リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その2
「ずいぶんと見ない間に人界も変わりましたわね」
ずいぶんと長い間幽閉されていたので知らなかったのですが、少し見ない間にずいぶんと人界の様子は変わりましたね……遠くから私を見てひそひそと話をしている人間に、1000年前は着物が普通でしたが今は違うようですね、着物姿が目立ってしまうのでしょう。機会があれば現代風の服に着替えたほうがいいかもしれないですね……
(天竜姫……竜神王の娘を攫う……少しばかり心が痛みますが、これは仕方ないこと)
竜神王の温情で私は処刑されず幽閉と言う形で1000年過ごした。あと100年と少しで完全に開放される所でしたが…
…今高島様の転生者が居るのならば、100年後ではいつ再会できるか判らない。それならばセーレの甘言に乗って脱獄した
(天竜姫を見つけ出せばいいのですから早く済ませてしまいましょう)
ゆっくりと歩き出す。天竜姫の竜気はかなり高い、その気配を探っていけば良い……見つけてセーレに引き渡して高島様の転生者の場所を聞く……その後は
(どうしましょうか……)
きっとまたお尋ね者になってしまいますし……それでは高島様の転生者を見つけても意味がない
(少しばかり考慮が足りませんでしたわね……)
とは言え動いてしまった以上仕方ない。とりあえず天竜姫を見つけてから考えましょう……私はそう考えてゆっくりと変わってしまった人界を見ながら歩き出すのだった。
昨日の夜蛍と一緒に夕食を食べて、その帰りに渡された課題をやっているとピンポーンとチャイムの音が響く
「みむう?」
「うくー?」
昼寝ならぬ朝寝をしていたチビとモグラちゃんが顔を上げたので、とんとんっと軽く撫でるとまた丸くなって眠り始める。俺は手にしていたシャーペンを机の上において
「はーい?どちら様ですか?」
蛍とかなら勝手に入ってくるし、郵便かな?と思い玄関を開けると
「どちら様?」
緑色の髪をしたアリスちゃんと同じくらい……いやもう少し低いかな?小柄な少女がこっちを見つめていた。誰だろう?俺の知り合いじゃないし……誰かの家と間違えているのかな?俺がどう反応すればいいのか悩んでいると
「はい、あげはご挨拶」
扉の影から蛍が姿を見せて少女の背中を押すと
「こ、こんにちわでちゅ!あ、あげはでちゅ!」
舌足らずと言うのか、なんと言うのか雰囲気以上に幼い口調で挨拶をし、ぺこりと頭を下げた女の子に視線を合わせながら
「こんにちわ、俺は横島だよ。あげはちゃん」
緊張している様子のあげはちゃんの頭を撫でながら、蛍のほうを見ると蛍は手を合わせて
「お願い横島!私今から美神さんの事務所に行かないといけないの!少しの間でいいから、妹のあげはを預かって」
蛍に姉妹がいるって言うのは聞いていたけど……海外にいるんじゃなかったっけ?蛍の後ろのバイクを見ると荷物とかが括り付けてあるのが見えるので、もしかすると迎えに行って家に戻る前に美神さんに呼ばれたのかもしれないな
「いや、別に俺はいいけど……」
別に子供は嫌いじゃないけど……俺の目の前にいるあげはちゃんを見ながら
「俺でいいのか?」
あげはちゃんの気持ちが大事だ。あって間もない人間に預けられるのはいくらなんでも嫌なんじゃ?と俺が言うと
「……ヨコチマ」
ぎゅっと俺の服のすそを掴むあげはちゃん。あ、あれ?……なんか俺の予想していた反応と違う
「横島なら大丈夫よ!じゃ!お願いね!」
そう言うと玄関の先に停めてあったバイクに跨り走っていく蛍。俺の服を掴んでいるあげはちゃんを見て
「とりあえず、家の中に入ろっか?」
「うん!」
いつまでも玄関に居させるわけには行かないので、あげはちゃんの手を握り家の中に戻る
「……誰だ?」
リビングで洗濯物を畳んでいたシズクがあげはちゃんを睨みながら呟く、まぁ目つきが悪いだけで睨んでいるわけじゃないって判っているんだけど、あげはちゃんは完全に怖がってしまっていた
「蛍の妹だって、ちょっと預かって欲しいんだってさ。んで、あげはちゃん、シズクは目つきは怖いけど優しいから大丈夫」
お前それでフォローしているつもりなのか?と言うシズクの言葉を無視する。そういうのは苦手なんだから勘弁して欲しい
「あげはでちゅ」
俺の服を掴んだまま挨拶するあげはちゃん、会ってばかりだけどこれは若干懐いてくれていると思っていいのだろうか?蛍の妹なのだから、懐いてもらえるのは正直言ってありがたい
「……シズク」
「シズクちゃん?」
ちゃんづけされて困惑してるなシズクの奴。でも見た目の年が近いからシズクの友達になってくれるかもしれないし
「みむう?」
「うきゃーう?」
騒がしいの気付いたのかモグラちゃんとチビが起き出してくる。それを見たあげはちゃんはぱあっと花の咲くような顔で笑い
「か、かわいいでちゅー♪」
「みむううう!?」
「うきゅうう!?」
見た事のないあげはちゃんに急に抱きしめられて目を白黒させているモグラちゃんとチビ。すまないが、馴染むまでの間頑張ってくれ。両手を合わせて南無と呟いていると
「コン」
どうも事前に危険を察知して逃げてきていたタマモが俺の頭の上に上ってきた。これが野生動物の感なのだろうか?チビ達と同じように昼寝をしていたのに……
「クウ?」
ぺろっと俺の頬を舐めるタマモの頭を撫でながら、もう課題所じゃないと判断し資料やノートを鞄の中に片付けるのだった
……
「ヨコチマー?動かなくなったー」
「いやああああ!?チビ!モグラチャンンンン!!!」
あげはちゃんの容赦のない抱擁でぐったりして動かないチビとモグラちゃんを見て、思わず俺は女性のような悲鳴を上げてしまうのだった……
あげはを横島に紹介しようと思って向かっている途中におキヌさんに会って事務所に来るようにと言われて、仕方ないので横島にあげはを預けて事務所に向かうと
「だから!早く探さないと大変な事になるんですよ!私が!」
「あああ!?や、やめえ!?」
美神さんが小竜姫さんに肩を掴まれてがくんがくん振り回されていた。その衝撃的な光景に思わず停止してしまう、あの小竜姫様がこんなことをするなんて思えないし、もしかして今身体のコントロールを持っているのは逆行してきた小竜姫様?
【ほ、蛍ちゃん!は、早く助けてあげてください!私じゃ止めれないんです!】
おキヌさんの言葉に我に返り、美神さんを振り回している小竜姫様を止めに入るのだった……
「す、すいません、少し取り乱しました」
あれはどう見ても少し所ではないと思う。机の上でぐったりしている美神さんはどう見ても重傷だ
「そ、それで?わ、私に依頼って何?」
依頼?小竜姫様が?私が首を傾げていると小竜姫様は懐から1枚の写真を机の上におく
(あ……あれ?)
その写真を見て、私はおキヌさんと一緒に小さく首を傾げた。私の記憶では竜神王様の子供は息子であり、娘ではなかったはずなんだけど……写真に写っているのは長い前髪で目を隠した大人しそうな少女の姿
「竜神王様のご息女。天竜姫様です」
「ふうん……それでその天竜姫?がどうかしたの?」
写真を見ながら尋ねる美神さんに小竜姫様は青い顔をして
「じ、実はですね。今竜神王様は地上の竜族と会議を行うために下界に訪れているのですが、最近天界も安全とは言えなくなってきてまして」
その言葉を聞いた美神さんは真剣な顔をして
「韋駄天の暴走事件ね?」
「あ、そうでしたね。韋駄天九兵衛を正気に戻すのを手伝ってくれたんですから知ってますね……どうも神族を狂わせる何かが魔界に出回っているようで、近衛兵すら信用できない状況です」
お、思ったより天界の情勢が悪くなっている……お父さんが動かないから平和的にデタントになると思っていたんだけど、その可能性は限りなく低そうだ……小竜姫様はものすごく気まずそうな顔をしながら
「それで妙神山で預かっていたんですけど、つい横島さんの話をしてしまって」
はい?私と美神さんとおキヌさんの間抜けな声が重なる。なんで横島の話をする必要性が……
「そしたら横島さんに会いに行くってお供を連れて妙神山を出て行ってしまいまして」
な、何をやっているんだ……この馬鹿竜神は……私は酷い頭痛を覚えた。小竜姫様はそういうことをするんじゃなくて、そう言うのを止める側で、むしろそういうミスをするのは駄女神の筈だ
(ひ、ひどいのねー!?)
どこかから駄女神の声が聞こえた気がするけどきっと気のせいだ。気のせいじゃないなら、それで横島を観察している可能性があるので排除しなければ……
「あんたのせいじゃない!?なにやってんの!?」
「だから助けてくださいって言ってるんですよー!?下手をしたら神格剥奪に、角を切られて竜族からも追放されるかもしれないんですからああああ!」
号泣しかけている小竜姫様。確かに今の小竜姫の置かれている状況は最悪としか言いようがない、なんせ警護の任務に当たっているはずの人間の話で下界に行かれてしまっては、確実に責任は小竜姫様にあるのだから……
「はぁ……とりあえず横島君に連絡を取って見ましょう」
そう言って電話を取ろうとする美神さん。確かにそれが一番早いと思うんだけど……
「待ってください美神さん」
「どうかした?」
不思議そうな顔をする美神さんに私は真剣な顔をして
「横島の人外との遭遇率は200%です」
「……もう家に居ないかもしれないわね」
あげはがいるから散歩とかで家を出ているかもしれない。そうなればどこかで天竜姫と遭遇している可能性がある
「念のためにおキヌちゃん、横島君の家を見てきて、私達は横島君を探すから……あ、もしシズクが家に居たら協力してくれるように頼んで」
【判りました!じゃ、行って来ます!】
窓から飛び出していくおキヌさんを見送った美神さんは笑顔で振り返り
「うちの助手に掛けた迷惑料きっちり支払ってもらうわよ?」
とってもいい笑顔で小竜姫様に向かってそう言い放ったのだった……頷いた小竜姫様が涙目だったのはたぶん気のせいじゃないと思ったのだった……
なお美神達が天竜姫の捜索を始めた頃。横島はと言うと
「いい天気だねー、あげはちゃん」
「うん!そうでちゅね!」
蛍の予想とおりあげはと一緒に散歩に出かけていた……そしてやはりと言うかなんと言うか
「イーム?ヤーム?どうしましょう、はぐれてしまいました」
「ん?どうかしたのか?」
付き人のイームとヤームとはぐれ困り果てていた天竜姫とばっちり遭遇していた。流石人外遭遇率200%を誇るだけはある……
「ふーん?お供の人とはぐれちゃったのか?」
あげはちゃんと一緒に散歩をしているときに見つけた見慣れない格好をした女の子。どこと無く小竜姫様の着ていた服に似てるなあと思う、それになんでか向こうは俺を知っていたので公園で話を聞くことにする。
「わーい!」
「みむうー♪」
あげはちゃんは頭の上にチビを乗せて滑り台とかで遊んでいる、危なくないようにそれを見ながら少女の話を聞くことにする
「小竜姫が写真を持っていて、興味があって会いに来たのです」
「俺に?はは、そりゃ光栄だな。それで君の名前は?」
なんで小竜姫様が俺の写真を持っているんだろ?写真なんか撮らなかった筈なのになあと思いながら尋ねると
「竜神王が第一子。天竜姫と申します」
竜神王?なんか凄い名前が出てきた気がするぞ?明らかに普通の竜神様じゃないって判る。
(モグラちゃん判る?)
一応肩の上のモグラちゃんに尋ねて見るが、うきゅ?と言って首を振るだけ、ロンさんなら何か判るのかなあ?美神さんとかと合流したほうがいいのかな?と考えていると
「どうかした?」
じっと俺を見つめている天竜姫ちゃんに尋ねると、天竜姫ちゃんは肩の上のタマモを見て
「そ、その狐を……」
ああ、タマモを撫でたいのか、でもなあタマモは絶対に俺以外には懐かないしなぁ。一応肩の上を見るがツンっと顔を反らしているとても撫でたり抱っこできる状況じゃない
「えーと、タマモは凄い気難しいから……「えい」コーン!?」うそお!?」
普段だったら手を伸ばされた瞬間に逃げるタマモが簡単に捕縛され、もふもふされている
(さ、流石竜神やあ……)
全然見えなかった……こんな子供でも流石は竜神様何やなあと感心していると
「ヨコチマー!あげはお腹空いたー♪」
「みーむうー」
チビを頭の上に乗せたままお腹空いたと言うあげはちゃん。それに続くようにぐぐうっとお腹のなる音がする
「あう……」
「クーゥ!?」
どうやら天竜姫ちゃんもお腹が空いているようだ、タマモを抱き抱えたまま顔を隠している天竜姫ちゃんを見てほほえましい気持ちになりながら
(流石俺達のロリおかんだ)
散歩の前に使うかもしれないと言ってシズクが渡してくれた諭吉さん。財布の中には当然余裕がある、全員で昼食を食べてもまだ余ると思う。まぁ問題は1つ
(ほどほどにしてくれな?モグラちゃん)
たぶん大食いしている人の倍は食べるであろうモグラちゃんに小声でそうお願いし
「じゃあお昼を食べに行こうか?デパートでいいよな?」
いいよーと返事を返すあげはちゃんと、デパート?と首を傾げている天竜姫ちゃんに手を差し伸べて
「はぐれないようにな、じゃあ行こうか?」
「うん♪」
「はい」
俺はあげはちゃんと天竜姫ちゃんと手を繋ぎ、近くのデパートに足を向けるのだった……
美神達が天竜姫を探している頃アシュタロスはと言うと……
「ビュレト!頼みがある!」
アシュの野郎に与えられた部屋で酒を飲んでいると血相を変えてアシュの野郎が部屋の中に飛び込んでくる
「んだあ?また娘が心配だから「違う!確かに蛍は心配だがそうじゃない!」
俺の言葉を遮って叫ぶアシュタロスに何か不味いことになったのだと判断し、身体を起こして
「どうした?何があった?」
俺がそう尋ねるとアシュタロスは疲れ切った表情で机の上に焼き切れた札を置く。それは俺達ソロモンが扱う転移魔法の陣が刻まれた転移札だった。だがそれには大量の血痕があり、これを所有していた者が重要を負っていることが容易に想像がつく
「魔界を調べに行っていた部下が1人昨晩から行方不明なんだ。頼む探してくれ」
自分で動く事が出来ない分。使い魔を飛ばせるだけ飛ばして探していたからか、ずいぶんと弱っているのが判る。俺はボトルに残っていたワインを一気に飲み干し
「任せとけ、直ぐに向かう。探す相手の特徴は?」
ライダースーツに袖を通しながら尋ねる。魔界に向かっていたのはおそらくアスモデウス達の動向を探る為だろう、ならば俺にもその人物を探す義務がある。俺はアスモデウスの情報を得るためにアシュの所に来た。ならその中で襲われたと考えるべきだから、言いかえれば俺にも責任がある
「紫の髪をした竜族。たぶん知っていると思うが、メドーサだ」
大分前にアシュの奴に部下だと紹介されたあいつか、あいつなら顔は知っているし魔力も覚えている
「わかったすぐに探しに行く、それと……判ってるな?」
今この街にはかなりの数の竜族の気配が混じっている。それに何者かは判らないが膨大な霊力をもつ何かの存在も感知している
「判ってる。蛍達の方も何かあったら連絡する。ビュレトはメドーサを頼む、面倒事ばかりを押し付けるが頼む」
そう言って頭を下げるアシュに任せろと返事を返し、俺はアシュのビルを後にし記憶の中にあるメドーサの魔力の波長を頼りにバイクを走らせるのだった……
だがビュレトがメドーサを探す為にビルを出た時には既にメドーサはある人物に発見されていた
「くひ♪見つけたよ蛇神……君には聞きたいことが色々あるんだ」
川岸に這い上がって気絶したメドーサを発見した何者かが、楽しそうに笑いながら、気絶しているメドーサに軽く応急処置を施してから、ここに来る為に雇ったドライバーに
「彼女を車まで運んでくれたまえ、報酬はきっちり払うけど、他言無用だ。いいね?」
殆ど死人と同じ顔色をしているメドーサを見て引きつった顔をしているドライバーにそう指示を出し、自身は一足先に車へと戻っていくのだった……
リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その3へ続く
次回からは大きく話を動かして行こうと思っています。きよひーとかの襲撃をメインにして行こうと思っています。そして最後にメドーサを回収した何者か……一体何者ナンダー?……もう判ってますよね?あの予知探偵さんです。そしてロリには好かれやすい横島は平常運転をしております。あげはと天竜姫がどうなるかは楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします