やはりこの世界にオリキャラの居場所が無いのはまちがっていない。   作:バリ茶

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1話 非力な傍観者ってカッコ悪い

 

 

「今日は終了ー、皆おつかれー!」

 

 部長、葉山隼人の指示で部員全員が活動を止め、片付けの作業に取り掛かり始めた。今は顧問の先生より葉山の方が指示を下すことが多くなり、よもや顧問の存在意義が消えかけている。てか顧問の顔忘れた。

 そこらに転がったボールを集めていると、遠目にいつもの光景が。

 他のマネージャーより一足早く葉山の近くにタオルとカゴを持って向かっている。

 一色いろはだ。「葉山せんぱーい!」だって。羨ましい事この上ないね。

 

 

 ああ、悔しい。超悔しい。ほんっとうに悔しい。なんでだよ、俺めっちゃ積み重ねたじゃん。同じ中学通って、すごく頼れる先輩みたいな感じで接してきたじゃん。「――先輩いい人ですねー」って言ってくれたのに。凄く期待してたのに。

 追い打ちかの如く、終いには俺の呼び方……○○先輩になっちゃったし。他と一緒になった。寧ろ最近存在忘れられて、話しかけられないまである。もう泣きそう……。

 

「……帰ろ」

 

 帰りの支度を終えた俺は、さっさと校庭を立ち去り駐輪場へ向かった。……そこでまた見つける。

 

「………あれっ……どこやったか」

 

 あいつは―――比企谷八幡。いわゆる……ていうか普通に主人公。大多数に嫌われ少数に好かれるこの世界の主軸。がさごそとバックの中を漁ってる。カギでも探してるんだろうか。

 くっそう。転生してからめっちゃ頑張ったのに、あいつの周りの女の子を一人振り向かせることもままならない。それどころか相手にすらされねえ。

 なんとか同じクラスには入ったが、少々コミュ症をこじらせてた俺はグループ作りに失敗。見事にトップカースト組と無関係の立ち位置になってしまった。

 

 おかげで俺ガイル主役メンバーとは面識すらない。よって、一番近づきやすい由比ヶ浜結衣でさえ挨拶すら交わせない状況。

 どうしてこうなったわからん。……嘘だ。理由は全部知っている。 

 

 生憎、俺の自転車アイツの隣にある。ここは我慢して行こう。

 

「………」

「………」

 

 お互い無言。面識が無い人間だからではない。寧ろ比企谷八幡からすれば知ってる仲だ。

 

「…………奉仕部、終わったのか」

「……おう」

「そうか」

 

 何とも言えない状況。話が弾むでもなく、お互いに気を使って、それ以上何かを喋るわけでもなく。

 ポケットから取り出したカギをブッ刺し、開錠する。

 

「じゃ」

 

 彼に背を向けて自転車を押し始めると、後ろから声がした。

 

「………あ、ま、また明日な」

「……おう」

 

 彼と同じ返事を小声で返し、俺は自転車に乗る。一分しないうちに学校を後にした。

 

 

 

 

 

   ―――――――――――――☆―――――――――――――

 

 

 

 

「ただいま」

 

 リビングのソファで寝転がりながらピコピコスマホを弄ったり、チラチラテレビを見ている妹に向けて、俺は言った。言ったはず。だのに返事は帰ってこない。「んー」とか、せめてちょっとの反応でも見せてくれたら、お兄ちゃん嬉しいんだけども、マジ無言。超思春期。

 

 実は比企谷さん家の妹ちゃんと同学年で同じ学校だが、未だ俺は現物の比企谷妹を見たことない。妹は彼女を友達だと言っているが、小町ちゃんをウチに連れてくる時は、決まって俺は追い出される。

 何故と問えば、こんな答えが帰ってくる。「こんな恥ずかしい兄、見せたくないし」だそうです。ひどい。

 

 確かにそこまで美形でも無いし身長も高くはないけど、なに、ほら、アレだ、比企谷家のお兄さんとはいい勝負してると思うよ? 相手にすらなりませんでしたごめんなさい。

 

「今日母さん遅くなるから。……たまには自分で作れよ」

 

 それだけ言って、俺は二階の自分の部屋へ行く。

 いやはや、会話が成り立たないって辛いわ。

 

 でも、現実の妹ってこんな感じなのよね。もう「お兄ちゃん」とか「兄貴」とか呼ばれたの何年も前の話ですよ。最近じゃ名前も言わないし。

 ウチの妹曰く、「お兄ちゃん」って呼び方は俺が母親のことを「ママ」って呼ぶのと同じらしい。そう考えると、少しは納得できてしまう。確かに高校生の男子が母親をママって呼ぶのは、ちょっとね……。

 

 え、でもさ、君の友達に兄貴のことお兄ちゃんって呼んでる子、いるよね? てか俺も知ってるし。ヒッキー超羨ましい。妹一回交換しない? ケーブル持ってるから! あ、今はポケモンの交換ですらケーブル無しで出来るのか。科学ってすげー!

 でも、預けたら預けたで妹にフラグ立ちそうだ。主人公ってこえー!

 

 

 鞄を端っこにぶん投げ、ネクタイとブレザーを脱いでベッドに倒れこむ。

 暇だから少し浅い思考の海に沈んでみる。

 

 

 なんだかなぁ。こんなはずじゃなかったんだけど。

 ぶっちゃけ、転生当初は何でも出来る気がしてた。あわよくば幼少期のゆきのんとかヒッキーとかと、何かフラグ立てたりできるんじゃないかなぁ、とか考えてた時期もあった。

 

 でも、実際そんな甘くありませんでした。ていうか、一番最初に発見したの、中二の時の陽乃さんだし。なんか散歩してたら、公園で偶然見かけた。

 でもそれだけ。悲しいかなマジで普通の俺に、ハルさん先輩が興味を持つ訳もなく。

 

 それから、いろはす攻略作戦も容易く崩壊。サブレも普通にヒッキーが助けて、ガハマさんへ近づく理由も消滅。頭もあまり良いわけじゃないから、ゆきのんにも葉山にも全然近づけない。若者のノリは分からないのでウェイウェイしてる戸部っちとも、話したことすら一度として無い。

 

 更に俺のことを説明するなら、ヒッキーで言う、戸塚と小町がいないヒッキーみたいな存在だ。日本語おかしい。

 要するに俺は、社交性が無く文系科目が壊滅的で癒しが近くに無いヒッキーって感じですかね。それただの馬鹿なボッチじゃん。てかあの人程カッコよくねぇな俺。比べるもあの人で例えるのも全く以て失礼。

 

「つらーいなぁ……」

 

 そんなことをぼやいても意味なんて無いと知っているが、勝手に口が開いてしまった。

 仰向けで天井を見つめていた瞳を、カレンダーのある左に向ける。

 

 もうすぐ修学旅行だ。ここからの物語の展開は、かなり奉仕部と葉山グループ中心になってくる。余計、中には入りづらくなる。寧ろ彼らの物語を放っておいたら、俺はただの高校生活を送ることになる。

 

 そんなのは嫌だ。でも、邪魔をして崩壊するような話も見たくはない。

 どうすべきか。もう決まっていたことを再度確認する。

 

 

 妨害も介入もせず、遠くから彼らを眺めていようと、そう決めた。

 

 ていうか、それしかできないのよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ―――――――――――――☆―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。いつもの如くマッ缶を買いに行こうと思い席を立つと、尻目に葉山と戸部が話している姿が見えた。

 葉山の表情から察するに、恐らく……ていうか、確実に海老名さんの件だろう。きっとあの二人は放課後、奉仕部へ向かう。そこから今後の展開を考えると、少し顔が緩んでしまった。いったい何故。すぐに分かる。

 

 嬉しいのだ、単純に。自分の知っている物語が始まる、見たかったものが見れる。それも間近で。

 そういった思考が、ここが俺ガイルの世界なんだと再認識させてくれる。実感させてくれる。家族や生活の影響で冷め切った心に、ワクワクを与えてくれる。さあ、ワクワクするデュエルを始めよう!

 

「………はっ」

 

 俺は咄嗟に教室を駆け足で出た。そこから走って一気にトイレの個室に駆け込む。危ない。いや、マジあっぶねー! 気づけてよかったー!

 皆のいる教室で、綻ぶどころかめっちゃニヤついた顔をしてしまうところだった。てかしてた。全力で顔隠してたけど、それでも直視したら引くレベルにはキモイ顔をしていた。

 

 予想以上に、自分は俺ガイルが大好きなようだ。さっきまでの俺の顔は、きっとリアルタイムで俺ガイルが始まった瞬間のような顔だったはず。

 いつもいつも、始まった瞬間マッ缶開けて、ずっとニヤニヤしながら見ていた。

 

 週に一つだけの楽しみだったアニメ。唯一ずっと読んでいられたライトノベル。それが俺にとっての俺ガイル。そこに少しでも近づけると考えただけで、あの場面この場面を見れると考えるだけで、俺は極度の興奮に陥る。

 

 よっし! 放課後の奉仕部、ちょっと覗きに行こーっと! どうせ部活なんていてもいなくても変わんないし、まだ猫全開のいろはすしかいないし、今回はガハマちゃんの「マヂ!?」を聞きに行こう。かわいい。

 

「………うっし!」

 

 静かにガッツポーズをして、個室を出る。俺の目の前にはずっと便意を我慢していたらしき動作をしている男子生徒。……ごめんなさい。

 一応手を洗い、トイレを出る。放課後の楽しみに思いを馳せながら。

 

 

 

 

 

 

 

   ―――――――――――――☆―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 草むらがガサガサする。猫かな? 鳥かな? 残念覗き魔でしたどうも俺です。

 ここは殆ど誰の目にも入らず、尚且窓から教室内の奉仕部の様子を見られるベストスポットなのだ! 入学1日目で見つけました! 友達出来ませんでした! 

 

 膝をつねることで興奮を抑えつつ、旅行雑誌を読んでその内容を、一般常識の範疇だとドヤ顔で言うゆきのんを見てまた興奮する。自制心が意味をなさなくて困る。俺こえー。

 

「……おっ」

 

 例の二人が入って来た瞬間、思わず声が出てしまった。自重せよ。

 

 

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 とんとん話は原作通り進んだ。先程海老名さんが退出した。そのあと少しの会話。多分ヒッキーは今ゆきのんに「もっと気ぃ使えよお前が」と心の中で呟いているに違いない。

 

 色恋の絡む依頼のためか、ガハマちゃんが「楽しみ~」と言いながら自分の座っている椅子を体ごと揺らしている。ウキウキしているの丸見えです可愛いです本当にありがとうございました。

 

 あ、あー……結局最後まで見てしまった。母親に今日は早く帰ってくるように言われてたけど、まぁいいや。大事な場面見れたし。

 ゆきのんとガハマさんも張り切ってるし、きっと楽しい修学旅行になるよ!(小学生並みの感想)

 

 満足気な表情を表に出しっぱなしで駐輪場に向かうと、横目にこっちを見てキョトンとしている城廻先輩を見た。手にはジョウロ。恐らく花壇の手入れでもしてたのだろう。

 でも、多分俺引かれたんだろうなぁ……。学校での表情は気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、もうすぐ修学旅行編開始~!

 

 

 

 




亀更新。( ´∀`)

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