GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は修羅場っぽくなってしまった美神事務所と、GS試験会場にいるドクターカオス。それと言峰神父とカズマことビュレトとかの話にしていこうと思います。次回からGS試験の話に入っていこうと思います。
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その3

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その3

 

美神除霊事務所は異質な空気に満ちていた……その空気の発生源は言うまでも無い

 

「……」

 

「んっ……」

 

目を見開いて完全に硬直している横島と、そんな横島の顎を掴んで顔を上げさせて口付けをしている小竜姫。

 

【「「「……」」」】

 

そして目の前の光景を信じられず、何回も目を擦って天を仰いでいる蛍・おキヌ・シズク。あんぐりと口をあけて停止している美神……この沈黙は起爆するまでのほんの僅かな猶予。なにかきっかけがあれば完全に爆発する

 

【オーナー。この部屋の防御レベルを最大にしておきますね】

 

「あら……あら……少したきつけすぎましたね……」

 

渋鯖人工幽霊壱号とブリュンヒルデの言葉、これが起爆剤となった……なって……しまった

 

【「「何をするだァーッ!!!」」】

 

何故か何処かの田舎訛りが混じった、蛍達の絶叫が事務所の中に響くのだった……なお、おキヌ、蛍よりかは小さいがシズクの声もちゃんと混じっていたりするのだった……

 

 

 

蛍達の絶叫が事務所の中に響き、書類を納めている棚のガラスが粉砕された時。小竜姫もまた混乱の極みに陥っていた

 

(……え?)

 

横島さんの顔がとても近い、こうして見るとまつげが案外長いのと、意外と整った顔をしているなあと思う……しかしいつまでも現実逃避することが出来る人間……いや、小竜姫は神族ではなかった

 

(何故接吻をー!?)

 

どうして私が横島さんと接吻をしているのか判らない、ブリュンヒルデに接吻が挨拶と教わったが、私と横島さんはそんな挨拶をするほど親密な仲ではない、だから横島さんから飛び掛かって来たと一瞬思いたかった……だがッ!!!

 

(私が顎を掴んでるぅ!!)

 

これはどう考えても私が横島さんの顎を掴んで顔を上げさせて接吻したと言う証拠にしかならない

 

(なんでどうして!?えっ!?いやいや!?私そこまで横島さんを気にしてましたっけ!?)

 

声に出すこともできないと言うか、声を出すことが物理的に出来ない。こうして混乱している間も小竜姫と横島はキスを続けているのだから……

 

(最近夢に見ますけど!横島さんなら何とかしてくれるって思いましたけど!!!ってあれえ!?)

 

生真面目な小竜姫では考えれば考えるほどどつぼに嵌まって行く……そしてそれこそが、横島の顎を掴み、その唇を奪うことを選択した未来の小竜姫の作戦だった……

 

【全て私の計算通り……】

 

ニヤアっと悪い顔を浮かべているであろう未来の小竜姫は、混乱しきっている今の小竜姫の中で自分の計画が全て成功していることに笑みを零していた

 

【ブリュンヒルデ。貴女のおかげですよ】

 

くっくっくとまるで悪役のような感じで笑う未来の小竜姫。事実今の状況では100%の悪役である、ブリュンヒルデの言葉で今の小竜姫は僅かに焦ったそして、ほんの僅かだが嫉妬した。自分と同じような立場にあり、まだ会ってもいないと言うのに、自分の想いを押し通そうとするブリュンヒルデに……そして私が横島さんの師匠でもあるんだと言う優越感。そして決定打になったのは婚期と行き遅れの言葉。その結果、小竜姫は頭では認めていないが、横島への恋心の僅かに自覚した。その僅かな自覚で十分だったのだ、未来の小竜姫が今の小竜姫の身体を操るのに……

 

【これもあれも全部私がずっと干渉してきたからですね!】

 

寝ている時にずっと未来の横島の姿を見せ続けてきた。いつかだが、確実に横島が至る英雄としての姿を

 

【もっと自覚を促しましょう。そうすればもっと未来と現在は重なり合っていく】

 

