GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回でリポート20は終了になります、次は別件を入れて、その次からのリポート21は「カモナ・マイ・ヘルハウス」「チョコレート人間誕生」の二つとオリジナルの日常の話を加えた話になります。その後は「虎よ・虎よ」と「フィルムは生きている」と続けてGS試験の話につなげて第一部完と言う感じに持って行きたいと思っています。恐らくですが150前後になると思います。大分長くなりますが、どうか最後までよろしくお願いします


その6

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その6

 

「ぷはあっ!」

 

海面から顔を出して大きく深呼吸する。突然義経が変化した異形の拳に殴り飛ばされ、咄嗟に剣で防いだ物の海まで弾き飛ばされてしまった

 

「そうだ!?横島さんは!?」

 

あの異形とかした義経を相手では横島さん達が危ない、慌てて埠頭のほうに視線を向ける、するとその瞬間凄まじい轟音と暗い埠頭をまるで昼間のように照らした翡翠色の輝き。私はそれを見て思わず

 

「早すぎる……」

 

巨大な翡翠色の霊力の壁……あれは恐らく横島さんのサイキックソーサー……だけどあれだけの出力を伴ったサイキックソーサーを今の横島さんが使えるとは思えない

 

「早く合流しないと……」

 

それに何か嫌な予感がする。私は浮かび上がり横島さん達の方に向かうのだった……

 

 

 

 

 

(これ……は……サイキックソーサー?)

 

目の前に展開されている翡翠色の壁……その形を見る限りサイキックソーサーなんだろうけど……その圧倒的なまでの密度のせいか中を見ることも出来ない、これはもう壁としか言いようがない

 

「これ蛍ちゃんのサイキックソーサーよね?教えたの?」

 

義経に殴られた美神さんが頭を振りながら尋ねてくる。私のと言うのは間違っている、元は横島の霊能力なので私がそれを使い、今の横島に教えている。元を正せば横島の霊能力そして……

 

(これはお父さんのサイキックソーサー)

 

私の父親だった横島が使っていたサイキックソーサーだ。仲間を護るためにソーサーを発展させ周囲を護るように展開できるようになった……サイキックソーサーの発展型……いうなればサイキックウォール。当然のことながら今の横島が使える能力ではない、霊力も経験も何もかも足りない。だからこそ判らない、なんで横島がこれを使うことが出来るのか

 

「うっ……」

 

突然聞こえてきた横島の呻き声。そしてそれと同時に点滅し消えていく霊力の壁……

 

「ヨコチマー!しっかり!しっかりするでちゅよー!」

 

「うわあああん!よこしまー!!」

 

壁が消えた瞬間聞こえてきたのは泣きじゃくるあげはと天竜姫の声。美神さんと一緒に声のほうに走る、探していた横島達はすぐ見つけることが出来たけど

 

「蛍ちゃーん!よこちまが!よこしまが起きないの!」

 

「うえええん!よこしまがしんじゃう」

 

コンクリートで出来た地面に横たわり青い顔をしている横島を見て血の気が引くのが判る

 

「横島君!?横島君しっかりしなさい」

 

一瞬だけ、そう一瞬だけあの東京タワーでのべスパとの戦いで私を庇った横島の姿を思い出してしまった

 

「美神さん、動かさないで!!」

 

上から聞こえてきた小竜姫様の声で我に返る。小竜姫様は倒れている横島の近くにしゃがんで

 

「霊力が枯渇しかかっています。霊力を極端に消耗した事による意識の喪失ですね、どこか休ませる所は?」

 

お父さんのビルは遠いし、事務所は爆破しちゃったし……えーとえーとどこか横島を休ませることが出来る場所は……

 

「ここからだと唐巣先生の教会が近いけど、それでも大分時間が……」

 

場所が悪すぎる。病院も厄珍堂も何もかも遠すぎる……ボートで移動してもそれは同じだし……

 

「美神君!」

 

ぎゃぎゃぎゃっ!!!とコンクリートを削る音と唐巣神父の声が聞こえて振り返るとバンから唐巣神父が降りてくるのが見えたがどうして唐巣神父が……

 

「ついさっき夜光院君から連絡があってね、君達が埠頭で派手に戦っているから応援に行くべきだとね」

 

まぁ足がないからそのまま琉璃君に連絡してバンを貸して貰ってから来たんだ。と苦笑する唐巣神父、それに続いて

 

【美神さーん!向こうの方でシズクと清姫が相打ちになっていたんですけどー!】

 

姿の見えなかったおキヌさんが慌てた様子で飛んできて倒れている横島を見て

 

【横島さん!?どうして!?どこか怪我をしているんですか!?】

 

ただでさえ青白い顔をさらに白くして尋ねてくる、本当は私が答えてあげたいところだけど

 

「ぐすっ!ぐす!蛍ちゃん、ヨコチマはだいじょうぶなんでちゅか?」

 

「しんだりしないですか?」

 

泣きぐずっているあげはと天竜姫様を宥めるので忙しくて説明している時間がない。美神さんに視線を向けると

 

「大丈夫、霊力の枯渇で気絶しているだけだから、それよりおキヌちゃん。シズク達の方は?」

 

美神さんがそう尋ねると暗闇のほうから

 

「あ、あにきいい!つ、冷たいんだなあ!?」

 

「ばっきゃろお!気合だ!気合!!!」

 

「ぬおおお!ひ、左の流石にこれは厳しいものが!?」

 

「た、耐えろ!右の!このままではワシらはただの役立たずだぞ!」

 

氷の塊に閉じ込められている清姫をイームとヤーム。そして鬼門で引っ張ってくるのが見える。そしてその隣を

 

「くうううううう!」

 

タマモがシズクの襟首をかんで引きずって来ている。普通こんな扱いをされればシズクも怒って起きそうな物だけど、そんな気配がない所を見ると相当弱っているのだろう

 

「チビ?モグラちゃん?」

 

横島の服から這い出してきて頭を振っている2匹に声を掛けて、タマモのほうを指差して

 

「お手伝い」

 

「うきゅ!」

 

「みーむ!」

 

私の言いたいことを理解したのかシズクの方に向かっていくチビとモグラちゃんを見ながら、私は泣いているあげはと天竜姫様をあやしながら、美神さんと唐巣神父と小竜姫様の話し合いに耳を傾けるのだった……

 

その内容は

 

横島をどこで休ませるか、それと清姫の扱いをどうするか?そして海の中に吹っ飛ばされ姿を見失った義経をどうするのか?のどれもこれも頭を悩ませる難しい難題だけが私達に残されたのだった……

 

「くひひ♪あー面白かった」

 

意識のない横島をバンに乗せ埠頭を去っていくバンを見ながら笑う少女……柩だ。笑っているのは期待していた以上の物が見れた事と

 

「あ、あにきー!てがあああ!」

 

「たえろ!これは俺達の仕事だ!」

 

「つ、辛い、寒い、冷たい」

 

「ぬう。小竜姫様も我らの扱いが酷い……」

 

氷付けの清姫を運んでいるイームとヤーム。そして鬼門が面白くて仕方なかったのだ

 

「趣味悪いな」

 

「くひひ♪仕方ないだろぉ?ボクは未来が見えるんだ、だから暇で暇で仕方ないのさ」

 

自分の見ていた未来と違う未来が見れたことに柩は満足していた。自分の見ていた未来では天竜姫は異形と化した義経に殺されていたのだから

 

「しかし横島は本当に凄い、未来がここまで乱れるのは初めてだよ」

 

だが今回のことで柩は確信した。横島がいれば自分の見ていた未来は確実な未来では無くなると……

 

「さー?帰ろうか?魔族だから飛べるだろ?ボクを運んでくれ」

 

「はいはい。あーもうなんでこうなるかな」

 

無理やり柩と契約する事になったメドーサは深く溜息を吐きながら、柩を抱えて埠頭を後にするのだった……

 

 

 

 

夜光院君ももう少し早く連絡してくれれば良かった物を……私は小さく溜息を吐きながらバンを教会の裏手に停めた。後で返しに行かないといけないが、まずは情報整理をするほうが先だ。それに横島君の容態も気になるし……

 

「「「「さ、さむい……」」」」

 

教会の前に向かうと入り口の前で震えている鬼門と竜族を見つける。氷付けにされた竜族の少女を運んでいたから身体が冷えてしまったのだろう

 

「近くに銭湯があるから、温まって来てください」

 

今教会の資金は全てシルフィー君が管理している。元々私の教会は常に火の車だったが、それにより僅かに改善されてきている。それのおかげか私も少しはお金を持つようになった、財布からお金を取り出して鬼門に渡し銭湯への道を教え教会の中に入ると

 

「こにぃひゃびいいいい!!!(この蛇ッ!!)」

 

「……いにんひしゃおんにゃあああ!?(陰湿女ッ!)

 

シズク君とさっきまで氷付けにされていた少女がつかみ合いの喧嘩をしていた。美神君も小竜姫様も頭を抱えているし……

 

「これ、どういうことなんだい?」

 

私が目を放したたった数分の間に一体何があったのか?それが気になり頭を抱えている美神君にそう尋ねると

 

「話が聞きたくて解凍したら、すぐ喧嘩を始めて……見た目は子供ですけど、竜族だから下手に止めに入るのも危険ですし……」

 

それは確かにその通りだ。竜族と言うのは非常に気性が荒く、そして霊力も非常に高いのだから巻き込まれることを恐れるのは当然のことだ。まぁこんな感じの喧嘩なら別に止めなくても……

 

「やっぱり私は!お前が嫌いですわ!!」

 

「……それはこっちが言うことだ!!」

 

炎と氷の塊をお互いに打ち出そうとしているのを見て、私は慌てて小竜姫様に2人を止める様に頼むのだった……

 

「これはこれはお見苦しい所をお見せしましたわ」

 

「……お前の存在自体が見苦しい」

 

「あらあら1000年経っているのに全く成長の兆しが見えていない蛇の方がよほど見苦しいと思いますが?」

 

再び無言でお互いに炎と氷を手の中に作り出そうとするシズク君と竜族の少女。な、仲が悪すぎる!?

 

「清姫。これ以上暴れるのなら取引の件は取りやめにし、再び1000年幽閉……「大人しくしますわ」

 

小竜姫様の言葉で炎を消して上品な素振りで笑う竜族清姫……凄まじいまでの猫かぶりだ

 

(まさか清姫伝説のあの清姫ではない……よな)

 

たしかあれは、延長6年だったはず……1000年所じゃないからきっと違うと思う……

 

「こほん。では清姫。どうして脱獄をしたのですか?そして脱獄を手引きしたのは誰ですか?」

 

小竜姫様がそう尋ねると清姫は穏やかに笑いながら

 

「申し訳ないですが、私の脱獄を手伝った魔族については判りません。さっきまで覚えていたのですが、今はどうしても思い出せないのです……この腕の火傷……恐らくこれが原因だと思うのですが……」

 

さっきまで覚えていたのに、今はどうしても思い出せない……そして腕に残された火傷の跡……ここまで情報が揃っていれば答えが出ているのも同然だ

 

「美神さん、これって」

 

「強力な暗示ね、しかも竜族に干渉できるとなると相当強力な魔族……たぶんパイパーに力を与えた魔族」

 

今回の事件にも謎の魔族……本当にどうなってるのかしら……それにここまで派手に暴れているのに、どうして尻尾がつかめないのだろうか?よほど暗躍に長けた魔族なのだろうか?

 

「ではどうして脱獄を?後100年で開放されたというのに?」

 

小竜姫様の問いかけに清姫はぱぁっと可憐な笑みを浮かべ

 

「高島様の転生者に会いに参りました。確か……今生では横島っと呼ばれているそうですね?」

 

その言葉を聞いてシズク君のほうに視線を向ける

 

「……これの言っていることは本当のこと」

 

高島……横島君に預けた陰陽術の本を書き残した陰陽師。性格に問題はあったそうだが、かなり優秀な陰陽術師だったらしい。らしいというのは高島と言う陰陽師に関しては情報がかなり少ないのだ、独自の陰陽術を開発し、泰山夫君の祭と言われる陰陽師の最大の試練にも挑戦したらしいが、死んだ時期やどうして死んだのか?が判っていない。一説では藤原の姫に手を出したことによる処刑だったらしいが、その後にも目撃されたという説もある。

 

「シズク。私はそんな話は聞いてないわよ?」

 

「……高島に子供は居なかった。陰陽師のような高い霊力を持つ人間が転生するならば……」

 

シズク君の言葉を遮って清姫君がゆったりと扇子で自身を仰ぎながら

 

「しかし高島様にご子息はおらず、本来なら高島様が転生する可能性は限りなく0。しかして生前の高島様と私とシズクは

加護による契約を結んでおりました。私は今もその魂の形を覚えていますので断言できます。高島様は不完全な形で横島として転生し、生を受けていますわ」

 

GSでも魂や輪廻に事に関しては知らないことが多い、こういう事は神族や魔族の領域だ。小竜姫様の方に視線を向けると

 

「すいません、魂に関しては私は専門ではないのでなんとも」

 

横島君と高島の関係。転生者……か……なかなか難しい問題だね

 

「美神君はどう思う?……美神君?」

 

腕を組んで考え込んでいる美神君に声を掛けるが反応がない、もう1度呼びかけても同じだ

 

「美神君?本当にどうかしたのかい?」

 

肩に手を置いて軽く揺さぶって見ると我に返ったのか

 

「唐巣先生?どうかした?」

 

きょとんとしているその表情を見て疲れのせいかな?と思う。あれだけ霊力を消耗しているのだからぼーっとしてしまうのは無理もないか……

 

「所で横島君は?」

 

つれてきた段階で意識不明だった横島君の事を尋ねると、タイミングが良かったのかシルフィー君が奥の部屋から出てきて

 

「天竜姫ちゃんとあげはちゃんと一緒に奥の部屋に眠れるところを用意しました、今蛍さんとおキヌさんが様子を見ています。お兄ちゃんは厄珍に薬を買いに行ってくれています」

 

誰か付き添ってくれているなら心配ないか、明日の朝にでも霊能力者専門の病院にでも連れて行けばいいだろう

 

「色々と聞きたい事もありますし、話し合いたいこともありますが、時間も時間です。唐巣さんも美神さんも少し休んでください。清姫は私が監視しますので」

 

「監視されなくても暴れませんわ。そんな事をしたら横島でしたか?彼を怪我させてしまうではないですか?」

 

本人に暴れるつもりはないから安心……かな?でもなんか目に光がないからそこがなんか不安

 

「……一番簡単で皆安全な処理を私は知っている」

 

シズク君が清姫さんの肩に手を置いた瞬間。一気に教会の温度が下がり清姫さんが再び氷の中に閉じ込められた

 

「カキーン」

 

「……これでOK」

 

……うん。まぁそれなら監視とか色々必要ないと思うけど……なんかこう

 

「シズク。実力行使過ぎない?」

 

私の言いたかった事を美神君が言ってくれる。シズク君はにやっと好戦的な笑みを浮かべて

 

「……昔から私と清姫はこんな感じだから問題ない、じゃあ私も寝る……おやすみ」

 

足音を立てずに奥の部屋に向かっていくシズク君を見ながら、思わず全員が苦笑する。喧嘩するほど仲が良いと言うが、シズク君と清姫の関係が良く判らない

 

「美神君も小竜姫様も休んでください、こっちです」

 

長期の除霊を必要とする人が休んでいる部屋で申し訳ないが、そこまで広いわけではないので我慢して貰うしかない。なんせ昔美神君が弟子として来ていた時の部屋はピート君とシルフィー君が使っているしね……私はそんな事を考えながら2人を教会の奥の部屋へと案内するのだった……

 

 

 

 

 

「呼吸は安定してるわね……」

 

シルフィーさんに案内してもらった比較的部屋で横島の看病を始める。意識は戻る気配が無いが、呼吸が安定しているし、苦悶の声を上げることも無いに少しだけ安心する

 

「うーきゅ!」

 

ちょっと目を放した隙に、ぺちぺちと前足で横島の額を叩いているモグラちゃん。摘み上げようとしたら

 

「みーむぅ!」

 

駄目だよ!と言わんばかりにモグラちゃんの頭を叩いて、みーむむ!と説教をするチビ

 

(何の話をしてるのかしら?)

 

残念なことに私には何を言っているのか全く判らない、しばらく見ているとモグラちゃんとチビは横島の枕元に座り込んで、心配そうに様子を見ているチビとモグラちゃんに

 

「大丈夫よ。私が見ているから、ほらチビもモグラちゃんも休みなさい」

 

私の言葉に振り返り、また横島を見つめるチビとモグラちゃん。やっぱり言うことは聞いてくれないか……チビもモグラちゃんも愛嬌は振りまいているし、若干懐いてきてくれているが、やはり言うことを聞いてくれるのは横島だけだ。

 

「横島が起きた時に心配させちゃうわよ?」

 

チビもモグラちゃんもずいぶんと体力と魔力を消耗している、この調子で起きていたら横島が起きた頃には力尽きるように眠っているはず。それだと心配を掛けるわよ?と言うとしぶしぶと言う感じで横島のバンダナの上で丸くなるチビとモグラちゃん。これで看病に専念できるわね……

 

「ううん……」

 

氷水で冷やしたタオルを絞って、横島の額の上に乗せる。さっきまで寝汗もかいてなかったが、急に酷い汗をかき始めたのだ。その急な容態の変化に若干焦りながら看病をしていると

 

【蛍ちゃんも少し休んだほうがいいんじゃ?】

 

水とタオルの変えを持って来てくれたおキヌさんの言葉に私は首を振った

 

「ううん。私は平気だから」

 

私はあの時何も出来なかっただけではなく、倒れている横島を見て動く事が出来なかった。あの青白い顔をした横島を見て、あの光景を思い出してしまった。足がすくんで、手が震えた

 

(トラウマ……なのかしら)

 

横島の死の光景を連想したせいか、やけにルシオラとしての記憶ばかりが蘇って来る……愛おしさも悲しさも……

 

【いいえ。休んだほうがいいです、今酷い顔をしてますよ?】

 

おキヌさんのポルターガイストで鏡が浮かび上がってくる。それを見て私が思わず苦笑した

 

「そうね……本当に酷い顔」

 

自分でこんな顔をしていたんだと思うほどに、青白い顔……確かにこれは酷い顔だ

 

【私が見てますから、横島さんが心配ならこの部屋に居てもいいですから、蛍ちゃんも休んでください】

 

繰り返し休んでくれと言うおキヌさん、私を心配してくれているのはその表情を顔を見れば判る。でも……それでも

 

「ごめん、それは出来ないわ」

 

横島の手を握りもう1度首を振る。ルシオラとしての記憶を思いだしてしまったせいか、ここで眠ってしまうと横島が居なくなってしまうような……そんな言いようの無い不安が私を襲っている

 

【でも】

 

「横島の様子が安定したら休むから、お願い」

 

霊力の枯渇による消耗。これは霊力がある程度回復すれば収まるはず。だからそれまで様子を見させて欲しいと言うと

 

【……蛍ちゃんは頑固です。仕方ないですね……ちょっとタオルケットとか持ってくるのでそれだけでも羽織ってください】

 

そう言って部屋を出て行くおキヌさん。黒いところとか暴走と化している場所ばかり見ているけど、やっぱり優しいのね。私はそんな事を考えながら、横島の額の汗を拭い、何度もタオルを絞って横島の額に置いて、横島の容態が安定するまで看病を続けるのだった……

 

「う、うん?寝てたのね……」

 

窓から差し込む光で目を覚ます。どうも看病をしているうちに、眠ってしまったようだ。肩から掛けられているタオルケットを見る限り、おキヌさんか誰かが様子を見に来てくれたのみたいね。ゆっくりと背もたれに背中を預けて背伸びをする……椅子に腰掛けて眠っていたからか身体が痛い……ゆっくりと起き上がり横島のほうを見ると

 

(もう起きてたんだ良かった)

 

ベッドに腰掛けている横島の姿が見えて一安心し

 

「おはようよこ……え?」

 

おはようと声を掛けると横島が振り返り、私を見た瞬間ぎゅっと抱きしめられた

 

「うえええ!?あうあうああ!?(なに!?これなに!?私の夢!?まだ寝てるの!?)」

 

自分でも訳の判らない奇声を上げているのが判る。おきたばかりでこれは刺激が強すぎる。あ、でもこれでもいいかもしれない……

 

【変な声が……横島さん!何をしてるんですかーッ!!!】

 

私の奇声に気付いたおキヌさんが部屋に入ってくるなり、そう叫んでポルターガイストを放つ。その衝撃で私と横島は起きて行き成り教会の壁に叩きつけられるのだった……

 

「あいたた……おキヌさん!やりすぎとか思わないの!?」

 

【抜け駆けは許しません!!!】

 

がーっと怒鳴るおキヌさんと睨みあっていると

 

「あいたたた……うーここどこだあ?」

 

横島が頭を振りながら身体を起こす、あれ?もしかして今起きた?じゃあさっきのは寝ぼけてた?なんか凄い惜しい……って!?横島が私を見ると凄まじい勢いで涙を流し始める

 

「ど、どうかした!?どこか痛いの!?おキヌさんのせい!?」

 

あれだけのポルターガイストだ。どこか痛めていてもおかしくないと思い慌てて駆け寄る

 

【ご、ごごご!ごめんなさーい!横島さん。大丈夫ですか!?】

 

おキヌさんも謝りながら横島に近寄る。だけど横島の反応は予想と違っていて

 

「あーいや、どこも痛くないんだ。急に涙が……変な夢を見たからかなぁ?」

 

苦笑しながら立ち上がった横島。変な夢?その言葉が気になって、私も立ち上がりながら

 

「どんな夢を見たの?」

 

私がそう尋ねると横島はうーんっと唸りながら夢の内容を呟いた。そしてその内容を聞いて私は完全に硬直した

 

「東京タワーで蛍と凄くよく似た誰かが倒れている夢だった……それと誰かと2人で凄く綺麗な夕日を見たような……」

 

そ、それって……いえ、そんなはず無いわ。横島には逆行の記憶なんてない、だからそんな夢を見るはずがない……

 

(で、でも……その光景は……)

 

私が死んだ場所で間違いない。でもどうして横島がそんな夢を……おキヌさんも信じられないという顔をしている中

 

「それもう少し詳しく……」

 

違うとは思っている。だけど違うと言い切れないので横島にそう尋ねようとした瞬間

 

「うきゅ?うきゅーうきゅー♪」

 

「みむー!みみむーーーーー!!!」

 

この騒動で起きたのかチビとモグラちゃんが横島に駆け寄っていく。

 

「おーよしよし!2匹とも朝から元気だなあ」

 

よしよしっとチビとモグラちゃんを撫でているのを見てそんな話を聞くわけにも行かず、私は開きかけた口を閉じるのだった……

 

「おはようございます。横島様でよろしいのでしょうか?」

 

部屋を出て唐巣神父の所に向かおうとすると部屋の外で清姫が待っていて、嬉々とした表情で横島にそう尋ねる

 

「お、おう……俺が横島だけど?」

 

行き成り様付けに困惑している横島に畳み掛けるように清姫は

 

「私清姫と申します、この名前どうか覚えていてくださいね?」

 

華の咲くような笑みでそう告げて、着物の裾を翻し歩き去っていく

 

「なんか大分印象が違わない?着物の色も違うし」

 

確かに昨日の着物は黒だったけど、今の着物は白だった。そのせいか、大分昨日と印象が違う

 

「うん、確かにね。でも清姫は昨日の義経と一緒だったし、警戒しておいた方が良いわよ?」

 

あれだけ暴れている姿を見ているのだから、いくら清姫が美少女でも横島も警戒するだろうしね

 

【そうですよ?信用するにはまだ早いと思います】

 

おキヌさんにも言われた横島はうんっと小さく頷いてから、自分の胸に手を置いて

 

「覚えとく……なんかこう胸の辺りがざわざわするんだよなあ?清姫ちゃんを見ていると」

 

まさか恋!?とかふざける横島をじとっと見ると

 

「ごめんなさい」

 

私とおキヌさんの視線に耐えかねて神妙な表情をする横島を見ながら、礼拝堂に向かう。途中でおキヌさんは朝食の準備があるのでと言って別れた。どうも私の奇声が気になって見に来たらしい

 

「あ、よこしまさん、昨日はどうもありがとうございました」

 

天竜姫ちゃんが深く頭を下げて横島に感謝の言葉を口にする。その後ろでは床が光っているので、もしかすると妙神山に転移する何かの道具を小竜姫様が持って来ていたのかもしれない

 

「いやいや、気にしないでいいよ?天竜姫ちゃんが怪我しなくて良かった」

 

若干慌てながら笑う横島。横島ってあんまりお礼とか言われなれてないから混乱しちゃうのよね

 

「天竜姫様。お気持ちは判りますが、竜神王様が心配しております。そろそろ」

 

小竜姫様にそう声を掛けられた天竜姫様は名残惜しそうに

 

「後日、今回のことに対する謝礼をお送り致します。ではよこしまさん、お元気で」

 

そう笑って光る床のほうに歩いて行った天竜姫様の姿が光に包まれて消える

 

「今回の一件へのご協力感謝します。後日天界から何かお礼をお送りするので楽しみにしていてください」

 

姿の見えないイームとヤーム、それに鬼門と清姫は既に妙神山へと転送されたのだろうか?それとも別の方法で妙神山へ帰るのだろうか?と考えていると小竜姫様が穏やかに笑いながらそう告げる

 

「そ、じゃ楽しみにしているわ。でも今回みたいなのはこれで最後にして欲しいわ」

 

美神さんが笑いながら言うと小竜姫様は出来ればそうならないように天界のほうで頑張りますと笑いながら言う。でもきっと私達はまた今回のような騒動に巻き込まれると思う、それもきっと前の世界よりも激しい戦いに巻き込まれていくのだろう……

 

「では私も失礼します。今回は本当にどうもありがとうございました」

 

そう笑って光の床のほうに行く小竜姫様を横島が呼び止め

 

「えっと……その清姫ちゃんはどうなるっすか?また幽閉とかですか?」

 

横島がそう尋ねると小竜姫様は少しだけ険しい顔をして

 

「幸い清姫は天界の役人を殺してはいませんし、こちらの捜査にも協力的です。しばらくは監視下に置かれると思いますが……幽閉などにはならないと思いますよ」

 

小竜姫様の言葉に安心した表情をしている横島。怖がっているようだけど、やはり気にしてしまうあたりが横島らしいなあと思わず苦笑してしまうのだった

 

「では今度こそ失礼します」

 

そう笑って小竜姫様も光る床の上に立って消えて行った……

 

「さてと!話も済んだところだし、横島君」

 

黙って話を聞いていた唐巣神父が横島を呼ぶ

 

「なんっすか?」

 

どうして自分が呼ばれたのか判らないという顔をしている横島に唐巣神父は笑いながら

 

「念の為に霊障専門の病院の予約を取っておいた。さ、早速向かおうか?」

 

「え、でも俺腹……「先に検査のほうが良い。何か異常があってからでは困るからね」

 

腹が減っていると言う横島の言葉を遮って言う唐巣神父。笑っているけど笑ってない唐巣神父の表情を見てはいっと頷いた横島は

 

「蛍。チビとモグラちゃんを頼むわ」

 

病院に連れて行くことが出来ないチビとモグラちゃんを差し出してくる、嫌そうな顔をしているチビ。お願いだからもういい加減に懐いてくれないかしら?チビとは対照的にうきゅうきゅと鳴いて擦り寄ってくるモグラちゃんに思わず微笑んでしまいながら、チビとモグラちゃんを受け取るのだった。横島は唐巣神父に連れられ教会を出て行った、残された私はどうすればいいのかな?と思い美神さんを見ると

 

「しばらくは教会に滞在させてもらうわ。だって事務所シズクに爆破されちゃったし」

 

あ、そう言えばそうだった……新しい事務所ってたぶん旧渋鯖伯爵邸よね?まぁあそこの方が通いやすいから文句はないけどね

 

「蛍さーん、ご飯出来ましたよー」

 

台所から顔を出しているシルフィーさんに今行きまーすと返事を返し、美神さんと一緒に朝食に向かうのだった……

 

 

 

 




別件リポート 竜神王の憂鬱

自壊は別件リポートとなります、今回の話の補足をメインにして、色々な問題を抱えている竜神王の話をしようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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