リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その4
GS試験への出場が決まり、美神さんの事務所から帰った俺はそのまま自分の部屋に戻りベッドに寝転んだ
(すげー気まずい)
キッチンから聞こえてくる調理する音。一緒に帰ってきたシズクと蛍が料理を用意してくれている……だがそれが更に俺に気まずさを感じさせる
(なんでやん……モテ期か?俺にモテ期が来たのか?)
小竜姫様の事は嫌いじゃなかった、美人だし、厳しいけど優しいし、俺に霊力の事を教えてくれたし……でもまさか行き成りキスをされると思ってなかった。どうして?何故キスされたのか?そればかりを考えてしまう
(小竜姫様が俺を好きって言うのは無いよな。うん、それは間違いない)
大体神様が俺みたいな凡人を好きな訳無いよなー。うんうん、ナイナイ……きっとあのキスは俺に竜気を与える儀式かなんかだったんだ。きっとそうに違いない
「とは言えなぁ……」
天井を見つめてぼんやりと呟く、蛍の前で小竜姫様とキスしてしまった。蛍が俺の事をどう思っているのか?それを思うとなんか怖くなって部屋を出る事が出来ない
(蛍に嫌われてたらどうしよう……)
そう思うと怖くなって部屋を出る事が出来ない。でもずっと部屋に居るわけには行かないしなぁ……昼飯もまだだから正直腹が減った……うーむ、どうしようか……飯は食いたい、でも蛍と顔を見合わせるのは怖い。
(料理してくれてるから、最悪の展開にはならないと思うけど)
嫌っていたら俺の家には来ないよな……じゃあそんなに嫌われてない?もしくは気にしていない?普段ならここで前向きになって蛍の前に行く事が出来るが……うーん……どうしようかと悩んでいると
「みーむ!みー!」
「うーきゅーうきゅきゅ!」
コツンコツンと扉を叩く音とチビとモグラちゃんの声が聞こえてくる。
【主殿ー主殿ー、蛍殿とシズク殿が昼食だと呼んでますよー】
牛若丸の声までも聞こえてきた、いつの間にか主殿ーって呼び方にも慣れてきたなあと苦笑しながら扉を開けて
「チビがやったのか?」
「みむう♪」
モグラちゃんの背中に紐が通っていて、それに括り付けられている牛若丸眼魂。そして凄いでしょ!と言わんばかりに胸を張っているチビ。確かに凄い、確かに凄い。正直感心してしまうほどに見事な……
(すげえ見事な蝶結び)
リボンのように大きな蝶結びになっていて、あの短い指でどうやって結んだのかがとても気になる。まぁTVを解体するくらいの器用さがあるのは知っているので、これくらいは楽勝なのかもしれないなあ
(さて……覚悟を決める時が来たか)
もっと心構えをしたかったが、呼びに来たのを無視するわけにもいかない。俺は覚悟を決めてリビングに向かったのだが
「あ、来た来た。ほら、早く座って座って、百合子さんがお昼に肉じゃがと味噌汁を用意してくれてたんだけど、すっごく美味しいのよ」
「……これには正直負けたな」
あれぇ?なんかめちゃくちゃ上機嫌の蛍とシズクに出迎えられ、差し出された茶碗を受け取りながら
(そんなに気にしてないみたいで良かった)
あの様子を見る限りでは2人とも小竜姫様とキスしたことはそんなに気にしてないのかな?
(だよな。うん、やっぱり間違いないよな)
小竜姫様が俺を好きでキスしたなんてありえないって判ってるからこそのこの反応なんだよな。うんうん、と1人で頷きながら味噌汁を口にするのだった。懐かしいお袋の味を楽しむのだった……
なお横島は全く気付いていないが……笑っている……ように見える蛍とシズクの目は全く笑っておらず
((角へし折ってやる))
今も逃亡を続けているであろう小竜姫の角を折ってやると言う、どす黒い殺意を胸の中に抱えつつ
((そしてなんとしても……次のキスは私が!))
ブリュンヒルデに想い人に口付けされる幸せは何にも勝るといわれたが、それでも目の前でキスされたと言う事実を変える事は出来ない。だから次のキスは必ず自分がと言う決意を固めているのだった……それを当然知らない横島は能天気に笑いながら食事を楽しんでいるのだった……
GS試験予選当日。ついに待ちに待ったこの日が来た……ネクタイをしっかりと締めて、荷物を纏めた鞄を抱えて部屋を出る
「お兄ちゃん。スーツあんまり似合ってないね」
教会の中の掃除をしていたシルフィーが笑いながらからかってくる。なので軽く頭にチョップを叩き込む
「あいたあ!?なんで殴るかなあ!」
ぶつぶつ文句を言うシルフィーはそのまま掃除を再開しながら
「落ちろ。すべろ。ついでにはげろ」
「シルフィー!!!お前ぼくに何か恨みでもあるのか!?」
ぶつぶつと恨み言を口にしているシルフィーにそう怒鳴ると
「いっつも!私が横島君の血を吸おうとすると邪魔するじゃない!だから落ちてよ!」
「逆恨みにもほどがあるだろう!?横島さんの迷惑を考えろよ!?」
なんで今日はGS試験の本番だと言うのに、朝からこんなに疲れないといけないんだ!?
「ピート君?もう出発したんじゃなかったのかい?こんなにのんびりしているとGS試験の受付に遅れるよ?」
先生が来てそう呟く、慌てて時計を見ると確かにこのままではGS試験の受付に遅れる!?
「ああー!!もう時間に余裕を持っていたのに!!時間ギリギリじゃないか!?」
これもあれもシルフィーのせいだ!とは言え恨み言を言ってる時間は無い、むしろそれだけの間シルフィーと口論していた僕が悪いのだから
「先生!行ってきます!!」
「ああ!気をつけて!応援には行けないが、君ならきっと大丈夫だ!全力を出してきたまえ!」
「私は後で行けたら応援に行くからねー♪予選敗退とかしてないでよー?お兄ちゃんこういうのに弱いんだから」
不吉なことを言うシルフィーにうるさいと叫び、僕は慌ててGS試験会場に向かうのだった……
「はぁーはぁ……ぎ、ギリギリ……わき腹痛い……」
半吸血鬼の力をフルに使いここまで全力で走ってきた。軽くランニングして身体を温めるつもりだったのに、なんでこんなギリギリの状態になっているんだろうか……
「良い?横島君。蛍ちゃん、今回のGS試験の受講生は1852名。合格者枠は37名……普段より少し合格人数は多いけど、そもそも定員割れを毎回当たり前のようにするわ。だから37名合格でも、37人も残れるかって言うのが最初の関門ね」
美神さんと横島さん達が話しているのを見つけて安堵の溜息を吐く、なんせ参加者がかなり多いので知り合いと戦う可能性があるとしても、知り合いが居るというのは非常に心強い。出来れば試合で当りたくないなあと思いながら、深呼吸を繰り返して呼吸を整えていると
「っとと!!」
後ろからドンっとぶつかられ振り返ると、黒い胴着を身に纏った、目に傷を負った悪い男がぶつかって来たようだ
「……」
「なにか言うことは無いんですか?」
無言でこっちを見つめている男にそう尋ねる。周りに誰も居ないのだからわざとぶつかりに来たことは判っている……だがこんな所で乱闘をして出場資格を取り上げられても困る。だから一言何か言ってくれれば良いと思っていたんだけど全く反応が無いところか、僕を見てすらも居ない……その様子を見るとどこか調子が悪いのでは?と心配になってきた。
「大丈夫ですか?どこか調子でも……「あら?ごめんなさいね?ちょっとこの子緊張してるみたいなのよ」!?」
女口調だがその体格は僕よりも遥かに大きい巨漢が割り込んで、その男を自分の背中で隠し
「同じ門下生として謝るわ、ごめんなさい」
「い、いえ、大丈夫ですよ。ええ、気にしないでください」
ずいっと近寄ってきた巨漢のおかまが恐ろしく、一歩後ずさるとその男は人の良い顔で笑いながら
「お互いにGS試験を頑張りましょうね?ほら、行くわよ。陰念」
「こくり……」
並んで歩き去っていく男。その先には小柄で目付きの悪い男が居た、特に何かされたわけではないので、そのまま見送ったのだが、さっきの無言の男がどうしても気になる。妙な気配を感じたんですが……なんだったんだろう?と首をかしげていると
「んー?お!ピート!お前も来たのかー!遅いから受けないのかと思ったぞ」
横島さんが僕を見つけて声を掛けてくる。さっきの男の事も気になるが、今は目の前の問題に集中しよう
「すいません、ちょっとシルフィーの事で問題がありまして」
シルフィーの名前を聞くと露骨に嫌そうな顔をする横島さんにすいませんと謝っていると
「横島さーん!ワシじゃアアー!!「……やかましい」のおおおおッ!?」
突進してきたタイガーさんに向かってシズクさんの水の鞭が唸りひっくり返す、僕と横島さんの目の前をずしゃーっと滑っていったタイガーさんがゴミ箱と衝突して目を回している
「あいつさ?本当不幸だよな」
割と高校でも顔を見合せますが……転んだり、教師に面倒毎を押し付けられたり正直中々不幸だと思う。横島さんの言葉に頷きながら
「ええ。確かにそう思います。ちょっとひどいですよね」」
あそこまで酷い目に合うのは何か理由があるような気がする。横島さんもそう思ったのか
「今度唐巣神父に相談してやれよ。なんか見てて不憫だ」
このGS試験が終わったら1度先生に紹介してみますね?と返事を返し、目を回しているタイガーさんのほうに向かうのだった……
目を回しているタイガーをピートと横島君が起そうとしているのだが反応が無い。友達が心配なのはわかるけど、いつまでもそうしていたんじゃ話したい事も話せないので
「横島君。タイガーが気になるのは判るけど、今は自分の事に集中しなさい。蛍ちゃん。それとピートも話を聞くなら聞いておきなさい、GS試験を受けた先輩の言葉よ。ま、後でタイガーにも伝えておいてくれればいいから」
今回はソロモンが動く可能性が高いと聞いている。横島君に話せば動揺するので話してはいないが、それは仕方ない無いことだろう。私だって身体が堅くなるのを実感しているのだから、横島君なら更に硬直してしまうだろう……蛍ちゃんもそうだが、2人には自分達の身は自分達で護らせないといけない。だから出来る限り、私の経験した時のGS試験の話を出来るだけしておこうと思った
「いい、午前中の審査で128名まで絞り込まれるわ、今回の参加者が1852名だから残るのは1割ほどね。出来れば皆残って欲しいけど、こればかりはどうなるか判らないから」
これは正直嘘だ。出来れば皆落ちてくれたほうが安全だからと思っている、だって今でも今回のGS試験に参加させるのは反対しているのだから
「えーと美神さん、最初の審査って何が?」
蛍ちゃんが手を上げて尋ねてくる。最初の審査かぁ……これも毎回変わるから確かなことは言えないけど
「霊力がある程度放出できるか?ってのが最初の審査になるわね。堅くなると霊力の放出が弱くなるからリラックスすることを心がけなさい」
霊力は魂の力だから、自分の精神状態にかなり影響されるからねと付け加える
「あ、それと今回は霊具の持込みが最大3つになってるわ。後精霊石は第1試験合格後に1つ支給されるわ、これは霊具の数にカウントされない護身用の物だから、間違っても攻撃に使わないようにしなさい」
これは受験生の霊具の扱いを見ると言う名目にしているが、その本当の目的は受験生を護るための物だ。だから試合に参加する受験生には今回は精霊石が貸し出されることになっている。無論それは攻撃用ではなく護身用なので、攻撃に使用することは禁止されている。別口で持ち込めば、持込霊具として数えられるのでそのルールは適応外になるので蛍ちゃんと横島君には貸し出しの物ではなく、私が買って置いたものと琉璃から貸し出される物の2つが支給されるはずだ
「えーと美神さん。俺は他の霊具ってどうすれば良いですか?神通棍とかは碌に使えないですし、陰陽術の札を持って行けば良いですか?」
横島君がそう質問してくる。確かに今横島君が使える力を考えると一番陰陽術がGS試験に適していると思うけど……
「陰陽術はできれば使わないでおきなさい。他に使える人が少ないから目を付けられることになるわ、あ、別に敵対されるって訳じゃないわよ?スカウトとか引き抜きが激しくなるから止めておきなさいって言ってるだけよ?」
でも危ないと思ったら使うべきだからそれも持っておいたほうが良いわねと付け加える。スカウトは私が居るから成功するわけが無いし、させるつもりも勿論無い。後は……横島君の耳元に口を寄せて
(眼魂は持っておきなさい。お守りとしてね、それなら違反に引っかからないから)
牛若丸のアドバイスを受験生同士の試合になったら聞いておきなさい、牛若丸は戦の天才だからね。頼りになるわよとアドバイスする。眼魂は横島君しかもっていないのだから、見た目は本当に玩具みたいなので、それをパッと見で霊具と思うことは難しい、違反すれすれになると思うけど、横島君の経験の無さを考えるとこれくらいの裏技は必要だろう。うっすっと返事を返す横島君に、持って行く霊具として結界札と防御札。それと保険の為の無地のお札にしておきなさいとアドバイスする
「さてとじゃあ私は琉璃と打ち合わせがあるから、あとは頑張りなさい」
「……頑張れ横島。危険だと思ったら棄権すれば良いからな?」
……この態度の差はなんだろうか?どうしてこうもシズクは横島君に異様に優しいのだろう?私には随分と辛辣な反応をしてくるのは、単純に嫌われているだけのような気がしてきた……はいっと力強く返事をする横島君達にもう1度頑張ってねと声を掛けて関係者の入り口から入る。付いてきたチビ達は残念だけど、横島君と一緒にするわけには行かないので
【じゃチビちゃん達行きますよー?観客席で応援しましょうねー】
おキヌちゃんに面倒を見てもらう事にした。琉璃とかの近くに居れば安全だろうし、私が側に居る時は私が面倒を見てあげれば良いしねと思って通路を歩いてると
「あら?美神令子。久しぶりですわね」
関係者の部屋の方向からくえすが歩いてきて、いつもと同じ不敵な笑みを浮かべて話しかけてくる
「くえす?なんであんたが」
無視されると思っていたけど、話しかけられたことに少し驚く。くえすって社交性本当に最悪だから、挨拶されただけでも結構驚いた。それに琉璃には呼ぶとは聞いていたけど、くえすの事だから自分になにかメリットがあるわけじゃないので、多分断るんじゃ?と思っていたので正直少し予想外だ
「私には私の目的がある。それだけですわ、では御機嫌よう」
髪を翻し歩いて行くくえす。目的がある……くえすが目を付けるような若いGSは居ないだろうし、かと言って自分を危険視しているGS協会の役員が多いここに来るだけの価値がある何かがくえすの目的だと思うけど……何を目的としているのだろうか?なんか霊感が囁いているのよね。何か嫌な事が起きるかもって
【美神さん、琉璃さんが呼んでますよ?】
おキヌちゃんに声を掛けられ、我に返ると確かに琉璃が私を呼ぶ声が聞こえる
「今行くわー」
考え事はとりあえず後回し、今は琉璃と打ち合わせに集中するべきだと判断して、早歩きで琉璃が呼ぶ部屋へと向かうのだった……
「うー終わったー」
私はAグループだったので横島と別口で試験を受けた。まぁ結果は言うまでも無く一発合格だ。もちろん他の受験生の霊力に合わせているのでまだ全然余裕はある。ここで横島の応援をしていようと考えていると目の前にジュースの缶を差し出される。誰だろう?と思い顔を上げると
「お疲れ様でした」
人間に化けているブリュンヒルデさんが居て、差し出されたジュースを受け取りながら
「ブリュ……こほん聖奈さんもお疲れ様でした」
ブリュンヒルデと言い掛けて、小さく咳払いして訂正する。聖奈さんはにこりと笑いながら私の隣に腰掛ける。参加すると聞いていたけど、同じグループで正直驚いた。この人も自分の力を完全に隠して楽勝で合格していたけど、魔界正規軍副指令と言う立場を考えれば落ちる訳が無い。むしろ落ちたらよほど手抜きをしているとしか思えない
「蛍はまだ余裕そうですね?」
笑ってはいるけど明らかに観察するような視線だ。あんまりこういう視線は好きじゃないんだけどなあ
「ええ、手の内は隠したいですからね」
私は霊力の扱いには当然の事だけど自信がある。もちこむ霊具も神通棍と破魔札にした、まだ1つ空きがあるので状況次第で霊具を追加出来るように2つまで持ち込むことにした、そしてGS試験ではあくまでオーソドックスな除霊スタイルを貫こうと決めていた。だってまだ美神さんにも幻術などが使えるとは話していないので、美神さんと同じスタイルの除霊を得意としていると思わせたほうが良いと思ったからだ。これから何が起きるか判らないのだから、味方にも自分の出来ることは極力伏せたほうが良いと思ったからだ、あの紅い石の存在を知ってからその考えはより強くなっている、味方が敵になる可能性があるのだから、自分の手の内は出来る限り隠しておきたいから……
「あ、横島が出てきましたね。蛍、横島の霊力の扱いはどうなんですか?貴方と同じレベルなのですか?」
試験会場に出てきた横島を見てそう尋ねてくる聖奈さん
「うーん、爆発力はあるんですけどねー。霊力の扱いは今一って所ですね」
横島の爆発力はきっと私よりも上だろう、だけどそれを使いこなすには経験も修行も足りていない。なんとか合格する程度の霊力を放出してくれれば良いんだけど……
「まぁそれはその通りでしょうね、こうして見ても判ります。素晴らしい潜在霊力の持ち主ですから」
神魔には判るみたいね。横島がその身に宿している莫大な霊力の存在に……とは言え、いくら莫大な霊力があったとしてもそれを使うことが出来ないのではあんまり意味は無いけれど……
『では審査を開始する、そこのラインの上に立って霊力を放出するように』
審査官の声が響いて受験生が霊力の放出を始めるけど横島は
「ぬああああああ!!」
頑張って霊力を放出しているようだけど、こうして見ていても判る明らかに出力が弱い
「うーん。これだと落ちてしまうかもしれないですね」
聖奈さんが困りますわと呟く、うーんでもここで落ちたほうが横島の為には良いかもしれないと思っていると、横島の額のバンダナが一瞬光を放ち、その真ん中に眼が現れた
「聖奈さん、あれは……」
私は見たことが無いから確信は無い、でもきっとあれが……
「小竜姫の竜気が形になったと言う事ですね。これならば……!?」
のんびりと話していた聖奈さんの顔色が変わる。それは私も同じで
「え!?嘘!?」
横島の霊力が爆発的に上昇し、風を伴って狭いリングの上を暴れ回る。それは既に物理的な現象となり、他の受験生を襲い始めた……
「のああ!?や、やばあ!!なんか大変なことにぃぃッ!!!」
うわああーっと吹っ飛んでいく他の受験生を見て慌てている横島。ある程度の霊力を放つ事が出来ていたピートさんとかはそれに耐えることが出来ていたけど大半が吹っ飛ばされたりしている
「……小竜姫。どれだけの竜気を分け与えたんでしょうね?」
「判らないですね。でもこれは明らかに悪手だと思います」
明らかに横島が悪目立ちしている……合格と言う試験官の声が聞こえたが、その声が引き攣っている辺りそれが良く判る
(え?私を見てる?)
横島のバンダナに現れた目が私を見つめているのに気付いた。その目には親しみや驚愕の色が浮かんでいるのが見えて、私はその視線の意味が判らず困惑することしか出来ないのだった……
私はずっと見ていた……横島の中でずっと見ていた、横島の嘆きを……絶望を……悲しみを……私は確かにあの時消滅した……横島を庇って、だが私の意識はずっと横島の中に居た。声を出すことも、横島に助言することも出来なかったが、横島中でずっと見ていたのだ。神魔大戦の結末を、横島の心が1度砕けた瞬間を一番近くでずっと見ていた……
(ああ、すまない、すまない横島)
横島の中で私は何度も何度も謝った。私は横島の中で全てを見てきた、だから私は知っている。横島がどれだけルシオラを愛したか、そしてルシオラがどれだけ横島を愛したか?それを見てきた、そして横島が自分の為に死んだルシオラを想い、どれだけ悲しんだか……それを知る度に私は見ていることしか出来ない自分の激しい怒りすら覚えた。私は横島を助ける為に生まれた、なのにそれが出来なくて、なんの為に私は生まれたと言うのか!?何故私は横島を慰めることも、その悲しみを癒すことも出来ないのか、見ている事しか出来ないその事が嫌で嫌で仕方なかった……そして願った。横島を助けたい、救いたいと願った。横島に笑っていて欲しいと願った……叶うはずの無い願いだと判っていた……だがその願いは叶えられた
(なのに何故私はまたここに居る?)
横島の姿が若い……それにここは……ここを覚えている、私はこれを知っている
(GS試験……なら私がするべき事は1つ)
横島の手助けをすること。小竜姫様に命じられたからではない、私は自分の意思で横島を助けたいと、その手伝いをしたいと……そしてあのような結末を迎えさせないと……横島が笑っていられるように、全力で横島を助ける。その為には力が必要だ、その第一歩としてGS試験に合格しなくてはならない、これが横島が強くなる最初の第一歩なのだから、本当なら横島を戦いから遠ざけるのが一番横島が幸福になる為に必要なことだろう。だが
(横島は強くならなければならない、己を護る為に……)
運命は横島を戦いへと導く、それが私が横島の中で見てきて出した1つの結論。だから横島の中から霊力を引き出すことにした……だが力を引き出し始めてたった数秒で私は自らのミスを悟った……
(むう!?う?これは!?馬鹿な!?小竜姫様の竜気だけではない!?誰だ!?誰の力なんだ!?)
ほんの少し。ほんの少しだけ横島の霊力を解放するつもりだった。横島の霊力は膨大だ、それを少し解放するだけで間違いなく横島は合格する。横島の霊力は小竜姫様の竜気を受けることで完全に覚醒した、そして私が小竜姫様の竜気でその霊力を制御する為に作られた、その力を制御する事が私の役割だ。だが何故か今の横島の中には、小竜姫様だけではない、更に2人の竜気が逆巻き、横島の霊力を増幅していた。その増幅した分は突発的にコントロールするには膨大すぎた、私の制御を離れた霊力が暴走を起し嵐となり試験会場を駆け巡る。それで何人もの人間が吹き飛ばされるのを見た、そしてその先に居るはずの無い者を見た
(ルシオラ!?なぜ!?どうして!?)
GS試験の時にルシオラはここには居なかった、どうしてここにルシオラが居るのか?それが判らない、だが……その目に浮かんでいる柔らかな光を見て敵ではないと確信した。それは私の記憶の中にある、ルシオラが横島を見ている時と同じ目をしていたから。何故私がここに居るのか?それは判らない、だが……私はもう1度やり直す機会を得た……なら私のやることは決まっている。今度こそ横島が幸せになれるように……横島が悲しまないように……私は私の全てを使う……その為ならば
(私は全てを敵に回す……)
横島の為ならば……私は全てを敵に回す、それが私を作り上げた小竜姫様だろうと……私は敵対する。全ては……
(横島の幸福の為に……)
それが私が横島の中でずっと全てを見てきて、決意した全てなのだから……
(まぁ運が悪かったと思って諦めてくれ)
横島の霊力の解放に飲み込まれ吹き飛ばされ、負傷して動く事が出来ないで居る何人かの人間を見て、私はなにも感じなかった。ほんの少しの罪悪感も感じなかった……今までの自分とは違う、だがその違いが確固とした自分を形成できた証のように思えて……ほんの少しだけ、誇らしく思えた……
リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その5へ続く
次回は美神さんや琉璃さんの視点で進めていこうと思います。カオスや言峰神父の視点もありますけどね。後心眼は逆行記憶ありの心眼です。だから横島にとっては初めましてですが、心眼にとっては再会となりますね。ちょっとヤンデレ感ましましになってるのは、まぁええ、賢明な方なら判ると思いますがちゃんとフラグなので、どうなるのか楽しみにしていてください、心眼先生ブラックとして活躍しますので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします