GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

102 / 205
どうも混沌の魔法使いです。今回の話は戦闘開始の話になると思います。後2~3くらいでハメルーンの悪魔は終わらせる予定です。和数が多くなってきていますが、頑張って書いていくのでどうかこれからもよろしくお願いします


その6

 

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その6

 

ガタンガタンと音を立てて進んでいくコースター、進むに連れて魔力がどんどん強くなっているのが判る

 

「これはもう殆ど瘴気じゃな。大丈夫かの?」

 

心配そうに尋ねてくるロンさん。正直言って私は全然問題が無い、だって半分は魔族だしね。魔界の瘴気にはある程度耐性がある、だけどその話をするわけには行かないので

 

「精霊石で周りの空気を浄化しているんで大丈夫です」

 

美神さんと神宮寺に持たせている精霊石で空気を浄化しているので大丈夫だと言うとシズクが

 

「……無理はするな。戦闘は私とロンに任せて、お前は美神と神宮寺を元に戻す事を考えろ」

 

一応心配はしてくれているみたいね。私は苦笑しながら

 

「ええ、お願いするわ」

 

ここは素直にシズクの善意を受けることにしてそう返事を返した。それに気になる事もある、パイパーの魔力がここまで上昇しているのは何か理由があるはずだ。そうで無ければこれほど急に魔力が上昇したことに説明がつかない

 

【蛍ちゃん。先のほうには何も罠がなくて、レールの先には地下水で出来た湖がありました】

 

偵察に行って来てくれていたおキヌさんが戻ってきて、偵察の結果を教えてくれる

 

「罠がないか……それほど自分の力に自信を持っているか、只の馬鹿か……どっちじゃろうな?」

 

ロンさんがレールの先を見つめながら呟く。確かにここで待ち伏せしているのだから、何か罠を仕掛けるのが普通なんだけど……その気配が無い

 

「……ただの馬鹿。ハゲだから頭が弱い」

 

パイパーの事を繰り返しハゲと言うシズク。その表情は普段と同じだから判らないけど

 

「もしかして怒っている?」

 

私がそう尋ねるとシズクはゆっくりと振り返る、その目がどんよりと雲っているのを見て、怒っているとかそう言う問題じゃ無いという事を悟った。シズクはニヤリと笑いながら

 

「……どうだろね?自分で考えてみたらどう?」

 

くっくっと笑うシズク、目に光がないし、口調も違うから正直言ってかなり怖い。だけど正直言って今のパイパーの魔力はとても大きい。シズクの能力を疑うわけではないけど

 

「勝算はあるの?私とすれば美神さんと神宮寺の霊力と記憶を取り戻せば、1度撤退するつもりだけど」

 

パイパーの魔力の上昇がどれほどの物か判らない以上。1度撤退するべきだ、何か勝算があるのなら別だけど……

 

「ふむ……残念ながらワシにはこれと言う武器はないのぉ……若い時は火炎放射とか電撃も使えたんじゃが……」

 

何それ怖い……え?土竜族ってそんなに強力な竜族なの?私が驚いているとロンさんは苦笑しながら

 

「なーに、妙神山に閉じ篭っておる腐れ縁とあれやこれやとしておったのでな。その時に覚えたんじゃ」

 

それってもしかして老師?え?若い時ってもしかしてロンさんって西遊記に出てたりするの?朗らかに笑っているロンさんが少し判らなくなった……

 

「……私に勝機はある。あのハゲの力を利用させて貰う」

 

にやりと笑うシズク。パイパーの力を利用する?どうするつもりなんだろうか?と思っていると

 

ガコンッ!!!

 

乗っていたコースターが凄まじい音を立てる。このタイミングで仕掛けて来た!?急加速するコースターから美神さんや神宮寺が吹き飛ばされないようにしっかりと抱き抱える

 

【ここから先は急に落ち込んでいます!落とされないように気をつけてください!】

 

おキヌさんの警告の言葉に頷き、コースターのバーをしっかりと掴む、風切り音がうるさいが飛ばされないようにしっかりとバーを掴む。そして数秒後

 

ザッバアアアアンッ!!!!

 

凄まじい音を立ててコースターが何かに着水する音が響く、その衝撃に顔を歪める

 

(くう!?これはかなりきついわね)

 

身体の中が揺らされる感覚に顔を歪めながら、ゆっくりと停車するコースター。頭を振りながら身体を起こす

 

「風船?」

 

澄んだ地下水の湖の上に浮いている色とりどりの風船の数々。そして腕の中の美神さんと神宮寺が声を揃えて

 

「蛍ちゃん!あれ!」

 

「早くあの風船を割ってください!」

 

美神さんと神宮寺が指差す先には紅い風船と黒い風船が浮かんでおり、その中に美神さんと神宮寺の顔が浮かんでいるのが見える

 

「あ、あれは」

 

美神さんと神宮寺の風船の近くには唐巣神父の風船とかなりの大きさのシルフィーさんの風船が浮かんでいるのが見える。この風船自体が記憶だと考えると、その記憶の量によって大きさが変わると言うならシルフィーさんの風船の巨大さに驚かされる

 

(どんな人生を送ってきたんだろ)

 

思わずそんな事を考えてしまう。それと同時に私が子供化していない事に安心した。私の記憶の風船が出てきてしまったら、芦蛍としての記憶に横島蛍としての記憶、そしてルシオラとしての記憶……単純に考えてもかなりの年数を生きている。私だけの記憶ならそれほど大きくならないだろうけど、他の私としての記憶も風船になってしまったら、いくらなんでもシズクやロンさんに疑われる可能性がある。そうでなくて本当に良かったと安心していると

 

「……見つけた!横島の風船」

 

シズクの指差す方向を見ると、大分奥の方に横島の顔が描かれている風船を見つけた。

 

「じゃああれをこえで」

 

美神さんが首から下げた鞄に手を伸ばした瞬間

 

「ヒヒッ!!!」

 

不気味な笑い声を上げたパイパーが上空から突っ込んでくる。

 

「ぬうっ!喰らえッ!!!」

 

一番最初に気付いたロンさんが口から火炎弾を吐き出す。炎吐けてるじゃん!?さっき無理とか言ってたの何!?

 

「ヒヒッ!舐めるな!」

 

だがパイパーはその火炎弾を手にした笛で打ち返してくる。その狙いは私達の乗っているコースター

 

「くっ!?」

 

火炎弾がコースターを吹き飛ばす。その衝撃で湖に投げ出される

 

「ハッハー!頂き!!!」

 

「「きゃあ!?」」

 

美神さんと神宮寺が宙に投げ出された瞬間。パイパーが2人を抱き抱える

 

(やられた!?)

 

まさかこんな方法で美神さんと神宮寺を奪われるとは思ってなかった。慌てて湖面から顔を出すと

 

「蛍ちゃん!」

 

美神さんが首から下げた鞄を何とか外して、私に投げてくる。それを何とか受け止めると

 

「おい!この2人がどうなっても良いのか!金の針を寄こせ!じゃないとこの2人を殺すぜ!」

 

パイパーが鋭く伸びた爪を美神さんと神宮寺に突き付ける……私は美神さんから渡された鞄と美神さんを見ていると

 

「はっはー!!!」

 

湖の湖面が爆発して黒い巨大な鼠が突っ込んでくる。ロンさんが咄嗟に突進してくる巨大鼠を受け止めるが

 

「ぬっぐう!?この馬鹿力がッ!!!」

 

ロンさんが何とかその鼠を退けるが、分身には美神さんと神宮寺が捕まって、本体の鼠は私達を狙っている。おキヌさんは霊体だから、パイパーの攻撃を受ければ消滅しかねないし……奇襲をさせるわけに行かない

 

(これは不味いわね……どうすれば)

 

逃げようにも本体の鼠が私達を狙っているし、分身には人質を取られている……この状態をどう切り抜ける……私は殆ど無意識に私の魔力を封じているブレスレットに手を伸ばしかけて……

 

(シズクは?)

 

コースターがひっくり返ってから姿の見えないシズク。何か考えが有って姿を隠しているのかもしれない……今はなんとかして捕まっている美神さんと神宮寺を救出しないと……上空から私達を見つめている分身と鋭い牙と爪を向けている本体の鼠をどうやって切り抜けるかを考えるのだった……

 

 

 

キンっと乾いた音を立てて私の手にしていた刀の刀身が折れて宙を舞う

 

「はっはは!こんなんでオイラを倒そうって言うの?ひゃはははっ!!!おかしくて腹が痛いわぁ!」

 

笛を小脇に抱えて高笑いしているパイパー。量産品とは言え、しっかりと霊力で強化されている霊刀をこうも簡単に破壊するなんて

 

(分身だからって油断した……)

 

小型の分身に魔力を消耗しているはずだから、勝てないにしても互角には持っていけると思っていたのが全ての間違いだ

 

「くっ!数が多すぎます」

 

「姉さん!弾薬!」

 

マリアとテレサも小型パイパー相手に奮闘しているみたいだけど、数が多すぎる倒しても倒しても、周囲の鼠がどんどん変化して元に戻っていく

 

(どうしよう……どうすれば良いの……)

 

分身のパイパーと小型パイパーの波状攻撃はとても激しい……この状態だと押し切られる……

 

「みむうう!!!」

 

「コーン!!」

 

「「「あああー!?」」」

 

チビの電撃とタマモの狐火が小型パイパーを吹っ飛ばしていく、だけど倒した数以上の小型パイパーが横島君に殺到する

 

「ぬうう!喰らえッ!!!」

 

ドクターカオスが手榴弾を小型パイパーに投げつけ、その集団を吹き飛ばすがその数以上の小型パイパーが姿を見せる

 

(本当にこれは不味い……)

 

パイパーに勝てないにしても、引き分けには持ち込めると思っていたのに……これは本当に不味い

 

「ひゃひゃひゃっ!!今のオイラは無敵さあ?だって高位の魔神様にこれを貰ったんだからねえ?」

 

パイパーが服の中に手を突っ込んで何かを取り出す、それは拳大の真紅の宝石……それは凄まじい魔力を放っている

 

(なに……あの宝石は……)

 

これだけ離れていても判る。あの宝石には桁違いの魔力が秘められている……あんな宝石を渡すことが出来る魔族?それはどう考えても人間界で活動することを許可されている魔族ではないだろう

 

(まさか……過激派魔族!?)

 

神と悪魔のデタント……それを妨害する事を目的にしている過激派魔族。まだ日本ではそんなに活動していると聞いた事は無かったけど……まさかこんな所で過激派魔族に関わりを持つ魔族に遭遇するなんて思ってなかった

 

(どうする……どうすれば良いの……)

 

必死に如何するか?と考えるけど考えが纏まらない。私が硬直していると

 

「うわああああ!?」

 

横島君の悲鳴が聞こえて振り返ると、地面から顔を出した半透明のパイパーが横島君の首を掴んでいた。馬鹿な!?精霊石を横島君に持たせていたのに何で!?魔族は精霊石の結界に触れることが出来ない筈なのに

 

「ヒヒ!バーカ、ヴァーカッ!!!言っただろ?今のオイラは無敵なんだよ!!!」

 

狂ったように笑うパイパーとその分身。二重に聞こえる馬鹿笑い、だがそれは自分が有利であることを確信しているからこその笑い

 

(くっ……どうすれば……)

 

横島君が人質に取られた以上。思うように動けない……私は折れてしまった刀を手放し、代わりに破魔札を構えようとしたが

 

「おーっと!動くなよ?動けばこいつの頭が弾けるぜ!」

 

パイパーが横島君の頭を掴む。魔族の力を持ってすれば人間の子供の頭を砕くなんてわけない

 

「さーて、じゃあどうするかなあ……」

 

パイパーがニヤニヤと笑う。これは不味い……下手に反撃すれば横島君が殺される……どうすれば

 

「うぐぐ……」

 

パイパーに捕まっている横島君が何かを言おうとしている、それに気付いたパイパーが

 

「そうだ!このガキが呼んだ奴を殺す!抵抗するなよ?おい!ガキ!ほら!誰に助けてもらいたいんだ?」

 

パイパーが顔を近づけて横島君に怒鳴る。横島君は苦しそうに目を開き、その握りこんでいた手を開いて

 

「くらえええ!このハゲアタマア!!!」

 

「っぎゃああああ!?」

 

パイパーの分身の顔面に精霊石を叩きつける、横島君まさか自分が狙われているのに気付いて、態と精霊石を使わなかった?だが霊力も無い横島君が使った精霊石は充分な効果を発揮せず、分身のパイパーの顔に酷い火傷を与えるのが手一杯だった

 

「このクソガキがあああああッ!!!!」

 

「う、うわああああああ!?」

 

顔面が焼かれた分身のパイパーが横島君を地面に向かって投げつける。咄嗟に走り出すが

 

「「「ケラケラケラ♪」」」

 

分身のパイパーが肩を組んでスクラムを組んで邪魔をする

 

「邪魔っ!!」

 

破魔札を叩きつけるが、即座にまた肩を組んだ小型パイパーが姿を見せる。これじゃあ間に合わない!

 

「みむううううっ!!!!」

 

「コーンッ!!!!」

 

チビとタマモが落下地点に回り込もうとするがチビとタマモも小型のパイパーに妨害され、前に進むことが出来ない

 

「くっ!横島さん!」

 

「横島ッ!」

 

マリアさんとテレサが必死に手を伸ばすがそれも届かない。ドクターカオスにはマークが無かったので走り出すが

 

「だ、駄目じゃ!間に合わん!?」

 

老いたドクターカオスでは距離がありすぎる。それが判っているから、パイパーはドクターカオスに自分の分身を向けなかったのだ

 

「ひゃーははははは!!!死ねぇッ!!!」

 

パイパーの高笑いが響く、届かないのは判っている。それでも手を伸ばした瞬間

 

「うきゅきゅーっ!!!!」

 

小型パイパーのスキマを通り抜けたモグラちゃんが横島君の下に回りこんでから巨大化し、その背中で横島君を受け止める。よ、良かった……安心したのは一瞬で小型パイパーの群れに持っていた精霊石を叩きつけ蹴散らし、横島君の元に走る

 

「モグラちゃん。ありがと」

 

「うきゅ♪」

 

モグラちゃんの背中から横島君を抱き降ろす。震えている横島君の背中を撫でる

 

「怖かったよね。ごめんね」

 

私の油断だった。まさかあんな事にまで分身を使えるなんて思ってなかった……もっと警戒するべきだったのだ。それこそ私の切り札を使う心構えくらいはしておくべきだった

 

「ドクターカオス。横島君を」

 

「うむ。ほれこっちに来い」

 

ドクターカオスに横島君を預けパイパーの方を見る。人質を奪い返されたのにまだまだ余裕そうな顔をしている

 

「ヒッヒ。遊びは終わりだよ、そろそろ殺そっか」

 

ひゃひゃっと笑うパイパー。その耳障りな笑い声に眉を顰める、仕方ない……神卸を使う、今の鈍りきった私では危険だけどこれじゃ無いとパイパーを退けることが出来ない。覚悟を決めて親指を噛み切ろうとした瞬間

 

「うぎゅううううッ!!!」

 

毛を逆立てたモグラちゃんがジャンプした瞬間。凄まじい光を放つ、その眩しさに目を閉じた次の瞬間

 

「ギャオオオオッ!」

 

「モ、モグラちゃ……ん?」

 

思わずそう尋ねてしまった。毛むくじゃらなのは変わってないけど、二足歩行になり鋭い爪と長い尻尾を持つ竜がパイパーに向かい合って吼えていた

 

「な、ななななななあ!?なんだお前!?」

 

パイパーが動揺するのは判る。私達だって驚いている、あれだけ可愛かったモグラちゃんがあんな姿になるなんて思ってなかった

 

「モグラちゃん!頑張って!」

 

「コーンッ!!!」

 

「みむうッ!!

 

横島君とチビとタマモの声援が重なる、モグラちゃんはその声援に答えるようにパイパーに突進していく

 

「このおっ!!!」

 

パイパーと竜が掴み合いになるが、一瞬均衡したと思ったがそれは本当に一瞬で

 

「いっけええ!モグラちゃん!!」

 

「グオオオオッ!!!」

 

横島君の声援に答える様にパイパーを一気に押し潰す。凄まじい力だ……流石は竜族と言う所だろうか?

 

「し、信じられません。あの竜の力はパイパーを完全に上回っています」

 

マリアさんが驚いたと言う感じの声で呟く、私も正直驚いている。竜族なのは知っていたけど、まさかあれほどの力を持っているなんて思ってなかった

 

「くそがあ!お、オイラは最強になった……「ギャオオオオオオンッ!!!」

 

モグラちゃんが咆哮と共にパイパーを上空に投げ飛ばし、大きく口を開き

 

「ゴガアアアアッ!!!」

 

凄まじい音を立ててモグラちゃんの口から放たれた火炎弾がパイパーの身体を貫き焼き尽くす。それと共に私達を囲んでいた小型パイパーも元の鼠の姿に戻って行く……はーなんとか切り抜けることが出来たみたい

 

「ありがと。モグラちゃん」

 

横島君が近寄ってモグラちゃんの身体を撫でながらお礼を言うと

 

「グルォ」

 

コクンっと頷くモグラちゃんだったが、次の瞬間には小さなモグラの姿に戻って横島君の腕の中に納まる

 

「うきゅう」

 

目を回しているモグラちゃんを抱きしめながら横島君が

 

「おつかれ、モグラちゃん」

 

「きゅ……」

 

横島君の腕の中で弱々しい鳴声を上げるモグラちゃん。多分霊力を使いすぎて弱っているのだろう

 

「今度はしっかりと防護陣を作りましょう!マリアさん!テレサ!急いで!」

 

あれだけ強力な分身をそうそう作ることが出来るとは思えないけど、またあれだけの能力を持つ分身が現れたら、今度は対処しきれない

 

「ワシに任せろ!!テレサ!鞄から精霊石の粉末を!マリアは聖水を!東洋・西洋複合結界を作る!」

 

素早く結界を作る準備を整えるドクターカオスとマリアさんとテレサを見ながら、地下に続くコースターのレールを見つめて

 

(蛍ちゃん達は大丈夫かしら)

 

これだけ離れているのにも拘らず、あの分身の力は凄まじかった。きっと本体の力もかなり上昇しているのだろう……私は地下に向かった蛍ちゃん達の無事を祈らずにはいられなかった

 

 

 

ん?今……やられたのか……外で待っている連中を殺すために送った分身が消えたのを感じた。かなりの分の魔力を注いで作った分身だが、まさかやられるとは

 

(これは遊んでいる時間は無いな)

 

金の針を奪い返し、早く力を取り戻さないとこちらがやられてしまうかもしれない……竜族の爺が1人に、幽霊と何かの妖怪のガキと黒髪の小娘

 

(あの爺を若返らせたら終わりだ)

 

今は年老いているから力が弱まっているが、それでもかなり強いのは判る。だからあの爺を若返らせない為に笛を使うことは出来ない、あの妖怪は確かに強い力を持っているが、今のオイラの敵じゃ無い。金の針を取り返してから若返らせて叩きのめせばいい……どうやって殺すかを決めてから

 

「さぁ。金の針を寄こせ、そうすればこの2人は無事に返してやる」

 

人質である美神令子と神宮寺くえすを捕まえながら、手を伸ばす。これがあればもっと大規模で分身を作り出して大人を子供にすることが出来る。それを考えれば、今この2人を逃がしてもオイラには何の痛手もない

 

「さ、金の針を寄こすんだ」

 

手を伸ばしながら黒髪の女に繰り返し言う、竜の爪を出している爺には何もするなよと声を掛け睨みつける。爺の癖にかなりの力を持っている、あの爪の直撃を喰らえば今のオイラでも致命傷を受けかねない。だからあの爺だけは絶対に自由に動かさせるわけには行かない

 

「先に美神さんと神宮寺を返して、それが条件よ」

 

「駄目だ、先に金の針を寄こせ」

 

お互いに平行線だ、仕方ない、オイラは爪で軽く神宮寺の頬に傷をつける

 

「ひう!?」

 

「別にオイラはいいんだよ?ここでこいつを殺しても、それを返してやるって言ってるんだ。妥協しなよ」

 

オイラの言葉にこれ以上は交渉出来ないと判断したのか金の針を投げてくる、それを受け取ると同時に2人を手放す。これでオイラの力が戻って……来ない!?馬鹿なこれは間違いなく金の針だというのに何故!?

 

「……馬鹿はお前だ。ハゲ頭」

 

【シズクさん!今度はこっちに!】

 

頭の上から聞こえた声に顔を上げると、オイラの前にいた幽霊と妖怪の姿が水になって消える。それよりも不味い!?乾いた音を立てて破裂する風船。オイラは咄嗟に捕まえていたガキ2人を投げ捨て距離を取ろうとするが

 

「この私の美貌に傷をつけた罪……ただではすませませんわ!」

 

「ナイス!おキヌちゃん!シズク!」

 

投げ捨てた瞬間元の姿に戻り、黒い炎と精霊石を投げつけてくる。黒い炎は必死で回避したが、かわりに精霊石を直撃で貰ってしまう。ぐううう!馬鹿な、どうして!?手にしている金の針を見つめると、ドロリと溶けて消える。これは水!?まさか!

 

「……水はどんな形にも変化する……はげ頭の馬鹿」

 

にやっと笑うガキを見てオイラはカッとなり笛を口に当てて

 

ちゅら♪ちゅら♪ちゅらー♪らー♪

 

渾身の魔力を全てあのガキに向けて笛を吹く、これだけ魔力を込めれば例え妖怪であっても、存在を維持出来ないほどに若返らせることが出来る筈だ

 

「へいっ!」

 

眩いまでの光がガキを包み込む。へへ……これで終わり……ンなぁ!?光の中でどんどんガキの力が増していく

 

「……これだから馬鹿は御しやすい」

 

光が弾けた瞬間。ガキが居た場所には腰まで伸びた緑色の髪を翻し、凄まじいまでの竜気を放つ女が居た。血のように紅い瞳をオイラに向けて

 

「……横島に牙を向けた罪。その身を持って償えッ!下等魔族がっ!!!」

 

指がなった瞬間。地下湖の水が巨大な槍となってオイラに殺到して来た、この瞬間オイラは初めて自分がミスを犯したことに気付いたのだった……遊んだりせずに、とっととここにも小型パイパーを呼び出して、金の針を奪えば良かったのだ。

 

「ち、ちくしょおおおおおッ!!!」

 

咄嗟に本体の中に戻り、増幅した魔力で障壁を作るが、それを簡単に貫きオイラの身体を貫く水の槍。その凄まじいまでの激痛にオイラは意識を簡単に吹き飛ばされてしまうのだった……薄れていく意識の中

 

「まだだよ、まだこんなところで死んでくれるなよ?もっと僕を楽しませるんだ道化」

 

オイラに魔力の詰まった宝石を譲ってくれた魔族様の楽しそうな声を聞いたような気がした……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その7へ続く

 

 




モグラちゃんの進化とシズク大人フォーム獲得(?)です。しかしまだパイパー編は終わりませんよ。まだ続きます、次回はもっと激しい戦闘にしていこうと思っているので大人モードシズクとかの活躍を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。