GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回はグレートマザーを交えて、原作の小竜姫が事務所に来て、竜気を授ける所まで行きたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その2

 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その2

 

「凄まじい殺気でしたね」

 

額から流れ落ちた冷や汗をハンカチで拭いながら隣の小竜姫に話しかける。侮っていたわけではない、見下していたわけでもない……

 

(あれが八岐大蛇の系譜のミズチ……)

 

邪竜の中でも最高位に属し、それとあると同時に火竜と水神の最高峰と言う2重の神性を持ち、更に八岐大蛇の系譜……

 

(お父様が事を構えるなと言った訳ですわ……)

 

負けはしないが、勝てもしない。しかもこれは水が少ないという条件付で互角。大量の水があれば私のルーン魔術でさえも通用しなくなるだろう……それだけの存在が怒りを露にした……

 

(それほどまでに神魔をひきつける存在と言う事ですか……)

 

あの小竜姫でさえも感情を露にした。私は遠くで見ただけですが、それでも感じる何かがあった……やはり横島は英雄の器!と私が1人納得していると

 

「ふう……ですね。ブリュンヒルデ……シズクさんの力は知っていますが、正直私でも怖かったですよ」

 

小竜姫が汗を拭いながら呟く、剣士としては神族でも上位に当る小竜姫がそう言うと言う事は

 

「相性の問題ですね?」

 

「……ええ。私は火ですから……水のシズクさんとは致命的に相性が悪いですよ」

 

それにシズクさんは水に成れますから、私の神剣でも有効打を与えるのは難しいですと付け加える小竜姫。元来竜種とは「火」属する者が大半であり、かの竜神王でさえも火竜である。ミズチは竜族ではあるが、本来ならばもっと力の弱い種族……

 

(シズクがいかに化け物か判りますね)

 

北欧神話では最高神に属するオーディンの血を引いている私でさえも恐怖し、武神としても竜族としても上位の小竜姫が弱気な言葉を口にするほどの実力……敵に回さなくて正直良かったと安堵していると

 

「ブリュンヒルデ、小竜姫。こんな所に居やがったか、さっさと合流しに来いよ」

 

バイクが私と小竜姫の前に止まる。どうもシズクとの話で随分と合流時間から遅れてしまったようですね

 

「すいません。ビュレト様」

 

これは私と小竜姫に非があるので素直に謝るとビュレト様は頭を掻きながら

 

「まぁいいさ、俺も大して情報を手に出来ているわけじゃねぇし……正直よ。ガープの奴は俺の事を知ってるから、俺対策の結界とかをめちゃくちゃ設置してるから思うように動けねぇ」

 

ビュレト様は本来ならば中立として動く事が無いはずですが、アスモデウスが動いているので特例として魔界正規軍の客人として一時的に魔界正規軍に属している。先に調べておいて貰うつもりでしたが、やはり向こうもしっかり対策を取っていたと言う事ですね

 

「となると私も動くのは難しいと言う事ですね?」

 

「ああ、まず間違いないな。魔族は魔族を知る、特にガープの事だ。相当念入りに魔族対策をしてるだろうよ」

 

ソロモンのガープ。サタン様による魔界統一戦のおり最後までアスモデウスと共に徹底抗戦を掲げ、最終的に破れいずこかへ敗走した……それが魔族による共通の認識だ。だが今思えば敗走ではなく、デタントへ動く今を狙って力を蓄えることを選択したのかもしれない……ガープは魔界でも随一の頭脳の持ち主、魔族でありながら神族の扱う光の魔法に対する知識も深い……

 

「設置型の結界に、私やビュレト様の魔力に反応する罠……」

 

思いつく限りのガープの妨害を上げていくが、ビュレト様は深刻そうな顔をしてそれだけじゃすまねえと付け加える

 

「小竜姫だったか?オーディンのやつから聞いたが、神魔を狂わせる何かがあるんだって?」

 

韋駄天の神界の書庫を荒らす事件。事前に防ぐことが出来たので表沙汰にはなっていないが、魔界でも同じ事件が発生した。無論起したのは韋駄天ではないが、事件を起したのはガープ・アスモデウスに警邏中に遭遇し、意識を失っていた魔界正規軍の隊長格。しかも溶けるように苦しんで消えて行った姿は今も記憶に新しい……

 

「はい、竜神王様に報告が上がっていますが、韋駄天九兵衛を操っていた紅い石の存在。それと下界からの情報提供ですが、英霊義経を傀儡としていたのも同じく紅い石と聞いています」

 

英霊さえも操り傀儡とする紅い石……話を聞いているだけでも危険な物だと判る

 

「それがあるから単独行動も難しいな。捕獲されてその紅い石とやらを埋め込まる訳には行かない」

 

私にしろ、ビュレト様にしろ、小竜姫にしろ、誰かが紅い石で操られ敵に回ればますます状況が悪くなる一方……何とかガープが根城を調べたいと思っていましたが、それは控えたほうが良さそうですね

 

「当面の目的としてはGS試験会場に結界などの準備。それと人間界のGS協会に申請して、有望な若いGSをGS試験に出場させて貰うことを「……あー、御託はいい。どうせもう面子は決まってるんだろ?なんっつったけ?邪だったか?」

 

小竜姫の眉が小さく動く、なんで知っているんだろう?と言う顔だ。ビュレト様はカカっと笑いながら

 

「俺も只人間界にいたわけじゃねえ。ちゃんと役に立ちそうな面子には目星をつけてる。さて、無駄話はこれくらいにして本格的に動くとしようぜ?時間が無いんだからよ」

 

確かにGS試験までそう時間が残っているわけではない、早くできる限りの手段を打つべきでしょうね

 

「では小竜姫。GS協会に案内してくれますか?」

 

「判ってます。こっちです」

 

私とビュレト様はGS教会の人間と面識が無い、小竜姫もそれは同じですが、なんでも以前修行を見た人間が一緒に待っているとか?それならば話し合いもしやすい。先にGS協会の前で待っていると言ってバイクで走り出したビュレト様を見送り、折角人間の姿をしていると言う事で小竜姫とゆっくりGS協会に向かって歩きながら

 

「所で小竜姫?」

 

「はい?なんですか?」

 

さっきのシズクとのやりとりでどうしても気になったので、折角なので尋ねて見ることにする

 

「あれほどの反応をするという事は、横島さんでしたか?その方が好きなのですか?」

 

うえっ!?と言う奇妙な声を発して。手を振りあわあわわ!?っと動揺している小竜姫を見て、小竜姫の気持ちを確信した上で

 

「私は話に聞いて、見ただけですが好ましい方だと思っていますよ。ちゃんと顔を見て話をして見たいですね。きっとあって話せばもっと好ましく感じることが出来ると思いますから」

 

「こ、好ましく?ですか?に、人間相手ですよ?」

 

ああ、堅物の小竜姫らしい言葉ですねと小さく苦笑する。身分とか、種族とかそう言うのを気にしているのが判る。でも誰かを愛すると言うのはそう言うもので縛られる物じゃない。ちょっと煽って見ましょうか自分の気持ちを偽っても良い事なんて何も無い。少しだけ自分に素直になれるように、少しだけ焚きつけて見ましょう

 

「な、何をしているのですか?」

 

私が唇に薄く紅をさしているのを見て動揺した様子で尋ねてくる小竜姫を見て薄く笑いながら

 

「いえいえ、少しご挨拶をする訳なのですから、ちゃんとしておかなければいけないじゃないですか?別に魔界の挨拶でキスはそうおかしいものじゃないですよ?」

 

「せ、せせせええ!?接吻があ、ああああああ!?挨拶!?」

 

動揺して上手く喋ることが出来てない小竜姫に心の中で、まぁ頬とかにですけどね?と呟いてから

 

「それに私も婚期が近いですし……行き遅れになるのは流石に……」

 

私の場合オーディンの娘にして、魔界正規軍の重鎮。そして私自身の力量と言う物と、私自身の性格もあり、正直な話。ワルキューレ以上に浮いた話なんて無い。そんな中人間とは言え好ましい殿方を見つける事が出来たのですからアピールしたいとおもうのは当然の事ではないですか?と小竜姫に尋ねると

 

「い、行き遅れ……こ、婚期を逃す……うっ頭が」

 

なんか頭を押さえて呻いていますね。もしかすると忘れようとしていたのを私が思い出させてしまったのでしょうか?とは言え、武神とは言え女。今はまだ若いし、力も衰えていない。だがそれはいつかは陰りが出てくる物……全盛期の内に意中の相手を見つけておかないと後で泣くのは自分自身だ

 

「さ、そろそろ行きましょうか。いつまでも待たせるわけにも行きませんから」

 

「そ、そうですね……し、しかし……接吻があ、挨拶とは……そ、それに行き遅れ……い、嫌ですね……」

 

私の言葉を聞いて深刻そうな顔をしてぶつぶつ呟きながら歩く小竜姫の姿を見て、ちょっと煽りすぎましたかね?なんせワルキューレにはこういう浮いた話が1つも無いので、私としては恋バナとやらをやってみたかっただけなんですけどね……少し選択を間違えてしまったでしょうか?と少しだけ後悔するのだった……

 

 

 

唐巣神父から神族の小竜姫様にGS試験についての話が伝わり、近い内にGS協会に来てくれるって聞いてたけど

 

「あの魔族の方も来るとは聞いていなかったんですけど?」

 

「いや、私も知らなかったんだよ?琉璃君」

 

何か考え込んでいる素振りを見せている小竜姫様とその隣であらあらと上品に笑っている銀髪の女性と、ファー付きのジャケットを来ている逆立った黒髪の青年からは魔力を感じる。こうして向かい合っているだけでも毛が逆立っていくのが判る

 

「今回はソロモンが動く可能性が高いと言う事で魔界正規軍から、副指令のブリュンヒルデ、そして特例として同伴してくれることになった……「ソロモン72柱ビュレトだ」

 

小竜姫様の言葉を遮って黒髪の男が名乗る。ソロモン!?どうしてそんな大御所が人間界に!?私と唐巣神父が動揺していると

 

「なに、人間界で動いているソロモンが俺の知り合いと言うか……昔のダチだからよ。まだ馬鹿やってるあいつらを叩きのめしに来たんだよ。まっ!カズマとでも呼んでくれ」

 

人のいい顔で笑っているが、ソロモンが目の前にいると知って私も唐巣神父も愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。もしこの人が暴れればGS協会なんてほんの数分で更地になってしまうことが判っているから

 

「……神魔のほうでもソロモンの動きは掴んでいたのですか?小竜姫様」

 

唐巣神父がそう尋ねると小竜姫様は深刻そうな顔をして

 

「神魔の行方不明事件が最近天界・魔界の両方で発生しています。厳重な警戒態勢を敷いているのにも拘らずです」

 

「そして今回のソロモンが人間界で動いているという話を聞いて、神魔は一時手を組み協力体制を取る事となりました」

 

小竜姫様の言葉に続いてブリュンヒルデさんが話を続ける。神魔が協力を決めなければならないほどに今起きている事態は

緊迫しているというのか、私も大変な事になったとは思っていたが、どうも私の考えよりも遥かに今起きようとしている事件は厄介な物となっているのかもしれない

 

「しかしこうして神魔が動いてくれたと言うことは、ガープが根城にしている白竜寺の捜査をするのですか?」

 

唐巣神父がそう尋ねると小竜姫様は小さく首を振って

 

「ビュレトさん「カズマ」……こほん、カズマさんが遠くから見てくれたようですが、相当な異界になっている上に神魔に詳しいガープがそこに居るということは罠が大量に仕掛けられている可能性があり、本当ならば今の段階で潰しておきたいのですが……」

 

ここで言葉を切った小竜姫様は苦しそうな顔をして

 

「向こうが動くまでこちらも手出しが出来ない状態です。韋駄天事件の事は聞いていますか?」

 

美神さんからリポートとして受け取っている。韋駄天を操っていたらしき、紅い石の話も聞いているし、何よりも義経が消える際に残した神魔を狂わせる石と言う言葉……

 

「小竜姫様達が操られるわけには行かないと言う事ですね?」

 

「その通りです、今回は申し訳ありませんが人間の皆様に頑張って貰う事となります、なので天界と魔界から物資を持ってまいりました」

 

ブリュンヒルデさんが机の上にアタッシュケースを置いて、中身を改めてくださいと呟く、天界と魔界の物資と聞いてなんだろう?と思いながらケースを開けるとそこには

 

「「精霊石!?」」

 

それは人間界にあるものとは比べ物にならないほどに巨大な精霊石の塊がいくつも収められていた

 

「天界と魔界産の精霊石です。ドクターカオスという錬金術師がいると聞いておりますので、その方に加工を依頼してください」

 

本当はもう少し直接支援したいのですが、あんまり公に動いているのがバレるともっと策を講じてくる可能性があるので、こんな形の支援だけになって申し訳ありませんと言うブリュンヒルデさんだが

 

「いえ、これほどの精霊石の提供。本当に感謝します」

 

これだけの大きさならばドクターカオスならば、参加者全員になにかの護りを付与した、霊具を作成してくれることだろう「それと神族の小竜姫。ソロモンのビュレトの名と顔は知られておりますが、私ブリュンヒルデの顔はあまり魔界や天界でも知られておりません。丁度姿も人間の姿と同じですし」

 

ブリュンヒルデさんが何を言いたいのか理解した……これは正直ほかの参加者には悪いと思ったけど……

 

「参加者としてGS試験にもぐりこむと?」

 

「はい。どうか出場の準備をよろしくお願いします」

 

対戦することになるGSを目指す子には悪いけど、今回の事を考えれば参加してもらうのが一番かもしれない

 

「小竜姫様?このサイコロは?」

 

アタッシュケースの中を見ていた唐巣神父の問いかけにケースの中を見ると、翡翠色のサイコロが2つ収められていた。興味を持って私が摘み上げるとカズマさんが

 

「俺の私物のラプラスのダイスだ。悪魔ラプラスの力が込められたサイコロでな。あらゆる霊的干渉をよせつけず、運命を示す。このサイコロで決められたことは絶対公平かつ宿命となる」

 

ガープのやつが干渉してくる可能性があるのなら、何かの組み合わせの時とかにこれを使えと言われた。これは確かに好都合かもしれない、GS試験では試験者同士の試合がある。事前に白竜会の相手と戦う時に、その相手に霊具を貸しておけば被害を最小に抑えることが出来る

 

「ありがとうございます。とても助かります」

 

無くすなよ?貴重な物なんだからなと言うカズマさんに判りましたと返事をして、ケースの中に戻す。無くしたりしたら大変だからね

 

「あんまり派手に動く事が出来ないとなると、小竜姫様達はGS試験まで何をするつもりなんですか?」

 

本来ならGS試験の開始は明日だが、今回は事情が事情なので2日延期を発表した、柩に連絡を取って安全に延期できるのは最大2日と言われたからだ、出来るならもう少し延期したい所だったけど、これ以上は危険だと言われたら2日で我慢するしかない、それでも時間的余裕は後3日ある。その3日で何をするつもりですか?と尋ねると

 

「俺はガープの情報を渡してくれた人間とやらに会いに行くつもりだ」

 

あいつの事だ、絶対へんなことをしているはずだから情報が欲しいと言うビュレトさん

 

「私は試験会場とやらにルーン魔術を施したいと思います。魔族の中でもルーン魔術の使い手は稀少。ガープすら扱えぬはずですから」

 

ルーン魔術。私は詳しくは知らないが、既に失伝している術、確かにそれならガープと言えど対策を取るのは難しいだろうから有効な手段だろう。残った小竜姫様を見ると

 

「私は1度美神さんに会いに行こうと思いますが、その前にブリュンヒルデと一緒に会場の下見と遠くから、白竜寺を見てみたいと思っています」

 

皆さんしっかり考えてくれているみたいね。私はまだリハビリが完全に終わっている訳じゃないから、実戦に出て足を引っ張るわけにも行かないし、本当美神さん達と小竜姫様に頑張って貰うしかない

 

「じゃあ唐巣神父。ブリュンヒルデさんと小竜姫様を試験会場に案内してください、カズマさんは申し訳ないですが、地図を渡すのでご自分で向かって頂けますか?言峰と言う神父が付き添っているので、近くまで迎えに来るように伝えておきますので」

 

判ったと返事を返して会長室を出て行く唐巣神父達の姿を見送り、背もたれに背中を預けながら

 

「本当これからどうなるのかしら」

 

叔父さんに結界の中に閉じ込められて、GS協会の会長になって……そして今はソロモンが動くかもしれないと聞いて

 

「……本当……どうなっちゃうだろ……」

 

私が背負うには余りに重過ぎる数多の問題に押しつぶされそうになりながら、私はそう呟く事しか出来ないのだった……

 

 

 

 

珍しく学校に来て、授業を2時間受けた辺りで、生活指導室に来るように校内放送が流れる

 

「横島さん?何かしたんですか?」

 

「なんもしてねえよ?強いて言えば……チビが視聴覚室のTVを解体したくらいだ」

 

「みーむう!」

 

凄いでしょ!と言わんばかりに跳ねているチビに褒めてないと言って軽くデコピンする。みぎゃっ!?っと鳴いてクルンっとひっくり返るチビ

 

「とんでもないことしてるじゃないの、どうしてちゃんと見てなかったの?」

 

愛子の言葉に何も言い返すことが出来ない。ちょっとトイレに行った数秒でまさか2階上の視聴覚室に潜り込んでTVを解体しているなんて誰が想像するだろうか?

 

「とりあえず早く行って謝って来ればいいと思うんですノー?」

 

タイガーの言葉に判ってると返事を返し、チビを胸ポケットの中に押し込み、モグラちゃんを頭の上に乗せ、教室を出ようとしたところで

 

「お前、ほんと自分の妹何とかしろよ?いい加減にせんとワイも切れるぞ?」

 

教室に入ると同時に天井から奇襲して吸血しようとしてきたシルフィーちゃんはモグラちゃんに速攻で迎撃され、今は目を押さえてのた打ち回っている。眼を狙っているのは確実だが、あのえぐるような回転をプラスした引っかき攻撃は正直凄いと思う。チビが電撃を使いこなしているのと同じようにモグラちゃんもしっかりと成長していると言うことなのだろう

 

「ほんと、申し訳ありません」

 

ぺこぺこと頭を下げるピートにちゃんと行動を伴ってくれよ?と声を掛け、俺は生活指導室に向かうのだった

 

「どうもー?横島っすけどー?」

 

怒られると思ってびくびくしながら生活指導室の扉を開くと

 

「おおー!よく来たな横島。まぁ座れ」

 

上機嫌な教師に肩透かしを食らった気分になりながら、椅子に座ると

 

「さて、横島。お前今回のGS試験に出るそうだな?」

 

「はい?」

 

言われた言葉に驚き思わず聞き返す、ピートはGS試験に出るって聞いていたし、蛍も出場すると聞いていたが、俺も?美神さんからそんな話は聞いてないと言うと

 

「そうなのか?じゃあ、俺が先に聞いたのかも知れんな。GS協会からお前がGS試験に出場するから、暫くの間学校の授業の免除についての要請と、期末テストの免除をするようにって今朝連絡があったんだ」

 

マジで!?授業と期末テストの免除は正直ありがたい、勉強はしているけど、ギリギリ赤点を回避できるかどうか?って言うレベルだから、テストの免除は正直ありがたい

 

「うちのクラスから3人もGS試験に参加するなんてなー」

 

大変だと思うけど頑張れよ!応援してるぞ!!と笑い喜び続けている教師の言葉を聞いて、GS試験に出ると言う事が、どこか他人事のように思い、でも自分の事なんだと理解し、少し混乱しながら教室に戻り待っていた愛子達に

 

「わりぃ早退する」

 

と言うと愛子が心配したように近寄ってきて

 

「凄く怒られたの?それともどこか調子が悪いの?」

 

心配そうに尋ねてくる愛子に本当に何でもないと言っていると、今度はピートが校内放送で呼ばれる

 

「……シルフィー?お前迷惑かけてるの横島さんだけじゃないのか?」

 

自分が呼ばれた理由をシルフィーちゃんが俺以外の生徒からも血を吸おうとしているのが理由だと思ったのか、ピートがそう尋ねると

 

「横島君だけだよ!横島君の血凄くおいしそうだからね!他の人間の……ふぎゃっ!?」

 

その豊かな胸を張りながら、自慢げに言うシルフィーちゃんの頭にピートの拳骨が落ち、僕もう学校に通えないんですね……っと絶望したと言わんばかりの顔をしているピートに

 

「いや、GS試験出場の激励らしいぞ?俺もそうだった」

 

「え!?横島さんGS試験に出るんですかノー!?応援するケン!頑張ってくださいノー!」

 

他人事のように言うタイガーにお前もだぞ?3人って言ってからと言うとエミさんには聞いてないと動揺しているタイガーに思わず苦笑しながら

 

「悪いけど愛子。帰るわ、授業も免除らしいから暫く休むから」

 

「……そう。頑張ってね!私学校からだけど応援してるから」

 

笑顔で言う愛子にサンキューと返事を返し、鞄を担いで俺は学校を後にした……

 

(俺がなぁ……GS試験になんか出て大丈夫なのか?)

 

陰陽術は不安定、霊力の篭手を使えば動けない、更にあのベルトを使ったら暫く療養……それを除けば俺が使える霊力なんて高が知れてる、GS試験に出場して合格できるとは思えない……

 

(美神さんに何か考えがあるのかなー?)

 

たとえば俺がGS試験に出場することになんかメリットがある?で無ければ、出場して俺が落ちたとなると美神さんの指導力に問題があるって事になりそうだし……俺としては美神さんに恥をかかせるような真似はしたくないし……

 

「うーむ。判らん」

 

「みーむきゃ!」

 

「うーきゅー」

 

俺の真似をして考え込む姿を肩の上でしているチビとモグラちゃんを見て、思わず笑ってしまいながら、とりあえずなるようになるかと思い、家に帰ってGSの勉強か、シズクに霊力の扱いを教わろうと思い家に向かうと

 

「忠夫。あんたこんな時間に何してんのさ?サボりかい?」

 

「お袋!?なんで日本に!?」

 

キャリーケースを引きずっているお袋が家の前にいて、思わず俺は叫んでしまうのだった……なお、家の前で叫ぶな!あとお袋じゃなくて、お母さん!っと叫びながら拳骨を頭に落とされ、目の前に星が見えるのだった……やっぱ、お袋は怖ぇ……

 

「なんで日本に戻ってきたんだ?何か用事でもあったんか?」

 

ナルニアで親父と仕事のはずのお袋が日本にいる。何か用事でもあったのか、緊急事態……たとえば、親父と離婚するとか……そう言う事になったのか?と思いながら急須に入れたお茶をリビングに持ってきて尋ねる

 

(シズク。どこに行ったんだろ?)

 

家にいると思ったシズクだが、珍しく外出していたようで家にはいなかった。俺が知らないだけで結構外に出掛けているのかもしれないなと思っていると

 

「美神さんから手紙が来てね。あんた、GS試験に出るんだって?」

 

ギロリっと鋭い視線で睨まれ、思わず後ずさりそうになりながら

 

「みたい……俺も学校で先生から聞いて始めて知った。昼飯食ってから美神さんの所に行こうと思ってた所なんだ」

 

どういう話に成ってるのか聞かないとあかんやろ?と言うとお袋は眉を顰める

 

「自分で受けるって言った訳やないんやな?」

 

「ああ、だって俺まだ碌に霊力使えないし、知識も足りないって自覚してるんだぜ?とてもじゃないけど、自分が受かるなんて思えないし……」

 

どうして美神さんが俺をGS試験に参加させようと思ったのか判らないと言うと、お袋は

 

「じゃあ出場しないのかい?私としてはそのほうがいいと思うから安心したよ。ちゃんと断ってくるんだよ?」

 

お袋はそのまま、いかにGS試験が危険なのか?と言うのを教えてくれた、除霊は命懸けの仕事になる場合があるので、死んだとしても事故扱いになる受験生同士の試合に、仮に合格したとしても、見習いのままでプロと認められる可能性も低いなど……色々と調べてくれた上で俺に辞退したほうが言いとアドバイスしてくれているのが判る

 

(でもそれでいいのか……)

 

俺は変わりたいと思っていた……だから美神さんや蛍の静止を振り切ってあの時のベルトと眼魂を使った。ちらりとリビングの入り口を見ると、難しい話をしているので邪魔をしていけないと判断したのか、タマモ達がちらちらっと心配そうにこっちを窺っている

 

(俺の夢を……俺は今掴みかけているんじゃないのか?)

 

美神さんの仕事を手伝って、俺は色々見て来たと思う。良い妖怪に、悪い妖怪、それに良い幽霊と悪い幽霊……人間と同じで、幽霊や妖怪にも良いやつと悪い奴がいる。そんな当たり前を今知っている人がどれだけ居るだろうか?美神さんやお袋にも夢だといわれた。叶うわけが無いとも言われた……でも俺はやっぱり……

 

「いや、参加したいと思う。いや参加させてくれって言いたい」

 

「自分で無理って言っておいてか?」

 

お袋の目が怖い、思わず反らしそうになるが歯を食いしばってその目を見つめながら

 

「俺はGS試験に出る。でてGSになる、んで……夢を叶える。妖怪も、幽霊も、神様も悪魔も手を取り合える場所を作る……それで誰かを守れる俺になる」

 

「それは夢やって言うたやろ?断言する絶対に叶わん、諦め」

 

人間同士だって、分かり合えないし、喧嘩もするし、殺し合いになる事だってある。それでも……

 

「やってみなくちゃ判らないだろ?だからまず、俺はGSになる。俺の夢を叶える為に」

 

しっかりとお袋の目を見て、自分の考えを言うとお袋ははぁっと言う感じで深い溜息を吐いて

 

「そっか、じゃあ、オカンからお前に大事な言葉を送る」

 

大事な言葉?俺が首を傾げながらも頷くと、お袋は

 

「忠夫。しっかり拳を握れ」

 

拳?お袋の言いたい事が判らないが拳を握るが……

 

「そんなんやない!そんな事でお前の夢は叶うんか!?そんなんで自分の護りたい物を護れるんか?もっとや!もっと力を込めんかいッ!!!」

 

その凄まじい怒声に驚きながら全力で拳を握る。力を込めすぎて手が震えてくるのが判る、それを見たお袋は満足げに頷きながら

 

