GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は戦闘メインで頑張っていこうと思います。基本的に横島の視点がメインとなると思いますが。そこのところはご了承ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その6

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その6

 

「すげえ……こいつはすげえ……」

 

あたしの目の前で興奮した様子で試合を見ている雪之丞。あたしはそんな雪之丞とは反対に冷静になっていた

 

(あれだけの力……対価が無いとは思えないわね)

 

あたしや雪之丞が使う魔装術。あれも莫大な力を得るが、その反面制御に失敗すれば、魔族になるというリスクがついて回る……あたしは目の前の試合を見ながら

 

「雪之丞。陰念を見てどう思う?」

 

魔装術に取り込まれ、外見も既に人間とは思えない姿になっている陰念を見てどう思う?と雪之丞に尋ねる。雪之丞の反応はドライな物で

 

「魔装術の制御に失敗した出来そこ無いだろ?なんでそんな事を聞くんだよ?」

 

……違う、これはあたしの知っている雪之丞じゃない。雪之丞は口こそ悪いが仲間想いで間違ってもこんなことを口にする性格じゃなかった……

 

「じゃあもう1つ聞いていい?」

 

「んだよ?俺は試合を見て居たいんだ」

 

不機嫌そうな雪之丞。これを聞くのは本当に本当の最終手段だと思っていた……でも今聞かないとあたしも次の試合だから、雪之丞と話している時間がない。あたしは小さく深呼吸をしてから

 

「雪之丞。あんた何の為に強くなろうと思ったの?」

 

この質問に雪之丞がどんな反応をするのか?そう考えるだけで怖かった。あたしは雪之丞が強さを求めた理由を知っている、雪之丞が子供の時に死んだ母親との約束の為に強い男になるという約束の為に雪之丞は己を鍛え続けてきた……でもガープに何かをされたおかげで凶暴化している雪之丞がそれを憶えているだろうか?

 

「なんの為に?……それは……あれ?なんの為だ……?なんか……あるんだ。なんだ……なんだったんだ……」

 

あたしの危惧していた通り雪之丞は自身の母親との約束を忘れていた。それを思い出させようにも

 

(あたしもね……信用されてるわけじゃないのよね)

 

さっきからあたしを見つめている金色の蝙蝠。それはガープの使い魔である蝙蝠だ。もしあたしが裏切る素振りを見せれば躊躇うことなくあたしを殺しに来るだろう……結局のところあたしに出来ることなんて何にも無いのだ……もしあたしが何かをすることがあれば……それは今ではない、たった一瞬……数秒にも満たない好機……それをあたしの命を引き換えに掴むため……だから今は何もしない……

 

(陰念……あんたがそうなったのはきっと横島に何かを見たからよね?)

 

あそこまで暴走する。それはきっと陰念の意志が関係しているだろう。本当に暴走しているなら観客席の人間にも襲い掛かっているはず……それをしないと言うことはまだ陰念の意識は少しとは言え残っている筈だ……

 

(あたしが言えた事じゃないけど、陰念を頼んだわよ)

 

あたしは頭を抱えて悩んでいる雪之丞に試合の準備があるからと声を掛け、観客席を後にしたのだった……

 

 

 

身体は……やっぱちょっと重いか……ジャック・オー・ランタンって言ってたけど、なんだろな?妖怪かな……?

 

ウィスプが変化した姿の動きを陰念の攻撃をかわしながら確認する。牛若丸魂と比べると身体が重く感じるがウィスプと比べると軽く感じるな……それに何よりも

 

「シアァッ!!」

 

地面と上空から同時に吐き出された炎。これは牛若丸と心眼の補助があってもさっきは避けれなかったのだが

 

【イヒヒー!】

 

【その場で反転!そのまま跳べ!】

 

今も心眼とウィスプの補助は続いている。それでも……今は必要ない……何故なら全て見えているから

 

「見える!……見えるぞ!」

 

上下左右から俺を追い込むように放たれた炎。それが迫って来ているのだが、最後の装着されたバイザー……あれの能力なのか正面は勿論。上下左右その全てが同時に見え、更にどうすれば逃げれるのか?と言う逃走経路が見える

 

(これすげえ!)

 

陰念のほうに走りながら数秒間だけ見える安全な逃走経路を走り、スライディングで滑りぬけ間合いを詰める。攻撃が見えるんだから近距離でも戦える筈だ、いつまでも遠距離攻撃では埒が明かないし……そもそもこの姿になったら持っていた剣が消えてしまったので銃に変形させての銃撃と言うのも出来やしない……心眼の危惧している通り更に化け物になられても困る。となると俺が出来るのは危険だと判っているが前に出て殴りあうしかないのだ

 

【その判断は間違っていないが、調子に乗るなよ横島。向こうの方が攻撃力も手数も上だ、下手に捕まればそのまま殴り殺される。絶えず動け、決して立ち止まるな】

 

心眼の助言に小さく呻く。向こうの攻撃力が桁違いなのは身体で体験してる……アッパーの一撃で真面目に意識が数秒飛んだ……心眼の声が無ければそのまま気絶して終わりだっただろう……その破壊力を知っているのに近接を挑む……普通に考えたら自殺行為だが遠距離攻撃でまともにダメージが入らないなら前に出るしかない

 

(きっと何か理由があるんだ)

 

美神さんも蛍もシズクも助けてくれないのは何か理由がある。俺には理解出来ない何か特別な理由があるに違いない、無論試合だから助けてくれないと言うのも判るが……正直言って目の前の陰念は化け物としか言いようが無い。琉璃さんとカオスのジーさんが試合を続行させているのもきっと何か理由があるはずだ……

 

(とにかく今俺が出来る事を全力でやるしかねえだろッ!)

 

とりあえずなんとかして陰念を元に戻す!もしくはここに足止めする!それが今俺が出来ることだと判断し、連続で放たれる火球や首の体当たりをかわしやっと手の届く間合いの近くまで近づけた

 

「おらあ!」

 

走ってきた勢いのまま陰念の顔面に拳を叩き込む。これだけの助走がついているのだから少しはダメージが……

 

「ギロリッ!!」

 

真紅に輝く瞳に睨みつけられる。全然効いてない!?なら!地面を踏みしめて連続で拳を繰り出すが……全くダメージを受けている素振りを見せない……こ、これはまさか……

 

「ぱ、パンチ力が下がってる!?」

 

向こうの防御力が高いのではない、こっちの攻撃力が下がっている!?あの回避力の上昇の代わりにこっちの攻撃力が落ちている……その事実に気が付き足を止めてしまった……心眼が決して足を止めるなと何度も言って居たのにも拘らずだ

 

【横島ぁ!止まるな!動け!動き続けろ!】

 

心眼の焦った言葉が聞こえたが、もう遅かった

 

「がっ……ぐうう!?」

 

7本の首のうち一本が俺の身体を締め付け、そのまま天高く持ち上げたと思った瞬間。凄まじいまでの衝撃を感じたと思った瞬間には俺は試験会場の床に叩きつけられ、ボールのように跳ね結界に背中から叩きつけられていた

 

「う……うぐぐ……ま、まずう……」

 

なんとか立ち上がったが、足が動かない。目の前が揺れる……手に力が入らない……あの高さから叩きつけられてその程度で済んでいるが……この状況は不味い……さっきまでの動きは間違いなく出来ない。出来るようになるにしても平衡感覚が元に戻るまではまともに動く事が出来ない……観客席から聞こえる蛍やシズクの声も良く聞こえないが、遠くからゆっくり近づいてくる竜の首の不気味な吐息だけが妙にはっきり聞こえる……

 

(どうするどうするどうする……!?)

 

逃げないといけないそれは判っているのだが、逃げた所でどうなる?避ける事が出来たとしても俺には向こうにダメージを与える術がない……何かこの状況を打破できる何かが必要だ……

 

【横島!?どうした!何故動かない!脳震盪でも起しているのか!?横島!横島!返事をしろ!!】

 

心眼の声が聞こえるが、それすらも遠くに感じる……考えろ……考えろ……八兵衛の時は……牛若丸の時はどうだった?あの時は2人の力……いや、それだけじゃないはずだ……他に何か……思い出せ、思い出せ……八兵衛の時は足に剣が……牛若丸の時は剣が刀みたいに細く……そこまで考えた所で左腕を見た。ランタンのような形状の篭手……

 

(そうだ……)

 

どうして気が付かなかったんだ?姿が変わった時その姿の時に最も適した武器が出る。今回は先に出ていたから気付くのが遅れたが……これだ。この篭手が武器なんだ……だがこれは殴る武器ではないはず。それなら、さっき殴りつけた時に効果が出ているはずだから……

 

(なぁ?ウィスプ?これの使い方はどうするんだ?)

 

返事があるか判らない、だけどきっとこれの使い方を知っているのはウィスプしかいない。だから声に出さずそう問いかけると

 

【イッヒッヒー♪】

 

頭の中でウィスプの返事が聞こえ……俺はその声に従うように迫ってくる竜の首に左腕を向けるのだった……

 

 

 

「ギッシャアアアアアア!?!?」

 

聞くに堪えない竜の断末魔が試合会場に響き渡る。その竜の首は青い炎に包まれていてその内完全に炎に頭を焼かれ、7本の首のうち1本が消えた……それを見て私は思わず手にしていた魔道書を膝の上に戻し

 

「なんとも……言えないですわ」

 

横島忠夫の変化を見ていたが、あれはおかしいとしかいえない。霊格や霊力が大幅に上昇するなんて本当はありえない……最初は何らかの手を加えた魔装術かと思ったが、あれからは魔力を感じなかったので魔装術ではない

 

(本当に面白い男……)

 

思わず反射的に魔法を使いそうになってしまったが……もうその心配も無さそうだ……そこまで考えた所で一瞬思考が停止する

 

(心配?私が心配していた?あの馬鹿を?)

 

他人なんてどうでもいいはずなのに……なんで私はあの男を心配した……ああっもう……!!

 

(あの男に関わってから調子が崩されっぱなしですわ……)

 

このままでは魔術の最奥になんて辿り着くことなんてできはしないだろう……ビュレト様のおっしゃっていた私に足りない何かがなんなのかもまだ判らないままですし……

 

「はあッ!!!」

 

気合の篭った声と共に明後日の方向に打ち出される青い炎。まぁ考え事はこれ位にしておきますか……今は調べたい事もありますし……

 

(あちこちに魔族の反応……神代琉璃が試合を中止しないのはこれが理由ですか……)

 

ビュレト様の言うとおりならこの魔力の持ち主は魔神となる。となるとあちこちの魔力の反応と試合の中止をしない理由が何かと考えると答えは1つ

 

(ここにいる全員が人質になっている……と言った所でしょうか)

 

使い魔に魔術の術式を刻み、あちこちに飛ばす。その後はそれを見せ札にしてこちらの要求を飲ませる。堅実でしかも悪辣な一手……ビュレト様1人でどうこう出来る問題ではないでしょう……かと言って私に出来ることがある訳でもない……

 

(魔装術の1つの到達点を見ておくのも良いですわね)

 

私も魔装術を使おうと思えば使うことは出来る。だが美しくない、私の美を汚してまで手に入れる力ではない。しかし……私以外が使うとなれば話は別だ……興味深い研究データとして記録しておくことは出来る

 

「見た所……2柱もしくは3柱の魔族と言う所でしょうか」

 

恐らくあの炎の腕と身体。そして背中から現れている7本の首は全く異なる魔族の特徴だろう。それが1人に現れているということは2体もしくは3体の魔族と契約していると考えて間違いない。しかしとんでもない事をした……魔装術は契約した魔族の特徴の一部をトレースすることが出来る術。人間ではそれが出来ないので身体能力の強化や霊力の強化として使うのが手一杯だ。本来なら魔族が扱う術なのだから人間が使う前提では弱体化するのは当然……しかしあの陰念とか言う男は魔装術の使い手としては私を超えているかもしれない……そんな事を考えていると試合会場に苦悶の声が響く

 

「グガア!?」

 

「はっはー!やれば出来るもんだな!!おらおらおらッ!!」

 

先ほど明後日の方向に飛んで行った炎が弧を描いて回り込み陰念の背中を貫いていた。横島忠夫は走りながら炎をいくつも打ち出し、それ全てが弧を描いたり、鋭角に曲がって陰念を追い詰めている

 

「……恐ろしいですわね」

 

あれは炎の形状をしているが炎ではない、もし炎ならば竜の首が倒せるわけが無い、だがそれが出来ると言うことは炎のほかになんらかの追加要素があると考えて間違いない。もしも……もしも対峙したとなると私には魔力が混じっているから大ダメージを受ける可能性が極めて高い。しかもそれを考えて制御しているのではなく、自然体で制御している。そう考えると魔法使いとしては馬鹿にされているような気がしてくる……しかし……あの炎を受けての苦しみようを考えると魔族または魔力に対し強い効果を発揮していると考えるのが妥当だろう

 

(完全に魔族の能力をトレースし、具現化する……よっぽど魔族と魂の波長が似ていたか……それとも霊力か……まぁなんにせよ、横島忠夫には絶望的に相性が悪いと言う事ですね)

 

普通なら完全に死んでいる状態でも動いている。しかも私の探知ではまだ生きている……人間の姿をしているかどうかは別だが……あれだけ異形と化していてもまだ生きているのだ……それは魔装術に高い適正があったという証拠……それが災いしてか死ぬに死ねないと考えるとなんとも不運なことだ。あの炎を防御してもそこから焼いてくる、避けるしかないのがあれだけ拡散して追い詰めてくる炎はいつまでも避ける事が出来る物ではない、もう勝負は決まったようなものだろう……

 

(助けに入らない……?)

 

試合会場にあれだけの使い魔を出しているのを考えると、あの使い魔は陰念を回収する目的の為と試合会場の人間を人質とする為に送り込んでいると考えていたのにその素振りは見えない……

 

(使い潰すには惜しいはず……では何を考えているのでしょうか)

 

あそこまで行くには相当な魔術的な強化や、薬物などの投薬により身体能力の強化……私が思いつくだけでも10個以上……それだけの素体を使い潰すようなまねはしないはず……もしそれをすると考えれば考えれるのは1つだけ

 

(魔神も横島忠夫を気に掛けている?)

 

戦いの中で力を得ていくタイプという者はいる。天性の才を持っていたり、恐ろしいまでの勝負度胸を持っていたり……そういった要因を持つ者は戦いの中で追い詰めるのが1番効率が良い……ではあの陰念と言う男に魔装術を与えたのは横島忠夫の当て馬にする為?そう考えるといくつか腑に落ちる点がある。あの道着を着てる3人組のうち2人は横島忠夫とトーナメント上で戦うことになっている。それらと戦わせる事で横島忠夫の力を見極めようとしているとしたら?

 

(間違いない、捨て駒ですわ)

 

優秀な素体には違いない。だがそれ以上に横島忠夫の方が魔神が戦力として考えるのに相応しい?そう考えるとあまり力を見せすぎるのは危険すぎる……

 

「不味い……ですわね……」

 

私は試合会場を見てそう呟いた。それは陰念が追い詰められ、横島忠夫から凄まじい霊力が噴出すのが見えていたから……もしもこれがガープの計画通りならと考えると背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……

 

 

 

7本の首のうち4本を何とかして炎で打ち抜くことが出来ていた。なんでか判らないが、この左腕の篭手から打ち出される炎は竜、そして陰念にもダメージを与える事が出来ていた

 

【横島!あまり時間を掛けるな、向こうもいつまでも良い様にやられているほど甘くないぞ、それにお前自身も危険だ】

 

心眼の警告に頷く、篭手から炎を打ち出すことがこの姿の特徴のようだが……

 

(くうっ……きっつう……)

 

身体が重く感じてきた……かなりの霊力を消耗して炎を打ち出すようで、さっきからバカスカ連射していたのが影響しているのか段々身体が重くなってきた……だからと言って攻撃の勢いを緩めることは出来ない

 

「なろおっ!!!」

 

さっきと比べると炎の威力も勢いも弱くなって来てる。それを補う為に勢いよく腕を振るい炎を飛ばす

 

「ガアァ!?」

 

腕の振りが影響したのか三日月のような形状になって竜の首を根元から切り落とす。炎の刃か……なんとも面白い能力だが……

 

(ぜは……ぜはっ……き、きつう……)

 

今の刃を作り出したので打ち止めだ……さっきまで燃え盛っていたランタンの炎も随分と小さくなってしまった……でもこれで7本あった竜の首も残り2本……さっきほど炎の勢いも弱くなってきてるし……これなら何とか……

 

「ウルオアアアアアアアアアア!!!」

 

……っおい!!どういうことだ!?竜の首が腕に装着され、鋭利だった鎧の形状が丸みを帯びた鎧へと変化している。それに両腕の竜の首からは炎の刃みたいのを吐き出している……これならさっきまでの炎の弾を打ち出されているほうが避けやすかったんじゃ……

 

「ガアアアアアッ!!!」

 

凄まじい咆哮と共に走ってきて炎の刃を振り回してくる。咄嗟にしゃがんで回避し、そのまま地面を蹴って後ろに跳んで間合いを離す

 

「どう見る心眼……あれは今どうなってるんだ?」

 

炎の刃を振り下ろした体勢で動かない陰念を見て心眼に尋ねる。徐々に化け物になっていると聞いていたが、今あの状況は相当不味い状態なんじゃ?

 

【……かなり不味い段階だ。あの竜の首が腕と一体化しているのは相当不味い……後、数分も立たない内に完全に異形と化すだろう】

 

後数分……か、ここまで頑張ったのに化け物になられてしまうのは余りに気分が悪い……だが

 

(あれを一撃で倒すだけの攻撃力が無い……)

 

時間はもうそれほど残っていない……恐らく次の攻撃が最後になる。だが攻撃力が足りなければ、ここまでの苦労も全て水の泡であり、更に完全に化け物なってしまえば試合会場の全員が危険に晒される……

 

(隙が無い……)

 

もしあれを一撃で倒す攻撃力があるとすれば、それはベルトのレバーを引いて使う技しかない。だが向こうは野生の獣そのものだ、ベルトに手を伸ばそうとすると距離を取ってしまう……決め手はあるが、それを使うチャンスが無い。外れる危険性もあるがこの距離で使うしかないのか……決断を迫られた瞬間

 

「陰念先輩!元に!元に戻ってくださーい!!!」

 

試合会場に東條の声が響く、その瞬間陰念の動きが止まった……まだあいつに意識は残ってる!ならこれが最後のチャンスだ!

 

「うおおおッ!!!」

 

【イッヒヒーッ!!!!】

 

走りながらベルトのレバーを引くと、消えかけていたランタンの炎がもう1度燃え盛る。ウィスプも残り少ない力を振り絞っているのか勇ましい声で笑う

 

【ダイカイガン!ジャック・オー・ランターンッ!オメガバーストッ!!!】

 

「いっけえええええッ!!!」

 

走りながら左腕を突き出すと今までと比べられない青い炎がランタンから打ち出される……それと同時にごっそり力が抜けたが……まだ止まらない。走りながら間合いを詰め続けていると

 

「ウルオアアアアッ!!」

 

丸みを帯びていた鎧が弾かれるように更に変化を始めた。最初と同じ……いやそれよりも鋭く、禍々しさを感じる鋭利な鎧に……更には弾かれた鎧が十字架を思わせる形状に変化し、背中に装着されたと思ったらそこから更に巨大な斧を手にした2本の腕が姿を見せる

 

(くそっ!こうなったらやるだけやってやる!)

 

隙を突いたと思った、だが向こうにはまだ更に切れる手札が残っていた。完全に分が悪くなったが、ここまで来たらもう進むしかない

 

「うおおおおおッ!!!」

 

【イッヒッヒーッ!!】

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

俺とウィスプの声と陰念の声が重なり、青い炎と赤黒い炎がぶつかり合う。徐々に徐々にだが青い炎が赤黒い炎を飲み込んで行き遂には俺の炎が完全に陰念を飲み込んだ

 

「ギガアアアアアッ!?!?」

 

青い炎に呑まれ苦悶の悲鳴を上げる陰念。それを見て腰のベルトに手を伸ばし、レバーを握り締める

 

(集中しろ!見えるはずだ!)

 

耳鳴りのような音が響いたと思った瞬間。目の前が揺らぐ、そして俺の視界に入ってきたのは、青い炎に呑まれながらも陰念の身体に手を伸ばしその身体に戻ろうとしている悪魔の姿。今この瞬間を逃せば、もう陰念を元に戻すチャンスは無いと本能的に感じ取った。これが正真正銘最後のチャンスだと、東條の声を聞いて陰念の意識が強くなっている今が最初にして最後のチャンスだと……

 

「これでしまいだああ!」

 

【マバタキーッ!!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

なんでか判らないが出来ると確証があった。パーカーが弾かれるように外れ、空中で回転し黄色いパーカーに戻る

 

「いっけええ!!!」

 

地面を蹴り飛び上がると同時に目の前に現れた目を模した紋章に全力で飛び蹴りを叩き込み、そのままの勢いで陰念に突っ込む

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

最後の抵抗と言わんばかりに背中の腕が握っている斧を正面でクロスして、防御に入ったがそれは余りに遅かった。万全の防御とはいえないその守りを俺の蹴りは簡単に貫き陰念の胸に突き刺さる

 

【ガアアアアアアア!?】

 

断末魔の咆哮を残し陰念から離れる悪魔の姿……これで……これで終わったと思った。そしてその一瞬の気の緩みが最悪の状況を生み出した

 

【ギャハハハーッ!!!】

 

「なっ!うああああああ!?」

 

陰念の身体から弾き飛ばされた黒い悪魔が空中でパーカーのような姿を取り、俺に襲い掛かってくるのだった……

 

 

 

陰念の姿が現れたと思ったらそのまま倒れた。横島の頑張りで陰念は元に戻る事が出来たようだ。

 

「終わったわね……良かった」

 

美神さんもこれで終わったと思ったのか安堵の溜息を吐く、今まで長かったがこれで終わりだ……横島は本当に頑張ってくれた。私も安堵の溜息を吐いた瞬間

 

「……横島!逃げろッ!」

 

シズクの怒声が試合会場に響き渡る。突然試合会場の上空に黒いパーカーのような影が現われ横島に襲い掛かっていて

 

「不味い!琉璃!結界の解除!」

 

美神さんがそう叫んで観客席を飛び出す。一瞬私は何が不味いのか理解できなかったが琉璃さんが

 

「試合終了!審査団は両選手の保護に走りなさい!」

 

琉璃さんの凛々しい号令を聞いて理解した。とてつもなく不味い状態になっているということに

 

(そうか!)

 

あのパーカーが眼魂と同じなら、ベルトに取り付かれると今度は横島が操られる!?そうなると打つ手が無い。シズクも観客席を飛び出して試合会場に走り出す。正直間に合うかどうかギリギリのタイミング……まさかこんなことになるなんて思っても無かった

 

「くっ!ふざけんな!!!」

 

【ギャハハハッ!!】

 

横島が組み付こうとしてくるパーカーに必死に抵抗しているが、霊力が殆ど残っていないのか、どれも有効な打撃にはなっていない

 

(くっ、仕方ない!)

 

出来ればまだここで使いたい能力ではない。だが少しでもあのパーカーの攻撃を防ぐ必要がある……距離ギリギリ、向こうの魔力の防御を貫けるかは賭けだが……

 

(お願い。上手く行って)

 

祈りながらここ数年使ってなかった光学幻惑を使う、どうだ……?暫く見つめていると黒いパーカーは横島から離れて

 

【ギャハ?ハハ?】

 

突然空中に手を伸ばし始めた黒いパーカー。良かった、効果ははっきりと出てくれたみたいだ、これで時間を稼いでいるうちに美神さんがあのパーカーを何とかしてくれる、そう思っていたら

 

「この野郎!覚悟しやがれ!」

 

横島が剣指で空中に何かのマークを描くと、そこから白い球体が落ちてきた。横島はそれを片手で掴むと腰のレバーを勢いよく引く

 

【ダイカイガン!ウィスプ!オメガドライブッ!!】

 

「おらあッ!!」

 

空中に浮かんだ紋章に向かって白い球体を蹴りこむ。それは真っ直ぐに黒いパーカーを貫き

 

【ギアアアアアアッ!?!?】

 

白い球体から伸びた鎖が黒いパーカーを縛り上げ、そのまま球体の中に引きずり込んだ。その瞬間白い球体は黒味が掛かった青い球体に変化し横島の目の前に落ちた。あれ……まさか封印したの?眼魂の中に!?

 

「くっ……も、限界……」

 

【オヤスミー】

 

その球体を掴んだ横島がそう呟くと、パーカーと鎧が消え去り見慣れた紅いバンダナと青いGジャン姿に戻った横島がゆっくりと試合会場に倒れたのを見た瞬間。私はこんなことを考えている場合じゃないと叫んで、階段を駆け下り倒れている横島の元へ走るのだった……途中でタマモとおキヌさんに追い抜かれてなんとも言えない気分になったのは言うまでもない……

 

なお最終的に横島がどうなったのかと言うと、美神達よりも早く試合会場に到着したチビ達によって運搬されたのだが……

 

「うきゅーきゅうー!」

 

「みむーみむー」

 

巨大化したモグラちゃんの頭の上で放電を繰り返しているチビによって医務室へと運ばれていくのだった……放電を繰り返しているのはもしかしてTVか何かで見た救急車の真似をしているのだろうか?と思わずには居られないのだった

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その7へ続く

 

 




仮面ライダー編終了!ウィスプとジャックランタンは同一存在なのでマバタキー【瞬き】で一瞬で変化できるということにしてみました。次回はピートとかタイガーの視点をメインにしてみたいと思います。そしてこの黒い眼魂が前回のあとがきの呪いの眼魂となります。それについても次回ちゃんと書こうと思っていますのでどうなるか楽しみにしていてください。

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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