その4
「良い!横島!イメージして!剣よ!何でも斬れる大きな剣!!」
「わ、ワイにそんなのイメージ出来る訳無いやんかああ!!!」
「出来る!自分を信じて横島!」
「この世でワイは1番ワイが信用できへんのやああああ!!」
「シャアアアアッ!!!」
雄叫びを上げて出てきた合成獣を見た蛍は横島の手に自らの手を添えて
「私が信じる!横島なら出来るって!2人であいつを倒すのよ!」
「ほ、蛍……う。うううう!しゃーない!覚悟決めたるで!!!」
どうして蛍と横島がこんな事になってしまったのか?全ては2時間前に遡る……
「うえ!?な。ナルニアァ!?」
滅多に外食をするなんて言わない親父とお袋に連れてこられたレストランで俺が聞いたのは、俺が高校2年になる頃には親父が海外へ赴任しないといけないという衝撃的な発言だった
「母さんは父さんについて行くつもりだけど、お前は如何するんだい?」
「そ、そんなことを言われたって……」
普通に考えたら着いて行くというしかないだろう。だけど……俺の脳裏には昨日出会った少女の横顔が浮かんでいた
「着いて行かないって行ったらどうなる?」
俺がそう尋ねると親父は呑んでいたウィスキーのグラスを机の上におき
「最低限。学費と光熱費と家賃はこっちが持つ、だがそれ以外の費用は出せん」
うっ……それだと趣味に使う金と食費は無いってことか……この2人はかなり稼いでいるのでこれは恐らく俺を向こうに連れて行こうとする為の物
(生活は苦しくなるかもしれへんけど……ワイは)
昨日あった蛍のことがどうしても気になる。また会いたいって思ってる……
「別に直ぐに決めなくても良いんだよ。あと2年はあるからね」
優しい顔をしているお袋だけど……多分俺が着いて行くというと思っているんだろうなあ……っとそんなことを考えていると
ガッシャアアンッ!!!!
激しいガラスの砕ける音と俺とおふくろ達の目の前に転がり込んできた人影を見て
「ほ、蛍!?」
その人物は昨日であった芦蛍だった……ボロボロとまでは行かないが、怪我をしている蛍は俺とお袋たちを見て
「危険だから早く逃げてください!妖怪が「グルオオオオッ!!!」来た!判りましたね!早く逃げてください!」
自分が弾き飛ばされてきた窓から外に飛び出していく蛍
「蛍!!」
俺は咄嗟にその後を追いかけて外に飛び出そうとするが
「忠夫!あんたが行って何が出来るの!あんたがあのお嬢さんと知り合いとかは知らないけど!あんたが行っても邪魔になるだけよ!」
「そんなことは判ってる!だけど俺は蛍をほっておけない!!」
俺は振り返らずにそう叫び蛍の後を追って夜道へと走り出したのだった……自分には何も出来ないって判ってる。だけどそれでも俺は蛍が心配だったから。俺はそれだけを考えて夜道を走り出したのだった……
「百合子。忠夫もしかするとナルニアにはついてこないかもしれないな」
「そうね。私もそんな気がするわ」
普段スケベで馬鹿をやる自分達の息子が初めて見せた、男の表情。それを見て百合子と大樹は自分達の息子はナルニアにはついてこないかもしれないと考え……
「まさか忠夫に彼女が出来ていたとは驚きだ」
「本当ね。家に連れてきてくれたらよかったのに」
自分達の息子に彼女がいたことに驚き、漫画のようなでっかい汗を流していたのだった……
ぐうう!!追いかけてくる合成獣の気配を感じながら足に霊力を溜めて走る速度を増させるが
(駄目!これじゃあ追いつかれる)
お父さんが借りていたという合成獣は相当なレベルを持つ魔獣だった。正直な話今の私では倒せるかギリギリレベルの……
(不味いわね!このままだとやられる!)
横島達が居るレストランに叩き込まれたのは偶然だったが、その偶然には何かの意味があるような気がした
「ッ!!」
合成獣の放った毒針をソーサーで弾き、反撃にと霊波砲を放つが
「グルゥッ!!!」
「固いわね!本当に!」
それなりの力を込めた霊波砲だったけど、簡単に弾かれた……正直言って今の私では勝機は無い
(く、このまま逃げ込むとして……唐巣神父の所しかないわね)
美神さんと今エンカウントするのは避けたいし、お父さんが出てきたら確実に神族が動く、だから神父の教会にと向かおうとした瞬間
「え!?」
足に何かからみついたと思った瞬間。私は地面に叩きつけられていた
(くっ、ミスった!?)
合成獣の尾からは糸が伸びて私の足に絡み付いている。それで足を取られたのだと理解する
「グルルル」
牙を打ち鳴らしながら近づいてくる合成獣……正直な話霊力だけでは勝てない……右手のブレスレットを見る。お父さんが作ってくれた一種の封印具。今の私は魔族と人間のハーフに近い存在だから魔力がある、だから神族から目をつけられないようにと魔力を封印している道具だ。
(ああ!もう!作ってもらって直ぐ封印解除なんて冗談じゃないわよ!!)
これで妙神山の小竜姫とか魔界正規軍のワルキューレに目をつけられたりしたら横島と仲を深めるのも不可能に近い。だけどこのままだとやられる。歯を食いしばりながらブレスレットに手を伸ばすと
「蛍!!」
ききっと自転車のブレーキの音と同時に横島の声が聞こえて思わず振り返ると
「よ、横島ぁッ!?」
自転車に跨った横島が私を見てて、慌てた様子で
「早くその化け物の糸を切ってこっちに来い!逃げるぞ!!」
その言葉に如何してここにとか、危ないとか考える前に手が動いて合成獣の糸を切る。それと同時に地面に手をついて横島の自転車の後ろに立ち乗りで乗る。だけどこんな危ない所に横島が来るなんて……
(もしかして別の世界の横島だから、私の好きな……)
「行くぞぉ!!逃げて逃げて!あいつが馬鹿になるまで逃げてやるううううう!!!」
目の幅の涙を流しながら凄まじい勢いで自転車のペダルをこぎ始めた。そのスピードは信じられないことに合成獣の物よりも速くて……そして
「どちくしょおお!!こええ!怖すぎるうううう!!!」
(あ、大丈夫。これは私の知ってる横島だ)
おお泣きしながら自転車を漕いでいる横島を見て。間違いなくこの横島は私の知っている横島だと確信したのだった……
蛍が心配で駆け出して直ぐ同級生を見つけて自転車を借りて走ってきたのは良いが……
「グルアアアアアッ!!!」
「来るなー!!来るな来るな!!バカヤローッ!!!」
唸り声を上げて追いかけてくる馬鹿でかい犬みたいな化け物にそう叫ぶ。やばい!やばいやばい!!これはあかん!死ぬ奴だ!!!
必死でペダルを漕ぎ加速を増させて必死で逃げ続ける。今の俺には後ろに居る……彼女の存在が俺を支えていた
「横島!そのままスピード下げないで!反撃できる隙を探すから!」
蛍の言葉だけが頼りだった。俺自身は霊能力も何も無い子供。怪我をしている蛍の機動力になる程度しかできることが無い
「シャアアアアッ!!!」
「横島!ハンドル切って!」
「うひいいいいいッ!!!」
怖え!怖すぎるうう!!GSなんてこんなに危険なのかよおおおお!!!俺は心の中でそう叫びながら必死で自転車のペダルを漕ぎ続けるのだが
(や、やべえ……足ががくがくしてきた)
全力で漕ぎ続けてもう10分以上。いくらなんでも体力の限界が見えてきていた……
「ぜえ!ぜえ!ほ、蛍!すまん……これ以上はスピードはでん……」
体力的にも気力的にも限界が近い、どれだけ頑張っても……これ以上のスピードは出ないと言うと
「横島!お願い頑張って!」
背中に蛍の体温と同時にむにゅっと柔らかい感触が俺の背中に当たる……
(こ、この密かな膨らみはああああ!!)
まさかあれか!?これは漫画とかゲームでしか見ないあれか!?自転車を運転している男の背中にしがみ付く女子と言う図。そして俺の背中に当たっているのは蛍の胸と言う事で
「俺に任せておけ!!!うおおおおおおおッ!!!!」
信じられないことにさっきまで限界だった。体力も気力も信じられないほどに回復し
「ウォオオオオオッ!!!」
「ッきゃあ!?」
後ろからぎゅっと蛍に抱き占められ、更に背中で蛍の胸の感触を感じた俺は鼻から夥しい鼻血を噴出しながらも、信じられない加速で化け物から距離を取ることに成功したのだが……
「うおおお!?」
「きゃああ!?」
余りにスピードを出しすぎたせいで自転車の前輪と後輪がスリップし、俺と蛍は2人同時に自転車から投げ出されてしまった
「いてええ……」
「大丈夫横島?」
心配そうに俺の顔を覗きこんでいる蛍の顔を見て、少し違和感を感じた。昨日よりも血の気がない
「蛍のほうこそ大丈夫なのか?」
「……だ、大丈夫よ」
笑顔を浮かべているが、その声は震えている……思い当たるのはあの時。俺と蛍が自転車から投げ出された時しか考えられない
「それよりも、横島は逃げて!見習いだけどある程度の攻撃は出来るから!横島が逃げるくらいの時間は「馬鹿言うな!いくら俺がへタレで情けない男でもな!女を見捨てて逃げれるかあ!!」
霊力も何も無いけど、このまま蛍を見捨てて逃げれるわけが無い。近くに落ちていた木材を手に取り構えたのだった……
私の前で木材を構えている横島を見て、心臓がどくんと高まるのを感じた。私……私達が知る横島よりもずっと幼いけど……その後ろ姿は私の知る横島と同じものだった……
(横島の霊能力は小竜姫が与えたらしいけど……)
私の霊力は横島の物と似ている。横島の霊能力の目覚めを手伝う事ができるかもしれない、そうなれば
(小竜姫の手に出来るアドバンテージは減る!)
