All I need is beat   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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絶対に更新をする!
ドイツにいるからって滞ることを恐れないで!


虹花の守護者

 

 例えその日、剣として折れても死んでも。

 歌姫は明日人として歌う為にこそ戦場でこそ旋律を鳴り渡らせた。

 そして夢を羽搏く歌はカ・ディンギルの塔を砕き、雪の歌と同じように世界に届いた。

 風鳴翼はフィーネの目論見を確かに砕いたのだ。

 けれどそれは同時に少女の心も砕いていた。

 憧れだった先輩も、新しくできるはずの友達も、なによりも最愛の陰も失ってしまった。

 故にその瞳から光は消え去り、身体から力も消えていた。瓦礫の中で横たわり、呆けた頭に響いてくるのは壊れた塔を見上げるフィーネの声だった。

 

「……統一言語を以てあの方に想いを――」

 

 天へと焦がれるように放たれた言葉は途切れ途切れにしか聞こえてこない。けれど彼女の事情と感情は読み取ることができた。

 結局のところそれは乙女の恋慕の物語だ。愛する人へ想いを伝えられなくて、だから伝える為に時を超えて世界を自らのものにしようとした。世界、どころか地球と月にまで規模の膨れ上がった話なのにも関わらず、始まりはそんなちっぽけなものだったのだ。

 

「――それ、は」

 

 そんなものと、馬鹿にすることは響にはできなかった。

 もしも影詩や未来と言葉が通じなくなり離れ離れになった時、自分はそんな暴挙に出ないと断言できない。既に一度世界と影詩を天秤にかけて影詩を選んだのだ。

 恋心なんて、彼女にはまだよく解らないけれど。

 譲れないものの為に、それ以外の何もかもを無為と切り捨てることは否定できなかった。

 

「――――」

 

 フィーネが何かを言っている。それは融合がどうとかネフシュタンがどうとか。多分きっと大事なことなのだろう。けれど何を言っているのかは解らないし、頭に入ってこない。

 手に、力が入らないのだ。

 その拳に握りしめる愛が消えてしまったのだから。

 闘う理由が無くなってしまったのだから、立ち上がる力も何もかもが残っていない。力は全て使い果たしてしまった。

 

「――」

 

 瓦礫に横たわり、しばらくの間フィーネの独白を聞きながら空を見上げていたら、彼女が紫鞭を振り上げた気配を感じた。それすらも対応する気が起きなかった。

 散った影詩と同じ場所に行けるのならばそれもそれでいいな思ってしまったのだ。

 だから受け入れるかのように、何もせず、

 

「――なんだ、何処から聞こえてくる…?」

 

 どこからか聞こえて来るものがフィーネの動きを止めた。

 眉を顰め、周囲を見回し、聞こえてくるものに不快感を隠さず、

 

「この不快な、歌―――歌、だと……!?」

 

 歌だと、それを認識した。

 倒壊した校舎に備えられたスピーカーから響くもの。旋律に乗せられた声、それが多く誰かから発せられ、重ねられ歌となる。

 

「――」

 

 そしてその歌を、響は知っていた。

 私立リディアン女学院の校歌。

 聞いていると何故か安心するようなそれが荒廃した大地に広がっていく。

 それが、聞こえてきたのだ。

 

「――聞こえる……みんなの声が……」

 

 皆、そう皆だ。重なり合う歌の中に響の知っている声がある。何時か助けた少女やその母親が入れば、クラスメイトの安藤創世や寺島詩織、板場弓美。

 そして何より――立場響の陽だまりである小日向未来。

 

「――良かった……私を、支えてくれてる皆は……いつだって、そばに……」

 

 何もかも失ったと思ったけど、そんなことはなかった。

 確かに失ったし、傷ついた。けれどそれは終わりじゃないし、喪失や痛みに堪えているのは自分だけではなく、

 

「皆が歌ってるんだ……」

 

 聞こえるものはその証。 

 だから、

 

「まだ歌える……!」

 

 だから、

 

「頑張れるッ!! 闘えるッーー!」

 

「――!?」

 

 刹那、再起と共に響を中心にして生じたバリアフィールドがフィーネを突き飛ばす。

 吹き飛ばされながら姿勢を建て直したフィーネだが、しかし浮かぶのは紛れもない驚愕だ。周囲に浮かぶ光の粒と立ち上がった響が何であるが、数千年の経験を持つフィーネですら理解ができなかったから。

 

「まだ闘えるだと……?」

 

 解らない。

 

「何を支えに立ち上がる?」

  

 解らない。

 

「何を握って力と変える?」

 

 解らない。

 

「鳴り渡る不快な歌の仕業か……ッ?」

 

 解らない、

 

「そうだ……お前が纏っているモノはなんだ?」

 

 解らない。

 

「心は確かに折り砕いたはず……なのに、何を纏っているッ!?」

 

 解らない。

 

「それは私が造ったモノか……!?」

 

 解らない。

 

「お前が纏うそれは一体なんだッ!?」

 

 解らない。

 

「なんなのだッ!?」

 

 フィーネには解らないけれど――立花響はその答えを知っていた。

 

「ッ……!」

 

 復活と共に夜明けの空に光の柱が同時に三つ起立する。

 赤と橙と青。森の中とカ・ディンギルの頂点とフィーネの眼前。赤と青の光の中には響と同じように復活を果たした雪音クリスと風鳴翼。絶唱によるバックファイアや特攻の損傷を膨大な高純度のフォニックゲインで全て回復させ魔弓と絶刀、撃槍が再び鎧を纏い、空を舞う。限定解除を果たしたシンフォギア、奇跡染みたフォニックゲインにより実現した決戦状態。

 そして、再起するのは歌姫だけではない。

 空に立ち上がった橙の柱に寄り添うように、黒紫の影もまた復活する。

 最早半人狼も人狼もそこには存在しない。人の形ではなく、完全に巨大な狼だ。全身を燃え立つ炎や影を思わせる黒紫の体毛に覆われた欲望の顎。シンフォギアと同じようにフォニックゲインを受け、聖遺物の欠片に過ぎなったにも関わらずオリジナルに近い姿を出現させていた。しかしそれはただの欲望の牙ではない。咲き歌う虹の華に寄り添い守るもの。

 それこそは虹花の守護者に他ならない。

 赦されないと思い、けれど過去も未来も赦された故の姿がそこにはある。

 そして、クリスが、翼が、響が空に光の翼を広げ、影詩は響を守るように寄り添い合い。

 問いに彼女は応えた。

 

「シ・ン・フォ・ギィィッ――ヴウゥワアアアアアアアアアアアアアアーーッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? 何犬!? ほんとに犬!? そこまでして響の犬になりたかったの!? わんわんってお手とかしたかったの!? 私が飼ってあげるって言ったのに!」

 

 

 

 

 

 

≪貴様ァ!≫

 

「わ、影詩……って影詩!? マジで狼になってるじゃん!?」

 

「がるぅあ!」

 

「え? ちょっと何言ってるか……」

 

≪未来がまた阿呆なこと言ってやがる!≫

 

「てめらぁ! いきなり漫才初めてるんじゃねぇ!≫

 

「しかし犬だな……」

 

≪狼だッ!≫

 

 夜明けの空で中空で会話をする三人と一匹。響たちは背に生えた光の翼で自在に空を移動し、影詩もまた空間を踏みつけて当然のように自立している。そのような様を忌々しげにフィーネは見上げていた。

 

「高レベルのフォニックゲインによる限定解除……それに聖遺物の力をよりオリジナルに近い力で引き出したか。……念話までするとはな」

 

 吐き捨てながら握り直したソロモンの杖だ。ノイズを自在に操るその厄杖を突きだせばフィーネの前に十程度のノイズが出現し、形状を槍のように変化しながら飛びかかってくる。けれど限定解除を果たし、自在に空を舞う響たちや宙を駆ける影詩からすれば今更問題にならない。実際三人と一匹は危なげなく回避しきった。

 

≪その程度かぁ!?≫

 

 意気揚々と吠えるクリスに、しかしフィーネは笑みを浮かべるのと共に杖を高く掲げ、

 

 ――街に数千を超えるノイズが出現した。

 

≪……≫

 

≪余計なことを言うから≫

 

唖然としたクリスに影詩が呆れたように鼻を鳴らす。空から見下ろす街は道路の至る処をノイズで埋め尽くされ、大型のものはビルを破壊しながら、或は悠々と空を飛翔していた。それは今までかつてない規模で出現したノイズの群れだ。ここ数か月、この街ではノイズが異常発生したが、今まで出現した総数と比べても、尚今出現したノイズの方が多いだろう。ノイズが十数体いれば一軍を滅ぼせるのに、そのノイズの軍隊が出現している。仮に人類がこれだけのノイズを滅ぼそうとすればいったいどれだけの火器を用いればいいのか、その規模は計り知れない。大凡、人類では奇跡でも起きなければどうしようもない。

 けれど今、ここには奇跡の体現者がいる。

 

「私たちの街を好きにはさせません!」

 

「明日歌う場所が無くなっては敵わん」

 

「昨日守り切ったばかりだぞ!」

 

 三人はそれぞれ翼を広げ、街へと飛翔しかけ、

 

「がるっ」

 

「っと……影詩?」

 

  真っ先に飛び出そうとした響を影詩が止める。しかしそれは戦うことそのものを制止する動きではない。響が戦場に身を投げ出すことは思うところはあるが、先の敗北で納得はしたのだ。だから止めない。寧ろ、共に戦うと決めた以上、力の限りを尽くして響を守り、手を貸す。制止と共に響の前で影狼は低く体を沈める。

 まるで乗れと言わんばかりに。

 

≪隣じゃねぇけどな≫

 

 苦笑気味の念話が届き、けれど響は満面の笑みを浮かべ、

 

「一緒だよ!」

 

 影狼の背に跨る。

 

「わ、ふかふか」

 

 見た目以上に狼毛の感触は柔らかい。鋼を超えた硬度はありながらしかし上質な絹のような質感でもある。影詩に意志によって可変であるからこそ、できうる限りもっとも快適な乗り心地を作り出していたのだ。

 おそらく響以外が乗ればそこまでしない。

 というか彼女以外乗せることはないだろう。

 小日向未来だけは、悪態を吐き、罵り合いながらも同じ最上の乗り心地を用意するだろうけれど。

 

「るぅ――」

 

 背に響を乗せた影詩はその場で中空を掴み――破裂音と共に瞬発する。

 

「ぬーーっ」

 

「おわっ!?」

 

 それは先んじて街へ向かっていた翼とクリスを容易く追い越し、ソニックブームを生むほどの超疾走。音速超過の塊となり空を駆け抜け、けれど背の響にはそれらの余波は欠片も与えることなく、一瞬で極彩色の雑音が蠢く街へと到着し、」

 

「GAAAAAAAAAAAA!!」

 

 吠える。

 轟く咆哮はただの声ではない。シンフォギアにより生じる歌に比べればより原始的で応用性にも欠けるが、けれどそれ以上にどうしようもなく暴力的だ。ノイズというかつて響を傷つけ、今なお街を破壊しようとする害悪。そんな存在を影詩が許すはずもなく、故にその憤怒の意思は大気を、空間を震わせノイズのみに適応される破壊となる。位相障壁すらもガラス細工のように容易く粉砕し、滅尽滅相の咆哮はノイズを鏖殺する。

 消え去った雑音は数百にも近く。

 

「私たちも!」

 

 影狼の破壊の咆哮に続き、戦姫よる始まりの愛の歌が響き渡る。

 

≪―――♪≫

 

 それは優しく、けれど勢いよく。苛烈さと共に愛らしさを秘めた旋律。

響たち三人は歌を重ねながら天を舞う。

 

≪―――♪≫

 

 響が腕の機構を用いて拳を叩き込めばビルサイズのノイズを一瞬でぶち抜き、翼が一刀を振りぬけば斬線上のすべては両断され、クリスが引き金を引けば視界のすべてのノイズに穴が開く。限定解除を果たしたことと高純度のフォニックゲインが齎す戦闘力は計り知れない。それぞれの各機能は大幅に拡張され、クリスに至っては自身が小型の飛空艇を操る程。響もまた握り潰していたエネルギーを弾丸状に射出することで乱れ撃ちを可能にしている。

 彼女らの行動一つ一つが雑音を消し飛ばしていく。攻撃一つで消滅するノイズが十数単位であり、大技を放てば大型ノイズも容易く打ち砕く。

 それは当然と言えば当然だ。

 例え数千のノイズが蔓延ろうとも、彼女たちの姿は街の人々の祈りにより産み落とされた奇跡の具現だ。紡がれる歌は、今更雑音如きに脅かされるような軟な歌ではないし、影の少年の覚悟もまた隣にいる以上揺らぐはずもない。

それは紛れもない蹂躙だ。

槍が、剣が、弓が、牙が。

貫き、振りぬき、打ち抜く、喰らっていく。

願いと共に、絆が響く。

故に瞬く間にノイズの数は減少し、

 

≪今更ノイズなんて!≫

 

「――ふっ」

 

 それらを囮としてフィーネは動いていた。

 ソロモンの杖を腹に突き刺すことで、ネフシュタンの鎧の修復機能が発動。厄杖を取り込み、さらに同時に残っていた全てのノイズがフィーネの元に飛び、融合していく。

 

≪クリスちゃんよぉ! 余計なフラグ立てるの止めてくれや!≫

 

≪あ、あたしのせいじゃねーよ!≫

 

 変化は続く。フィーネを中心に生まれたノイズの肉塊はカ・ディンギルの跡、地下へと落下し――最下部のデュランダルを取り込んだ。

 そしてその塊は姿を得る。

 数十メートルはあろう巨大な赤い竜だ。黙示録に記された終末の赤き竜――ベイバロン。

 厄杖ソロモンの杖、蘇鎧ネフシュタン、聖剣デュランダルの三つの完全聖遺物を併用することで生み出された終わりを齎す神話の生き物がそこにいる。頭部当たりに空間があり、その中に聖剣を手にしたフィーネが鎮座し、

 

「――逆さ鱗に触れたのだ、貴様らは」

 

 静かに、しかし嚇怒を秘めた言葉共に放たれたのは閃光だ。その光は一瞬で街へ到達し着弾と共に広範囲を吹き飛ばした。

 

「このっ……! まだそんなちょせぇのを!」

 

 クリスが飛空艇からレーザーを同時に十数本放つ。その威力は決してベイバロンの閃光には劣らないだろう。事実赤い体の各所に全弾命中し、肉を吹き飛ばす。しかしフィーネの居座る空間には壁が生じて全てが塞がれ、一瞬で全てが再生した。それどころか食らったエネルギーをそのまま撃ち返す。翼の斬撃も響の拳撃も影詩の咆撃も同じだ。切創は刻むし、風穴は開けるし、微塵に返すが、一瞬で全てが修復されてしまう。明らかにネフシュタンの鎧による効果だ。

 

「無駄だ! 如何に限定解除を果たしたシンフォギアと融合しきった聖遺物であろうとも、完全聖遺物を三つの用いたこの姿に敵う道理はないッ」

 

 事実戦力差は圧倒的だ。ノイズを自在に操るソロモンの杖と同化し竜の体を保ちネフシュタンの鎧による回復力、さらにはデュランダルという無尽蔵の外付けのエネルギー装置がある。例え奇跡の具現だとしても、奇跡を終わらすのが今のフィーネなのだ。

 しかしだからといって彼女たちが諦めるはずもない。

 活路を見出したのはクリスと翼だった。

 

≪聞いたか!?≫

 

「聞いた、見た。そして解った。チャンネルをオフにしろ。大上は聞いていてくれ」

 

 念話を中止して、肉声で二人が一人と一匹に伝える。影詩の反応は翼とクリスにはいまいち理解できないが、響ならば大体読み取れるので意思疎通には問題ないし、そもそもそれほど難しい段取りはない。

 

「雪音と私で露を払う。大上は立花を守りながら……と言う必要もないだろうがな。そして最後は――」

 

「なんだかよく解んないですけど……やってみますッ!」

 

 言葉は曖昧でも、その笑顔と答えは十分に信頼できるものだ。

 だから翼もクリスも迷うことなく信じ、動き出す。クリスがレーザーを繰り出す間、翼が中空で刀を構え、手に力を込める。

 

「ふっ――くっ……!」

 

 絶刀を強く翼が握る。それにより一刀は一回りほど大きくなり、さらに強くきつく握りしめればまたさらに刀身は巨大化し、

 

≪ 蒼 の 一 閃   破 滅 ! ≫

 

 放たれたのは名前通りに破滅を生む大斬撃だ。大気を切り裂く斬滅の閃光はベイバロンに激突すると共に空に巨大な爆炎の花を咲かし数十メートル規模の切創を刻むが――修復は淀みない。破壊が大規模であったが故に一瞬とはいかないが、それでも迅速だ。数秒も係らずに空いた穴は塞がり、

 

「――!?」

 

「針穴を通すッ!」

 

 切創が塞がる直前、飛空艇ごとクリスが飛び込み、

 

「――だぁらッ!」

 

 飛空艇の全砲門からレーザービームを射出した。

 数十条にも及ぶ真紅の閃光は内部空間で連続して爆発を起こし、内側からベイバロンとフィーネに損傷を与えていく。

 

「鬱陶しい……!」

 

 開閉部分を開くことで衝撃と爆煙を排出すると共にデュランダルを振るうことで払いのければ、

 

「――るぅぅぅ……!」

 

「――フェンリスヴォルフ……!」

 

 破壊の息吹を口に蓄えた影狼に現れ――叩き込む。

 

「――GAAAAAAAAAAAA――!!」

 

 空間が震え、ベイバロン全体に滅尽滅相の波動が打撃し崩壊を齎す。巨大な竜の総体の表面が泡立つように崩れかけ、しかしそれすらもネフシュタンの鎧は修復していく。

 けれど狙いは、

 

「ッ――デュランダルがッ!?」

 

 衝撃によりフィーネの手から離れたデュランダルだ。

 聖剣が天を舞い、そして全ては連続する。

 その輝きは紛れもなく勝機であり、何もかもが彼女がそれを掴むかどうかに懸っている。

 

 

「そいつが切り札だッ! 勝機を零すなッ、掴み取れッ!」

 

 翼が吠え、

 

「ちょせぇ!」

 

 壊れた飛空艇からクリスがデュランダルを弾丸で弾くことで飛ばし、

 

「るぅうううううううううううううううう!!」

 

 影詩が雄たけびをあげ、

 

「――ッ!」

 

 そして――響が聖剣を握りしめる。

 

「……!」

 

 握った瞬間に響の世界が凍る。その完全聖遺物は響に胸に歪みから破壊衝動を引き出し、暴走状態へと強制的に移行させていく。限定解除状態であろうともその性質は変わらず白かった響の体を黒く染める。

 

「う゛っ……う゛う゛う゛ぅぅぅ……ッ!」

 

 一瞬で意識が塗りつぶされることはない。

 それは響が聖剣の衝動に抗っている証拠であり、しかしその戦いは容易いものではなく、周囲に破壊の波動がまき散らされ、

 

「正念場だッ! 踏ん張りどころだろうが!」

 

 少女の響を彩る声が届く。

 傷つき満身創痍となった体で、しかし風鳴弦十郎はシェルターの壁を殴り飛ばし自らの弟子へと檄を飛ばす。そしてそれは彼だけではない。

 

「強く自分を意識してくださいッ!」

 

「昨日までの自分をッ!」

 

「これからなりたい自分をッ!」

 

 緒川慎次、藤尭朔夜、友里あおい。これまで響をサポートしてくれた大人たち。緒川はともかく、藤尭と友里は戦闘能力を持たない。にもかかわらず響を思って戦場まで来てくれた。

 

≪み、みんな……!≫

 

「屈するな立花ッ」

 

 励ましと共にデュランダルを握る手を覆うのは翼とクリスだ。

 

「お前が構えた胸の覚悟、私に見せてくれッ」

 

「お前を信じ、お前に全部懸けてんだッ! お前が自分を信じなくてどーすんだよッ!?」

 

≪う――ぐぐぐぐ……!≫

 

「あなたのお節介をッ!」

 

「あんたの人助けをッ!」

 

「今日は私たちがッ!」

 

 板場弓美、安藤創世、寺島詩織。響の日常にいる友人たち。彼女たちもまた危険を顧みずにこの場にいる。

 

「――姦しいッ! 黙らせてやるッ!」

 

 響への声援にフィーネは苛立ちを隠さなかった。そのあり方は痛みこそが人と人の絆である信じると彼女からすれば認めることのできないもの。故にベイバロンの各所から触手を飛ばし根源たる響を打ち砕こうと叩き付け、

 

「――GAAAAAAA!!!」

 

 それを虹花の守護者が許すはずもない。破壊の咆哮で竜の触手を吹き飛ばし、それでも砕ききれないものはその身を挺して響を守る。血を吐き、骨を砕き、肉を裂きながらそれでも影狼は咲き誇ろうとする花を守護しようとする。

 

≪――――ッッ!≫

 

 けれど少女は守護者が傷つくところなんて見たくないし、そんなものを見せられれば破壊衝動はより強く引き出される。故に黒い衝動は少女の心を塗りつぶすのと同時に、それを果たすために聖剣を振り上げ、

 

『――――響ィィィィイイイイイーーッッッ!!』

 

≪!?≫

 

 陽だまりと暗がりの声がその衝動を止める。

 言葉は必要ない。名前を呼ぶだけでいい。だってもう何もかも語りつくしたのだから。小日向未来と大上影詩と立花響の心は繋がっている。その事実で十分だ。そしてその力は響だけではなく、今この場に集まり彼女の名前を、喉を枯らさんばかりに呼ぶ人たちや歌を届けてくれた者たちのもの。

 

「ッ……!」

 

 地上から未来の視線を感じる。

 

「るぅ……!」

 

 眼前で血を吐きながら影詩もまた背で語っている。

 頑張れ、頑張っているから、響も頑張って。

一緒に手を繋いで歌って戦おう。

 

≪――そうだ≫

 

 そう、だから、

 

≪この衝動に――塗り潰されて、なるものかーーッッ!≫

 

 誰よりも熱く、誰よりも強い心で破壊の衝動をねじ伏せる。

 命の歌が響き、翼となって彼方へと羽ばたく。

 聖剣から溢れるエネルギーが立花響の祈りにより指向性を持ち、巨大な光の剣に。

 

「――その力、何を束ねた!?」

 

 理解不能への問いかけへの答えを、やはり彼女は知っている。

 

「響き合う皆の歌声がくれた、シンフォギアでぇぇぇぇぇああああああああああああああーーーッッッッッ!!」

 

≪ S y n c h r o g a z e r ! ! ≫

 

 黄金に輝く奇跡の旋律。

 歌声が集まった交響は――緋色の竜を完全に断ち切った。

 




>「ッ……!」
 地上から未来の視線を感じる。
「るぅ……!」
 眼前で血を吐きながら影詩もまた背で語っている。

 このあたりで、

(ちゃんと響守ってよ!)
(体張ってるのが見えねぇのかぁぁん!?)
(確かにツンデレワンコが私の響にしっぽ振ってるのが見える!)
(貴様ァ!)

的な会話が繰り広げられたんじゃないかなぁ(

感想評価お願いします。
最新話Bパートラストあんなん反則やろ。

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