リポート1 もう1度始めよう その5
「ん……ここは」
ゆっくりと目を開く、霊力の消耗と体力の消耗のせいで眠ってしまったのは覚えているけど
(ここはどこかしら?)
布団の上に寝かされているのは判る。お父さんに回収されたのだろうか?と考えていると
「すう……」
穏やかな寝息が聞こえてきて振り替えるとそこには横島が居て……思わずゆっくり身体を起こして
「横島?」
小さな声で問い掛けながら頬を突いてみる。意外な位柔らかい、それにくすぐったそうに身をよじる。そんな仕草に愛しさを感じ
(い、いまならば……)
邪魔者は誰も居ない……ちょっとだけ!ちょっとだけいたずらしても……そーっと顔を近づけようとした瞬間
「ちょいまち。私の息子を助けれくれたのは感謝するけど、悪戯は看過できないわよ」
その言葉に肩を竦めて振り返ると腰に手を当てている横島のお母さんが居て、私は直ぐに姿勢を正して
「すいません、少しだけ魔がさしました。許してください」
ここで気に入られないといけないので、いきなり好感度が下がるのは良くないと判断し、私は深く頭を下げたのだった……
「まぁ今回は特別に見逃すとしましょう。それよりも話聞かせてもらえるわよね?芦蛍さん?」
わ、私の名前を知っている!?どうしてと一瞬混乱したが、直ぐに理解した。百合子さんはとんでもないほどに計算能力が高いし、ハッキング技術もある。それで調べたんだと理解し服の乱れを素早く直してから
「はい。判りました」
あの合成獣との戦いは前座。ここからが本当の勝負ね……初めての霊力の消費で起きる気配の無い横島に布団をかけてから私は百合子さんの後をついて、横島の眠る部屋を後にしたのだった
妖怪と戦っていた少女の名は「芦蛍」最近頭角を現してきた企業「芦グループ」の総裁「芦優太郎」の娘となっているけど……それは最近追加された事で、目の前の少女には本来戸籍は愚か、名前すらない
(何を考えているのか見極めないと)
もし忠夫を利用する事を考えているなら相応しい制裁を……
「お嬢さん、出来たら年上のお姉さんとか居ないかな?」
「なにやっとる!この宿六が!!」
「げぶう!?」
慣れた手つきでナンパしているお父さん、もう大樹で良いか。大樹の腹に拳を叩き込み意識を刈り取って、手足を縛ってから奥の部屋に放り込む
「慣れてますね」
「ん?まぁね」
あの馬鹿と忠夫の事を考えると素早く処理しないとドンドン話がややこしくなるから
「それで蛍さん?貴女は忠夫を如何するつもり?」
蛍さんの瞳をじっと見つめる。何かやましい事のある人間は目を見られると咄嗟にそらすことがあるけど、蛍さんは私の目をしっかり見返して
「出来たら私と同じでGSになってほしいです……ううん。GSにならなくても良いです。ただ横島が私の傍に居てくれればそれで」
その目に映るのは純粋な忠夫への好意。少し暴走しがちだけど素直で良い子だ。どこでこんな良い子に出会ったんだろうと思いながら
「忠夫をGSにって言うのは正直賛同できないねえ。危険な職業だからね」
GSは確かに高給取りだけど、その代わり殉職率が極めて高い。親として息子にそんな危険な職に勤める事は認めることが出来ない
「そうですか……」
明らかに落ち込んでいる様子の蛍さん。その様子はなんと言うか好きな人を独占したいと言うのが見え隠れしている
(大丈夫よね?良い娘そうだし)
この手のタイプの子はこじれると危険だが、話してみてそう悪い子ではないというのは判った。もしこの子がこじれるとしたらそれは忠夫が原因になるだろう
「だけど忠夫がなるって言うなら、親としてはその意思を尊重するわ。その時は蛍さんがGSの心構えを教えてあげて」
「あ……はい!私頑張ります!それでえーとお名前は?」
あら。私としたことが名乗り忘れてたわね……
「百合子。横島百合子よ、所で紅茶入れるけど飲むかしら?」
宿六は多分今日は起きないだろうから無視して良いし、忠夫も起きる気配が無いので2人分で良いだろう。それに邪魔者が入らないのでゆっくり話をするのも悪くない
(もしかすると養女になるのかもしれないしね)
忠夫の判りにくい優しさを理解してくれる女性が居るかどうかが不安だったけど、蛍さんは良い子そうだから心配ないわね……私はそんな事を考えながら紅茶の茶葉の缶を空けるのだった……
お、恐ろしいわね。百合子さん……完全に自分のペースに持ち込んでいる。スーパーOLと言うのは伊達でもなんでもなかったようだ。だけどそれよりも
「お嬢さん。知り合いで若くて綺麗な「お前はええ加減にせんか!!」ぐはああ!?」
倒れる事をさえも許さない高速のラッシュ。どれもこれも角度が絶妙でダメージが深い角度で打ち込んでいる
(あのリバーブローは1級ね)
体重のばっちり乗っているし、何よりも角度が凄い。あのリバーならもしかすると世界でさえも狙えるのかもしれない……しかし大樹さんはどうもあんまり好きに慣れない気がする。横島に似てるけど何か駄目なのよね?何でだろう?アッパーで身体を浮かされ、サイドリバーブローを叩き込まれ悶絶している大樹さんを見て
(あ、横島と違って本気だからだ)
横島は場を和ませるため。もしくは失敗すると判っていてそう言う態度をとるが、大樹さんは本気だ。そして隙あれば本当に頂いてしまおうとしている。つまりスケベなただの嫌な奴と言う事で
「百合子さん。これをどうぞ」
釘バットを百合子さんに渡した。どこから出したかは聞かないで欲しい
「あら。良いバットね。ありがとう」
「む、無理だ!?そんな物で殴られたら!死んでしまう」
「1度死んで来い!この馬鹿亭主!!!」
フルスイングで吹っ飛ばされ窓から飛んで行く大樹さんを見送るのだった
「さてとこれでゆっくり話が出来るわね」
「そうですね」
頬に若干紅い何かのついている百合子さんは、慣れた手つきで頬の紅い何かをふき取り、紅茶に砂糖を入れながら
「蛍さんはどうして忠夫を好きって言ってくれるの?」
不思議そうな顔をしている百合子さんに私はにこりと笑いながら
「横島が誰よりも優しいからです、あの優しさが……何よりも私を惹きつけるんです」
「判るの?忠夫の優しさが」
信じられないという顔をしている百合子さんだったが
「判るのね!?忠夫の優しさが」
「判ります!横島は少しスケベだけど女性に優しいし、思いやりがあるって」
あと本人にやる気が無いのが問題だけど頭も良いし、運動神経も良い事を私は知っている
「蛍さん。今日泊まっていく?もう遅いし」
日付が変わってから2時間。そろそろ遅い時間で、女性が1人で歩くのは危ない時間帯だが
「大丈夫です。私これでも強いですから」
霊力は使えないけど美神さん仕込みの体術なら問題なく使える。そこいらの暴漢なんて返り討ちだ
「それでもよ。危ないから泊まって行きなさい、私はまだ貴女に聞きたいこともあるしね」
その目は私の全てを見透かそうとしているような目だ。これはもし泊まって行けば話さなくてもいい逆行の事まで話してしまうかもしれない。それは良くない、歴史の変更は少なくしないと思うように動けなくなってしまう。かといって嘘を言えば、もう横島に会えなくなるかも知れない。ここは少しだけ本当のことを話しておこう
「……横島は人間には余りもてないでしょうね。中身ではなく外を見る人間が多いですから」
その言葉にぴくりと眉を動かした百合子さんは私を見て
「蛍さんは人間じゃないのかしら?」
このことは隠しておくつもりはなかった。本当に横島と結ばれることを望むのなら、これは隠していてはいけない事だから
「……半分だけ魔族です。半分は人間です」
ルシオラとしての記憶が戻ったときに身体が少し変化したのを自覚している。今の私は半魔族と言った所だ
「……忠夫を好きって言ってくるのは魔族としての感性って事?」
確かにそうとも言える、だけど私は芦蛍、いやルシオラは横島を愛するだろう、記憶があろうがなかろうが……百合子さんが警戒しているのは判る。なら私は本当のことを話そう
「私はずっと前も横島を愛した。だけど結ばれなかった、私は死んでしまったから」
「何があったの……」
「酷い争いがあった。私は最初は横島の敵だった、だけど横島の優しさを知って自分の陣営を裏切って横島の味方になった……横島はその争いの中で私を庇ってくれた……だけどそのせいで横島は死んだ」
思い出すのは東京タワーでのべスパとの決闘だ。お互いに退くことのできない戦いだった
「だから私は自分が死ぬと判っていて、横島に自分の魂を分けた。私にとって横島は自分の命よりも大切な存在」
こうしてまた横島に会えた。だけどそれだけで満足出来なかった。あの時は結ばれなかった、だけど今回は横島と永遠を過ごせるかもしれない。邪魔者が居るけど
「忠夫と貴女は前世っていうやつの?」
流石百合子さん。与えられた情報とそして私のGS見習いと言う情報から正しい答えを導き出した
「はい。前世の縁って奴ですね。私は半分は魔族だから記憶を持って転生しました。だけど横島は人間だから違う、私は長い事横島に会いたいと思って生きていました。それが私。芦蛍です」
百合子さんの目を見つめてそう告げる。少し嘘は言ってるけど大筋は事実だ……
「転生してもなお家の忠夫を?」
私はきっと記憶があろうが無かろうが横島しか愛さない。それは魂のレベルで私に刻まれている事だ
「はい。私は彼を愛しています」
百合子さんはそうっと小さく呟くと私の頭をわしゃわしゃと撫でて。にっこりと笑いながら
「そう。じゃあ忠夫の事は蛍さんに任せるわ。ナルニアにも連れて行かないわ」
「百合子さん!?「だけど子供はまだ要らないからね?私はまだおばあちゃんとは呼ばれたくないの」
悪戯っぽく笑う百合子さん。これはまだ第一段階だけど認められたという事!これで少し有利な位置に立てたわ!!!
「はい!それじゃあまた来ます!百合子さん!」
今はこの喜びを発散するために走りたい気分だ。私は百合子さんに深く頭を下げ横島の家を後にしたのだった
「あ、蛍さん!?」
走って行ってしまった蛍を見つめる百合子はしょうがないなあと言う素振りで肩を竦め
「前世の縁かあ……忠夫は随分いい子に好かれているのね」
蛍の真剣な表情を見た百合子は蛍が嘘を言ってない事を悟ったのだ
「お袋。蛍は?」
頭を押さえてふらふらと歩いてきた忠夫を見た百合子は
「今帰ったわ。また来てくれるそうよ」
「そうかあ……安心したわぁ……まだ寝るなあ?」
「ええ。明日も学校なんだから早く寝なさい」
眠そうに欠伸をしながら部屋に戻っていく忠夫を見た百合子は
「これで少しは心配事が減ったかもね」
穏やかにそう微笑み。自分も部屋に戻ったのだった……なお釘バットでホームランされた大樹は
プカー
でっかいたんこぶを作って川をゆっくりと流れていたのだった……
最近見る奇妙な夢がある。知らない人物がたくさん出てくる夢だ、それなのにどこか懐かしいと思える。
(あの人は誰なんだろう?)
その夢の中心になっているのは紅いバンダナを巻いた青年。馬鹿をやるし、スケベだし、それなのにここぞと言う場面ではとても頼りになる。そんな不思議な青年……
「くすくすくす……」
「誰ですか!?」
突然響く何者かの声に咄嗟に周りを見るが誰の姿もない。そこまで認識した所で
(これはただの夢じゃない!?)
何者かが私の精神に干渉しようとしている。今の笑い声の人物か!?神剣はないが、それでも身構え警戒する。夢の中でも殺されれば、私の身体は乗っ取られてしまう。それだけは回避しなければならないからだ
「あの人の才能は私が見出したんですよ。誰も気付いてないうちから」
あの人とはあのバンダナの青年の事ですか……
「誇らしかった……どんどん強くなっていく彼の存在が……誰も気づけなかった彼の才能に気付いたと言う喜びもありました」
この声どこかで……しかし近くで聞こえるのに声を出している存在を見つけることが出来ない
「だけど……あの人は私の物にはなってくれなかった……悔しかったし、悲しかった……私は気がつけば彼を愛していたから」
ぞっとするような冷たさを伴った声があちこちから聞こえる。それは神族である私でさえも威圧するそんな声だった
「ふふふふふふふふふ……今はまだ早いけど、直ぐにあなたも理解できる。この気持ちが」
「な、何のことですか!」
そう怒鳴るが声の人物の姿は見えない。苛立っている私を見て声の人物は更に楽しそうに笑いながら
「少しずつ私の夢を見せてあげる。そうすれば判る……私の気持ちが」
その言葉を最後の謎の人物の声は聞こえなくなり、代わりに止まっていた夢の映像が再び私の脳裏の中に流れ始めたのだった……それを見ていると何故かその人物の事は綺麗に忘れてしまい、また夢を見るたびにその人物の声が聞こえてくる。そして夢を見るたびにその人物の事ばかり考えている自分が居る……
「貴方は誰なんですか……?」
私は夢を見る度に見る赤いバンダナの青年の事が気になり、気がつけば彼のことを考えていたのだった……
(ふふふふふふっふふふふふふふふふふ……ルシオラさん?ああ?蛍さん?どっちでも良いや……貴女に彼は渡しません……何をしてもね……)
一瞬夢の中の人物の声が聞こえた気がしたが、気のせいだと判断し日課の修練へ向かったのだった……
リポート1 もう1度始めよう その6へ続く
はい。最後に私の得意なヤンデレを出してみました。GSを知ってる人なら誰か判るでしょうね。私の意見ですけど、彼女はヤンデレが良く似合う。まぁあの巫女様の黒さと比べればマイルドですけどね!真っ黒いヒロイン。大好きです!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします