リポート21 ああ、騒がしき日常 その3
横島が義経を吹き飛ばしたときに見たという夢……何度考えても浮かんでくる結論は1つ……それは
(ルシオラの最後……)
私であり、私じゃない私「蛍魔ルシオラ」の最後の瞬間。どうして横島がこの夢を見たのか?その謎を追求しないといけない……私はそう考えお父さんの部屋に向かうのだった
「ふむ……横島君の見た夢か……」
若干気まずそうにしているお父さん。お父さんだって私の最後は知っている……出来れば自分だけで解決したかったけど、考えても答えが出ないのでこうして相談に来たのだ
「私やおキヌさん、それに小竜姫様達は覚えていてもおかしくないわ、でも横島がそれを知っているのはおかしいの」
何故なら横島は逆行していない、だからその記憶を知りえるはずが無いのだ
「うーむ、いくつか仮説は立てられるが……一番可能性が高いのは……」
そこで言葉を切ったお父さんの顔はとても険しい顔をして、お父さんではなく、アシュ様としての顔が出ていた
「平行世界の横島君自身の記憶かもしれない」
へ、平行世界?逆行じゃなくて?私の驚いた表情を見ながらお父さんは丁寧に説明してくれた
「神代琉璃君。神宮寺くえす。夜光院柩。それにシルフェニア・ド・ブラドー……逆行前の世界に存在しなかった人物がたくさん居る理由は前も説明したが、私以外のソロモンが動き世界の境界を歪めているからだ」
本来琉璃さんもくえすも柩もこの世界には存在しない存在。平行世界の住人だと聞いた、世界とはいくつもその姿を持ち、本来なら交わることは無いが、高位の神魔ならその世界同士の境界をあやふやにすることも可能だと聞いた。
「それは聞いてるけど……それと横島の夢に何の関係が?」
私がそう尋ねるとお父さんはその表情をさらに険しくさせて
「世界の中には私が消滅せず勝利した世界もあれば、蛍……いやルシオラが生存した世界もある」
お父さんの言葉で理解した、お父さんが何を言いたいのか……
「横島君が死んだ世界も存在する。そして本来はその世界で転生を持つ筈の魂が世界の揺らぎに吸い込まれ、この世界の横島君に影響を与えているとすれば?」
その言葉を聞いて目の前が暗くなったような気がした……それはある意味最悪の仮説……
「横島が消える……?」
もしもその別の世界の横島の魂のキャパシティが私の横島よりも上ならば、のっとられる形で今の横島は消えてしまう……
「それは最悪の結果だ、でもありえない話じゃない……1度天界のヒャクメ君に連絡を取ろう。魂は流石に私でも難しいからね」
励ますように笑うお父さんだけど、その最悪の結果が1度頭に浮かんでしまうと、それはなかなか離れることは無い
「大丈夫。そんなことにはさせない、この私が絶対にさせないよ」
「う、うん……お父さんなら大丈夫よね」
今の横島が使える陰陽術などももしかするとその別の世界の横島の影響なのかもしれない、1度浮かんでしまった最悪の結果。それがどんどん浮かんでは消えていく
「蛍!」
お父さんの一喝で思わず背筋が伸びる
「そんなことにならないように全力を尽くす。だから不安に思うことは無い、それに蛍が不安になっていると横島君も不安になるだろう?」
うっ……それは確かにその通りだ。あれで横島は人の不安とかを感じ取るの上手いからきっと私が不安になっているのも感じ取ってしまうと思う
「それに最悪の結果と言ったろ?あくまでこの世界の横島君がこの世界の住人だ。世界の修正力もある、だから要らない心配さ。さ、それが判ったら横島君の所にでも行っておいで」
あげはは私が面倒を見ておくからと笑うお父さん。確かに無性に横島に会いたかった……
「あ、そう言えばお父さん。聞きたいことがあったんだけど……」
「うん?なんだい?」
不思議そうな顔をしているお父さん。これだけはどうしても聞いておきたかった……
「ねえ?どうしてべスパは起きなかったの?」
あげはと同時にべスパも目覚める筈だったのに、今もまだ起きてこないその理由は?と尋ねると
「あげはと同時に目覚める術式は始まっていた。だが何故か、あげはが目覚めると同時に術式がリセットされた……これは確証は無いが……べスパがまだ目覚めたくないと拒絶したのが原因かもしれない」
目覚めるのを拒絶した?……どうして……折角姉妹が揃うと思っていたのに……
「眠っていることでべスパは何かを見ているのかもしれない。それが理由かもしれないね、さ、横島君の所に行っておいで。べスパは私が様子を見ておくからね」
私はお父さんの言葉に頷き、べスパの事を気にしながらも、横島の家へと向かうのだった……
蛍が暗い気持ちで横島の家に向かっている頃。横島はと言うと
「もーぐもーぐもぐもぐらちゃーん♪」
「うきゅーうきゅーきゅきゅーうー♪」
昨日に引き続き謎の歌を歌っているアリスちゃんとモグラちゃんを見ながら、チビの毛並みを整えていたりする
「みむー♪」
チビの毛は意外とごわごわしてて、結構な頻度でブラシをかけて上げないといけない。自分でも毛並みを整えようとするんだけど、背中とかに届かなくてもごもご動く奇妙な物体になっているのをよく見る、正直言うと夜とか暗い所で見るとビクッっとして少し怖い。自分でも毛並みが綺麗になったのが判るのか、嬉しそうに尻尾を振りながら空を飛ぶチビ
「グレーグーレグレグレムリン~♪」
「みむ?」
そして今度はチビを呼ぶための謎の歌を歌い始める。そしてその歌に吊られてアリスちゃんの方に飛んでいくチビ
(何でだろ?)
なんであんな適当な歌にチビとモグラちゃんが反応するのか判らない
「……アリスの声には力がある」
煎餅とお茶を持ってきたシズクが小さく呟く。力?俺が首を傾げていると
「……アリス。お前チビとモグラが何を言っているのか判るんだろ?」
いやーそれは無いだろ?うきゅとみむしか言わないのに
「わかるよー♪」
判るの!?え?それって何かの特殊能力だったりするのか?
「……アリスはネクロマンサーでもある。だから幽霊や魔獣と会話することが出来る」
へーじゃあモグラちゃんとチビと話が出来るのか、それはなんか羨ましいなあ
「ちなみにアリスちゃん」
「なーに?」
「モグラちゃんとチビって俺のことなんて呼んでるんだ?」
ちょっと気になって尋ねて見るとアリスちゃんがチビとモグラちゃんを見つめて
「お兄ちゃんの事なんて呼んでるの?」
「みーむみー」
「うきゅきゅー」
ふんふんっと頷いたアリスちゃんは笑顔で振り返り
「ご主人だって」
なんでご主人?俺は少しチビとモグラちゃんが判らなくなるのだった……
「そう言えば、シズク。聞きたい事があったんだ」
あの時戦った清姫って言う竜族。シズクは知り合いみたいだし、それにあのこの悲しそうな目も気になっている
「……清姫の事か?」
俺が考えている事が判ったのかそう尋ねてくるシズクに頷くと、シズクは溜息を吐きながら
「……1000年前の知り合いだ、私と清姫はある陰陽術師の屋敷で世話になっていた」
陰陽術師?それってまさか……冥華さんから譲り受けた陰陽術の本に手を伸ばす
「……そう、高島だ。私と清姫は高島の屋敷で暮らしていた」
高島……何故か俺だけが読める陰陽術の本にあの子の悲しそうな目……そして俺を見た時のあの嬉しそうな顔……
「なぁシズク……俺と高島は似ているのか?」
俺が高島と似ているからお前も一緒に居てくれるのか?そんな不安を感じてそう呟くと
「……馬鹿」
シズクの小さい手でデコピンされる。咄嗟にデコを押さえるとシズクは見た事のない優しい笑みを浮かべて
「……高島は関係ない、私は横島が好きだからここに居る。1000年前とかそう言うのは関係ないんだ」
その優しいシズクの言葉になんと返事を返せばと悩んでいると
「どーん♪」
「うきゅー♪」
「みむー♪」
「コーン♪」
「うわっととと!?」
背中に重みを感じて振り返るとアリスちゃん、それにチビとタマモとモグラちゃん
「暗い顔をしてどうしたの?ほら笑って笑って!アリスと遊ぼうよー♪」
「みむーみむみー♪」
「うきゅー♪」
「クオーン♪」
遊ぼう、遊ぼうとじゃれ付いてくるアリスちゃん達を見ていると、シズクが穏やかに笑いながら
「……お前の周り集まるのはお前の側が居心地がいいから。それ以外の理由なんて無い」
結局また俺が暗くなっていただけか……俺は小さく溜息を吐いてから
「そっかーじゃあ何して遊ぼうか」
わーいっと両手を挙げて喜ぶアリスちゃんの頭を撫でながら、その笑顔につられて俺も笑ってしまうのだった……
横島も流石に気になっていたか……私は煎餅を齧りながらアリスと遊んでいる横島を見つめてそんな事を考えていた
(あの馬鹿蛇のせいで……)
清姫が来た事により横島の不安を煽ることになってしまった……まだ私は横島と高島の関係を教える気はない、いらぬ話をして横島を迷わせるのは良くないと思っているからだ
(やっぱり横島と清姫は会わさない方が良いかも知れない)
清姫は横島ではなく、高島しか知らない。だから高島と同じように接するだろう、横島がそれに気付けばまたいらぬ不安と心配をさせる事になる
(横島は横島だからいいんだ)
横島は高島より人外に対する態度が柔らかいし、優しいし思いやりもある。私的には高島よりも横島の方が良い男だと思う
「えいやー!」
「みむーみむみーーー」
「きゅーきゅー」
「クーン」
「あっはは!!や、やめえ!くすぐるの駄目ー」
アリス達に抱きつかれてくすぐられているのか身悶えしている横島。なんとも平和な光景ではないだろうか……微笑ましい気持ちで見ていると、扉が開く音がする。合鍵を持っているのは蛍だから別に警戒するまでも無いだろうと思い、新しい煎餅を手にする。この煎餅って言うのは本当に美味いな……現代で食べた物で一番美味しいかもしれない
「横島」
「ん?蛍?いらっしゃい」
「おねーちゃーん、いらっしゃーい」
にぱっと笑うアリスと横島に迎えられた蛍だけどその表情が硬いのを見て
「……さて、チビ、モグラ。散歩に行こうか、横島は蛍と話をしていると良い」
蛍は横島だけと何か話したいことがるのだと判断して、チビとモグラに声を掛ける
「えー?お兄ちゃんは一緒じゃないの?」
不満そうにしているアリス。ここで横島を連れて行っては意味が無い
「……美味しいお菓子を買ってやるから我慢してくれ」
「お菓子!?何かってくれるの!?」
確か美味しいたい焼き屋があったから散歩のコースをそっちにしようと思い、自分から準備をしているチビとモグラを見ながら炬燵の中に隠れようとしているタマモを無理やり抱き上げていると
「……ゆっくり話せ」
「ありがと」
暗い表情をしている蛍に気にするなと声を掛け、私達は散歩に出かけるのだった……
アリスちゃん達を連れて散歩に出かけて行ったシズク。蛍と向かい合って炬燵で座っているんだけど
(なんか気まずい……)
蛍の表情が妙に暗いのに気付いて、何かあったのだと判ったのだが、なんと話せば良いのか判らず困惑していると
「へんな夢を見たの……」
ぼそりと呟く蛍。へんな夢?それってもしかして前俺が見た東京タワーとかの夢か?
「すっごく心細くなって、寂しくて悲しくて横島に会いに来ちゃった」
見た事のない弱々しい笑みを浮かべる蛍に
「どんな夢を見たんだ?」
俺がそう尋ねると蛍はまた小さく弱々しく笑うだけで返事を返してくれない
「俺は……側に居るよ?弱いし、出来ることなんて殆ど何も無いけど……俺は蛍の側に居る」
俺に出来ることなんて無いって判っているけど、俺は蛍の側に居る。今はまだ弱いけど、出来ることなんて殆ど無いけど……何時か強くなって蛍を助けれるようになる
「ふふ、私を護ってくれるとか言ってくれないの?」
まだ声は小さいけど笑顔を浮かべてくれた蛍。本当は俺が護るって言いたい……だけど自分の弱さを知っているからそんな事は言えない
「じゃあ、待ってるから」
「え?」
俺が顔を上げると蛍はやっと俺の顔を正面から見て笑顔で
「横島が強くなって私を護ってくれるって言うまで待ってるから、約束してね」
「ああ、約束する。絶対……俺はもっと強くなる」
蛍も皆を護れるように強くなる……だからもっと強くなって自分に自信が持てたら……きっと俺は蛍に自分の想いを告げることが出来るようになると思うから……
「そうだ。横島」
「ん?」
「今度バイクの免許とってみない?」
バイクの免許?……う、うーん……確かにバイクは少し欲しいかもしれないけど……俺馬鹿だしな……取れるかなあ……免許。それにバイクも安い買い物じゃないし……
「それで一緒にツーリングとか行きましょう?きっと楽しいわよ」
「そ、そうかな」
「ええ、絶対楽しいわよ」
笑顔で勧めて来る蛍に負けて、俺はバイクの免許を取ることを蛍と約束してしまった
「楽しみだなー。頑張って免許とってね♪」
でもまぁ蛍のこの笑顔が見れるなら、頑張って勉強して見ようかなっと思うのだった……
あー待ちに待った満月の日ね。早く満月が昇らないかなーと窓の外をじっと見つめる
「みむー?」
「うきゅ?」
寝ないのー?と尋ねてくるチビとモグラちゃんにまだ寝ないと返事を返して
「コン」
机の上で何かの本を読んでいた横島の膝の上に飛び乗る
(これがスケベな本なら燃やそう)
そう思って横島の見ている本を覗き込む。机の上に置かれていたのは想像していたのと違う、何か難しい本
「んー?どしたー?タマモ」
私を見て笑う横島と本を交互に見ていると横島は小さく笑いながら
「話せるようになったらな?もう少しだろ?」
後少しで私の力が最大限に高まり、人間の姿になることが出来る。だから詳しく聞くのはその時で良いやと思い、横島の膝の上で丸くなり妖力が高まるのを待つのだった……
「はー長かったあー」
妖力が高まる寸前に横島の膝の上から降りる。膝の上で人間の姿になると横島に迷惑だしね
「タマモ。久しぶりだなー。前の満月のときは雨だったからな」
私の頭を撫でながら笑う横島。うん、確かに前の満月の時は雨で話せなかったのでとてもつまらなかった
「もう。毎日あってるのに久しぶりはおかしいわよ」
まぁ普段は子狐だから話せないけどさー、いっつも一緒に居るわよと呟くと
「そっか、そうだよなー。いっつもタマモにはお世話になってるもんなー」
わしゃわしゃと頭を撫でてくる横島。もう、今は女の子なのに、やっている事は完全に狐の時の私と同じ事で少しだけ落ち込む
(早く9本目の尻尾戻って来ないかな……)
事務所の影響で尾が戻らないかなっと思ったけど、戻る気配は無い……むしろ私の中の妖力のバランスが崩れて、調子が悪くなってしまった……
(うう、計算違いだったわ……)
横島と話をする為に色々考えたのに、その結果が体調不良……うう、私はもっと横島と話をしたいだけなのに……
「何の本を見てるの?」
「バイクの免許の本。バイクの免許を取って蛍とツーリングするんだ」
その言葉に少しだけ胸が痛んだ。私だって蛍と同じくらいの時に横島に会ったのに、私は可愛い狐か妹扱い……そうじゃない、そうじゃないのに……
「ん?どうした?」
「うっさい、こっち向くな」
へーへー。お姫様は我侭ですねーと呟く、横島の背中に抱き付く、今は顔を見せたくなかった。きっと自分でも嫌だと思うくらい醜い顔をしていると思うから……横島の前では可愛い私で居たいから、こんな顔は見せたくなかった
「じゃあバイクの免許取ったら、私も乗せるって約束して」
蛍だけとの約束なんてさせない、私も横島と約束する
「ん。判った、約束する」
「その時までにはちゃんと人間の姿に居られるようになるから」
「はは、そしたらタマモの部屋を用意しないとな」
笑い事じゃないのに……でもこれが横島らしいって事なのかな……うっすらと手に毛が生えてくるのが見える。どうも今日はもう時間切れみたいだ……
(今は可愛い狐で良いけど、そのままじゃ終わらないんだから……)
視線が低くなっていく、声ももう出ない……こんなに近くに居るのに、とても遠くに見える……でも絶対私はこのままじゃ終わらないんだから……
「んーそっかもう終わりか」
横島が少しだけ残念そうに呟く、横島も私と喋りたいって思ってくれてるなら嬉しいなあ
「クウン……」
私を抱き上げて呟く横島に小さく鳴いて返事を返す。もっと話をしたかったのになあ……
「よし、今日はもう終わり。シズクが怒るけど、寒いから一緒に寝ようなー」
「コン♪」
横島の言葉に返事を返す様に鳴いて頬に擦り寄る。くすぐったいぞーと笑う横島……まだやっぱりあと少しくらいは……可愛い狐でもいいかもと思うのだった……
別件リポート プチトトカルチョ開幕!その1
次回はトトカルチョの話になります。一応読者の皆様も参加できるような形にしようと思っています。詳しくは次回の更新時の活動報告と別件リポートをよろしくお願いします