由があるのか、それを考えていると

 

【美神さん。あれ大丈夫ですか?ちょっと挑発しすぎだと思うんですけど】

 

おキヌさんが美神さんにそう尋ねる。横島の挑発は伊達が近づいて来ないことで更に勢いを増している

 

「それだけ強そうな鎧を着てても怖くて近づけないのか?どうした?逃げ回ってないで来いよ」

 

「あの馬鹿!調子に乗りすぎ!」

 

美神さんがそう怒鳴ると同時に痺れを切らしたのか伊達が凄まじいスピードで間合いをつめてくる

 

「様子見は終わりだ!一気に行くぜッ!!」

 

近接になると不味い。生身の横島と魔装術を展開している伊達では攻撃力と防御力が桁違いだ。最初こそ反応できるだろうが、捕まればその瞬間終わりだ

 

「横島ぁッ!距離を取って!」

 

咄嗟にそう叫んだ瞬間。横島の姿が消えた……文字通り完全に消えたのだ。私も美神さんも完全に目が点になっている。何が起きているのか理解出来ない

 

「何いっ!?」

 

至近距離の伊達は更に困惑してるいるのか目に見えて動揺しているのが判る。

 

【上です!】

 

おキヌさんがどこに横島がいるのか気付きそう叫ぶ。視線を上に向けると横島が伊達の遥か上空にいた、良く見ると足のスニーカーから煙が出ているのが見えて

 

(サイキックソーサーを踏み台にして跳んだ!?)

 

サイキックソーサーを踏みつけてそれを爆発させた事で大ジャンプして伊達の突進を回避したようだ。口で言うには簡単だが、実際やろうとすればそれは自爆と綱渡りになる危険すぎる行動だ

 

「喰らっとけッ!!!」

 

両手にそれぞれサイキックソーサーを作り出し、伊達目掛けて叩きつける横島

 

「ぬ。うおおおおおおッ!!!」

 

霊波砲でそれを相殺しようとした伊達だが、サイキックソーサーの方が威力があったのか、それともとっさの事で反応しきれなかったのか、サイキックソーサーを押し返す事が出来ず、サイキックソーサーによって試合会場の床に叩きつけられると同時にサイキックソーサーが爆発し、凄まじい爆発音が試合会場全体に響き渡るのだった……

 

 

 

 

サイキックソーサーを踏みつけての跳躍……口で言うのは簡単ですけど、実際にやるのなら爆発させるタイミング、跳躍するタイミングなどその全てが揃わなければあんな跳躍なんて出来るわけも無い

 

(凄い発想と思い切りですよ。横島さん)

 

爆風に乗って跳躍する。それは考えるのは簡単だが、実行するにはとんでもない勇気がいる。そしてそれを実行する思い切りの良さ……正直言って凄い度胸だと言わざるを得ない

 

「うぐう!?着地に失敗したぁ!?」

 

【たわけ!思いつきで行動するからだ】

 

ちゃんと着地出来ていれば更に良かったんですけどね。あれだけ跳躍すれば着地する方が難しいのでそこまで言うのは酷という物ですね

 

【凄い!横島さん凄いですーッ!!】

 

どこから取り出したのか旗を振って応援しているおキヌさんが興奮した様子で叫ぶ。その声で正気に戻ったのか美神さんと蛍さんが

 

「し、心臓に悪いわ……なんて事を考えるのよ」

 

「ほ、本当ですね。私も凄くびっくりしました」

 

着地に失敗していれば骨折や負傷していてもおかしくない、美神さんと蛍さんが心配するのは無理もない。だがいつまでもさっきの行動に興奮している時間は無い

 

「……見た目ほど効いていない。直ぐに立って来るぞ」

 

シズクが警戒するように呟く、確かにその通りだ。叩きつけた事と爆発させた事でダメージは確かにあるだろうが、魔装術で防御力が上がっているはずだ。そこまでダメージは大きくないだろう……それに……

 

「さっきの試合の事を考えると、あんまり追い詰めるとピート君を一撃で倒した暴走状態になる危険性もある」

 

唐巣さんが額の汗を拭いながらやって来てそう呟く。確かにその通りだ、あの氷を伴った魔装術。そうなると霊波だけではなく、作り出された氷にも警戒しないといけない。そうなると一気に横島さんが不利になるだろう

 

「唐巣先生。ピートと一緒に病院に行ったんじゃ?」

 

「確かにピート君は心配さ、それでも今やらないといけないことはそこじゃない。自分のやるべきことはちゃんと把握しているつもりだよ」

 

それに東條君と陰念君も病院に搬送しないといけないからね、綺礼に任せたよと笑う。これ以上戦力を下げるわけにもいかないので唐巣さんが試合会場に残ってくれたのは正直ありがたい

 

「や、やるじゃねえか……だがまだだ!まだ!オレハマケテナイッ!!!」

 

横島さんの対戦相手の声のトーンが急に変わった……美神さんや唐巣さんの顔色が変わる

 

「オレハ!オレハ!!!!モット!モットツヨクナルンダアアアアッ!!!」

 

悲痛めいたその叫びと共に全身を覆っていた魔装術が変容を始める。ピエトロさんを一撃で倒した氷の翼を持つ異形の姿にへと……

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

鎚を試合会場の床に叩きつけ咆哮を上げる、すると鎚を基点に周囲に雪と氷を伴った嵐が巻き起こる。そして次の瞬間

 

「がはあっ!?」

 

横島さんが何かに弾き飛ばされたように吹っ飛ばされる。何が起こったのか判らなかった、この私が認識できないほどのスピード……いや違う

 

「かっ……かは……」

 

蹲った横島さんの腹の辺りから音を立てて落ちたのは巨大な氷の塊。霊力で出来ているのか地面に落下すると同時に砕け散り消滅するが、そのダメージは大きいのか横島さんはその場で蹲り動く事が出来ないでいる

 

『そこまで試合……うあわああああ!?!?』

 

試合終了と言って試合を止めようとした審判に氷の嵐が襲い掛かる。これは不味い、咄嗟に止めに入ろうとしたのだが……

 

「「「「キキィ」」」」

 

無数の蝙蝠が私達の前に着地し、その身体の魔力を増減させている。これは下手に動けば爆発させるぞと言うガープの脅し……

 

(しくじった)

 

完全に止めに入るタイミングを逃した。やはり横島さんの意志を尊重するのではなく、無理やりにでも試合を棄権させるべきだった……助けに入るタイミングを逃した……

 

【オオオオオオオオッ!!!】

 

「ぐっ……ぐう」

 

嵐の中にも氷の刃が混じっているのか、浅いとは言え横島さんの体の表面を切り裂き、凄まじい勢いで間合いを詰められ

 

【アアアアアアッ!!!】

 

「くっ……くそっ!」

 

高速で振るわれた鎚をバックステップで回避しようとする横島さんだが、やはり足の負傷が響いているのか足がもつれている

 

【心眼ビームッ!!!】

 

心眼が放った霊波で直撃だけは避けるが、振るわれた時に発生した鎌鼬が横島さんの全身を浅く切り裂いていく

 

「なろおっ!!サイキックソーサーッ!!!」

 

【シャアアッ!!!】

 

反撃にと放たれたサイキックソーサーも、片手で弾き飛ばされる。サイキックソーサーの密度よりも、魔装術の密度のほうが上なので簡単に弾かれてしまったのだ

 

【ガアアアアッ!!!】

 

放たれた咆哮と共に尾が動き、鋭角的な軌道を描いて横島さんに襲い掛かっていく

 

「くっ!この!!こっち来んなッ!!!」

 

サイキックソーサーで弾いているが、攻撃はそれだけではない。連続で放たれる鎌鼬や氷弾がサイキックソーサーを貫き、横島さんにダメージを与えていく。そして尾の攻撃もついには防ぎ切れなくなってきている

 

「……あいつも……ガープも……殺してやる……」

 

ぞっとするような殺気に振り返ると、シズクの目が紅く輝き、その髪が何かの形を象って行く……それは竜の頭であり

 

「駄目ですよ!?ここで暴走なんてしないでくださいよ!?」

 

このままだと大蛇になると思い必死に止める。横島さんとシズクの魂は加護と言う形で繋がっている。どんな悪影響が横島さんに出るか判らないのだ

 

「がっ!?……がっはあっ!?」

 

「横島ぁッ!!!」

 

蛍さんの悲鳴にも似た声に振り返ると、魔装術の尾がサイキックソーサを貫き、横島さんの身体が宙を舞っている

 

【オッ!オアアアアアアアアアアアッ!!!】

 

追撃にと全身から放たれた魔力刃と氷刃が一斉に横島さんに向かっていく

 

【くっ!させるかああッ!!!!】

 

心眼が横島さんの霊力を操り、サイキックソーサーを4枚展開するが、放たれた刃全てを防ぐ事は出来ず

 

「ぐっああ!?ごふっ!?」

 

「横島ぁッ!」

 

【横島さんッ!!】

 

「小竜姫様!このままだ横島君が本当に死んじゃうわ!何とかならないの」

 

切り裂かれ、吹き飛ばされる横島さんの姿に蛍さんとおキヌさんの悲鳴が重なり、美神さんが必死の表情で何とかならないかと尋ねて来る。このままでは横島さんが死んでしまう、ガープに脅されていますがこのまま見てるわけには行かない。腰に差した神剣に手を伸ばし乱入しようとした瞬間

 

「……私が乱入する」

 

その横島さんの痛々しい姿を見てシズクがペットボトルを抱えて、観客席から飛び降りようとした瞬間

 

「……お前……何のために……強くなろうと……思うんだよ」

 

異形と化した伊達雪之丞の背から伸びる尾に首を締められ、吊り上げられている横島さんがその尾を掴んでそう呟く。その目を見て私は驚いた、絶望的までな状況なのにまだ目が死んでいない。

 

「ナンノ……タメニ?……オ、オレ……ナンノタメニ……」

 

横島さんにそう問いかけられ目に見えてうろたえる。まだ完全に操られているわけじゃないのですか……?横島さんの言葉にうろたえている。横島さんはそんなうろたえている伊達雪之丞の隙を突いて、顔面目掛けサイキックソーサーを叩きつける

 

「があっ!?」

 

顔面も鎧で覆われているのでダメージは殆どないようだが、その衝撃でよろめいている隙に距離を取り右手首を掴んで

 

「お袋は俺に言ったぜ……男が覚悟を持って拳を握った時。その拳がこの世で唯一。俺と自分の護りたい物を護る武器になるってよ……なら俺は……ッ!!!俺が護りたい物を護る為に……強くなるッ!!!自分じゃない誰かの為にッ!!俺は今よりももっと強くなるッ!!」

 

突き出した右手から凄まじい霊力が溢れ出す。それは嵐のように横島さんから吹き出し、横島さんがしていた金の指輪の中に吸い込まれていく……

 

「横島君の潜在霊力が解放された!?」

 

美神さんがそう怒鳴るのが聞こえる。横島さんの潜在霊力は膨大だ、それが僅かでも解放されれば、それは凄まじい力となるだろう。しかしそれだけではない、あの指輪だ。あの指輪が更に横島さんの霊力を高めている……あれは一体……?

 

「まだだッ!!もっと!もっとッ!!!もっとだッ!!!!」

 

【横島!止めろ!それ以上霊力を高めるなッ!!!】

 

心眼が横島さんを止めようとするが、横島さんはトランスしているのかその声も届いていない。その霊力は凄まじく、狭い試合会場を嵐のように駆け回っている。美神さんや蛍さんは飛ばされないように観客席に掴まる事で吹き飛ばされるのを耐えている

 

(これが……横島さんの力……)

 

神族である私ですら威圧される凄まじい霊気。いや、霊気だけじゃない、私と天竜姫様そしてシズクの竜気が横島さんの霊気に混ざり、横島さんの霊力を更に高めている。伊達雪之丞も止めようと思って近づこうとしているが

 

【グッアアア!!!】

 

その凄まじい霊力に押されて近づくことが出来ないでいる、霊力だけで押し返すなんて……離れているからこの程度で済んでいるけど、近くに居る人はもっと影響が大きいのかもしれない。解説をしている人の声も良く聞こえないほどの轟音が響き渡っている

 

「もっと……ッ!もっとッ!!もっと輝けええッ!!!!」

 

横島さんの右手に霊力が集まり輝いている。それは直視するのも眩しいほどの光を放っているが、それでもまだだと叫んだ横島さんの首から下げられていた何が霊力の風に飛ばされる

 

「……私が作ったお守りが」

 

シズクの見ている前でそのお守りが破け、そこから何かの牙が零れ落ちた瞬間。それは霊力に吸収されるように消えて行く……あの牙を取り込んだ……?それはあまりに信じられない現象だが、目の前で見たからには信じるしかない。だが竜の牙を取り込んだことでどんな悪影響が出るかも判らない。どうしてそんな物でお守りを作ったんですか?とシズクに尋ねると

 

「……いや。私とモグラとチビの牙で……作った。あとタマモの尻尾」

 

「なんでそんな物でお守りを作ったんですか!?」

 

シズクの牙だけならまだかろうじて理解できる。なのに何故、そこにモグラちゃんとチビの牙を付け加えたのかが理解出来ない、更に言えば九尾の狐の尻尾の毛を入れるなんてお守り所か、普通に考えれば呪術道具か何かにしか思えない。だがそれを今責めてもどうしようもならない、それがどんな影響を出るか見守るしかない

 

「おおおおおッ!!!」

 

手に集まった莫大な霊力を握りつぶすようにして人差し指から中指、薬指、小指、親指と握りこんで行く……そして親指まで握りこんだ所で横島さんの手の中の霊力が一気に収束し、拳から右肩までが翡翠色に輝く篭手に包まれる。そして背中には三日月状の3枚の翼が現れていた……あれはなんなんですか……まさか霊力を固形化させて鎧として使っているとでも言うのだろうか……

 

「うおおおおおおおおおッ!!!目を覚ましやがれッ!!この馬鹿野郎ッ!!!!!!」

 

背中の翼の一枚が砕け、そこから凄まじい霊力が溢れ出し、凄まじい勢いで伊達雪之丞に突進していった横島さんの右拳がまるで雷の様な音を立てながら伊達雪之丞を殴り飛ばしたのだった……

 

 

 

いてえ……めちゃくちゃいてえ……横島の拳が当った右頬がめちゃくちゃ痛い。だがそのおかげか意識がはっきりしてくる

 

(そうだ、俺は……)

 

何のために強くなろうと思ったのか?その全てを思い出した。なんでこんな大事な事を今まで忘れていたのか、自分でも判らない。でもこの誓いは……決して忘れてはいけない物だ

 

「あーいてえ……めちゃくちゃ……いてえ」

 

んだよこれ、翼に尻尾?動きにくいったらありゃしねえ。なんでこんなのが俺の魔装術についてるんだよ。つうか……

 

「邪魔くせぇッ!!!」

 

視界の隅を動いている尻尾を掴んで引きちぎる。痛みは無いな、手の中でびくんびくん動いている尻尾を見て

 

「気持ち悪るッ!?」

 

持っていても気持ち悪いので試合会場の外のほうに投げ捨てる。誰かに当ったような気もするけど、まぁそこまで気にすることは無いだろ。むしろあんなのを避けられないほうが悪い。そのまま翼も掴んで

 

「ふんっ!!!」

 

力任せに引きちぎる。んで最後に顔を覆っている仮面に手を掛け……ようとして

 

「おう、横島ちっと待ってろ。これが邪魔くせえ」

 

前が見えない、こんなんじゃまともに試合なんて出来ない。だから仮面を引っぺがそうと思ったが、その間に殴られても詰まらないので横島にそう声を掛ける

 

「お、おう……」

 

翡翠色の篭手を身につけている横島にそう声を掛けてから仮面をひっぺがす、なんかべりっとかいう不吉な音がしたような気がするけど……気のせいだろ?なんか額から血が出ているのか、目の前が見にくいが、それもきっと殴られた衝撃で額でも切ったんだろうと判断する

 

「なんの為に強くなるかだったな。良いぜ、答えてやるよ」

 

ちょっと身体がダルイな、まぁ大丈夫だ。問題ない、身体のダメージは大きいが、そんなのが気にならないくらい気力が張っているのが判る。それに魔装術が消える気配もないくらいに安定してる。これならまだ全然戦えるッ!

 

「俺が強くなる理由!それは1つしかねえ!!若くして死んじまったママと約束したのさ!誰よりも強い男になるってな!!」

 

うええっと横島がドン引きしているのが判るが、お前だってお袋の言葉を大事な約束にしているじゃねえかと言うと

 

「いやいや!?あれ別に約束とかじゃないからな!?お袋が俺に発破を掛けただけだからな!?」

 

「ふっ、恥ずかしがることは無いだろうが?男の価値は産んでくれた母親への感謝で決まる!そう言う面では俺もお前も最高の男のはずだ!」

 

「俺までマザコンにするなーッ!!!」

 

やれやれ、俺と横島では価値観が違うのか、それともまだ俺と同じ領域まで到達していないのか……まぁどっちにしろ小さな問題だ。俺と横島の戦いの中できっと横島も真の男の価値という物を理解してくれるだろうよ

 

「やっぱりお前と俺は似ている!!お前と戦えば強くなれると思ったのは間違いじゃなかった!!ふふふふ、天国で見ていてくれッ!!俺はこんなにも強く逞しく!美しくなったぞ!!ママーッ!!!!!!」

 

観客席とかの方からざわざわとした声が聞こえるが、気にするまでも無い。真の男の価値は自分が判っていれば良いんだからなッ!!!

 

「嫌だーッ!!こんなやつと戦うのは嫌だーッ!!」

 

逃げようとする横島の方へと向かって俺は走り出す……この戦いの中で俺は俺の信じる真の漢に近づくことが出来ると確信し、拳を強く握り締めるのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その11へ続く

 

 




シリアスだと思いました?残念ギャグでしたッ!いつまでもシリアス続きなんて私が耐えられないのでここからかギャグでやっていこうと思います。勿論戦闘も頑張って行こうと思いますけどね!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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