GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回の話は別件リポートです。崩壊の序曲と言う事で、魔族サイドと勘九朗サイドの話になります。時間軸は一応、GS試験開始前夜とGS試験開始中になります。メインは魔族のガープサイドなので、勘九朗とかのサイドは短くなると思いますが、何とか各々の心境を書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


別件リポート

別件リポート 崩壊の序曲

 

目の前で片膝を着いて私の言葉を持つ男。名は鎌田勘九朗……若干言動がおかしいが、その能力。魂の本質は間違いなく一級品だ。今の人間界にこれだけの闇を抱えた人間が居るとは、正直驚いた

 

(世が世ならば、これ以上に無い魔装術の会得者となっただろうに……)

 

正直現代の人間界の魔力の質はかなり落ちている。高位の魔族が具現化するに足りえるだけの魔力が存在していないのだ、短時間の顕現ならば問題は無いが、長時間行動するには自身の格を意識的に落とさなければならない、こうして人間の姿を真似ているのは私の魔神としての格を落とす為だ。本来はとるに足らぬ人間の真似をするなど私のプライドが許さないのだが、目的の為ならば泥を啜るのも必要なことだ、そう思えば我慢することも出来るという物……

 

「さて人間よ。お前に1つだけ指示を出す、それだけ達成することが出来れば我が配下として迎えよう」

 

優秀な人材には褒章を、それはアスモデウスが口癖としている言葉だ。私達は1度破れ、敗走した。それはどれほど力をつけようが変える事の出来ない事実。事実最初のほうは仲間もおらず、私とアスモデウス、再生したばかりのセーレの3人で少しずつ仲間を増やし、力をつけ、魔界正規軍にも劣らぬ戦力を手にすることが出来た。優秀な人材をスカウトする、それは私達の方針の1つだ。

 

「ありがたきお言葉でございます。しかし1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

顔を上げないで尋ねてくる。ふむ……正直時間はそれほどあるわけではないが……

 

「良いだろう。何を疑問とする」

 

近くで控えているビフロンスが眉を顰めているのが判る。コイツは人間嫌いだからな……

 

「あたしは貴方達よりも劣る人間です、何ゆえ配下に加えてくださると言うのですか?」

 

ふむ……確かにそれは全うな質問だな。自分の身が大事な人間らしい問いかけだ……

 

「高位の魔族には人間を魔族にする術がある。そしてお前は魔装術に強い適正がある、故に人の身を捨て魔族となるだけの素質がな。強き者は人間であれ有効に扱う。それだけだ」

 

これだけの魔装術の適正を見せたのだから、きっと魔族へと転生しても十分な能力を発揮するだろう。私にはビフロンスと言う優秀な配下が居るが、セーレやアスモデウスには直属と言える部下が居ない。この男は中々に頭が切れる、それに能力も高い。アスモデウスやセーレの部下にしても十分に能力を発揮するだろう

 

「ガープ様。お時間が迫っております」

 

「む?もうそんな時間か?」

 

ビフロンスの言葉に顔を上げると満月が天に向かっていた。もう少しで下界で最大の魔力を発揮する時間が来る……

 

「では命ずる。GS試験等と言う児戯は正直どうでも良い」

 

神魔が必要以上に警戒し、魔界や人間界の要所の警護を甘くした。それだけが目的だったような物だ……だから正直GS試験がどうなろうと私には何の興味も無い。だが命じる事はGS試験の中でなければデータを取ることが出来ない事だ

 

「あの人間の戦闘データの記録。必要ならば、これを使え。どうせなら完全に狂ってしまったほうが良いデータになる。相手次第では最初から使え、良いな」

 

人差し指の爪程度の大きさの狂神石を渡す、ある魔神とメドーサとの2重契約で通常の倍以上のスピードで魂を磨耗している陰念とか言う人間。まさか2重契約を成功させるとは思って居なかったが、もう魂が劣化と言うレベルではなく、完全に消失してしまっている

 

(あの有様では転生は疎か、魂の輪廻からも省かれるな)