いつか未来と現在の小竜姫が重なる。それは魔族よりになってしまった小竜姫と今の小竜姫を結びつけるが如く、反発しあっているそれを帳消しに出来るほどに強烈な感情。愛であり恋をすれば2人は完全に融合する……それを目的とした未来の小竜姫の策略に現在の小竜姫は完全に嵌ってしまったのだ……

 

【でも行き遅れと行かず後家はダメージ大きいです】

 

現在の小竜姫が少し動揺したブリュンヒルデの言葉は未来の小竜姫に対しての痛恨の一撃となっていたのだが、現在進行形で現在の小竜姫に生命の危機が迫っていたりする

 

【「「何をするだァーッ!!!」」】

 

私の耳に蛍さんたちの絶叫が響き渡る。それを聞いて我に返った私は咄嗟に後ずさり、自らの唇に手を当てる

 

(ああああー!!!か、感触が残ってるぅ!!)

 

こうして離れていてもまだ横島さんの唇の感触が私の唇に残っている、それに……

 

(力が抜けてる……ごっそりと……)

 

天竜姫様から預かった、天竜姫様の竜気を詰めた宝珠は完全に空になっているし、私の竜気も減っているのが判る

 

(横島さんは大丈夫……じゃない!!!)

 

竜気は人間には強すぎる力だ、横島さんが大丈夫かと思い顔を上げると

 

「ごぱあっ!?」

 

【「「横島ぁー!?」」】

 

目と鼻と耳から大量の鮮血をあふれ出しひっくり返る横島さん。そして蛍さん達の絶叫……

 

「あわわわわ!?私はなんて事を!?」

 

横島さんのバンダナに竜気を授けるつもりだったのに……直接。しかも口移しで竜気を授けてしまった……これは不味い……とても不味い……

 

(横島さんの霊体に確実に悪影響を与えてしまう!?)

 

今成長している段階の横島さんの霊体に確実に悪影響を与える。どうしようかと考えていると強烈な殺気を感じて

 

「はっ!?」

 

【クスクスクスクスクスクス……】

 

ギラリと光る包丁の刃。そして前髪で顔を隠し、クスクス笑っているおキヌさん……咄嗟に包丁を掴んだが

 

(こ、怖い!?めちゃくちゃ怖いです!老師!!)

 

武神としての自信が根こそぎ消え去ってしまいそうな恐怖。もういっその事逃げてしまいたいと思った

 

「……ショウリュウキサマ?チョットオハナシシマセンカ?」

 

か、肩が!?肩の骨が悲鳴を上げている!!!蛍さんの何の感情も込められていない平坦な声が死ぬほど恐ろしい

 

「少し焚きつけすぎたことは認めますが。貴女はやると思ってました、小竜姫。これで行き遅れの可能性が減りましたね」

 

にっこりと笑うブリュンヒルデを物凄く殴りたい!でもその前に私が殴られる!もしくは

 

【蛍ちゃん、角切り落としましょう】

 

「そうね、へし折りましょうか?」

 

竜神の命の角が折られる!!がしりと掴まれた左の角が軋んでる!

 

「止めて!止めてえ!角だけは本当に駄目ですって!出来ることならなんでもしますからぁ!」

 

もう竜神とか武神とか言うプライドは捨てた。これは本当に不味い、角が本気で折られかねない

 

【私の要求は処刑】

 

「とりあえず理由の説明を求めます、それで減罪可能か考えます」

 

おキヌさんは駄目だ!完全に正気じゃない!蛍さんは交渉の余地があると思うけど、選択肢を間違えたら終わる!そんな確信が私にあった

 

「……いや、そのですね。ついと言うか、事故と言うか……はい、ええ、私も接吻するつもりは無くてですね?」

 

【「じゃあなんでキスしたの?」】

 

私が知りたいです。いやまぁ横島さんに好意を持ちかけているのは認めますが、そんな行き成り接吻なんて、まずは恋文とかからじゃと言うと

 

【あの人ですね】

 

「ギリギリ減罪できるラインかもしれない」

 

え?あ、なんとか助かり……

 

「……蛍。おキヌ、小竜姫と天竜姫の竜気で横島のチャクラがやばい」

 

…………シズクの一言で蛍さんとおキヌさんの圧力が増した。2人の視線が私の角に集中しているのが判る

 

【「折ろう」】

 

声を揃えて言う2人に今度こそ角を折られると思った私は

 

「美神さん!修理費は払いますので!!」

 

生存本能に従い、私は窓ガラスを破って外へと逃げ出すのだった……

 

 

 

窓ガラスを破って逃げていった小竜姫。さて、残ってしまった私はどうしましょう?完全に帰るタイミングを逃してしまった

 

「……チャクラ云々は嘘なんだけどな」

 

【「「はい?」」】

 

蛍とおキヌと美神の驚愕の声が重なる中、シズク様は淡々と横島の血を拭いながら

 

「……お前ら私が何か忘れてないか?」

 

シズクは最上級の竜神……あ、私は何を言っているのか理解した

 

「既に横島には竜気に対する耐性があると言う事ですか?」

 

「……起きるのも寝るも同じ屋根の下だからな。もうとっくの昔に横島は竜気の耐性を持ってる」

 

ついでにタマモの強烈な妖気にも対応しているなと言って、横島の顔を血を全て拭い終わったシズクに

 

「どうしてあんなことを?」

 

あの一言であの2人が暴走すると判っていたのにそれを口にした理由は何ですか?と尋ねると

 

「……面白くなかった。それだけだ」

 

あらあら……これほど上位の竜族までも魅了するとは……思わず私は

 

「なんと罪深い人でしょうね。きっと他の神魔もまた想いを寄せる事になるでしょうね」

 

私の一言に事務所の中全員の視線が集中する。薮蛇でしたかね?と苦笑しながら

 

「心の美しさ、善も悪も抱え込む度量。ええ、生まれた時代を間違えたとしか思えないですね」

 

これが神代の時代に生まれていたら……ああ、でもそれだと更に大変なことになるかもしれないですねと苦笑しながら

 

「小竜姫の暴走の非礼をお詫びいます、イングズ・ゲーボ・マンナズ」

 

私が言葉を口にすると目の前に複雑な形状を組み合わせた、まるで記号のような炎で出来た文字が浮かび上がる

 

「ルーン魔術ね?何の意味が?」

 

下界で有名な退魔師とだけ有ってそれが直ぐルーン魔術と判ったようですが、それが何かは判らないようですね

 

「横島を想う、蛍、おキヌ、シズクに愛に満たされた、愛し、愛される、素晴らしい人間関係がありますように」

 

私の言葉を聞いてやっと笑顔を浮かべた蛍がにこりと笑いながら

 

「どうもありがとうございます?」

 

疑問系なのは効果が実感できないからでしょうね。まぁ直ぐに効果を発揮するようなルーン魔術ではないので、それは仕方の無いことですが……

 

「良い恋愛をするといいですね。そう、想い人から接吻される幸せを掴めると良いですね」

 

私の言葉にぼっと顔を紅くする蛍とおキヌに笑みを零す。確かに目の前で想い人の接吻を見るのは恋する乙女には辛いでしょう、ですが、想い人からされる接吻は自分からするよりも遥かに喜びが大きいものだ

 

「では美神。GS試験の時よろしくお願いします。私も参加するので、では御機嫌よう」

 

いつまでもここに居るわけには行かない、逃げてしまった小竜姫を捕まえないといけないし、それにGS試験会場の準備……あと

 

(こっそり私も対象に入れたのをばれても困りますしね)

 

事務所を出てからブリュンヒルデは小さく舌を出して笑い、小竜姫の竜気を頼りに街中を歩き出すのだった……

 

 

 

 

神魔から応援が来ると聞いておったが……

 

「のう?小竜姫に何があったんじゃ?それとお前さんは誰じゃ?」

 

GS試験会場に訪れた二人の神魔。1人はワシも知っておる小竜姫じゃが、もう1人は知らん

 

「ええ、ちょっと色々ありまして、小竜姫は少しポンコツになっていますが」

 

違う、違うんです。いえ、確かに横島さんの事は気になっていますけど……とトマトのような赤い顔をして、両手で顔を押さえている小竜姫を見て

 

(なにがあったんじゃろ?)

 

気にはなるが、聞いてしまうと大変な事になるとワシの直感が囁いているので聞かないことにした

 

「それとお忘れでしょうか?ドクターカオス?以前お会いしたと思うのですが?」

 

あった事がある?ハテ?誰じゃ?作業していた手を止めて考え込むと、軽い頭痛と共に小竜姫の隣の魔族の名前を思い出した

 

「ブリュンヒルデ?」

 

「はい。やっぱり覚えていてくれたのですね」

 

にこりと笑うブリュンヒルデに心の中で謝る。ブリュンヒルデの知っているワシと今のワシは違う。ワシは小僧のいた未来から来た存在で、ブリュンヒルデの事は記録として知っているが、それはワシの記憶ではない

 

(やはり逆行ではなく、似て非なる平行世界への転移じゃったか)

 

逆行したと言う印象ばかり強かったが、実は平行世界への転移だったのは?とワシは推察していた。そしてブリュンヒルデとの再会でその考えを強くした所で

 

「卓越したルーン魔術。期待しておるぞ」

 

「はい、任せてください」

 

ワシの記録ではブリュンヒルデは卓越したルーン魔術使いだ。ワシの錬金術で強化し仕掛けを施した会場をより強固な物にできるじゃろう

 

「マリアー!テレサー!少し戻ってくれー」

 

今まではマリアとテレサに指示を出して、会場を作っていた。そのおかげで外観的な物とワシの錬金術による強化は済ませたが、ここからは更に別のアプローチになってくる。1度建築計画の組みなおしと、顔合わせが必要だと思ったからだ

 

(ここでも1つワシの仮説を証明する証拠になるしの)

 

ワシの記録ではブリュンヒルデがワシを訪ねてきたのは、魔界正規軍が組みなおされオーディンがその指揮官になった時。ワシの開発した魔具を魔界正規軍の正式装備にしたいとオファーがあったと記録されている。無論今ではワシの開発した物は全て分析され、更に言えばそれを更に発展させた物が魔界正規軍の装備となっている。なんとも面白い話である。ワシではない、ワシが歩んだ歴史を唐突に教えられる。それはまるで新しい理論を知ったときの気分に似ている

 

「カオスー?どうしたのー?」

 

「ドクターカオス?私とテレサは何か間違えましたか?」

 

両腕に建築用のアタッチメントを装備したマリアとテレサが戻ってきて、マリアがブリュンヒルデを見た瞬間。一瞬目を閉じて

 

「再会できて嬉しいです。ミス・ブリュンヒルデ」

 

「はい、私もです。マリア」

 

ぐっと握手する2人を見て、仮説は確信に変わった。ワシにもマリアとブリュンヒルデが仲良く話をしている映像を唐突に思い出したからだ

 

(ふむ、似て非なる平行世界、そしてその場所で関わりのある存在になると、思い出す記憶……)

 

恐らくそれはお互いの記憶違いを修正する為の世界の修正力なのだろう。となるとやはりこの世界は……ワシやルシオラのお嬢ちゃんが居た世界ではないと言うことになる、アシュは世界線の揺らぎと言っていた。それもあるだろうが、似て非なる平行世界であり、その世界の世界線が乱れている。それがこの世界の正体と……

 

「カオスー!おーいカオス!!」

 

「うお!?なんじゃ!?」

 

耳元でテレサに声を掛けられ、思わず驚きながら立ち上がると

 

「カオス、ここの所働きぱなしだろ?今私が呼んでも反応無かったし」

 

そんなに考え込んでいたんじゃな……別に実感している疲れがあるわけじゃないんだが……

 

「ドクターカオス。ここは私とマリアとテレサに任せて少し休んでください、ここで交代としましょう」

 

うーむ……いや、しかしなあ。まだ仕掛けが全部完成しているわけではないので、ここで休むわけには……

 

「ドクターカオス、今日で4日目の徹夜です。そろそろ休んでください」

 

4日!?早く寝ろ!カオス!とテレサに担ぎ上げられ、休憩所に抵抗することも出来ず、押し込められた。しかも外から鍵を掛けて1日出る事が出来ないと言う徹底ぷり……ここに風呂とトイレとキッチンがあるのでここで暮らすことが出来るという判断なんじゃろうが、いささか過激じゃな……

 

(成長したのう……)

 

ずっと会場の作成をしていたテレサ。時々ワシの様子を見に来ていたマリア。ワシが徹夜している事を初めて知ってからの行動は早かった。父親思いの娘と言う感じでその成長具合がとても嬉しく思う、こんな爺じゃがなと苦笑しながら

 

「さてと……少しばかり話をしようかの?」

 

「ええ、そうですね。ドクターカオス」

 

にこりと笑い椅子に座ったのは護衛として残された小竜姫。だがさっきまでの恥じらいの仕草は無く、勝ち誇ったような笑みを浮かべていて

 

「ワシと同じ時代を知る小竜姫よ。この世界が逆行だけで出来た世界ではないと言うワシの考えを聞いてくれるかの?」

 

「ええ、私も色々考えましたし。1度ここで情報を整理しましょうか」

 

逆行逆行といつまでも思い込んでいては、いつか足を掬われる。それは今回のGS試験でも判っていた……だから1度情報を整理する必要がある。出来ることならばアシュタロスも交えたかったが、贅沢も言ってられない。

 

「ではまずは私から神界の情勢ですが……」

 

こうしてカオスと小竜姫は時間の許す限り、お互いの考えを話し合い、この世界についてのお互いの見解を交換し合うのだった……

 

 

 

 

「止まりたまえ、魔神よ」

 

琉璃と言う人間に教えてもらった病室に入ろうとすると背後から呼び止められた

 

(俺が気付かなかった……か)

 

振り返るとカソックに身を包んだ屈強な体格をした男がこっちを見つめていた。完全に気配を消してこの場所に溶け込んでいた事に少しだけ驚く。人間でここまでやれる男が居るとはと正直賞賛した。そしてその神父としての才能の高さもまた賞賛に値した

 

「驚いたな。人間に完全に化けていると思ったんだが」

 

「教会からは追放されたが、私は今もまだ求道を続けている、人と人なざる物を見分けることなど造作もない」

 

ダンっと鋭い踏み込みの音を立てて拳を構える男は

 

「東條修二は命を賭け、私達に情報を与えた。今もまだ昏睡しているが、私には彼を護る義務がある。名を問おう、魔神よ」

 

こりゃやべえな……真面目に事を構えたら相打ちになりかねん……その身に纏う霊力のなんと澄んだ事か。どれほどの修行を積み、己を律してきたかその全てがその拳から、その構えから伝わってくる

 

「ソロモン72柱ビュレト。かつての友を止める為に神と人と協力することを決めた。俺は敵ではない、構えをどうかといてくれないか?」

 

強き者には礼節を伴った態度を、それが俺の絶対的なルール。その強さは身体の強さではない、心の強さだ。人間は弱い、だがその心のあり方は賞賛に値し、そして礼節を尽くすだけの価値がある

 

「……無礼を謝罪する、ビュレト。小竜姫様とブリュンヒルデに聞いていたが、少しばかり気が立っていたようだ」

 

構えを解き頭を下げる男。だがその目に油断は無く隙あれば、俺が攻撃しようとすれば打ち抜くと言う強い意志を感じさせた

 

「いや、俺こそ1人で来るべきではなかった。いらぬ警戒を持たせたことを謝罪しよう。すまなかった」

 

護衛が付いていることを考え、やはり案内を頼むべきだったと少しだけ後悔する

 

「東條修二に会いに来たのは分かるが、面会謝絶だ。霊力の枯渇、山を駆け下りたことによる手足の筋肉の断裂、更に裂傷が腐敗し始めている、どうも追っていた魔族の呪いだな」

 

「ああ、それなら分かる。ガープの常套手段だ。肉を腐らせるのはあいつがもっとも得意とする呪いだ」

 

あいつは状況次第では逃げることを恥じない、逃げても良い、次に勝てば良いというのがあいつの戦術でもある。無論心を狂わせ、相手の知識を奪い反撃を一切許さず、魔術による制圧戦も得意とするが、それ以上に1度戦い、相手に呪いをかけて逃げるということも平然と行う。負けるのは良い、死ななければ次がある。ならその次に生かすために相手の戦力を奪う

 

(ほんとむかつくぐらい冷静な奴だ)

 

それで居て科学者としても優秀と来た。味方なら頼もしいが、敵に回せばあれほどうっとうしい相手もいないだろう

 

「あいつの呪いは知っている。俺に任せてくれないか?」

 

「私も付き添うがよろしいか?」

 

ああ、それでかまわないと返事を返し、俺は目の前の男と共に病室の中に足を踏み入れた。肉の腐る匂いと苦痛に呻く男の声。様子を見て最悪の段階まで進んでいないことを確認し安堵の溜息を吐く

 

「これなら間に合う。あと1日遅かったらやばかったな」

 

腐敗の次は霊体の破壊を含む壊死になる。本当に不味い状況だったな、と思いながらジャケットの中から薬のビンを取り出して口に含ませる。すると淡い光が男を包み込んだ

 

「あとは霊体の回復をさせれば時間と共に回復するだろう。誰か優秀な霊体治療の知識を持つ者を派遣してくれれば良い」

 

「その必要は無い」

 

カソックの男の手が光り、治療を始めるのを見て驚いた。俺でさえ相打ちになるかもしれないと思う程の徒手空拳の力量に治療までこなすとは……

 

「優秀な男だな、お前は」

 

正直に賞賛する、戦いだけではなく治療も行える。見ているだけでも分かるが、この男の治療はかなりレベルが高い、もしかすると手足の切断も繋ぐことが出来るかもしれない

 

(これだけの男を追放するとはな)

 

この手の男は周りから疎まれ、自分の場所を失ったのだろう。それでもまだ神を信じる、この男の信心深さ……本当に素晴らしい宗教家だったのだろう

 

「これで一先ずいいだろう。呪いの解呪感謝する」

 

病室を出て頭を下げる男にいや、遅くなってすまない、もう少し速ければあそこまで弱ることは無かっただろうと呟き

 

「GS試験の前に会いに来る。意識が戻っていれば少し話を聞かせて欲しい」

 

ガープのやつが何を考えているか、それを知るためにはあの男から、ガープが何をやっているのか?それを直接聞きたかったんだがな

 

「ふむ。では起きたのならば、神代琉璃に連絡し、ビュレトに連絡が行くように頼んでおこう」

 

「そりゃ助かる。えー「言峰綺礼だ」おう、サンキュー綺礼」

 

腕を組んで再び気配を消して護衛に戻る綺礼に苦笑しながら病院を出て、空を見上げるどこまでも青く澄んでいる空……

 

「これからの波乱の予兆か?」

 

最近幽霊の姿が見えない、ガープの魔力を恐れて隠れているのだろう。きっと今の状況は嵐の前の静けさと言う奴だろう

 

「まあ何にせよだ。お前らは止める、んで……その後ろのやつもとっ捕まえてやる」

 

魔界統一戦の時。アスモデウスとガープが単独で行動しているのを何度か見た、それからだ。2人の中で何かが変わったのは……アスモデウスとガープの後ろには誰かいる……それも並じゃない奴が……俺は決意を新たにその場を後にするのだった……

 

 

 

ガープと協力し、その計画を知ろうとしていたアシュタロスだったが、GS試験を前にした今日。ガープからの信じられない言葉を聞いて絶句していた

 

「撤収!?ここまでして撤収するというのか!?」

 

聞き違いだといってくれと言う願いを込めてそう尋ねるが、ガープは平然とした顔で

 

「ああ。もうやることは済んだ。魔装術を教えた人間が3人、1人はもう狂っているが、それでいい」

 

これは正直予想外だった。GS試験の時に何かを考えて動くと思っていたのに撤収するなんて

 

「GS試験に私の手の掛かった者が出るという情報を持った人間を逃がした、これで神魔の動きを見ることが出来る。GS試験自体には興味は無い、ああ、全く持って興味が無い。だが動くかもしれないとなれば神魔は焦る、人間も焦る。その隙を作り出したいだけだったからな、最後の最後の仕上げに少しだけ動くだけだ、あいつらは勝手に動いてくれればいい」

 

もう興味が無いのか、魔術で眠らせていた白竜会の人間を一瞥することも無く、自らの設備を片付けるガープを呆然と見ていると

 

「ああ。お前の助けも実に助かったよ。これで分析が進む、私達の目的を叶える為にな」

 

協力すると行って来たが、私がしたのは魔界と天界の禁書の封印の解除。先日やっと一番強固な結界を解除することが出来、これでガープ達の目的が分かると思っていたのに……正直この展開は予想外にもほどがある

 

「とはいえ、それは日本での話、香港で少し手伝って欲しいことがある」

 

香港と聞いて脳裏に過ぎったのは原始風水盤の事。これはメドーサが実行していたが……まさか

 

「原始風水盤を設置する。とはいえ魔界を呼び出すためじゃない、門を作り出すためだ」

 

私の予想通り原始風水盤を設置すると言うガープだったが、魔界ではなく門を作り出すためと聞いて何を考えているのか判らなくなった。門?何を呼び出す為の門だというのか?

 

「門?何をするつもりなんだ?」

 

天災だということは自覚している、だが私には全くガープの考えを読むことが出来ず、何をするのか?と尋ねるとガープがくっくっと笑いながら

 

「なんせ私の考えている事を実行するには時間が掛かる。目くらましになり、なおかつ神魔に被害を与える隠れ蓑が必要だ。それはお前も同じだろう?アシュタロス。究極の魔体を作るには時間が必要なはずだ」

 

私も本気で動いているという証明の為に究極の魔体のサンプルを見せた。無論本気で完成させるつもりは無いが、信じてもらうには必要な手段だった

 

「ああ。それはそうだが……いい加減何をするつもりなのか教えてくれ、原始風水盤を使うことに何の意味がある?」

 

魔界を呼び出すためじゃない、じゃあ何のために原始風水盤を使うのか?と尋ねるとガープが

 

「香港には原初の魔人と鮮血の魔人が封じられている。その2柱を解放すればおのずと他の魔人の封印も解かれる、あいつらの考えている事は判らんが、人間・神・悪魔その全てに敵対する存在だ。開放するだけで時間稼ぎになる……そしてその間に私の研究は完成するのだよ」

 

くっくっくと笑ったガープはずっと大事に持っていたアタッシュケースを開き、その中身を私に見せた。一見ガラクタに見える数多の道具の中。唯一まだ黄金の輝きを放っている欠片。それを見て私にはそれが何か判った。分かってしまった……

 

「ば、馬鹿な!?なぜそれがここに!?」

 

それはもはや存在するはずも無き物、あってはならない物……私の中で憎悪が脈打つのが分かる。

 

「天舟アマンナの欠片。これを手にするのに相当苦労した、だがそれだけではないぞ?かのジャンヌダルクの旗の一部、一番最初に脱皮した蛇の抜け殻……伝説、神話の中に出てきた数多の聖遺物の数々」

 

アタッシュケースを閉じたガープはそれを魔術で消し去り

 

「これがヒントだ。あとは自分でたどり着け、さ、香港に行くぞ。GS試験本選まで日本に用はない。外でビフロンスが馬車を用意している」

 

言うだけ言って出て行くガープの背中を見て、なんとしてもガープの目的を知ると心に決め、ガープの後を追って歩き出すのだった……

 

(聖遺物……なにをするつもりなんだ……)

 

それ自体は何の力も無い物、神魔としても価値のない物、精々コレクション程度の価値しかない。だがそれをあれだけ集めた以上何か目的があるはず……

 

「一体何を考えているんだ……」

 

ガープの考えが全く読めない。それではここに来た意味が無い、なんとしてもガープの目的を知らなければ……

 

 

そして様々な陣営の考えが入り混じる中、GS試験予選当日を迎えるのだった……

 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その4

 

 

 




次回からGS試験予選となります。キスされた横島の件は次回の持越しです、色々とありますしね

そして最後のガープが持っていた数多の聖遺物まぁね?あれですよね。第二部で使おうとか思ってるキャラの布石ですね

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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