やはりこの世界にオリキャラの居場所が無いのはまちがっていない。   作:バリ茶

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4話 盛り上がらないファーストコンタクト

 

 

 昼休み後は決まってイベントなどは無い。いつも通り訪れる放課後に生徒たちは歓喜し、或いは溜め息を零す。

 

 娯楽に興じる者がいれば、反対に生真面目に勉学に取り組む奴もいる。部活動に辛さを感じる奴もいるし、部室でラブコメする馬鹿野郎だっている。名前は奉仕部。

 

 自分の場合は、三番目に綴った、部活が只の苦行にすり替わってる人間だ。

 所属しているサッカー部は十分に人員が足りているし、葉山とか言う絶対的エースもいる。

 

 得るものは特に無いし、実際辞めたい。それに俺が退部したところで、別段何かが変わるわけではない。ただ、今まで親に部活に費やしてもらった金額を考えると、辛いと言う理由だけで退部するのは心苦しい所がある。

 

 とどのつまり、部活辛いっす。高校生の諸君ならば分かるであろうこの倦怠感は凄まじく身体に毒がある。嫌だ嫌だ、い゙ぎだぐな゙い゙ぃ゙ぃ゙……といった心境に陥る効果が確認されている。怖い。

 

 だけどそれを通り越して元気モリモリな奴も居たりする。葉山に至ってはリポビタン何本空けてんだよってくらいタフネス過ぎて引く。ファイト何発だよ。

 

 それでいて端正で様になる表情を崩さないのだから、やっぱり此奴はモテるのであろうな、と納得出来るでござる。加えて休憩時間は水道の前で洗顔お色気パーリー。水も滴るいい男とは言ったもんだ。

 

 今日はスポーツドリンク奢ってくれたから、葉山大好きになって、こうしてベタ褒めしてる。素敵、抱いて。

 

 そうそう、こうやって葉山は、周りに信頼されるような行動を毎日欠かさず怠らない。凄いと思う反面、そこまでする必要はあるのかと、疑問に思う時がある。

 

 実際交友関係が広すぎるせいで、一度に沢山の人を相手したのか、疲れ切った状態でサイゼで寝ている葉山を見たことがある。金魚のフンよろしく葉山の腰巾着こと戸部も一緒にいたのだが、寝ている葉山を起こそうとはしていなかった。

 

 意外でもないが、戸部も葉山の周りの事ぐらいは理解しているらしい。葉山に必要なのは、戸部のように理解ある友人だと、この頃思う。

 

 こうして俺は部活中、思慮に耽っている。やる事なんて特に無いから。

 

「霜月ー、そっち行ったぞー!」

「―――へ? あ、うぉわっ」

 

 突然飛んできたボール。おそらくパスなのだろうが、ボーっとしている奴に球を渡すなんて、頭がイかれた輩がいるなぁ。とか思いながら、取りこぼしたボールをなるべく早足で取りに行く。

 

 なんとか追いついたので、前にいるヤツにパスして、一息着く。すると後ろから軽く肩を叩かれた。

 

「ナイスパス、このまま前に上がろう!」

「お、おう」

 

 俺にパスした頭がおかしい奴は葉山だった。彼はそのまま前方へ走っていき、最近調子を取り戻してきた監督の叱責が怖いから、俺も前へ駆けて行った。

 

 パスを受け取った葉山はディフェンスの二人を抜き去り、ゴールへ球を蹴り飛ばした。しかしキーパーがそれを易々とキャッチし、俺の近くに待機しているやつにボールを投げる。

 

 葉山は少し焦ったような表情を見せた。―――仕方あるまい。必殺技を使うとするか。

 

「おっけいいぞ、こっちこっち!」

「おう! ―――あ゛っ!」

 

 声を出しすぎないよう気を付けつつ、手を上げる。するとそいつは俺を味方だと勘違いして、此方にボールをパスしてくれた。はっは、ざまぁみろ。葉山を出し抜けたと思って油断してたな小童め。チーム分けのビブスくらいよく見とけアホ。

 

 でも実際、これが上手くいったのは久しぶりだ。そんなたまーにしか決まらないフェイクに引っかかった男子部員は、凄い悔しそうな面白い顔をしている。おお、愉悦愉悦。

 

 素晴らしく歪んだ笑みをした俺は、悪い癖が発動した。少しばかりハイテンションになり、調子に乗るのだ。 

 

「行くぞ、戸部ぇッ!!」

「おっしゃ、めちゃんこテンション上がるっしょ!!」

 

 叫んだ俺は近くにいた戸部と一緒に前に出ていく。

 ていうか、めちゃんこって今日日聞かないね。

 

「見とけ葉山ぁッ!」

 

 俺は高らかに叫び散らし、一人立ちふさがるディフェンスに立ち向かう。

 まぁ仁王立ちで待ち構えてるし、ボールを股の下に通すだけの簡単なお仕事なんですけどね。

 

「ザ・ウォォォォル!!」

「戸部ッ」

 

 俺につられて叫んだ某稲妻11人のデブみたいな奴を抜いた後、斜め前にいた戸部にパスをする。

 

「オフサイドぎりぎり! 霜月君神業っしょ!」

「お前もさっさと決めちまえ!」

 

 返事の代わりに頷き、戸部は本気の顔になった。そして一人抜いた後にシュート。放ったのはループシュートだったが、うまいこと右を守ってたキーパーの左へ飛び、そのままゴールへ入った。君意外と葉山より上手なのね……。

 

 満足そうに此方に向かってきてハイタッチしようとした戸部に、気を使って合わせてやる事にした。

 

 バチンッ、とハイタッチを交わすと同時に、笛の音がグラウンドに鳴り響く。その合図は練習試合の終了を意味していた。

 それを聞いた葉山は軽く一息ついた後、俺達コンビの方へ向かってきた。

 

「凄いな、二人とも」

「だろ。俺と戸部が組めば、軽くお前三人分の力を発揮するんだ」

「霜月君からパス貰ったの、今日以外あんまり覚えてないけどね!」

 

 俺に肩を回しながら、へらへらと笑う戸部。地味に心に刺さる事言いやがったぞ、こいつ。

 そうさ。レギュラー組のお前らと違って、いつもベンチで快適に過ごしてんだよ俺は。実質ニートだよちくしょう。

 

「ははっ。……まぁ、今日のプレーを見て、監督も霜月のこと見直したんじゃないか?」

 

 マネージャーに渡されたタオルで額を拭いながら、葉山は視線を監督の方へ移す。その先には、なんか帽子を深く被ってニヤニヤ笑ってる監督がいた。

 本当に葉山の言う通りなのかな? と期待したのは一瞬で、監督が携帯の画面を見てニヤついていたことが直ぐに分かった。あー、もう。多分俺に関心示してないわ、アレ。

 

 わざとらしく肩を落として落ち込むと、戸部が軽く背中を摩ってくれた。いや、気持ち悪いわけじゃないから……。

 

 

 顧問が携帯をポケットに入れ、何事も無かったかのようにキリッと表情を引き締めた。今日は終了だー、と叫び散らすと、部員達は後片付けに勤しみ始める。

 あぁ、漸く終わった。今日は大活躍したから、いつもより疲労感が凄いことになってる。

 

 疲れ切った瞳でチラリと部室の方を見ると、葉山がマネージャーとラブコメしてた。おいこら、何楽しそうに談笑してんだ……こっちはなぁ……つか、れて…るん……… 何でまだそんな元気なんだよテメェ!!(逆ギレ) すげぇ!!(恍惚)

 

 感情の起伏を激しくして疲労感を誤魔化しているが、やっぱり疲れているのは事実。元々体力が無いのと普段全然運動していないのも相まって、心の中は真っ白に燃え尽きてるぜ……。

 

「んぉー? あれ結衣じゃね?」

 

 カラーコーンを集めていると、いつの間にか隣にいた戸部が、グラウンドの外から見える校門の方を向きながら唐突に言ってきた。

 俺も同じ方を向くと、そこにはゆきのんと腕を組んで歩いているガハマさんがいた。加えて満更でもなさそうな雪ノ下さんの表情。凄く……百合百合しいです……。

 

 ふと校舎の上のデカい時計を見ると、もう夕方は過ぎているような時刻を針が示していた。奉仕部やらの校舎内の部活が終わっていても、おかしくはない。

 それにしても、微笑ましい光景じゃのう。

 

「霜月君、今スッゲーおじいちゃんみたいな優しい目してるべ」

「ほっとけ」

 

 へらりと笑う戸部を無視して、再び小さいカラーコーンを集めていく。

 ―――集めていこうと思った、その時だった。ガハマさん達から目線を外そうとした瞬間、尻目に人影が見えた。二人の後ろに、誰かが居た。

 

 既に部活の終了時刻だし、別に誰が二人の後ろを歩いていても、何ら不思議は無い。けども好奇心と言うのは恐ろしくて、何故か気になった俺はその人影の方へ視線を移した。

 

「……あっ」

 

 ハッとした。まるで心臓が鷲掴みされた様な感覚に陥った。急に跳ねた心臓の鼓動は加速し、俺は抑え込むように自然と右手を心臓部に当てる。

 

 男だった。何の変哲も無い、何処にでも居そうなただの男子生徒。

 しかし、俺はそいつに見覚えがあった。いや、見覚えと言って良いものなのかは分からないが、知らない顔ではなかった。

 

 以前、俺は由比ヶ浜結衣と何者か分からない男が恋人の様に振る舞い、挙句接吻までする、という夢を見たことがある。

 嘘偽りなく本当に『ただの夢』だったのだが、目覚めの悪さは異常だった。その時はそれ以上の事は何も考えていなかったが、今になってみればアレは予知だったのかもしれないと思う。

 

 二人の後ろを歩いている男は、夢で出てきたその男にそっくりだった。冷や汗を流すと同時に、あの夢で見た虫唾の走る気色悪い笑顔が鮮明に思い出される。

 

 動揺で身動きが取れない。しかしハッキリと眼光はその男を捉えている。

 男が二人に近づくように、小走りになる。

 段々と、その速度は早くなっていく。

 

 ただの夢だろ、何焦ってんだ?

 馬鹿じゃねぇの。似てる人が居るだけだろ。

 そもそも夢と重ねること自体、失礼極まりない。

 

 様々な考えが脳内を駆け巡る。

 しかし絶対にこのまま見逃してはいけないと言う焦燥感が、直ぐに全身を支配した。

 

「このっ!!」

 

 俺はカラーコーンを放り投げ、膝を思い切り叩いた。瞬間、重りが外れたかのように足が軽くなり、目が覚めた。

 そして辺りを見渡し偶然見つけたのは、珍しく球拾いをしている一色いろは。

 

「一色! そのボール一個こっちに寄越せ!」

 

 突然怒号に近い声音で声をかけられた一色は、よく分からず狼狽している。構わず、俺は続けた。

 

「おい、早くしろ!」

「は、はい!」

 

 焦って返事をした一色は、片手でボールを此方に投げた。

 俺はそれを両手で取り、軽く上に投げる。

 落下するそのボールを、俺は男の方へ思い切り蹴飛ばした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 花壇から奉仕部の様子を見ていたら、先に男子部員が退室し、その後二人も退室した。

 僕の愛する由比ヶ浜結衣は、もう一人の女子部員と腕を組みながら校舎を出て行った。

 

 ああ、可愛い。可愛いよ結衣。この世の何よりも美しく輝いているよ。隣の子とくっつきながら幸せそうな顔をしているね。無垢で影一つ無いその笑顔が眩しいよ。でも本来ならその隣には僕が居るはずなんだ。ああ、勘違いしないで欲しい。その女の子の位置を取って食おうって訳じゃあ無いんだ。僕は君の、君の誰よりも特別な存在になりたいだけなんだ。聞いて? 僕ならその子より十倍は君を幸せにできる。十なんて全然足りないかな。でもこの数字はこれからきっと沢山増やしていけるよ。百でも千でも億でも兆でも無限に増やせる。それくらい君に幸福を齎すことの出来る存在なんだよ僕は。待たせてごめんね。こんなにも待たせてしまった。本来なら君が生まれたその瞬間から傍に居ないといけなかったのに、分からず屋な唾棄すべきゴミみたいな駄女神は君が高校生になってから僕を此処に送ったんだ。あ、でも後でそいつは殺しておくから、心配しなくてもいい。だから許してくれ。誕生したその瞬間から傍に居ることの出来なかった僕を許してほしい。でも、きっと寛大な君なら許してくれるのだろう? ふふ、やっぱり君は優しいね。その優しさに触れるだけで……いや、君の顔を思い浮かべるだけで僕はいつでもイってしまうよ。今日は替えのパンツを五十六着持ってきて、その全てを使い切ってしまったよ。いやはや、君の中に注ぐべき僕の遺伝子は、君を思い浮かべるだけで体外へ出て死んでしまうと考えると、やっぱり僕の全てが君を欲しているに違いないと分かるよね? 休日なんて君の写真でずっと快楽以上の境地へ陥ってるんだ。うぅぅ、早く君に僕を見て貰いたい。君に知ってもらいたい。君に近づきたい。君と話したい。君に触れたい。君に触れてもらいたい。君に撫でて貰いたい。君に摩って貰いたい。君に銜えて貰いたい。君に受け止めて貰いたい。君を襲いたい。君と―――

 

 あ、もう校門に近づいているね。今日も話しかけることが出来なかったけれど、君とそこそこ顔が整っていて美しい隣の子のツーショットで、今日は我慢するよ。

 今準備するね。小型カメラは少し使うのが手間だけど君の写真を撮るためならしょうがないや。

 少し二人の歩くペースが速いかな。僕も早く追いかけないと。待って待ってー。

 

 ―――ッ。

 何? これは……ボール? 僕の前に転がってきた物体は、サッカーのボール?

 まぁいいや、こんなの無視して早く――

 

「おーい! 悪い、そのボール取ってくれー!」

 

 グラウンドから男の人が来た。僕と同じくらい? 特別不細工でも端正な顔立ちでも無い、モブみたいな人。

 そんなことはどうでも良いのだけれど、ここまで来ると無視は出来ないかなぁ。

 

 僕は賢いんだ。男の人を無視して変に急いでも、質の良い写真は撮れそうにない。それどころか男の人に因縁付けられて面倒くさい事態になってしまいそうだ。

 時間はあるし今日は諦めよう。潔いでしょ? 結衣、君にはがっついていると思われたくないからね。

 あら、もう近くに彼が来てしまっている。

 

「はい、ボール」

「おお、悪いな。助かった」

「別にお礼は言わなくてもいいよ」

「そっか? ………うん、まぁいいや。じゃな」

 

 なんだろう、時間稼ぎ?

 妙に間を置いた会話に違和感を覚えた。

 まぁいいか。二人はもう見えないし、焦る必要は無い。

 でも、少し早めに帰った方がいいかな。

 

 

 

 

 

 

 明日から、楽しい修学旅行だからね。

 

 

 

 

 






感想、お気に入り登録頂きました。ありがとうございます。
2期の最初の部分から始まったのに、まさか修学旅行開始までこんなに時間かかるとは思わなんだ……。

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