リポート19 開眼!疾走する魂! その4
カチッ……カチッ……時計が時間を刻む音がやけに大きく聞こえる。そろそろだろうか?
(蛍……それに横島君は大丈夫だろうか?)
今日暴走している韋駄天を捕える作戦を決行すると蛍には聞いている、出来ればビュレトに見ていてほしかったが、何かを感じ取ったらしく、さっきビルを出て行ってしまった……
「近づいて来ているな……しかもこの感じは……」
街全体に張ってあった探査結界。これは私の魔力で作ったものだから手に取るように分かる。蛍達の方に凄まじい速度で向かっていく魔族の気配。こっちは韋駄天だ、辛い戦いになると思うが……八兵衛もいるし、私とドクターカオスで作った変神ベルトもある、きっと何とかしてくれるはずだ。それよりも不味いのがこの上空に現れた魔力の方だ……
(この感じ……間違いない、ソロモンだ)
何十にも魔力遮断壁を使って魔力を隠しているが、間違いない。あの魔力の持ち主はソロモンの魔神だ……だが誰だ?ソロモンの魔神と言う事は分かるが、それが誰なのかが分からない……
(ガープ……いや違うな、あいつは自分じゃ戦場には立たない)
ガープは生粋の魔術師だ。自分1人で戦場に立つと言う事は少ない、仮に立ったとしても必ず仲間もしくは自身の作り上げたゴーレムなり、キメラなりを連れているだろう。あいつは研究者でもあったから……ビュレトの魔力の下に向かっていることを考えるとかつてのビュレトの仲間である可能性が高い。ガープではないとすると……
(となると……アスモデウスか?)
しかしアスモデウス一派の頭領とされているあいつが動くだろうか?あいつは策略家としても、指揮官としても優秀な奴だった……韋駄天の事もあり監視されている状態で動くだろうか
「しかしそれさえも罠か?」
動くわけが無いと思わせて暗躍する。それもまた兵法の1つ……かと言って今私が動いて私の事を聞いてない神魔族に見つかるリスクを考えると私が動く訳には行かない。メドーサもまだ戻っていないし、ベルゼブブやデミアンは当然論外……今私に出来ることはここでこうしてこれ以上魔族が侵入してこないように結界を維持するだけ……力があってもそれを振るうことが出来ないもどかしさ……
「なんとも辛いものだな……」
新幹線の近くで激しい神通力と魔力のぶつかり合いと、上空で今にも爆発しそうな勢いで高まっていく魔力の波長を感じ取りながら、私は自分の無力さを思い知らされているような気がして……結局私には何も出来ないのだと
(なんとか頑張ってくれ……蛍、横島君)
今の私は表立って動くことが出来ない、娘を護りたいと思っても、横島君を助けたいと思っても、今の私に出来る事はないのだ……唯一いま私が出来る事と言えば、こうしてこの場所から蛍達の無事を祈る事だけだ。しかも祈った所で何も変わらないと分かっている。それでも私は蛍達の無事をこの場所から祈り続けるのだった……
『キッヒャハハハハハハーッ!!!』
狂ったように笑いながら暴走している韋駄天が横島君にその爪を何度も繰り出す
『くっ……ヨコシマンソードが折れた!……力の差が……がはあっ!?』
インカムを通じて聞こえてくる横島君と韋駄天様の声が重なった苦悶の声。ヨコシマンソードとかなんか馬鹿なことを言っているので若干力が抜けるが、不味い状況なのは判った
(計算が狂った……まさかこんなに差があるなんて……)
韋駄天は新幹線の発射時間の前に現れ、周囲の建物を破壊し始めた。これで新幹線に乗っているのは私と蛍ちゃんとシズクそしておキヌちゃんだ。チビ達は暴走している韋駄天の魔力に引かれて凶暴化しかねないので事務所に置いてきた……最初こそ実力は均衡していたが、月が出てきてから操られている韋駄天の魔力が上昇し押され始めている
「やっぱり新幹線を止めたほうが良いんじゃないですか!?このままだと横島が危ないです!」
蛍ちゃんがあせった様子でそう提案するが、このスピードで停車するのは余計に危険だし、それに周囲の被害も考えると……新幹線を止めることは出来ない……となれば……顔を上げると当然見えるのは新幹線の天井。その上は既に足型がくっきりと浮かんでいる
『ヨコシマンビームッ!!』
『ヒャハーアアッ!!!』
目の前を凄まじい霊力の光が通過して、新幹線に風穴が開く。これ少しずれてたら死んでたわね……私が冷や汗を流していると
【美神さん!天井に穴が開きました!】
おキヌちゃん、私も見ていたから言われなくても分かっているわ。それとそれで決断した
「シズク。やっちゃって」
「……分かった」
もうこれは出来ればやりたくなかったが、これしかない。シズクにお願いするとシズクは両手から水を滴らせそれを振るった
『ぬおう!?あ、足場ああ!?』
『ヒャハア!?』
シズクの放った水の刃で新幹線の天井だけが綺麗に吹っ飛ぶ。足場が消えて体制を崩したまま落下してきた韋駄天様と韋駄天を見ながら
「蛍ちゃん!」
「はいッ!」
韋駄天の方に2人同時に精霊石を投げつける。しかし狙いは韋駄天ではなく、この新幹線全体に張り巡らせた捕縛結界の起動だ。本当は横島君に憑依している韋駄天に捕らえて貰って、ここに引きずり込んで使うつもりだったけど、あのままでは駄目だと判断したから天井を破壊するという手段になってしまったが、おおむね計画通りである
(カオス特製の精霊石粉末と聖水を応用した特製の捕縛結界、これなら)
韋駄天は鬼ではあるが神である、しかし逆を言えば神であると同時に鬼なのである。つまり神の中にまれに存在する善悪合一型の神である、本来ならば精霊石の効果は神の力に阻害され、その効力を失うが、鬼と化している今ならば……捕獲出来る。そう確信していたのだが……
『い、いかん!美神殿ッ!離れるんだ!』
警告の声が聞こえたと思った瞬間。私と蛍ちゃんは同時に宙を舞っていた
「ぐっうっ!?」
「いっつう……なにこれ……」
いきなり吹っ飛ばされ、気がついたら全身に激しい痛み……何が起こったのか判らない。鈍い痛みの走る腹部に顔をゆがめていると
『某が何とか食い止めてみせる!早く逃げるんだ!行くぞ!ヨコシマンソードだっ!!』
あわてた様子で叫び左手から光の刃を作り出し駆け出す韋駄天様。私が混乱しているとシズクが水の障壁を作りながら
「……超加速。韋駄天と一部の竜神が使える秘術。時を歪める術……あれを使われたら打てる手が何も無い」
いつもポーカーフェイスのシズクの顔が歪んでいるのが判る、それだけ不味い状況って事……どうする?どうやってこの場を切り抜ける?捕縛は出来ない……どうしてそれを教えなかったのかと尋ねると
「……超加速は韋駄天でも使える者の少ない秘術……まさか使えるなんて思ってなかった」
シズクは使えるの?と尋ねると、この姿では無理だと呟く。大人なら使えるかもしれない……でも確実ではないと呟く、どっちにせよ作戦を考え直さないと
【きゃあ!?よ、横島さんが!】
おキヌちゃんの声に顔を上げると
「ぬっぐう……」
左手から伸びていた霊力の剣が砕け、点滅しながら消えて行き、更にフルフェイスのヘルメットが砕け、そこから横島君の顔が見えている。ちらっと見ただけだが、血が流れているのが見えた……
「シズク」
「……やるだけやってみる」
私の言いたいことを理解したのか小さく頷くシズク。このまま護っていてもジリ貧だ。超加速が切れた瞬間を狙うしかないと……だがこの時。まだ私は侮っていたのだ、超加速の秘術の脅威を……
『ヒャッハハハハハッ!!!!!』
狂った笑い声が響いたと思った瞬間。周囲の椅子も、シズクの水の障壁が弾け飛び、私達も新幹線の壁に叩きつけられていた……その凄まじいまでの衝撃に抵抗する機会も与えられず、私は意識を失うのだった……
「行かないでいいのか?ビュレト」
「今お前に背を向けるほど俺は馬鹿じゃない」
下の方で爆発的に韋駄天の魔力が上がったのは感じている。だが目の前で人間に擬態して俺を見つめているアスモデウスに背を向けるほど俺は愚かではない、確かにアシュには気にかけてくれと言われたが、この場面ではそんなことを言える余裕は無い
「ガープか?相変わらず危ねえ物を作っているな」
おそらく時限式の何かを韋駄天の中に仕込んでいたのだろう。まったく今も昔も変わらないな……
「否定はしない。あいつの探究心は今も昔も変わらないからな」
小さく苦笑するアスモデウスを見つめながら、俺は本題を切り出すことにした。どうせ俺とあいつの道が重なることは無いとわかっている。だからこそ早く割り切りたかった……
「何をしに来たんだ?アスモデウス?」
俺がそう尋ねるとアスモデウスは俺に手を向けて
「一緒に来い。今の秩序を破壊するんだ」
「断る」
迷う事無くそう告げる。確かにアスモデウスとまた手を組むのもいいだろう、だがそれならば
「お前がこっちに来い」
「お断りだ」
アスモデウスも即座に俺の誘いを断る。お互いに判っているのだ、つまりこの会話には何の意味も無い
「やるか?」
剣を取り出してアスモデウスを睨むとアスモデウスは肩をすくめて
「……無粋だな、旧友と再会し、決別した……その様な場で剣を交わすほど、我は好戦的ではない」
「相変わらず気障な言い振りだ」
苦笑しながら剣を魔力へと戻す……俺自身もこの場で戦おうなんて思っていない。ただこれはお互いにとっての確認だった……
「お前も変わらない、いつだってな」
「当たり前だ。俺は俺だからな」
昔と何も変わっていない、だけどお互いの道は決して交わる事が無いほどに離れてしまった……
「さらばだビュレト。我が友よ……」
「ああ。じゃあな、アスモデウス。それと俺はお前を……いや、お前達を止めてやる」
俺がそう言い放つとアスモデウスは本当に小さく笑いながら
「そうか……なら止めに来るがいいさ、我達を止めれると思っているのならな」
そう笑って消えていくアスモデウス、俺は溜息を吐きながら新幹線とやらのほうに向かおうとして
「ん?これは……」
新幹線の中で爆発的に高まっていく霊力を感じ取って降下するのを踏み止まる
「なるほど……アシュが言っていたのはこの事か……ならば見させて貰おうか」
アシュの野郎が言っていた。横島と言う男は英雄の器だと、しかし俺にはそんな風には思えなかった。だが今この瞬間……その考えが少しだけ変わった
「見届けてやるぜ、横島忠夫。俺の期待を裏切るなよ」
俺は小さくそう呟き、天井の無い新幹線の方へと視線を向けた所で、思わず呟いてしまった
「あー酒が欲しい……」
きっとこれはいい見世物になる。最悪自分が助ければいいと思った瞬間思わずそう呟くと
「どうぞ」
「お?どう……誰だ?」
差し出された杯を思わず受け取ってしまったが、おかしいと思いながら振り返ると
「げ……ブリュンヒルデ……」
黒いドレス姿の女がにこやかに微笑んでいた、ブリュンヒルデ……魔界正規軍司令オーディンの娘。何度か顔を合わせたことはあるが、正直こいつは苦手だ
「どうもビュレト様。お久しぶりですね、確か……前のパーティの時にお会いしましたわね?」
「ああ、あの流血騒動は忘れたくても忘れられん」
パーティの筈が処刑場になっていたあの惨劇を忘れることは当分出来そうにない。
「なんでお前がここに?」
「英雄の気配がしました」
にこっと笑いながら言うブリュンヒルデ、その視線の先は横島の姿……
(俺しーらね)
アシュの野郎の娘が横島を好いているのを知っているが、こいつは人の話を聞かないし、そもそも俺がそこまでしてやる理由も無い。俺はとなりで嬉しそうに横島を見つめているブリュンヒルデに邪魔はするなよ?と警告し、彼女から受け取った杯の中身を煽るのだった……
(すまない、横島君。君の身体をこんなに傷つけてしまった……)
頭の中に響く声、韋駄天の八兵衛と名乗った神様に何が起こったのかを話してもらい、全てを理解した。ダッシュとはこの
八兵衛が名乗った名前らしい、さっきまで自分の身体を包んでいた衣装の事は出来れば忘れたい……が
(くそ……俺はぁ……何も出来ない)
さっきまで蛍達の所に操られている韋駄天を行かせない様にしていたが、超加速とやらで動く事も出来ず、徹底的に叩きのめされ動く事も出来ず、こうして地面に倒れるだけ……しかもさっきまでは八兵衛が戦っていたんであり、俺は何もしていない……自分の無力さばかりが突きつけられる
『キヒャヒャッ!!』
狂ったように笑いながら倒れている蛍の方に歩き出す韋駄天。意識はあるようだが、動く事が出来ないのだろう。身動ぎするだけで逃げる気配が無い
『ヒャヒャ』
(止めろ……)
その爪を蛍に振り下ろそうとする韋駄天。拳を握り締めて無理やり身体を起こそうとすると
(止めるんだ!今動けば!治療はまだ)
(うるさい!!!)
頭の中に響いた八兵衛の声にそう怒鳴る。自分の身体がどうなっているかなんて自分が一番良く判っている、切れた額から流れた血で視界の半分が塞がっているし、手足の感覚もまるで無い……立ち上がることが出来ないって事も自分が一番良く判っている……それでも!それでも……
「蛍に手を出すんじゃねえええええッ!!!!」
何にも出来ない俺を認めてくれた蛍が傷つく所を黙って見ている事なんて出来はしない
『キヒ!』
俺が立ち上がると同時に韋駄天が地面を蹴った勢いで近づいてきて、俺に蹴りを叩き込んでくる
ボキボキ……
「がっはあ……」
身体の中で骨が砕ける音と肺から強制的に吐き出された空気がうめき声となって、俺の口から零れる
「横島ぁッ!!!」
蛍の悲鳴にも似た俺を呼ぶ声がする。倒れかけたが、足を新幹線の床に叩きつけるようにして踏み止まる。
「ぜー……ぜー……全然……平気だ」
(無理だ!それ以上動くな死ぬぞ!)
うるさい……どうせ俺に出来ることなんて無い……だけど、それなら……蛍達が動けるようになるまで……サンドバッグにはなれる……口から流れた血を拳で拭いながら
「ま……まだだああッ!!!げほおッ!」
立ち上がった瞬間腹に突き立てられる拳。そのあまりの激痛に意識を失ったほうが楽だと思った……それでも
「はーはー……神様もあれだな……人間1人も……倒せないんだなぁ?」
『キヒャアアッ!!!』
俺の挑発が聞こえたのか何度も拳を振るってくる韋駄天の拳を歯を食いしばって耐える。蛍やおキヌちゃんの悲鳴が聞こえる……もう痛いのか、苦しいのかそれさえも判らないけど……それでも倒れることはせず、視線だけで抵抗の意思を伝える
(もう止めるんだ……死んでしまうぞ!?)
八兵衛の声が聞こえるけど、もうその言葉に返事をする気力も無い
『ヒャッハ!!!』
韋駄天が放った閃光が迫ってくるのが見える。自分でも驚くほど冷静に死んだなあと思った瞬間……
【「横島ぁ!横島さん」】
蛍とおキヌちゃんとシズクの俺の呼ぶ声が聞こえた……
(死にたくない……)
まだ死にたくない……まだ俺は何も成し遂げてない、まだ死にたくない……そう思った瞬間
『ケヒャア!?』
韋駄天の困惑した声が聞こえる、俺自身も混乱していた、俺の身体を焼き尽くすはずだった閃光はベルトに吸い込まれ消えたからだ……しかもそれだけではない
【イヒヒー♪】
楽しそうな笑い声を上げてベルトから何かが飛び出して、韋駄天と俺の前に浮かんでいたのだった……
あれは……なんだ?私は横島の前に現れた黄色い何かを見て困惑していた
【イヒヒー♪ヒヒー♪】
楽しそうな笑い声を上げながら横島の前をくるくると飛び回っている、韋駄天も混乱しているようで動く気配が無い、今のうちに……遠くに落ちているペットボトルの水を操って自分の近くまで引き寄せて、一気にその水を飲み干す……
(これで動ける……)
韋駄天の攻撃で失っていた水分を取り戻した所で、横島の治療をと思い立ち上がろうとした瞬間
【イヒヒー♪】
「う……これは……」
その黄色い何かはベルトの中に吸い込まれるように消えて行き、代わりに黄色い球体な様なものがベルトから吐き出され、その姿を変えていた
(あれはなんだ……凄まじい霊力を放っている……)
横島の腰のベルトと手の中の球体からは凄まじい霊力が放たれている。その波長は横島の物と同じで……まさか横島の霊力の一部が開放された?
『ヒャハハハハッ!!!』
「うわあ!?」
韋駄天が横島に向かって拳を振るう。しかし怪我をしていた筈の横島はスムーズに動いてその拳を躱し
「なんか知らんけど……頼むぞ!」
ベルトのバックルを開いて、そこに黄色い球体を押し込む
【イヒヒー♪】
【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】
ベルトの中から先ほどの黄色い何かが飛び出して、ベルトから響く歌にあわせてくるくると回転している
【どうなっているんですか……】
おキヌが目を丸くしながらそう呟く、私もどうなっているのか判らない
「お父さんが何かを仕掛けてた……いや、でもそんな話聞いてないし……あいたたた……」
「ちょっとシズク……早く治療……本当に痛いから……」
怪我が響くのか顔を歪めながらそう言う蛍と美神。横島は大丈夫そうだから2人の治療に向かう
「えーとこうか!?」
【イヒヒー♪】
自身の周りを飛び回る何かに言われるがまま横島はベルトに付けられていたレバーを引っ張る
【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?】
【イヒヒー♪】
「うわっ!」
黄色い何かがいきなり突っ込んできたので横島は身をそらす。伸ばされた手に黄色い何かの手が当たると
【OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】
横島の姿がアーマーに包まれ、その上から踊っていた黄色い何かが覆いかぶさりその姿を変える
「「「は?」」」
「んじゃこりゃあ!?」
『ヒャハア!?』
一瞬で姿が変わった横島に横島含め全員の驚愕の声が重なる。黒いアーマーには奇妙な模様が浮かび、腰には多きなベルト。黄色いパーカーとか言う服を着込み、顔にはギザギザの輪郭を持った目や口のマークが浮かび、額には1本角……見ているこっちも驚いているが、横島自身も……
「どどど……どうなっているんだよ!これえ!?」
自身の身体を見て驚愕の悲鳴を上げている。いきなり自分の姿が変わればそれは驚くと言うものだろう……
『ヒャハア!?』
「どわあ!?……あ、あれ?」
「「「新幹線の中に埋まったア!?」」」
韋駄天の拳を躱した横島だったが、そのまま新幹線の床の中に下半身が吸い込まれるように消える
『ヒャハ!?』
「なんか知らんがチャーンスッ!!!」
困惑している韋駄天の顔面に拳を叩きつける横島。韋駄天が面白いように飛んでいくのを見て
「これなら行ける!行くぞぉッ!!!」
自分に気合を入れる為なのか、頬を叩いてから韋駄天へと向かっていく横島
『ケヒャ!』
「のひゃ!?」
韋駄天の奇声と横島の奇声が重なる。横島は逃げてはいる様子なんだけど、新幹線の床や壁の中に潜り込んでその攻撃をかわして、困惑している韋駄天の背後に姿を見せて殴りつけている。
(卑怯……いや、でもこれでいいのかもしれない)
実力に差があるのだから、不意打ちでも卑怯でも勝てば良い……だから横島の戦術は間違いではない
『キヒャアアッ!!!』
現れては消えるを繰り返す、横島に痺れを切らしたのか韋駄天が私達を狙い始める
「……くっ!強い」
咄嗟に氷の障壁を作るが、蛍を治すのに水を使いすぎた……防御に回す水が足りない
「大丈夫なのシズク!?」
「……あんまり大丈夫じゃない」
心配そうに尋ねてくる蛍にそう返事を返す、今のは耐えることが出来たけど……連続で耐える事は出来ないかもしれない……私の表情が歪んでいるのに気づいた横島は
「このおっ!」
『ケヒャ!?』
韋駄天の腰の所に抱きついて美神の方を見て
「後で拾いに来てください!頼んます!!」
「ちょっ!?横島君!?」
そう叫ぶと韋駄天に抱き着いたまま、さっきの攻撃で穴の開いた新幹線の車体から飛び出していく
「おキヌさん!追いかけて!」
【判ってます!早く追いついて来てくださいね!】
おキヌに横島を追いかける様に頼んだ蛍と美神はそのまま運転席の方に走り出す。私はその背中を見て
「……私も追いかける。早く合流しに来い」
ちょうど川が見えたので私も穴の開いた車体から飛び出し、川の中に飛び込むのだった……
霊力が充実している……横島君と某の神通力が完全に同調しているおかげか、横島君の身体能力が大幅に上がっている……
『キヒャ……』
「おらあ!!」
超加速を連続で使用しすぎたせいか、肩で息をしている九兵衛……
(横島君!今だ)
【イヒヒー♪】
某と謎の黄色い幽霊の声が重なる。某にはいヒヒっとしか聞こえないが、どうも横島君にはちゃんと声が聞こえているようで、
「こうだな!」
ベルトのレバーを勢いよく引く横島君。それと同時に
【ダイカイガン!ウィスプ!オメガドライブッ!!!】
某の神通力と横島君の霊力が混じった巨大な魔法陣のような物が目の前に展開され
「いっけええ!!!」
その魔方陣目掛けて蹴りを叩き込む、その魔法陣のエネルギーを全身に纏った横島君の蹴りが九兵衛に叩き込まれた
「げはッ!」
大きく咳き込むと九兵衛の口から赤い宝石が飛び出す、それは凄まじい魔力を帯びていてあれが原因で九兵衛がおかしくなっていたのだと判る。だがこれで終わった……
(お疲れ様横島君、君のおかげ……なんだ!?)
横島君に労いの言葉と感謝の言葉を口にした瞬間。九兵衛の口から飛び出した宝石に満ちた魔力が異常に増大し
【ギャオオオオッ!!!】
宝石は一瞬で化け物姿へと変化する。血のような真紅の瞳を輝かせ、凄まじい咆哮を上げるのだった……それは生まれ出たことを喜ぶような、それとも目の前の横島君と九兵衛を殺すことが出来る歓喜の喜びのように某には聞こえるのだった……
リポート19 開眼!疾走する魂! その5へ続く
横島がゴースト系ライダーに変身しました~次回は九兵衛を暴走させていた元凶との対戦です、ゴースト系だからフォームチェンジもありますよ?詳しい解説はリポート19完結後にご紹介したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします