紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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序章の最終話です。


序章・最終話 突然の別れ、未来の始まり

出会いがあれば、別れがある。

 

別れは悲しい。特に、大切な人であればなおさらだ。

しかし、別れの後は新たな物語の始まりのきっかけとなるだろう。

 

 

ツヴァイウィングのリハーサルが無事に終了し、明日の本番に向けて準備が進んでいる頃。

 

 

二課の基地内で、一つの物体が様々な機器に囲まれて置かれていた。

 

刺々しい球体状の何か。しかし、神秘的な感じがあふれている。

 

それを弦十朗と了子は、険しい表情で見ていた。

 

 

「明日のライブに、人類の未来が掛かっていると言ってもいい。完全聖遺物のひとつ・・・ネフシュタンの鎧の起動」

 

「通常の聖遺物の様に欠片のみでは無く、そのままの形で残されている貴重な聖遺物。

 

翼ちゃんと奏ちゃんの歌によってこれは再び起動し、ノイズに対する大きな武器になるはず・・・」

 

 

「必ず、成功させよう」

「そうね・・・」

 

ライブ本番当日。本番の時間が近づいているため、翼が奏と直人を探していたが・・・

 

 

「翼ぁ!!」

 

直人の声が響く。とても切羽詰まった声だ。

 

「直人?どうし・・・!!」

 

直人と合流した翼は、驚き目を見開いた。奏が直人に背負われているが、顔色が悪く、口周りや手に血の跡がハッキリとついている。

 

 

「奏!?大丈夫なの!?」

 

「奏・・・しばらく前から、ギアの制御薬の使用を控えていたんだ・・・。翼、急いで了子さんの所に!!」

 

「わかった!すぐに連絡を・・・」

「ま・・・待って、くれ・・・ゴホッ・・・!」

 

 

「「奏!?」」

 

携帯電話を取りだした翼に、奏が待ったをかけたのだ。

 

「頼む・・・今日は、このままやらせてくれ・・・」

「で、でも・・・」

 

「この大舞台、その後ろにある計画・・・全部、失敗させたく無い。マジだよ・・・今日の私は、特に」

 

「「・・・・・・」」

 

 

「二人とも・・・私の我が儘に、付き合ってくれよ」

 

 

奏の決意が変わらない事を感じた二人は、何も言えなくなってしまう。

 

 

 

 

本番開始10分前。基地に現れていた球体が、会場までやってきていた。

フワフワ浮かびながら、何かを探す様にさまよっている。

 

『―――』

 

 

ある程度動き回ったところで、球体はピタリと止まった。正面に一人の男性がいたからだ。会場のスタッフである事を証明する腕章を付けている。

 

しかし、男性はその球体を見た途端、ガクガクと震えだした。

 

その顔には、ハッキリと恐怖が出ていた。

 

 

 

「ど・・・どうして・・・がっ!?」

 

球体は、突然男性の腹に伸ばした針を突き刺す。すると、男性の体がどんどん色を失い、ボロボロと崩れ落ちる。

 

すると、男性の体が怪人の姿になった。男性は、怪人だったのだ。ステンドグラスの体は完全に色を失って、無色透明になる。

 

そして、ガラスが砕けるように弾けて消えた。

 

 

『―――』

 

 

球体は針を体に戻して、再びフワフワとさまよい始めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

本番開始3分前。

 

「奏、やっぱり今回のコンサートは中止して・・・」

 

「翼は心配性だな。でも、今日は、薬に頼らずにやりたい。」

 

「でも・・・」

「大丈―」

 

 

突然、直人が奏を抱きしめた。優しく、強く。

 

「な、直人!?どうしたんだよ急に!?」

 

「ごめん・・・でも、急に不安になって・・・。大丈夫だと信じたい。でも・・・!」

 

「・・・」

 

翼も直人と同じ気持ちなのか、直人と同じように翼に抱きついた。

 

「全くもぉ・・・二人して心配しすぎだって。そのうち二人まとめてポッキリ折れちゃいそうだ」

 

「でも・・・それでも!」

 

「ノイズと戦うため、私達は歌わないといけない。歌うことをやめられない。

でも、それで一人でも多くの命を守る事が出来ている」

 

「・・・」

 

「私も最初は、家族を殺したノイズへの、復讐の気持ちの方が強かった。でも今は、三人で戦えることを誇りに思う気持ちと・・・・・・人を守りたいという気持ちの方が大きい」

 

 

奏は変わった。三人で戦い、共にいることで、かつての明るさと優しさを取り戻したのだ。

一旦二人から離れて、奏は手を差し出した。

 

 

「これからも頑張ろう。三人一緒なら、どこまでも行ける!」

 

「・・・・・・わかった。僕たちで、奏を支えてみせる」

 

 

真っ先に手を取ったのは直人だ。翼も、不安な表情ながらも、そっと手を握った。

 

奏は満足そうにうなずいて、微笑んだ。

 

 

 

 

そしてついに、コンサートの本番。翼と奏が歌を歌い、観客を楽しませると同時に、ネフシュタンの鎧の起動のための実験を進めていく。

 

二人の歌によって、フォニックゲインというエネルギーを得て、ネフシュタンの鎧を起動させるという実験だ。

 

コンサート会場の熱気が高まっていく中、舞台袖で待機している直人は、先ほどからずっと胸の中で不安を感じていた。

 

 

(嫌な予感が止まらない・・・。心の中にわき上がってくる、この嫌な感じは・・・)

 

 

その不安は歌が進むに従って強くなっていき、ほとんど無意識に天叢雲剣をギュッと握りしめていた。

 

 

(まずい・・・このまま続けたら・・・・・・大変な事になるかもしれない!!)

 

 

根拠は無い。しかし、無視するにはあまりにも大きすぎる不安。

 

直人はすぐにこの事を弦十朗に伝えようと携帯を取り出した。しかし・・・その時にはすでに遅かった。

 

 

 

ネフシュタンの鎧が突然、エネルギーの急上昇による暴走を引き起こし、会場の地下で爆発した。

 

 

しかも、そこからノイズが大量発生したのだ。ノイズに襲われ、逃げ惑う人々。

 

三人は合流し、聖唱を歌おうとする。しかし、奏は制御薬の使用を控えているため、今シンフォギアを使ったらどうなってしまうか・・・。

 

直人も翼も、当然それを考えていた。しかし、そんな状況でも戦うことをやめない事も承知している。

 

 

だからこそ、共に戦おう。約束したのだから・・・。

 

 

 

 

 

会場の中は、ノイズと奏者ともう一人以外は、いなくなっていた。

 

直人達を囲むノイズ。背中合わせに立つ三人。その三人を隠れながら見ている、逃げ遅れた少女。

 

 

「「「~~~~~~♪」」」

 

 

三人同時に歌いながら、ノイズを蹴散らしていく。

 

奏と翼が並んで走り、正面から迫り来るノイズを正面から切り裂いた。

 

直人は二人の背中を守るように立ちはだかり、ノイズを近づけさせない。

 

近づけば、天叢雲剣によってあっという間に切り裂かれてしまうからだ。

 

 

 

一見すると順調に見えるが、そうでは無かった。

 

奏は制御薬を断っていた事もあって、ギアの出力低下を招いてしまい、ノイズを倒すのが難しくなってしまった。

 

直人と翼も、そんな奏をかばいながら戦うことを強いられたため、いつもの力を出せない。

 

 

そんな状態が続く中、隠れていた女の子の周りが崩れてノイズのいるところに出てしまう。

 

その事に気付いた直人と奏は、一直線に少女の所に向かって、かばうように前に出る。

 

直人が更に前に出て、ノイズを切り裂いていく。奏は少女に迫り来るノイズからかばっていた。

 

直人が奏へ向かっていくノイズを全て倒したので、奏の方を振り向くと・・・

 

 

奏のガングニールの欠片が、少女の胸に・・・心臓に突き刺さった。

 

 

それを見た二人は、慌てて少女の所に駆け寄り、必死に声をかける。

 

 

「おいっ!大丈夫か、しっかりしろ!!」

「大丈夫、必ず助ける!だから・・・!」

 

「「生きることを、あきらめるな!!」」

 

二人が同じ事を言うと、少女は目を開けて、つぶやいた。

 

 

「ありがとう・・・」

と。二人は安心して、少女を優しく抱きしめた。

 

しかし、ノイズは未だに残っている。翼の食い止めも限界が近い。

 

「直人・・・私、歌うよ。最後に、どでかいのを」

「・・・っ!?」

 

 

どでかい歌。それが何を示しているのか、直人はすぐにわかった。

 

 

「絶唱」。体への負担を無視して、限界以上の力を出せる奥の手。

 

確かにそれを使えば、この状況を打破出来るだろう。しかし、その反動は半端ない。

 

特に奏は、薬で体がボロボロである。絶唱を歌ったら、おそらく・・・。

 

 

 

「駄目だ!そんなことをしたら―――」

 

「わかってる。でも・・・ここで燃え尽きても、覚えてくれる人がいれば、何も怖くない。だから・・・」

 

 

奏は本気だ。自分の命と引き替えに、ノイズ達を殲滅するつもりだ。直人は、わずかに考えた末、一つの結論に達し、奏の手を握った。

 

 

「直人・・・?」

 

「一人でやるなんて無茶だよ。僕もそれを少しでも背負う。翼と少しでも話す時間は得られると思うから・・・」

 

 

直人は、絶唱の負担を少しでも肩代わりしようとしているのだ。もちろん、手をつなぐだけでは出来ない。直人にも、天叢雲剣にも、そんな力は無い。

 

 

奏を気遣って言っているだけである。

 

それでも、奏は嬉しかった。こんな自分を気遣ってくれるのだから。

 

 

「でも、翼をいっぱい泣かせちゃうよね」

 

「そ、そしたらお化けになって、翼に会いに行くから・・・」

 

「今度は、怖がって泣いちゃうね」

「どうやっても、泣かせちゃうってわけね・・・」

 

少しだけ今までのようなやり取りをして、奏は決意を固めた。

 

 

「・・・・・・もう、歌うよ」

「うん・・・・・・」

 

そして、歌った。少女を守るために。己の命を燃やし、歌う。

 

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!奏ぇぇぇ!直人!奏を止めてえぇぇぇぇぇ!!」

 

 

涙を流し、泣き叫ぶ翼。しかし、奏は止まらない。直人は止めない。命をかけて、一人を守ろうとしている。

 

絶唱によって発生したエネルギーによって、ノイズは消えていく。同時に奏の命も消える。

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

本来ならば、直人と翼と少女が生き残り、奏が死ぬ。奏と最後の会話を交わして、奏は塵になって消える、はずだった。

 

しかし、ある一つの存在が介入した事で、劇的に変わってしまった。

 

 

 

『ミツケタ。ヤット、アエタネ』

「・・・え?」

 

 

 

絶唱を歌い終えた直後の奏に、声が聞こえたのだ。隣の直人には聞こえていないらしい。奏にだけ聞こえているのだ。

 

 

『オネガイ・・・カラダ、チョウダイ。イッショニ、イキヨウヨ』

 

 

瞬間、奏の背後にあのステンドグラスの球体が現れて、針を伸ばして奏の背中に突き刺した。

 

 

「が・・・っ!?あ・・・あぁぁぁぁぁあああぁっっ!!?」

 

 

苦痛の声を上げる奏。そして、球体が奏の体の中に入っていった。背中から一気に、融合するように広がっていく。

 

ここで、直人が奏の声に驚いて、振り向いた瞬間・・・

 

奏の顔に、ステンドグラスの模様が浮かび上がった。驚く直人。

 

しかし、ここで絶唱のエネルギーがさらに大きくふくれあがった。それによって、隣にいた直人が、吹き飛ばされてしまう。

 

奏の手を離さないように、と思ったものの、叶わず離してしまった。

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

吹き飛ばされている直人が最後に見たのは、背中からステンドグラス模様の羽を生やし、自分とは反対方向に飛び去っていく、奏の姿だった・・・。

 

 

 

 

 

 

エネルギーの放出が止まり、翼が目を開いた時には、直人と奏の姿は無かった。

 

「直人・・・?奏・・・?」

 

 

周りを見回すが、二人の姿はどこにも無い。居るのは自分と、二人が助けた、あの少女だけだった。

 

「どこ・・・?なんで・・・いないの?」

 

いない。いなくなってしまった。

 

幼い頃からずっと一緒だった、大好きな少年が・・・。

となりで歌っていた、親友が・・・。

 

いない。いない。しんだ?しんじゃったの?

 

 

 

「ぁ・・・」

 

もう・・・にどと、あえないの?

 

「ぁ・・・あぁ・・・」

 

 

 

 

わたしは・・・・・・ひとり、のこされた。かなでは、しんだ。なおとも、しんだ。

 

しんだ。

 

死んだ。

 

死・・・・・・

 

 

 

 

「嫌・・・いや、いやぁ・・・」

 

 

 

もう、二度と会えない。

 

 

 

「ひとりに、しないで。いなくなっちゃ、いやだ・・・いや・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 

 

一人残された翼は、涙を流しながら、悲しみと絶望の叫びをあげた・・・。

 

 

「直人ぉぉぉ!!奏ぇぇぇ!!」

 

 

荒れた会場に、空しく響き渡る絶叫。聞いているのは、意識を失った少女だけ。

 

次第に、翼は泣き叫ぶばかりでなく、暴れまわるようになってしまう。

 

 

 

「ぁぁ・・・いやだ・・・ひとりはいやぁ・・・!!ひとりにしないでぇ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

翼は、一瞬にして失ってしまった。恋心を抱く程に大好きな、優しい少年を。共に歌ってくれる、かけがえのない親友を。

 

心の支えを一度に失ってしまい、翼の心は耐えられなかった。ただ子供のように、暴れ、泣き叫ぶことしか出来なかった。

 

 

 

すると、弦十朗を筆頭とした、二課のエージェント達が現場に到着。

エージェント数名で少女を救出し、病院へ運んでいく。

 

 

弦十朗は、翼の元へ向かうが、翼は半狂乱気味に叫び、暴れている。

 

 

 

「翼!落ち着け!」

 

 

「わあぁぁぁぁぁ!!なおと!かなで!いやだいやだ!いないのいやだあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「くっ・・・すまない!」

 

 

翼の腹を殴り、気絶させた。弦十朗は翼を抱きかかえて、自分の手で二課へ運んでいく。

 

「直人・・・奏・・・」

 

 

 

弦十朗の涙と、翼の涙が、同時に地に落ちた。

これを持って、コンサート会場に発生したノイズの事件、及びproject:Nは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

数時間後。東京から離れた所にある、人気の無い所に、奏が立っていた。

 

 

シンフォギアは既に待機状態に戻っていて、絶唱の影響による体の崩壊は全く見られず、むしろ健康そのものといってもいいくらいだ。

 

すると、奏に近づく女性が現れた。

 

 

 

「あーあ、もう。体を手に入れたのはいいけど、そんな格好じゃはしたないわよ。

ほら、こっち来て、お着替えしましょ」

 

 

女性の言うとおり、今の奏はボロボロのコンサート衣装を着ていた。

 

奏は頷き、建物の陰に隠れて、女性の用意してくれた服に着替えた。

 

白い清楚なワンピースに着替えた奏は、女性と話を続けた。

 

 

 

「で、これからどうする?世界を見て回る?」

 

「ううん。あなたに、ついていく」

「あら、いいの?」

 

「うん!」

 

 

幼いしゃべり方になった奏。女性はフフ・・・と怪しく笑う。

 

「あなたにそう言ってもらえるのは、光栄ね。それじゃあ、行きましょう」

 

「はーい!」

 

女性と手を繋ぎ、並んで歩き出す。すると、女性の顔にステンドグラスの模様が浮かび上がった。ファンガイアだったのだ。

 

 

「ファンガイアの明るい未来に・・・乾杯!」

「かんぱーい!」

 

 

そして二人は、闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

同時刻。奏達とは反対方向にある山の中。その洞窟に直人は倒れていた。

 

段々と意識を取り戻していくと、懐かしい人物を見つけた。

 

「久しぶり・・・直人。大きくなったわね」

「・・・・・・母さん?」

 

その人物は、直人の母親だった。傍に黒と金のコウモリを連れている。

 

 

「へぇ~、お前が『黄金のキバ』の継承者か!確かに、俺を使うのに適していそうだな!」

 

「・・・?コウモリ・・・?」

 

「今は気にしないで。ゆっくり休んで。大丈夫、お母さんが傍にいるから」

 

 

直人の母親は直人の目元にそっと手を被せる。手を退けると、直人は穏やかに眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

序章は、これにて幕を閉じる。

 

しかし、これは後の大きな戦いと、歌姫達の恋物語の、序章にすぎない。

 

 

新たな物語が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

序章、終

 




これで、序章は終わりです。

次回からアニメ本編の話に入りますが、話の都合上、一期の四話辺りからのスタートになります。


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