それと今回は特別企画と言う事でキャラ設定の上に外伝リポートとしてもう1つ作品を更新しています
そちらもどうかよろしくお願いします
リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その4
高島様……どうして死んでしまったのですか……何度も何度もそれこそこの1000年の間何度も見た夢を私は見ていた……高島様の世話になっていた妖怪や皆の力を借りて高島様を助けようとした。だけど何十人といた陰陽師に弱い仲間は死んで、結局処刑場にたどり着けたのは私含めてたった5人だけ……しかもその時は既に処刑が完了していて、私達が見たのは
無残にも首を切り落とされた高島様の死体。そしてそんな高島様を見て嘲笑う下衆な陰陽師達の言葉は今でも忘れない
【こいつは力を付けすぎた】
【分不相応の力をつけるからこうなるんだ、平民の出の癖に】
分不相応の力。違う、それは正しい修練の結果だ。お前達のように貴族だからと力も無いのに威張っているだけの人間と違う
【全く藤原の姫に取り入って自分の立場を上げようなどと。全く屑ですな】
【全くだ、藤原様もさぞ喜ばれるだろう。自分の娘を誑かした高島が死んだのだから】
もう動く事の無い高島様の身体、その身体には首が無い……私を優しく見つめてくれた目も、私の名前も二度と呼んでくれることは無い……藤原の姫、彼女は悪くない、大体藤原の姫に手を出したということ自体が間違いなのだ。高島様は屋敷でも居場所の無かった彼女の話し相手になってあげただけだ……
【あれは高島の所の式神では?】
【おお、そうだな。はは、主が居ない式神だ、私達が引き取って面倒を見てやろうじゃないか】
私に手を伸ばす下衆な陰陽師……その腕を高島様から頂いた扇子で切り落とし
【シャアアアアアアアッ!!!】
怒りのまま、絶望のままその陰陽師達を焼き尽くした……そして天界の竜族に捕らえられるまで私は京の街を荒らした……天界の牢獄に囚われた私が考えていたのは
(シズク……どうして)
元天界の竜族であり、高島様の世話になっていたシズク……だが処刑の妨害には来てくれなかった……彼女が居れば……助けることも出来たかもしれない……
(憎い憎い憎い憎い!お前が憎い!!!!)
私達の中で一番高島様の世話になっていたのに……その場に来ることの無かったシズクへの憎悪が私を埋め尽くして……
「殺してやる!シズク!っつう……」
夢の中でシズクを見てその首に手を掛けたところで私は目を覚ました
「目覚めたか、清姫」
私は瓦礫に埋められた筈なのに……私はゆっくり身体を起こして
(これは……手当てされている)
簡単とは言え手当てされているのを見て、周囲を警戒している赤い甲冑の武者に
「ありがとうございます」
「……気にするな、今は仲間だ。仲間は助ける」
ぶっきらぼうに答える武者の背中を見ながら立ち上がり、眼下を見て
(シズクは一体何を……)
完全に崩壊している建物を見て、シズクが何をしたのか考えていると
「あいつらが移動を始めた、追いかけるぞ清姫」
「判りました。ところで……あなたの名前は?」
凄まじい勢いで離れていくシズクの気配を感じながら尋ねる、命の恩人くらいの名前は知りたいと思ったのだ
「……義経」
ぼそりと呟き建物の上から上へと移動していく武者……義経の姿を見ながら
(見極めないと……)
あの建物が崩れる瞬間私は確かに見た。高島様と同じ魂を持つ青年の姿を……他人の空似で終わらせるには余りに似過ぎている……もしかするとあの青年が高島様の転生者なのかもしれない……私はそんな事を考えながら義経の後を追って建物の上を走り出すのだった……
「つうっ……私は生きてるのか?」
全身に走る鈍い鈍痛に顔を歪めながら身体を起こそうとしたが、斬られた箇所が激しく痛みそのままベッドに横たわり呻くだけで終わる
(ベッド?……それにここはどこだ)
魔界で斬られたのだから私は当然魔界に居るはずだ、それなのにここには魔力が無い、それに魔族の気配も無い……ここがどこかわからず混乱していると
「くひ♪目が覚めたかい?」
(誰だお前は?)
見たことが無い銀髪の少女に話しかけられ目を細めると少女は不気味な表情で笑いながら
「ボクは柩。夜光院柩……くひひ」
けらけらと笑いながら私見て笑っている柩。その異様な雰囲気に思わず眉を歪めると
「あー酷い酷い、川から這い出て気絶している君を助けたのはボクなのに……魔族なんて助ければ自分の立場が危ないってのに人道的に助けたのになあ」
くひひっと笑いながら平坦な口調で言う柩……柩?どこかで聞いたような……
(確か……未来予知に相手の考えを!?)
そこまで思い出した所で咄嗟に指で印を結び自分の思考に鍵を掛ける。すると目の前で笑っていた柩は眉を顰めて
「くひ……高位の神魔は自分の思考に鍵を掛けることが出来るって聞くけど……実際にされると驚くね」
くひひっと笑い声を出しているが、その目は全く笑っていない。どれだけ人の闇を見て来たのかが気になるが
(私は何日意識を失っていた……それとここはどこなんだ)
私が魔界で見たことを早くアシュ様に伝えなければ、私の記憶の中に魔人とか言う存在の記憶は無いが、神魔の封印を施された文献を見る限りでは相当危険な相手のはずだ。どうやって柩を出し抜いて、この身体で逃げるかと考えていると
「少しTVでも見ようか?くひ、暇だろうしね?」
にやにや笑いながらTVのスイッチを入れる柩。そしてそこから流れた声に私は驚きに目を見開くのだった
『こちらは突然大爆発を起こしたシャングリラビル前です、ごらんのようにビルは跡形も無く消滅しております』
シャングリラビルって!?私が前に破壊した美神の事務所があるビルの名前じゃ!?痛む体に顔を顰めながら身体を起こしてニュースに視線を向ける
『爆発当時ビル内と周囲に通行人の姿は無く、負傷者などは居ないようですが、このビルに事務所を構えていた美神令子さん。そしてその助手の横島忠夫さん、芦蛍さんの安否は確認されておりません。警察は除霊中のトラブル、もしくは怨恨の線で捜査しております』
そのニュースを聞いていた柩はやっぱりねっと言って笑いながら
「寝ている間に少し記憶を見せてもらったけど、君は横島忠夫……それに芦蛍の関係者。くひひ……魔族なのに人間を知っている……ボクの質問は1つだけだ。それに答えてくれればこの質の良い治癒札を提供するし、しばらくの間ボクの手伝いをしてくれるだけで君を解放しよう」
柩が手にしていたリモコンを操作するとガチャンっと言う音が響く、どうやら今のニュースは録画していた物だったようだ……私の記憶を見て横島の名前を出すことで私と取引をしやすい状況に持ってきたのだろう
「良い趣味をしてるよ、あんた」
あの駄女神と似たような能力を持っているが、あいつよりも取引って物を熟知している
「くひひ♪魔族に褒められるとはボクも捨てたものじゃないね……さてと、じゃあ質問だ。魔族……いや神族もか……なぜ君達は横島忠夫を気に掛ける?なにか理由があるのか?」
その目に宿っている暗い光……いやそれだけじゃない、その目に見えるのはやっと見つけたかもしれない希望を手放したくない……そう私に訴えかけている
(……この目は……私と同じだ)
横島に助けられた私と同じ目……そう思うと無碍にも出来ない、だが答えることも出来ない質問だ。これから起きるかも知れない神魔大戦の事を話すわけにはいかない
「すまないが私も詳しくは知らない」
「へえ?君はずいぶんと上位の魔族に思えるけどね?そんな君でも知らないのかい?」
柩の挑発めいた言葉にそうだと呟く、それにこのベッドの柱には精霊石が埋め込まれている。身の危険を感じたのなら、それで結界を作って私を閉じ込めるつもりだろう
(末恐ろしいね)
まだ自分の能力を制御出来ていないみたいだけど、これを完全に制御できるようになればヒャクメより優秀な捜査官になるかもしれないね……
「ああ私が知っているのは上層部に未来視が出来る魔族が居て、その方に横島の監視と護衛をするように言われているだけだよ」
嘘と少しの真実を混ぜて話をする。柩は私の考えを読めるが、私が心に鍵を掛けているので考えを読むことが出来ない、かといって力で私を屈服させることも出来ない。私の言葉を信じるしかないのだ
「まぁ今はそれでいいよ。横島に神魔さえも気に掛ける何かがある。それが判っただけで十分。さてとじゃあとりあえずこれにサインして」
契約書を私に差し出す柩。本当ならこんなの無視するところだが、怪我の治療をしなくてはならないし、私も過激派に追われる立場になった。そうやすやすとアシュ様には接触出来なくなってしまった。しばらくの隠れ蓑は必要だと判断し、柩の差し出した契約書にサインをする、きっちりと呪術契約を施されているのを見る限り、私の危険性も十分理解している。
「ほらこれでいいだろ?」
幸いそこまで悪い条件ではなかったのでサインする。内容としては柩の護衛だけだし、自由も約束されているみたいだしね
「うん、これでいいよ。じゃあ早速行こうか?」
私に治癒札を差し出しながら笑う柩。なんかとてつもなく嫌な予感がするんだけど……
「埠頭で横島が襲われている、護衛なら行かないといけないよね?」
「お前本当に良い性格をしてるな?」
横島が襲われている可能性があるのなら私は行かなくてはいけない、しかも契約してから自分も連れて行かせるようにに仕向ける……
(もしかしてとんでもない相手と契約したかも)
美神並みにあくどい相手と契約してしまったかもしれない……私は深く溜息を吐きながら傷跡に治癒札を張り怪我を回復させながらとんでもない事になってしまったかも……と後悔するのだった……
気絶している横島を地下トンネルの壁に預けて、ここから脱出する準備をしている美神さんに
「凄いですね、いつの間に準備したんですか?」
まさか事務所のワインセラーの裏にシューターがあって、そこから地下へ逃げるなんて思ってなかった
「楽しかったでちゅね!天竜ちゃん!」
「はい!シュバぁってしてとても楽しかったです」
あげはと天竜姫様が楽しそうに笑っている。でも私は正直怖かった、あれだけの角度で落ちると流石に怖い
「あいたた……腰を打ちました」
「だ、大丈夫ですか?小竜姫様」
あの小竜姫様も反応し切れなくて腰を打ち付けて呻いている、かろうじて受身が取れただけ良かったのかもしれない
「それで?あんたはなんて事をしてくれたのよ?」
「……ごめんなさい」
シズクがやったのは清姫と言う竜族の炎と自分の水で水蒸気爆発を起こすと言う、正直言ってよく死んでなかったと言わざるをえない行動だった。こちら側にイームさんや鬼門達が居るからこそ出来た捨て身とも言える術だ
「んで?話を変えるけどなんであんたあんなに恨まれてるのよ」
下水道に浮かんだボートの準備をしながら美神さんがシズクに尋ねる。確かにあの清姫とか言う竜族の憎悪はとんでもなかった、もしあれが人間に向けられていたらショック死しかねないレベルだった
「……清姫も私と同じで高島に世話になった竜族。でも私は高島の処刑の前日に高島に祠に封印されて……清姫が高島を殺した人間を皆殺しにして天界につかまったと部下のミズチに聞いた……清姫からすれば私は裏切り者だろうな……私も高島が処刑されると知っていたら封印されることは選ばなかった」
でもこれは高島のいい判断だったと思う、八岐大蛇の系譜のシズクが暴れたら日本が壊滅しかねない、それを考慮して封印し、自身が処刑されることを伝えなかったのだろう……
「説得は無理そうなの?」
「……無理だ。元から清姫と私は仲が良いとは言えないから」
それにあれだけの憎悪を抱いている清姫に言葉が届くとは思えない
【横島さんに説得してもらうのはどうですか?】
おキヌさんがそう提案するがシズクは首を横に振って
「……清姫は高島を妄信していた、あれは狂信とも言えるかもしれない……横島を見れば自分の気持ちだけを優先して、それこそ私だけじゃなくて、お前達も攻撃対象になりかねない」
……それは危ないわね。あれだけの炎を生身で受ければ骨だけじゃなくて、魂さえも燃えつくされかねない
「……なんとか戦闘不能にしてから説得を試みる。清姫もそうだけど……あの武者の対策も大事だぞ?」
シズクに言われて思い出す、あの狭い部屋の中で刀を振るい、小竜姫様を追い詰めていた鎧武者のことを……
「美神さん。あの武者……なんだと思います?」
「判らないわ」
私の問いかけに判らないという美神さん。あの武者は妖力も魔力も何も感じなかった。そして生者とも思えなかった……全くの正体不明の敵の事を思い出していると小竜姫様が腰をさすりながら立ち上がり
「あれは英霊ですね。人間の魂が昇華した存在だと思います」
英霊?聞き覚えの無い名前に私と美神さんが首を傾げていると小竜姫様は
「英霊とはかつての戦争などで活躍した英雄が人々によって祀り上げられ神格化した存在です。おそらくあの武者も名のある武人の英霊なのでしょう」
赤い甲冑に2振りの刀……少し考えて見て、思い浮かんだのは宮本武蔵だが、武蔵が赤い甲冑を着ていたなんて話は聞いたことが無い、となると当然の事ながら正体は判らない
「でも英霊なんて存在が何で……っまさか!?」
「はい、韋駄天の時と同じ可能性があります」
操られて敵の手下になっているのが英霊……しかも二刀使いの鎧武者
「笑えないわ。私と蛍ちゃんじゃ完全に足手まといじゃない」
私も美神さんもある程度は戦えるが、いつの時代かわからないが、騒乱の時代で英雄として称えられたそんな存在と戦えるような技能は無い
「あの英霊は私と鬼門で何とか対応して見ます。美神さん達はこのトンネルを抜けたら天竜姫様を連れて逃げてください、天竜姫様……ある程度逃げたら」
「判っている、父上を呼びます」
こくりと頷く天竜姫様。正直言って勝ち目が無いのだから仲間を呼ぶしかない、でも……
「もし英霊を操っているのが来たら?」
「全滅です」
英霊を操ることが出来るほどの魔神。正直言ってそんな相手と戦う装備も仲間も足りない、可能性としてはお父さんとビュレトさんだけど……お父さんは過激派と思われているから動けない、ビュレトさんと連絡する手段も無いので呼ぶ事も出来ない。戦っているときの気配で来てくれる事を願うしかない
「うー、うーん?」
「うきゅううー!!!」
「みむううう!!」
「コーン!!!」
「のわあああああ!?」
横島が目覚めると同時に突撃するモグラちゃん達。特にモグラちゃんは少し巨大化して居たので完全に横島の姿が埋もれてしまった助けてーと叫んでいる横島の声に思わず苦笑してしまいながら、モグラちゃん達に埋もれている横島を助けるためにそちらに向かうのだった……
なお離れたところでボートの準備を進めていたイーム達はと言うと……
「あ、あにき!この人間回復力が凄いんだな!」
「おう。半端ねえな……」
イームとヤームは明らかに致命傷と思われるレベルの突進を受けてもよしよしと言ってモグラちゃんを撫でている横島に驚愕し
「のう左の、ワシら死ぬかの?」
「……たぶん大丈夫だと思いたい」
英霊と戦うことになりそうな鬼門達が青ざめた表情で俯いているのだった……
「それじゃあ行くわよ。しっかりつかまってなさい」
英霊が来たら小竜姫様が、清姫が来たらシズクが対処し、私達は逃げることを第一に考える。打ち合わせを終えた所でボートのエンジンを掛ける
「おふねー!たのしみでちゅねー!」
「そうですね。楽しみです」
「はいはい、あげはちゃんも天竜姫ちゃんも危ないから乗り出したら駄目だぞー」
……横島君の天職ってもしかしたら保育士なのかも。なんか一瞬エプロンを身につけている姿が見えたような気がする
「ではイーム達は中空の警護を頼みましたよ」
「「うっす!」」
空を飛べるイーム達と鬼門に空中からの奇襲に備えて貰い、海の上と言うことでシズクを船首付近に座らせた。最悪海の水を取り込めば清姫とやらと互角に戦えるだろう
「私は運転に集中するから護りはよろしく」
「はい」
私の持っていた精霊石を全部蛍ちゃんに渡す、英霊相手にどこまで効果があるかは判らないが、幽霊ならある程度は効果があるはずだ。小竜姫様に目配せしてからボートを走らせる
「うきゅ♪」
「みむー♪」
「はやーい♪」
「ああ、もう危ないから大人しくしてて!?」
ボートの後ろから聞こえてくる楽しそうな声と横島君の焦った声。子供だから仕方ないけどもう少し危機感を持ってほしい
「グルウウ」
タマモはその8本の尾を立てて、警戒するような唸り声を上げている。近くに敵が居るのを察知しているようだ
【美神さん!向こうから何か近づいてきます!】
「は、はええ!?しかもやばい!」
おキヌちゃんとヤームがそう叫ぶ。でも近くに凄い霊力は感じないけど……そう思った瞬間。イームと鬼門達の姿が吹き飛ぶ
「……え?」
私のボートのほうに向かってくる赤い閃光。咄嗟にボートの舵を切るが、目の前の武者は水面を蹴り、舵を切った方向にすばやく方向転換し突っ込んでくる
「遅い……八艘飛び」
ザンっと鋭い音が響きボートの左側が切り裂かれる。脅しの意味があるのか、軽くボートを切り裂くだけだったが、あの武者の一言に顔をゆがめる……今八艘飛びって!?
「まさか義経!?」
源義経……英霊としてこれ以上に無い知名度を持つ義経がまさか敵に回っているなんて思ってなかった
「今のは警告だ。ボートを岸に寄せろ。さもなくば……この場の全員の首が飛ぶと思え」
右腰の刀の柄に手を伸ばす義経。鬼門達の警戒を一瞬ですり抜け、攻撃してきた……
「ごめん、小竜姫様。ボートを岸に寄せるわ」
その気なら今の一瞬で私達の首を切り落とすことも出来た……そう考えればここで逃げれば殺される……
「仕方ありません」
あのスピードから逃げ切れるとは思えないし、私は雇い主として横島君と蛍ちゃんを守る義務がある……私は小竜姫様に謝罪してからボートを岸に寄せるのだった
「陸で待つ、武神の竜よ……」
義経はそう言うと軽業師のようにボートの上から陸の上に飛び移る
「美神さん……義経ってあの?源義経?」
震えているモグラちゃんやあげはちゃんを抱きしめながら尋ねてくる横島君に頷く、あの剣の腕とあの身のこなしを見れば判る
「間違いないわ。英霊として昇格される条件を満たしているし……あの動きを見れば信じるしかないわ」
陸の上で刀を鞘に納めこちらを見つめている義経と扇子を握り締めシズクを睨んでいる清姫……
(今度こそ駄目かもしれないわね……)
英霊義経と竜族清姫そんな化け物みたいな相手と戦うには装備も何もか足りない……最悪過ぎる状況に溜息を吐きながら私はボートを岸に向け、ゆっくりと走らせるのだった……
陸で腕を組んでいた義経はその目に確かに迷いを浮かべていた、武人であるがゆえに幼子に刀を向けることをよしとしなかった、だが……その色は徐々に薄れて行き凄まじいまでの殺意の色がその目に映し出される……
確かに義経は英雄だ。だが今は英霊義経ではなく、ガープ達によって憎悪の感情を増幅され、徐々にその高潔な魂は黒く染まり……ガープの操り人形となりつつあった……自らの体内で脈打つ高密度の魔力の結晶に全身を蝕まれ、自らの存在が無理やり変えられていく激痛に歯を食いしばり耐えながら
(私をここで殺してくれ……武神よ……)
ボートから飛び立ち、自分の前に立った小竜姫を見て、もはや自分の意思で動かなくなりつつある身体に……膨れ上がっていく自分を殺した兄への憎悪に呑まれそうになりながら、まだ武人としての自分の意思があるうちに消えたいと願いながら、その腰に収めた2振りの刀に手を伸ばすのだった……
美神達がボートを陸につけるよりも早く、ボートの上から飛んで清姫の前に立つ
「……趣味の悪い着物だな」
漆黒の着物に身を包んでいる清姫にそう問いかけると、清姫は感情の無い目で私を見据えて
「喪に伏しているのですわ。高島様を裏切ったお前には関係の無い話でしょうけど」
裏切った……そうだな。清姫からすればそうだろうな……横島に買って貰った服の中に収めている巾着袋に手を伸ばしかけて……止めた。清姫は自分の中に怒りを溜め込んでいる、その怒りを爆発させた方が良い。清姫の性格はわかっているつもりだから
「……高島が復讐を望んだと思っているのか?」
「お前がそれを言うか!!!あの時、あの場所にいなかったお前が!!!」
さっきまでの穏やかな顔が消え、般若のような怒りと憎悪に満ちた表情が清姫の顔に浮かび上がる
(……距離は十分とは言えないか……)
出来ればもう少し距離を取る事が出来れば良かったのだが、清姫に動く気配が無い以上。この場に足を止めて清姫と戦うしかない。条件は不利だが、なんとかするしかない
(お前がいてもそうしただろ?高島)
今の横島のように、妖を家族として迎え入れていたお前なら、きっと清姫を止めただろう。私は両手をだらりと垂らしてそこから水を大量に放出しながら
「……居なかったからこそ言う、復讐など高島は望まない、そしてお前もいつまでも高島に縛られるな」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!!私の前から消えろシズクッ!!!」
子供のように癇癪を起して、怒鳴りながら炎を周囲に撒き散らす清姫に対抗するべく、私も大量の水で埠頭を覆う。これは勝つ戦いじゃない、清姫が1000年溜め続けた憎悪と悲しみを少しでも晴らす戦いだ
(……本当面倒だな)
面倒だとは思う。だけど私がやらなければならない、大嫌いでそこそこ好きな友人を縛っている過去から解き放ち、未来を見させる為にも……私は負ける訳には行かないのだから……
リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その5へ続く
清姫は憎悪MAX.義経は操られ自分の意思が消えつつあります。暗躍ガープ大活躍中ですね、柩?柩はメドーサを捕獲して護衛を入手できてニコニコって感じですね。次回は戦闘回です、清姫VSシズク。小竜姫VS義経。もちろん蛍達にも敵を用意しています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします