紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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お久しぶりの更新です。今までお待たせしてしまい、すみませんでした。

注意点ですが、この小説は前回投稿した「奏でよ、決意の多重奏を」の一つ前の話です。この話が必要だと判断したので投稿しました。

この話が八話であり、「奏でよ、決意の多重奏を」が九話となり、話の内容も少し修正します。

ご了承ください。


第八話 強くなる為に、更なる奮起

カナデと戦い、奏を取り戻す決心を固めた装者達。

 

その為に早速トレーニングを始めようとした皆だが、直人が待ったをかける。

 

「特訓を始める前に、皆に聞いてほしい。特訓をするにあたって、皆に課される課題がある。

 

それは、切歌ちゃん以外の皆も己の魔皇力を使えるようになること。僕と繋がったパスで魔皇力を操る特訓はすでにしている。

 

だから自分の魔皇力を目覚めさせれば、僕から供給される分も含めて大きなプラスになる」

 

装者達はフロンティア事変後、魔皇力に覚醒した切歌の影響を受けて、直人からパスを通じて供給された魔皇力を用いて、魔皇力を操る訓練を行っていた。

 

「そして切歌ちゃんは、己の魔術である、翡翠創造をもっと使いこなすこと。

 

これについては地道に鍛えていくしかない。これは僕も使えない、切歌ちゃんだけの魔術だから」

 

「でも・・・それらを数日でこなせるんですか?」

「方法はある・・・聖さん」

 

「はい、直人様」

「聖さん!?いつの間にいたデスか!?」

 

現れたのは、切歌に魔術を教えている芦山 聖であった。驚く皆をスルーして、聖は話す。

 

 

「これから皆様には、特殊な結界の中に入っていただきます」

 

「特殊な結界?」

 

「はい。その結界の中では、現実と時間の流れが異なります。浦島太郎の物語がありますが、これはその逆です。

 

結界の中では一年経過しますが、現実では一日しか経ちません。

 

一年後に自動的に戻れますし、中には生活に必要な物が全て揃っております」

 

「誰にも邪魔されず、特訓に集中出来る。しかも現実での時間関係も問題無しってわけか」

 

皆も納得し、明日に実際に結界に入ることになる。今日は準備のため、一旦帰ることになった。

 

 

 

一方、士は自販機で飲み物を買ってソファに座って寛いでいた。すると、そんな士に声をかける人物が現れた。

 

「門矢 士さん、ですか」

「ん?」

 

「初めまして、翼さんのマネージャーを務めている緒川と申します。

 

僕が不在の間、マネージャー代理を努めてくださってありがとうございます」

 

風邪が治った緒川であった。真面目な彼は士にお礼を言いに来たのだ。

 

「という事は、もう俺のマネージャー業は終わりか。からかいがいのある奴だから悪くない仕事だったがな」

 

「あはは・・・・・・」

邪悪な笑みを浮かべる士に苦笑する緒川だが、急に真剣な表情になる。

 

「僕がいない間の事情は、風鳴司令から伺いました。奏さんが大変な事になっていると」

 

「あぁ、あいつはヤバいな」

さらりという士。だが、表情は真剣である。

 

「俺のこの世界での新たな役割は、『天羽 奏の救出に協力する事』だ。だが、それも次の戦いで終わるだろうな」

 

「僕は病み上がりで、敵の強さもあって戦闘に参加する許可を得られませんでした。

 

僕の分も、皆さんを・・・そして奏さんをよろしくお願いします」

 

「・・・・・・あぁ」

 

頭を下げて頼む緒川の言葉に士は静かに、ハッキリと返事をした。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

翌日。集まったのはS.O.N.G.の使われていない一室。そこに昨日のメンバーに加えて弦十郎とクロードも来ていた。

 

自分達にとっては一日でも、装者達にとっては一年離れる事になるため見送りに来たのだ。

 

「装者、一年会わざれば刮目してみよ・・・これを現実にしてみせろ」

「頑張ってね!僕、応援してるから!」

 

『はい!!』

 

皆が強く返事した直後、聖は結界を発動した。部屋の中が強い光に包まれる。

 

 

 

光が収まり目を開けると、そこはすでに違う所であった。

白を基調とした大きな建物に建物の数倍もある広大なフィールド。

 

更に森に綺麗な水が流れる川もあり、建物の中も綺麗で電気ガス水道も完備されていて、食料もお風呂もバッチリである。

 

余談だが物資補充の為に聖は、ワープで出入り可能となっている。

 

各自、部屋に持ってきた着替えなどの荷物をおいて、早速特訓を始める。

 

基本的な走り込みや筋トレ、模擬戦などは勿論の事、直人と聖の二人で魔皇力を使えるようになる為、己の魔皇力を使えるようにする特訓から始める。

 

魔皇力覚醒の鍵となるのは、自分自身の心である。

 

切歌は自分の心の成長を切っ掛けとして覚醒した。

他の皆も自分の心と向き合う、精神修養的な修行を行う事になる。

 

すでに魔皇力を使える切歌は、翡翠創造の更なるレベルアップを中心に他の魔術も覚えていく事になる。

 

 

 

そして結界内での一ヶ月後。

 

「デデデデデデース!!」

 

「切歌様、デスって叫ぶのはやめましょう。じゃないとおやつ抜きデスよ?」

 

「デスーン・・・(´・ω・`)」

 

切歌は特訓に集中したおかげで、翡翠創造についてはだいぶ改善され以前より制度や強度も上がっていた。

 

 

「一朝一夕では身につかない・・・・・・わかっていたつもりだったけど」

 

「切ちゃんみたいに出来ればいいけど・・・上手くいかないね」

 

「確かに、切歌ちゃんが羨ましいな・・・」

 

「でも、出来る事を頑張りましょう」

「「うん!」」

 

マリア、調、セレナは一ヶ月経っても魔皇力を覚醒させることが出来ずにいた。だが、決して俯かず諦めず特訓を続けている。

 

 

「「・・・・・・・・・」」

翼と響は今も集中して魔皇力覚醒の為の特訓を行っていた。

 

二人は「奏を救う」という気持ちが特に強く、大変な特訓にも真剣に取り組んでいた。

 

そんな中、直人は一人の装者に気を配っていた。その相手は、雪音 クリスである。

 

クリスは他の皆に比べると、修行の進みが一・ニ歩遅いのだ。そんなクリスを、直人は気にしていた。

 

 

その日の夜。他の皆は修行の疲れからぐっすり寝ている中、クリスだけ起きていた。

 

結界の中だが、夜空は星々が輝いていて綺麗だ。靴を脱いで夜空を見ながら川に足をつけて、チャプチャプと動かす。

 

クリスは悩んでいた。自分だけ修行が上手く行ってない事を。その理由についても心当たりはある。だが、それをどうすれば良いのかがわからない。

 

 

すると、直人がクリスの所にやって来て声をかける。

 

「クリス」

「直人・・・」

 

「隣、いい?」

「あぁ・・・」

 

クリスの許可を得て、隣に座る直人。少しの間お互いに沈黙していたが、クリスの方から沈黙を破る。

 

「私さ、初めてカナデと戦った時、言っただろ。私は天羽 奏と面識が無いから、思い入れも躊躇いもねぇって。

 

でも、それでかな・・・他の皆みたいに天羽 奏の為にって気持ちにイマイチなりきれないっていうか・・・それで皆に申し訳ねぇっていうか・・・」

 

自分には、天羽 奏との接点がないが故に特訓に対して真剣になりきれないのだ。

 

クリス自身は真剣なつもりでも、結果は出ない。それが証拠だった。

 

 

「・・・・・・クリスは間違ってない」

「え・・・」

 

「心を持つ者は、誰だってそうさ。人間もファンガイアもそれ以外でも、接点の無い人に対しては真剣になりにくいものだ。

 

でも、それでも戦わないといけない。力を持って戦う戦士となったからにはね」

 

「・・・あぁ、そうだよな」

 

「でも、心っていうのは複雑で繊細で・・・今回のような事もある。

 

重要なのは、それを受け入れた上でどうするか・・・魔皇力の覚醒と同じように自分の心と向かい合う事が必要だ。

 

皆との特訓の時は上手く行かなくても、諦めず今もう一度向き合ってほしい」

 

「・・・・・・」

 

クリスは直人のアドバイスに従い、目を閉じて静かに集中する。

 

 

己が戦う理由。最初は、「世界から争いを無くすため」。

 

響達と和解してからは、「両親の夢見ていた、歌や音楽で皆が笑顔になる世界のため」。

 

そして今・・・。

 

(パパとママが夢見た世界のため・・・でもその世界の中に・・・・・・天羽 奏は入れないのか?面識が無いから、思い入れが無いから・・・そんな理由で?

 

いや、それは駄目だ。パパとママの夢見た世界はそんな理由で誰かをはぶいていいなんて絶対に・・・!

 

天羽 奏も、私が救いたい・・・笑顔にしたい人の一人だ。そして私の力は、一人でも多くの人を笑顔にしたいから使うんだ!!)

 

 

クリスは己の心と、夢と向かい合い一つの答えを出す事が出来た。

 

そしてそれは・・・・・・クリスに”覚醒”を齎した。クリスの体から、クリス自身でもハッキリ感じられる程の力が湧き上がる。

 

クリス自身の優しさが感じられる、淡い赤色である。

 

「あ・・・・・・!」

「おめでとう、クリス。それは君自身の魔皇力だ」

 

「これが、私の・・・?」

己の魔皇力に驚きながらも、確かな実感があった。

 

「それはクリスの成長の証だよ・・・・・・もう、大丈夫?」

「・・・・・・あぁ、もう大丈夫。ありがとう、直人」

 

クリスは笑顔で直人にお礼を言う。その笑顔は、とても穏やかで優しい笑顔だった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

翌日。装者全員が庭に集合した。クリスは昨日の事もあって寝不足気味であったが。

 

「クリスちゃん、大丈夫?」

「ぁ~~~・・・問題ねぇよ」

 

今日はシンフォギアを纏っての戦闘訓練だ。

 

最初はクリス。聖が用意した魔術によってランダムで移動する的にアームドギアを向けて・・・自分の魔皇力を込めていく。

 

 

「あれ、クリスさんが魔皇力を・・・もしかして自分自身の!?」

「えぇ!?クリスちゃんいつの間に!?」

 

魔皇力を込めたアームドギアの引き金を引き、直人と共に考えた自分の魔術の名を叫び放つ!

 

 

必中の飛弾(シュアリス・バレッティア)!」

 

 

クリスの魔術は、”放出系”に分類される。込めた魔皇力を外に放つ形で発動するタイプだ。

 

放たれたのは赤いレーザーのような光線。だが、それは一瞬で曲がったと思った時には既にランダムに動く的全てに同時に命中。

 

それは、敵に必ず当てるという思いを具現化した魔術。

 

 

バレッティア(飛弾)シリーズ”・・・それがクリスの魔術。

 

 

今使ったのは、バレッティアシリーズの一番目。複数思いついた魔術の内の一つ、自分が当てたいと思った相手に”必ず”命中する。

 

シリーズと名の付く通り、他にも複数ある魔術の一つだ。

 

昨夜覚醒したのにもう複数のアイディアを出し、形にしている。クリスのセンスの賜物である。

 

「ヘヘっ・・・どんなもんだ」

 

その後、皆からの質問攻めもかわしながらクリスも聖から魔術について更に学んでいくのであった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そして、他の皆も自分の心と向き合い、己の魔皇力を覚醒させ自分だけの魔術を習得。戦闘訓練も行い戦闘力も向上。

 

遂に結界の中で一年を終えて、全員が現実に帰還。

 

現実では確かに一日しか経過していなかった。そして戻ってきた皆を見た弦十郎はすぐに皆の成長を見抜き激励の言葉を送る。

 

そして響、調、切歌は一年ぶりのクロードに最短に真っ直ぐに一直線に抱きつき、その温もりを堪能した。

 

こうして、装者達のレベルアップは終わり、後は最終調整を残すだけとなった。

 

 




クリスを含む皆が魔皇力を覚醒させましたが、クリス以外は描写を省略しました。

クリスと直人の絡みが少なかったと思ったので、クリスの描写だけを入れました。

他の皆の魔術も後の話で描写していく予定ですので、お待ちください。

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