GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は前回のあとがきの通り、「琉璃さん」「シルフィー」「愛子」それに「アリス」の話をやって行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その3

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その3

 

~アリス~

 

黒おじさんの頼みで人間界にお使いに来るついでにお兄ちゃんの所に遊びに来て、本当に楽しかった……でも

 

『アリス?そろそろ帰っておいで?あの馬鹿はちゃんと反省させてあるから大丈夫だから安心して帰っておいで』

 

黒おじさんの使い魔の黒い鳥がお兄ちゃんの家の窓枠に止まって、そう語りかけてくる。う……思ったより早かった……

 

(もう少しゆっくり遊んでたかったなあ……)

 

黒おじさんは私に人間界に遊びに行っても良いって言ってくれるけど、赤おじさんは絶対に駄目だって言って人間界に行かせてくれない……私だって本当はもっと早くお兄ちゃんの所に遊びに来たかったのに……それに今日みたいにお兄ちゃんと一緒に寝たかったなあ……お兄ちゃんの傍は暖かくて凄く寝やすいのに……私が浮かない顔をしているのに気付いたのか黒おじさんの使い魔が

 

『心配しないで良いよアリス。また今度アリスが人間界に遊びに行けるように私が手回しをしよう。だから今日は帰っておいで』

 

「はーい……直ぐに帰るね……」

 

本当はもう少しお兄ちゃんと遊びたいけど、黒おじさんがそこまで言うなら帰らない訳には行かない

 

「と言う訳だからお兄ちゃん。帰って来てから遊びに連れて行ってくれるって言ってくれて嬉しいけど黒おじさんが呼んでいるから帰るね?」

 

私が振り返りながら言うと朝ご飯を食べていたお兄ちゃん達は

 

「えーと?どういうこと?」

 

あ、そうかお兄ちゃんは使い魔の言葉が判らないんだ。私は手をぽんっと叩いて

 

「黒おじさんが帰っておいでって、赤おじさんは黒おじさんが話をしてくれたんだって」

 

へーと頷きながら味噌汁を啜っているお兄ちゃんは

 

「じゃあ遊びに行くのはまた今度だな」

 

また今度……?私がきょとんとしていると蛍お姉ちゃんが

 

「また遊びに来れば良いわ。ね?モグラちゃん?チビ?」

 

「うきゅ♪」

 

「みーむ!」

 

擦り寄って来たモグラちゃんとチビを抱っこする。ぽかぽかと暖かい……お兄ちゃんの次のアリスの生きているお友達だ……

 

「また来ても良いの?迷惑じゃ無い?」

 

アリスは幽霊だし、今回来たのももしかしたらお兄ちゃんの迷惑になっていたかもしれない、若干不安に思ってそう尋ねると

 

「そんなこと無いぞ?またいつでもおいで」

 

お箸をおいて頭を撫でてくれるお兄ちゃんに嬉しくなって、抱き着きながら

 

「うん♪また来るよ」

 

今度来るときはちゃんと着替えとか持って来ないと、昨日服を貸してくれたシズクにも悪いし、それにちょっと胸の所が苦しかったしね……そう言ったらシズクは死んだような顔をして部屋を出て行ってしまったけど、何か悪い事を言っちゃったのかな?今朝リビングに姿の居ないシズク。もしかしたら調子が悪いのかな?

 

「……殆ど背丈も同じなのに何故……お、大人になれれば負けてないのに……」

 

なおシズクがリビングに現れなかったのは、身長も体格も殆ど同じのアリスに胸のサイズで敗北していることによる精神的なショックによるものだったりする

 

「クフ♪」

 

「……笑うなあ!狐ぇッ!!!」

 

そしてそんな精神的なショックで弱っているシズクをこれでもかとタマモが馬鹿にしていたりする……

 

「じゃあなーアリスちゃん。また今度ゆっくり遊びにおいで」

 

お兄ちゃんは学校に行かないといけないので玄関の前でお兄ちゃんと別れ、私は黒おじさんの使い魔と一緒に魔界へと帰るのだった……

 

「おかえり、アリス」

 

「ただいま!黒おじさん!」

 

宮殿の出口の所で待っていた黒おじさんに抱き着きながら

 

「お兄ちゃんの所のお泊り凄く楽しかったよ!それとお使いもちゃんと出来たよ」

 

頼まれていた人間界のお酒を黒おじさんに渡すと、黒おじさんはお酒を確認してから

 

「良く出来た。偉いぞアリス」

 

頭を撫でながら褒めてくれた黒おじさん。あ……そう言えば

 

「黒おじさん、赤おじさんは?」

 

絶対居ると思っていたのに姿の見えない赤おじさんの事を尋ねる。すると黒おじさんはニヤリと笑いながら

 

「今は反省させているよ。また暴れたからね?それじゃあアリス。このまま私とビュレトの小童の所にでも散歩に行こうか?」

 

ビュレトのおじさんの所に行くならお馬も連れて来ないと!私は黒おじさんにちょっと待っててとお願いして馬舎からお馬を連れて来た

 

「それじゃあ行こうか?アリス」

 

「うん♪」

 

「ブルル♪」

 

久しぶりにお母さんに会えるのが嬉しいのか、楽しそうに鳴くお馬さんと黒おじさんと一緒にビュレトおじさんの家へと向かってゆっくりと歩き出したのだった……

 

なおアリスがネビロスと一緒にビュレトの宮殿に向かっている頃。ベリアルはと言うと

 

「しくしくしくしく……」

 

また暴れたと言う事でネビロスによって脇見の壷の中に封印され、その中で号泣していたりする……

 

 

 

~愛子~

 

昨日私が頼んで私と横島君が2人きりで掃除できるように頼んだクラスメイトが昨日どうだった?と尋ねてくるので私は溜息を吐きながら昨日の事を説明した

 

「え?昨日横島君と一緒に掃除できなかったの?」

 

「うん……なんか魔法の箒?とかが急に教室に飛び込んできて横島君を連れて行っちゃった……横島君大丈夫だったかな?」

 

チビちゃんとモグラちゃんに手紙を渡して美神さん達の所に向かうように行ったけど、どうなったんだろう?怪我とかしてないかな?今日はちゃんと学校に出てきてくれるかな?私がそう心配しているとクラスメイト達が

 

「本当愛子ちゃんは横島が好きなのね?」

 

「うーん。最近マシになってきたけど、横島だしね……」

 

「私はもっと別な人を好きになったほうが良いと思うよ?」

 

口々にそう言うクラスメイトの皆。だけど私には横島君以外は正直考えられない……

 

「みんなは横島君の事を良く判ってないのよ。私には横島君しか考えられないから……」

 

横島君は誤解されやすい人だけど、とっても優しいし、フェミニストなのよ?と説明するけど

 

「うーん。正直信じられないわ」

 

「うん。私も、1年のときに女子更衣室覗かれたし」

 

「私も、最近は少ないみたいだけど、今でも偶に覗きをしているみたいだし……」

 

なるほど、まだ横島君は覗きをしていると……私は今手にした情報を手帳にメモしながら

 

(蛍ちゃんに教えてあげよう)

 

私が態々しなくても、蛍ちゃんが横島君に制裁を加えてくれるだろう

 

「はよーっす」

 

そんな事を考えていると横島君が教室の中に入ってくる。見た所怪我とか風邪を引いているとか、そう言う素振りが無いので安堵していると

 

「愛子。昨日は悪かったな、掃除1人で大変だったろ?」

 

「ううん、私は大丈夫よ?掃除は嫌いじゃ無いし……横島君の方こそ大丈夫?」

 

「俺の事はどうでも良いんだよ。今大事なのは愛子の方。本当悪かったな、掃除を押し付けて」

 

繰り返し謝ってくる横島君。昨日のは事故なんだから、ここまで謝られると私としては気まずくなる

 

「んーじゃあ、今度なにか埋め合わせをしてくれる?買い物とか行きたいなー?」

 

横島君の顔を見上げるようにして言う。私の言葉に嘘?とか言う顔をしている皆。皆は知っていると思うけど私の本体は机で移動するには机ごと動かないといけない……今まで私にデートとかを誘いに来た生徒は沢山居たけど、私の机を運んでくれるなら?と言うと皆いなくなってしまった、街中を机を担いで運んでいる姿を好んで見られたいなんて人物はそうはいないだろう……だけど私は敢えてそれを口にした。横島君ならなんて返事を返してくれるか?私はそれを知っているから

 

「オッケー♪今度の休みとかで大丈夫か?」

 

ほらね、迷う事無く即答する横島にクラスメイトの女子達が

 

「横島?判っているの?愛子ちゃんと出かけるって事は机を運ぶってことなのよ?」

 

「おう。そんな事知ってるに決まってるだろ?」

 

GSとしての勉強をして居る横島君だ。そんな当たり前の事は知っていて当然だ

 

「机を運んで買い物する気なの!?」

 

まさか横島君がOKすると思って無かったのか驚きながら尋ねる生徒。横島君はにかっと笑いながら

 

「愛子みたいな美少女とデートできるんやぞ?それなら机くらい運んで当たり前やろ?」

 

口をあけて唖然としている女子生徒達。うんうん、これでこそ横島君って感じよね……と言うかデート!?2人だけで出かけるとやっぱりデートになるんだよね……えとえと……ふ、2人きりって言うのは私にはいきなりハードルが高すぎる。それにデートをするなら机をなんとかしてからにしたい

 

「えーと!そうだ!蛍ちゃんとか、おキヌちゃんを呼んでくれると嬉しいな!?」

 

ううう……私のへタレ……学校とかだと平気なのに……外で横島君と2人だと思うと怖くて、思わずそう叫んでしまっていた。横島君はびっくりしたような表情で

 

「お、おう。判った、蛍とかおキヌちゃんに聞いて見る、じゃあ、明日にするか、学校まで迎えに来るからな?「横島ー!新しいリポートを出すから取りに来い」うええ!?ううう……最悪。じゃあまた後で」

 

先生に呼ばれて肩を落としながら教室を出て行く横島君。そして私を見ているクラスメイトの皆は

 

「愛子ちゃん」

 

「……はい」

 

「へタレ過ぎる。なんで自分から2人きりのチャンスを潰すの?」

 

自分でも判っていることを言われて、私はごめんなさいと呟いて机の中へと隠れるのだった……しかも出かけるのは明日……心構えをするには短すぎる時間だ。うるさいくらいに脈打つ心臓の音に私はもう1度溜息を吐くのだった……

 

 

~琉璃~

 

「あー疲れたぁ……」

 

バイパー討伐をEUに伝えて報酬の話し合いをしていたんだけど、あの守銭奴証拠は!とか言い出して中々話し合いは難航してしまった。

 

(ドクターカオスが居てくれて助かったわ……)

 

マリアさんとテレサがちゃんと討伐の所を録画していてくれていた。ただしEUの方では特Aの危険人物として警戒されているくえすが写っているので、そこは合成して、美神さんが討伐したようにした。ドクターカオスが合成してくれたのだから多分見破られる可能性は無いだろう……

 

(討伐金は20億円かあ……んーどう使おうかなあ……)

 

美神さんとくえすに4億円ずつで残りは12億……GS協会の設備とかの向上とかに使ってもまだ余る……若手GSの育成とかに回すのも良いわねえ……

 

「あれ?横島君?」

 

川原の所に横島君を見つける。んーなんであんな所で隠れるように身体を動かしているんだろ?気になって川原の方へ向かう

 

「てやっ!」

 

どうも横島君は1円の練習用の破魔札を使って投擲練習をしていたようだ。山のように積んである破魔札を見ながら、足音を立てずに近寄って

 

「よーこーしま君?」

 

背中に抱き付いてみると背後からでも判る位耳を真っ赤にして

 

「る、ルルルル!?琉璃さん!?」

 

慌てて私から離れる横島君。本当良い反応してくれるわ……橋の影の中でも判る赤い顔を見て笑いながら

 

「はーい♪こんな所で何してるの?」

 

「うっ……えーとですね。練習ですよ……破魔札位はまともに投げれるようにならないと」

 

そう言って1円の山からまた10枚ほど取る横島君。面白そうだから横島君の鞄の上に座り込んでみていると

 

「あの琉璃さん?」

 

「なに?私の事は気にしないで練習すると良いわ」

 

「俺の練習見ても何にもならないっすよ?」

 

「それを決めるのは私。それとも私邪魔かしら?」

 

何を言っても無駄だと判断したのか、再び破魔札の的当てを始める横島君。私はその背中を見つめながら

 

(良い集中力ね……んーでも焦りすぎかしら?)

 

私に見られているのに、それに左右されない集中力。あの集中力は買うけど……今の横島君じゃあとてもじゃないけど、悪霊に当てるのは無理ね。その理由は判っている焦りから来る物だ……その背中に妹の姿がダブって見えた……

 

(元気にしているかしら……)

 

神卸の神代家の人間だが、神卸の才が低く、その代わりに除霊や神霊を鎮める神楽舞を得意にしていた妹は、私が幽閉されている間に養子に出され、遠縁の神社で暮らしていると聞く。手紙を送っては見たが、まだ返事が返ってこないのでどうしているのかが心配になる。あの子もまた自分の周りに自分よりも優秀な人間がいて、焦りそして必要以上に訓練をして失敗をして、また焦りの繰り返しをしていた……私は時期当主としての仕事があり、碌に話す時間がなかったのでフォロー出来なかった……そして今妹と同じ過ちをしようとしている横島君に

 

「ねえ?横島君。おねーさんとデートしましょうか?」

 

「は、はい?ってやべえ!」

 

私の問い掛けに集中が途切れたのか手にしていた札を落とす横島君。それは当然1円の破魔札の上で花火の様に連続で炸裂する札から必死に逃げて来た横島君に

 

「おねーさんとデートするのいや?」

 

「……どっきりですか?」

 

……なんでそうなるのかしら?私は横島君の考えていることが判らなかった

 

「私はどうすれば横島君がもっと霊能力に目覚めるかを教えてあげれるわ」

 

面白いように顔色が変わる横島君。まぁこれは嘘だけど、嘘じゃ無い。今の横島君では絶対に霊能力の覚醒なんてありえないと私は確信しているのだから

 

「お、教えて「教えてあげても良いけど、明日1日私に付き合いなさい。それが嫌なら教えてあげないわよ?」

 

教えてくれと凄い勢いで近づいて来た横島君の顔に手を向けながらそう言うと、うっと呻く横島君。あ、そうそう忘れてた

 

「言っておくけど蛍ちゃんとかおキヌちゃんを呼んでも教えてあげないわよ?」

 

おっと更に顔色が変わったわね……こうころころ顔色が変わると面白いわ。口を開いたり閉じたりしていた横島君……さてなんて返事をしてくるかな?

 

「……えっと明日机妖怪の愛子と出かける約束をしているのですが……」

 

……机妖怪?……ああ、そう言えば横島君の学校からそんな連絡があったわね。1度会って話をしておきたいって思っていたし

 

「良いわ。じゃあその愛子ちゃんにも用があるから2人で駅前の広場……そうね、8時30分に来なさい、良いわね?それじゃあ明日を楽しみにしているわねー♪」

 

横島君の返事を聞かずにさっさと河川敷を後にする。横島君が焦るのも判る、なんせ若手NO1と言われる美神さんの事務所の助手で、しかも蛍ちゃんも傍にいる。これで焦るなと言う方が無理と言う物だ

 

(まぁ私もなんだかんだで横島君は気に入ってるしね……)

 

このまま潰れてしまうなんて事は避けたい。彼は充分優秀なGSになるだけの素質を秘めている、でも回りが凄すぎるから、自分が駄目なんじゃないか?と言う不安から焦り、そして無理な訓練をする。それは完全な悪循環だ……今日横島君に会ったのも偶然じゃ無いと私は思う

 

「さーて、明日が楽しみねー♪」

 

大きな仕事が済んだことで休みを取ってくださいと部下の皆に言われて、明日は休んでも良い事になった……家でのんびりしているのも良いけど、迷える少年を導くのも大事なことだ。そんな事を考えながら家に戻ると、郵便ポストに手紙が入っていることに気付いた

 

「誰だろ?」

 

手紙の差出人は……「氷室舞」。一瞬誰?と思ったが、直ぐに判った

 

「舞ちゃんだ!あーやっと手紙の返事が来た♪」

 

養子に行ってしまった私の妹からの手紙で、良い事は続く物なのねと笑いながら私は部屋の中に入るのだった……そして手紙には「シズ」と言う友達と義姉が居てとても楽しいけど、早くお姉ちゃんにも会いたいと言う一文があった。だけど今はバタついているから、もう少し待っていてねと返事を返すのだった……

 

 

~シルフィー~

 

私鼻歌を歌いながら夕暮れの中を歩いていた。

 

(えへへ、頑張って隣町まで行った甲斐があったなあ♪)

 

唐巣先生はあんまりお金を貰ってくれないので、正直いつも教会は火の車だ。でも今回はパイパーが来た時に私が頑張って時間稼ぎをしてくれたと言う事で美神さんがお礼として400万を私にくれた。唐巣先生に上げないのは困っている人に分けてしまう危険性が高いからだと推測している。そして私はその400万を自室の金庫に仕舞って使う分だけ持って隣街の安いスーパーに向かったのだ。肉に野菜に生活必需品がこれでもかと詰まった鞄と両手に持っているスーパーの袋。普通の人間ではとても運ぶ事は出来ないだろうけど、私はハーフヴァンパイヤだから全然楽勝だ。鼻歌交じりに今日の夕ご飯は何を作ろうかなあっと考えていると赤いバンダナを巻いた学生服の青年の姿を見つける

 

(ラッキー♪)

 

私は嬉しくなって思わず指を鳴らしたくなったけど、残念なことに荷物で一杯なのでそれは諦めて横島君に近寄る

 

「お?シルフィーちゃん?奇遇だな」

 

「そうだね~横島君は学校帰り?」

 

学生服と鞄を手にしているのでそう尋ねる。ブラドー島に学校は無かったから、学校に行って見たいという気持ちはあるけど……今の教会の財政では無理なので諦めるしかない

 

「昼で終わったんだけどな、ちょっと修行を……」

 

ぽりぽりと頬を掻きながら言う横島君。修行ってGSのだよね……んー……でもそう言うのは1人では上手く行かないし、なによりも横島君の顔が非常に暗いので、何か失敗したのか、行き詰っているのだと判断して

 

「ちょっとそこの公園で話出来る?」

 

こういう時に出会えたのはきっと意味があると思い近くの公園に誘う

 

「そやな……うん。良いで」

 

あんまり聞いたことの無い大阪弁が出るほど今の横島君は弱っているんだ……人間本当に弱っている時は自分の本当の言葉が出るって本当なんだなと思いながら、私は横島君と一緒に近くの公園に向かうのだった

 

「よいっしょっと」

 

背負っていた鞄と両手の袋をベンチの前に置く。それを見た横島君は驚いた様子で

 

「何を買ってきたんや?」

 

「んー色々、ご飯の材料とか、歯ブラシとか……後は私の下着とか?見る?」

 

「あ、アホ言うなあ!」

 

顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振る横島君。こういう反応を見ると女の人は好きなんだけど、初心で可愛いって思えるよね……

 

「それでどうしてそんなに落ち込んでいるの?」

 

目に見えて落ち込んでいる横島君にそう尋ねると横島君は

 

「ワイなぁ……本当にGSになれるのかなあって思ってなぁ……パイパーの時はシルフィーちゃんだけに押し付けちゃったし……」

 

溜息を吐きながら言う横島君。前のパイパーのことをそんなに気にしているんだね……私としてはあの時最善の一手を打ったつもりだ、死ななかったし、後遺症も無い。正直捨て駒の時間稼ぎ役を買って出たんだから、そんなことは気にしなくてもいいのに

 

「私は横島君は良いGSに成れると思うよ?」

 

お父さんを助けてくれたし、それに妖怪や私にも偏見がない。きっと横島君は人間の気持ちも人外の気持ちも判る。もしかすると今まで人間に対立していた妖怪との和睦の架け橋になるかもしれないと唐巣先生は言っていた

 

「でもよ……ワイはなんにも出来ないんやで?足手纏いで碌な霊力も無いし……良いGSになれる、なれるって皆言うてくれるけど……ワイはとてもじゃないけど、そんな風に成れるなんて思えないんや」

 

酷く落ち込んだ様子の横島君。私は立ち上がって横島君の正面に立つ

 

「シルフィーちゃん?」

 

私の名前を呼ぶ横島君に微笑み返して、その頭を撫でながら

 

「大丈夫、大丈夫だよ。私も最初から力を全部使えたわけじゃ無いんだよ?最初から皆上手く行く訳が無いんだよ」

 

私は吸血鬼の力の方が強くて碌に物を触る事も出来なかった。お兄ちゃんはどちらかと言うと人間の方が強いから吸血鬼の力をコントロールするのは簡単だった見たいだけど、私は何年もかかって力を使いこなせるようになった

 

「シルフィーちゃんも?」

 

「そ、私は吸血鬼として落ち零れ、本当に凄く苦労したんだ。んー100年位かなあ?」

 

笑いながら言う半分とは言え吸血鬼の私は人間よりも遥かに長生きだ。だからこそ言える

 

「1年や2年でそんなに落ち込まないの、それで言ったら100年駄目だって私は何?」

 

周りが凄いから自分のことを必要以上に下に見てしまう。これは私も経験した、お父さんもお兄ちゃんも私よりも遥かに凄い吸血鬼と半吸血鬼だった。だからその2人に認めてもらおうと私も頑張った、それでも全然駄目で何度も泣いたし、不貞腐れたりもした。だけど私は最終的には自分の力を使えるようになった

 

「だから横島君も頑張ろう?まだ始まったばっかりなんだから」

 

「始まった……ばっかり」

 

私の言葉に続いてそう呟く横島君にそうだよと言って励ます。まだ諦めるにも、不貞腐れるのも早い。焦っては駄目なんだよ?と言うと

 

「そっか……うん。ありがと、少し元気でた」

 

にかっと笑う横島君。それはいつも通りの明るい横島君の笑顔でつられて私も笑いながら

 

「良かった。ゆっくりで良いから頑張って行こうね♪私も応援してるから」

 

そろそろ帰らないといけないので荷物を背負いながらそう笑う。若干横島君の笑顔が引き攣ったのは気のせいだと思うことにする。怪力女とは思われたくないけど、下手に言うと自爆しそうだからそれは言わない

 

「あ、そうだ。前のパイパーの時の貸しちゃんと返してね?」

 

「へ?」

 

驚いている横島君の前から離れながらにこりと笑い

 

「日曜日にこの公園で待ってるからね?忘れたり、遅れたら許さないんだから。じゃ、楽しみにしてるよー♪」

 

「え、ま、待って!シルフィーちゃん」

 

私を呼び止める横島君の声を無視して教会まで走る。今時分の顔が赤いのが判っているから、その顔は見られたくなかった

 

「おや?おかえりシルフィー君。随分と嬉しそうだけどどうかしたのかい?」

 

掃除をしながら尋ねてくる唐巣先生になんでもありません!と言って唐巣先生に投げつけるように荷物を置いて自分の部屋に走った。背後からうおおおお!?と言う唐巣先生の絶叫が聞こえたような気がするけど気のせいだと思うことにする

 

「良し、良し♪」

 

横島君の事は大分前から気になっていたけど、こうしてデートの約束を取り付けることが出来た。私は自分のベッドに腰掛けて、何度もガッツポーズを取るのだった……

 

 

~メドーサ~

 

最近頭痛が酷い、寝ていても、起きていても頭痛が治まる事は無い……

 

(くっ……これはどうなっているんだい……)

 

アシュ様の宮殿で治療を受けているのに、一向に回復する兆しがない……しかも眠れば眠ればで夢を見るのだが、その夢を見るたびに自分が自分で無くなる様な気がして眠ることが出来ない……とは言え眠らない訳には行かず頭痛に耐えながらベッドに横たわる……

 

(横島……か……)

 

アシュ様と蛍が気に掛けている横島と言う少年。私も夢で何度も何度も見る度に横島の事が気になって仕方ない

(また眠ればあいつの夢を見るのか……)

 

不思議とそれは嫌だとは思わない、むしろその夢を見たいと思う自分も居て……私は自分でも持て余す複雑な気持ちを感じながら目を閉じ眠りに落ちるのだった……

 

『よう?待っていたよ、私』

 

「お、お前は誰だ!?」

 

眠りに落ちたと同時に私の前に現れるもう1人の私。だけど私よりも若い姿をしていて、それは夢で見た。横島の霊力を分けて貰って若返った私の姿……

 

『そんなに身構えなくても良いだろ?同じ私だ。こうして呼んだのは話をしたくてね、ほらそこに座りなよ」

 

突然現れた椅子に驚き、距離を取ろうとするが、若い私が手を振ると私はいつの間にか椅子に座っていた……

 

「ここはどこなんだい?」

 

『私とお前の心層世界さ、同じ存在だから同じ世界なのは当然だろ?さ、ゆっくり話をしようじゃ無いか』

 

そう笑う私。話すことなんか無いと言おうとも思ったが……不思議と話したいと思って

 

「ふん、仕方ない。つまらない話なら許さないよ」

 

『それは無いって言えるよ。絶対にね……』

 

そう笑う私が話し始めたのは死にたいと願った魔神とそれに立ち向かった人間。そしてその人間に協力した1人の魔族の悲しい恋の物語だった……その永遠とも思える長い話に私はずっと耳を傾けるのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その4へ続く

 

 




今回は女性視点ばかりになってしまいましたね。偶にはこういう話も悪くないと思うのですが、どうでしょうか?
次回は「愛子」と「琉璃」の話をして、その次はシルフィーとメドーサの話をしていこうと思います。その次はまた長いリポートに入っていくので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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