リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その4
医務室に運び込まれたタイガーの後を追ってエミさんと一緒に医務室に来たんだが、そこでは普段のんびりとしている冥子ちゃんが珍しくばたばたと動き回りながらショウトラに指示を出していて、それだけタイガーの容態が良くないのだと言うのが一目で判り、思わず顔が強張るのを感じた。友達と言うほど付き合いが長いわけじゃないが、それでも顔見知りが死ぬかもしれないと思うと心配せずにはいられなかった
「ショウトラちゃ~ん!頑張って~!」
「ワフ!ワン!!」
ショウトラが一生懸命ベッドの上で呻いているタイガーの火傷を舐めているが、全然治療が間に合ってないとエミさんが気付いたのか、慌てた様子で冥子ちゃんに近寄りながら
「冥子!必要な物は!すぐあたしが用意するから言うワケ!」
エミさんも美神さんと同じく最高ランクのGSだ。伝手もあるしお金もある、それを生かして必要な道具を集めると言ったのだが、冥子ちゃんは小さく首を振って
「正直に言うと~治療に使う道具自体は~全部六道で集めたわ~でも……駄目なのよ~どんな高価な霊薬もお札も効果を発揮しないの~もう人間が用意できる物じゃあ~タイガー君の治療には~役立たないわ~」
人間が用意できる物じゃ駄目……じゃあ人間じゃなければ良いんだよな?
「横島!シズクは!?」
エミさんも同じ考えに辿り着いたのかそう怒鳴る。水神で竜神のシズクなら何とかしてくれると思い振り返るが、そこにシズクの姿は無い……そしてそこで思い出した
「……置いてきちゃいました」
咄嗟にここまで走ってきたのでシズクが追いついてない、確かに竜神で水神だけど走ったりするのはやはり子供の姿をしているので遅いのだ。エミさんは俺の言葉を聞いて一瞬何を言われたのか理解できないと言う感じだったが、直ぐに我に返ったのだ
「横島ぁ!?お、オタクねえ!こんな状況で何やってるワケ!?普通連れて来るでしょうが!?」
まぁ事実山の中や、急ぎの時は俺が背負って移動していることもあるんだけど、正直そこまで頭が回らなかったと言うのが本音だ。自分と同じ見習いGSが生死の境目を彷徨うような状態になったのを見て冷静で居られるほど、俺は場数を踏んでいるわけではないし……多分俺の考えている事は正論だと思うのだが、その凄まじい剣幕に思わず
「すんませーんッ!!!
腰を90度曲げたお辞儀をしながら謝る。もう殆ど反射的だったけど、これオトンが浮気とか朝帰りした時にお袋によくしているアレだよな。変な所で親子なんだなあと実感していると医務室の扉が荒々しく開き、まずは蛍が医務室の中に入ってきて、それに続くようにモグラちゃんの上に座ったチビとタマモ、そしてそれから遅れる事数分後……
「……退け、後は私が何とかする」
頼れる我らのロリオカンシズク様が現れたのだった……なお若干不貞腐れたような表情をしているのは、きっと俺が運び忘れたことを怒っている様な気がした……
よほど慌てていたのか、普段はこういう異常事態の時は横島が私を運ぶのだが、それが無かったので自分で走って来たのだが
「シズクやっぱり足遅いのね?」
……後から来た蛍に追い抜かれ、更にはチビとモグラにも追い抜かれ、あの馬鹿狐に追い抜かれた時に鼻で笑われたのは正直かなりイラっと来た。大人の姿に戻れば負ける事は無いのだが、今はそれを長時間維持できるほどの霊力も体力もないし、ソロモンが動く可能性があるのなら無駄に霊力と体力を使うわけには行かない。更に言えばそんなくだらない事で霊力と体力を使っている場合ではないのだ……まぁ全ては私を運び忘れた横島が悪いと思うことにした。とりあえず当面の反撃手段としては
(……おかずに唐辛子か)
何個かに1個辛いのを混ぜて見ようと思う。前にテレビで見たロシアンルーレットとか言う奴だ……食べ物を粗末にするのは良くないが、ちゃんと食べれるようにすればなんの問題も無いはずだ
「ぬお!?なんかすげえ嫌な予感がする!?」
急に叫び出した横島に蛍とおキヌが不思議そうな顔をしているのを見ながらも、タイガーの治療を進める。チビとタマモとモグラは動物と言うこともあり、医務室から追い出されている。なお扉越しに
「みーむーみみむー」
「うきゅーうきゅー」
カリカリと前足で扉を引っかくような音と寂しそうな声が聞こえているので、横島がそわそわしている。チビ達を外には置いて置けないが、タイガーも心配と言う事でどうすればいいのか判らないという感じだ。ある程度治療を進めた所で気付いたのだが……
(むう、これは危険なところだった……か?)
表面上は完全に炭化しているように見えるが、水を通して見て見ると驚くほどに軽症だ。ここの治療を任せていた式神使いがえらく動揺していたので手遅れの可能性を考えたが、十分に治療出来る範囲だ。きっとこれはあの式神使いも冷静になれば気付いたはず……
「シズク?もしかしてタイガーはそんなに重症なのか?」
私が難しい顔をしているのが気になったのか横島がそう尋ねてくる。治療してから話すべきだったなと小さく溜息を吐き
「……問題ない、表面は酷いが中身は殆ど無事だ。意識を失っているのも強い霊力をぶつけられた事が原因みたいだな……」
私の診察結果を聞いて安堵の溜息を吐いた横島とエミ。とりあえず治療が難しいと思う所だけを選んで治療する、しかし治療を進めて確信したのだが、やはり見た目より遥かに軽症だ。多少の後遺症が残る可能性こそあったが、命に関わるような怪我ではない……意図的に手加減したような形跡が見られる……な。これについては後で話し合ってみる必要がありそうだ
「横島君?少し良い?」
医務室に遅れて美神が姿を見せて横島と何かを話をしようとしているが、横島は美神のほうを見ずに
「すんません、タイガーの治療の後にしてください」
美神はそう言われると強く出る事が出来ないのか、じゃ後でと言って離れる。ちらりと横目で見てみたが、相当真剣な目をしていたので何か大事な話をしようとしていたのが判る。何の話をするつもりだったんだろうな?と思いながらも治療を進める。何とか後遺症が残る可能性のある部分の治療は終わった……な
「……後は、こことここ、それとここにだな」
治療を任されていたのは式神使いなのだから、あまり私がでしゃばる訳には行かないと判断し、適度な所で治療を終えて
「……後は任せよう」
ここからならあの式神使いにも治療できると判断し、治療を止める。大分複雑な霊力の操作を要求されたので正直少し疲れた……
「あたしの弟子を助けてくれてありがとう」
エミが頭を下げてくるので気にするなと返事を返す。でも正直大分疲れたなと思っていると
「横島君。次の試合の事だけど……」
美神が再び横島に話しかけようとしたが、横島は心配そうな顔をして私の方に歩いてきながら尋ねてきた
「大丈夫か?疲れたんだろ?」
えっ?と驚いた顔をする蛍達。普段と同じ表情だが、流石は横島だな……私の疲労を感じ取ったか……横島の言葉に頷くと
「とりあえず医務室で寝たら悪いから、どこか別の部屋で休ませてもらお?」
私の前にしゃがみ込んだ横島の背中におぶさり、そのまま目を閉じる。少し霊力を消耗しすぎたな……やれやれ、これが横島相手ならこんなに疲れることは無かったのになと思いながら、横島の背中で私は少し眠ることにするのだった……
弟子と言うこともあり、エミがタイガーの様子を見ると言うことなのでエミを医務室に残し、タイガーの治療で疲れたシズクを背負った横島君を連れて医務室を後にし、琉璃の部屋に戻った所で間の悪い事に
『横島忠夫選手。陰念選手。会場へ!』
試合会場に来るようにアナウンスが響く、横島君は丁度シズクを椅子の上に下ろした所でそのアナウンスを聞くと
「あー、次は俺か……めちゃ不安だけど行ってきます!じゃ、チビ達も行って来るなー」
不安そうな事を言いながらも笑顔を浮かべ、チビ達に小さく手を振って部屋を出て行く横島君。咄嗟に手を掴んで止めようとするが完全に間を逃していたからか私の手は横島君の腕を掴むことなく、横島君の姿はあっと言うに見えなくなった
「あ、こら待ちなさい!!」
呼び止めては見た物の横島君は立ち止まることなく走って行ってしまった……完全にGS試験を棄権させるタイミングを逃したわね……絶妙すぎるほどにタイミングが悪かった……まるで運命か、何かが横島君と陰念を戦わせようとしているかのような……思わずそんな馬鹿なことを考えてしまうほどにタイミングが悪かった。
「美神さん、最悪乱入してでも止めましょうか?」
私が何度も止めに入ろうとしたのを見て、さっきの試合の事を考えて棄権させようとしているのだと理解した蛍ちゃんの言葉に頷く、タイガーほどの体力と体格を持たない横島君ではどう考えても死ぬ。陰念にも自意識が無いだからその可能性は極めて高いと言うとシズクがうっすらと目を開けて
「……横島は今成長しようとしている、それを妨害するな。そんな権利はお前達には存在しない」
それは確かに判るけど、それで死んでしまったら意味が無いじゃない。生きていれば次があるけど、死んだらそこでお終いなのだから
「……そこまで心配することも無い、あいつも抵抗しているぞ?」
え?シズクの言葉に思わず振り返るとシズクは非常にだるそうな素振りを見せながら治療段階の説明をしてくれた
表面こそ重症だが、中身は殆ど無傷。無論適切な治療を行わなければ死ぬが、あのまま直ぐ死ぬという可能性は0
更に意図的に炎の火力を抑えた可能性も高く、被害を最小限に抑えようとしていた
恐らくぼんやりとした意識だが、陰念はまだ完全に魔装術に取り込まれているわけではなく、救出できる可能性が僅かに残っている
「つまり行き成り横島君を殺しに行く可能性は低いと?」
話を聞いた琉璃がシズクに尋ねると、シズクはああっと小さく返事を返し喋るのも辛いと言う様子で
「……戦いの中でどうなるか判らんが、行き成り殺しに行くということは無いだろうな。もしそんな気配を感じていたら止めてる」
その止めてるの響きを聞く限りでは、口で止めるのではなく、凍らせる的なニュアンスを感じてしまい蛍ちゃんと顔を見合わせていると
「失礼します」
マリアが部屋の中に入ってきて私達に気付いて少し驚いた顔をしてから
「ドクターカオスから伝言です、有事の際には独断で結界を展開し横島さんの保護を行います」
……うん、これ絶対ドクターカオスの指示じゃないわね。マリアとテレサで話し合った結果っぽい……私に若干敵意の色を込めた視線を向けているのを見る限りどうして陰念との試合を許可したんですか?と訴えかけている気がする。
「うん、それについては問題ないわ。私もお願いするつもりだったし、こっちからも前回の試合の事を考えて審判に異常事態になれば止めるように指示を出しているしね。ま、今回は私も観客席の近くで止めに入れるように準備しますけど」
琉璃はそう言うと机の上の書類を纏めて気合を入れる様の自分の頬を叩いて、涙目になっていた
【美神さん?琉璃さんって案外天然なんですか?】
ふよふよ浮いているおキヌちゃんの問いかけに私はなんと返事を返そうか悩んだ。付き合いが長いわけじゃないし、琉璃の立場を考えれば相当苦労しているのも判るわけで……
「さあ?ま、今は琉璃が天然とか、そうじゃないとかは別の問題よ。まずは横島君と陰念の試合。最悪、割り込むことも考えて準備しましょう」
陰念の危険性は十分に理解している。横島君だけを危険に晒すわけには行かない、最悪を試合を止めて乱入することも考え、神通棍や破魔札に精霊石などの装備を整え、試合に割り込むのに1番都合のいい1階の観客席へと向かうのだった……無論そのまま伊達や鎌田と戦う危険性もあるので
「おキヌちゃんは小竜姫様と唐巣先生を呼びに行ってくれる?多分こっちに向かってると思うけど……緊急事態だって伝えて欲しいの」
私達だけで対応できない可能性が高いので、味方は多い方がいい。そして今の段階で1番機動力があるのがおキヌちゃんなのでそうお願いすると、おキヌちゃんはとても暗い顔をしながらも何とか頷いてくれた
【判りました。横島さんを応援できないのはとても、とても、とてもとてもとても!!!辛いですが……これも横島さんのためですから!】
どす黒い瘴気を放つその姿を見て、おキヌちゃんが幽霊でよかったと私は思った。あの子の愛重すぎだわ……私は随分一緒に居るはずのおキヌちゃんの危険性を改めて実感しつつ、除霊具を込めた鞄を持って観客席へと走るのだった……
目の前で鋭い風切音が何度も何度も響く、絶対確実に俺では対応できないと断言できる高速の一撃だ。それをみっともないにしろなんとか回避することが出来ているのは……100%心眼のおかげだ。聖奈さんのは槍だったので早いことは早かったが距離があったので何とか自分でも反応出来たが、目の前1メートルで何度も振るわれる拳は近すぎて反応しきれない
【横島!しゃがめ!転がれ!飛べえッ!!】
心眼の必死の声に反応し、言われた通りに動く、その度に目の前を過ぎる一撃に肝が冷える
「う、ひいいい!!!やべえ!これはめちゃやべえ!!!」
なんとか回避を続けることが出来ているが、その内絶対直撃する!試合前に係員が防具を貸してくれたけど、試合の前はめちゃ頼りになると思っていたけど、今陰念と対峙していると紙で出来た脆い何かにしか思えない
「……」
だが俺には集中を更に乱すものが見えていた……命の危機に瀕しているから見えている幻では無いと断言できる。これは……ああ、そうだ……間違いない。黒坂が操っていた女性のゾンビが成仏する時に見えた……おキヌちゃんや普通の幽霊とは違う……魂とでも言うのだろうか?それが俺の目にははっきりと映し出されていた
(くそ……なんでまた見えるんだよ!!)
黒い異形の鬼を必死の形相で押しとめている目の前の男と同じ顔をした男の姿。違うのはその目だ、強い決意の光を宿した目……凄まじいまでの決意の光が見える
(なあ?本当に心眼には見えてないのか?)
俺に見えているのだから心眼にも見えているはず。そう思いもう1度尋ねるが、心眼の返事はNO
【私には何も見えんぞ!?それよりも受け流せ!押しつぶされるぞ!】
心眼の声に顔を上げると空中で回転しつつ踵落としを叩き込んでくる陰念の姿が見える。咄嗟に腕をクロスして受け止め、そのまま回転し受け流すが
「っつううう!!!いってええ!!」
霊力以外を無効化する結界の中でもこのダメージと言うことは相当な霊力が込められているのだろう。こんなの何発も喰らっていたら間違いなく死ぬ。今も手が痺れて動かないことを考えると受け止めるのも相当危険だ
(くそお……集中できねえ……)
何度かサイキックソーサーと霊力の篭手を作り出そうとするが、霊力が上手く集まらない……
【落ち着け横島!さっきの男の言葉を今は忘れろ!】
心眼の助言が聞こえるが、忘れようと思っても忘れることが出来ない。本当なら男の頼みなんか聞くかで終わるのだが、そんな事を言えないほどにその男の言葉は真摯で無碍にすることが出来なかった
(くっそお……あれさえなければなぁ……)
試合会場に向かうまでのたった数分。話した時間も3分に満たない時間だったがその数分が俺の心に迷いを生むきっかけになった……思わず俺はそれを思い返していた……
「横島さんですか?次の試合の?」
「んあ?」
試合会場に走っている時に通路の脇から急に声を掛けられ立ち止まった。
「白竜会の東條修二と言います」
白竜会と聞いて俺は思わず怪訝そうな顔を浮かべた。白竜会と言えばタイガーを叩きのめした陰念の所属するGS育成施設、その施設の人間が俺に何のようだ?と思うのは当然だろう。しかも車椅子に乗っているのは良いんだが、その車椅子を押している人間が怖すぎる。身体でかいし、目が死んでるし、不審者ーっと思わず叫びたくなった。そしてそのせいで足を止めてしまったのが今思えば失敗だったと思う
「お願いします。陰念先輩を助けてください」
はい?助けて?なんのこっちゃと俺が首を傾げていると東條は聞いても無いのに喋りだした。強力な魔族が来て白竜会がおかしくなった事。あの陰念と言うのが自分を助けて魔族の実験台になった事等を
「乱暴だけど優しくて良い先輩だったんです。お願いします、どうか、陰念先輩を助けてください」
繰り返し助けてくれと言われても俺じゃあ正直どうも出来んぞ……つうか、そんな化け物に俺が勝てるわけが無い。それこそ美神さんかエミさんクラスじゃないと無理だろ?つうかなんでそんな相手がGS試験に参加してるんだよ?美神さんとかは知ってるのか?俺がそんな事を考えていると
「少年?呼び出しが響いているぞ?」
『横島選手!試合会場へ!このままだと棄権と見なします』
げえ!不味いと叫び返事も返さず、試験会場に来たのだが……やはりその時の会話と目の前の異形の鬼を押さえ込もうとしている男の姿が重なってどうしても集中が乱れてしまう。自分でも判っているが、俺は未熟だ。心眼の補助があるとしてもそんな精神状態で霊力を扱うことなど出来るわけもない
「……」
「くっ、どわあ!?っととと」
正拳・裏拳・回し蹴りと連続で叩き込まれる攻撃を何とか回避するのが手一杯だ、しかもただの攻撃なのに霊力が十分に篭っているので霊力的にも物理的にも数発喰らえば確実にK・Oされる。霊力を上手く使えない今、直撃を貰う訳にはいかない攻撃を避けることに集中していると、異形の鬼と男のほうに変化が起きた
【シャアアアアアア!!】
【がっぐうううううああああああああああああああッ!?!?】
今まで聞こえなかった鬼と男の声が明確に聞こえた……その余りの苦悶の叫びに思わず足が止まる。まるで魂までも削られているかのような叫びだったが、俺以外には聞こえてなかったのか観客も美神さん達の反応も無い
『おっと!?いままで試合会場をサークリングしながら反撃の機会を窺っていた横島選手の足が止まったー流石に疲労で足が止まったかー?』
ええい!うるさいぞ!!カオスのじーさんの隣で叫んでいる雇われの司会者の声がうるさい
『集中しろ小僧!来るぞ!』
【来る!下がれ!】
カオスのじーさんと心眼の警告の声が重なって聞こえる。しかしそれよりも俺は目の前の男の今にも消えそうな声の方がはっきりと聞こえた……
【た……たす……け……ぐう……に、逃げろぉッ!!!!】
助けてと言い掛けたのを逃げろと叫んだ男が鬼に呑み込まれたと思った瞬間
「う、うおおおおおおおおッ!!!!」
咆哮と共に目の前の男の姿が闇に包まれ、一瞬でその闇が消し飛ぶ
「グルル……ガアアアアアアアッ!!!」
獣や悪魔を連想させる鋭角な鎧に身を包んだ異形が吼えたと思った瞬間。俺はタイガーを飲み込んだのと同じ漆黒の炎に飲み込まれたのだった……
「終わったな」
俺は目の前の光景を見てそう呟いた。横島と陰念の試合、出来れば横島と戦いたいと思っていたが恐らくあの炎に呑まれては骨も残るまい。残念だ、あいつと戦えば俺はきっと更に強く慣れると確信していただけに残念でならない。どうして俺と陰念の試合の順番が逆じゃなかったのかと思わずにはいられない
「棄権させてあげれば良かったのにね、力の差は明確だったわ」
勘九朗が残念そうに呟く、視界の隅で観客席から試合会場に向かおうとしている美神令子の姿を見て
(ああ、そう言えば横島はあいつの弟子だったな……それにしても……似てるな……うん?誰に似てるんだ?)
美神令子の姿が誰かに似ていると思った、だが誰に似ているのか判らない。なんだ?なにか大事な何かを忘れているような……
【アーイッ!!シッカリミナーッ!!シッカリミナーッ!!!】
その時だ。炎の中からやけに陽気な音楽と声が聞こえてきたのは……その場に余りに似つかわしくない音に思わず全員の目が点になる
【イヒヒーッ!!!】
炎の渦の頂点から黄色のパーカー……か?それが飛び出し笑いながら炎の周りを回転しながら飛んでいる。なんだあれ……霊力を感じるが、幽霊とかじゃないよな?見たこともない何かに思わず困惑していると
「変身ッ!!」
そして炎の中から力強い横島の声が響いたと思った瞬間。黄色のパーカーのような何かが炎の中に飛び込んでいく
「な、何が起こってるの?」
目の前で起きている現象が何なのか判らないのか、困惑した様子の勘九朗の声が聞こえる。俺も正直言って混乱している、一体何が起きるというんだ?
【開眼ウィスプ!アーユーレデイ?OKッ!!レッツゴー!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】
試合会場の天井近くまで伸びていた炎の柱が中から吹き飛び、試合会場の中に火の粉を撒き散らす……結界で観客席に届くことは無かったが、不思議な光景だったと思う。そして横島が立っていた場所に横島の姿は無く、黄色いパーカーを着込んだ、漆黒の身体を持つ何かがそこに居た……
「しゃあッ!!行くぜえッ!!!」
パーカーのフードを取り払い、手のひらに拳を打ち付ける動作をした何から発せられた声は紛れも無く横島の物で……
(ま、魔装術なのか……?)
一瞬そう思ったが違う、横島が使っているのは魔装術とは異なる物だと直感的に悟る。魔装術を使っていると使用者同士をお互いに感知できる。陰念からはそれを感じるが、横島からは何も感じない。だから違うと確信し、そして
「面白くなってきた」
あれで終わりかと思ったが、そんな事は無かった。これから始まるのだ、俺は目の前で起きる戦いを間近で見たいと思い2階の観客席から1階の観客席へ向かって飛び降りるのだった……
次回仮面ライダーウィスプは!?
魔装術に取り込まれ完全に鬼と化した陰念と戦う為に変身した横島だが
「シャアアアアッ!!!」
戦いの中でどんどん進化していく鬼。最初こそ優勢だったが、徐々に劣勢に押し込まれていく
「くそっ!これならどうだ!?」
【シュバッと!八艘!壇ノ浦ッ!!】
ウィスプ魂では駄目だと判断し牛若丸魂に変身するが、その戦いの中で更なる力を発現させ、牛若丸魂へ変身したウィスプすらも圧倒する鬼。
「え、な、なんで!?」
パーカーゴーストが消え去りトライジェントへ戻る横島。そして勝手にベルトから飛び出し、ウィスプパーカーゴーストの姿が!?
【開眼ジャック・オー・ランターンッ!トリック・オア・トリートッ!ハ・ロ・ウ・ィ・ン!ゴ・ゴ・ゴースト】
次回仮面ライダーウィスプ「悪戯幽霊の真の姿!」
リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その5へ続く
陰念が鬼へと変身し、横島も変身しました。次回はバリバリの戦闘回で行こうと思います。もちろん他の視点も多く混ぜていこうと思っていますけどね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします