GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は蛍やタイガーの試合をメインに書いて行こうと思います。と言ってもそんなに出番があるわけではないので短い感じになると思いますが、出来る限り肉付けして行こうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その3

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その3

 

暗い通路を歩きながら私はさっきの試合の内容を思い出し小さく苦笑した

 

(ワルキューレがいたら怒られますね)

 

私と違って生粋の軍人として育った妹のワルキューレが私のさっきの試合を見ていたら、何を遊んでいるのですか!と怒鳴る姿が容易に想像できる。正直に言おう、私はあの時のカウンターで気絶などしていない、気絶した振りをしたのだ。確かに角度は良かった、でも命中の瞬間にスピードが弱まった、力が弱まった。本来なら手抜きだと怒る所だが……私は見てしまった、そして魅せられてしまった……

 

(強いですね、横島忠夫は……)

 

あの窮地を演出し、そして突っ込んできた時反撃しようと思えば反撃することは出来た。更に言えば私は横島が無傷なのも判っていた……それでも近づいた、近づいてしまったのだ……

 

「ああああ……私……困ってしまいます」

 

顔が熱くなって行くのが判る。思わず両手で頬を押さえているのに気付いて、更に頬が熱くなって行く

 

「これは本当に……困ってしまいます……」

 

霊力を拳に込めて突っ込んできた時のあの強い意志の込められた眼を思い出すだけで、頬が熱くなる……そして思ったのだ

 

彼は戦いの中で自身を高めていくタイプだ。だから更なる戦いに行くべきだと思ったのだ……

 

「頑張ってくださいね……小竜姫と合流するので試合を見ることは出来ないですが……応援しています」

 

観客席の方に姿を見せた横島の姿を見て、小さく微笑む。きっと彼は世界有数の霊能力者になるだろう、小竜姫が気に掛けるのも当然と言えるだけの素質を見せてくれた……だから私から贈り物を

 

「テイワズ・ベルカナ……」

 

目の前に浮かんだ2つのルーン文字。テイワズは戦士、導きの星を意味し、ベルカナは成長と解放を意味するルーン文字を残して行こうと思う

 

「どうか貴方の中に眠れる力が少しでも解放されますように」

 

少し気恥ずかしいと思ったが指先を唇に触れてからその文字を横島に向かって飛ばす。投げキッスのような形になってしまいましたねと小さく呟いてから

 

「さてと仕事に戻りましょうか……あっ、その前に」

 

懐から出した紙にさっさと文字を書いてそれを折りたたみ、ルーン文字を刻むと紙は独りでに動き出し、小さな鳥の姿を取った。一応言い訳の手紙くらいは送っておかないといけないですからねと苦笑する。行き成り予定を崩したのは私なのだから謝罪は一応しておくべきだと判断したのだ

 

「美神達の所へお願いしますね」

 

返事を返し飛び立つ簡易の使い魔を見送り、私は小竜姫と合流する為にGS試験会場を後にしたのだった……

 

 

 

 

横島さんが勝ちましたか……僕は次の次の試合ですが正直言ってさっきの横島さんの戦いを見て自信を無くしてしまった

 

(あんなに格上の人に……)

 

僕は正直言うと横島さんが勝てるなんて思ってなかった。槍の技術も霊力の扱いもはっきり言って桁が違っていた……きっと観戦していた全員が思っただろう。横島さんが負けると……だが横島さんは勝った……僕は正直横島さんが落ちるから気が楽だなんて考えていた……

 

(僕はうぬぼれていたんだ……)

 

吸血鬼のハーフと言う自身の基礎能力の高さ、そして長い間生きたという自負。GS試験に参加する参加者だとしたら蛍さんにしか負けないと思っていた。だが横島さんはそんな僕の予想を裏切る力を見せた……近くで待機している参加者も横島さんの評価を改めているような囁きが聞こえてくる

 

「横島忠夫か、面白そうなやつだな。あいつと当るのが楽しみだぜ」

 

「そうね……あれは正直言って予想外ね、ああいうタイプが意外と大物食いをするのよね」

 

入場前にあった黒い胴着の3人組も横島さんの評価を改めている……知り合いなのに軽薄なことを考えていた自分が嫌になる

 

「なに呻いてるのよ?ピートさん」

 

「蛍さん……いえ、その大したことじゃないんですよ」

 

次の試合に出る蛍さんが試験会場に向かう為に階段から降りて来たのにも気づかないくらい、動揺している自分に初めて気付いた

 

(こんな有様じゃ絶対負ける……)

 

霊力とは魂の力。そして何よりも精神に大きく影響される。今の自分の精神状態では碌に霊力を扱うことなんて出来ないだろう

 

「んー?おいおい、ピート。どうしたんだよ?めちゃ暗いぞ?」

 

横島さんが蛍さんの後から階段を下りてきた。多分蛍さんの激励とか応援でここまで着いて来たのだろう……横島さんが現れたことで周囲で待機していた参加者の視線が鋭くなるが、横島さんはそれに気付いてないのか普段どおりの表情で

 

「なんでもないって顔じゃないだろ?どうしたんだよ?」

 

そんなに顔に出てましたかねと苦笑しながら、僕は今感じている不安を口にするのだった……

 

 

 

 

横島にどうしたんだ?と尋ねられたピートさんが小さく首を振ってから

 

「駄目なんです。勝てる気が全然しないんです……僕はやはり半人前以下の吸血鬼なんですよ」

 

ハーフヴァンパイヤの双子は許されない存在なんですと自分の生い立ちを語り始めるピートさん。双子となった場合どちらかは吸血鬼の力が、どちらかは人間の力が強くなる。それはただでさえ不完全なハーフの力を更に不安定にさせる原因となる。だから僕は不完全で半人前以下の吸血鬼なんですと語るピートさん

 

(メンタル弱すぎ……)

 

おキヌさんから聞いていたが、ピートさんのメンタルは余りに弱すぎる。こんな状態では勝てる物も勝てなくなるという物だろう……

 

「ふーん、そっかーそっかー」

 

ピートさんの話を聞いた横島は何度も頷きながらピートさんの肩を掴んで

 

「おらあッ!!!」

 

ガツンッ!!と鈍い音が通路に響き渡った。横島が全力で頭突きを叩き込んだ音だ、これは流石の私も予想外で驚いてしまった

 

「な、なななな!?なにをするんですか!?」

 

ピートさんが怒って詰め寄ると横島は近づいてきたピートの頬に平手を叩き込み

 

「ちったあ気合入れろよ。そんな有様じゃ対戦相手にも失礼だろ?」

 

……なんかこれは横島らしくないわね?どうしたんだろ?と見つめていると

 

「っと心眼が怒っている」

 

心眼?横島のバンダナから眼が現れて、ピートさんを睨みつけながら

 

【自身の不安を生まれや、自身の妹のせいにするな。情けない!ハーフである事を生かそうとは思わないのか!】

 

心眼の一喝が通路に響く、これで横島が持ち込める3つの霊具の1つがこのバンダナになっちゃったわね。これだけ参加者がいる中で喋ってしまったのだから霊具じゃないと言い訳するのは無理だろうしね……あ、でも使い魔ってことでごり押ししたら大丈夫かしら?使い魔はその人の霊能だから、霊具じゃないって言い張ることも出来るわよね

 

【自分の力を使い方を良く考えて見るんだな、妹では辿り着くことができない場所にお前は立つことが出来ている。その幸運の意味を知れ】

 

幸運?ハーフである幸運?私も考えて見たがデメリットしか思いつかない、ピートさんもそうだったのか詳しく聞こうとしたところで

 

『芦蛍選手、蛮玄人選手!会場へ!』

 

選手の呼び出しコールが聞こえてくると横島はピートさんから視線を外して私を見て

 

「蛍!頑張ってな!俺応援してるから!」

 

私の手を握って笑う横島。もう完全にピートさんとかから興味をなくしているのが判る。基本的には横島はイケメンが嫌いだから、さっきのようにピートさんに助言するほうがおかしい

 

「うん、ありがと。頑張ってくるわね」

 

正直言って負けるなんて微塵も思っていないが、油断だけはしないように注意しよう。それに横島が見ているところで無様な所は見せたくないしね。じゃっ、観客席で応援してるからなーと言って階段を駆け上がっていく横島

 

「あ……詳しく聞きたかったのに」

 

心眼のアドバイスを聞きたかったのか気落ちした様子で呟くピートさん。んーあんまり時間は無いけど、一言くらいなら大丈夫かな?

 

「あんまり難しく考えないで、目の前の事に全力を尽くして見れば?」

 

ごちゃごちゃ考えると碌な事にならない。それにこれからどうなるかなんて誰にも判らないのだから、いま自分に出来ることを全力でやってみれば?とアドバイスし、私は試験会場に向かった

 

『さて、第二試合で再び美神令子除霊事務所からの参加者、芦蛍さんの登場です!本日第一試合で終始劣勢だと思っていた横島忠夫選手の逆転勝利の勢いで彼女も勝利するのでしょうか?なお今回の第2試合よりヨーロッパの錬金術師ことドクターカオスに解説をご依頼しております。ドクターカオスよろしくお願いします』

 

『うむ。解説は任された』

 

解説なんて言っちゃって、本当は白竜会の面子を自分の目で見る為に出て来たのに……ドクターカオスのほうを見ると茶目っ気のある顔で笑い手を小さく振っているのが見えた。本当好好爺って感じよねと思わず苦笑してしまった

 

『対するは前回惜しくも準決勝で敗退した蛮玄人選手!前回の試験でも見せてくれたパワフルな戦闘スタイルに更に磨きが掛かっていることでしょう!ドクターカオス。この勝負若干芦蛍選手が不利でしょうか?』

 

『除霊は筋肉でするもんじゃないわ。知恵と霊力の勝負、腕力など何の役にも立たんわ。それに前回準決勝で落ちたというのもシードで落ちたのだから実力など大したことないんじゃろ?』

 

おっとめちゃくちゃ毒舌な解説……目の前のサングラスをした大男の目付きが鋭くなる。こうして対峙した感じではそんなに強敵とは思えないけど……油断は禁物よね、小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける

 

「ふん、俺は女、子供には優しいからな、感謝しろよ。せめてものハンデだ10%……10%の力で勝負してやろう!!はああああああッ!!!!」

 

全身から霊力を放出させる蛮玄人だが、10%所じゃなくて全力だと思う。顔も真っ赤だし手足もプルプルしてる、完全にハッタリね

 

『おお、っとこれは凄まじい霊力だ!これで10%とは驚きですね!』

 

『馬鹿か貴様は?どう見ても全力だろうに、ハッタリじゃハッタリ』

 

ドクターカオスがばっさり切っているのを見て小さく苦笑してから拳を握る。こんな相手に手の内を見せることも無いしね……

 

「行くぞぉッ!!!」

 

馬鹿みたいに真正面から突っ込んで来たので、軽く横に飛んで蛮玄人が振り返った所にカウンターで霊力を込めた拳で顔面を打ち抜く。鼻血を出しながら引っくり返る蛮玄人を見ながら審判を見ると

 

「芦蛍選手の勝ち!!」

 

ま、こんな物よね。これくらいの相手なら霊具を使うでもないし……それに……ちらりと通路を方を見ると黒い胴着を着た男が私を見つめていた。確か名前は鎌田勘九朗……次の試合で戦う相手だ。そんな相手が見ている前で自分の手の内を晒すような真似する訳には行かないしね。ま、まだ俺には更なる力がぁとか呻いている蛮玄人を無視して、私は観客席で手を振っている横島に手を振り返し試験会場を後にするのだった……

 

 

 

白竜会の調査に小竜姫様と訪れていたのだが、その中を見て私は絶句してしまった

 

「これは……酷い……」

 

ソロモンは既に撤退していたのかそれらしい痕跡は何も残されていないが。もう用済みと言わんばかりに投げ捨てられた白竜会の面子の顔には生気が無く、倒れている全員が死んでいるように見えた

 

「小竜姫様。白竜会の方は……助かりますか?」

 

小竜姫様は倒れている白竜会の弟子に手を触れて、小さく溜息を吐き

 

「大丈夫です、まだ生きています……回復するかは断言できませんが」

 

回復するかわからないが、生きているだけでも十分と言える。私は安堵の溜息を吐きかけて咄嗟にハンカチで口を押さえた

 

「小竜姫様、これは……瘴気では?」

 

魔界の瘴気が溢れ出ている……さっきまでそんな気配は何も無かったと言うのに……

 

「時限式の罠だったのかもしれないですね……調査をさせない為か、それとも残した人間を見捨てたと言う事を突くつもりか……」

 

今ならまだ何か手がかりがあるかもしれない、だが調査をするということは倒れている白竜会の人間を見捨てるということになる……どうする私1人ではこれだけの人数を連れ出すことは出来ない。小竜姫様が外に運び出せばその間に白竜寺は魔界の瘴気に呑まれ魔界の獣を放出し続ける異界になるだろう

 

(くっ、なんて強かな……)

 

私と小竜姫様ではどちらか1つにしか対応できない……小竜姫様に視線を向けると唇を噛み締め、その肩を震わせていた……多分……私と出した結論は同じなのだろう。出来ることなら助けたい、だが魔界の瘴気が溢れている以上そちらを封じなければ周囲の民家や学校に被害が出る……それならば白竜会の面子を見捨てると言う選択肢しか私と小竜姫様には存在しなかった……

 

「……魔界の瘴気を封じます。白竜会の方は……「その決断を下すに早いですよ。小竜姫」

 

小竜姫様が苦渋の決断を下そうとした瞬間。まるで爆発しかたのような音が響き、目の前の壁が吹き飛ぶ。そこから姿を見せたのは鎧を身に纏ったブリュンヒルデ、彼女はそのまま私と小竜姫様の前に立って、そのまま素早く空中にルーン文字を刻む

 

「長くは持ちませんが暫くなら魔界の瘴気を抑えることが出来ます、急いで大元を断ってください」

 

ルーン文字が瘴気を押さえ込んでいるのを見て、私と小竜姫様はブリュンヒルデの言葉に頷き瘴気が流れ込んでいる道場の奥へと向かって走り出した……そしてそこで見たのは人智で理解できない、神代の存在の姿だった……

 

「な、なん……なんだ!!これはぁ!!!」

 

道場の奥に辿り着いた私は目の前に広がる光景を見て思わず叫んでしまった……巨大な水晶の様な何かの中に閉じ込められている巨大な紅い獣……なんだ、なんなんだ……これは!?その獣を見てから息が出来ない……異常な息苦しさを感じてその場に蹲る。まさかこの獣が魔界の瘴気を生み出しているのか?そうだとしたら私にも小竜姫様にも瘴気を封じる手段がない……だが小竜姫様は鋭い視線で周囲を見渡し何かを感じ取ったのか

 

「……これは違う、これが魔界の瘴気を発しているんじゃない!!」

 

小竜姫様が力強い口調で断言し、腰から抜いた神剣を抜き放ち道場の床に突き立てる。するとパリンっと言う乾いた音が響き噴出していた瘴気が収まっていく……そしてそれと同時に目の前に現れていた巨大な獣の姿が霞のように消えていく……

 

「は……はっ……何だったんだ……あれは」

 

その姿が消えた事でやっと呼吸が出来るようになった……荒い呼吸を整えていると小竜姫様は険しい顔で振り返り

 

「直ぐに試験会場に戻りましょう!嫌な予感がします!」

 

小竜姫様の言葉に頷き、私は来た道を引き返しGS試験会場へと引き返すのだった……

 

「ブリュンヒルデ!治療を頼みます!私は唐巣さんと一緒にGS試験会場に戻りますッ!」

 

判りましたと返事を返すブリュンヒルデに見送られ、私は来た時と同じように小竜姫様に抱えられ空を飛んでいたのだがふと気になった

 

「小竜姫様、あの獣はなんだったのですか?」

 

圧倒的な威圧感、私はあの獣を見た瞬間死ぬと思い、悟った……あれは人間は疎か神でさえ抗うことの出来ない災厄だと、目覚めれば何者も倒すことの出来ない絶対の災厄だと本能的に悟った……小竜姫様もきっとそれを感じ取ったと思い尋ねて見ると小竜姫様は深刻そうな顔をして

 

「判りません。ですが白竜寺のある山は霊脈の上でしたから、もしかするとそれが原因でどこか別の場所を映していたのかもしれないですね」

 

別の場所……そうだとしても安心することは出来ない、もしあれがソロモンの作り出した生物兵器だとしたら東京はおろか世界中で大騒動になるだろう……あれだけの存在を倒すことはまず不可能だと思う

 

(なんとしてもそれだけは阻止しなければ……)

 

白竜会での惨事にあの獣、どちらもソロモンが関与していると見て間違いない。だからなんとしてもソロモンの企みを阻止すると私は決意を新たにするのだった……

 

 

 

小竜姫と唐巣神父がGS試験会場に戻っている頃。GS試験会場では凄惨な試合が繰り広げられていた、こういう現場に慣れている私や現役のGSですら思わず目を逸らしてしまうほどの……試合と呼べない凄惨な処刑と言うべき光景が続いていた……

 

「かっ……かはっ……」

 

エミの弟子のタイガーの巨体が音を立てて崩れ落ちる。その身体はボロボロで試験会場を鮮血で染めている……対戦相手は白竜会の陰念と言う青年……タイガーと陰念の力の差は凄まじい物だった……それこそ私でも勝てるかどうかといわざるをえない程の力を見せていた……

 

「……」

 

終始無言で徹底的にタイガーを痛めつけている。最初のほうこそ隣で何をしていると叫んでいたエミだが

 

「タイガー!もう良い!もう立たなくて良いワケッ!!そのまま倒れてなさい!!!」

 

何度も倒れても立ち上がり陰念に立ち向かっていくタイガーの姿を見てもう立つなと叫ぶ

 

「……大丈夫!大丈夫だ!タイガーは私が治す!だからそれ以上身を乗り出すな」

 

観客席から身を乗り出している横島君を必死に止めているシズク。

 

「はあ……はぁ……わ、ワッシはまだ……ワッシはまだ!!負けとらんッ!!!」

 

審判を押しのけて立ち上がるタイガーの左目は額から流れた血で塞がれていて、既に視界が塞がれているのが判る

 

「タイガー!!!もう立つな!!立つんじゃない!!!死ぬぞッ!!!」

 

タイガーを応援していた横島君が立つなと叫ぶ、タイガーはその声を聞いて小さく笑みを浮かべたのが私の角度から見えた

 

「蛍ちゃん!試合表を見せて!」

 

横島君の隣で試合を諦めるように叫んでいる蛍ちゃんに怒鳴る。GS試験は試合中に死んだとしても事故として済まさせる。だから乱入して止めるわけにも行かない。それに仮に乱入したとしても私で抑えることが出来るかどうか……

 

(なんて間が悪い……)

 

今試験会場にブリュンヒルデが居るのなら止めに入ってもらえば、確実にタイガーは無事だろう。だが小竜姫様の応援でGS試験会場を後にすると先ほど使い魔が手紙を持ってきた……なんて間が悪い……最悪のタイミングだ。審判も止めようと何度かタイガーの前に立つのだが

 

「ま……まだまだああ……」

 

強い口調で審判を押しのけて拳を構え続けているタイガー。本人が立ち上がっている限り審判も強制的に試合を止めることが出来ず……タイガーが叩きのめされているのを目の前で見続けている。なにがそこまでタイガーを駆り立てるのか、それはきっと試合の組み合わせにあると思った

 

「美神さん!これです!」

 

蛍ちゃんから渡された試合表を見て私の予想は確信に変わった。横島君の次の試合相手は陰念……

 

(タイガー……あんた……)

 

タイガーはもう自分が勝てないことを悟っている。だから、次に陰念と戦う横島君の為に少しでも陰念の情報を残そうとしてまだ立ち上がり続けていたのだ……

 

(その気持ちは買うわ、でもッ!!)

 

友人の為に自身がボロボロになっても情報を残そうとするその意志は買う……でも!それでも死んでしまっては意味が無い

 

(早く戻っておキヌちゃん!)

 

試合終了の判断を出せるのは審判の他にはGS協会長の琉璃しかいない、琉璃を呼びに行くように頼んだおキヌちゃんに早く戻ってくれる事を祈った時

 

「審判!試合終了よ!!!早く止めなさい!!!」

 

「う、ウォオオオオオオオオオオッ!!!」

 

琉璃が試合会場に見てそう叫ぶのと、タイガーが咆哮を上げて最後の力を振り絞り虎人間になり突っ込んだはほぼ同時で……

 

「……死ね」

 

一瞬。一瞬だけ陰念の姿が黒い鎧のような物に包まれ、決死の覚悟で突っ込んだタイガーに向かって無造作に腕を振るった

 

「が、があああああああああああああッ!?!?」

 

目の前に炎の柱が立ち上がり、その中からタイガーの絶叫が響くのを聞いた横島君が落ちるからと言って自身を止めていたシズクの方を見て

 

「シズク!!」

 

「……判ってる!」

 

横島君の声を聞いてシズクが両手から強力な水鉄砲を打ち出す。凄まじい音が響き炎の柱が鎮火したが……既に手遅れだった……

 

「……が……がはっ……エミさん……横島……さん……役立たず……で……すまん……です」

 

全身大火傷をしたタイガーがそう呻きゆっくりと倒れこんだ……

 

「勝者!陰念選手!」

 

審判の勝利者の名乗りを聞くと同時に横島君とエミが階段を駆け下りていく。私も2人の後に続いて医療室に運び込まれたであろうタイガーの元へ向かいながら、横島君を棄権させる事を決めるのだった……どう考えてもあの相手には勝てない、横島君も最悪タイガーと同じ結末になると思ったらとてもじゃないけど参加させることなんて出来ない……

 

(ごめんタイガー、エミ)

 

私のやろうとしていることはタイガーの想いを踏みにじり、エミの弟子を犠牲にしたと同意義だ……酷い裏切りだと理解している、私は心の中でそう謝り医務室へと走るのだった……

 

 

美神が医務室へ走り出した頃。先ほどの試合を見ていた車椅子の少年とその車椅子を押すカソック姿の男性の姿が合った、言うまでも無く東條修二と言峰綺礼だ。ビュレトの治療で動けるようになったので無理をしてGS試験会場に訪れていたのだ

 

「陰念先輩……」

 

「東條やはり来るべきではなかったのではないか?」

 

言峰に頼み無理にGS試験会場に来ていた東條は変わり果てた陰念の姿を見てショックを受けた表情をしていたが

 

「お願いします。言峰神父……僕を医務室へ連れてってください」

 

「それは構わないが、お前が謝っても何も変わらんぞ?」

 

それでも行きたいんですと言峰の言葉を遮った東條に言峰は仕方ないなと呟き、医務室へと歩き出すのだった……

 

そして横島は東條は出会う、この出会いが横島自身と東條そして陰念の運命を大きく変える事になる……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その4へ続く

 

 




タイガーがかなり頑張りました。しかしガープに魔改造された陰念の方が上だったわけです。次回は横島と陰念の試合をメインで書いていこうと思っています。第一部の横島の見せ場の1つなので全力で頑張っていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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