「ええか忠夫。よう覚えとき、男が覚悟を持って拳を握った時。その拳がこの世で唯一。お前と自分の護りたい物を護る武器になる……オカンからはこれだけや、さ!さっさと美神さんの所に行って来い!オカンがお昼ご飯用いしといたるから!」

 

にかっと笑うお袋におうっと返事を返し、リビングの外で待っていたチビ達に直ぐ戻るで待っといて!と声を掛け、自転車に乗って駅へと向かうのだった……

 

「はー知らんうちに随分と成長してたんやなあ」

 

百合子は自転車で走っていく横島の姿を見て小さく笑みを零した、確かにGS試験には出て欲しくなかった。だがとめることが出来ないほどの覚悟を持っているのが判ってしまったから、激励した……本当は参加なんかするなと言いに日本に来たのにだ……

 

「クーン?」

 

「タマモか、また一緒におったってな?チビもモグラちゃんも」

 

擦り寄ってきたタマモ達にそう声を掛け、百合子はキッチンで昼食の準備をしながら

 

「がんばりや、忠夫」

 

直ぐにナルニアに戻らなければならない。今日だって無理やり日本に帰国してきたのだ、百合子が纏めるはずだった商談を1つ無かったことにしてまで、GS試験への出場を止めさせようとしていたのだ。だけど知らないうちに自分の息子が成長してる姿を見て、ここで止めてはいけないと思ったのだ

 

「ほんとうちの馬鹿亭主に似なくて良かったよ」

 

今頃ナルニアで浮気の罪として、男色の毛があるガチムキ集団に追われている筈の旦那の大樹に似なくて良かったと安堵し、夕方の飛行機に乗れば明日にはナルニアに帰れるから、商談を纏めなおし間に合うかしら?などと考えながら昼食の準備をし、チビ達にりんごや油揚げを与え、手紙を残し百合子は家を後にしたのだった……

 

 

 

 

 

「……蛍。お前に問いただしたい事がある。少し借りていく」

 

ふらっと事務所に来て、私について来いというシズク。美神さんがここで話せばいいと言ってくれたが

 

「……お前に聞かせるまでも無い、極めて個人的な話だ、そう横島に関するな」

 

【じゃあ私も行きます!】

 

どこで聞いてたのか?と思うおキヌさんと一緒に事務所を出て、出るんじゃなかったと心底後悔した

 

「……まだろっこしいのは嫌いだ。単刀直入に聞く、返答しだいではお前達を殺す……」

 

髪がざわざわと蠢き、私とおキヌさんに水の刃を向けたシズクの本気の殺気が叩きつけられる

 

「……わ、私が何を「……ソロモンがGS試験で動くと小竜姫とブリュンヒルデに聞いた。その上で聞く、アシュタロスの娘芦蛍。貴様は横島の敵か」

 

!?なんでシズクがそれを知っているの!?私とおキヌさんが動揺していると

 

「……韋駄天の時だ。アシュタロスには連絡が付かない所か姿を消しているから真意を問いただすことも出来ない、だからお前に聞く、お前は、敵か?横島を傷つけるのならば私が今ここで殺す」

 

本気で殺す気だ……お父さんもシズクに正体がばれたらのなら、一言くらい声を掛けておいてよと心の中で怒鳴り、私は冷や汗を流しながら

 

「私は横島の敵じゃない、私は横島を……」

 

うーなんでこんな所で言わないといけないんだろ?でも言わないと本気で胴体と首がおさらばしそうだ……

 

「私は横島を愛してる。敵になるなんてありえない、絶対に!それだけはありえない!」

 

私は横島と添い遂げるために逆行してきたのだ、それだけの為に最高指導者を説得したのだから、その私が横島を裏切るなんてことは絶対にありえない

 

「……お前は?幽霊の癖に神気が混じっているお前は?」

 

【え?私神気混じってるんですか?】

 

これに神気?悪い冗談としか思えない。2人で顔を見合わせているとシズクは伸ばしていた髪を元に戻し、水の刃を消し去り

 

「……毒気が抜かれた。まぁ微々たる物だからよほど弱い神がお前の側にいて、霊体にその残滓が残っているだけか……まぁ良い、今は信じる。『今は』な……」

 

今をやたら強調するシズク。ああ、恐れていたことになってしまった。竜族で水神だから人間よりも遥かに長い寿命を持つシズク。だから横島の事を出来の悪い弟か何かを見ていると思っていたんだけど

 

(落ちてる……完全に落としてる……)

 

これはそんな甘い物じゃない、完全に横島に惚れている。だからこそのこの攻撃的な態度……横島の人外キラーは神にも効いてしまったのかと恐れていると

 

「蛍さんそれにおキヌさん!丁度良かった」

 

小竜姫様の声が聞こえて振り返ると、小竜姫様と流れるような銀髪をした長身の女性がそこにいた

 

((誰?))

 

私とおキヌさんの心の声が重なったと思う。見覚えの無い女性に困惑していると

 

「ブリュンヒルデと申します。魔界正規軍副指令を勤めさせております、あ、そうそうこの姿をしている時は「春桐聖奈」とでも呼んで下さい。人間風の名前じゃないと正体がばれてしまうので」

 

魔界正規軍!?この段階で神魔が手を組んでいるの!?驚きながら小竜姫様を見ると

 

「天界も魔界もかなり不味い状況ですから、少しずつ協力体制を取ってその内混合部隊を作る予定です」

 

そ、そうなんだ……韋駄天とかの事もあるし、神魔のほうも相当作戦を考えているのねと納得していると

 

「美神さんはいらっしゃいますか?話し合いに来たのですが」

 

いますよと返事を返し、案内しますと言って私は事務所へと戻るのだった

 

「いらっしゃい、小竜姫様と……誰?」

 

「ブリュンヒルデと申します、魔族です」

 

にこっと魔族と宣言するブリュンヒルデさんに対して、苦虫を噛み潰したような顔をした美神さんは

 

「魔族と協力しているのね」

 

「神魔も不味い状況ですから」

 

それほどまでに動いているソロモンが危険なのかと思いながら、小竜姫様と聖奈と名乗ったブリュンヒルデさんとシズクと共にGS試験についての話し合いをし、どうやって横島にGS試験に参加させるか?どういう対策を取るか?とみんなの意見を聞きながら話し合っていると

 

「美神さん!先公とお袋に聞きました!俺もGS試験に参加させてください!!」

 

横島が事務所に飛び込んできて、そう叫ぶ。一体何があったのか?と思うほどやる気に満ちているその表情。そして絶世の美女と言えるブリュンヒルデさんを見ても飛び掛からないほどに真面目な顔をしている横島を見て

 

(これなら大丈夫かもしれない)

 

シズクや小竜姫様もいるから大丈夫かもしれない、私もフォローするしと思っていると

 

「やる気は買うわ、百合子さんに何か声を掛けてもらったみたいね、でもそれでも足りない。横島君、霊力は気持ちや精神力が大事だわ、でもそれだけじゃどうしても埋める事が出来ない物がある。それは技術と経験、今の横島君にはそれが足りてない。せめて何か……あの篭手やベルトじゃないわよ?なにか武器があれば、私だって安心して出場しなさいって言えるけど」

 

美神さんが渋っているのを見た小竜姫様がにこりと笑いながら

 

「私にいい考えがあります」

 

自信満々と言う表情を見て、小竜姫様なら大丈夫と思った。だけどそれは今思えば会議の間に疲弊していて、正常な考えが出来ていなかったと今なら言える。あれは自信満々ではなく、私やおキヌさんに対する自身の有利さを示すための邪笑だったのだ

 

「では横島さんこちらへ、私と天竜姫様からの贈り物を渡したいと思います」

 

あ、今思い出した、バンダナにキスをして心眼になるのよね?横島の霊力の覚醒を手伝ってくれる。それならこれを邪魔したら駄目よね。横島が近づいてきたのを見た小竜姫様は穏やかに笑いながら

 

「では」

 

あ、あれ?私の目がおかしくなったのかしら?小竜姫様が横島の顎を掴んでいるのが見える。あれだ、顎クイって奴だ……

 

【あ、あれ?でこの筈じゃ?】

 

「……とんでもなく嫌な予感がする」

 

シズクとおキヌちゃさんの動揺した声を聞いて、妨害するべきかどうかと悩んだ。そしてこの一瞬の悩みを私は一生後悔する

 

「私と天竜姫様の竜気を授けます。私達の力が横島さんの救いになりますように」

 

「いや、なんで顎クイ……ふむぐう!?」

 

そして勝ち誇った笑みを一瞬見せ。私達の目の前で横島の唇を奪った……その時何故か「ズキュウウウンッ!!!」と言う奇妙な音が私の脳裏に響くのだった……

 

 

 




別件リポート プチトトカルチョ 結果発表へ続く

結果発表は番外編なので本日21時に更新しようと思います。それでは結果発表もどうかよろしくお願いします

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