紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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お待たせいたしました。今回は少し長めです。



第十八話 苛烈な戦場、猛烈な思い

ウェル博士の通信の後、翼は直人以外の装者を一室に集めた。

 

「翼さん、どうしたんですか?」

「・・・・・・これから、革命団のファンガイアと戦うことになるが・・・その前に、皆に言わないといけないことがある」

 

翼は真剣な表情で語る。

 

その話とは、翼がマシンウィンガーをプレゼントされた日に、自分の手でファンガイアを倒した時の話だった。

 

「その時、私はハッキリと感じた。私は自らの手で命を奪ったのだ・・・と。

例えそれが、共存反対派の一員で人を襲い続ける悪であっても、命ある者を殺した様で、嫌な気持ちになった。

 

ファンガイアが使役する、体組織を集めて作った、命がない再生態ではない、本当に命を持っていて生きているファンガイアをこの手で殺したんだ」

 

翼の話に皆が衝撃を受けた。

 

 

「直人や啓介さん、お義兄様がファンガイアを倒しているから、皆は実感が湧かないのだろう。私もそうだった。

 

だが、私自身が実際にファンガイアを倒した事でハッキリと実感した。ファンガイアを倒すということは、その者の命を奪うという事・・・。

 

そして私は直人と一緒に、この罪を背負って前に進むと誓った」

 

 

翼の話で皆はようやく知ったのだ。直人達がファンガイアを倒すのは、実際は改心しようがない悪とはいえそのファンガイアを「処刑」しているのだ。

 

処刑・・・すなわち、死を与えるという罰を下している。しかしそれは直人達も命を奪うという罪を背負う事を意味している。

 

「・・・・・・大切な戦いの前にこんな話をして、すまない。だが、これは今の戦い・・・そして今後においても絶対に避けて通れない事だ。皆の気持ちを聞かせてくれ」

 

 

 

 

「人間と、人間との共存を受け入れているファンガイアの為に、人間を襲うファンガイアの命を奪う覚悟があるか?」

 

 

 

 

翼の問いに、誰もすぐには答えられない。しかしそれは当然だ。

 

ファンガイアも命を持って生きている事には変わらない。そのファンガイアを倒すことは殺すという事。

 

しかも今回の戦いは、装者達が経験した対ファンガイア戦の中でも規模が大きい。

 

ファンガイアの体組織を集めて作った、命がない操り人形の再生態ではなく、命を持った本物のファンガイアも多く出るだろう。

 

命を奪う殺しの罪。それを背負う覚悟は容易に持てる訳がない。

 

 

 

 

「・・・・・・その罪、私も一緒に背負いましょう」

 

手を上げて宣言したのは、マリアだった。

 

「マリア・・・」

「姉さん・・・」

 

「翼。装者の中で唯一ファンガイアを倒したあなたの言葉、心に響いたわ。その上で、私も翼の抱いた罪を一緒に背負う」

 

「・・・・・・マリア、本当に良いのか?」

 

「もちろん、これは軽い気持ちで決める事じゃない。命を奪う罪はとても重いもの。

 

でも、このままあなたにだけそんな重いものを背負わせてばかりって訳にはいかない。直人達に任せっきりという訳にもいかない。

 

私も人々の為に、善きファンガイアの為にこの手を罪で汚しましょう」

 

「・・・・・・マリア、すまない。そして、ありがとう」

「いいのよ、気にしないで」

 

微笑むマリアだが、心の中では確かな決意を抱いていた。

 

その時、響が翼とマリアに言った。

 

 

「翼さん、マリアさん。シンフォギアを纏えない私ですけど、私の気持ちを言います。

 

私はお二人のようにファンガイアを殺す事は出来ないと思います。

私が装者になったのは、ノイズや共存反対派のファンガイアから人々を守るため。

 

例え悪いファンガイア相手でも、命を奪う為には使えません。」

 

それは、翼の予想通りの答えだった。響は続きを話す。

 

 

「でも、私はファンガイアと戦う事はやめません。私がファンガイアと戦うのは、そのファンガイアを止める為です」

 

「止めるため・・・・・・」

 

「はい。私が人を襲うファンガイアに対して出来るのは、止めることだけ。倒さないといけない時は直人さん達に任せてしまう。

 

でも、戦うことからは逃げません。拳を振るう必要があるなら、振るいます」

 

「・・・先輩、私も響と同じだ。命を奪う象徴の銃だけど、相手がファンガイアでも命を奪う為には使えねぇ」

 

「姉さん・・・私も止めるために力を使う。姉さんと翼さん任せで申し訳ないけど・・・」

 

「ごめんなさい、マリア。私も命を奪うなんて出来ない。でも、出来ることがあるなら全力で頑張るから・・・!」

 

「私も、殺すなんて出来ないデス。でも、それでもマリア達の力になって、直人さんを手伝いたいデス!」

 

 

結果、殺す決意を固められたのは翼とマリアだけ。

響、クリス、セレナ、調、切歌は殺す為ではなく止めるために戦う事を示した。

 

 

「いや、皆はそれで良い。本当ならば、手を汚さず解決出来るのが一番なんだからな」

 

「この先、装者だけでファンガイアを倒す際、トドメをさす時は私と翼が引き受ける。あなた達はあなた達の思うように戦って良いのよ」

 

翼とマリアは皆の決意を尊重し肯定した。しかし、他の皆は二人だけに重い決意をさせてしまった事に罪悪感を抱いていた。

 

翼とマリアもその事に気付き、翼は響とクリスを、マリアはセレナと調と切歌をそっと抱きしめた。ありがとう、という気持ちを込めて。

 

響達もそっと抱きしめた。ごめんなさい、という気持ちを込めて。

 

そして、ついに戦いが始まる。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

レティアはワイバーンの上で魔術を発動。自分の周囲の海面を凍らせて広大な氷のフィールドを作り出した。

 

その周囲にノイズ、再生態、そして部下のファンガイア二体が現れ、レティアもフィールドに着地。

 

少し離れた箇所の上空には、未来とクロードが着地して待機していた。

 

 

二課仮設本部の潜水艦が海面から浮上。ハッチを開けて、響以外の装者達がシンフォギアを纏って氷のフィールドに着地した。

 

更に、援軍として船に乗って駆けつけた啓介と大牙も合流した。

 

 

「派手にやりましょう、決戦に相応しい戦いを。そして小日向ちゃんを助ける事が出来るか・・・・・・」

 

「助けるさ、絶対に」

「ふふ・・・・・・全軍、突撃いぃぃぃぃぃ!!」

 

レティアが一度は言いたかった台詞を言った直後、ノイズを先頭に軍団が押し寄せてきた。

 

啓介と大牙はイクサ、サガに変身。再生態の相手をする。装者達はノイズを先に倒していく。

 

 

初撃を放ったのはクリス。

 

クリスは歌いながら背部に形成した固定式射出器に大型ミサイルを左右に一基ずつ、計二基を連装して射出する。

 

《MEGA DETH FUGA》

 

 

放たれたミサイルは大型ノイズに直撃、一撃で倒した。

 

更に背部に形成した固定式射出器に左右それぞれ3基ずつ、大型ミサイルを生成。

発射したミサイルが飛翔中に分裂、無数の散弾となり広範囲を攻撃していく。

 

《MEGA DETH SYMPHONY》

 

広範囲のミサイルの雨により、多数のノイズを倒した。

 

 

「負けていられない!」

「デス!」

 

調と切歌も動き出す。

 

 

ノイズはまだまだいっぱい・・・よろしい、ならばユニゾンだ。

 

そんな事を考えながら二人は同時に歌いながら前進して途中で二手に別れて別方向からノイズを倒していく。

 

 

前進する際に、調はアームドギアから巨大な円状の刃を形成、内側に乗り高速で突進してノイズを切り裂いていく。

 

非常Σ式 禁月輪(ひじょうシグマしき きんげつりん)

 

 

切歌は肩のアンカーで大きめのノイズを捕縛、ギロチン状に変形したアームドギアをセットしてブースターを噴射させ突撃して周囲や大型のノイズを切断していく。

 

断殺・邪刃ウォttKKK(だんさつ・ジャバウォック)

 

 

二人の技によってノイズはどんどん斬られていき、二人が合流した時には二人の後ろには斬られたノイズ達がいて・・・。

 

二人がすれ違い様にハイタッチを交わした直後に斬られたノイズ達は弾けるように消えた。

 

調と切歌はそのまま、他のノイズの元へ向かっていった。

 

 

セレナの周囲を囲むノイズ達が一斉に襲いかかってくるが、セレナは慌てず上空にジャンプ。

 

アームドギアである短剣を右腕部ユニットの肘部側から装甲内部に納刀するように接続。

 

右腕部ユニットが多数の光り輝くフィンを有する射撃形態へと変形。

掌部を変形させ形成した砲身から高出力のエネルギー光波を放つ。

 

 

《HORIZON†CANNON》

 

 

アガートラームのエネルギーが上空から放たれ、真下のノイズ達に直撃して消し去った。

 

セレナが着地した時、既にノイズ達は全て消え去っていた。セレナが一息ついた時、二体のファンガイアと対峙している翼とマリアの姿を見つけた。

 

「姉さん・・・・・・」

殺す覚悟を決めた姉の事が心配になった。

 

 

翼とマリアが対峙しているファンガイアは、二体ともレティアの部下である。

 

 

ヒトデの性質を持つ、アクアクラスのシースターファンガイア。

 

サメの性質を持つ、アクアクラスのシャークファンガイア。

 

 

マリアがシースター、翼がシャークの相手をする。

シースターが拳で殴りかかるが、マリアは背中のマントを操作して前方に展開。盾のようにして防いだ。

 

直後にマントを翻して手に持った槍のアームドギアで力一杯突く。

 

マリア達F.I.S組はまだ直人との魔皇力のパスが繋がってない上まだ自力で使えない為、シンフォギアを纏っていてもファンガイア相手には力不足なのは否めない。

 

だが、マリアはその事を自覚しながらも・・・。

 

「それがどうしたっ!」

一瞬の心の不安を捨て去るように叫び、槍で連続突きを行う。

 

シースターはシンフォギアを纏っているとはいえ人間であるマリアに圧倒されており、驚きから動きが鈍くなっていた。

 

「はあああぁぁぁぁ!!」

マリアが叫び、渾身の一突きをシースターに当てた!

 

その一突きはシースターの体を貫通はしなかったものの数センチの傷痕を作った。

 

ダメージを負った隙に、マリアは止めをさすべく走って接近し先程負わせた傷口に再び槍を突き刺した。

そして、アームドギアの刀身を展開して砲身部を形成、高出力のエネルギービームを放つ。

 

「これでっ!!」

 

《HORIZON†SPEAR》

 

 

ビームを傷口からゼロ距離で喰らい、いくらファンガイアと言えども一溜まりもない。そして・・・・・・。

 

 

 

「人間ごときが・・・よくも私を殺したな・・・・・・」

 

 

最後の言葉をマリアに残し体が砕け散り、体組織が散らばる。

 

シースターファンガイアは、マリアによって倒されたのだ。

 

 

「ーーーーーッ・・・はぁっ!はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・!」

 

マリアは今、自分の手でファンガイアを殺した・・・命を奪った事を自覚した。

 

今もまだ、シースターの最後の言葉が脳内で繰り返し再生される。

 

 

「狼狽えるな・・・・・・うろ・・・た・・・える・・・な・・・っ!」

 

命を奪う罪を背負うと言っておきながら、その重さに押し潰されそうになった。顔が青くなり、体が細かく震える。

 

しかし・・・。

 

 

「大丈夫か、マリア!」

「姉さん!」

「「マリア!」」

 

翼が、セレナが、調が、切歌が。マリアに駆け寄る。

翼とセレナがマリアの手を優しく握り、調と切歌はマリアを優しく抱きしめる。

 

シャークファンガイアを倒した翼が、駆けつけた皆と一緒にマリアを支えた。

 

 

「マリア・・・あなたが私を支えてくれるなら、私もあなたを支える」

「姉さん・・・私は何があっても姉さんの味方だから」

 

「マリア・・・一人で抱えないで」

「私達がついてるデス!」

 

手を繋ぎ抱きしめてくれる皆の温もりが、マリアの脳内の声を消していき、心を癒してくれる。

 

そこに、直人とクリスも合流。

 

「直人・・・私・・・・・・ファンガイアを殺した。でも、立ち止まりたくない。例えそれが大きな罪でも・・・」

 

「・・・マリア、君は絶対に大丈夫だ。君を支えてくれる存在はたくさんいるから。もちろん、僕もね」

 

「その、無理すんなよ・・・辛いときは遠慮なく辛いって言ってくれ」

 

「えぇ、ありがとう・・・皆」

 

マリアは皆の支えを受けて、少しずつだが再び活力を得ていく。

 

 

 

一方、未来にくっついていたクロードは一旦未来から離れて、氷の大地に着地した。

 

「・・・響お姉ちゃん・・・どこ?」

 

響の姿を探すが見つからず首を傾げる。クロードは今、フロンティア内部で未来と交流してから、精神が落ち着いていた。

 

クロードは未来だけでなく響にも会いたくてここまで来たのだが、いないため探してみたがやはり見つからない。

 

クロードは未来を見るが、洗脳の影響で言葉を発することなくただ立っている。

 

「・・・・・・」

未来は話さず、響もいない。レティアは戦いの指揮を取っていて忙しい。

 

大好きな三人の姉がいなくなった様に思い、寂しい気持ちでいっぱいになったのだ。

 

クロードは強大な力を持つファンガイアだが、人間で言うとまだ十歳くらいの子供。

 

しかも精神的に十歳児よりもまだ幼い事も相まって、大好きな人に甘えたい、一緒にいたい気持ちがあるのだ。

 

 

ここでクロードは、響を探すために目に魔皇力を集中させて響を探す。

 

まるで機械でスキャンしているかのように物体をすり抜けて人物を見ることが出来るようになった。

 

「・・・いた」

クロードは潜水艦の中にいる響を発見した。テイピアファンガイアの姿になり・・・。

 

「未来お姉ちゃん・・・響お姉ちゃんを連れてくるから、元気出してね・・・」

 

未来の状況を詳しく知らないクロードは、響がいないから元気がないと考えて、響を連れてくる事にしたのだ。

 

クロードは魔術でワープして、響の元に直行した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

突然、二課仮説本部の指令室、その中にファンガイアがワープして現れた。

 

弦十郎を含む殆どの者が警戒するなか、響はそのファンガイアを知っているが故にすぐに駆け寄った。

 

 

「クロード君!」

 

響の顔を見たクロードは、嬉しさから人間の姿になり響に抱きついた。響もクロードをそっと抱きしめた。

 

「クロード・・・?この子供が・・・革命団の幹部・・・」

 

弦十郎達が話だけ聞いていたクロードが突然現れた事に驚くなか、響はクロードを守るように側にいる。

 

「響お姉ちゃん・・・」

「え、お姉ちゃん!?・・・・・・いいかも・・・じゃなくて、どうしてクロード君がここに?」

 

響はクロードに姉と呼ばれたことに驚きながらも喜んだが、慌てて理由を尋ねた。

 

「未来お姉ちゃん・・・悲しそうだったから・・・助けてあげて。そしてまた、一緒に・・・・・・」

「未来・・・」

 

響はモニターに映る未来を見る。その表情は無表情だが、響には確かに悲しそうに見えた。

 

響は決意を固めて立ち上がり、弦十郎に言う。

 

 

「師匠、私・・・未来の所に行きます!」

「響君!?」

 

「皆が戦って頑張っている中、私だけ黙っているなんて出来ません!

クロード君も私も・・・未来を助けたい!死んででも助けます!」

 

「死ぬことは許さんっ!」

「じゃあ、死んでも生きて帰ってきます!未来も一緒に!!」

 

 

「・・・これまでの検査結果から予想できる響さんの限界時間は、三分四十秒になります!」

「例えどんなに微力でも、私達が響ちゃんの力になれれば、きっと・・・!」

 

朔也とあおいの二人は、微力でも力になることを表明。弦十郎は少し考えて言う。

 

「君が戦える時間は限られている。勝算はあるのか?」

「思い付きを数字で語れるものかよっ!!」

 

「・・・・・・わかった。その代わり、必ず未来君を連れて帰るんだ!」

「はい!師匠!」

 

嘗て自分で言った言葉を響に言われて一瞬驚いたがすぐに持ち直して、響を信じ出撃を許可した。

 

「クロード君、私を未来の所まで連れていってくれる?」

 

「うん・・・!」

クロードはファンガイアの姿になり、響を抱きしめてワープした。

 

ワープした響はクロードから離れて、未来を見る。未来も響を見ると反応を示した。

 

響は静かに聖唱を歌い、シンフォギアを纏う。瞬間、全身が沸騰しそうな熱さや全身に痛みを感じるが、それを全て無視して・・・。

 

 

「未来うぅぅぅぅぅ!!」

叫び、未来の元へ走っていく!

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「未来うぅぅぅぅぅ!!」

 

叫び、熱さや痛みに耐えながら走る響。歌を歌いながら、光線を放ち続ける未来。

 

響はジャンプし、バーニアから火を吹かして回避していく。

 

「響・・・あなたは戦わないでいいの・・・」

未来は歌うのを止め、攻撃は続けながら言う。

 

「もう響が戦わないようにする・・・そのためには力その物が無くなればいい。

 

響が傷付いて辛い思いをする要素は私が取り除く。響は私達の側にいてくれれば良いの。響は、私達の日だまりでいてくれれば良いの」

 

 

響は無言で未来にパンチを当てる。扇で防御したが、未来のユニットの一部が砕け、未来は近くの戦艦残骸にぶつかる。

 

「私も未来に言いたい・・・何で言ってくれなかったの!?

 

私が戦うのが辛いって、どうして話してくれなかったの!?ずっと心の中に溜め込んで、ちっとも相談してくれなかったのはどうして!」

 

「・・・・・・響だって、響だって黙ってたじゃない!」

 

瞬間、未来の意志が洗脳を越えた。未来自身の意思で響に言葉をぶつける。

 

「機密だからって、私に黙ってて・・・辛い時に辛いって言ってくれなかった!!」

 

「それについてはごめんなさい!あの時の未来の気持ちがわかったよ!でも、だからこそ今の状況は許せない!」

 

響の拳と、未来の扇がぶつかる。

 

 

ガングニールの侵食が更に進み、体から石のような結晶体が次々と出てくる。

響に痛みを与え続けるが、響は無視する。

 

戦いは舞台は空中に。未来が放った光線を避けて、響は渾身のタックルを当てる。

 

「離してっ!」

「離さない!絶対に、離すもんかあぁぁぁ!!」

 

そのまま二人は落ちていき、二人とも氷の大地に落下した。その時の衝撃で、未来の後頭部に付いていた装置が壊れて取り外され、正気を取り戻した。

 

しかし、二人の戦いは終わらない。お互いの本音をぶつけ合う。

 

 

「響!本当はわかってる!響は戦う事を止めないって、手を伸ばす人だって事は!

直人さんは私が力を得ても喜ばないって言った!それでも何かしたかった!」

 

「私が頑張れるのは、未来がお帰りなさいって言ってくれるから!帰る場所を守ってくれているからだよ!

 

力を得た未来を見たとき、すっごく悲しかった!未来は未来のままでいて欲しかった!」

 

「それでもやっぱり力が欲しい!この力が必要なの!」

「そんなの嬉しくない!」

 

 

お互いに言い合っても平行線。そして・・・。

 

「「この・・・わからず屋あぁぁぁ!!!」」

 

響が未来の、未来が響の頬に同時にビンタをした。それによって二人は力尽きたように倒れる。

 

未来は纏っていた神獣鏡のシンフォギアが解除され、ペンダントが転がり落ちる。

 

その神獣鏡のペンダントは、何とキバットバット二世が回収していった。

 

「失うには勿体ないからな」

そう言って、一度上空を見てから二世は足に持ったまま飛び去っていった。

 

 

響は解除されずそのまま、侵食が危険な領域にまで達しつつあった。

 

 

「ごめんね、未来・・・。未来も私の事を思ってくれてたのはわかる。でも・・・」

 

「ひ・・・響!体が・・・」

「大丈夫・・・平気、へっちゃら・・・」

 

響は続く激痛に苛まれながら、立ち上がろうとするが上手くいかない。

 

未来は力を振り絞って動いて、苦しむ響の体をそっと抱きしめた。

 

「未来・・・」

 

「響・・・ごめんね。さっき言ったのが全部私の本心。響ばかり大変なのが我慢できなかった。

だから、革命団の所に。でも、そのせいでいっぱい心配や迷惑をかけちゃったよね・・・」

 

「私も・・・ごめん。私は自分の理想に向かうので頭がいっぱいで、未来の事を考えてなかった」

 

「響・・・このままでいて」

「未来・・・?」

 

「レティア・・・さんが言ってたけど、神獣鏡の力は聖遺物由来の力を分解する力。つまり・・・」

 

未来が上空を見ると、真上には戦っている最中に撃ち、響がかわしたレーザーがミラーデバイスに当たり反射を繰り返している。

 

レーザーはどんどん大きくなっており、今にも響達に降り注ぎそうだ。

 

「あのレーザーに当たれば響は助かる。シンフォギアは失われるけど・・・響には生きて欲しいの」

 

「生きるよ。死んでも生きて帰るって師匠達と約束したから。

シンフォギアが無くなっても、私には出来ることがある。だから・・・私は生きる」

 

「うん・・・」

 

その時、クロードがワープして二人の元までやって来た。

 

「響お姉ちゃん・・・未来お姉ちゃん・・・」

クロードは二人の元に近づくが、その瞬間レーザーがついに響達の元に降り注いだ。

 

響、未来、クロードの三人に向かって神獣鏡の力が放たれたのだ。

 

「キバット!お願い!」

「おい直人!?」

 

直人は天叢雲剣のシンフォギアを解除して、ペンダントを付いてきていたキバットに投げ渡した。

そして、自身の魔皇力を高めて身体能力を強化して響達の元まで走っていく。

 

直人は神獣鏡の力で響を救う事には気付いていたが、強大な力を持つクロードが神獣鏡の光を浴びると、何が起こるかが全くわからない。

 

クロードを遠ざけようと、直人は動いたのだ。

天叢雲剣をキバットに投げ渡したのも、神獣鏡によって天叢雲剣が失われるのを防ぐためである。

 

しかし、間に合わなかった。神獣鏡のレーザーは放たれた。そして・・・。

 

 

響、未来、直人、クロードの四人が・・・神獣鏡の光を浴びた。

 

 

 

その後。レティアを含むファンガイア達は姿を消していた。いつの間にか撤退していたのだ。

 

倒れている響達は装者達が回収、医務室に運ばれた。

響の体からはガングニールが完全に消失している事が確認された。

 

クロードは大牙が助けてやって欲しいと説得し、同じく二課の医務室に送られる。

 

何故レティアがクロードを置いていったのか、という疑問は残るものの、フロンティア前での戦いは一旦終わった。

 




次回予告。


助かった未来、喜ぶ響。クロードも加わり僅かにだが穏やかな一時を過ごす。

そして、響はガングニールを失ったが・・・。


第十九話 救われた者達、受け継がれる激槍


受け継がれるのは力だけではない。力を持っていた者の心なのだから。

ーーーーーーーーーー


響と未来だけでなく、直人とクロードも神獣鏡の光を浴びました。
これが今後どう作用するか、次回では直人とクロードの分は解説したいと思っています。

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