リポート22 英雄の見る夢は? その2
あたしは溜息を吐きながら、横島とタイガーが通っている学校に向かっていた。
(騙された……)
GS協会からの正規の依頼でしかも報酬が良かったから引き受けたけど、蓋を開けてみれば。怨霊と化した源義経の除霊に、令子と共同の仕事……
「もう少し考えてから引き受けるべきだった……」
とは言え、もう引き受けている以上断ることも出来ない、何とかして死なないように任務をクリアすることだけ考えよう
(洗脳を解除するのにタイガーの精神感応能力を使うかぁ……)
魔族の洗脳に抵抗しているから洗脳を解除できる可能性があるとは言え……上手く行くかどうか……
(あれと……これと……あと……)
除霊道具を集める費用と報酬を考えると、赤字にはならないが、黒字にもならない微妙なラインだ……しかも相手はあの源義経……溜息ばかりが出てしまう。そんな事を考えながら車を運転しているとあっと言う間に高校に着いた
「早く横島とタイガーを見つけて、出掛ける準備をするワケ」
目撃情報の位置がどんどん移動している。最終的な目的地はきっとあそこだろう
(岩手県……)
東京から北上している事を考えると、目的地は恐らく岩手県にある自身の死地である衣川館だとあたしも令子も予測した。だから作戦としては先回りして準備すると言う事で話が決まった、向こうから来るなら待ち伏せするほうが勝率が高い。元々低い勝率がほんの僅かに上昇する程度だが、それでも備えておきたい
「さてと職員室は……」
転校したばかりで悪いが、早速仕事に取り掛かって貰おうと職員室を探していると
「女性恐怖症ねえ?俺にはそう言うの判らんわ」
「うう……なんでワッシは女性が怖いんジャ?」
横島とタイガーが高校の前のベンチでそんな話をしていた
「なにしてるのよ?オタクら」
今は授業中のはずなのになんでこんな所に居るのよと尋ねると
「あれ?エミさん?どーしたっすか?依頼でタイガー迎えに来たんっすか?」
のほほんと笑いながら尋ねてくる横島の肩の上には、グレムリンと何かの小動物。竜気を発しているから多分竜族だと思うんだけど
(またへんなのを捕まえてきて……)
令子の事務所って人外率かなり上がってるわよね、まぁこれも横島の才能だから仕方ないと思うけど
「そ、そうなんですかノー?」
「まぁそう言うワケ。今回は私と令子の共同の仕事になるから、横島。オタクも来るワケ」
まぁ職員室とかに行かなくて済んだから好都合と思いながら言うと
「そうっすか。じゃあ担任に説明してくるんでちょっと待っててください。チビ、モグラちゃん行くぞ」
みむう!うきゅっと鳴くグレムリンとモグラを肩に乗せて校舎の中に走っていく横島を見ながら
「今回の仕事はタイガー、あんたが頼りなんだからね。自覚を持って行動すること」
「わ、判りました……えっと……それで女子は?」
だらだらを汗を流しながら尋ねてくるタイガー。本当、もう少しこの女性恐怖症を何とかして……
(いや、アレを考えればこの程度で済んでるって思うべきね)
タイガーの精神感応能力が暴走すると、異常に女性にセクハラするようになる。両極端にもほどがあるのよねと思いながら
「4人ね」
令子と蛍におキヌとシズクの4人が来るから、4人だと言うとタイガーは凄まじい勢いで汗を流し始め……
「4!?4人んんん!?」
4人と聞いてひっくり返ったタイガーを見て、こんな調子で義経の除霊が出来るのかと激しく不安になるのだった……
美神さんの運転する車の中で資料に目を通す、エミさんとの共同依頼ってのは良いと思うんだけど
「美神さん。義経の除霊をこの面子でやるの自殺行為だと思うんですけど?」
小竜姫様の話によれば、義経は英霊と言って人間霊よりも上位の存在になっている言っていた。どう考えても私・美神さん・エミさん・シズクの4人で対処できる相手とは思えない、横島の能力は未知数だし、チビやタマモもそこまで戦力になるとは思えないし、それに最初から義経と戦うときいていたら、お父さんに何か除霊具を用意して貰ったのに……
「化け物になった義経はどう考えても説得が効く相手じゃなかったけど、今目撃されている義経は人間の姿をしているからね。それに抵抗している素振りを見せていたから、何とか言葉で説得して、動きが緩まった所を叩くか。結界の中に閉じ込めて封印するかの2つしかないわ」
運転しながら今回の計画を説明してくれる美神さん。でも話を聞いてもどう考えても成功するとは思えない
「……お前はまたこんな危険な除霊を横島にさせるつもりか」
シズクも怒っているのか髪が逆立っているのが判る。ゆらゆらと動いていて、蛇のように見えて少し怖い
「し、シズクが怒ってる……」
「うきゅう!?」
「みぎゅあ!?」
チビとモグラちゃんがその姿を見て怯えて、同じく引きつった顔をしている横島の服の中に隠れようとしているし……流石水神であり、竜神。凄まじい威圧感だ。唯一平気そうにしているのはタマモだけで、膝の上に寝転がって寝息を立てている
「今回ばかりは仕方ないわ。前みたいに暴走して暴れまわる前に何とか手を打たないといけないから、本当は唐巣先生とか、くえすにも協力してもらいたかったけど、2人とも連絡が取れなかったみたいだから……私達でなんとかしないといけないの」
そうは言っても、今回の除霊はどう考えても無謀としか思えない
「一応エミの弟子のタイガー寅吉って言うのが精神感応能力者だから言葉を交わすことは出来ると思うから、それが頼みの綱ね。最悪義経を精霊石の結界で完全に封印して、後で唐巣先生とくえすと4人体制で除霊することになると思うわ」
その言葉を聞いて、今回は除霊が目的ではないと言う事が判った。読んでいた資料を閉じて
「……今回はあくまで観察および封印が目的と言う事ですか?」
「ええ。私は別に義経を舐めているわけじゃないわ。でも前の化け物の姿の事もある、人的被害が出ないとも限らないわ。それでもし義経堂が壊されたら?」
そうなれば義経の魂は確実に荒魂となり、確実に人間に甚大な被害をもたらすだろう
「言葉が通じるなら、なんとか言葉で除霊か説得を試みる、駄目なら結界で封印する。これは急がないといけないことよ」
確かにあの時の化け物の姿は今も私の脳裏に焼きついている。あんなのが出鱈目に暴れまわったらそれこそ大変なことになる
「はぁ……判りました。でも今後はこういうのは無しでお願いします」
今回は急ぎだから少数精鋭で動いているとしても、相手が相手だ。もしかすると全滅の可能性があるのだから、今後はこういうのは絶対に無しにしてくださいと言うと美神さんは判っているわと返事を返す
(今回のは多分琉璃さんね)
多分源義経と遭遇した事を考えて美神さんに依頼を出したんだと思う。
「あのさ?蛍。今どこに向かっているんだ?」
私と美神さんの話の邪魔をしてはいけないと思っていたのか、今まで黙っていた横島がそう尋ねてくる。私は目的地を聞いてるけど、横島は殆ど制服のまま車に乗せたから、目的地が判ってないか
「岩手県の義経堂って所。義経が北上しているらしいから、多分義経の目的地はそこだと思う」
壇ノ浦の可能性もあったけどねっと心の中で呟く、でも正直壇ノ浦だと罠とかを張ることも出来なかったので義経堂に向かっているのは正直言って都合が良い。海って言うのは浮遊霊や地縛霊が多いから
「岩手かぁ……俺着替え持ってきてないけどなー」
どうしよっか?と呟く横島にシズクが
「……問題ない。私が全部用意した」
シズクが自分の膝の上に鞄をぽんぽんっと叩きながら、ドヤ顔をする
「うえ?」
間抜けな声を出した横島はえうえうとか訳の判らないことを呟いている。シズクに着替えを用意してもらったと聞いて、気恥ずかしくなったのだろう
「美神さん。どこかで休むんですか?」
東京から岩手に行くにはスムーズに行っても、6時間は掛かる。まさか一気に行くって事は無いだろうと思い尋ねると
「仙台にホテルを取ってるわ。そこで一泊して、準備を整えて岩手に入るわ」
ホテルに予約。急な話だった割には準備がいいですねと言うと、美神さんは笑いながら
「いやー実はおキヌちゃんに仙台に行って貰ってホテルを予約してもらってるのよ」
姿が見えなかったおキヌさん。どうしたんだろ?と思っていたんだけど、まさか1人で仙台に行っているなんて……
(大丈夫かしら)
仙台の霊媒師とか呼ばれて除霊とかされてないかな?と私はおキヌさんを心配しながら
「……トランクスとボクサーの両方を入れておいた」
「やめえ!そんなこと言わないで!」
クールな口調で横島の下着の種類を告げるシズクに横島は顔を面白いくらいに赤くなって、耳をふさいでいる姿を見て、私は思わず噴出してしまうのだった……なお、その頃おキヌちゃんはと言うと
【えーと、東京から美神令子さんと小笠原エミさんが来るのでホテルの部屋をお願いします】
「は、はひい!」
幽霊のおキヌちゃんに部屋の予約をされているホテルのオーナーが冷や汗を流しながら、返事を返していたりする……
ホテルの温泉で汗を流し、自分の部屋に戻る途中のベンチに腰掛けて窓の外を見ながら、今日起きたことを思い返していた。高校にエミさんが迎えに来て、即座に車でここまで来たけど……
「うーむ、俺は役に立つのかねえ?」
タイガーはなんかの特殊能力があるらしいけど、俺に出来ることなんて殆ど無い。どうしてここに連れて来られたのか理解できない……今蛍達は明日の打ち合わせをしている中、風呂に入っていた事もあり、どうも俺がここに居るのが場違いに思えてくる……
(あん時の霊力の盾が使えたらなあ……)
1度義経を弾き飛ばしたあの霊力の盾。もしかしたら使えるかもっと思い右手に力を込めるが、ジジッと手から音がするだけで霊力の盾が出る気配はない。はぁっと深い溜息を吐いていると
「横島さん?何をしてるんですジャー?」
タイガーが首からタオルを提げてのっしのっし歩いてくる
「んーいや、なんで俺が連れてこられたのかなあーってな」
特に出来ることも無いのになあっと言うとタイガーは
「そんなことは無いと思うケン。なんでそこまで自分を卑下するんですジャー?」
「いや、俺全然出来ること無いじゃないか」
蛍みたいに霊の知識があるわけじゃないしと言うと、タイガーは失礼するジャーっと言って
「横島さんは凄い人だと思うんジャ」
俺には何も出来ないって言っているのにこいつは何を言っているんだ?と思っていると
「よく周りを見ているし、イザって言うときの勇気もある。エミさんに聞いたんじゃが、神代琉璃さんを助けた時横島さんが頑張ったと」
あんときは夢中でやったから自分で何をやったなんか覚えてないと言うと
「ワッシも同じジャー?ワッシの精神感応は強力すぎて、エミさんが制御してくれんとすぐ暴走してしまうんジャ」
強力だからいいじゃねえかと言うとタイガーは恥ずかしそうに自分の頬をかきながら
「暴走すると、ワッシ女性にセクハラをしてしまうんじゃ」
暴走って聞くとよっぽどやばい事になるんじゃ?と思っていたんだが、まさかのセクハラしてしまうという言葉に俺は即座に
「なんでやねん」
暴走して女性にセクハラするってどんな暴走や……思わず突っ込みを入れると
「女性恐怖症の反動だと思うんじゃが、暴走するとセクハラしまくってしまうんじゃ」
こいつが能力を使っている時。絶対蛍とシズクを近づけないようにしようと俺は心に誓うのだった。なおタイガーは窓の外を見ながら
「何人ものGSがワシの精神感応能力を制御するといって弟子にすると言って来たんじゃが……結局駄目でやっとエミさんのおかげで能力が制御できるようになったんじゃ」
それでも時間制限があるケンノーっと笑ったタイガーは
「ワッシだって能力が暴走して役立たずになることがあるんじゃ、そんなに深く考えないほうがええと思うんジャ」
なんだ、あーだこーだ言いながら、タイガーは俺を励ましてくれてたのか
「あんがとよ。ちょっと楽になった」
「明日はきっと忙しくなると思うからお互いに頑張るんじゃー」
にかっと笑い返すタイガーにおうっと返事を返し、俺は部屋で待っているチビとモグラちゃんの為にお菓子とジュースを買って部屋へと戻るのだった……その日、俺は奇妙な夢を見た。着物を着た少女が泣いて俺に何かを訴えかけてくるのだが、俺にはその言葉が聞き取ることが出来ないのだったが
(なんて悲しそうな顔なんだ……)
涙を流し、その目に強い悲しみの色を浮かべた少女の顔がどうしても俺は忘れることが出来ないのだった……
リポート22 英雄の見る夢は? その3へ続く
今回は少し短めの話となりました。次回はその分長くしていこうと思っています、多分戦闘回に入りますしね
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします