昔、ある日の夜。少年と少女が花園で身を寄せ合いながら寝っ転がり、夜空を見上げていた。
東京都内でも空気が澄んでいて綺麗なここは、夜空に浮かぶ星々がハッキリと見える。
どれくらい見ていただろう。ふと、少年の方がクスクスと笑い始めた。
「どうしたの?」
「君と初めて合った時の事を思い出したんだ。その時も、こんな綺麗な星が輝く夜空だったね」
「うん・・・・・・覚えてるよ。あなたと初めて会った時から今までの事は、全て」
「そっか。嬉いけど、恥ずかしいな・・・あの時の僕、君に見惚れて変な顔をしてたかもだし」
「うん、変な顔をしてた」
「やっぱり?」
笑い合う二人。そして、二人は起き上がり向き合う。今度は星ではなくお互いを見ながら・・・。
「私は、あなたの事が好き」
「僕も、君の事が好きだ」
お互いの気持ちを伝え合い、そっとキスをした。
これは人間の少年と、異形の存在たるファンガイアの始祖の片割れである女神の過去の物語。
これは、女神の神話・・・ではない。少年と少女が奏で合う、恋の二重奏。
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西暦2000年四月中旬の日曜日、世界のどこか。
退屈だ、退屈だ、退屈だ・・・とにかく退屈だ。
浅間家の老婆(美穂の祖母)は煩かったので殺したし、それ以外は誰もいない。唯一の友人である浅間 美穂は多忙で中々来れない。
このままでは退屈で死んでしまう・・・そう思った女神は、暇つぶしも兼ねて東京のとある街に向かう。
それが、己の運命を大きく変える事になると知らずに・・・。
同日。東京都内の街を一人の大学生の男が歩いている。彼は今年大学生になったばかりであり、半月経って大学生活にも少し慣れてきた頃だ。
そんな彼の向かう先は、結婚を期に引っ越した兄の住む家。兄の家に着きチャイムを鳴らすと、兄が出てくる。
「おう、いらっしゃい。よく来てくれたな」
「こんにちは、兄さん。引っ越し先に来たのは今回が初めてだけど、良い家に住んでるね」
「奮発して良い所を買ったのよ。さ、上がってくれ」
「うん。お邪魔しまーす」
兄に案内され、リビングに入る。リビングでは兄の妻・・・彼の義姉が赤ん坊を抱いてあやしていた。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは、義姉さん」
彼は義姉に挨拶してから、抱えられている赤ん坊に寄って声をかける。
「音也君、こんにちは〜。渡叔父さんだよ〜」
「キャッキャッ♪」
「あらあら、お父さんより叔父さんの方が嬉しいみたい」
「ガーン」
彼の名は、紅 渡。兄は紅
直人から見て音也は父。秀夫は祖父、明美は祖母。渡は祖父の弟・・・大叔父に当たる。
「あ~、キャウ」
「あら、音也ったらまたバイオリンに向かってる」
音也がハイハイで壁に飾っているバイオリンに向けて進む。ちなみに秀夫はバイオリンを弾いており、それなりに良い腕はある。
「音也君、バイオリンが気に入ってるの?」
「あぁ。この前弾いたら凄く喜んでいてさ。それ以来バイオリンを見たり聞いたりすると、あぁやって寄っていくんだよ」
「・・・もしかして音也君、将来凄いバイオリニストになるかもしれないね」
「そうだな。俺も音也を応援したいな」
「兄さん・・・今、幸せ?」
「ん?・・・勿論、幸せに決まってるだろ」
「・・・女性と付き合うって、どんな感じ?」
「お、渡もやっとそういうのに興味を持ったか!よし、今日の晩飯時に話してやろう!」
「お、お手柔らかに・・・」
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夜。夕食をご馳走になるついでに秀夫の恋愛トークからようやく開放された渡は、帰路についていた。
渡が帰り道によく通るのは、この街の名物でもある花の広場である。
数多くの花々が咲き誇り、木々が成る。月光を受け光輝く様は楽園のようだ。ここは渡のお気に入りであり、ここにはよく訪れる。
「恋とか結婚とか・・・・・・正直、まだわからないな」
兄から聞いた女性との交際や結婚は、渡にはまだまだ遠い世界の出来事のように感じられた。
その事を考えながらしばらく歩いていると、渡の耳に声が聞こえる。
「ーーー♪」
「・・・・・・ん?なんだろう・・・歌?」
歌声が聞こえる。その歌声が聞こえる方向に向かうと、ブランコ付きの大木のある所に辿り着いた。
そのブランコの紐を両手で握り、軽く漕ぎながら歌っているのは・・・。
「ーーーーー♪」
一人の女の子。水色のふわふわした長髪と瞳が月光を受けて、宝石のようにキラキラと輝いている。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
渡は見惚れた。その美しさに、女の子の可愛さに。まさに女神のように感じられた。
「ーーー♪・・・・・・ん?」
女の子は渡の視線に気付いたのか、歌を中断して渡の方を向くと二人の視線が交わる。
これが、紅 渡と
本編にも書いた通り、この世界の紅 渡は主人公の直人にとって、祖父の弟・・・大叔父になります。
次回は、エグゼイドの方を更新予定です。