カナデの過去編、第二話です。
夜の花園、そこで少年と少女が出会った。渡と水色の髪の少女、お互いの視線が交差する。
数秒程見つめ合ったが、先に声をかけたのは少女の方であった。
「・・・何?」
「・・・え・・・あ・・・・・・ジロジロ見てごめん!君が綺麗で見惚れてたっていうか・・・何というか・・・」
「ふーん」
見惚れていた渡は、しどろもどろながら何とか答える。
少女は特に何とも思っていないのか、返事も素っ気ない。
「えっと、女の子が一人で夜にいると危ないと思うよ?」
「危ない?なんで?」
「その・・・かわいい女の子を狙ってくる変質者がいるかもだし・・・」
「・・・・・・さっきから見惚れただの、かわいいだの・・・それ私に言ってる?」
「!?・・・・・・はい・・・・・・」
顔を真っ赤にして答える渡。
「へぇ・・・
「え?」
少女の言葉に、疑問を覚え思わず聞き返す渡。
「人間のくせに」・・・まるで少女は自分が人間ではないと言っているような・・・。
その事を聞こうとしたが、それより前に少女はブランコから降りて渡を正面から見る。
綺麗に整っている顔立ちや瞳に、吸い込まれそうな感覚を覚える渡。
そんな渡の気持ちを知ってか知らずか、少女は口元に人差し指を当てて少し微笑む。
「今日のことは、内緒・・・お願いね」
可愛い仕草でお願いの言葉を言った直後、少女の姿が吹き出した風と共に消える。
「・・・・・・え・・・・・・・・・・・・え!?」
一瞬で消えた少女に驚き、ブランコの所まで駆け寄る。
少女は確かにいたはずだが、まるで幻を見ていたように・・・いなくなっていた。
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翌日。渡は大学で講義を受けていたが、昨日の少女の事が気になってしまい、集中して聞くことが出来ない。
終業のチャイムの音が聞こえた事に気付き、授業中ぼーっとしていた事を自覚する。
だが、どうしても考えずにはいられなかった。あの可愛く不思議な少女の事を。
すると、一人の男性が渡の背中を叩く。渡が後ろを向くと二人の男性と二人の女性がいた。
「どうしたんだよ渡、真面目なお前がボーッとして」
金髪高身長で筋肉質な男性、
「寝不足ですか?日光を浴びて、朝食をちゃんと食べるべきですよ」
黒髪低身長で眼鏡をかけた男性、
「やっぱり、バイオリンの事?」
黒い長髪をポニーテールに纏めたクールな女性、
「渡君、困ってる事があるなら何でも相談してね」
長い茶髪ストレートで穏やかに語る優しい女性、
「いや、大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」
そして、紅 渡。
この五人は小学生の時から仲が良く、それからも同じ学校に通い青春を共に過ごしてきた大切な仲間達だ。
「でもよ、本当に大丈夫か?」
「うん。皆に声をかけてもらえたおかげで、ボーッとするのからは脱せられたよ」
「それなら良いですが・・・悩みは溜め込まず相談した方が良いかと」
「遠慮なく相談してね」
「私達は、渡君の味方なんだから」
「ありがとう、皆。じゃあ、次の教室に行こうか」
笑顔でお礼を言う渡に安心したのか、皆が笑顔で頷いて全員で次の講義が行われる教室へ移動する。
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同日夕方、異常事態が発生した。
女神がまたこの街に訪れ住宅街を歩いていたが、突如周囲に白い装束の人物達が八人、女神を円形に囲うように現れたのだ。
だが女神はとっくに気付いていたのか、平然としている。
「おぉ・・・邪神よ」
「そなたは死すべき存在」
「我らの裁きを受けよ」
「これは我らの慈悲である」
「否定は許されない受け入れよ」
「拒否権は無い」
「受け入れよ」
「死を受け入れろ」
皆が同じような事を言い続ける。感情の籠もっていない声で淡々と・・・。
「うるさい」
その一言を言った直後、女神の力を少しだけ開放し正面の男の首元を手刀で斬る。
力は尋常ではなく、軽い力で首元から剣で斬ったように切断してしまった。
それを八人中七人に対して行い、三秒もかけずに切断してしまう。
「お前達のライフエナジーはいらない。さっさと消えろ」
「おぉ、罪がまた増え−」
周囲の者たちが殺されても尚、平然と言葉を続ける。だが女神は顔を掴み、首から上を脊椎ごと引っこ抜いてしまう。
引っこ抜いた顔を投げ捨てて、血の海死体の山となった周囲を見回す。そして最後の白装束の死体を少しの間見て気付く。
「・・・・・・全員ホムンクルス。精神改造の痕跡もある」
女神は自分が殺した白装束達が錬金術によって作られた人造人間・・・ホムンクルスである事と、魔術による精神改造を施されている事に気付いた。
ホムンクルス達の着ていた白装束に書かれている黄色の蛇と緑色の三角が描かれたマークを、女神は知っている。
パヴァリア光明結社・・・錬金術師によって結成された秘密結社だ。
「後始末は美穂のお母さんに頼むとして・・・やっぱり
「ご面倒をおかけした事を謝罪いたします、女神様」
声がした後ろを向くと、パヴァリア光明結社の幹部のひとりで男装の麗人・・・サンジェルマンがいた。
女神に対して頭を下げ、巻き込んだことを謝罪する。
「久しぶりだね、サンジェルマン。で、こいつら何?」
「結社の過激派が無断で作り出したのです。あなたを襲わせた事を考えると・・・」
「パヴァリア所属のファンガイアって事?」
「はい・・・」
頭を上げ説明したサンジェルマンの言葉で、背後にファンガイアが絡んでいる事に気付く。しかし、女神はどうでもいいと思っているようで、気怠そうにしている。
「お詫びと言ってはなんですが、後始末は私達が引き受けます。過激派についても、警戒と対応を行います。
女神様、相手がどんな手を使って来るかわかりません。あなたの力を疑っておりませんが、ご注意を」
「はーい・・・」
気怠い返事の後すぐにワープで姿を消す。サンジェルマンは周囲の惨状を見て、ゲンナリとした表情で重い溜め息を吐いたのであった・・・。