合成獣が追いかけてきているのにも関わらず、如何に他のライバルを出し抜く方法を考えている辺り……私はそれしか考えて無いんだろうなあと苦笑しながら
「横島……」
「ほ、蛍!?」
後ろから横島を後ろから抱きしめるようにして横島の手を握る。すべすべと柔らかいその感触を感じながら
「このままだと私と横島も2人とも死んでしまうわ」
「う……や、やっぱり?」
青い顔をして居る横島の顔を見ながら、私は真剣な顔をして
「だけど、私と横島なら何とかできると思うの」
横島の霊能力はまだ目覚めていないが、その霊力は人間の中では最高と言えるほどに成長する。私の霊力と横島の霊能力を同調させれば……
(横島の霊能力の特性は収束・結晶化)
稀少な能力ゆえにその指導の方向性が極めて難しいと言われていて、かつての美神さんはその能力に気づく事が出来なかったけど、元から横島の能力を知ってる私なら!
「良い!横島!イメージして!剣よ!何でも斬れる大きな剣!!」
霊能力に大事なのはイメージ。私がある程度イメージを操作して、横島がそれをコントロールしてくれれば
「わ、ワイにそんなのイメージ出来る訳無いやんかああ!!!」
大泣きしながら叫ぶ横島。コンプレックスの塊って言うのは知ったけど酷すぎるわね、本当に!
「出来る!自分を信じて横島!」
「この世でワイは1番ワイが信用できへんのやああああ!!」
無理だ!無理だと叫ぶ横島……うう。時間がないって言うのに……
「シャアアアアッ!!!」
雄叫びと共に私達の前に降り立つ合成獣。さすがの機動力ね……
「横島。私は貴方が本当に好きなの……いろんな思い出が欲しいって思ってる」
「蛍……?」
呆然としている横島の耳元に口を近づけながら脳裏に浮かぶのは、ルシオラの時の記憶の数々……本当は横島と一緒にいろんな季節を見たかったし、一緒に隣を歩きたかった……だからこうしてやり直す機会を手にしたの……まだ始まっても居ないのに終わりに出来るわけが無い
「だから一緒に生き残りましょう!それで2人で夕日を見ましょう!」
結局2回しか一緒に見ることが出来なかった夕日。これからは何回でも一緒に見たい
「……夕日か。俺は朝日の方が好きだなあッ!!!」
「そう。じゃあ朝日も一緒に見ましょうか!」
横島の闘争心が上がってくると同時に私と横島の手の中の木材に緑の光が集まり始める
「これが……」
「霊能力よ。やっぱり横島には才能があったのね」
とは言え、今は私の霊力で横島の霊力を無理やり引っ張り出している形になっているけどね……予想以上に横島の霊能力の開け閉めをする弁は固いようで思うように霊能力を引っ張り出せない
「行くわよッ!!」
「おおっ!!」
私と横島の手の中の木材に霊力が集まり剣の形になる。殆ど暴走しているのを私が無理やり形にしてるからとんでもなくでかいけど……これなら行ける!
「グルオオオオッ!!!」
雄叫びと共に飛び掛ってきた合成獣目掛けて2人で走り出し
「「いっけええええ!!!」」
私と横島の霊力で作られた霊波刀が一閃され、合成獣を顎から両断したのだった
「は、はあ……はぁ……」
肩で息をして今にも倒れそうな横島……だけどその霊能力の高さの片鱗は確かに見ることが出来た
「お疲れ様。横島」
「う……あ」
ゆっくりと倒れてくる横島をしっかりと抱きしめ、私自身も疲労で立ってられずその場にへたり込み
「本当にお疲れ様」
寝息を立てている横島の髪を撫でていると、少しだけならと言う気持ちが浮かび上がってきて
「横島。大好き♪」
眠っている横島の額に軽い口付けを落とし、私も霊力と体力の消耗の激しさから眠りに落ちてしまうのだった……
寄り添って眠る蛍と横島を見つめる男性。言うまでもなくアシュタロスだ、予想以上に合成獣の力が強く。蛍と横島が危ないと判断し見にきていたのだが
「余計な心配だったか」
まだ未熟な横島が内に秘めている霊能力の一端を見ることが出来た。蛍の言うとおり、あの横島と言う少年はこれから伸びるだろう……
「百合子!忠夫が居たぞ!」
「本当!?どっち!?」
横島君と蛍のほうに駆け寄る夫婦を見て、あの2人がいれば大丈夫だと判断したアシュタロスは踵を返し。懐のトトカルチョを見て
「しゃあ!」
蛍の倍率が下がっている事にらしくないガッツポーズをしてから、鼻歌交じりで歩きさって行ったのだった……
その5に続く
リポート1は次回で終了ですね。横島と蛍と百合子と大樹の4名をメインに話を進めて行こうと思います。あと蛍ことルシオラは当然メインヒロインです、そして今までの私の作風で理解してもらえていると思いますが、当然ヤンデレですのであしからず。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします