GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は「清姫」VS「シズク」「小竜姫」VS「義経」をメインに書いていこうと思います。
今回はあんまり美神達の出番は無いかもしれないですが、それなりの役割はあるのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その5

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その5

 

埠頭の真ん中で大量の水と炎がぶつかり、凄まじい爆風が俺達を襲う

 

「うきゃあ!?」

 

「っとと!!大丈夫か?あげはちゃん!」

 

俺でさえ吹き飛ばされてしまうような爆風だ。あげはちゃんの小柄な身体が浮かび上がるので咄嗟に腕を掴んで抱き寄せる。チビとモグラちゃんも吹き飛ばされては危ないので、服の中に入れているけど服の中でもぶるぶる震えているので怖がっているのが良く判る、

 

「う、うん。大丈夫でちゅ」

 

怖いのか震えているあげはちゃんの背中を撫でてあやしながら

 

「美神さん。俺達には何も出来ないんですか?」

 

飛んでくる炎や水を札で防いでいる美神さんに尋ねると

 

「無理よ、死に行くような物だからなんとかしようなんて考えるのは止めなさい」

 

鋭い口調で告げる美神さん。それは今まで聞いた事のない重い響きを伴っていて……それだけ今が危ない状況なのだと理解した

 

「大丈夫よ。小竜姫様もシズクもそうそう負けるわけ無いんだから」

 

俺を安心させるように笑う蛍。だけど俺はどうしても不安が消えることは無かった……さっきから首筋がちりちりと静電気が溜まっているかのように痛む……それに……

 

(なんだ、これ……)

 

なんと説明すれば良いのか判らないがさっきから身体が熱い……それにやけに心臓の音がうるさい。

 

(もしかして小竜姫様とシズクの本気を見て怖いって思ってるのかな)

 

身体が震えるほどの寒気を感じるからそれかもしれない……俺でさえこれなのだからあげはちゃんと天竜姫ちゃんはもっと怖いと思い、大丈夫だよと2人に声を掛け俺は小竜姫様達の戦いに目を向けるのだった……

 

【今……横島さんの身体が光ったような……】

 

「ゆ、幽霊の姉さん!は、早く助けれえ!?」

 

「お、オイラもアニキも泳げないんだなあ!!」

 

「しっかりしろー!右の!」

 

「がぼがぼ……」

 

義経の一撃で海に叩き落された鬼門とイームヤームを救出していたおキヌちゃんにははっきりと見えていた。横島の身体から僅かに鮮やかな翡翠色の光がこぼれ始めている事に……

 

 

 

 

 

目の前の真紅の甲冑を纏った武者……英霊義経の構えを見て背中に冷たい汗が流れるのを感じた

 

(隙がまるでない……それにこの感じ……魔族になりかけている?)

 

人間霊から信仰などで神格化した英霊の筈なのにその気配に魔族の物を感じる……もしかすると九兵衛の時の様にガープ達が動いているのかもしれない……

 

「義経参る!」

 

「!(は、速い!?)」

 

一瞬で間合いを詰め脇差を振るってくる、それを咄嗟に後ろに跳躍して躱すが

 

「てえいっ!!」

 

振り切った姿勢のまま、素早く刀を持ち直し、その場で回転し薙ぎ払いが放たれる

 

「うっ!?」

 

咄嗟にしゃがみ込みそれを避けるが、切られた前髪が宙に舞うのが見える。

 

(厄介な……)

 

正道と邪道の剣が組み合わさった非常に太刀筋が読みにくい剣術。力は僅かに私の方が上ですが……速さでは完全にあちらが上だ……獲物の数も向こうが1つ多い……となると速さで翻弄されてはジリ貧に追い込まれてしまうだろう

 

「どうした?攻めてこないのか?」

 

日本刀を肩に担ぎ好戦的な口調で手招きする義経。その顔には余裕の色が浮かんでいる、私の武器は神剣が1つ。大太刀と小太刀……普通に考えればここで突っ込む訳が無い。そう判っているからこその挑発……確かに現在の私では無理でしょうが……未来の私ならば!

 

「はっ!」

 

一気に地面を蹴り間合いを詰め義経の刀を砕くつもりで全力で振り下ろす

 

「ぬうッ!はっ!馬鹿が!!」

 

大太刀で神剣を受け止め、空いている左手に握っている小太刀を突き出してくる。暗い港に紅い血の華が咲く

 

「その言葉そのままお返ししましょうか?」

 

「ぬぐう……聞いてないぞ……そんな物……」

 

小太刀を地面に落とし顔を押さえている義経。私は右手に逆さに握っていた小さな小太刀を回転させ正眼に構えながら

 

「言ってないですから」

 

左手に使い慣れた大振りの神剣。右手に新しく作った抜け落ちた私の牙を加工した小太刀を握り構える

 

「正道の剣しか使わないと聞いていたんだがな」

 

顔を覆っていた仮面の一部が砕けそこから刀傷のある目が見えている。完全に不意打ちだったのにかすり傷程度ですか……だが相手の力量を考えればそれも仕方のないことなのかもしれない

 

「はっ!これで楽しくなってきた!」

 

邪魔だと言わんばかりに顔を覆っている仮面を捨てる義経、そしてその顔を見て私は驚いた

 

(女性!?)

 

甲冑のせいで屈強な男だと思っていた、だけどその顔は女性そのもので……私の驚愕に気付いたのか義経は楽しそうに笑いながら足元の小太刀を拾い上げ

 

「私は兄の為に剣を取り、性別を偽り戦い続けた。全ては敬愛する兄の為」

 

穏やかな口調で告げる義経は刀を振るい独特な構えを取る。だがその眼には私は既に映っていない、私ではない何かを見てそしてその何かに向けての怒りを映し出している

 

「だが兄は私を捨て殺した、憎い、愛していたがゆえに……兄があの方が憎いッ!!!この憎悪!この怒り!!!私はどうすればいいッ!!!」

 

その穏やかな口調が徐々に激しい物に変わって行き、そして義経の霊力に魔力が混じっていく……

 

「ううううッ!!!」

 

体勢を低くし、獣のような唸り声を上げる義経。その姿に英霊としての姿はなく、ただ怒りと憎悪に突き動かされる獣としての姿……

 

「私が介錯します。義経」

 

英霊として祭られる存在がこんな姿になってしまった。その姿を見せるのはきっと耐え難い屈辱のはずだ……だから私がこの場で介錯すると宣言する、そして獣のような前傾姿勢になり真紅の瞳を輝かせる義経だった者は

 

「ウオオオオッ!!!!」

 

私の言葉に返事をするかのように獣の雄たけびを上げ、一気に飛び掛ってくるのだった……その余りに踏み込みの速さに咄嗟に超加速に入るが

 

(なっ!?)

 

時の流れが緩やかになり、義経の動きが一瞬……一瞬だけ緩やかになったが

 

「シャアアッ!!!」

 

雄たけびと共に、拳を地面に叩き付け強引に体の向きを変えて突っ込んでくる

 

「くっうっ!?」

 

大太刀と小太刀をクロスさせ、その一撃を受け止めるが、その余りに衝撃に手が痺れる

 

(超加速に割り込んできた……しかも私より速い……)

 

超加速に割り込んでくる。そんなありえない光景と、その驚異的な膂力に私は背中につめたい汗が流れるのだった……

 

 

 

 

 

「チッ、どこに居やがるガープ」

 

俺は今しがた捕まえた蝙蝠を踏み潰しながらそう呟いた。街の中に突如現れたガープの魔力。その数約15……おそらく使い魔だと判断したのだが、魔力量で識別出来ない。なぜなら全てがすべて同じ魔力を放っていたからだ

 

(また厄介なもんを開発したな)

 

蝙蝠の胴体に装着されている鎧。それがどうやら魔力を増幅させているようだ、回収したかったが蝙蝠が死ぬと爆発し回収不可能だ。こういう所は本当に徹底してやがる

 

「これで7つ、あと8個……しらみつぶしに潰してたんじゃ拉致があかねえな」

 

さっきから海のほうで派手などんぱちをしているみたいだしよ。そっちの方に行って……いや待てよ、ガープの事だからそれも囮か?あいつの魔術の腕を考えれば、遠隔操作で魔術を起動する事だって……なまじガープの戦術を知っているから、その全てが囮に見えてくる。どうするか、罠だとわかっていても突っ込むべきか?ただ俺を捕縛、もしくは消滅させる罠を仕掛けていると考えると動く事が出来ない。どうするべきかと悩んでいると

 

「あん?」

 

俺の索敵範囲に入り込んできた魔力を探知して思わず間抜けな声が出る。それは行方不明になっていたメドーサの魔力だ

 

「あいつ生きてたんなら連絡に来いよ」

 

バイコーンが化けているバイクに乗り込み、俺はメドーサの魔力のほうに向かうのだった

 

「くひ?君がここに来たらすぐやってきた、彼も魔族なのかい?」

 

メドーサは1人ではなく、不気味な笑い声を上げる少女と一緒だった。確か……こいつはあの駄女神と同じ能力だったか?アシュの野郎がそんなことを言っていたような気がする。思考にプロテクトをかけてから

 

(どういうこった?)

 

(申し訳ありません、ビュレト様。成り行き上この小娘と契約してしまって……しばらくは思うように動けません)

 

なにやってんだか……俺は軽い頭痛を感じながらくひひっと笑っている少女を見て

 

「おう俺も魔族だ。だが……「判ってるよ。くひ♪他言無用。喋れば殺すんだろ?」

 

俺の殺気を受けても笑ってやがる。ずいぶん肝の据わった奴だ、ま、そうじゃなければ

 

(未来や人の思考を見ても平気じゃいられないわな)

 

人間が処理できる以上の情報を得ている。それは常人なら狂っていてもおかしくない事だ、それでもまだ狂っていない。それだけでこの少女の精神力の高さが判る

 

「お前名前は?」

 

誇り高い人間には敬意を払う。それは俺の変わらないルール、目の前の少女に名前を尋ねると

 

「夜光院柩。くひひ♪」

 

柩か……はっ!面白い人間だから覚えておいてやるか……

 

「俺は……13番だ。気が向けば探ってみな」

 

驚いている表情をしているメドーサ、13の言葉だけで俺にたどり着くとは思えないないが、柩の高い精神力と俺を見て震えているにも関わらず、まっすぐに俺を見ているその精神力を見て偽名を名乗りたくなかった

 

「13番?何かの暗号かい?」

 

「さぁな。まぁ俺の正体のヒントっつう所だな、それよりもだ。今はずいぶんと危ねえ。あんまりうろちょろすんじゃねえぞ」

 

あれだけ派手にドンパチしているんだ。巻き込まれる可能性も考えてそう警告し、メドーサと柩に背を向け港と反対方向に視線を向ける。俺の勘が囁いている、あそこだと……

 

(罠の可能性もあるが……行ってみるか……)

 

街の中でひときわ目立つビルにガープが居ると考え、ビルに向かってバイクを走らせるのだった……

 

 

 

 

 

「どうしたのですか?反撃をしないとは?大人しく焼き殺されるつもりですか?」

 

「……黙ってろ馬鹿」

 

扇子を私に向けたまま挑発するような口調の清姫にそう呟く。戦闘不能に持ち込んでから大人しくさせようと思っていたんだが思ったよりも清姫の力が大きくて思うように攻撃できない。当てようとしていないのは判っているが、横島の近くにあえて炎の龍を作り出し、その熱で横島を攻撃しようとしているのを見ると後先考えずに水を使ってしまった……状況的には私の方が徐々に追い詰められている

 

【なにやってるの!速く避けなさい!】

 

「……判ってる!」

 

今回ばかりは私だけでは対処できないと思い、タマモを連れてきた。その理由は

 

「どんどん行きますわよ」

 

炎の竜が左右上下、ありとあらゆる方向から襲ってくるからだ、これは正直私1人では躱すことが出来る代物ではなかった

 

(このままだと不味い!)

 

港の中なのだから海の中に入れば水は十分に補給できる。だが清姫もそれが判らないわけではない、徐々に徐々に海から私を遠ざけている。激昂していると思っていたが、予想以上に冷静だ

 

「高島様を見捨てたのに、貴女はまた高島様の側に居る。なんと面の皮が厚いのでしょうか?シズク」

 

結界の中に居る横島を見てそう呟く清姫、私はむっとしながら

 

「……あれは高島じゃない、横島だ」

 

高島の転生者だが、あれは高島とは違う。高島よりも優しい馬鹿だ、高島と一緒にするなと言うと

 

「転生者なのですから高島様で十分ですわ、私の愛したあのお方です」

 

ふふっと小さく笑う清姫。その視線の先には結界の中に居る横島の姿……だけど清姫のその目に横島は映っておらず死んだ高島だけを見ている

 

「……横島を高島と言うな!!!」

 

横島と高島は別の存在だ。横島の中に確かに高島の面影はある、だが高島じゃない……あいつは横島忠夫なんだ。私と清姫の知っている高島ではない。圧縮した水を清姫に放つが

 

「いいえ。あの方は高島様。ええ、そうですとも1000年経った今。やっと再会できたのですもの、高島様ですわ」

 

扇子を振るい私の水を弾き飛ばす。これだけ圧縮しても清姫には届かない……どれだけあの扇子で霊力を……そして自身の炎を強化しているのだろうか?自身に向かってくる炎を水で迎撃しているとどうしても清姫の事を考えてしまう……

 

(こいつはどれだけ高島を想っていたんだ……)

 

同じ1000年のときを生きた清姫。だが封印され眠っていた私と、1000年の間高島を救えなかった後悔と嘆きを抱えて生きてきた清姫……その胸の中を完全に知ることは私には出来ない、かりに逆の立場だとしたら私も清姫と同じになっていたかもしれない……そう思うとどうしても清姫を本気で攻撃できない。喧嘩ばかりしていた、だけど私は清姫の事は嫌いじゃなかった……

 

【馬鹿!】

 

タマモに頭を噛まれ思考の海から引き上げられる。頭の上のタマモは

 

【同情するならまずはあの馬鹿を止めなさい!】

 

爪を頭に突き立ててそう言うタマモ。目の前の清姫を見るとその額には大粒の汗が浮かんでいるのが見える

 

「私はお前が……許せないシズク。なんで、なんであの時……高島様を見捨てた」

 

ぶつぶつと呟いている清姫。もしかしてもう正気じゃない?

 

【もうずいぶんと前からあんな状態よ。早く気絶でも何でもさせないと……あいつ死ぬわよ】

 

清姫から感じる霊力も竜気も相当弱くなっている、それなのに清姫は今も炎の竜を作り出し続けている……

 

「……判った……」

 

懐に手を伸ばし袋に収められた扇子を取り出す、それを見て清姫が僅かに反応を見せる

 

「それはどうして」

 

信じられないという顔をしている清姫。私が取り出した扇子は清姫と同じ形をした物。私だって高島からお守りとして清姫と同じ物を受け取っている。もちろん水を強化する術式が刻まれた物を

 

「……いがみ合うのは終わりだ。後で話をしよう清姫」

 

こんな戦いの中じゃなくて、もっと穏やかな場所でお互いに話をしよう……

 

「そんな戯言を!私!私はぁ!!」

 

もう残っている霊力も少ないのか、さっきまで周囲を飛び交っていた炎の竜はその数を減らしている。私は手にしている扇子を開く、もう私が蓄えている水は少ない、護りに使いすぎたからだ。だけど……扇子に刻まれた術式がその残り少ない水を強化する

 

「……いつも私達はそうだった」

 

くだらない喧嘩をして、もめて、お互いに罵り合って……そしてその度に高島に窘められていやいや仲直りして……

 

「……また仲直りをしよう。お互いにお互いが嫌いでいい」

 

扇子を振るいあえて水の竜を作り上げる。清姫も同じように竜を作り出すが、その勢いは私の竜よりもはるかに弱い

 

「……だけどまた笑って喧嘩出来る……お前も……きっと横島を気に入ると思う」

 

扇子を振るって水の竜を清姫に向かわせる、清姫も炎の竜を放つが一瞬で炎の竜は消える。自身に迫る水の竜の牙を見て

 

「ふふ、ちゃんと紹介してくださいね?」

 

小さくそう笑って清姫の姿は水の中に飲み込まれ、そして即座に凍結した氷の結界の中へと閉じ込められたのだった……

 

【お前、性格捻じ曲がってる】

 

「……知らない」

 

私自身も霊力と水を使い切りその場に座り込む。仲がいいのか悪いのか、そんな事はどうでもいい、お互いに憎み合うのは辛いことだし、誤解されるのもあんまり面白い物じゃない……

 

【本当。蛇って良く判らないわ】

 

呆れたように呟くタマモの声を聞きながら、私はその場にゆっくりと倒れるのだった……

 

【どうしろって言うのよ】

 

満月ではないので人化も出来ず、かと言って横島達を呼びに行くことも出来ないタマモは氷の中に閉じ込められている清姫と倒れているシズクを見て疲れたように小さく鳴くのだった

 

 

 

 

 

「ふむ、やはり清姫は駄目だったか」

 

しかし清姫の敗北は予想通り。清姫を脱獄させたのは天界側に内通者がいると思わせるため、そもそもセーレで無ければ清姫を幽閉されている場所を探ることは出来なかった

 

(義経は想定通りの能力を発揮しているな)

 

祭られている魂に狂神石を埋め込み、無理やり現世に呼び戻し操る。そのテストして義経を選んだが、十分な戦闘結果を出している

 

(後は回収して、義経の霊核をベースにした人造魔族を量産すれば……正規軍にも負けん)

 

義経を選んだのは軍略に長け自身もまた高い戦闘能力を持つからだ。最初は狂神石に抵抗していたが、今は完全に私の支配に落ちている。後はある程度戦わせて回収すれば最低ラインの目的は達成した。

 

(天竜姫の捕獲までは欲張りすぎだな)

 

どうも小竜姫にもいくつか奥の手があったようだ。まさか二刀流になっているとは予想外だった

 

「よう、ガープ」

 

(ちっ、しくじった)

 

背後から声を掛けられ舌打ちしながら振り返る。魔力探知の結界を張っていたが、それをすり抜けてくるとは、昔ビュレトに教えた魔術破りをどうも独自に昇華させていたようだ

 

「久しぶりと言っておくべきか?ビュレト」

 

「だろうな、さて積もる話もある、魔界で奢るぜ?」

 

「ふっ、お前の勧める食事など私の口には合わん」

 

言ってろと笑うビュレト。だがその眼は笑っていない、その気になれば一気に私を捉えに来るだろう

 

「さてビュレト。これがなんだか判るか?」

 

手にしている機械をビュレトに見せ付けるようにして掲げる。

 

「……ったく、相変わらず変な発明をしてるんだな」

 

頭をかきながら呟くビュレト。私が何を持っているか判らないから、動くに動けない

 

「では御機嫌ようビュレト。良き夜を」

 

手にしていた何かをビュレトのほうに投げると同時に転移魔術を発動させる

 

「てめえブラフか!」

 

「ふふふ、警戒しすぎだよ。ビュレト」

 

私が投げたのはただの金属片。なんの効果もない只の物体だ。だがビュレトは私のことを良く知っているので警戒して動けない

 

(義経を回収できなかったのは惜しいが、ここで下手に暴れるわけにもいかん)

 

それに魔術タイプの私と剣士タイプのビュレトでは相性が悪い、だがせっかく操った義経をそう簡単に手放すことも出来ない、ならばもう1つの計画を進めるまで

 

「土産だ。どうなるか楽しみにしているがいい、天竜姫の死を持って闘争は加速する!」

 

竜神族の天才児天竜姫。それを護る事が出来なかった神族と魔族の暗躍。それはお互いにお互いを疑い始めている今の神魔族の緊張感を高め、戦争へとその舵を向けさせるだろう。

 

「てめ!待ちやがれ!」

 

ビュレトが飛び掛ってくるが遅い、私の転移魔術は完全に発動し、そして最後に結んだ印で義経の中の狂神石の力を完全に解放し暴走させた。英雄義経ではなく、獣と化した義経。この場から向かって間に合うかな?ビュレト。こっちに向かって手を伸ばしているビュレトを見て小さく笑い、私は下界を後にしたのだった……

 

 

 

 

小竜姫様と切りあっていた鎧武者が突然頭を抱えて

 

「ガ!グガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

 

港全体に響き渡るような絶叫を上げる、それと同時に身体が異常に肥大し、その背中から更に4本の腕が飛び出してくる

 

(これ!まさかあの時の)

 

俺にはその姿に見覚えがあった。九兵衛に埋め込まれていた紅い石が急に化け物になった時……その時と同じだ

 

「シャアアアアアアア!!!」

 

「な!?きゃああ!?」

 

急に増えた腕に対応しきれなかった小竜姫様がその2本の腕で殴り飛ばされ、海まで吹っ飛ばされる。そして残りの4本の腕全てが俺達に伸ばされる

 

「なんて化け物!?精霊石よ!」

 

美神さんが咄嗟に精霊石で結界を作り出すが

 

「ウゴオオ!!ウガアア!!!」

 

その6本の腕で結界を殴りつける化け物。一発一発が非常に重いのか精霊石の結界に一瞬にして皹が入り

 

「!みんな逃げなさい!!」

 

美神さんがそう怒鳴ると同時に結界が砕け、返す拳で美神さんが殴り飛ばされる

 

「横島!早く逃げ!っきゃああ!?」

 

蛍も俺に逃げるように叫んで霊力の盾でその拳を受け止めようとするが、一瞬も持ちこたえることが出来ず殴り飛ばされる

 

「グルオオオオオオオオッ!!!!」

 

そしてその化け物は俺達にその6本の拳を振り下ろしてくる、足にしがみついて震えている天竜姫ちゃんとあげはちゃん……2人が殴られたらきっと死んで……

 

(死ぬ?2人が?)

 

こんなに小さい子供が?

 

まだ自分の夢も何も知らないのに?

 

まだこれから明るい未来があるかもしれないのに?

 

最悪の未来を想像したとき、俺の中で何かの歯車がかみ合ったような……そんな奇妙な感じがした

 

「、あ、や、止めろおオオオオオオオオッ!!!」

 

させない!そんなことはさせない!!!自分に出来ることなんてない、それでも何もしないなんて事は出来ず大きく手を突き出す。そのとき脳裏に浮かんだのは蛍の言葉

 

『いい?ソーサーは相手に来るなーって思って使うのよ』

 

『後は霊力が上手く放出できれば盾になるわ』

 

『後はイメージよ、硬い壁とかをイメージすればきっと出来るわ』

 

蛍が最近教えてくれているサイキックソーサー。霊力の盾の作り方……

 

あげはちゃんも天竜姫ちゃんも俺が助ける

 

絶対にこんな所で死なせない!!!

 

「アアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

身体の中から何かが抜け出ていく疲労感。そして目の前に広がる巨大な翡翠色の壁……その壁に遮られてもなお、こっちを睨みつけている化け物に足が震えながらも、気力を振り絞り霊力の壁を維持したまま……

 

「あっちに行けええええええええ!!!!!」

 

しっかりと意志を込めた言葉で拒絶の言葉を叫ぶ、その瞬間交通事故のような凄まじい爆音が響き渡り、化け物の姿が吹っ飛んでいく。遠くで上がった水柱を見て

 

「は……はっは!や、やっぱ俺って……時々……すげえ……」

 

俺は凄まじい脱力感を感じながらその場にゆっくりと倒れこむのだった、その目に涙を浮かべているあげはちゃんと天竜姫ちゃんに怪我が無いことに安堵し……そのまま俺の意識は闇の中に沈んでいくのだった……

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その6へ続く

 

 




サイキックソーサーの習得を少しだけ早くしてみました。GS試験では別の霊能力に焦点を当てたいので、そして暴走した義経はここで退場ではないので、まだ出てくるのでどうなるのか楽しみにしていてください

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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