小日向 未来が姿を消した。
未来の行方は未だわからない。皆の・・・特に響の心配は増える一方だ。
未来に二課から支給された通信機はシェルターから少し離れた所に落ちていた。
そして、シェルターから少し離れた所で反応は途切れていた。この事から未来は拉致されたが生きている、それはわかった。
「という訳で、特訓だ!」
「はい!」
「どういう訳だ!?」
弦十郎の唐突な特訓開始宣言に、響は返事してクリスは突っ込んだ。
「こういう時だからこそ、心身共に鍛え直し未来君を必ず救出出来るようにするんだ!
皆は動きやすく汚れて良い服に着替えて、この仮設本部が停泊している港に集合!」
弦十郎に言われて、皆は準備をして言われた通りに着替えて集合。
リディアンに通う響、翼、クリスは体操服。それ以外のメンバーは動きやすく汚れて良い私服に着替えて集まった。
まずはランニング。ジャージ姿の弦十郎と響が歌いながら走り、それが終わったら今度は二課が保有する宿泊も出来る施設で特訓をしながら過ごす事になった。
弦十郎が映画を参考に立てた特訓メニューをこなしていく。
更に、特訓に次々とメンバーが加わる。
「来たぞ、直人」
「やっほー、お兄ちゃん!お姉ちゃん達!」
「こんに、ちは」
「次狼さん、ラモン君、力さん・・・どうして」
「何やら面白そうな事をしているみたいだな。俺達も運動したいって思ってたから丁度良い、特訓相手になってやる」
「特訓、特訓~♪」
「とっくん、する」
「・・・いや、特訓相手になるのは良いですけど、次狼さんは何を持っているんですか?」
「音撃真弦・烈斬」
「おんげ・・・え?」
「細かい事は気にするな」
次狼達を初めて見るマリア達は、響達に聞いた。
「えっと、あの人達は?」
「直人さんの仲間ですよ。ほら、青い剣と緑の銃と紫のハンマーです」
「・・・あぁ、あの」
「あの人達が直人さんの武器になるんですか?」
「というよりは、一緒に戦う仲間という感じだ」
「直人は武器とは思ってないと思うぜ」
「そうなんだ。あの人達・・・強そう」
「デェス・・・」
「音撃斬・雷電激震!」
「必殺技出たー!?」
「僕も、えーい!」
「水を撒き散らすな!・・・っく、この水は斬れない!」
「ふんがー」
「あんたの怪力はシャレにならねぇよ!?」
「「「「すご・・・・・・」」」」
「何してるんですか、もぉ!」
「ははは、充実した特訓になりそうだ!」
アームズモンスター三人の協力を得たり・・・。
「次は俺だ。俺は正しい、だから付いてきなさい!」
「その台詞、久しぶりに聞きましたよ啓介さん。で、その手に持ってるCDプレーヤーは・・・」
「もちろん、中にあるCDは"イクササイズ"のCDだ。753印の体操をすれば、君達も315な戦士になれるぞ!」
「名護さんは最高です、753は315です・・・」
「健吾君!?」
「さぁ、皆も一緒に・・・・・・イクササーイズ!」
啓介のイクササイズを全員でやったり・・・。
「皆、俺と模擬戦をしてくれないか?」
「兄さん?」
「えっと、お義兄様・・・模擬戦ですか?」
「あぁ。特訓も確かに大事だが、実戦形式の方が得られる事もあると思ったからだ」
「・・・・・・わかった。皆、行くよ!」
『はい!』
「良い返事だ・・・変身!」
「変身!」
大牙と模擬戦をしたり・・・。ちなみに、響はシンフォギアを纏うのはまだ危険であるため、啓介からイクサを借りて変身して模擬戦に参加した。
特訓をこなしていく中、暗い表情をする者も出始めた・・・。
ーーーーーーーーーー
翌日、特訓を終えた後、切歌は一人で近くの開けた場所に来て一人で考えていた。
それは、自分だけ弱いということだ。
二課の直人を含む四人の装者はもちろん、マリアは自分達を引っ張ってくれる強さがあり、セレナは正規適合者であるからリンカー要らずでギアを使いこなしている。
調は魔皇力の流れを読み取るという、貴重な才能を有している。
自分だけ、何もなく弱い。以前から薄々自覚していたその現実を更に突きつけられているようで、切歌は落ち込んでしまったのだ。
「切歌」
「マリア・・・・・・」
切歌の異変に気付いたマリアが、切歌を探してここに来たのだ。
更に、同じく切歌の様子に気付いて心配している響、翼、クリス、セレナ、調も隠れて様子を見ている。
「どうしてあなたが暗いのか、何となくわかるわ。でも、私も似たような感じなの」
「え・・・・・・?」
「ほら、私はガングニールとの適合率がすごく低いでしょ?二課の人によると、天羽 奏さんよりも低いそうよ。だから継戦時間と戦闘力に難があるのよ・・・。
適合率の問題で十分に力を出せない。短い時間しか戦えない。大事な時にギアが解けて戦えなくなったら・・・。それが、私の弱さ」
マリアは適合率の低いガングニールを、少々無理に使っている感じであるのだ。
「この問題はすぐに解決出来ない。何とかしたいけど・・・ね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「人の強さに関する悩みは、簡単には解決出来ないさ」
直人が二人の前に現れる。すると、切歌は直人の強さを思い出してか、心が乱れてしまう。
「直人さんは強いデスから・・・私の事はわからないデスよ」
「き・・・切歌?」
切歌は心の内を吐き出すように言う。
「私は強いわけでも、何か特別な物も無いんデス!それでも、皆の役に立てるって思って頑張ってるデス。けど、違う。
私はどんなに頑張ったって、弱いまま!直人さんみたいに強くなれる訳じゃないんデス!!」
涙を流しながら叫ぶ切歌。切歌の叫びを聞いた直人は、首を横にふった。
「それは勘違いだ・・・僕は強くなんかないよ」
その言葉にマリアと切歌、そして隠れて聞いていた翼達も驚いた。
"強くない"
悪のファンガイアを倒し人々を救い、共存を成し遂げた直人がこんなことを口走るなど、誰が予想出来るだろうか。
「で、でも直人さんは・・・・・・」
「僕は強くなんかない。僕が東京に戻ってくる前・・・共存が成される前のある日、戦う事を放棄して逃げ出した事がある位、情けなく弱い男さ」
そう語る直人は、翼と離れていた時の自分が特に弱くなっていた時を思い出し、その時思ったことをポツポツと言い出した。
「"ファンガイアはイクサが倒す。僕がいても、足手まといになるだけだ"
"もう十分頑張ったんだ。戦う事を止めて何が悪いんだ"
"もうやだ、戦いたくない。こんな思いをするくらいなら何もしない方がいい"・・・・・・ってね」
その直人らしくないネガティブな言葉を聞いて、そして直人にも弱く脆い時があった事を知り、マリア達はすぐに気付いた。
自分達は、直人の強い所しか知らなかった事を。
直人だって人間であり、完璧ではない・・・心が弱くなる時だってある事を。
「今でこそ、これまでの戦いで得た事がたくさんある。でもそれは僕が一人で強くなって得た事ではないんだ。
いつだって出会った人々・・・・・・キバット、タツロット、恵さん、啓介さん、嶋さん、健吾君、大牙兄さん、深央義姉さん、次狼さん、ラモン君、力さん・・・父さん、母さん。他にもたくさんの人達。
皆と語り合って、諭されて、助けられて、支えられて、どうにかマシになったって感じさ」
直人は何事も無く今のようになったのではない。皆と出会い、現実の厳しさに立ち向かっていったからこそなのだ。
「もし誰か一人でも欠けていたら、一つでも結果が変わっていたら・・・僕は今でもウジウジ悩んでばかりいる、情けない男のままだったかもね」
そんな事ない!・・・と少女全員が言いそうになったが、言葉が出なかった。
語る直人の表情が、言うことが事実だと思わせる程に儚かったから。
「マリア、切歌ちゃん。本当に強い人は、一人で強くなる訳じゃない。
僕がそうだったように、周りの人達と一緒に乗り越えて、その中で自分だけの強さを見つける。その自分だけの強さこそが、人間の力だ」
直人がそうだった。たくさんの出会いと交流の果てに今の彼がいるのだ。
「焦ってしまうのはしょうがないけど、それで大切な事を見失っては駄目って事。
一度落ち着いて、もう一度周りを・・・そして自分自身を見つめ直してみなよ。
どうして強くなりたいのか、強くなって何がしたいのか・・・それを見つけられるようになるさ」
「「・・・・・・はい!」」
切歌とマリアは、直人の言葉を己の心に刻み込んだ。
自分達に大切な事を教えてくれた、折れそうになった自分達を支えてくれた。
二人は、今まで以上に直人へのドキドキする気持ちが強くなっている事に気付いた。
そして切歌は直人に怒鳴ってしまった事を謝った。
「直人さん・・・さっきはごめんなさいデス」
「大丈夫、気にしてないよ。切歌ちゃんは、もう大丈夫かい?」
「はいデス!私はきっと、焦っていたんだと思うデス。自分だけの強さを必ず見つけて見せるデス!」
「直人・・・あなたの言う強さは、簡単には見つからない物・・・。でも、私達は少しずつでもそれを掴んで見せる。そして・・・それを大切にしていくわ」
切歌とマリアは、もう暗い表情をしていなかった。そして・・・。
「直人・・・」
「直人さん・・・」
二人は直人に近づいて両隣に立ち・・・。
「「大切な事を教えてくれて、ありがとう」」
チュッと、ほっぺにキスをした。
マリアはそっと、切歌は背伸びをして。セレナがしたのと同じように。
直人もマリアも切歌も、顔が赤くなっていた。しかし、マリアと切歌は心からの笑顔だった。
「「「「「こらあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
当然、隠れていた響達が黙っている筈も無く・・・。
「姉さん!切歌ちゃん!私の真似をするなんて!」
「また抜け駆け・・・!」
「オンドゥルルラギッテやったデス!」
「立花・・・雪音・・・」
「わかってますよ、翼さん」
「次の特訓相手は・・・あいつらだ!」
「あらあら、怖いわね。ここは・・・」
「「逃げろ~♪」」
「「「「「待てえぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」
逃げるマリアと切歌。追いかける翼達。まるで「QUEENS of MUSIC」の時の再現だ。
直人は何とか再起動して、皆を止める為に奔走したのだった。
ちなみに、この様子は弦十郎やキバット等、特訓に協力した者達も隠れて見ていた。
「「「青春しやがって・・・・・・」」」
しみじみと呟くのは、キバットと次狼と弦十郎。
「お兄ちゃん、モテモテだよね~」
「モテモテ・・・」
「モテモテですね~♪」
楽しそうに見ているのは、ラモンと力とタツロット。
「まぁ、直人君なら不純な付き合いは無いだろうな」
「ウラヤマシイ・・・ネタマシイ・・・」
やれやれ、という感じと嫉妬丸出しの啓介と健吾の師弟コンビ。
「俺の弟と義妹達の未来は明るいかもな、サガーク」
「○×△□(ウン、ソウダネ)」
微笑ましく見ているのは、大牙とサガーク。
こうして、特訓の日々は過ぎていく。その中で、マリアと切歌は大切な事を直人から教わり、二人は前を向けるようになった・・・。
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世界のどこか。
「調整が完了しましたよ、これで彼女も装者です。といっても、僕はほとんど手を付けていませんが」
「あらあら、そうなの?小日向ちゃんってもしかして・・・」
「えぇ。彼女はあのシンフォギアの"正規適合者"だったのですよ!お陰で手を加えるのが少なかったですね」
「ふむふむ。さて、小日向ちゃんは私達の為に頑張ってもらいましょうね」
次回予告
遂に浮上した、巨大な遺跡。遂に現れる、装者となった未来。あらゆるものが現れ、戦いは激しくなっていく。
第十七話 浮上する遺跡、歪んだ鏡
戦う事は避けられない。例え辛い戦いでも・・・。
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特訓話ですが、マリアと切歌の恋心強化な話になりました。
次回から、遂にあの遺跡が、そして未来が出ます。
未来は正規適合者ということにしました。ウェル博士の一押しで装者になったという感じです。