 

既に転生するだけの魂の容量も持たず、このまま死んで完全に消えてしまうくらいなら狂神石でキメラとなった方があの男も幸せという物だろう。キメラにしてしまえば、研究しだいで量産する事だって出来る

 

「まぁそれはあくまでおまけ程度。機会があれば程度でかまわん、どうせGS試験が終われば死ぬ。死体でも構わないからしっかりと回収さえしてくれれば構わない」

 

死体でも解剖や、実験素材程度になるからなと付け加え、男の反応を見るが眉1つ動かさない。この動じない態度、素晴らしい、人間にしておくのが実に惜しい。魔族に生まれていれば上級に限りなく近い中級魔族にはなったと思えば生まれる種族を間違えたとしか……

 

「ガープ様。本当に間に合わなくなります」

 

むっ、1度考え始めると他の事が見えなくなるのが私の悪い癖だが、今日は遅れるわけには行かない、何日にも亘り準備を続けてきた。それを無に帰すわけにはいかない、だからこそ最後の命令だけを出す

 

「特異点の監視をせよ。良いな?その名は……」

 

早口で特異点の名を告げ、私はビフロンスが用意していた馬車に乗り込み、その場を後にするのだった……

 

「素晴らしい、実に素晴らしい……なんと美しいことか……」

 

香港の地下の霊脈の前で私は感動に震えていた……何日にも亘り、少しずつ術式を作り。満月が最大になった時、ようやく私の術式が完成した……今なら言える、あれだけの苦労をした価値があったと……

 

「ガープ様。あまりお時間はありません、どうか長考するのは無事に戻る事が出来てからに」

 

遠くから響いてくるビフロンスの言葉。ここは異界であり、ソロモンに名を連ねる私でさえ自力の脱出が不可能だと言わざるをえない程に複雑に魔力と神通力が入り混じった場所。ビフロンスに入り口を確保して貰っているが、それも長くは持たないと判っているのだろう。ビフロンスの声に焦りが混じっているのが良く判る

 

「判っている。判っているさ……っちい。この美しさを損ねる悪霊共め……」

 

ビフロンスの言葉に頷き、纏わり着いてきた悪霊の頭を砕く

 

「旧世紀の敗者共が……目障りにも程がある」

 

ここはかつての神魔大戦の際最も激戦区だった魔界と天界と位相が同じ。つまり下界でありながら魔界であり、天界と言う奇妙な場所だ。そしてその理由は判っている……魔力と神通力が反射する空洞の中。結晶の中に佇む巨大な影……この異空間に来る為に使った資材、魔力、生贄……それら全てがどうでも良いと思えてきた……

 

「漸くま見えることが出来たな。美しき災厄の魔人……」

 

巨大な7つの頭を持つ魔獣とその近くで死んだように眠る美しき魔人……禍々しくもあり、それでいて神々しくもある……

 

「「「「シャアアッ!!!」」」」

 

結晶越しにその顔に触れようとした瞬間。影から4頭の獣が顔を出し、その鋭い牙をこちらに向けてくる

 

「っ!?驚いた……目覚めている……のか?」

 

咄嗟に飛びのきその噛み付きを躱したが、どうもあの獣は私を狙っていたようではなかった

 

「「「「グッチャグッチャ……」」」」

 

「「「「アアアアアアアアーッ!?!?」」」」

 

「なるほど理解した、あの悪霊は貴様らの餌と言うことか」

 

周囲の悪霊を貪る様にして噛み砕き始める。魔人のほうは眠っているが、その配下の魔獣は半覚醒状態にあるのだろう。魔力か神気を感じ取り、ある程度近づいてくれば捕食し、自らの糧とする……

 

「となれば目覚めさせることも不可能ではないと言うことか……」

 

本体を目覚めさせるには原初の魔人の解放が必要だろうが、それでも目覚める可能性があると言う事が判っただけでも十分だ。そしてあの美しい姿を見ることが出来たので、もう何も言うことは無い

 

「今はさらば、美しき災厄の魔人よ」

 

水晶の中でもまだ美しく輝く金の髪。伝聞では翡翠色の瞳を持ち、全ての魔人の始まりであり、終焉の皇女……数多の異名を持つ女神……バビロンの大淫婦、666の悪魔と呼ばれる人類・神・悪魔の天敵。ありとあらゆる神魔をその魔人が眠る場所を探す中。その魔人が眠る地が香港である事を知るのは、ガープただ1人だけなのだった……

 

 

 

ガープ様との話し合いを終え、眠る為に部屋に戻ると

 

「あら?雪之丞。まだ起きてたの」

 

目を閉じているが、気配で判る。まだ雪之丞は起きていると、一歩近づき……そのまま後ずさった

 

「何者かしら?」

 

雪之丞だと思ったが、雪之丞じゃない。この気配は全く別の存在……まさか私の考えている事がバレた……冷や汗を流しながら問いかけると、雪之丞の身体がぐらりと傾き、その影から巨大な大蛇が姿を見せる

 

「ビッグイーター!?まさか……」

 

何度か見た事がある巨大な白蛇。それを私は知っているビッグイーターだ。ビッグイーターはメドーサ様の使い魔。慌てて駆け寄ると、ビッグイーターは咥えていた何かをその場に置き、溶ける様に消えていった……

 

「ま、待って……」

 

思わず待ってと叫びたかった。あたしではもうどうしようもない、出来る事も無い。だから出来る範囲で自分に出来る最善の手を打とうとここまで頑張ってきた。メドーサ様はもう死んだと聞いていたから……でも生きているのなら、生きているのなら助けを求めたかった……

 

(駄目。駄目よ……まだ、まだあたしにはやることがある)

 

弱気になったら駄目だ。自らに気合を入れるために頬を叩き、ビッグイーターが置いて行った何かを拾い上げる

 

「封筒?……中身は重いけど……」

 

封を切り中身を出して見る、中身はイヤリングが1つ。そして一言だけ書かれた手紙

 

【身につけてろ メドーサ】

 

簡潔な言葉だけど、その言葉にはあたしを心配しているような響きが感じ取れた……

 

「あ、ありがとうございます。メドーサ様」

 

メドーサ様から渡されたイヤリングを両手で握り締める。そのデザインはメドーサ様の物と同じで、あたしが何度か欲しいと頼んで怒られ続けていたあのイヤリング……

 

(これであたしはまだ……頑張れます)

 

白竜会の中の最年長として、そして雪之丞や陰念の姉弟子として(?)あたしにはあの2人を護る義務がある、その為なら人間の身体を捨てたとしても後悔は無い……

 

(どうかメドーサ様。この臆病で弱いあたしに最後まで頑張る勇気を……)

 

本当ならもうこの場から逃げ出してしまいたい、でもあたしはそれが出来る立場では無い、最後まで自分の出来る最善の一手を打つ……メドーサ様から託されたイヤリングを左耳に着ける。それだけで震えていた手が止まった……これであたしはきっと最後まで頑張れる……きっとその先に何も無いことは判ってる、あたしの進む先はここで終わりだと判っている。だから……多少の無理も無茶も出来る……それをする勇気が私には足りなかったけど、メドーサ様から貰ったイヤリングで勇気を得ることが出来た……だから私は頑張れる。自分に言い聞かせるように呟き、窓の外を見上げた、そこには美しい満月が浮かんでいた……

 

 

 

 

目の前で叩き潰した参加者を見ながら小さく呟く

 

「ま、こんなもんだわな……」

 

GS試験予選の参加者と聞いていたからもう少しやると思っていたが、まぁ初戦は見習いレベル。俺の敵じゃなかった……

 

「あら。早かったわね、雪之丞」

 

次の試合が勘九朗なのか、ゆっくりと控え室から出てくる

 

「まぁな。大したことない相手だったしな」

 

雪之丞が大したこと無いと言っているのは、実はGS試験の前予想で合格確実と言われていた若手なのだが、当然それを知らない雪之丞も勘九朗も楽な相手に当ったな程度の認識だ

 

「そ、じゃ試合が終わったら情報交換をするわよ。ちゃんと試験は見てなさいよ」

 

陰念はもうそう言うの無理だから。勘九朗の付け加えた言葉に眉を顰める、先日まではまだ意識が残っていたが、今の陰念はまるっきり人形だ。話しかけても何の反応も無い。それ所か拳を繰り出してくる始末

 

「おい、試合の前に聞きたい」

 

「何を?私のスリーサイズ?」

 

しなを作る勘九朗に男のスリーサイズなんて興味ねえよと呟き

 

「陰念のあれが魔装術の弊害なのか?」

 

ずっと気になっていた、魔装術は使えば使うほどに魔族に近くなると聞いていた、だが陰念のあの状態は魔族と言うよりかは何も無い人形のように思えた。もしかするとあれがもう1つの魔装術の弊害。魂を喰われると言う状態なのか?と尋ねると勘九朗は小さく頷きながら

 

「……そうなるわね。魂を全部喰われるとああなるわ。使うなら制御できる範囲にしておきなさい」

 

できるだけ使わないほうがいいけどねと呟き試合会場に向かっていく勘九朗。一瞬控え室に戻ろうかとも思ったが

 

(止めとくか……)

 

今の陰念は見ていて余りに痛々しい。なまじ昔の陰念を知っているだけに余計にそう思う

 

(あいつらが見たらどう思うんだろうな……)

 

門下生の連中に陰念は人気があった。厳しいは厳しいが面倒見が良く、そして行き詰っているとなんだかんだで指導していた陰念は門下生の連中に人気があった。そんな陰念の今の有様を見たらあいつらどう思うんだろうな……とは言え、俺に何か出来ると言う事でもない。結局は自分に出来ることを全力でやるしかない……

 

(横島忠夫だったか)

 

霊力測定まで暇だったから観戦していたが、Bグループの横島忠夫。霊力を解放するだけで周りの人間を吹き飛ばしたことを考えると、かなりの霊力量を持っていることが予想できる

 

(あいつと戦ったらきっと面白いんだろうよ……)

 

思わず手に力が入る、俺は誰よりも強くなりたい。俺が子供の時に死んじまったママとの約束だから、白竜会に入ったのも、魔族が来ても脱走しなかったのも、強くなる為ただそれだけの為だ

 

(勝ち上がって来いよ。横島)

 

幸いにもあいつと陰念の暴走で出場人数は大幅に減っている。きっと俺と横島は近い内に対戦で当る……そうすれば俺は今よりももっと強くなれる……思わず笑みが零れるを感じながら、俺は観客席へ向かって歩き出すのだった……この時雪之丞は気付いていなかったが、その左目が真紅に発光し悪魔のような笑みを浮かべて居ることに……雪之丞もまた己の知らない所で、ガープによる呪術により、その闘争本能を肥大化されていた。本来雪之丞は情に厚く、仲間想いな男だ。自分では何も出来ないからと言う理由で仲間を見捨てるような性格ではなく、出来る、出来ないにしろ、自分に出来る限りの全力を尽くすそう言う男だった。もしも陰念が元の性格ならば、その違いを指摘しただろうが。その陰念は己を失い、勘九朗には雪之丞に声を掛ける精神的余裕も無かった。故に彼は気付かない、自分の理想が少しずつ歪んでいることに……

 

己の知らない所で闘争本能を強化され、自らの性格が歪み始めている事に気付かない雪之丞。

 

己の本性を隠し、何か大きな目的のためにガープに従う勘九朗。

 

仲間のために行った魔族との2重契約により、魂を失った陰念。

 

運命のGS試験本戦はもう直ぐそこまで迫っていた……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~

 

 




次回から第一部の最終リポートとなります、ここまで大分長くなりましたがもう少しで一区切りが付きそうです。原作とは大分違う流れになる予定なので、GS試験本戦がどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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