リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その7
横島と陰念の試合の後。試験会場は凄まじいまでの騒動を見せていた。間違いなく殺されると思っていた横島が勝利、しかも謎の全身を覆う鎧を使い見事な試合をして見せたのだ。運よく合格しただろう?と思っていたGS関係者がその評価を反転させなんとしてもヘッドハンティングしたいと動き出していたのだが
「美神除霊事務所所属だと!?」
「くそ!あの女が助手を手放すとは思えない!」
GS協会の中でも美神令子の名前はやはり有名なのか、どう考えても引き抜くことなど不可能だと考え諦める者……
「美神令子なら金で何とかなるかも知れんな!」
「いやしかし、あれだけの能力を持つ若いGS相当ふっかけられるのではないか?」
美神令子の性格を知っているので金で何とか引き抜くことが出来ないか?と話し合っているGS関係者の中を進む1人の男……
「ふむふむ、白いのの予言の意味が判ったな」
白いゴムマスクに全身を覆う黒いマントと言う異様な格好をしたこの男の名は「都津根毬夫(とつね・まりお)」ネクロマンサー見習いとしてGS試験に参加していたこの男は、何かを考えるような素振りを見せながら、腕時計のような何かを見てから試合の組み合わせを確認した都津根は
「後数刻が許された時間か……ならば少しばかり遊ぶのも悪くあるまい」
マスク越しににやりと笑いマントを翻しその場を後にした。都津根が見ていた組み合わせ表には「芦蛍」VS「都津根毬夫」と書かれているのだった……
一通り役員達に指示を出し終えた所で私は医務室に訪れていた
「うー……身体痛い……泣きそう……あいだ!?ううう……喋るだけでも辛い……」
「うきゅー?」
何故か医務室のベッドではなく、巨大化したモグラちゃんの上で呻いていたのには思わず首を傾げてしまった
「横島君。なんでモグラちゃんの上で寝てるの?」
顔を上げる元気も無いのかモグラちゃんの上で寝転んだまま
「ベッドだと……寝返り打っても痛いし……モグラちゃんもこもこしてるから」
一応竜種をベッド扱いって……いやまあ良いんだけどね?別に私がどうこう言うことじゃないし……それに今はそれよりも優先するべきことがある
「令子ちゃん~心配しなくてもいいわ~そんなに酷い状態じゃないから」
「わふわふ!」
ショウトラがモグラちゃんに寄り添って光を放っている。その光を横島君が吸い込んでいるので治療は進んでいると判断しながら横島君を心配そうに見つめている美神さんに
「美神さん?報告書かなり誤魔化してましたよね?」
あんなベルトの力とか聞いて無いですよ?と尋ねると美神さんは判りやすく目を逸らして
「でもさ?琉璃あの力を見て報告書だけで納得できる?というか怒らない?」
そう逆に問いかけられ言葉に詰まる。何百年も神代家が受け継いできた神卸し……それと良く似ていて、そしてこちらよりも強力な力を発揮していた横島君
「……怒ってたかもしれないですね」
うええ!?っと嘆く横島君にごめんねと呟く。正直信じることが出来ないと思うし、信じたくないと思う。それに……多分嫉妬する。神代家が何代も積み重ねてもなおまだ不完全と言わざるを得ない神卸しの技。それと似た技を使う横島君を好意的には思うことは出来なかったと思う
「そういう訳だから報告しなかったの。でもまあ、それが役立ったんじゃない?」
美神さんの言葉にそうかもしれないですねと小さく返事を返す。GS協会にもガープの手が伸びていたかもしれない、その可能性を考えると情報が全てGS協会に来てなかったのが良かったかもしれない、特に横島君のあのベルトの事を隠すことが出来たのはプラスだと思う
「……大丈夫か?これを飲めば少し楽になると思うぞ」
「うーありがとー」
シズクに水を飲ませて貰っている横島君を見て、こんなになるほどにダメージを受けていたのだろうか?と首を傾げていると蛍ちゃんが私の考えている事に気付いたのか説明してくれた
「横島の潜在霊力を無理やり引き出しているから酷い霊体痛になるんですよ、それに今回は2つも眼魂を使ったから余計にダメージが大きかったみたいです」
眼魂?なにそれ?と私が首を傾げていると蛍ちゃんがモグラちゃんの近くを指差す。何があるんだろ?と視線を向けると
【ううー申し訳ありません主殿ー!全くお役に立てませんでしたー!】
【イッヒヒーッ!!!】
……紫色と黄色の球体がチカチカ光りながら喋っていた。多分この時私は油の切れたロボットのような動きをしていたと思う。ゆっくりと振り返り紫色のほうの球体を指差して
「……あれもしかして本人?」
牛若丸って言ってたけど、え?義経の時になにかあって牛若丸だけ現世に残った?また報告されてない事だけど、それに怒る前に目の前の現象に私は思考停止気味になっていた。美神さんはこくりと頷く
「横島君?君一回神代家に来てみない?美人の巫女さんいっぱいいるわよ?」
これはもう才能って言葉で思考停止していい問題じゃない。完璧な神卸しに現世に残し使役する。どれも神代家が最終目標としている技術だ、現当主としてその技術を少しでも知りたい。出来ることならば神代家に横島君の血を入れたい……もうそれこそ私の夫として迎え入れることも十分に視野に入ってくる
「帰れーッ!寄るなーッ!」
横島君が反応する前に蛍ちゃんが横島君の頭を抱え込んで髪の毛を逆立てて怒鳴る。ふしゃーっと言う猫のようなうなり声まで聞こえたような気がする
「……おい。蛍……人間の首はそっちには曲がらない!早く放せ!」
【……あう。羨ましい……】
額に青筋を浮かべているシズクと指をくわえて羨ましいと呟いているおキヌちゃん。横島君って実は人たらしなんじゃ?と思えてくる。しかしその当の横島君は胸に抱え込まれて喜んで……は居なかった
「あ……あの……蛍さん?……首……首……もげます……」
思いっきり首をねじられている横島君の顔が赤くそして青いというとても面白い事になっている。人間ってこんな顔色になるんだと思わず感心してしまう
「あ……も……だ……め」
蛍ちゃんの腕を力なくタップしていた横島君の腕が地面に落ちる。蛍ちゃんが自分の胸で横島君が泡を吹いているのを見て
「ッきゃああーッ!!横島!ごめん!横島ぁッ!!!」
「……お前は馬鹿かーッ!!」
「ごめんなさーいっ!!!」
シズクに怒鳴られて謝っている蛍ちゃんをみて思わず笑いながら
「なんか個性的だけど皆良い子ですよね」
「まぁ……ね」
横島君や蛍ちゃんが美神さんの事務所に入ってから美神さんも大分優しくなったと評判だ。私は前の美神さんを知らないけど、唐巣神父などに聞くと別人かと思うくらい変わってるよと聞いた。少し前の美神さんが気になる所よねと笑っていると
「それで琉璃。陰念はどうなったの?」
この医務室に居ない陰念の事を訪ねてくる美神さん。ここで話すには少し重い問題だ、特に横島君には聞かせたくない。廊下のほうに目を向けると美神さんは私の言いたいことを理解してくれ
「ちょっと琉璃と今後の打ち合わせをするから。とりあえず蛍ちゃんは次試合なんだから少しは集中してなさいよ」
「う。判りました」
蛍ちゃんにそう注意してから医務室を出てきた美神さんと一緒に少し歩いて医務室の前から離れたところで
「まず陰念ですが、命には別状はありません。命には……」
ドクターカオスと神代家のお抱え医師に言峰神父見て貰ったからそれは間違いない。
「命以外に問題があると?」
「ええ。チャクラが全てズタズタになっています……確実に霊力を使うことは出来ないです」
命は助かった、だがGSとしての進路は完全に断たれたさらに
「過剰な霊力を手足に供給したことによる手足の腱の断裂。それに酷い霊力の枯渇……正直言って生きてることが信じられないほどの重症です」
リハビリをしても元通り歩ける保証もなければ、物を掴んだりすることも出来ないかもしれない……こんな言い方は酷だと思うが……死んでいたほうが良かったかもしれないとまで言われています
「……そう、じゃあ陰念の事は横島君には内緒で……あれで結構気にしてるみたいだから」
「そうですよね……本人は助けるつもりで行動したみたいですし……」
助けはしたが植物人間の可能性ある。それじゃあ余りに横島君の頑張りが報われない
「タイガー君の方は心配しなくても大丈夫ですよ。当面は入院生活になると思いますけど、深刻な後遺症も無さそうですし……唯一問題にすると言うのなら「GSを怖がらないかね?」ええ、でもきっと大丈夫だと思いますよ」
死に掛けてGSを辞める人は案外多い。だが友人の為に命を賭けたタイガー君だ。間違いなく復帰しGSを目指すだろう……それよりも、今はもっと近くで深刻な問題が控えている
「それと敷地内の蝙蝠ですが、時間ごとに増えています。GS試験の中止はまず不可能。何があっても最後までやらないと」
「それこそ死人が出たとしてもね。それにただで終わるとも思えない、そこから何かあるって考えているんでしょ?」
美神さんの言葉に頷く、ソロモンならここに居る全員を殺す事だって簡単に出来る。それをしないのは私達を追い詰めて遊んでいる、もしくは神魔に対するあてつけの可能性もある。GS試験が終わった段階で全員を殺しに来る可能性だってある
「小竜姫様と唐巣神父、それにブリュンヒルデさんの合流があってから漸く何か出来るという段階です。今は何も出来ないですから」
下手に動いて会場に居る全員を危険に晒すわけには行かない。なら今は思惑通りに動くしかない
【芦蛍選手。都津根毬夫選手、試合を開始します。試験会場へ!】
係員のアナウンスが試験会場に流れる。私もそろそろいかないといけない
「美神さんも無理はしないでくださいね」
「判ってるわよ。琉璃も全部1人で抱え込むんじゃないわよ」
美神さんの言葉に判ってますと返事を返し、私は役員室へと足を向けるのだった……
失敗したわねー……私は試合会場で対戦相手を待ちながらさっきの失敗を反省していた
(殆ど反射的だったからなあ……)
神代家に引っ張ろうとしている琉璃さんの言葉を聞いて反射的に横島の頭を抱き抱えてしまった。おもいっきり首をねじって……横島だったから大丈夫だった物の普通の人間なら死んでいたかもしれない。これは反省しないといけない
(でもまぁ……うん、1個確かめることも出来たし別にいいかな)
胸が小さいのを随分気にしていたけど、気絶している横島の顔が緩んでいたのを思い出し良かったと思う反面。横島を気絶させてしまったことを後悔していると対戦相手が試合会場に上がって来る
「遅れてすまない。少しばかり準備に手間取ってね」
口調は丁寧で紳士的だが……格好が異様すぎる。180近い長身を足元まで隠す黒いマントに顔を覆っている白いゴムマスク。夜に見たら悲鳴を上げてしまいそうだ。審判も若干引き攣った顔をしているのが良く判る
『あー解説のドクターカオス。あの格好にはなにか意味があるのでしょうか?』
『ふーむ。正解とは言い切れんが、なんらかの術を行使する為に自分の身体を護っている可能性があるの。俗に言う邪法と呼ばれる術じゃな。それに都津根毬夫はネクロマンサーとして登録しておる。そういった術を得意としている可能性が高いの』
ドクターカオスの解説を聞いて眉を顰める。ネクロマンシーも立派な霊能だ。もしネクロマンシーを使われると一気に不利になるわね……
「では!試合開始ーッ!!」
審判がそう叫ぶと同時に都津根が突進してくる。行き成り間合いを詰めて来るとは思ってなくて一瞬動きが硬直する、直ぐに気持ちを切り替えて咄嗟に飛びのくが
「甘いな」
マントの下から左腕が伸びてくる。掌に破魔札が貼り付けられているのが見え、咄嗟に右ひじで掌底を受け止める
「くっ!?」
打撃のダメージは減らすことが出来ても霊力のダメージまで防ぐことは出来ない。至近距離で炸裂した破魔札の衝撃で大きく弾き飛ばされる
(不味い!)
距離を大きく開けてしまった。ネクロマンシーを使われないように間合いを詰め続けようと思っていたのに!地面に手を付いて受身を取り再び間合いをつめようと顔を上げて
「嘘ッ!?」
思わずそんな声が出てしまう。再び間合いを詰めようと突進してくる都津根……ネクロマンサーじゃないの!?これじゃあ完全に近接タイプじゃないの!?
「はっ!」
「っとと!?」
突き出された左腕を頭を下げて避ける。前髪が宙を舞っているのが見えて目を見開く
(完全に避けたはずなのに!?)
余裕を持って避けたはず。それなのに今の攻撃は掠っていた……何か仕掛けがある?
(なんにせよ……素手じゃ負ける!)
あんまり使い慣れていないが、神通棍を取り出し霊力を流す。丁度いい長さになった神通棍の先を都津根に向けるようにして構える
「ふむ……馬鹿ではないか」
感心したように呟く都津根。何か仕掛けを施しているのは判っている、それを隠すための黒いマントと今までのネクロマンサーとしての戦闘スタイル。つまり今の戦いかたが都津根の本来の戦闘スタイル……霊力を込めた打撃で相手を制圧する近接タイプと見た
(集中して……相手の挙動を見逃さないように……)
マントの中に隠している両腕。間違いなくそこに何か仕掛けがあると見て間違いない……なら神通棍で私の間合いに入れないことが1番安全で確実な戦術のはずだ。それに……
(持込の霊具の事もあるし)
ルール上霊具を3つまで持ち込むことが許可されている。私は精霊石のペンダント・神通棍に破魔札。都津根は破魔札を使用しているが、まだ2つ何かを持ち込んでいると考えたほうがいいだろう。ならばどんな霊具を使ってくるにしろ反応できる距離を保つのが最善策だ。無論向こうから攻めてこないのならこちらから仕掛けるつもりで踏み込むタイミングを計っていると
「えっ!?」
背後から何かに押されるようにして都津根のほうに引き込まれる。何が起きているのか判らず混乱していると観客席のほうから
「蛍ちゃん!素早くしゃがみ込んで転がりなさい!」
美神さんのアドバイスが聞こえてくる。言われた通り素早くしゃがみ込んで転がると目の前を何かが通過していく
「ふむ……観客席からの助言が卑怯とは言わぬが……少しばかりフェアではないな」
都津根の手にはいつの間にか獲物だろうか、都津根の身長よりも更に長い死神の鎌を思わせる巨大な鎌が握られていた。
(今のどうやったの!?)
あれだけ巨大な鎌だ。さっきのように引き込むような使い方が出来るとは思えない、さっきのような状態になればそのまま両断されるのが当たり前だ。じゃあどうやって私を自分のほうに引き寄せたのか、あれのほかに何か霊具を使っていたのだろうか?得体の知れない都津根に背筋に冷たい汗が流れるのを感じていると
「審判!降参だ!」
突如その鎌をどこかへと消し去り降参だと叫ぶ。そのあまりに突然の事に目を丸くしていると終始マントの右腕を差し出してきた
「その腕は……」
思わず息を呑む。都津根の右腕は酷い火傷を負っていて大分離れているがケロイド状になっているのが見える、正直よくそんな状態で戦っていたなと思うレベルの重症に見える……
「ここまで来たのだからGS免許を貰おうと思いはしたが、君は強い。負傷を隠して戦って勝てる相手ではないというのはいままでの攻防でよく判った」
都津根はそう言うと私の行動を1つずつ評価しながら肩を竦め
「先ほどの陰念と横島の試合で使役するはずの動物の死体も消失してしまったし、何よりこの負傷。今の奇襲が失敗した次点で私の勝利は無い。降参するのは当たり前だ」
嘘だ……あの火傷は確かに痛々しいが、都津根はまだ力に満ちている……あの鎌を見てから私の中の魔族の因子がしきりに警告の声を上げている。逃げろと戦うなと……さもなくば死ぬぞと訴えかけている
「と言うわけだ。降参させていただく、では失礼」
言うだけ言ってさっさと試合会場を出て行く都津根を私は呆然と見送ることしか出来ないのだった……
試合会場を出た都津根は上機嫌な素振りでいつの間にか手にしていた杖で地面を突きながら歩いていた
「中々に楽しかった。しかし時間は時間、切り上げねばならぬのが辛いところだ」
腕に巻かれていた時計を見て肩を竦める都津根は空を見上げながら
『千の顔を持つ者と邪悪に見初められし者。その戦いが始まりを告げ、翡翠の拳と魔の拳が目覚めの旋律を奏でる』
何を言っているのか理解できないが上機嫌で呟いた都津根はやれやれという素振りで肩を竦め
「全く白いの言葉はいつも理解に苦しむ、しかも800年近く……うむ?1000年だったかな?まぁどうでも良いか、長い月日が経ったのは間違いないのだから」
800年にしろ1000年にしろ人間の生きれる時ではない。都津根と名乗った男は人間ではなく、蛍の中の魔族の因子が警告の声を上げていたのも本能的に都津根が自身の天敵と言うことを悟ったのだ
「さてと……ではもう少しばかり楽しませてもらうかな」
ゴムマスク越しににやりと笑った都津根はそのまま鼻歌を歌いながらUターンし、試合会場に入ろうとする列の中に紛れ込み……瞬きするほどの一瞬でその姿を消すのだった……
次が僕の試合だ……持って来ていた空手着の帯を何度も何度もしめ直す……だが何度やっても上手く行かない
(なにをこんなに動揺しているんだ)
さっきの横島さんと陰念と言う白竜会の人の試合を見てから落ち着かない。激しいという言葉で片付けることなど到底出来ない試合……いや……あれは戦闘だった。下手をすれば横島さんが死にかねない。生死にかかわる物だった……それにタイガーさんも横島さんに少しでも情報を残そうと必死に戦った……それなのに僕は今すぐにでも棄権して逃げたいと思っている
(情けない、ああ、なんて情けないんだ)
同じ胴着を着ている。それだけで恐怖を覚える……もしも僕の対戦相手も同じように変化したとして僕は勝てるだろうか?いや……生きることが出来るだろうか
(くそ!落ち着け!落ち着くんだ!ピエトロ!)
頭をたたき気を落ち着けようとするが、寧ろ焦りと不安が増していく。横島さんのバンダナに言われた言葉もずっと胸の中に引っかかっている。こんな精神状態ではまともな試合になんてなるはずがない……それでも必死に落ち着こうとしていると
「おい!ピートッ!!」
耳元で怒鳴られて思わず耳をふさいで誰が!と振り返り驚いた
「よ、横島さん!?もう大丈夫なんですか!?」
試合の後倒れてモグラちゃんに運ばれて行った横島さんがモグラちゃんの上に座ったまま僕を見ていたから
「んー大丈夫かって言われると大丈夫じゃねえな……身体は痛いしなーでも韋駄天の時よりかは大分まし。シズクに治療もしてもらったしなー」
頭の上にチビを乗せてのほほんと笑う横島さんを見て力が抜ける。そ、そっか……無事だったんだ……
「じゃあタイガーさんも?」
炎の中に呑まれたタイガーさんも無事なのか?と尋ねると横島さんはニカっと笑いながら
「おう全然問題ないぜ。元々タイガーは身体が強いからな。多少リハビリが必要だけど命に別条はないってさ」
そ……そうなんだ……ずっと気がかりになっていたことが消えて思わず安堵の溜息を吐く
「それよりもだ!ピート、次お前が勝てば俺と試合だなー」
世間話のように切り出した横島さん。ああ、その事か
「判っています。怪我人の横島さんに無理は「ドアホ」あいたあ!?何するんですか」
横島さんに無理をさせないために棄権すると言おうとすると横島さんに頭を殴られる。
「そんな事考えてるから駄目なんだ、先の事なんて考えてないで!今自分に出来ることを全力でやれよ」
ったく身体がいてえのになんでヤローの激励に来なくちゃいけねぇんだ。どうせなら蛍の激励に行きたかったと呟いている横島さんを見ていると
「横島君の言うとおりだよ。ピート君」
「唐巣先生!」
少し疲れた様子の唐巣先生がやって来て僕の両肩に手を置いて
「今出来ることを全力でやってきなさい。勝ち負けは重要じゃないんだ、今君の出せる全力を出してきなさい」
唐巣先生の激励を聞いてさっきまで感じていた恐怖心が少し弱まった気がした。それに加えて横島さんが僕の胸に軽く拳を当てながら
「次の試合楽しみにしてるぜ。頑張れよ」
拳を当てられたことで気付いた。横島さんが随分弱っている事に……今も僕の激励の為に無理して来てくれたのだと判った。調子の悪い横島さんに心配させている事が情けなくなってきて、それでもそれを顔に出すことは出来なくて
「横島さん……はい!次の試合で!」
僕は横島さんの言葉に返事を返すことしか出来なかった。他に何か言いたいことがあったのだが、心配させている僕が言える事じゃないと思ったのだ
『ピエトロ・ド・ブラドー選手!伊達雪之丞選手!試合会場へ!!』
丁度僕の呼び出しの声が掛かる。気合を入れるために頬を叩き
「唐巣先生!横島さん行ってきます!」
2人にそう声を掛け、僕は試合会場へと向かうのだった……
ピートの姿が見えなくなってから横島はさっきまでの笑顔を消して、青い顔でモグラちゃんの上に横たわる
「みーむうー!!」
「大丈夫……大丈夫やで……」
心配するチビに大丈夫と声を掛ける横島だが、その顔色は悪くとても大丈夫そうには見えない
「君も無茶をするな。横島君」
「は……いやあ……ピートにも頑張って欲しいっすから」
ピートの事だから不安に思っていると思って横島は無理をしてピートの激励に来ていたのだ。ピートの夢の話を聞いていたから、頑張れとだけでも言いたいと思ったのだろう
「さ、無理をしないで医務室に戻りなさい。私の方から聖奈さんと小竜姫様に声を掛けておくから」
唐巣神父の言葉に横島の代わりに返事を返したのはモグラちゃんで、横島を落とさないように医務室に戻っていくモグラちゃんを見送った唐巣神父は鋭い視線でピートの対戦相手の雪之丞を見つめ
「先に横島君だな……急ごう」
何か思う所があるようだったが、今は横島君の方が先だと呟き役員室へと向かうのだった……
リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その8へ続く
次回はピートと雪之丞の試合を1話全部使って書いて行こうと思います。気合を入れるところはしっかり気合を入れないといけないですからね。そして蛍と戦った都津根となのる人外。ヒントは鎌と白いのの2つ。判る人は判るかもしれないけど、知ってる人も気づかないかもしれないですね。割とすぐ再登場するので彼の正体を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします