リポート19 開眼!疾走する魂! その3
(あれは無いわー……)
私はお父さんの作った謎の変身アイテムを見て心の中でそう呟いた。フルフェイスのヘルメットに、銀色のスーツにプロテクター。両手には赤っぽいグローブ、足にはブーツで首元にはマフラー……
(絶対徹夜のノリだわ。あれは……)
徹夜をしていると人間おかしくなる。それは魔神でも同じだったようだけど……どうせあそこまでするなら声まで変えてあげて欲しかった……あの立派なフルフェイスは何の為にあるとお父さんに問い詰めたい
「……蛍。横島はどうなった?私はこんなときどうすれば良い?」
ごめん私も判らないから答えられないわ……おキヌさんが韋駄天が憑依するのは知っていたみたいだけど
【どうしてこんなことになって……いえ、前のトランクスにランニング姿も酷かったですけど、これは更に酷いです】
トランクスにランニング!?初めて聞いた横島のトラウマになっている韋駄天憑依時の姿を聞いて私は思わず絶句した。いくらなんでもそれは酷いと思う
「とーう!!!」
そしてノリノリで悪霊を叩きのめしている韋駄天。きっと本人的にはこのスーツで完全に誤魔化せていると思っているんだと思うんだけど……声が横島のままだから当然バレバレで
「みーむ!みみみー!みむう!」
「うきゅ!うきゅー!!!」
横島を元に戻してと言いたげに擦り寄ってくるチビとモグラちゃん。私も出来れば元に戻したいんだけど、今韋駄天の憑依を解くと横島が死んじゃうからそれが出来ないのが辛い
(あんなので本当に横島の霊力の上限が上がるのかしら?)
お父さんとドクターカオスの見解を聞いたけど、本当にあんなちぐはぐなスーツにそんな効果があるのか?と思ってしまう。ただ横島の恥が増えているような気がしてならない
「この感じ……シズク。横島君に憑依しているのは神族かしら?」
「……あまり上級じゃないけど神族。良い度胸をしている」
不機嫌そうに言うシズク。最近知ったけど、シズクってかなり独占欲が強いようだ。しかし横島は私のなのだから、その独占欲は迷惑としか言いようがない
【なぜ当らないいいィ!!!私には足りない物など無い!!私は完璧な社長だったああッ!!!】
あんな変な格好をしているが、流石韋駄天。中々強力な悪霊なのだが、全て攻撃を回避し、拳を叩き込んでいる
「力はあるが、それだけ!お前には決定的に足りない物があるッ!!」
ビルの中だというのに、鋭角な機動を描きおぼろげに姿を見るのがやっとだ。悪霊の周りを高速で走りながら何かを叫んでいるのが聞こえてくる
「お前に足りないものは、それは!情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!」
……あんな変な格好で何を叫んでいるのだろうか?どう考えても、あっちの方が思想も理念も頭脳も気品も優雅さも何もかもないようにしか思えない
「……馬鹿か」
呆れたように呟くシズクの声がやたら大きく聞こえる。私も馬鹿としか思えない
【けひゃっ!?】
突然悪霊の目の前に現れ、アッパーで悪霊を殴り飛ばすと同時にクラウチングスタートの姿勢を取り
「速さが足りない!!ヨコシマン外道焼身霊波キィーックッ!!!」
【ぎゃああああ!?】
凄まじい勢いで殴り飛ばした悪霊を追い抜いて、回り込み後ろ回し蹴りを叩き込んで悪霊を消滅させ、人差し指を天井に突きつけている韋駄天。外見は変態だし、言動も怪しいけど
(実力は本物なのよね)
これでもう少し真面目で普通だったのならば言う事が無いんだけど……人差し指を天井に突きつけていた韋駄天が拳をぐっと握り締め
「たかが悪霊の分際でこの韋駄天八兵衛に勝てると思っているのか」
あの馬鹿神!!!ボロをなんで出すかなあ!!!
「韋駄天!?ちょっと詳しく話を」
韋駄天の名前を聞いて美神さんがそう怒鳴ると韋駄天は明らかに狼狽して飛び去っていき
「美神さーん」
ビルの奥から走ってくる横島。今は韋駄天の気配はまったくしない、どうやら横島の魂の中に完全に紛れ込んでいるようだ
「……横島?どこかおかしいところは無いか?」
「うきゅー!うきゅきゅー!」
「みむう!みみみみー!」
「クウン……」
「ん?どうしたんだ?シズクにチビにタマモにモグラちゃんもそんなに心配そうにして?」
不思議そうに首を傾げる横島。どうやら記憶のほうは完全に残ってないみたいね……
「なんにも覚えてないの?」
「なにがっすか?」
美神さんが念のためと言うことでそう尋ねるが、横島は訳が判らないという感じで首を傾げるだけ。
「はぁまあ良いわ。じゃあご飯でも食べに行きましょうか?」
そう笑う美神さんに連れられ昼食を終えた後。横島達を家の前で降ろしてから
「あの首都高荒しの除霊の打ち合わせをするからシズクは借りていくわ。横島君は家でおとなしくしていること、良いわね?」
「うっす」
チビとタマモ。それにモグラちゃんを抱きかかえる横島が家の中に入ったのを確認してから事務所に戻る
「首都高荒らしも横島君に憑依しているのも韋駄天。この2体に何か関係性があると思う?」
書類を纏めながら尋ねてくる美神さん。私は横島に憑依している韋駄天「八兵衛」が魔族に操られている「九兵衛」を助けに来たということを知っているが、当然その話をするわけにはいかない。どうやって話をいい方向に持っていくか?と考えていると
「……話を聞く限りでは首都高荒らし?とやらをしている韋駄天は正気じゃない。だから横島に憑依している韋駄天はその韋駄天を退治、もしくは捕縛しに来たのだと思う。神族のなかで最近まずいことになったという話をよく聞く」
シズクがぼそりとそう呟く。その話を聞いて私は思わず
「連絡取ってるの?」
一応シズクも神族だし、竜神だからそういう繋がりがあるのは知っているけど、連絡しているような素振りは無かったし……どうやって連絡を取っているのだろうか?と思って尋ねると
「……馬鹿なミズチが私を指導者にとか言ってたまに降りてくる。あとは叩きのめして話を聞きだす。簡単なこと」
にやあと黒い顔で笑うシズク。こういう笑顔を見ると腹黒にしか見えないのよね……っていうか叩きのめすって何しているのよ
【お仲間なんですよね?なんで叩きのめすんですか?】
おキヌさんがそう尋ねるとシズクは面白くないという感じの顔をして
「……私が竜神界に来ないのは横島がいるからだとか言って、ちょっかいをかけようとしていたから叩きのめした」
このちょっかいは明らかに暴力を振るうという感じのニュアンスが含まれていた。
「仕方ないわね、それはミズチが悪い」
【ですね】
横島に危害を加えようとする存在を生かしておく必要は無い、だからシズクの対応は正しいと思う
「なんか頭痛くなってきたわ……それでシズク。神界の問題って?」
美神さんがそう尋ねるとシズクは真剣な顔をして
「……神魔族の失踪事件が多発している。神族からも魔族からも……吸血鬼とかあのハゲの事もある。なにか大きな事件の前触れなのかもしれない」
その言葉に重い空気が事務所に満ちる。神族だけや魔族だけならまだ分かる。だけど両方から失踪していると言うのはどう考えても異常事態だ。私もお父さんに聞いてなければ美神さんと同じ反応をしていたと思う
「……この話はあまり広げるな。まだ調査段階だからな」
「ええ、分かっているわ。下手に話をして混乱が広がっても困るしね、いい話をありがとう。じゃあ昨日の首都高荒らしの情報を纏めなおすわよ。近い内にまた現れるのは判っているんだから」
美神さんの言葉に頷き、机の上に広げられている昨日の首都高荒らしの出現場所などが纏められたリポートに全員で目を通すのだった……どうも今回の事件もきな臭いし……しっかり対策を取っておかなければならないようだから……
美神さんと蛍に日記をつける事は大事だと勧められ、日記をつけ始めて約二ヶ月。なんでもこうして記録に残しておく癖をつける事で、除霊のリポートを書く練習をしたり、見たことを文で書ける表現力を身につけるということらしい、これもGSでは必要な技能らしいので毎日日記をつけるようにしている。今日も陰陽術などの練習をしていたんだが……どうも出力が増しているような気がする。かなり長い事掛かったが、やっと俺の霊力の覚醒が始まったのかもしれないわね?と言う美神さんと蛍の言葉が非常に嬉しかった。これからも頑張って修行をして、2人の足手まといにならないようになりたいと思う
最近時々記憶がなくなることがあって非常に怖い、特に除霊の際にそれが激しいのだ。日記の間隔が空いてしまうのはこの記憶の無い時が多いからだ。最初は気絶していたんだろうと思っていたんだけど、あまりに頻度が多すぎる。シズクにタマモが護ってくれるのだから滅多に気絶することは無いはず……それにチビは電撃の出力が上がっているし、モグラちゃんも大きくなって爪や体当たりをして護ろうと頑張って……なんだろう、見た目幼女と動物に護られているって……こうして改めて文に書くと切ない……早く霊能力を使えるようになるといいと改めて思うのだった……
あまりに記憶の無くなる頻度が多いので美神さんと蛍に相談してみる事にした。それに最近は近所の子供に「ダッシュ」と言われた。ダッシュとは何なのか?それと何故か最近やけに疲れているし、筋肉痛も酷い。これは俺が意識を失っている間に何か起きている、絶対起きていると確信て尋ねると
「横島君。疲れているのね?今日はゆっくり休みなさい」
「そうよ?大丈夫。何の心配も無いから」
とてつもなく慈愛に満ちた表情でそう言われた。蛍ならまだ分かる、だが美神さんにされるとなんか不安になってくる
【今日は横島さんの好きな料理を作ってあげますから、今日はもう帰りませんか?】
そういうおキヌちゃんに金縛りで縛られ、強制的に家に連れて帰る事になった。なんと言うか、すごく怖い経験をした……
「あーやっぱ何も教えてくれないかー」
日記を書き終えて寝転びながらそう呟く、何か触り程度だけでも教えてくれたら良いのに……記憶が無くなるのは俺自身なのだから俺には知る権利があると思うんだけどなあ
「俺も寝るか……」
箪笥の上の籠で眠っているチビと布団の近くの籠で寝ているタマモ。そして部屋の隅で眠っているモグラちゃん。重なって聞こえてくる寝息に俺も眠くなって布団に潜り込み、眠りに落ちるのだった……
『すまぬな。まだしばらく身体を借りるぞ……』
……横島の記憶が途絶えているのは、当然憑依している韋駄天の原因だった……とは言え、除霊をしているのではない、暴走している九兵衛の痕跡を探していたのだ。アシュタロスの作ったベルトに自身の神通力の大半を残し、横島の身体から抜け出した八兵衛はそのまま合流地点へと向かう
「遅いぞ。八兵衛」
「グルルル」
満月の光を浴びながらビュレトが眉を顰めながら八兵衛に話しかける。ビュレトが跨っているのは美しい漆黒の毛並みと金色に輝く2本の角を持つ魔獣「バイコーン」だ。本来はその背を誰にも許すことの無い、誇り高い魔獣だ
「すまぬ、横島君もさすがに違和感を覚え始めていてな」
「ならば、今日こそ見つけるぞ。行くぞ、これ以上大事になる前にな……」
「ああ。人間に迷惑をかけるのも申し訳ない、それに……いつまでも横島君に迷惑をかけるわけにはいかないからな」
今日こそ手がかりを見つける。そんな強い意志を込めた言葉を交わし、ビュレトと横島の身体を抜け出した八兵衛は夜道を走り抜けるのだった……
夜道を駆けるバイコーンに跨ったビュレトと霊体のまま駆ける八兵衛を見つめる金色の蝙蝠……ガープの使い魔だ。使い魔の目を通してビュレトを見つめているガープはゆっくりと目を閉じてそのリンクを断ち切る
「ビュレト……やはりお前だったか……」
魔界から抜け出る高密度の魔力を探知して人界へ使い魔を放ったが、やはりビュレトだった……そんな気はしていた。あいつは口は悪いが友想いの良い奴だった……
「大方我とお前を止めにきた……と言う所か?」
「アスモデウス、勝手に入ってくるな。それと下手に触ってどうにかなっても知らんぞ」
フラスコを掴み上げているアスモデウスにそう警告する。それはあの韋駄天に使った狂神石の残りだ。無論ソロモンである私達には効果がないと思うが、試作型と言うことで色々改良しているので100%ないとも言い切れない。まだ始まったばかりでアスモデウスに倒れられても困る。アスモデウスは私の警告を聞いてフラスコを元に場所に戻しながら
「あの韋駄天。完全に魔族に堕ちていないが、それも計算のうちか?」
「ああ。あれでいいんだ……不信感と言う種は蒔いたからな」
神族が魔族に堕ちる……それはつまり裏切り者が存在するかもしれないという不信感を神族に与えるための物だ。それに……
「狂神石は韋駄天の存在を十分に学習している。それで良いんだ」
学習?と呟くアスモデウス。今ここで話してもいいが、それでは面白みが足りない。楽しみに待っていれば良いと言うとアスモデウスが
「最近我々を嗅ぎ回っている魔族がいるようだが……特定は出来たのか?」
「探してはいるが、特定は出来てないな。まぁうっとうしいのなら誘き出して捕らえれば良いだろう?」
わざわざ探すのではなく、向こうから出てくるようにすればいいのさと言いながら禁書を開く、アスモデウスもこれ以上は邪魔になると判断したのか研究室から出て行こうとして
「ガープ」
「なんだ?」
私の名前を呼ぶ響きの中に真剣な響きを感じて、禁書から顔を上げると
「ビュレトは仲間になってくれると思うか?」
魔界の奥から出てくることの無かったビュレトが人界にいる。それがアスモデウスを悩ませているのだろう……ビュレト・私・アスモデウス・ベリアル……魔界の4大公爵として、そして私達は親友同士だった……
「忘れるな。ビュレトは私達を裏切ったんだ、あいつとは違う」
「……分かっている。分かっては……いる。だがあの時は仕方なかった」
私は腕を切り落とされ、魔術の行使が出来ず。アスモデウスはその翼と自慢の槍と盾を失った……ベリアルは負傷が酷く、渋々槍を置き療養に入った。あのまま続けていたら確かに私達は死んで封印されていただろう……だが戦うことが出来たのに、その剣を置いたビュレトを私は許す事が出来ない
「……我はあいつと話がしたい」
「好きにすればいい。だが……」
私に向かって手を向けるアスモデウス、あいつだって馬鹿じゃない。分かっているんだ、ビュレトと私達の道が繋がる事はない、かつて手を取り合ったこの手はお互いの命を奪う為だけにある……
「ならば行け。迷いは捨てて来いアスモデウス……お前は私達の頭領だ。それが悩んでいては示しがつかない、そこの馬鹿を連れて来ているのならさっさと行け」
「……すまん」
溶けるように消えていくアスモデウス。入れ替わりで姿を見せたセーレは
「馬鹿って酷くない?」
本体でくることが出来なかったので分霊で来ているセーレを睨む。この子供っぽいしゃべり方は聞いていて腹が立つ。こんんなのが仮にも私と同じソロモンの魔神だと思うと涙が出る
「黙れ馬鹿」
どこへでも移動できる能力を持ちながら早速穏健派に目をつけられたこいつは馬鹿でいい
「いや、それは悪かったと思っているんだよ」
「それなら仕事だ。こことここに行って来てくれ」
げえっと呻くセーレに紙を渡して部屋から追い出す、指示のとおりやるだけだから頭の足りない分霊でも十分に達成できるだろう……
「最初の封印の地は……ほう、これはまた好都合だな……」
魔人封印の地の要は香港。かつてアシュタロスが原始風水盤を作る土地として選んだ地……無論ガープがそれを知るはずも無いが、あの場所は龍脈の上であり、これ以上ないと言うほどに極上な霊力の通り道だった。その余りに好都合な場所に魔人の1体が封印されていることを知り、私は思わず笑みを零すのだった……
『韋駄天の目撃場所ですけど、徐々に市街地の中心部に向かっているみたいですよ?だからたぶん今夜の出現場所は……新幹線の線路の近くだと思います』
「ありがと、この山は私に任せてね」
琉璃から電話で韋駄天の出現場所の予想をすることが出来た。前回は失敗したけど今回は絶対に失敗しない
『気をつけてくださいね。なんかどんどん凶暴になっているみたいですから』
確かに最近の韋駄天の暴れ具合はすごい。車やパトカーを破壊しまくっていると聞いている。それなのに死者が出ていないのは韋駄天が完全に操られている訳ではないという証拠だと思う
「気をつけるわ。じゃあ琉璃も仕事頑張りなさいよ」
自分の考えに確信が持てた、仕事の最中でもこうして私の話を聞いてくれた琉璃に感謝し、電話を切り正面を向きなおす
「……新幹線……あの長細い箱のことか?」
話を聞いていたシズクがそう尋ねてくる。だいぶ現代に馴染んで来たとは言え、知らないことも多いのねと小さく苦笑しながら
「ええ、シズクから見ればそうなるわね」
そう返事を返すとシズクは眉を顰めて
「……あの新幹線が走ってくる場所で戦うとなると足場が悪い。かと言って走らせないと韋駄天は掛かってこない、どうする?」
調べた調査結果によると韋駄天は走っている物が無いと現れない。これはたぶん本能的な問題だろう、もしくは個人の目指す物の問題だと思う
「新幹線……修理代っていくらくらいだと思います?」
「考えたくないわ。蛍ちゃん」
新幹線の所に誘き出すことは出来るが、確実に新幹線が壊れる……政府とかの支援ってこの場合出るのかしら?私がそんなことを考えているとおキヌちゃんが
【私がこっそり忍び込んで結界とか仕掛けてきましょうか?それで見つけたから乗り込んだってことにすれば大丈夫なんじゃ?】
それは確かにいい考えだと思うけど、考え方が黒いわね……でもまぁ最初から囮に使うって前提で借りるより、韋駄天が向かって来ているから乗客を降ろしてって言う方が良いわよね。まぁ一番ベストなのは走り出す時間の前に韋駄天が現れてくれることだけど、そこまで上手くいく保証はないし……最悪のケースも考えておく必要があるわね
「それで行きましょう。韋駄天が抵抗できている今がチャンスだから」
「はい。今日あたりが最後のチャンスですよね……たぶん」
蛍ちゃんが手にしている書類を見ながら尋ねてくる。どうもあの韋駄天が操られているのは間違いない、しかし僅かにまだ操られている韋駄天の意識はあるらしく完全に暴れる前にかるい警告のような襲撃を繰り返すというのが調査で分かっている。だがそれもだんだん容赦が無くなって来ている所から考えると今日が最後のチャンスだろう
「横島君……ううん、憑依している韋駄天が出てくると思うけど……そこは悪いけどシズクに任せるわ」
横島君に憑依している韋駄天。何度も何度もヨコシマンダッシュと言う冗談か悪い悪夢としか思えない姿で出てくるが、実力は本物だ。しかしその身体は横島君の物で生身だ……戦い始めれば横島君を見ていることは私達には出来ないのでシズクに任せると言うと
「……言われなくてもだ。横島は私が護る……」
おキヌちゃんと蛍ちゃんが物凄く嫌そうな顔をしているけど、こればっかりは当人達の問題なので私から言うことは何も無い。強いて言えば横島君が早く誰と付き合うか決めるのが一番……
(よくないわね……うん)
そうなったらそうなったで色々と大変なことになりそうな気がする。触らぬ神に祟りなしって言うし私からは何も言わないことにしよう
「じゃあ蛍ちゃんとシズクは横島君を迎えに行って戻ってきて頂戴。私はその間におキヌちゃんと一緒に捕縛の準備をするから」
分かったと返事を返し事務所を出て行く2人を見送り、私は除霊道具を保管している部屋におキヌちゃんと一緒に向かって
「じゃあこれとこれとこれ、使い方はこっちに書いておいたから、頑張ってね」
【はい!任せてください!】
こっそりと新幹線に韋駄天を捕縛する為の仕掛けをおキヌちゃんに持たせてから送り出し、私も捕縛の準備を始めた、普段はボディコンだけど、今回は新幹線の上か線路の上の除霊になる。しかも除霊ではなく、韋駄天を捕獲し、正気に戻すと言う事を目的にしている。ちゃんと準備をしておかないと怪我じゃすまない
「さーて、今回はきっちり決めさせてもらうわ」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、特注品のジャケットを羽織り精霊石や破魔札を用意し、事務所の外で横島君達が来るのを待つのだった……
美神達が韋駄天の捕縛作戦の準備をしている頃神界では……
「奪われたのは魔人に関する書物ですか……斉天大聖殿」
「うむ……少々……いやかなりまずい代物じゃな」
竜神王と老師が奪われた書物に関しての話し合いをしていた。無論他の神族に聞かせるわけにはいかないので、竜神王の執務室ではなく、結界に覆われた妙神山でだ
「……どう見ますか?斉天大聖殿」
「魔人の復活は過激派から見ても良い物ではないじゃろうな、あれは制御などできん天災じゃ」
魔人……神魔族の中では触れてはならないとされている存在だ。その数は10ほどしか存在しないが、その1体1体が最上級神魔に匹敵するほどの強大な力を持つ存在だからだ
「対策も取れぬ……監視体制を強めるしかないのう……」
「せめて封印の場所が分かれば……」
魔人は数多の最上級神魔の犠牲を持って封印され、その封印の場所を記した書物は神界と魔界に分けて保管されていたが、おそらく両者とも過激派の手に落ちていると考えて間違いないだろう
「私のほうでも探ってみます」
「うむ、だが会議の時に魔族が動く可能性もある、そちらの警戒もしっかりするのじゃぞ」
心得ておりますと頭を下げて部屋を出て行く竜神王を見送りながら、ワシはキセルの灰を落とし
「魔人……か……知らんなあ……」
ワシの記憶の中に魔人なんて存在しない。だが神界と魔界にはその脅威が伝わっている……
「平行世界……一度アシュタロスも呼んで最高指導者と話をするべきじゃな」
ワシはそう呟き消えてしまったキセルに再びタバコの葉を詰め、火をつけてゆっくりとキセルを吸い
「これからどうなることやら……」
横島が幸せになる為の逆行で、全て対策が出来ていた筈なのに、それを上回るイレギュラーの数々に……いや、正しくは
「老師!横島さんの所に行かせてください!」
「修行をしとれ!この馬鹿弟子がぁ!!!」
今の小竜姫をかなりの時間のっとることに成功し始めた未来の小竜姫に頭を抱えるのだった……
リポート19 開眼!疾走する魂! その4へ続く
次回は私の考えたオリジナルのライダーが出てきます。とは言え、そこまでガッツリと登場させるつもりは無くてですね。
どうしても必要な時だけとか出して、あくまで続編とかで使用することを前提にしているライダーです。あくまで今作では霊力とかをメインにしたいと思いますので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします